ラーテと兵護はタェンティースのその傷だらけの姿を見て驚愕したし、タェンティースは二人がビャンコと離れ離れになっている事に矢張りそうした
既にビャンコが飛び出してから相当の時間が経過していた
拠点に戻っている可能性もなくはないが、それでももう少し周囲を探そうとの結論に到ったのは自然な事だ
「…」
タェンティースは少し前にそれを見ていたから看破する事が出来た
兵護も知識として話を聞いていたからやはり同じように出来た
唯一ラーテだけが、解除したトラップを目の当たりにしておお、などと驚愕しているのだ
「この罠って、まさか…」
えぇ、と短い肯定と共に頷くタェンティース
あの奇妙な、そして残虐な3人組の姿が目蓋の裏に蘇る
ラーテと出会う切っ掛けになった、3人のマーダー
「あいつらが近くにいるのか!
なら今度こそ、ラーテ様の炎で焼き尽くしてやるさ!」
沈痛に押し潰されそうな2人を尻目に、ラーテはずいずいと歩き出している
彼のポジティブなシンキングでは、罠に嵌り危機に陥った事は既に過去の彼方なのだろう
「…?」
彼はやがて、木に括り付けられた【ナニカ】を見付けて歩を早める事になる
ラーテがそれを真っ先に発見したのは果たして幸か不幸か
ただ少なくとも彼にしてみれば何故だろう心拍が妙に上がるのを抑えられないのだ
「…あれは…!?」
それは、ハッキリと見据えるよりも前にシルエットの段階で既に不吉な怖気の全てを内含しており
「…そんな…」
確認するよりも早く、3人の脊髄は凍てついたような悪寒に襲われていた
「ビャンコ様…」
タェンティースの呼び声に還るのは、残酷な迄の静寂のみである
太い木に磔られたピクリとも動かない小さな体
彼女を彼女足らしめる象徴的な耳と尾がない
虚空を見下ろす瞳は絶望色に濁り、涙痕がその生への渇望を微かに伝えていた
「…っ!…うわっ!?」
ラーテが踏み出すと同時、前進は叶わなかった
肩が外れんばかりの勢いで乱暴に掴み戻され、派手に尻餅を着いたのだ
「な、何するんだよ!あの子をあのままにしとくってのは…!」
だが、抗議の声を上げながらラーテは、自分が何故必死にこんな事をしているのかが分からなかった
もう死んでいるであろう死体相手にどうこうするなんて、はっきり言って無意味の極みなのだから
他者になど何の意味も価値も見出せなかった少年は、己の無自覚の変革に戸惑っていた
一方ラーテを引き止めたタェンティースは、荒い呼吸のままだ
「…見て、お判りになりませんか…!!」
「罠だ、あれは…」
兵護は忌々しい悪魔を睥睨する眼差しで、ビャンコの亡骸の周囲を射抜いている
凡ゆる箇所に隠された巧妙なトラップ群
先程の発見が無ければ2人もきっと見逃していたであろう、そんな嘲笑うような悪意
「…あんな物…! 焼き払ってやる!」
炎の帝は忠勇なるしもべを呼び覚まし、悪魔の意図を薙ぎ払わんと右手に宿す
それを制したのは兵護であった
「待って、ラーテ」
「今度はなんだよ!?」
主の心境を表すように、メラメラとした橙色が周囲を染めていた
ラーテは苛立ちを隠せず、隠そうともせずに振り返る
兵護は、多分タェンティースも同じ考えに到っているのだと、彼女の憤怒の沈黙から察している
だが言えない、言い出せない
その境界線を踏み越える事が出来るのは一部の人間のみなのだから
ならば自分がそれになろう
汚泥を被り、しかし目の前の非業の死を遂げた幼い命の仇討ちとしよう
「…あの罠で、ビャンコちゃんを殺した連中を誘い出す」
目を丸くするラーテ
対してタェンティースは、声にならない短い呻きを一つ、俯き目元を抑えた
そして3人は、この瞬間修羅に身を堕とす
「超グラナダー、見て見て!
超マフラー! もゃはははっ!!」
「あはぁラピさまぁ…お似合いですわぁ…」
ラピは狐の尻尾を首に巻き付け御機嫌にはしゃいでいた
それに何時通りの反応を示すグラナダと、罠の反応を求めるディバイン
彼等黒の眷属が最も好む丑三つ時、しかしロワイヤルルールにより必要となった休息と睡眠への無知がその集中力を微かに削ぎ落としつつあった
「…おかしいなぁ、なぁんか調子が良くない…」
独り言で呟き、無数にぶら下がる木の棒の動きを見逃さないよう見詰める
「超ディバインー、あの緑の、どうしてあんな所にぶら下げたんですか?」
そんな事情を知ってか知らずか、疲れ知らずの童女の様なラピがマフラーの毛並みに埋めた顔を上げる
ディバインは振り返る事も出来ずにそのままの格好で返答を練る
それよりも早く口を開いたのはグラナダの、抱えられた頭部だ
「…あんな子供が独りでこんな夜まで生き延びれる可能性は少ないですわぁ
ですから、その仲間のニンゲンが近くにいる確率も高い
探しに来たところを…はぁん、一網打尽に出来る…」
ですわよねぇ、と半月めいて笑む歪な女郎蜘蛛
ディバインは説明の機会を奪われ、ただ頷くだけであった
「…ん?
