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Last-modified: 2007-12-31 (月) 11:37:11

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 雨音がずっと続いていた。
 全ての輪郭が曖昧な闇の中、フォロンは判然としない意識のまま見慣れぬ天井を眺めていた。染み一つ、歪み一つ無いまっさらな天井。飾り気のようなものは微塵も無いが、
それを補って余りある気品が滲み出ている。
 だからこそ、落ち着かないな、とフォロンは思った。フォロンにとって馴染みある天井とは、彼が住居としている下町のアパートのそれなのだ。お世辞にも立派とは言えないものではあるが、
寧ろ自分にはそれが分相応なような気がして――このような立派な天井には、どうにも違和感を覚えてしまう。
 ……いいや。違和感の正体は、決して、天井だけであるはずが無い。
 例えば、いま自分が横たわっているベッド。深く沈むスプリングはフォロンの身体を何処までも柔らかく、優しく受け入れている。その感触はまるでまどろみに見る夢のようで、
逆に、落ち着かない。フォロンがいつも使っているのは、ごくありふれた量産品のシングルベッドだからだ。
 例えば、先程から同じ調子で続いているこの雨音。細かな水音のようなそれは、まるで整った大きさの水滴がタイルにぶつかり弾けているかのよう。
 そして、例えば――この身体。意識はいまだにはっきりとせず、まるで脳の中に大きな休符を打たれたみたい。そのせいか否か、四肢はその感覚さえ思い出すことが叶わない。
 イメージしたのは、手足を切り落とされベッドの上に投げ出された自分の姿だ。胴体だけになった自分の首元からは、太いチューブが生えており、その先には栄養剤の詰まったビニールパックが繋がっている。
生きているのか生かされているのか、そんなことさえ曖昧な、まるで玩具みたいな自分の姿。
「――」
 悪い夢だと、フォロンは思う。フルマラソンを完走したかのような気持ちで首を動かし、自分の身体を確認する。
 思わず、ほ、と息が洩れた。
 感覚こそ無いが、肩の先にはちゃんと自分の腕が生えている。腕の先には手のひらがあり、その先端には五本の指が生えている。よかった。本当に、よかった。
これなら鍵盤が弾ける。これなら――
「――コーティ?」
 ぽつり、とフォロンは呟いた。視線だけを巡らせ寝室、そう、寝室としか思えぬ部屋の中を見やるが、赤い髪の少女の姿は何処にも無い。何時如何なる時でも
フォロンの傍に居るのが当然な、傲慢で、尊大で、容赦の無い、誰よりも可愛らしい少女の姿が、見当たらない。
 だから、そう。
 それこそが、何よりも強い違和感の正体だった。
「コーティ? コーティカルテ?」
 まるで親とはぐれてしまった子供のように、自らの契約精霊の名を呼ぶフォロン。
 しかしそれに応える声は無く、代わりに、きゅ、という金属音が耳に届き、規則正しく響いていた雨の音が途絶える。
 そして。
「……起きていたんですね」
 骨に溶け込むかのような声と共に、寝室のドアが音も無く開いた。
 瞬間、差し込んできたのは幻橙のような電灯の光。闇に慣れていたフォロンは思わず目を細め――しかし、
光を背負った少女の姿をしっかりと捉えていた。
「こんばんは、フォロン先輩」
 銀の髪を塗らした少女は、子供のように微笑んだ。

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 え、という声は、喉にさえ昇っては来なかった。
「プリネ……シカ…………?」
 熱に魘される病人であるかのようにフォロンは少女の名を呼んで――そのまま、言葉を失った。
 くすり、とプリネシカは小さく笑う。
「どうしました、フォロン先輩」
 そう言いながら、プリネシカは寝室へと足を踏み入れて来た。丈の長いバスローブの裾が毛足の深いカーペットに擦れ、衣擦れのような音を立てる。その歩みにつれて、
バスローブの胸元に覗いた膨らみが揺れ――
 フォロンは、今更のように叫び声を挙げた。
「プ、プリネシカ! なんて格好を!?」
「無粋、ですよ。フォロン先輩」
 裸体の上からローブを羽織っただけの少女は、フォロンを嗜めるようにそう言って、ぱたり、と後ろ手で寝室のドアを閉めた。室外からの電灯の光に慣れていた視界は新たな闇に少女の姿を喪い、しかし、
静かな足音は確実にフォロンの横たわったベッドへと近づいてくる。
 小さな音と共に、ナイトスタンドに光が灯された。ランプを思わせる、柔らかな光。
 その光に照らされて――プリネシカは、すぐ傍に佇んでいた。
 ローブの前を、止めることも無く。
 否。
「見て下さい。先輩」
 プリネシカの細い肩から、ローブがカーペットに落ちた。
 その下から現れ、スタンドの光に照らされながらフォロンの目前に晒されたのは、
ユギリ・プリネシカという少女の――いいや、女性の、全てだった。
 フォロンは慌てて目を閉じようとして――できなかった。
 そんなことは許されないとさえ――思った。
 そんなことは、美に対する侮辱なのだとさえ――理解、させられた。
「……」
 拒絶も否定も忘れたフォロンの口から洩れたのは、純粋な感嘆の吐息。
 だって。
 それは――それは、あまりに美しかったのだ。水を孕み流れるかのように輝かしい銀の髪も、白い肌でありながら桃色に上気したうなじも、大きく張った乳房の線も、美像を連想させる腰の繋がりも、僅かな湿り気を帯びた股間の茂みも。
全てが息を呑むほどに美しく、全てを忘れ去らせるほどに、妖艶だった。
 プリネシカは、恥ずかしそうに身を捩る。
「どうですか、フォロン先輩。私の身体、綺麗、ですか?」
「……うん。すごく、綺麗だ」
 その言葉は、嘘偽りの無いフォロンの感想だった。
 それがプリネシカにも伝わったのだろう。銀の少女は胸を撫で下ろし、安堵の笑みを浮かべた。
「ありがとうございます、フォロン先輩。でも、ダメ、ですよ」
「え?」
「フォロン先輩は、嘘をつくような人じゃありませんから。だから、私も――もう、嘘がつけません」
 プリネシカは、その白い腕をフォロンに伸ばした。細い指がフォロンの頬をなぞるように掠め――シャツのボタンに届く。
 ようやく。
 フォロンはようやく、自分が置かれている状況を把握した。
「プリネ――プリネシカ!!」
 フォロンは叫んだ。叫ぶことしか、出来なかった。
 ゆっくりとボタンを外したプリネシカの指が、フォロンのシャツの胸元を開く。細い指は爪を立てながらシャツの下へと滑り込み、
決して厚くはないフォロンの胸板を撫でた。
 子供の悪戯を見つけたように、プリネシカは微笑を浮かべる。

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*********************

「フォロン先輩、乳首が立ってますよ」
「――ッ!!」
 フォロンの口からは、最早、言葉さえ毀れ出ない。
 ただフォロンは、自由の利かない身体でプリネシカの指を、くすぐるような愛撫を享受しながら――ただ、どうして、と視線で問うた。
 どうしてこんなことをするのか、と。
 その問いを正確に汲み取ったのだろう。プリネシカは小さく笑い、ベッドの上に身体を乗せた。スプリングが小さく軋み、プリネシカはフォロンの身体を跨ぐようにその上に馬なりになった。
「――ッ」
 どうしようもない罪悪感を覚えたのは――おそらくは。この状況が、とても身に覚えがあるものだからだろう。
 しかしいま目の前に居る女性は、炎のような赤い髪を持つ、フォロンの契約精霊ではない。
「分からないんですか?」
 囁くように、プリネシカはそう問うた。
「本当に――分からないんですか、フォロン先輩。私が、何のためにこんなことを、しているのか」
「――ッ。それは、」
 わからない筈が、無い。
 いっそ分からないのなら、ただこの状況に困惑するだけの愚鈍な男で在れたなら、それはそれで幸せなのかもしれないが――如何に鈍感なフォロンとは言え、いま自分が置かれている状況が、プリネシカの行為の目的が分からないほど、無理解ではなかった。
 だがしかし、だからこそ。
 ……分からない。
「どうして……プリネシカ……」
「フォロン先輩は、コーティカルテさんのことが好きなんですよね?」
 困惑に淀んだフォロンの言葉には答えず、プリネシカは相手の趣味を尋ねるような気楽さでそう言った。
 あまりに率直すぎる問いかけに、フォロンは一瞬言葉につまり――しかし、うん、と頷いた。
「僕は、コーティカルテのことが好きだ。だから――ごめん」
「謝られても、困ります。それに、そんなこと……とっくに、知ってましたから」
 フォロンの上に裸で跨り、生まれたままの姿を隠す素振りも見せず。しかしプリネシカは、どこまでも朗らかに呟いた。
「コーティカルテさんも、フォロン先輩のことを好きですよ。愛していると思います。それこそ――フォロン先輩の、子供を産みたいと願う程に」
「……っ!?」
 なぜそれを、とフォロンは息を呑む。それは先日、フォロンにコーティカルテが打ち明けたことで――つい三日前まで、フォロンが短期の入院をする羽目になった理由の言葉でもある。
 コーティカルテが、それを意味も無く吹聴するとは思えない。
 しかし、コーティカルテと自分以外は、そんな会話があったことを知る筈も無い。
 ならば、なぜ――フォロンは救済を求める導師のようにプリネシカの顔を仰ぎ、そこに、屈託の無い笑みを見た。
「分かりますよ。コーティカルテさんの、思うことぐらい。私だって、半分は精霊、なんですから」
 音も無く、寝室の中に新たな光が満ちる。それは白銀。プリネシカの髪の色と同じ、少女が持つ精霊雷の色。
 蝶の羽を思わせるそれを展開したプリネシカは、満ち足りた笑みでフォロンの頬に手を伸ばした。
「ですから――まずは、私で試してみませんか?」
「プリネ……シカ…………?」
 言葉の意味が分からない。
 いいや、分かってはならないと、フォロンは無意識のうちに悟っていた。
 しかし。
「……フォロン先輩」
 熱の篭った声でプリネシカはフォロンの名を呼び、つい、とその身体をこちらに倒してきた。
 逃げることも――拒むことも出来ず。
 フォロンの唇が、プリネシカのそれと重なった。今までに感じたあらゆるものより柔らかなその感触にフォロンは呼吸さえ忘れ、しばらくが経ったあと、いつの間にか接吻が終わっていたことに気付いた。
 頬に、熱が篭る。
 ただ重なっただけの、何も知らぬ子供が無垢な愛情で行うような、そんな口付けに――全てが、込められていたような気がした。

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*********************

「フォロン先輩」
 呆然とするフォロンに、プリネシカは甘えるような声で呼びかけ――その身体を、再び、フォロンの身体に被せてきた。
 細い指が脱がされかけていたフォロンのシャツを無造作に取り払い、その皮膚の上を滑る。
 銀の光に浮かび上がったプリネシカの肢体は、悪夢のように艶やかだった。
「コーティカルテさんが赤ちゃんを産めるかどうか……まずは、私で試してみませんか?」
「プリネ……シカ…………?」
「思えば叶う精霊は、果たして、願えば愛する人の子供を孕むことができるか否か――人と精霊の融合体である私は、その試金石として最上の素材だとは思いませんか、フォロン先輩」
 囁くような声音は、アルコールのように血液に溶け込んでくる。
 それが故、なのだろうか。
 振り払わなければ――こんなコトはユメなのだと否定する理性は、指一本動かすこともできずに、ただ、銀髪の少女の愛撫を受け入れる。シャツの下に滑り込んだ細い指は爪先で皮膚を引っ掛けるようになぞり、その痛みは、まるで暗中にを貫く死者の光のよう。
 プリネシカの背から毀れる銀色の光は、その主たるプリネシカの裸体を何処までも鮮やかに、艶やかに浮かび上がらせていた。
「これが先輩にとってのユメでもいいんです」
 普段と変わらぬ柔らかな笑みで、プリネシカは言った。
「ユメでもいいから――私に、先輩をください」

                                To be continued...

