答え:現在進行中三峰結華

Last-modified: 2021-12-09 (木) 00:58:11

「…」

 三峰は頭痛がやまない状態にある。
 辛うじて歩みは止めてない。今現在広々とした洋館を歩いており、
 薄暗い中足音を気にせず歩く姿は。一見前を向いた信念ある風に見えるが、
 内心は違う。普段通りのおどけるなどできやしない、憔悴状態に陥っていた。
 今にも壁に寄りかかって頭を抱えたくなるほどに。

 それでも歩むのは、今動かなければならないことは最低限理解してるからだ。
 誰かがもしも一緒にいてくれたらどれだけ楽だろうと、一瞬でも考えた。
 誰かがもしも参戦していたら、その人の為に殺すだろうと考えもした。
 しかし、何故。

「此処までやってくるなんて、思わなかった…」

 だからと言って、予想をはるかに上回る地獄のような惨状。
 これは何なのか。一体何の恨みがあれば此処までやれるのか。
 何故、同じ283プロに所属するアイドルがこんなに名簿に並ぶのか。
 同じ『L'Antica』に所属する田中摩美々の名前さえある。
 これだけでも相当堪えるが、正直自分の方はまだましだと言い聞かせる。
 ましだどうだの問題ではない。この状況に招かれたこと自体が最悪だ。
 分かっている。けれど、向こうはもっと悲惨としか言えない。

 同じ事務所に所属するユニット『noctchill』に至っては四人全員参加だ。
 これが番組や映画ならさぞこの展開は盛り上がっただろう。幼馴染同士の殺し合いは、
 幼馴染と言う関係、それに伴った葛藤、対面したとき刃や銃を向けられるか。
 実に視聴率を取りたそうな要素だが、それはあくまで番組の趣向である場合。
 これは本当の殺し合いだ。喪えば、二度と戻らない命のやり取りをしてくる。
 もしも彼女達ではなくL'Anticaだったら…なんてことは想像したくない。
 一人でこんな自分なら、揃って参加してる彼女達はもっと参ってるだろう。

 他の参加者にも、そういう人がいるはずだ。
 誰かにとっては憧れの存在であり、或いは共に過ごしてきた仲間とか。
 自分達だけでなく、誰かのそういう存在すら奪う悪質極まりない催し。
 当然、そんな殺し合いには乗るつもりはないし神父は絶対に許せない。
 『嘘』も『仮面』も存在しない、自分の本心が顔に強張った表情で表に出ていた。

(でも、身を守れるだけの何かないと。)

 とは言え、だ。そうは言っても身を守れなければその抵抗も意味をなさない。
 恐らくこの殺し合いの醍醐味たるスタンドは、現状においては意味をなさないのだ。
 最低限身を守るだけの何かが必要になる。故に洋館から出ないで、ある場所を探す。
 目的地は台所。使うかどうかは別として、包丁と言った刃物はないよりかはましだし、
 まな板とか忍ばせておく方が、現状ましな防具になるのは間違いないからだ。
 幸い、体格的にまな板を胸辺りに仕込んでもばれにくいのもある。

(まな板探すって、なんか空しく感じるなぁ。)

 体格的に、と言うことはつまるところそういうことだ。
 いつか、事務所であった霧子と恋鐘のやり取りを思い出してしまう。
 殺し合いの場で思い出すようなことではなく、自嘲気味な笑いがこみ上げる。
 洋館は広く、これだけ歩いても全部を網羅したとは言い切れるものではない。
 台所はいまだ見つからないものの、妙な場所はいくつか見かけていく。

「…なんで、麻雀?」

 大きな扉を開けば、そこにあるのは麻雀の卓。
 しっかり四人分の椅子含めた状態で中央に鎮座する。
 こんな状況で誰が麻雀なんてできるのだろうかとは思うが、
 こういうことになれば、何か遊びで現実逃避する人もいるのだろう。
 西洋らしい洒落た雰囲気のある廊下から一転して、この部屋は無機質。
 灰色のプレートに加えて窓もないこの一室は、実に息苦しさが広がってくる。
 暖炉があるので密室と言うほどでもないが、此処は他の部屋に続くわけでもない様子。
 入る理由は特にないので、扉をそのまま閉じて部屋を後にする。