噂をすれば、かな
ラピ、グラナダ、例の子供トラップに客だ」
3人の阿修羅達は同様の表情を湛えて、速やかに行動を開始した
人の警戒範囲を遥かに超えた距離を、驚くべき迅速性で駆け抜ける三影
その無数の瞳は一様にして、ビャンコの亡骸の括られた木の付近に逆さまでぶら下がる女を目撃した
その真下には彼女の物と思しき剣が一振り
「あっれー、超グラナダ、超ディバイン!
あいつほら、さっきの超ヘンテコなニンゲンじゃないですか!?」
もゃはは、と漏れ出る嬌声にも似た笑いが抑え切れないラピ
あっという間に宙吊りになったタェンティースの目の前に至り、津々とその顔を覗き込む
「…ん? なんだ、気絶してるのかな?」
「罠に掛かった時に頭でもぶつけたんでしょうかぁ?」
無反応だ、薄ぼんやりと開いた瞳は何処を見ている訳でもない
ラピがつまらなそうにその首元に手を伸ばした瞬間、それは起こる
「…ラピさまぁッッ!!!」
「…!?!?!?」
グラナダの叫びも、ディバインの魔法も、そしてラピ自身の反応も間に合う事無く
炎の帝の従順なる配下は、その紅蓮を持ってして純虐なるサンキュバスの体を舐め尽くした
続き目の前の女が、タェンティースが体を翻し着地
剣を手にグラナダに斬りかかる
だがそれに対しての行動を起こすには、ディバインにしてみれば充分過ぎる時があったのだ
「…グラナダ!」
「ラピ様!!ラピ様ぁぁっ!!あぁぁぁっっ!!」
「グラナダァァッッ!!!」
上半身を焼かれ煤人形めいて動かないラピを抱きかかえ狂乱のグラナダ
タェンティースの斬撃を神楽で抑えつつ彼女を呼ぶディバインの声は必死だ
「ラピを連れて早く…!!」
その言葉が最後まで綴られるよりも早く、冷たい感触が後頭部に当たりそしてそれを遥かに超える絶対零度がディバインの頭部を包み込んだ
少し前
ラーテは木陰に身を潜めながら、タェンティースの言葉を思い出していた
「もし彼等が姿を現した場合、真っ先に狙うべきは……」
蜘蛛の姿をした怪物、だと言う
兵護が疑問を投げ掛ける間もなくタェンティースは続けた
「先の彼等との接触時、奇襲に対して最初に反応し判断を下したのは蜘蛛です
片方を様付け、片方を呼び捨てにしてはいましたが関係は不明」
なるほどと呟くのは兵護
「状況判断力」
「えぇ、このロワイヤルではご存知の通り各員の能力に枷がかかっています
ならば優先して片付けるのは強力な個体ではなく、判断能力に優れた個体」
タェンティースはその兵器然とした口調で淀み迷いなく続ける
兵護も、そしてラーテにも付け入る隙を与えぬように
「囮は私が行きます
ラーテ様は狙撃を、兵護様は万一の際の後詰をお願いします」
これに関しては兵護は止めた、性差別ではないが男である自分が行くべきだと
だが兵器故の頑丈さを理由に首を横に振るタェンティースを前に引き下がる結果となるのにそう時間はかからなかった
そしてラーテは木の葉の擦れる音でふと現実に帰る
らしくないと気を引き締め、その手に宿す深紅の力
タェンティースが罠にかかり宙吊りになった数十秒後、彼等は現れた
必中の距離だ、やってやる、言われた通りなのは小癪だけど蜘蛛を燃やしてビャンコの弔いの狼煙にしてやろう
決意と共に向けた視線のその先、無邪気に笑う少女の姿
彼女の首に巻かれた、見覚えのある毛色の狐の尻尾…
「……!!!!」
ほぼほぼ無意識の内に放たれたラーテの憤怒は、闇夜を照らし引き裂き標的を焼いた
かつての力には程遠いが充分だ、あれならば致命傷は免れないだろう
そこでラーテは自らのミスに始めて気が付いた
何故蜘蛛ではなく少女を狙ったのだろう?