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 私に先輩をください、とプリネシカは言った。
 その意味を理解するのに一瞬を要し――要すること自体が逃避なのだと、理解させられた。
「どうしました、フォロン先輩」
 甘える子猫のようにしな垂れって来ながら、プリネシカは言った。
「私の身体は――見るに耐えないほど、醜悪ですか?」
「ちっ、違うよ! そんなことは無い!!」
「なら、なんでです? どうして、私をまっすぐに見てくれないんですか?」
「だって――だって、こんなの……!」
 おかしいじゃないか、という訴えは、何処までも悲痛な響きを帯びている。
「どうして――どうしてこんなことをするんだよ、プリネシカ……っ!!」
「言ったじゃないですか。私は、先輩が欲しいんです」
 啄ばむようなキスは、先程よりも遠慮が無い。
 ちろり、と血のように赤い舌を覗かせて、プリネシカは問う。
「それとも先輩は、私が欲しく無いんですか?」
「そんな言い方は……っ!」
「いいんです、こんな言い方で。先輩は、私が欲しく無いんですか? 私を自由にしたくないんですか? 私を蹂躙したくはないんですか? 私を弄びたくはないんですか? それとも私は、」
 いいえ、とプリネシカは首を振る。その瞳に、僅かながらの悲しみが灯った。
「私やペルセは――フォロン先輩にとって、欲望の対象にはなり得ませんか?」
「――ッ! そ、そうだよ。だから、」
 救いを求めるフォロンの唇を自らの唇で塞ぎ――プリネシカは、しかし、冷然と事実を突きつける。
「嘘」
「……ッ!!」
 見透かされている。全てを吸い込むかのようなプリネシカの瞳は、フォロンにそう悟らせるには十分すぎた。
 確かに――そう思ったことが。そのような思いを抱いたことが無いとは、言えない。
 フォロンは決して聖人ではない。紅の精霊姫の寵愛を受け、多くの精霊にその腕前を認められ欲されながらも、フォロン自身は、唯の人間でしかない。
眠らずには生きていけないし、食べずには生き永らえない。勿論、性欲だって、ある。
 省みろ。
 自らを慰めたことなど一度も無いと言えるのか? 誰かと混ざり合う夢を見たことなど無いと言い張れるのか? 誰よりも傍に居てくれると約束してくれたコーティカルテを、こんな未熟な自分を慕ってくれるペルセルテを、
そして、目の前のこの女性を思い欲望を奔らせたことなど無いなどと、いったいこの世の誰に、誓えると言うのだろうか――

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「フォロン先輩は、素直な人ですね。稀有な程に純朴で――本当に。ペルセやコーティカルテさんが惹かれている理由が、
 よく分かります。でも少しぐらい、人を騙すということを知ったほうがいいんじゃないでしょうか。きっと、そのほうが――フォロン先輩のためにも、なりますよ」
 プリネシカは小さく笑いながらそう言って、フォロンの胸板を撫でていた指を下へと滑らせる。腹を、臍を越えた指はやがてズボンを留めるベルトに辿り着いた。
 かちゃり、とプリネシカの爪とベルトの金具が触れ合う。
 フォロンは、力無く首を横に振った。
「もう……止めてよ、プリネシカ……!」
「――ごめんなさい、フォロン先輩」
 掠れた声に淡々とそう返し、プリネシカはフォロンのベルトを外してホックを解き、ファスナーを下ろした。
 あ、とフォロンの口から息が洩れる。
 プリネシカの跨って居る場所のすぐ手前。緩められたズボンから、フォロンの陰茎がトランクス越しに硬く勃起していた。薄闇の中でよくは見えないが、その感覚だけは目を逸らしたいほどにフォロンの中で明瞭だった。
 ――濡れている。トランクスが、亀頭から洩れ出た先走りの液で、しっかりとぬめり気を帯びている。
 あは、とプリネシカは少女のように顔を綻ばせた。
「フォロン先輩だって、もう、準備が出来てるじゃないですか」
 言いながらプリネシカは、フォロンのズボンを脱がせトランクスを取り去った。開放されたフォロンの怒涛は、プリネシカの精霊雷にその姿を照らされながらそそり立つ。
 フォロンは歯を噛み締めながら自らの逸物から目を逸らし――次の瞬間、小さな悲鳴を上げた。
 今更、見遣るまでもない。
 ひんやりとした指が、プリネシカの細い指が、フォロンの陰茎を優しく握り締めていた。
「……凄い、です。フォロン先輩の……こんなに、熱い」
 プリネシカの言葉には、僅かな熱が篭っているようだった。
 フォロンは、改めて自らの生殖器に視線を移した。位置の関係で、それはまるでプリネシカから生えているようにも見えて――そのあまりに醜悪な想像に、
フォロンは耐え難い嫌悪を覚えた。
 それに気付いているのかどうか。プリネシカは陶然とした微笑を浮かべ、もう片方の手もフォロンのペニスに添える。
 優しく添えられた両方の手がゆっくりと陰茎をしごき――フォロンの口から、噛み殺した悦楽の吐息が洩れた。
「気持ちいい、ですか? フォロン先輩」
 柔らかな問い掛けが耳朶を打つが、それに答えることは叶わない。そんな余裕は、無い。
 くすり、とプリネシカは小さく笑った。
「よかった。感じてくれているんですね」
「プリ……ネ、シカ…………っ!!」
「どうしました、先輩――ううん。どうしたいんですか、フォロン先輩」
 言いながら、しかしプリネシカはフォロンへの局所的な愛撫を止めることがない。それは柔らかく包み込むようでいて、全てを逃さぬと枷を嵌めるかのようだった。たどたどしいのか、それとも慣れているのか分からぬプリネシカの愛撫。
熟練の娼婦を感じさせる手つきと、乙女の恥じらいが入り混じっているようで、ただ、それは。
 あまりに容易に、フォロンを昇らせていった。
 痺れるような快楽を脳髄に刻み込まれながら、フォロンは危機感を感じて叫ぶ。
「止め――止めてくれ、プリネシカ! それ以上されたら、」
 言葉を最後まで言うより早く。
 それまでの動きが嘘のように――プリネシカの手が、指が、愛撫が止まった。
 あまりに唐突に――残滓の一つも残さずに。
「……?」
 だからこそフォロンは、逆に、疑問を覚えた。
 どうしてこんなにも簡単に止めてしまうのか、と。

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「これでいいですか、フォロン先輩」
 フォロンの足に跨ったまま、プリネシカはそう問うた。いまにも弾けそうな怒涛から手を離し、しかしその先端に自らの腹を添えさせるかのように。それまでとは違う感触に、
フォロンはいま一度息を吐き――歯を食いしばって、欲望の噴出を堪えきった。
 プリネシカは微笑む。
「これで――本当に、止めてしまって構わないんですか、フォロン先輩」
「プリネ……シカ……?」
「だって。先輩のここ、こんなに熱くて――すごく、苦しそうなのに」
 言いながら、プリネシカは自らの腹部に視線を落とした。その先にはいきり立ったままのフォロンのペニスがある。暴発を無理やり押さえ込まれたそれは、
何かを求めるように小さく痙攣しており――縋るように、その先端をプリネシカの下腹部へと這わせていた。
 最早それは、フォロンの意思とは無関係であるように――自らの役目を知っているように、救いを求め壁に祈る礼拝者のように、プリネシカの身体を求めていた。
「偉い子」
 聖母のような慈しみに満ちた声音で、プリネシカは言った。
「この子は、自分の役目を理解しています。フォロン先輩だって、本当は分かっているんじゃないですか? 何をしたいのか、どうして欲しいのか――私を、どうしたいのかが」
 柔らかい言葉は、天使の囁きのようにフォロンの意識に染み渡る。
「――ッ」
 フォロンは首を振った。歯を食いしばって、言葉を搾り出す。
「僕は……僕は、こんなの……っ」
「本当に?」
 プリネシカの言葉には容赦が無い。
 勿論――という言葉は、何故だろう、紡ぐことができなかった。
 プリネシカは微笑みを浮かべたまま、何もせずにこちらを見下ろしている。
さんざんこちらを弄んでおきながら――これ以上はなにもしませんよ、とその笑顔で語っている。
張りのある大きな胸を、硬くなった乳首を隠すこともなく、いいや、それどころか確かに蜜をまといつつある自らの性器をフォロンのそれに触れさせながら、けれど決して自分からは動かずに、フォロンの反応をうかがっている。
自らの指に舌を這わせ、赤い舌と白い指の間に透明な糸を紡がせ、フォロンのペニスから滲み出たそれを愛おしく舐め上げながら、
フォロンの返事を待っている。
 ……どうして、とフォロンは呟いた。言葉には出さず、出すことなどできず、ただ、胸の中で。
 どうして、こんなに簡単に止めてしまうのか。
 どうして、こんなに簡単に止めてしまうのか。
 どうして、こんなに簡単に止めてしまうのか。
 どうして――最後まで、してくれないのか。
「フォロン先輩」
 プリネシカは、蜂蜜より甘い声で呟いた。
「ここで止めてしまっても、いいんですか?」
「――」
 ようやく、フォロンは悟った。
 それこそが――プリネシカの狙いなのだと。
 あくまで、最後は――動くのは、フォロンからでなければならぬのだと。
 それは明らかに紅の少女への、コーティカルテ・アパ・ラグランジェスへの裏切りであると理解しながら、フォロンに自らそれをさせたいのだと、理解した。
 ……理解、した上で。
「――い」
 ぽつり、とフォロンは呟いた。
「先輩? よく、聞こえませんでした」
「――なりたい」
 まぶたの裏に、悲しむコーティカルテの顔が浮かんだ。
 彼女は泣くだろうか、とフォロンは思う。泣くだろうな、と思った。怒られるだろうとも。侮蔑されるだろうとも。海よりも深く悲しませてしまうだろう、と思い――