 更に歩いて時間を要し、次に見つけたのは展示室。
 広々とした洋館で、そういうのも一つぐらいはあるのだろう。
 さぞ資産家が道楽として集めていたに違いなく通り過ぎようとは思った。
 だが、展示されてるものがものであったために、先程と違って少し寄っていく。

 ガラスケースの中に鎮座するのは───いくつかの刀だ。
 一本一本、鞘から抜かれた状態で揃って展示されており、
 ライトが演出してより魅力的な姿に仕上げていた。
 中には刀とともに古事記らしき古めかしい書物や、
 それらの説明も一緒に展示されている。

「えーっと…日輪刀…」

 一年中陽の射すという陽光山でとれる鉱物から打たれた刀…だそうだが、
 彼女はそういったことに詳しくはないため、ある程度流し読みになる。
 鬼を倒すのに用いたらしいが、いやいやどれだけ過激な桃太郎なんだと、
 内心ではその説明を余り信じている状態ではなかった。

 紛れもない凶器ではあるが、正直これを手にする気は余りない。
 単純な話だ。刀なんて、映画の撮影でもない限り握らないからだ。
 しかも握ったそれも、展示されてるものほど切れ味も重量もあるはずがなく。
 此処では使い慣れないものを振り回して勝てるような、楽な戦いでもないだろう。
 刀を握れば才覚を発揮してすぐに達人など、それこそフィクションの世界になる。
 …スタンドなんてものあっては、今や否定しきれないのが現状ではあるが。

 ならばスルーしよう、とはならなかった。
 あくまでこれは慣れない人間からすればの話。
 結局振り回せば凶器であることに変わりはないし、危険なのには変わらないのだ。
 放っておいた結果、誰かが手にして振り回すことがあれば非常に寝覚めが悪い。
 摩美々や他のアイドルも巻き添えになってしまうのであれば、なおさらのこと。
 人目の届かないところに隠そうと思い、ガラスケースを破れそうなものを探す。
 この手の展示室と言えば、近づきすぎないようにロープパーテーションがあるものだが、
 残念ながらこの場には一本もなく、代替品もなさそうだ。

「…仮面で割れるとか、ないよね?」

 スタンドの仮面を叩きつけたら割れないものだろうか…なんて一瞬思うが、
 精神の具現化とプッチが言っていた。なら、傷つくと精神も傷を受けそうな気がしてやめた。
 悩むことの多い彼女のメンタルが、こんなことでダメージを余計に負っては今後身が持たない。
 素直に何か探そう。薄いガラスケースだから、そこらの棒でも問題はないだろう。
 これだけ広いならモップと言った棒だって、一つや二つあってもおかしくはないはず。
 別の部屋からそういった類を取りに行こうとするが、

「ヤクザとも無縁そうな人間が、そう言うのはやめておけ。」

 部屋の入り口から声がして、強く反応する。
 黒スーツに眼帯…堅気の人間とは言い難い姿だ。
 長い銀髪の不気味さも相まって、死神と言うべき風貌の男性。
 自衛の手段もなく、せめて顔だけでも読み取られないように仮面を被るも、

「安心しな、殺し合いをするつもりはないさ。
 するつもりがあったら、スタンドで攻撃していた…違うか?」

 その気がないことを示すように、両手を軽く上げつつ展示室へと入る。
 スタンドがある以上、武器を持たないと言うその意思表示は意味をなさない。
 一方で、態々こうして話しかけてくる道理も、あまり多くはないはず。
 と言うより、この状況では自分はどうあがいても下の立場。
 逃げるにしても出入口は一つのみ。逃げようもない。
 完全にとはいかないが、一先ずは信用するほかなかった。

