分身

Last-modified: 2009-10-14 (水) 15:33:51
 

東野圭吾 『分身』 集英社文庫

 

北海道で暮らしている大学生の氏家鞠子は幼い頃、
母親と自分がまったく似ていないことが原因で母親が自分に対して冷たくあたっているのではないかと思い悩んでいた。
そして鞠子が家に帰省したとき、母親が一家心中を図り母親だけが死亡する事件が起こる。
鞠子は母親が自殺した原因を調べるために動き出す。
東京で暮らしている大学生の小林双葉は、母親からバンド活動をする際の「テレビに出てはいけない」という条件を破り、
テレビ番組に出演した。そして出演後しばらくして母親はひき逃げに遭い死亡してしまう。
事件と母親の出生に疑問をもった双葉は真相をさぐるために動き出す。

 

現代医学の危険性を示唆したこの作品は、二人の女性の視点で交互に動きながら進んでいく。
もの静かな鞠子と活発な双葉の相対だけを見るとあまり目新しく感じないが、
そこに純正の共通点があることによって独特の緊張感を感じながら読むことが出来る。
単なる謎解きゲームでなく、謎を解明していくごとに自分自身の存在に疑問を持つことになるのが、
この作品の特徴的な点であると思う。
果たして二人の存在は現実には起こりえないことなのだろうか。投げかけるものが大きい小説である。

 

担当者 - ゆ