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は、と目が覚めた。
そして身体が返してくる冷たく硬い感触に違和感を覚える。
先ほどまで私は、ふらふらになりながらも空を飛んでいたはずだ。
もしかするといつの間にか気を失い落下でもしたのだろうか。
だとするならば、こうして無事なのが奇跡とも言える。思わず笑いが出てしまうくらいだ。
周りを見渡せば、どうやら私はどこかの建物の中に居るらしいことが分かる。
機械的なまでに清潔な壁や床。適度に配置された観葉植物に、フロントデスクらしきもの。
これは、デパートだろうか? 店員や買い物客のいないデパートがこんなに無機質に見えるのは驚きだった。
「……ん、…………さ、ん。エヴァさん」
現状を把握している最中に、誰かが声をかけてきた。
もしかすると私を助けてくれた人だろうか。そうだ、そうに違いない。
自分の身体を見れば、ひどく傷ついていた四肢はすっかり綺麗になっている。
おまけにご丁寧なことに、損傷し汚れに汚れた衣服も真新しいものに変えられていた。
「エヴァさんエヴァさん」
もう一度声をかけられる。不思議なことに、名前を知られていることを妙だとは思わなかった。
ふいと相手の方を見る。そこにあったのはひどく見慣れた顔だ。
何故だろうか。彼女がそこにいることが、その瞬間私にとっては当たり前になってしまった。
「ん? どうした美奈……?」
私は笑って、『彼女』の名前を呼んだ。
何も疑問には思わなかった。彼女は仲間で、同じチームの一員だ。
そう、そうだった。なんで忘れていたのだろうか。
空を飛んでいたとさっきは思っていたが……それはきっと、うたた寝でもした時の夢だったのだろう。
今は今後の方針を決めるために、安全そうなこの場所をひとまずの拠点としていたのだった。
「これ、なんだと思います?」
寝ボケるにしても程がある。こんな寝ボケ方をしたと知られてしまっては、間違いなく当分の間話のネタにされてしまう。そうなってしまっては一生の、いや、末代までの恥だ。
そんな私の心中を知ってか知らずか。名前を呼ばれた美奈はバカみたいに爽やかな笑顔を浮かべ、おもむろに観葉植物の一部を引っこ抜いた。
わけが分からない。どう見たってただの観葉植物だ。
それともなんだろうか。実は私が知らないだけで、あの植物はもの凄い病気の特効薬だったり…………。
「これはね、ミキプルーンの苗木」
「ブフォッ!!?」
美奈の言葉を聞いた瞬間、腹筋が全力で痙攣し始めた。
卑怯だ。卑怯にも程がある。こんなの耐えられるわけがない。
笑いを抑えようと腹を押さえ、ばしばしと床を殴打するも全く収まる気配がなかった。
ミキプルーン。ミキプルーン。ミキプルーンの苗木。
美奈のいい笑顔とミキプルーンが頭の中で連続再生される。
変な夢のことだとか寝ボケていただとかは完全にどうでも良くなっていた。
そんなことより今はミキプルーンだ。
なんてことだろう。今じゃミキプルーンが脳内で急成長してジャムになり、どこかのご家庭の食卓に上がっている。
『これはね、ミキプルーンの苗木』 声のトーンと構え方が完璧過ぎる。
こんな時のために備えて練習でもしていたとしか思えない。完全に無駄な練習じゃないか!
「ひぃ……ひぃ……あ、……あぁ?」
漏らす声にも震えが混ざる。
しかし入り口付近に人影が見えた以上、笑い転げているわけにもいかなくなった。
「……おい二人共。誰か入ってくるぞ……ふふっ」
未だに口元は緩んだままだったが、念のため戦闘態勢になり自分の得物を構える。
まだ笑い足りないとばかりに腹がひくついていたが、下手に笑って誤射しようものならそれこそ笑い話にもならない。
ーー出来れば入り口付近にいる『誰か』が、殺し合いに乗っていないヤツらでありますように。
そうすれば、この幸せな時間は続くのだから。
武器を構えていながらも、行動とは真反対のことを私は考えていた。
バトルロワイヤル。殺し合いという非日常の中で得た、ささやかな日常風景。
この時間を壊したくない。殺し合いなんて、出来れば参加したくないとも思っていた。
うぃん。
デパートの自動ドアがスライドし開いていく。来た。
頼むから、ゲームに乗っていないでくれ。
かつん、と靴音がする。人数は二人だ。顔はまだ見えないが、二人共服が血塗れなのは見て取れた。
殺し合いに積極的な連中なんだろうか。ソニックブレイドを持つ手に力が込もる。
そして、「どうする」と美奈達に声をかけようとしたその時だった。
「…………、…………え?」
顔が見えた。
入ってきた、二人の来訪者。そのどちらもが、何故か私のよく知る人間だった。
一人は音咲詩織。
もう一人は…………。
「あ…………わ、…………、わた、し…………?」
それは間違いなく、エヴァージェリン=ナイトロードだった。
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詩織と一緒にいる『私』が、美奈に対し手を向ける。
『私』の周囲に闇の魔力が集まっていく。
止める暇なんて、まるでなかった。
気付いたら、『私』の放った闇魔法が美奈を吹き飛ばし、パメラの首を切断していた。
「…………あ、……そ、そん、な……どう、して……」
『私』が、美奈とパメラをたった今殺した。
何が起きているのかまるで分からなかった。
夢でも見ているのだろうか。もしも夢なら、早く覚めてくれ。
私は、こんなことなんて望んでいない。私は……私、は……!