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 けれど。
「楽に――なりたい」
 そう、思ってしまった。
 この甘やかで粘質な悪い夢を終わらせてしまいたいと、願ってしまった。
 はい、とプリネシカは頷いた。
 親にプレゼントを買ってもらった、子供のような笑顔で。
「分かりました――気持ちよくして、あげますね」
 言って、プリネシカは腰を上げた。
 フォロンはいまだ知らぬ――想像の易い、暗い悦楽に胸を躍らせる。
 しかし。
「え?」
 くるり、と身を翻したプリネシカに、フォロンは疑問の声を上げた。
「大丈夫ですよ、フォロン先輩」
 フォロンの身体に跨ったままフォロンに背中を向けたプリネシカは、淡々とそう言った。
「初めてですけど――私、頑張りますから」
「プリネ――」
 名前を最後まで呼ぶこともできず、フォロンは驚きに息を呑んだ。
 プリネシカは身体を曲げると共に腰を浮かし、自らの性器をフォロンの眼前に突き出した。注視を余儀なくされたフォロンは、内部から蜜を滲ませる閉じた肉貝に確かな興奮を覚え、次の瞬間。
 うわ、と悲鳴のような感性をあげた。
「どうですか、フォロン先輩」
 問い掛けてくるプリネシカの声が、遠い。プリネシカの身体はフォロンの身体に覆いかぶさるようになっており――半精霊の女は、フォロンの性器にちろりと舌を這わせた。
 指よりも細く、柔らかなその刺激に、フォロンは息を呑む。それを知っての上でだろう、プリネシカは空いた手でフォロンの竿をしごきながら自らの希望を口にした。
「フォロン先輩も――舐めて、ください。私の、大事なトコロを」
「プリネシカ……」
「見えます……よね、フォロン先輩」
 ちろちろとフォロンのペニスを舐めながら、プリネシカは言った。
「私のそこ……んっ。もう、ずっとそんな風で……こんなエッチな女の子は、嫌い、ですか?」
「そんな……ことは……」
 断続的に加わるプリネシカの舌の刺激に唇を噛んで耐えながら、フォロンは答えた。
 プリネシカはフォロンの言葉に安堵の気配を見せて――そして。
「――んっ」
 僅かな逡巡の後、フォロンのペニスを丸ごと口に含んだ。舌全体で亀頭を舐め挙げ、もはやペニス全体を潤すに至った潤滑液を全て飲み干そうとする。
 それは――あまりに決定的な、容赦の無い、快感だった。
「――ッ」
 フォロンは声さえ上げられず、ただ、自分のペニスが大きく振るえ、悶え、悦楽し、己の役目を果たそうとするのを感じる。尿道を駆け上がる熱い何か。記憶にあるどんなときよりも激しい射精。自分の全てが溢れ出てしまうのではないかという錯覚さえしてしまいそうだった。
「――っ!? ん――っ」
 夥しい量の射精を受け、しかしプリネシカは小さく身を震わせただけだった。フォロンのペニスを口から出すことをせず、逆に全ての精液を吸い取ってしまうかのように舌を動かし――射精がようやく収まったあと、再び、口を動かし始めた。
 先程よりも暖かな口内に、フォロンは、プリネシカが吐き出された精液を嚥下していないのを悟った。口の中に出されたばかりの精液を湛え、そのまま、次の射精を強請っているのだ。
 その事実に、フォロンは一歩遅れて自分のペニスがいまだ萎えていないことを知った。プリネシカの頬を膨らませるだけの量を射精しておきながら、フォロンの剛直は僅かにも萎えてはいなかった。
「……」
 おもむろに、フォロンの視線とプリネシカのそれがぶつかった。フェラチオを続けながら、プリネシカは視線だけをこちらに向けて――ああ、とフォロンはどこか他人事のように、プリネシカの希望に沿うことにした。

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 ちろ、とフォロンは舌を伸ばし、プリネシカの秘唇を舐めた。痺れるような甘さを感じ、それと同時に、プリネシカが僅かに身じろいだ。
 怯えたようなその動きは、しかし、収まると同時にフォロンをより深く求めるように動いた。フォロンの顔の前にプリネシカの秘部が更に近づき、
フォロンは先程よりも大胆に、プリネシカの性器に舌を這わせる。
 再びプリネシカの身体がびくりと震え――だが今度は、プリネシカの身体は遠ざからなかった。
 だからフォロンは舌を伸ばす。自らのペニスがそうされているように、少しでもその悦楽を、プリネシカに返したいと思った。滴る愛液を啜り、ぴちりと閉ざされた桃色の貝を舌で押し開く。フォロンの舌に応えるようにプリネシカはフォロンのペニスを吸う力を強め、
フォロンは更にそれに応え――お互いの性器を口で愛しながら、フォロンとプリネシカは悦楽を共有し、高め合って行った。
 やがて。
「プリネシカ……っ!!」
 フォロンは、丹念に自分のペニスを舐める女性の名を呼んで――二度目の射精を放った。自ら受け入れ、十分すぎる程に高められた果ての射精。先程にも勝るとも劣らない量の精液を吐き出すのをフォロンは感じ――
それを全て口で受け止められているという事実に、どうしようもない優越感を感じた。
 長い射精が収まったあと、プリネシカは身じろぎをするように身体を震わせた。ゆったりとした動作で顔を上げ――しかし、口に含んだ精液を一滴も零すことなく、ペニスから口を離して身体を起こす。
 ゆったりとこちらを振り返ったプリネシカは、ひどく満ち足りた微笑を浮かべていた。
「プリネシカ……」
 フォロンの言葉に、プリネシカは嬉しそうに頷いて――こくり、とその喉を小さく振るわせた。
「――っ」
 一度ではない。
 少しずつ、少しずつ――惜しむように。一口一口、口の中に溜め込んだ二回分の精液を、胃の中へと落とし込んでいく。
 こくりこくりと鳴るプリネシカの喉にフォロンは魅入り――やがて全てを飲み干したプリネシカは、フォロンに微笑んだ。
「どうでしたか、フォロン先輩。満足して、頂けましたか?」
「……うん。凄く、気持ちよかった」
 自分でも驚くほど素直に、フォロンは頷いた。
 ありがとうございます、とプリネシカは頬を赤らめる。
「バナナで何回も練習した甲斐がありました。ご馳走様です、フォロン先輩」
「そんな、ご馳走様だなんて――わざわざ、飲んでくれなくても」
「大丈夫ですよ。苦かったですし、喉に引っかかりましたけど……凄く、濃くって。もっと欲しいなって、そう、思っちゃいました」
 恥ずかしげに言うプリネシカは、目を伏せるようにしてフォロンの腰に視線を落とした。その先には、あれほど――呆れる程の量を射精しておきながら、いまだに硬いままの剛直がそびえている。
「フォロン先輩も……まだ、満足、してませんよね?」
 いとおしげにフォロンのペニスを見ながら、プリネシカはそう問うた。
「最後まで……させてください、フォロン先輩。お願いします」
「プリネシカ……でも、それは……」
 既に十分過ぎるほど、ルールは破ってしまった。
 しかしそれでも、フォロンはプリネシカの言葉に躊躇を覚えた。最後まで――その一言が、どうしようもない罪悪感の根源となっている。
 大丈夫ですよ、とプリネシカは微笑んだ。
「コーティカルテさんのことなら、心配は要りません」
「プリネシカ……?」
「コーティカルテさんは、今夜は絶対に目を覚ましませんよ――コーティカルテさんを泥酔させられるだけの精霊酒を見つけるの、凄く苦労したんですから」
 朗らかに言うプリネシカに、今更ながら、フォロンはそのことを思い出す。
 事務所で遅くまで残業をしていたフォロンたちに、珍しく一人で姿を見せたプリネシカが差し出したドリンク。それを飲んでから先程までの記憶が、すっぽりと抜けているのだ。
 プリネシカはなんでもないように言う。
「人が飲むには少し強すぎるお酒ですけど――あと一時間もすれば、フォロン先輩の身体も動くようになります」
 フォロンの胴の上に跨ったまま、プリネシカは微笑んだ。
「ですから、それまでの間に――ごめんなさい。私が、フォロン先輩を、奪います」

*********************

*********************

 ちゅくり、と水音がした。
 その源は、プリネシカの秘部だった。フォロンの身体に跨った姿勢のまま、プリネシカは僅かにその身体を浮かしている。膝立ちになり、フォロンの身体を、
二度の射精を経ながらも未だ硬く聳え立つ逸物を見下ろしながら、身体の位置を少しずつ調整していった。
「……っ」
 再び、まとわりつくような水音がした。フォロンのペニスが小さく震え、プリネシカの秘唇をねだるように叩き上げる。閉ざされた
プリネシカの肉貝からしとどに溢れる蜜が、そんなフォロンのペニスに降りかかっていた。
「……ぁ」
 プリネシカの口から、小さな声が漏れる。その性器が、フォロンのそれに被さるような位置に据えられた。
「プリネ……シカ……」
 フォロンは腰を浮かした少女の名を呼んだ。急くような、焦がれるようなそれは、間違いなく少女を求めるが故のもので――そんな声を
上げてしまう自分に。プリネシカを求めている自分に、フォロンは嫌悪と罪悪感を覚えてしまう。
 だから、おそらくはそれを見抜いているのだろう。
 プリネシカは僅かに顔を赤らめて、フォロンの顔を見た。
「ごめんなさい、フォロン先輩」
「プリネシカ……?」
「これでも……分かって、いるんです。私が、どんなに酷いことをしようとしているのか、なんていうのは」
 恥らうような物言いは、幼い日々の失敗談を晒しているかのよう。
 それ以上ではなく、それ以下でもなかった。
「フォロン先輩が、誰よりもコーティカルテさんのことを想っていることぐらい、知ってます。フォロン先輩は私やペルセも大事にしてくれるけれど、
それでもフォロン先輩にとっての一番は、絶対に、コーティカルテさんです」
「……」
 フォロンは答えない。いや、答えられない。
 プリネシカの言葉は、フォロンにとって見れば意識するまでもない当然の事実で、だからこそ、いまこの瞬間においては自らを縊り殺したくなるほどの呪いだからだ。
 フォロン先輩、とプリネシカは囁いた。
「でも私は、それでいいと思います」
「え……?」
「こんなことをさせている私が言っても説得力なんてありませんけど――フォロン先輩は、コーティカルテさんのことを想っていてあげてください。
 きっと、それが一番、お二人にとって自然な姿ですから。……時々、ペルセのことも見てあげてくれると嬉しいですけど」
 その物言いは、まるで夢見る乙女のよう。
「そうしてくれれば、私は満足なんです――私を。フォロン先輩が、私を特別に見てくれなくても、いいんです」
「――」
「私は、半端者ですから。フォロン先輩に特別扱いしてもらえるような資格なんて、ありません」
 淡々と、プリネシカは語る。
 夢見る乙女のようにはにかんだ微笑で――氷よりも冷え切った、諦観の声色で。
「フォロン先輩を愛する資格なんて、ありません」
 けれど、と。
 掠れた声で、プリネシカは願った。
「今夜、だけでも。私を。私だけを、見てください」
 ぼろぼろと、量の瞳から涙を溢れさせながら。
「私に、ユメを見させて、ください」
「プリネシカ――」
「ごめんなさい。頂きます、フォロン先輩――召し上がってください」
 そう言って、プリネシカは腰を下ろした。まるで、断崖の頂から荒ぶる海に身を投げるかのように。
 フォロンのそそり立つペニスが、プリネシカのヴァギナを押し開き――あっさりと。その中に、滑り込んだ。ぷつり、と何か柔らかい薄膜を押し破る感覚を覚え、
フォロンのペニスはその根元までプリネシカの胎内に埋没する。