その問いに答えはなく、見詰める視界の中で今兵護が青年の背後に回り引金を絞るのが嫌にスローに感じた
--------ーー
「逃がしたか…」
確信があった
この作戦を実行した際に、万事完遂に至るであろうという手応えがあった
だがしかし3人いた標的の内2人に逃げられているのが現実としての結果である
それでも逃走した2人の1人は重度の火傷を負っているはずだ
「…彼女を、弔わないとだね」
脱力したように、復讐に委ねていた身を解放させる事で真実を思い出したように
ふと兵護が口を開いた
ラーテも頷き、タェンティースも小さく同意を返した
「兵護様、ラーテ様…先にお願いします。すぐに追い付きますので…」
しかし2人を先にビャンコの元へと行かせ残ったタェンティース
うつ伏せに倒れるディバインを見下したまま小さく呟いた
「…まだ息がありますね、驚きました」
その肩を乱暴に蹴り、仰向けに向きを変えさせる
ずむん、と鈍い音
酷い凍傷に覆われた顔の目を見開くディバインの腹部に突き刺さったのは、タェンティースの片足
「話をできる状態ではなさそうなのは残念ですけど、却って好都合です」
ゆっくりとその手を、首元の首輪へと伸ばす
堕天使の波動で辛うじて救われた命は、最悪の方法で奪われようとしている
「生きているサンプルで試したかった、解除出来るのか否かを」
そしてそれを振り解く力は、ディバインには残されていなかった
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「…タェンティース」
名を呼ぶ兵護
遅かったな、と不機嫌そうなラーテ
そこには簡素な墓が作られ、ビャンコの弔いが完了した事を告げていた
すっかり修羅を終えた2人に迎えられたタェンティースの表情も、普段のそれに近しくはなっている
「…お待たせしました。ありがとうございます」
復讐を完全には果たせず、だが弔いを終えた3人の姿を
遠くから一匹の子狐が見詰めていた
【雑木林→廃墟街教会@深夜】
【伊月兵護@能力者高校】
[状態]:健康 強い決意 悲しみ
[装備]:ブルークリムゾン@俺能
[道具]:基本支給品×2(食糧二食分消費) アーチャーの弓@俺能 割り箸×10@現実
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームには乗らず、バトルロワイヤルを破壊する
1..自分が対主催の”希望”になる
2..日付が変わるまでに廃墟街の教会を目指す
※圭一と同様、時間制御、宝石魔術の能力がある程度制限されている可能性が高いです
※参戦時期は少なくとも天穹院家令嬢の美弥子の護衛官として働いている時期です
※首輪の情報を入手しました
※アーチャーからメモを受け取りました(内容は不明です)
【『旧神楽炎帝』ラーテ・テュラン@魔法検定】
[状態]:右肩に掠り傷 喪失感 疲労(中) 精神疲労(小)
[装備]:猫耳帽子(洗浄済み) ネイルハンマー@現実
[道具]:基本支給品(食糧一食分消費)
[思考・状況]
基本行動方針:絶対に生き残る!僕は死体のアルバイトじゃない!!
1.兵護についていってやる
2.なんだこの変な感じ……
3.もしかして、僕の能力に制限が掛かってるのか?
※能力は若干制限が掛かっており、魔力の減りが通常よりも大きくなっています
※プレンズウォーカーとしての能力は引き継がれ、死亡した際は至るエリアに不定期に遺体が転がります。
※首輪の情報を入手しました
【タェンティース@俺能】
[状態]:顔面火傷(中) 全身に火傷痕(大) 脇腹打撲(中)
[装備]:宝剣《叢雲》@俺能
[道具]:基本支給品(食糧一食分消費) ギャルのパンティ@厨二 リーズの首輪
[思考・状況]
基本行動方針:対主催のスタンスを貫く
1.兵護達と共に教会へ向かう
2.絶対に道を違えぬ覚悟。
3.アグラーヤたちが心配。
※分析能力に制限が掛かっており、気配は察知できますが相手の具体的な能力は分かりません。
※首輪の情報、またそれに含まれた危険性に気づいています
※ディバインで、生者から首輪の解除を試しました、成功の是非は不明です
「ラピ様、ラピ様、ラピ様ぁぁっ!!」
グラナダは瀕死のラピを抱えたまま夜の林を疾走していた
何処へともない、ただ奴等からラピを遠ざける為
森林公園への帰路を取っていたのは無意識の判断
その先に何が待つのかも彼女は知らない
蒔き過ぎた怨念の種は芽吹き、復讐の花を咲かせ始めているのだ
【ラピ・モャー@五大陸】
[状態]:上半身に致命的な火傷
[装備]:無道 武美のブブゼラ『ケティオコルム』@能力者(リセット前)
[道具]:基本支給品(食糧一食分消費
[思考・状況]
基本行動方針:
1.意識不明
【グラナダ・ジャロウ@五大陸】
[状態]:錯乱、ラピに依存
[装備]:???
[道具]:基本支給品(食糧一食分消費) 骨スコップ@現地調達
[思考・状況]
基本行動方針:ラピに従う
1.ラピ様!ラピ様!ラピ様ぁぁっ!!
※蜘蛛をベースにしたキメラ
首と頭が分かれているが、首輪は頭部側に不思議理論で取り付けられています。
※黒魔術が制限されているかどうかは後の書き手さんにお任せします。
【ディバイン・W・アーマゲドン@五大陸、死亡】
【残り24名】
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| [[]] | タァンティース | [[]] |
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| [[]] | ディバイン・W・アーマゲドン | [[]] |