「あっ……あ、あぁああああああ! 詠唱破棄、≪氷剣の突貫(アイシクル・ストライク)≫ッ!!」
無我夢中だった。
呪文に応じて魔法が発動。冷気で宙を斬り裂きながら、生み出した氷剣が目標へ疾走する。
こんな現実を消してしまいたかった。
あんなことをしてしまう『私』を殺してしまいたかった。
斬りつけるなんて時間のかかることなんてしない。
詠唱破棄を使って確実に、一撃で私は『私』を殺す。その、はずだった。
ずぶ、と氷剣が肉を貫き骨を断った音がした。
やったか。しかし、そう思った私の目の前に広がっていたのは、気が狂いそうな光景だった。
ーー詩織が、二本の氷剣に貫かれていた。
氷剣の刃先は鮮血に濡れ、ポタリポタリと床を紅く染め上げる。
誰がどう見ても、即死であることは明らかだった。
まさか、庇ったのだろうか。仲間である美奈やパメラを、虫ケラのように殺してしまう『私』を!?
どうして……どうして、どうしてだ……詩織! そんなヤツなんて、庇う必要もないのに……!
がくんと身体から力が抜けていく。
美奈もパメラも詩織も、みんないなくなってしまった。
誰のせい、なんだろうか。『私』のせい……?
それとも……心の何処かでこうなることを望んでいたかもしれない、私の、せい、なの、か……?
崩れ落ちるように、床に座り込む。何もする気が起きなかった。
視界の端で、『私』が魔法を使おうとしていたが……どうだっていいことだ。
『私』の魔法が、私に殺到する。
ーー置いていかないで。
意識を失う前に思ったのは、そんな言葉だった。
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は、と目が覚めた。
なんだかとても嫌な夢を見たような気がした。それに、身体のあちこちがひどく痛む。
寝起きなせいか視界が随分とぼやけていたが、それでも全身の至るところが焼け爛れていることくらいは分かった。
ずきりと頭も痛んだ。左手で頭部に触れてみると、ぬるりとした血の感触が返ってくる。
そう言えば、ここは一体どこだろう。そんな疑問を思い浮かべ、私はやっと、自分が地面に横たわっていることに気付く。
先ほどまで私は、ふらふらになりながらも空を飛んでいたはずだ。
もしかするといつの間にか気を失い落下でもしたのだろうか。
だとするならば、こうして無事なのが奇跡とも言える。思わず笑いが出てしまうくらいだ。
周りを見渡せば、どうやら私はどこかの建物の前にいるらしいことが分かる。
市街地上空を飛んでいたことまでは覚えているから、きっと疲労のあまり街中の適当なところにでも不時着したのだろう。
そんな状況で死ななかったことや、気絶するかのように眠っていても敵がこなかったこと。
この二点ばかりは、運がいいと思わざるを得なかった。
「悪運だけは……強いみたい、だな……」
痛む身体を無理に起こし、立ち上がる。
どこに行くかも決まっていなかったが、少なくともここで寝続けるよりは動いている方がマシだと思った。
元々この場所のことはよく知らない。生まれ育った街でもなんでもない所なのだ。
どこに何があるかなんて検討もつかなかったし、どの道がどこに続くなんてこともそんなに覚えていなかった。
だから足を運ぶ方向なんてものは適当だ。気が向いた時に曲がる、それだけだ。
一歩一歩が重い。
それでも止まる気になれなくて、歩き続けた。
運良く参加者に会えれば、いなくなった詩織や死んでしまった美奈とパメラのために、戦闘をして参加者を殺すつもりだった。
右腕は動かず、脇腹や肩には銃創がある。血も随分と失い、目が霞むくらいだ。
正直に言えば今にも地面に膝をつき、倒れこんでしまいそうなのだ。
それでも私は歩み続けていた。
あの三人のために優勝しなければならないという、私に唯一残った信念が私をそうさせていた。
ざ、ざ、ざ。
疲労と負傷の度合いに耐え切れず、壁に身体を擦り付けるようにして前へと進む。
傷跡から滲み出た血液が壁に赤い痕をつけるが、気にしている余裕はなかった。
適当に曲がり、前へと進み……ふと正面を見れば大通りに出ていた。
そこでやっと私は気付いたのだ。いつの間にか、私はあのデパートへと戻ってきていたことに。