*********************

*********************

「――っ」
 洩れた吐息は、果たして破られた側、破った側のどちらのものか。
 ただフォロンは、ペニスを包む柔肉の感触に困惑を、そしてそれ以上の悦楽を感じる。湿った密な襞がペニス全体を優しく包む一方、プリネシカの膣そのものは痛いほどにフォロンの陰茎を締め付ける。
それは、拒絶と受容が入り混じった悦楽。歓喜するように蠢く膣はフォロンの全てを吸い尽くさんとするほどに貪欲で、その奥の奥、プリネシカを貫いたフォロンのペニスが至った最奥は、
こりこりとした感触をフォロンに返してくる。
 もうこれ以上は入れない。
 もっと入ってきて欲しい。
 そんな矛盾する二律背反を願われているような錯覚さえ感じ、フォロンはただ、どこまで入っていけるのだろうか、という疑問を覚えた。
「――ぁ、は」
 目を閉じ、身体をびくりと震わせて。
 プリネシカは、恐る恐るといった風に、息を吐いた。ふるふる、と首を横に振る。
「違――なんで、こんな、私――嘘――」
 戦慄いた口から洩れたのは、信じられない、という絶望の言葉。困惑と、否定と。なによりも深い、死に至りそうな嘲りを孕んだ自嘲の声音。
「プリネシカ……?」
「――っ!」
 フォロンの呼びかけに、プリネシカは答えない。ただ苦しげに、悔しげに下唇をかみ締めて。乱暴に、フォロンの身体を貪り始めた。
「プリネ……シカ……ッ!?」
 名を呼ぶ声が掠れたのは、プリネシカの膣が齎す快感があまりにも激しかったため。
 千を優に超える柔らかな肉襞は、一丸となってフォロンのペニスを刺激する。
あるときは全てを絞り出させるように、またあるときは全てを受け入れるように。次から次へと溢れる蜜はフォロンのペニスに押し出され、二人の結合部を覆い尽くしてしまっている。
 暴力的ですらある悦楽は、しかし、止まらない。プリネシカはフォロンに跨ったまま、フォロンの剛直をその内部に納めたまま、壊れた玩具のように腰を振る。上下に動かし、前後へ揺らし、
絞るように腰を捻る。その動作の一つ一つが、耐え難いほどの快楽をフォロンに与えた。
 だから、フォロンは一抹の不安を覚える。
「プリネシカ……僕、もう……っ」
 プリネシカの行為は、ある一面に於いてどこまでも実直だ。
 フォロンのペニスに与えられる全ての快楽。あらゆる悦楽。持ち上げられた腰が打ち下ろされ蜜が弾ける音も、銀の雷に照らされ暴れる髪も、その全てを称えるように大きく揺れる二つの胸も。
 それらの全てが、フォロンに射精を促すためのものだった。
「退いて、プリネシカ……中に、出ちゃうよ……っ!!」
「――」
 フォロンの言葉に、改めてその終着点に思い立ったのか、プリネシカはびくりと身体を震わせて――
 更に、激しく。
 フォロンの身体を、精を、求めた。
「プリネ、シカ……ッ!?」
「……っ」
 身体を屈め。フォロンの背に手を回し、離さぬと、絶対に離すものかとフォロンの背に爪を立て、プリネシカは腰を振る。
 あまりに乱暴なその行為は、既に限界の近かったフォロンをあっさりと押し上げて、そして。
「――っ、ぁ…………っ!!」
 プリネシカの膣の、一番の奥。
 子宮の入り口で、フォロンは自らの精を放った。
「――――ッ!!」
 自分の胎内に吐き出された熱を感じたか、プリネシカは感電したかのように身体を震わせた。フォロンの身体を痛いほどに抱きしめ、その一方で、もはやこれ以上進めぬと分かっているだろうに、
フォロンのペニスを少しでも深く飲み込もうとする。小刻みに腰を震わせて、少しでも奥で射精することをねだった。
 それに合わせ、膣壁の襞が震えるように動き、フォロンに更なる射精を促す。亀頭と子宮口を触れ合わさせたまま、より多くの精液を、願っていた。
「――く、あ」
 フォロンの口から洩れたのは、疲労の混じった悦楽の声。

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 射精が、止まらない。先ほどのフェラチオなど、比べ物にならないほどの量だ。まるでペニスが意思を持ち、自分の役目はこれなのだと、
女の膣に子種を吐き出すことなのだと理解しているかのようで――それはおそらく、限りなく正解に近い見解だったのだろう。
 プリネシカの膣に咥えられたまま、長い長い射精を終えて――フォロンはようやく、プリネシカがこちらを覗き込んでいることに気づいた。
 罪悪感と恥ずかしさがない交ぜになった感覚を覚え、フォロンは視線をそらそうとし、ふと。
「……?」
 その違和感を、胸に抱いた。
「フォロン先輩」
 陶然とした声には、隠しようの無い艶がある。
 プリネシカはフォロンの身体を抱きしめたまま、ごめんなさい、と呟いた。
 その瞳から、ぼろぼろと涙を零し――どうしようもない、自嘲の笑みを浮かべながら。
「プリネシカ?」
「私、これが初めてなんです――処女、だったんですよ」
 淡々と、プリネシカはそう言った。力無く、首を横に振りながら。
「こんなことをして……信じてもらえないかもしれませんけど、私、本当にこれが初めてなんです。初めての、エッチ、なんです」
「……ごめん」
「謝らないで。謝らないでください、フォロン先輩。違うんです。違うんです、から」
「でも、僕は」
「いいんです。フォロン先輩に、間違いなんて無いんですから。私は――私は、私は、ただ」
 ぎゅ、と――膣に収まったままのフォロンのペニスを締め上げながら、プリネシカは懺悔した。
「私は、自分が許せません」
「プリネシカ……?」
「私、これが初めてのエッチで……こんな強引に、ずるい方法で、フォロン先輩に抱いてもらったのに……私、こんなに」
 気持ちよくなってしまいました、と。
 起伏の無い声で、プリネシカは呟いた。
「フォロン先輩のおちんちんに貫かれて、処女膜破られちゃって……凄く痛くて。なのに私、気持ち良くて――痛くて痛くて堪らなかったのに、それよりもずっと気持ち良くて。
 もっともっと、フォロン先輩が欲しくなっちゃって。私……私、なんでこんなにエッチなんでしょうね?」
 プリネシカは笑みを浮かべた。強がりと簡単に知れる、仮面の笑み。
「それに……最後、だって。いまさら、こんな事を言うのは卑怯だって分かってますけど……私、本当は外に射精してもらうつもりでした」
「……っ!?」
「もちろん、中に射精して頂いても構いませんでした。……もし、本当に。こんな私にも、赤ちゃんを産むことができたなら――妊娠することができたなら、それは、とても幸せなことですけど。
 そうなってしまったら、きっと、フォロン先輩は……とても、気に病んでくださるでしょうから。私を苦しませているって、思ってくれるでしょうから」
 淡々とした物言いには、ただただ、フォロンへの信頼が滲んでいる。
 だから、とプリネシカは続けた。
「もしフォロン先輩が本当に、本当に嫌がったなら、私は外に出して貰っても構いませんでした。それで我慢しなきゃいけないって――そんなに。そんなに強く、
 フォロン先輩の赤ちゃんを望んじゃ行けないんだって、分かってました」
 なのに、と。
 プリネシカは弱々しい笑みと、深い自虐の笑みを浮かべた。
「……フォロン先輩に、突き上げられて。私のナカの一番奥の所を、何回も何回も、ノックされて。私、自分が信じられないくらいに
 気持ち良くなっちゃって……だから、我慢なんて、できませんでした」
 そう言って、プリネシカは愛おしげに自分の下腹部を撫でた。
「全部、ナカに出して欲しくなっちゃって……赤ちゃんがデキちゃうとか、そういうのが全部どうでもよくなっちゃって。ただ、フォロン先輩の全部が欲しくなって……外に出してもらっても、
 きっと、満足なんてできなくて。……あは。気づきましたか、フォロン先輩。私、フォロン先輩にナカダシされたとき、イっちゃってたんですよ?」
 涙を流しながら、無理に笑顔を作ってプリネシカは言う。
「初めてなのに、自分から膜を破って貰って、腰まで振って。痛くて、でもそれ以上に気持ち良くて、凄く気持ち良くて……全部、ナカに出して欲しくなっちゃって、我慢なんて出来なくて。
 フォロン先輩にナカダシされたら、今度はそれだけでイっちゃって。私のナカにフォロン先輩のザーメンが広がるのが嬉しくて、余計に気持ち良くって、私、私――」
「……プリネシカ」
 フォロンはプリネシカの名を呼んだ。
 しかしプリネシカは――泣き笑いの表情で、訥々と語る少女は、その声が聞こえていないのか、感情を喪った声で懺悔を続ける。