「もっとも、死なせた経験はかなりの数だが。」

「え?」

 一瞬、どういう意味か分かりかねた。
 『殺した』ではなく『死なせた』と言う遠回しなワード。

「もしかして、人助けする仕事…?」

 救助隊や医者、そういった命を救う仕事。
 そういう風に置き換えるなら、その手の人間と言うことになる。
 もっとも、この男はそういう明るい職業でもないのだが。

「医者だ。それも安楽死専門のな…ドクター・キリコと呼ばれている。」

「あ、安楽死って…」

 この場で安楽死専門の医者。
 ブラックジョークきついって、
 なんて普段の表向きの彼女なら返したが、
 見た目で判断するのは失礼では思うものの、
 この見た目ならやりかねないと言う謎の信頼感がある。

「誤解がないように言っておくが、
 助からない人間が、望んだからやっているだけの商売だ。
 安易な自殺や助かる見込みのある人間に押し売りするような商売じゃあない。」

「…なんで、そうするようになったとかって聞いてもいい?」

「俺は元軍医、と言えば少しはわかるだろう。」

 その言葉で意味を理解し、少し納得してしまう。
 映画ではテレビよりも過激に描写することがあり、
 手足を失い、生き地獄を味わう悲惨な兵士の姿。
 そういった登場人物だって、出てくることは少なくない。
 苦しみ続けて、寧ろ死にたいなんて思う人は少なからずいるはず。
 と言うより、一瞬でも死ぬ方がましと考えた自分がいい例と言う皮肉でもあった。
 苦しみから解放て生かすのが医者。生かす部分が死に差し変わっただけとも言える。
 死こそが救済、とはどっかで聞いた気がするフレーズだ。
 こんな形で理解することになるとは、思いもしなかったが。

「ここでも、それをするの?」

 言ってしまえば此処は戦場。
 しかもスタンドと言う未知の領域。
 普通の戦場よりも理不尽な負傷があるだろう。
 加えて、全員が兵士じゃない。少なくとも六人はただのアイドル。
 精神的に限界を迎える人だって、いてもおかしくはない。

「支払いがあって、相手が望めばな。
 とは言え、安楽死の為の道具もなければ、
 これの存在によって俺の仕事は当分なさそうだが。」

 不敵な笑みを浮かべながら、
 キリコはおもむろにスタンドを出し、近くのガラスケースを殴りつける。
 派手な音とともに硝子は粉々に砕けながら、中の日輪刀と鞘を取り出す。
 取り出すと同時に、ビデオの巻き戻しのごとく散り散りになったガラスがひとりでに戻っていく。

「俺のスタンドは『治す』スタンドだ。
 バラバラになった肉体も容易に治せるらしい。
 一応、冷静さを欠いては修復箇所は歪になるようだが、
 これでも医者だ。患者をメスで切開する時のような精密さだ。」

 こんな風にな…と言いながら、ガラスケースを叩く。
 粉々に砕けたはずのケースは最初の時の姿のままで、
 軽く叩いても砕ける様子はどこにも見受けられない。

「おー…本当に元通りだ。」

 足が千切れようとも元に戻せる。
 これがあれば苦痛から逃れるべく安楽死は多くの人が望まないだろう。

「もっとも、あくまで外科手術に関するもので、
 癌と言った内部まで治せるかは分からないがな…で、これはいるのか?」

 刀を鞘にしまいながら、柄の方を三峰の前に差し出す。
 その姿で握られると、本当にヤクザか何かなのではと疑いたくなる。
 出された日輪刀を前に首を横に振りながら、仮面を取った。

「誰かの手に渡らせない、そう思ってたところ。」

 だからここの刀を回収して、何処かにしまう。
 それがとりあえず今しておきたいことが、今の方針になる。

「賢明な判断だな。だが、少なくともこの一本は持っていくぞ。」

 言葉にしつつ、同じようにケースを砕いては物を回収していく。
 姿のせいで強盗そのものに見えてしまい、少しひきつった顔をするも、

「どうして?」

 謎の一言に疑問を抱く。
 この中の一本ではなくこの一本と、今持ってる奴を主張する。
 刀はいくつもあるだろうに、何故その刀に拘るように指定して持っていくつもりなのか。
 医者が刀の目利きに優れているのだろうかと思うが、すぐに違うと理解する。