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昼間とは違い、フロア内は随分と暗かった。
光源となるのは、ぼんやりとした非常灯の緑色だけだ。
(それでも……今の私には十分か…………)
よたよたとおぼつかない足取りでフロア内をうろつく。
デパートに入ったのは、美奈とパメラに一言謝りたかったからと……やはり多少の休息を取りたかったからだ。
しかし、二人が倒れていたはずの場所にあったのは乾いた血の跡しかなかった。
あの時デパートに残っていたのは月代だけ。となると、二人の遺体は月代が埋葬したと考えるのが筋だ。
もしくは運営サイドが参加者の遺体を回収しているのかもしれなかったが……そうはあってほしくなかった。
ずるずると身体を引き摺り、もはや這うようにして寝具売り場に辿りつく。
美奈とパメラがいないと分かった以上、今後のために確実にベッドの上で眠り、体力を回復しておきたかった。
ぼう、と緑色の光に照らされる寝具売り場。
普段の生活では見られない数のベッドや光の色のせいで、フロア内は少しだけ不気味にも見えた。
棚から適当な枕と布を引っ掴み、ベッドに向かう。
枕があり、掛布があり、ベッドで眠れる。この状況下では随分な贅沢のようにも聞こえた。
「…………ん?」
ふと、ベッドの上に誰かがいることに気付く。
まさか同じことを考えてここに来た連中がいるということだろうか。
だとするならば殺さなくてはならない。優勝するためには、私以外の全員を殺さなくては。
枕と布をその場に置き捨て、息を殺し極力音を立てないようにして相手へと近づく。
相手の数は三人だろうか。眠っているらしく、私に気付いている気配はない。
となると、派手に魔法を使い相手の目を覚まさせてしまうよりは、近付いてブレードで首を刎ねた方が良さそうに思えた。
静かにブレードを抜き、構える。私に一番近いヤツから順に斬首するのがいいだろう。
やっとの思いで目標に到達し、後はブレードを振り上げ首を断ち切るだけとなった時。
私は既に、その相手の首が斬られていることに気付いてしまった。
「……なっ、…………は……?」
からん、とブレードを取り落とす。
よくよく見てみれば、私が首を斬ろうとした相手はーーパメラだった。
どさ、と近くのベッドに倒れこむ。残る二人も、息はしていなかった。
要はこの寝具売り場は、遺体安置所として使われているということだろうか。
だとするならば……。
「…………美奈?」
数が一つ足りなかった。
パメラ以外の二人は、ぱっと見は男のようにも見える。
もしかすると端にあるベッドに寝かされているのかもしれないが……そこまで考えたところで、急激な眠気が襲ってきた。
同じフロア内で美奈の遺体を探すことすら、今の私には不可能だった。
美奈探しをするには今は消耗が激しすぎる。
意識が次第に混濁し、緩く緩く暗闇へと沈みこんでいく。
朝になれば……きっと美奈の遺体も見つかる。そう思って私は意識を手放した。
今度はもう、夢を見ることはなかった。
【市街地・デパート寝具売り場/深夜】
【エヴァージェリン=ナイトロード@魔法少女】
[状態]:精神疲労(大) 疲労(中) ダメージ(極大) 疑心暗鬼 右腕完全破壊 脇腹と右肩に銃創 頭部外傷(大)
[装備]:ソニックブレイド@境界線
[道具]:基本支給品(食糧一食分消費) ブラッティジェノサイダー@ギルド
[思想・状況]:詩織に共に行動し、自分を赦してもらう
1.詩織と出会う、その過程で強くなる。
2.もう誰も信じない
3.美奈……どこに…………?
※リヴラス結成後からの参戦です
※仮にも吸血鬼なので、日光や流水、ニンニクや銀製の武器等といった弱点もある程度効きます。
※右腕は自然治療や吸血でも治らない程完全に破壊されました。
※吸血をする事で魔法の威力や回復力、身体能力などが上昇します。また、吸血をする相手によってその上昇率も異なります。
※魔法少女としての機能に制限が掛かっており、普段よりも自動回復能力が格段に落ち、飛行にも疲労を伴います。
※第一回放送を聞いていません。その為美奈が生存している事を知りません。
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