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「それだけじゃないんですよ? 私、こんなに、子宮までいっぱいになっちゃいそうなぐらいにナカダシされたのに、まだ、足りないんです。もっとフォロン先輩が欲しい。
 もっと、もっと、溢れるぐらいにフォロン先輩が欲しいんです。初めてなのに。ついさっきまで処女だったのに、私、もっとフォロン先輩に犯されたい。フォロン先輩に蹂躙されたい。
 フォロン先輩のモノになりたいんです」
 本当に、と。
 プリネシカは、乾いた声で嘲笑った。
「なんで私は――こんなに、エッチなんでしょうね」
「プリネシカ!」
 フォロンは、自分でも驚くほどの大声でプリネシカの名を呼んで――プリネシカは、驚いたように目を見開いた。
 おそらくは。
 その理由は、フォロンの側から重ねられた、唇にあったのだろう。
 時間にして、僅かに数秒。
 ただ重ねられただけの拙いキスは、しかし、プリネシカの頬を赤らめ、その瞳に生気を取り戻させるには十分だった。
「フォロン……先輩……?」
「……駄目だよ、プリネシカ。そんなのは、駄目だ。自分をそんなに……そんなに、苛めて。いいことなんて、無いよ」
 悲痛な声で言いながら、フォロンはプリネシカを抱きしめた。肩から背中に掛けて穏やかに広がる銀の髪に顔を埋めて、目と鼻の先で光るプリネシカの羽を見る。
 綺礼だな、と。
 心から、そう思った。
 プリネシカは困惑した様子のまま、掠れた声を上げる。
「フォロン先輩……身体は、もう……」
「うん。まだ、本調子じゃないけどね。プリネシカを抱きしめるぐらいなら、出来るよ」
 身体を密着させると、プリネシカの鼓動を感じることが出来た。小動物のように小刻みなそれ。
 自分も同じようなものなのだろうと思うと、自然と、笑みが毀れた。
 だから。
 フォロンは、怯えた猫のように身体を震わせるプリネシカに、優しく囁いた。
「ありがとう」
「え……?」
「ありがとう、プリネシカ。こんなに、僕を、必要としてくれて」
 四肢に残る痺れに苦笑しながら、フォロンは偽りの無い声で言う。
「そりゃ、いきなりこんなことをされたから驚いたけど……でも、その気持ちは。幸いだと、思うよ」
「フォロン……フォロン先輩」
 プリネシカはフォロンの抱擁から逃れようと足掻き、身じろぐ。まるで、自分にそんな資格は無いのだと訴えかけてくるかのように。
 しかしフォロンはそれを無視して、震えるプリネシカの身体を強く――優しく、抱きしめた。
 あ、とプリネシカの口から声が漏れる。だめ、という言葉は、もはや涙に濡れていた。
「駄目、駄目です……こんなの、ずるい……っ!」
「そうかも知れないけど。でも僕は、嫌だから。プリネシカに、そんな言い方はして欲しく無いんだ」
 ただの我侭だけどね、とフォロンは自嘲するように苦笑した。
「最近、少しだけ分かったことがあるんだ――自分を大切にする、っていうコト。僕は何のためにここに居るんだろうとか、そういうのとは関係無しに、僕たちは一人じゃ生きられない。
 誰かに頼って、誰かに頼られて、支えて、支えられて。誰かと関わりながら、生きているんだ。
 それなのに、自分をそんなに卑下するのは――たぶん。他の人たちへの、自分を大切と思ってくれる人たちへの、侮辱だよ」
 今更ながらに、思うのだ。
 先日の、コア強奪事件の際に――自分とコーティカルテが、どれほど壊れかかっていたのかということを。
 プリネシカ、とフォロンは少女の名を呼んだ。
「だから、さ。そんな、自分を傷つけるような物言いは、駄目だよ」
「でも……私は」
「どうしてプリネシカが、そんなに自分を低く見るのか分からないけれど――でも僕は、嬉しいよ。プリネシカが、そんなに僕を求めてくれて……必要としてくれて」
「……っ!!」

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 慟哭を押し殺すように唇をかみ締めて顔を伏せ――やがてプリネシカは、小さな、本当に小さな掠れた声で、フォロンに問うた。
「……か?」
「え?」
「……いいん、ですか?」
 それはまるで、親に叱られた幼子が、おずおずと許しを請うように。
「フォロン先輩を愛しても――いいん、ですか?」
 ぼろぼろと涙を零しながら。
 長い苦難の道の果てに、小さな幸せを手に入れた求道者のように。
「私……きっと、フォロン先輩が思ってるより、嫌な女ですよ」
「そうかな。そうは、思わないけど」
「それに、こんなに……エッチな、女の子です」
「ええと……僕、こういうのは初めてだから。比較なんて、できないよ」
「……だいたい、フォロン先輩にはコーティカルテさんが居るじゃないですか。ペルセだって。私を選んだって、いいことなんてありませんよ」
「それは――ごめん、ね。こんな言い方はひどいと思うけど、僕の中の一番は、やっぱり、コーティカルテだから。プリネシカを選ぶことは、できないよ」
 プリネシカの身体を抱きしめたまま、素直に、フォロンはそう告げた。こんなことをした後なのに――いや、その後なのだからこそ、素直に言うべきなのだと思った。
 フォロンの言葉に、プリネシカは小さく息を呑み――ひどい人、と苦笑した。
「そんなに素直に言われたら、怒る事だって、出来ないじゃないですか」
「うん……ごめん」
「…………私は」
 夢見るように、プリネシカは呟いた。
 フォロンの身体を、優しく抱きしめながら。
「私は――フォロン先輩。あなたが、好きです。愛しています」
「……」
「私のこの気持ちは愛なんだって……全てのものに、誓えます」
 だから、とプリネシカは言う。
「私を愛してください、とは言いません」
「プリネシカ」
「だけど――どうか、お願いします。私の愛を、許してください。フォロン先輩を愛することを、許してください」
 唐突に求められた唇は、それまでの全てのキスより浅くて、拙くて、だからこそ、おそらくは真実。
 互いの吐息が掛かる距離で瞳を見つめ合い、頬を赤く染めながら、プリネシカは願った。
「私を犯してください。私を、フォロン先輩のものにしてください」
 順番が狂っちゃいましたけど、とプリネシカは笑った。
 涙を零しながら、それでも晴れやかな、暖かい、はにかむように微笑んだ。
「よろしくお願いします、フォロン先輩」
 フォロンは答えず、プリネシカの唇を奪った。
 プリネシカは一瞬、驚いたように目を見開いて――やがて、満ち足りたように目を閉じた。
 ああ、とフォロンは思う。
 キスって、こんなに甘いものだったんだ。

                                To be continued...

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 寝室の中に、淫らな水音が響いていた。
「あっ、やぁ……っ!」
 羞恥の歓声を挙げるのは、ベッドに膝を突いたプリネシカだ。長い髪を振り乱し、涙と涎でぐちゃぐちゃに乱れた顔を恍惚に染め、それでも銀の少女は貪欲に
快楽を求めていた。
「そんっ、な、フォロン、先輩っ……ま、また奥ばっかりぃ……!」
「――っ!!」
 嗜めるようで、楽しむような。
 恥じるようで、悦ぶような声に、フォロンは答えない。いいや、答える余裕なんて無い。
 あはぁ、と啼くプリネシカの身体を――フォロンはただ、無心のままに貪っていた。
 プリネシカをベッドの上で四つんばいにさせ、その上に覆いかぶさるような格好でプリネシカの膣に挿入する。高級なベッドのスプリングを惜しみもなく揺らし、
何度も何度も、プリネシカを貫いた。その柔肉を萎えぬ怒涛で蹂躙し、白濁した液体を撒き散らす。
 何度も。
 何度も。
「や――ダメ、ダメですよぉ、せんぱぁい……っ♪ また、こんなにぃ……ナカに、出してぇ……もぉ、入りません、ってばぁ……♪」
「――ッ」
 根元まで。
 深く深く、己のペニスをプリネシカの膣に突き刺した姿勢のまま、フォロンは精液をぶちまけた。一向に量の減る気配が無い射精。それはまるで、頚動脈から
噴き出した血液のよう。自分の意思とは無関係に精液を吐き出すペニスを押さえ込もうと、フォロンは背中からプリネシカの身体を抱きしめる。
 あはぁ、とプリネシカが悲鳴を上げた。
「やっ、ぁ、あぁっ、っぁ……♪ せんぱ、フォロンせんぱい、わた、私また、またイっちゃ、あ、あ、あぁぁ――♪」
 言い終わるより早く、プリネシカの口から絶叫にさえ似た歓喜の声が迸った。白い背中が弓なりにしなり、フォロンの目の前で、白銀の羽が強く輝く。長い長い絶叫。
それはそのまま、少女にとって絶頂そのものであるのだろう。
 どくり、と熱い塊を出し終えたのを感じながら、フォロンは思う。まるで楽器みたいだ、と。
 あ、あ、と悦びの息を漏らすプリネシカ。その喘ぎが、声が、絶頂の叫びが、楽器の音色のように思えて仕方ない。それは神曲楽士という己の職故の性なのか、
それとも、プリネシカという少女のその半分が、精霊であるという事実故なのか。
 ……よく、分からない。そもそも、何かを思考し判断を下せるほど、いまの自分に余裕は無い。
 だからフォロンは、自分がすべきと思うことを、ただ、続ける。
「ぁ……せんぱぁい……♪」
 絶頂に次ぐ絶頂のせいで、衰弱という言葉さえ適切に思えてくる有様のペルセルテ。髪を乱し、全てを露わにした少女の腰に手を廻し、その中に収められたままの
ペニスをゆっくりと引き抜き、そして。
「ぁ――あぁっ♪」
 力強く、奥へと打ち込む。
 ぶちゅり、と水音を立て、フォロンとプリネシカの結合部から泡だった粘質な白濁液が零れ落ちた。
「だ――ダメ、ダメです、先輩っ! わ、私もう、げんか――ああっ♪」
 プリネシカの懇願にも似た悲鳴は、すぐに嬌声へと変わった。
 耳を打つプリネシカの甘い叫びに、フォロンは、自らのその思いを消すことは出来ないと理解した。プリネシカの身体が、プリネシカという白銀の少女が、
楽器のように感じられる。その音色は、悦びに満ちた喘ぎ声。腰を打ち付けるたび、子宮を小突くたび、胸を揉み解くたび、うなじに舌を這わせるたび、そして
ねだられたキスを与えるたび、プリネシカという楽器の音色が微妙に変化する。声の張りが、響きが、そこに篭った感情が、様々な音としてフォロンの意識を刺激する。
 もっと。
 もっと、プリネシカを奏でたい。
 もっと、プリネシカを啼かせたい。
 その思いが、堪え切れないほどに大きくなっていく。
「ふぉろん、ふぉろんせんぱい、せんぱぁいっ!!」
 嘆願するかのような視線に答え、フォロンはプリネシカと舌を絡ませる。その瞳に満ち足りたような喜びが灯り、刹那の後、それは次の快楽に溺れる狂乱の色に
変わる。目まぐるしく変わる色。ふぉろんせんぱい、と熱病のように繰り返しながら、プリネシカはただただフォロンの肉欲を享受する。促す。強請る。より多い
快楽を、より深い悦楽を。或いは、フォロンよりもよほど、貪欲に。
「ごめ、ごめんなさいせんぱいっ、わ、わたしもう、い、いっちゃいま――――っ!!」