「これを読んでみろ。」

 そう言って投げ渡されたのは、展示品の説明。
 どうやら、取り出すときについでで持ち出したらしい。
 持っていくと宣言した刀の所有者の話が書かれてるようだ。

「…村田?」

 他の展示品の日輪刀には、
 ある程度の事は書かれているのだが、
 手にある説明には、村田の名前以外は目立ったことは書かれてない。
 どういう意味かと不思議がっていると、キリコが問いかける。

「名簿、目は通したか?」

「一応…と言っても、知り合いが多すぎて抜けてたかも。」

 今思えば変な名前が一杯あったような。
 まるで誰かの渾名のような、奇妙なものも多数。
 ネットゲームでありそうな名前や、リングネームのようなものまで。

「名簿にも『村田』が入っている。」

「…偶然、ってことは?」

 名簿を読み返せば、確かに存在している。
 一方で村田なんて苗字、ありふれたものだ。
 摩美々も苗字は多く存在する田中でもあるので、
 別段珍しいものとも思えなかった。

「確かに偶然…と俺も最初は思っていたんだがな。
 参加者の名簿は殆どがフルネームかあだ名の連中だ。
 俺はドクター・キリコ…つまり医者としての名前で記載だが、
 この村田は大槻や安藤とならんで、名字しか入っていない。
 そしてこの展示品の説明も、吾妻善逸と言った名前はフルネームだが、
 この村田の説明だけはフルネームじゃあない…ただの偶然やミスとも思えない。」

 どっちの村田もフルネームではないことへの疑問。
 一理はあるものの、この日輪刀で鬼退治の話は大正時代のもの。
 あれから何百年と経過してるのに、今も生きているわけがない。

「でも日輪刀の説明的には大正だし、血縁の方が───あ。」

 だったら現代へ続く血縁者がもっともらしい答え。
 故にその日輪刀を村田に渡しても使えないと思うものの、
 それを否定させる、最も分かりやすい存在が名簿に一人いた。

「ナイチンゲール…」

 フローレンス・ナイチンゲール。
 衛生管理の改善等によって医療の発展に繋げた紛れもない偉人。
 歴史に詳しくなくても、その人物の名前は現代でも知れ渡る程。
 当然、医者であるキリコならば知ってて当然ともいえる存在だ。
 彼女が没したのは三峰からしたら一世紀も前になる。

「そうだ。戦場の天使と呼ばれた偉人が、何故ここにいる?
 嘘の名簿なら、知り合いで埋めておけば大抵人は動くはずだ。
 逆に偉人を入れれば、嘘の名簿と鼻で笑われてしまうのがオチさ。」

 殺し合いを進めるなら人を動かす材料を用意する。
 キリコの言うように、知り合いを何人か混ぜ込むだけでいい。
 事実、彼女は知り合いがいたからこそ急いで動いてたのだから。
 だが、これでは人を動かすどころか真に受けず停滞する恐れもあるだろう。

「ちょ、ちょっと待って。それってつまり…」

 大正時代の人間、百年も前の偉人の存在。
 嘘でももっとましなものを考えてくるのなら、
 これは本物の名簿と思っておくべきと言うことは、だ。
 導き出される結論はただ一つ。

「俺たちは大正、昭和、平成…少なくとも、
 バラバラの時代から呼ばれてるってことになる。」

 もうファンタジーじゃん、それ。
 飛躍した発想を医者がするのかと思うが、
 今の立場が既に十分ファンタジーとも言える。
 HBの鉛筆をベキッとへし折るように、できて当然なのかもしれない。
 あの神父にとっては。

「本物であればの話だ。本人に会う以外で確証は持てん。
 逆にこの説明がお遊びで用意して、嘘にしているだけなのもある。
 だが、もしどちらとも本物なら、村田と言う男はこの刀がいるわけだ。
 人喰い鬼を退治していたなら、この殺し合いに反対の可能性は高い。」

