※『十角館の殺人』のネタばれを含みます。未読の方は是非読破後にまたお越しください。
大谷ミス研10月30日読書会まとめ
課題本 『十角館の殺人』 綾辻行人著
去る10月30日、12月6日に行われる関ミス総会内の綾辻行人氏の講演会に合わせて、
先生のデビュー作である『十角館の殺人』の読書会を行った。
参加したのは、大学からミステリを読み始めたミステリ初心者からそうでもない者までそろった、
大谷ミス研の特色あるメンバー達。
はたしてどのような意見が飛び出したのか? ご覧ください。
はじめに
初めて読んだのはいつ? という話題が出た。
実にさまざまで、小学校高学年の頃に初めて読んだ者もいれば、大学でミス研に入ってからの者(結構多かった)も。
いつ読んだかは感想に大きく関係しているようだ。
トリック
トリックについて。メインの大トリックからミスリードまで、色々なトリックについても勿論話題に挙がった。
まずはメイントリックから。クローズドサークルというジャンルの中でも、「孤島」ならではのトリックだという意見が挙がり、
そこから、犯人の体力(気力も)がもの凄い、というある意味現実的な意見も挙がった。
また、ヴァンが1日早く島に渡っていたことや、風邪気味だったことから違和感をおぼえたり、
ヴァンを怪しんだ鋭い会員も結構いたものの、ヴァン=守須の式にたどり着いた猛者は1人しかいなかった
(その1人もなんとなく、もしかして同一人物? くらいに感じていたレベル)。
やはり、終盤の「ヴァン・ダインです。」という台詞によって、
本土と孤島が一気につながっていく感覚を体験した者が多いようだった。
この感覚は、本土の2人を「江南=コナン」から「守須=モーリス」と思わせることにより生じることが多いと思われる。
しかし、今まで全くといっていいほどミステリに触れてこなかった、
いわばミステリ初心者は、海外古典ミステリの大家の名前など、
知る由も無いので、守須=モーリスだと思い込み驚く、という流れには至らないのではないか。
また、そもそも、ルルゥやオルツィといった孤島のメンバーの名前がわかりにくく、
読みにくいと感じるかもしれない、といった意見が出た。
これらの意見から、『十角館の殺人』という作品は、ある程度ミステリの世界に足を踏み入れてから読んだ方が
一層楽しむことができる作品なのではないか、と感じられた。
ストーリー
ストーリーや描写の仕方についても様々な意見が交わされた。
まず、孤島において、殺人が行われる前の場面で次の犠牲者の一人称が用いられている点について、
一度殺される者の視点になることで、殺人が行われた時の衝撃が増す効果的な書き方だという意見が出た。
ホラー的な書き方がなされているのかもしれない。
他には、最終的に島田潔は真相にたどり着いていたのか気になる、探偵が犯人の前で謎解きをして欲しかった、
などといった探偵の謎解きによる終演を希望する声もあった。
個人的には、これから「審判」を受ける者の一人称になる、と考えると犯人の一人称で締める流れが自然に感じられたので、
読後の感じ方は十人十色だと良くわかる。
また、孤島で最後の犠牲者となったエラリィの扱いについて、
自ら探偵を名乗り的外れな推理を展開した挙句殺されてしまうことや、
終盤に度々「愚かなエラリィ」と称されているなど、散々な扱いであるという意見が挙げられた。
「エラリィ」の名を冠している者にこのような役回りを与えている点が、少々皮肉っぽくて面白い。
孤島メンバーのあだ名がミステリ初心者には取っ付きにくいと前述したが、
ある会員のこれらのあだ名は誰がどのように割り振っているのかという疑問から、
『マリア様がみてる』のようなものでは、という意見が出た。
真相はさておき、自分の中で別のなにかに置き換えて読んでいくと、
海外古典ミステリを欠片もしらないビギナーでもある程度サクサク読み進められるのかもしれない。
最後に
『十角館の殺人』は、ミステリ初心者には向かない可能性がある、と述べたが、
著者である綾辻行人氏がこの作品を書いた時期を考えると、
ミステリファン向けの作品であるということは当然であるといえるのかもしれない。
参考文献
『十角館の殺人』 綾辻行人著
『マリア様がみてる』→ウィキペディア