*********************

*********************

 言い終わるより早く、プリネシカが高い高い声を、嬌声を上げた。背負った銀色の翼がまた輝きを増し、収まる。白い背中が反り上がり、それに合わせて、
プリネシカの膣が蠢動した。咥え込んだままの、プリネシカの一番奥に誘われたままのフォロンのペニスを強く強く圧迫し、逃がさぬと、己の役目を果たせと拘束する。
膣壁の細かな襞が誘うように、嘲笑うかのように亀頭を弄び、射精を促す。最早出しても収まる場所など無い――空間的に存在しないにも関わらず、そんなことは
知らぬと、新たな子種を求めている。女の動き。メスの振る舞い。
 それはまるで、全てを喰らい尽くすかのように。
 しかしフォロンは、それに耐えた。気を抜けばいとも容易く決壊してしまいそうな意識を必死で制御し、唇さえ噛み切らんと噛み締めながら、脳髄を駆け上がる
射精の欲求に抵抗する。まだだ、と思うのだ。まだ、その時ではない。まだ。まだ。
「っ、ぁ……♪」
 絶頂の波が引いたか、満足そうに息を吐くプリネシカ。大きく息を吐き、ぐったりとした様子を見せながらも肩越しにこちらを顔を見せる。
 と、その瞳が一瞬、驚きに見開かれる。しかしすぐにそれは苦笑へと変わり、全てを甘受するかのような安らかな微笑みへと変わった。
「フォロン先輩……キス……してください……」
「……プリネシカ」
 息も絶え絶えな銀色の少女に一抹の罪悪感を覚えながら、フォロンは少女の要求に応えた。ちろちろと舌を絡ませ、お互いを味わいながら――ふと、プリネシカの
瞳に灯った疑問の色に気が付いた。
「……どうしたの、プリネシカ?」
「フォロン先輩……その、もう……終わり、ですか?」
 恐る恐る――まるで悪戯を見つけられた子供のように、項垂れた声で問うてくるプリネシカ。
 え、とフォロンは間の抜けた声を返していた。
「どうして?」
「だって……出して、くれなかった、じゃないですか。私……イっちゃった、のに」
 恥ずかしげに言うプリネシカだが、その声に潜んだ非難の響きにフォロンは気づいていた。
 フォロンは苦笑して、違うよ、と答える。
「ちょっと、思うところがあって、ね。そりゃまぁ……確かに、そろそろ限界だけど」
「ずっと……入れててくれましたからね、先輩。……ありがとうございます」
 はにかむようなプリネシカの言葉に、フォロンはううん、と首を振った。
「お礼を言わないといけないのは、僕の方かな……ありがとう、プリネシカ。こんなに、僕を求めてくれて」
「……」
 フォロンの言葉に、プリネシカは一瞬きょとんとした表情を浮かべ、すぐにその頬を赤く染めた。
 そんな反応に、これだけ身体を重ねお互いを貪りあっておきながら、まるで何も知らぬ乙女のようなその反応に、フォロンは繕いようの無い愛おしさを覚える。
 だから自分からプリネシカの唇を求め――その耳元で、囁いた。
「最後に……もう一回、いいかな。プリネシカ」
「――はい。勿論、です」
 くすり、と笑ったプリネシカが浮かべた笑みは、どんな娼婦よりも艶やかで、まるで聖女のように慈しみに満ちていた。
 フォロンはゆっくりと腰を引く。ぁ、とプリネシカが震えた声を漏らし、その膣が名残惜しむかのようにフォロンのペニスを締め付けた。フォロンはそんな
プリネシカに――否、女の身体にはっきりとした未練を感じながらも、そんな自分を切り払うようにプリネシカとの結合を解除する。
 にゅるりとプリネシカの秘唇からフォロンが肉棒を引き抜くと、ごぼり、と泡立つ音がした。
「ぁ――嫌っ」
 顔を赤くし、プリネシカは四つんばいの格好のまま股下から手を伸ばし、自らの秘所を押さえつけた。しかしあまり意味は無かったらしく――プリネシカの
細い指の合間から、ごぼり、ぶぴゅりと泡立つ音が、プリネシカの膣に出されたフォロンの精液が空気と混ざり押し出される音が連続する。やはり物量的に無理が
あったのか、プリネシカの抑える手を嘲笑うかのように、ぼとり、と大量の精液がプリネシカの指をすり抜けてシーツに落ち、或いはプリネシカの白い腿に
粘質な跡を残しながら伝った。
「ぁ……ぁ……」
 こんなに出したんだ、と我が事ながら呆然としていたフォロンは、プリネシカのか細い声で我に返った。自分の性器がどうなっているのかが分かっているのだろう、
プリネシカは小さく肩を震わせながら、うわ言のように呻く。
「やだ……毀れちゃう……せっかくフォロン先輩が出してくれたのに……っ」
 悲壮感さえ漂わせる声音。痛々しささえ覚えさせるプリネシカが見るに耐えず、フォロンはプリネシカの身体を優しく抱きかかえた。

*********************

*********************

 びくり、と腕の中で銀色の少女が身体を震わせる。まるで、何かに怯えるかのように。飼い主の叱咤を敏感に感じ取った、愛玩動物のように。
 プリネシカ、とフォロンは少女の耳元で名を呼ぶ。
「仰向けに……なって、くれないかな」
「せんぱい……?」
「……見たいんだ、プリネシカを。プリネシカの、全部を」
 きょとんとしていたプリネシカは、ややあって驚いたかのように眼を見開いて――恥ずかしそうに、こくり、と頷いた。
 フォロンが少女の身体を解き放つと、プリネシカはおずおずとした動作で姿勢を変える。犬のような四つんばいの姿勢から、腹をこちらに見せるような仰向きの
姿勢へと。酷使を続けているベッドのスプリングは、それでも己の職務に忠実に、そんなプリネシカの身体を優しく受け止める。
 僅かに視線を逸らし、その頬に赤みを残したまま、どうぞ、とプリネシカは呟いた。
「……見て、ください。私、を」
「ありがとう、プリネシカ」
 ベッドスタンドの静かな灯りを頼りに、フォロンは改めてプリネシカの全てを眼に入れる。せせらぐ小川のようにベッドに広がった銀色の髪。熱病に掛かったように
赤い頬、何かを堪えるかのように結ばれた口端。瞳に伺えるのは、羞恥と、隠そうとしても隠し切れていない、期待の色。懇願の輝き。
「ぁ……」
 フォロンがキスをすると、プリネシカは満ち足りたようにその頬を緩める。
 なだらかな身体の線を手でなぞりながら、フォロンは自分がどれほど貪欲に少女を求めていたのかを知った。人形のような、という言葉でさえも役者不足とさえ
思えるほどに華奢な身体。うなじも、胸元も、腹の上も――おおよそプリネシカの身体で、濡れていない場所は無かった。汗、涙、唾液。精液と、愛液――あるいは
それらのアンサンブル。
 味わうようにプリネシカの首元を舌でなぞると、プリネシカの口から抑えた嬌声が漏れる。
 くすり、とフォロンは笑った。
「プリネシカ。ここ、気持ちいいんだ?」
「――っ」
 プリネシカは答えない。ただ、どこか拗ねたような瞳でこちらを見ている。その色は、フォロンの行いを、言葉を非難するのではなく、むしろその逆。
 知っているのなら、早くしてください。
 そんな静かな嘆願に気づきながら、フォロンはプリネシカの肌に舌を這わせる。プリネシカという少女を味わうように。プリネシカを、よりよく知るために。
「っ、ぁ、ぁ……っ♪」
 押し殺したかのような、喜びに震える吐息。
 フォロンは確かな手応えを感じながら、手を動かす。柔らかな胸へ。可愛らしい臍へ。そして、しとどに濡れた性器へと。
「――っ!!」
 弾かれたかのようにプリネシカが身体を強張らせる。硬く閉じた足はフォロンの手を拒むようで、だから。
「プリネシカ」
 フォロンは、少女の耳元で囁いた。
 ……ややあって。
 こくり、と少女は頷く。
 弛緩する少女の両足。フォロンは無理をさせぬように注意しながら、プリネシカの足を開いた。身体を入れ替えて、プリネシカの足の方へと移動する。
 か細い灯りの元で。
 隠すものの無い、プリネシカの秘部が眼に入った。

*********************

*********************

「――」
 フォロンが何処を、何を見ているのかが理解できているのだろう。プリネシカは顔を逸らすが、足を閉じる素振りも、手でそこを隠す様子も見せない。
 だからフォロンは、躊躇わずに視線を注いだ。少女の秘部。性器。性交を行うための、場所。
 小さな穴だ、と思う。プリネシカの人となりを示すかのように柔らかく生え揃った陰毛に守られ、その穴はひくひくと何かを求めている。それはまるで痙攣のようで、
プリネシカの雌の部分が何かを求める度に、その奥からどろりとした何かが、白い、ゼリー状の何かが、こぽりこぽりと毀れ出てくる。溢れた精液は重力に従って
プリネシカの股間を伝い、小さな蕾を濡らしながらシーツに溜りを作っていた。
 穴の奥。プリネシカがやがて子供を身篭るであろう揺り篭にさえ、その白濁は満ちているような予感を覚える。
「……先輩」
 おずおずと、フォロンを呼ぶ声。プリネシカは顔をこちらに向けぬまま、途切れ途切れに、問うて来た。
「どう、ですか……? 私の、身体……汚く、ありませんか?」
「綺麗だよ。凄く」
 本心でもって、フォロンは答える。確かにプリネシカの身体はさまざまな体液で汚れている。秘唇など、その筆頭だ。理性を無視した性交の証が残る場所は、いっそ
凄惨とさえ評しても問題が無いだろう。
 しかし、それでも。
 綺麗、なのだ。プリネシカは。プリネシカという、女性は。
 最初に見た女神のような美しさこそなりを潜めている。だが性交の跡が、動物としての本能の跡が色濃く残ったその姿は、あまりに淫靡で――そうであるにも
かかわらず、少女の清らかさを犯していない。それらは奇跡とさえ思える配合で混ざり合い、両立していた。
「本当、ですか? フォロンせんぱ――ぁ」
 ちらりとこちらに顔を向けたプリネシカが、小さく息を呑む。
 その理由を察し、フォロンは苦笑した。十中八九、フォロンのペニス――先ほどよりも力強く隆起している、それが眼に入ったからだろう。
 フォロンは自らのペニスに手を添えて、その先端をプリネシカの秘唇に触れさせる。粘質な音の正体は、精液と愛液のカクテルだ。
 ぶるり、とプリネシカが身体を震わせる。いつの間にか、プリネシカはしっかりと、見逃すものかとこちらを、二人の結合すべき場所を見ている。上気した頬、
輝きを増した瞳――その理由は、間違い無く。心からの、期待、だろう。
 このまま、腰を少し押し出せば。いとも簡単に、そうであるのが自然なように、フォロンの肉棒はプリネシカの膣へと進入するだろう。プリネシカの膣は、甘美な
締め付けでもって雄の性器を迎え入れるだろう。
 決して、長い時間ではない。せいぜい数時間。精霊に比べればはるかに短命な人間にとっても、その一生と比べれば、瞬きする程度の時間でしかない。
 だが、その短い時間のうちに、フォロンはプリネシカの身体を知り尽くしていた。知り尽くしてしまっていた。どうすればその中に入ることが出来るのか。どう
すれば、より良い声でプリネシカを啼かせることができるのか。どうすれば、プリネシカを、銀色の少女をより深い絶頂へと誘うことができるのか、ということを。
「……フォロン先輩?」
 秘唇にペニスを触れさせたまま進まぬフォロンに、プリネシカが疑問と不満を混ぜた声を上げる。
 答えるように、フォロンはプリネシカの瞳を覗き込んだ。
「プリネシカ」
「なん……です、か? 先輩……」
「お願いがあるんだ」
 はっきりとしたフォロンの物言いに、プリネシカは疑問の色を浮かべる。
「お願い……ですか?」
「うん」
 フォロンは頷いた。
 ちくり、と胸に走った痛みから、眼を逸らすように。