 もしかしたら、安全と思い込ませて村田は凶悪な人物だった、
 なんてオチが待っている可能性も、一応は想定しておく。
 こんな回りくどく、見落としかねないようなものを使うか、
 と言われると正直内に等しいが。

「この善逸伝にも何かあるかもしれん。ついでにもっていくか。」

「じゃあ、私が。」

 流石医者と言うべきか。
 こうして雑談を交わしながらも、
 既にほとんどの日輪刀を回収して纏めてある。
 村田のだけキリコが持ち、残った複数の刀はスタンドが運ぶ
 善逸伝は手持無沙汰なのもあり、三峰が持っていくことにする。
 これで展示室に用はなく、二人は洋館を歩き出す。

「それで、お前はどうするつもりだ?」

 運ぶ途中、キリコが不意に訪ねてくる。
 まずは仲間を探してみようとは、自分でも最初に言った。
 神父は許せないし、名簿も本物だと思う以上は動くべきだ。
 そう思ってさっきまで行動してきていたわけではあるが、
 こうして改めて誰かに尋ねられると言葉が詰まってくる。

 キリコのスタンドは十分に攻撃性能が高いとみていいだろう。
 人型だから防御にも攻撃にも、能力も治すと便利なものだ。
 こういうスタンドばかりなら、三峰は雨のない今は太刀打ちできない。
 言ってしまうと、できることはたかが知れていると言うのが現状だ。
 覚悟はあっても、それに伴う能力はない現実を突きつけられている。

 偶然にも、此処は地図上では端に存在する。
 灯台や周辺にでも参加者がいなければ、出会う確率は低い。
 また、参加者は大体が身を隠すか、参加者を求めて中心の街に集まるはず。
 キリコの目的地も、人が集まる場所である街の方へと向かうつもりだ。
 言ってしまえば、此処でやり過ごすことが可能と言えば可能になるだろう。
 まだ洋館の一部分しか知らない。籠城できるだけの物資もなくはないはずだ。
 禁止エリアの概念がある以上、完全な籠城は不可能でも、低いのは事実。

「キリ…コさんはどうするの?」

「俺は死神とまで呼ばれたが、これでも医者の端くれさ。
 医者が必要な場所には行く…こんなスタンドを得たのもあるが。」

 確かに、あんな風に治せるのであれば。
 世界中の外科医の仕事は御役目御苦労だ。
 医者らしく、自分のするべきことに臨む。
 自分の医者に対する信念がそこにある。

(…こんな時までだんまりってわけには、いかないよね。)

 臆病、ビビり、意気地なし。
 普段から晒そうとしなかった、自分の弱さ。
 晒せたときがあるとするなら、あの人の前ぐらい。

 仮面を被って、自分は何を見るのか。
 違う、見るんじゃない。被れば『見えなくなる』が正しい。
 此処で被る仮面は、普段のとはまるで違うものになる。
 普段のは、自覚するほどに面倒な性格を晒すまいとしたもの。
 此処ではどうか。同じようにすれば視野が狭まった仮面らしいもの。
 狭まった視界の中では、大事なものを見落としてしまう。
 歩くべき道も、その狭さでは覚束ないものになる。

「私も行くよ。雨がない今は、何にもできないスタンドだけど───」

「私にはこれが正解って、思いたいから。」

 できることもなければ、最悪足を引っ張ることになる。
 それでも、だ。大事な仲間が命の危機に晒される中でも自分に嘘を吐いて、
 彼女達に何かあれば、それこそ死んでも死にきれないだろう。
 最悪の可能性になるのが怖くて仕方がなかった。

「…先に言っとくが、俺はお前を守って行動するつもりはないぞ。
 クレイジー・ダイヤモンドで治す能力はある。それで助けはしよう。
 だが、優先は怪我だけだ。そっちの主張や行動方針を俺は尊重しないし、
 お互いの目的地が違うようになれば、お前についていかずその場で別れる。」