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*********************

「僕は、プリネシカを抱きたい」
「――」
「プリネシカに誘われてじゃなくて、プリネシカに強制されてでもなくて……僕の意思で、プリネシカを、求めたい」
 呆然としたような瞳を見せるプリネシカ。その瞳は、やがて、驚きに染まった。
「フォロン、先輩」
「駄目……かな?」
 ゆっくり首を振るプリネシカ。
 安らかな微笑みで、銀色の少女は歌った。
「……ありがとうございます、フォロン先輩」
「プリネシカ」
「はい。……どうぞ、先輩。私を……抱いて、ください」
 柔らかな許諾。フォロンは微笑み、ぐい、と腰を前に押し出した。
 僅かな抵抗を覚えながら、屹立した肉棒がプリネシカの体内に進入する。
「ぁ――あぁっ♪」
 雄の感触に身体を震わせるプリネシカ。ぎゅ、とその膣がフォロンの肉棒を逃がすまいと咥え込む。ぞわり、と肉襞がペニスを舐める感触に、フォロンは思わず声を
上げていた。
「フォロン――せんぱぁい……っ!」
 入れただけで眼を蕩かせるプリネシカ。フォロンはプリネシカの身体に覆いかぶさるように身体を重ね、可愛らしい乳首を口に含んだ。ひん、とプリネシカの口から
可愛らしい悲鳴が漏れる。濡れた声。何かを求める、雌の声色。
「だめ――だめです、せんぱぁい……っ! 乳首、私、よわ……っ! っぁ♪」
 言葉で拒絶しながらも、プリネシカはフォロンの頭を抱くように胸元へと押し付ける。フォロンはそれに逆らわず、プリネシカの乳首に愛撫を加えながら、腰を
動かした。
 ずん、と奥を突き上げる。
「――っ!!」
 プリネシカの口から漏れたのは、最早音にすらならぬ悦びの響き。
 しかしそれは、フォロンにとっても同様だった。
「プリ、ネシカ、ちょっと力、抜いて……すぐに、出ちゃう、よ」
「い、嫌です……っ! フォロン先輩の、だって、きも、気持ちよくて……あぁっ♪」
 首を振って快楽に溺れるプリネシカ。フォロンは暴発しないように必死で自分を制御しながら、更なる快楽を少女に提供する。
 ――プリネシカの膣は、貪欲なほどにフォロンの雄を求めていた。昨日、いいや、今日の昼まで何物の進入を許したこともなかった、プリネシカの聖所。しかしその
肉壁はいまやフォロンの子種で爛れ、ぴっちりと締まっていたその道はフォロンのペニスの鋳型にすら成っている。プリネシカの身体はフォロンの味を占め、より
効率よく、より大量に、フォロンの遺伝子を搾取しようとフォロンのペニスに刺激を加える。細やかな肉襞はフォロンのペニスの亀頭を、かりを舐め挙げる。キスを
する。吸い上げる。腰を引くと肉襞は非難するようにフォロンのペニスを開放し、突き入れると、長旅に出ていた者の帰還を受け入れる聖女のように、フォロンの
全てを包み込み――拘束する。もう何処にも行かせないと。あなたの居るべき場所はここなのだと。あなたが納まるべき場所はここにしかなないのだと。オーケストラ
を連想させる重なりで、プリネシカの女は、フォロンとの生殖に悦び震える。
 ……だから。必死で、それに、耐える。
「ふぉろ、ふぉろん、せん、ぱい……?」
 喘ぎ声の中で、プリネシカはその疑問を抱いたのか、絶え絶えにフォロンの名を呼んだ。
 しかしフォロンはそれに答えず、答える余裕なんて無く、無心にプリネシカの身体を貪る。灼熱とさえ勘違いしそうな怒涛でもって少女を貫き、その奥を、穢れ無き
揺り篭を突き上げる。プリネシカの艶やかな叫びに酔いながら少女の肌に舌を這わせ、空いた手で胸を揉み上げる。
 反対側の胸元を強く吸うと、初めて、プリネシカが明らかな拒絶を露わにした。
「だ、駄目、先輩っ!!」
「プリネシカ?」
「駄目――駄目、です、そんなの。キスマーク、できちゃ……ぁっ♪」
 否定の言葉は、けれど、何処までも虚ろ。
 フォロンは構わず、啄ばむようなキスをプリネシカの身体に施す。吸い、離し、また吸い、離す。
「せんぱぁい……」
 涙ながらのプリネシカの非難に、しかしフォロンは首を振った。
 欲しいんだ、と答える。

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*********************

「プリネシカの全部が……プリネシカが、僕を求めてくれたっていう証が」
「……」
 プリネシカは無言のまま、ぷい、と顔を背けた。それを肯定と受け取り、フォロンはプリネシカの首元に口づけをする。
 強く――意図的に強く肌を吸い、離した。見れば、うっ血した血が皮膚の下に明らかな痕跡を残している。
 お礼代わりにプリネシカの耳元を舐め上げ、ひゃん、と可愛らしい喘ぎ声を上げさせて――フォロンは、ひときわ強く、プリネシカの中を貫いた。
「――っ!?」
 舌での愛撫による甘い快感から一転、雷のような快楽の波にプリネシカが悲鳴を上げる。しかしフォロンは構わず、同じ調子でプリネシカを貪った。
 あ、とも、か、とも付かぬ声がプリネシカの口から漏れる。酸素を求めるように口をぱくぱくと動かす少女。やりすぎかな、とフォロンは思うが――フォロンも
いい加減、限界が近かった。
「プリネシカ」
 快楽の波に意識を流されそうな少女の名を呼び、口全てを覆うように自らの口を被せる。こ、と全てを吸われる感覚。舌を吸い込まれ、フォロンの肺にあった
酸素すら奪うような行為に、フォロンは内心で少しだけ謝罪した。
 口内を強く吸われ――おまけとばかりに舌を存分に絡ませられると、間近に見えるプリネシカの瞳に理性が戻った。寝起きのようなそれは、自らを保ちながらも
快楽を甘受する、女の輝き。
 唇を離すと、つ、と透明な橋が架かった。
「ふぉろん、せん、ぱい……」
「ごめんね、プリネシカ。強かったみたいだ」
「あ、いえ……大丈夫、です。気持ち、いい、ですから」
 はにかむように言いながら、プリネシカはフォロンの身体を抱きしめる。全てを受け入れて貰えるような感覚に喜びを感じながら、フォロンは止めていた腰の動きを
再開させた。
 あ、とプリネシカの口から声が漏れる。気構えていたのだろう、快楽を享受しながらも、どこか余裕のある声だった。
「ふぉろん、せんぱ……っ♪」
「プリネシカ……んっ」
 求められるがままにキスを交わしながら、フォロンは一歩一歩、階段を上っていく。腰を打ち付け、手でプリネシカを愛撫し、舌で舌と踊りながら――少しずつ。
プリネシカを、高みへと導いていく。
「ぁ……っ?」
 やがて、プリネシカがそれに気づいた。嬌声の中に疑問符が混ざり、その瞳が困惑を隠さずにフォロンへと向けられた。
「フォロン、せんぱ、い……?」
「……」
 問いかけには、明らかな怯えの色がある。
 しかしフォロンはそれに答えず、ただ、腰の動きを少しだけ早めた。
 それで十分だろうと、思っていた。
「――っ!?」
 プリネシカが身体を震わせる。未知の快楽に戸惑うように。
「大丈夫」
 耳の中にすぼめた舌を差し入れ、フォロンは囁いた。少女の不安を解きほぐすように。
 悦楽に全てを委ねるように、と。
「今度は、僕が気持ちよくしてあげるから――任せて」
「――ぁっ♪」
 プリネシカは何かを言いかけるが、それはそのまま嬌声へと変わった。
 フォロンはプリネシカを責め立てる。長いが短く、短くも長かった獣のような交わりの中で見つけた、見出した、気づいたプリネシカという少女の弱点を、執拗に、
丹念に、少しずつ――しかし、次第にリズムを早めながら。おそらくは、プリネシカが未だ至ったことの無い、絶頂の高みへと向けて。
「ひ、ぁ、ぁ……っ!? ひど、いやっ、ふぉろんせんぱい――そんな、わた、わたしの、よわいとこ、ばっかりぃ……♪」
 期待の篭った、否、期待を隠さぬ非難の言葉。フォロンは答えるようにリズムを上げて、更にプリネシカを追い立てる。
 弱所を責める度に可愛らしくも淫らな声で啼くプリネシカを見ながら、フォロンは、やっぱり、と思った。
 やっぱり――プリネシカは、まるで。楽器みたい。責める場所を変えると、少しずつ、音色が変わる。上り詰めると、その音はもっと綺麗になる。
 奏でたいな、と思った。プリネシカという楽器を、もっと。プリネシカという少女が持つ音色を全て聞いてみたいと、綺麗なプリネシカでもっと綺麗な曲を奏でて
みたいな、と。
 思えば、それは顕著に欲望へと昇華した。手つきを変える。舐める場所を少しだけずらす。腰の動かし方を、リズムを、プリネシカが一番感じるそれに調律する。