 当たり前の話である。
 彼は警察のような人を守る立場ではないのだから、当然と言えば当然だ。
 医者だって怪我人が複数出た時、優先順位をどうしても選ぶときがある。
 出会って間もない自分を守る理由も、利益もないのだから。

「仲間やチームの関係ではないってことだよね、分かってる。」

 あくまで同行するのは、自分のわがままによるもの。
 医者を必要とする人へ向かうべきなのは分かっている。
 摩美々やnoctchill等、会うべき相手のところへ向かう。
 目的は違えど、必要であろう相手と会うべきところは変わらない。
 嘗ては、私用で相手に付き合わせるのに後ろ髪が引かれることもあってか、
 その提案についてはすんなり受け入れられた。
 答えると同時に、キリコが振り向く。

「医者と言うのは、どれだけ優れようと後手に回り、
 どれだけの技術を以てしても、救えるのは目の前の人だけだ。
 できるのは、それこそナイチンゲールのような発展を遂げた人物ぐらいさ…」

 現代で人が医療で助かれば助かる程彼女は人を救ったことになる。
 それだけ医療に関して優れたものを、後世へと残しているのだ。

「本気で助かるつもりがあるのなら、どれか持っていけ。」

 言葉と同時に、クレイジー・ダイヤモンドも振り返る。
 先の言葉は、要するに『手の届かないところでも生き残れ』と言う意味。
 いきなり刀を受け取れと言われると、流石にためらいがちな表情になる。
 だが、キリコはこのまま刀を処分なり隠すなりやることを終えれば、
 すぐに動くのだから、もう洋館で代替品を散策する時間はない。
 此処で受け取らなければ、あるのは今持ってる書物だけだ。
 殆ど観念したに近いが、三峰は一振りの日輪刀をその手に取る。

「じゃあ…これで。」

 書物をしまって、両手でそれを受け取る
 握った感想としては、思ってるよりは重くなかった。
 刀と言えど、真ん中を握れば思いのほか重くはない。
 重いのは、鬼とは言え誰かを斬る為のものを持つと言う心の重さか。
 試しに、刃を少しだけ見ようと、軽く鞘を抜いて刀身を見る。

 刃の色は青。水のように静かな色が、川の流れのように続いていく。
 悪鬼滅殺と言う物騒な文字はあれど、刀身の色に少しばかり目を奪われる。
 見るのもほどほどにして、鞘を抱きかかえる形で先へ行くキリコを追う。

 日輪刀は、形状が違うものでもなければ、基本的に性能に差はない。
 しかし、彼女が選んだ日輪刀は、ある意味彼女らしいともいえるものだ。
 技の一つに『雨』の名を冠する、水の呼吸の使い手───富岡義勇の日輪刀なのだから。

 館から西の砂浜。
 そこに埋めるように多数の日輪刀を隠す。
 万が一必要になったときに、回収しやすいように選んだ結果だ。
 穴はクレイジー・ダイヤモンドのパワーのおかげですぐに終わった。

「えっと、街へ寄るんだったよねキリ…コさん。」

「…さっきも気になってたんだが。
 何故俺の名前を呼ぶときに変な間を置く?」

 さっきから『キリコ』さんではなく、
 『キリ…コ』さんとなにか変な間がある。
 呼び捨てが気になってるならキリコで止まるはずだが、
 変なところで止まっていて、気掛かりだ。

「あー、大した話じゃないんです…本当に。
 同じアイドルのユニットに、霧子って子がいるんだけど、
 いつもその子をきりりんって呼んでるもんだから、ちょっと…ね。」

「…なんだ、そんなことか。」

 本当に大したことじゃないな。
 そう返されて、苦笑で返すほかない。
 初対面の相手からすれば、そりゃそうだ。

「目的地は距離から商店街だ。
 迷わないように砂浜沿いに歩くぞ。
 ペースは合わせないから、気を付けることだな。」

「これでもアイドルなんで、体力はある方だからそこは大丈夫。」

 それはありがたいことで、
 なんて軽口を叩きながらキリコが歩き出し、続いて三峰も追う。

 怖がったりしない…とまでは言いきれない。

 ええ、怖いですとも。人が人に殺意を簡単に向けられる可能性がある場所。

 日常の比じゃあないぐらいに、命の危機に晒されてる状況ですから。

 …なんて、普段みたいにおどけてみるけど、やっぱ難しいなぁ。

 正解? 間違い? 今の私にそれを確定させることはできない。

 でも、それでも私はこれで正解って、思えるようになりたい。

 あの時みたいに。

【A-2/未明 橋の近くの砂浜】

【三峰結華@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[状態]:健康
[装備]:富岡義勇の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、善逸伝@鬼滅の刃
[スタンド]:キャッチ・ザ・レインボー
[思考・状況]基本行動方針:できることをする
1:暫くはキリコさんについていく
2:同じ事務所のアイドルになるべく合流したい
3:暇があれば善逸伝を読む
4:麻雀の部屋、なんだったんだろう…
[備考]
・スタンドの制限は特にないです(元々制限が強いので)
 スタンドのフィードバックについて勘で察してます(厳密には違う)

【ドクター・キリコ@ブラック・ジャック】
[状態]:スタンドの連続使用による疲労(小)
[装備]:村田の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品
[スタンド]:クレイジー・ダイヤモンド
[思考・状況]基本行動方針:医者としての本分を果たす。死神だが殺し屋ではない
1:海岸沿いから街に(距離的に近い商店街を優先)向かう
2:彼女(三峰)は守る気もないし彼女の行動に合わせるつもりもないが、助けるつもりはある
3:ブラック・ジャックとは別に会わなくとも大丈夫だろう。肝臓の借りは返すが
4:村田の捜索。日輪刀の存在から鬼がいる?
5:ナイチンゲール…会ってみたくはあるな。本物なら

[備考]
・参戦時期…は原作からして時間軸ばらばらなので、
 少なくとも『99.9パーセントの水』を経験済みです
・スタンド能力のノータイムの連続使用は疲労あり
 冷静さを持ってるため、修復の際に歪になりません
 死んだ人間を蘇生はできないと、直感で察しています
 人体を治す場合の制限等は後続の方にお任せします
・まだ三峰の名前を聞いていません
 (現状彼女の知り合いに同じ霧子がいることを知ってる程度)

共通
・名簿を本物と前提して、村田やナイチンゲールが同一人物なら、
 プッチはバラバラの時代から人を拉致することができるとの推測
 当人どちらかと会うまでは確信が持てず、半信半疑に近い
・日輪刀が鬼を殺せるかどうかは半信半疑
 村田が本人であることが確定すれば、確信になる

・A-2洋館に鷲巣麻雀@アカギがあります
 ギャンブルに使えたり、もしかしたら何かあるかも?

・A-2洋館の刀の展示室から全て展示品がなくなってます
 なくなった展示品は『日輪刀@鬼滅の刃』が数点と善逸伝
 展示品のほぼ全てが西側の砂浜に埋められています
 少なくとも吾妻善逸の日輪刀は存在していますが、
 他の日輪刀は誰のがあるかは後続の方にお任せします

善逸伝@鬼滅の刃
善逸の自伝。彼の曾孫の時代にも残ってる
内容は
・無惨を倒したと言う記述(ある程度鬼のことは記されてる?)
・無惨を倒した後のページの容量が半分ぐらい(倒した後が彼の物語でもある為か)
以外は殆ど不明なので、具体的な内容は後続にお任せします

村田の日輪刀@鬼滅の刃
村田が所持している日輪刀。鬼の首を断てば再生できず鬼は消滅する、対鬼用の武器
一応日輪刀の仕様で村田が手にしたときに変色してるのだが、色が薄すぎてわからない

富岡義勇の日輪刀@鬼滅の刃
水柱となる富岡義勇が持っていた日輪刀。刃の色は青色
刃色は違うものの、形状は一部の柱程奇異な構造ではなく、
根本的な日輪刀との性能の違いはないと思われる