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「――っ、ぁ…………っ!!!!」
 変化は劇的で、艶やかだった。びくりとプリネシカの身体が震え、がしり、とその腕がフォロンの背中に回された。
「ふぉろ、ふぉろん、せんぱい……っ!?」
「大丈夫」
 少女の不安を取り除くように、フォロンは囁いた。
「大丈夫、怖くないから」
「……っ!!」
 息を呑むプリネシカ。フォロンはそんな銀色の少女の背中に手を回し、ぐい、とその身体を抱き上げた。フォロン自身はベッドの上に座るような格好で、
プリネシカをその上に据える。対面座位、という言葉は、学生時代に何かの拍子で耳にした言葉だったか。
「せんぱ、せんぱい……っ♪」
 力の限りにフォロンを胸に抱くプリネシカ。フォロンはそれに逆らわず、押し付けられた双丘を交互に口に含む。硬くなった乳首は、こり、という感触を返してきた。
 リズムを早める。最後へと向けて。ゆっくりと、慈悲さえ含まれた愛撫で削っていたプリネシカの余裕を、一気に奪い取る。
 腰の動きを顕著に早めると、あ、という声が漏れた。
「フォロンせんぱ――だめ、私、イっちゃ――嫌、いやいやっ、嫌――せんぱい、やめ、私、怖い――っ!?」
 瞳に滲んだのは、紛れも無い恐怖の色。おそらくは、まだ知らぬ、想像したことすらない快楽への恐怖。
 否。
 いままさに、その中へと放り込まれようとしている事実への恐怖、だ。
 フォロンから逃げるように身を捩るプリネシカ。しかしフォロンはそれを許さず、何処にも行かせない、とその身体を強く抱きしめ、
 そして。
 口に含んだプリネシカの乳首に、かり、と歯を立てた。
「――ぁ」
 それが、最初の鍵。プリネシカの身体が波打つように震える。その口から長い長い、悲鳴にすら似た嬌声が上がり、ぎゅ、とその肉壷がフォロンの陰茎を握り締めた。
 哀願するようにフォロンの雄を望むプリネシカに答えるように、フォロンは自らの堰を外した。
 どくり――と、尿道を、塊となった熱が通過するのを知覚する。
 びちゃり、と腹の中に灼熱をたたき付けられて、今度こそ、プリネシカは絶頂の高みへと押し上げられた。
「ぁ――あ、あああああぁぁぁぁぁああぁああぁああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――っ!!??」
 ぎゅ、とプリネシカに抱きしめられる。プリネシカは眼を閉じて、歯を食いしばって、身体の芯を貫く悦楽に耐えている。
 それが、フォロンには不満だった――耐えることなんてないのに。もっとあられの無い声を、全てをさらけ出した歌を聞かせて欲しいのに。
 そう思いながらフォロンはプリネシカの身体に手を這わせ――ふと、その穴に行き着いた。そういえば、と思う。ここは、まだ、手をつけていなかった。
「――ぇ、ぁ、いや、フォロン、そこは、ちが、」
「――いいよ。イっちゃって」
 悪魔のように甘い囁きと共に、フォロンは人差し指をプリネシカの菊穴へと突き入れた。思いのほか緩かったその穴は、フォロンの指を付け根まで一気に潜り込み
そして。
「――――――ぁ」
 堰を外したかのように。あるいは、全てを暴かれたかのように。
 雷光すら連想させる輝きをその羽に宿らせながら、プリネシカは長い長い悲鳴を上げた。

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*********************

「…………っ、ぁ」
 そんなに長くはなかった。控えめに見ても、数秒。それだけの時間でありながら、精力の全てを使い果たしかのように、プリネシカはフォロンの身体に自らの身体を
力無く預けた。
 フォロンは息も絶え絶えな銀髪の少女の髪を梳き、その呼吸が収まるのを待って、心からの謝礼を告げる。
「ありがとう、プリネシカ……気持ちよかった?」
「ぁ……は、はい。私、もう、死んじゃうかと思いましたから……あ」
 プリネシカの顔色がさっと変わる。いや、とうわごとのように呟く。
「抜いて――抜いてください、先輩!」
「プリネシカ?」
「早く――早く! 私、でちゃ――!?」
 プリネシカの嘆願は、しかし、小さな水音の前に途切れた。
「ぇ……?」
 疑問符を上げながら、フォロンは水音のする場所――自分たちの結合場所に視線を落とした。プリネシカは顔を真っ赤に染めて、うずくまる様に身を縮こまらせて
いる。
 熱い。プリネシカの股間から、フォロンの肉棒を咥えた場所のすぐ上の穴から、透明な液体が勢い良く溢れていた。止まることを知らぬそれはフォロンの身体を
濡らし、確かな熱と、隠しようのないアンモニアのにおいを残しながら、シーツを濡らしていく。
 永遠にも感じられそうな数秒を経て水音が収まると、室内には濃密なアンモニア臭が漂った。
 無論、その理由も、正体も分かっているのだが――信じられない、とフォロンは腕の中の銀の少女を見た。
「プリネシカ……?」
「……ごめんなさい、先輩」
 フォロンの胸に顔を埋めながら、プリネシカはか細い声で謝罪した。
「気持ちよすぎて……おもらし、しちゃいました」
「……そっか」
 少女の排泄行為に、不思議と嫌悪感は抱かなかった。むしろ、そう告げるプリネシカが愛おしくて、
「ぁ……先輩、まだ……」
 うっとりと呟くプリネシカ。
 そんな少女の子宮に、フォロンは残った最後の一塊を注ぎ込んでいた。

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 疲労感は、達成感と入り混じって、よく分からない。
 ただ身体を起こすような気にはなれず――フォロンは、ベッドの中でプリネシカと寄り添うように身体を横たえていた。
「……先輩」
 甘えるような声音で、プリネシカはフォロンの胸元に顔を埋める。ダブルのベッドではあるが、プリネシカの小水で濡れた場所を避けるように横になると、シングル
以下のサイズにしかならなかった。
 フォロンが普段使っているベッドよりも狭い面積で、プリネシカは猫のようにフォロンに甘えてくる。とても満ち足りた顔で、自らの下腹部をいとおしげに撫でながら。
「……フォロン、先輩」
「なに?」
「赤ちゃん……出来たと、思いますか?」
「……どうかな」
 はぐらかした訳ではない。しかし嘘偽りの無い答えに、プリネシカは僅かに驚いたようだった。
「意外と、落ち着いているんですね」
「そう、かな? その……赤ちゃんができたにしろできなかったにしろ。……僕は、自分の意思でこういうことをしちゃった訳だから。責任は、取るよ」
「……酷い人。だから最後に、あんなことを言ったんですね? ……先輩は、被害者でいいのに。そんなことを言われたら、私、悪人にもなれません」
 責めるような光をその瞳に灯すプリネシカ。
 フォロンは苦笑し、その言葉には答えなかった。その通りだからだ。プリネシカは今回の件を自分一人を悪役に仕立て上げるつもりだったようだが、フォロンに
してみれば、それは到底頷ける話ではない。確かに最初は、プリネシカの一方的な搾取だったように思う。一服を盛られて、身体の動きが鈍いのをいいことに色々と
されてしまった。しかしそれでも、最終的に、プリネシカの身体を求めたのは自分であり――数時間に及ぶ行為の最中で、一度たりとも、プリネシカを拒絶しようと
いう思いが沸かなかったのも事実なのだ。
 だから。責任は自分にあるし、それを果たす義務がある。
 一応、自分が年上でもあるのだし。社会人としての経験も、積んでいるのだから。
 不満げな顔を見せていたプリネシカは、やがて破願すると、こてり、と頭をフォロンの胸板に置いた。
「本当に……ずるいです、先輩。そんなこと言っても、絶対に……フォロン先輩は、コーティカルテさんを選ぶのに」
「――」
 子守唄のような声音で囁かれた言葉に、フォロンは小さく、苦笑した。ちくり、と胸が痛む。忘れていた痛み。忘れようと、気づかないでいようとした痛み。こんな
にも僕を求めてくれるプリネシカを抱くときくらい、せめて、プリネシカだけを見ていよう――そんな思いを名目に、必死で、眼を逸らした罪悪感。
 だって、きっと。
 気づけば、思い出せば。その痛みは胸を焼き、喉を貫くだろうから。
 そんなフォロンの思いを察したのか、それとも最初から理解していたのか、くすり、とプリネシカは無垢に笑う。
「ごめんなさい、先輩。酷な質問、でしたね」
「……でも、その通りだから、ね」
 はぐらかさない。その問題だけは――言い繕う余地も無い程に裏切ってしまった以上、その問い掛けに対してだけは、たとえそれがどれほど非道な言葉であっても、
その事実を揺らがせたりはしない。タタラ・フォロンという神曲楽士にとって、ただ一人を選べと言われたら、その相手は考慮の必要すら存在せず――

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*********************

「先輩」
 つい、と首を伸ばしたプリネシカがフォロンの唇を奪った。触れるだけの浅いキス。童戯のような、好意の表れでしかない接吻。
 瞳が除きこめるほどの距離で、分かってます、とプリネシカは囁いた。
「先輩にとって、誰よりもかけがえの無い人が……女の人が、コーティカルテさんだっていうことは、分かってます」
 尤も、コーティカルテさんはヒトじゃなくて精霊ですけど、と銀の少女は苦笑する。
「最初に言いましたよね、先輩。私……フォロン先輩に、愛して貰おうなんて、愛して貰えるなんて、思ってません」
「プリネシカ」
「私は、この想いが……私がフォロン先輩を愛しているということが許されるのなら、それだけで満足なんです。なのに、」
 くすり、とプリネシカは笑った。思い出を懐かしむかのように。
「なのに先輩は、私を求めてくれて。私が悪いのに、本当に悪いのに……私を、悪人にさえさせてくれません」
「……」
「酷いです、先輩。そんなふうにされたら、私……諦めきれなく、なっちゃいます」
「――え?」
 疑問符を上げるフォロン。プリネシカは柔らかく微笑むと、今一度フォロンの唇を求めた。
「……けど、駄目ですね、やっぱり。今日のことは、悪い夢なんです」
「プリネ……シカ?」
「眼が覚めたら、何も残っていない泡の夢……夢は、覚めるものです。悪夢は、消えないといけませんから」
 フォロンに甘えるように身体を寄せながら言うプリネシカ。
 けど、とフォロンは思う。プリネシカの振る舞いが、雰囲気が、何故。
 何故、童話に出てくる泡と消えたお姫様を連想させるのだろう……?
「だから、フォロン先輩の悪夢も、私のユメも――もう、終わり」
 くすり、とプリネシカは可愛らしく笑い、ふい、と視線を背後へと向けた。
「そうですよね?」
「――」
 不思議と。
 フォロンは、驚きを覚えなかった。
 ベッドスタンドの明かりが届かぬ闇の中。分厚いカーテンで閉ざされた窓の袂に、赤い、誰よりも赤い、真紅の少女が立っていた。

                                To be continued...?

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