──場所不明──
『隊長。』
『こちらジャズ。パンチ、どうした?』
『始まりました。映像を共有します。』
『了解。すべきことはわかっているな?』
『了解。』
──ケイオン闘技場──
スタースクリームは歯を食いしばった。高密度エネルギーで構成された鞭が左翼や背中を切り裂いていく。牢獄の中での虐待の記憶がよみがえる。「癇癪」のために鞭で打たれたことは何度もあったが、これは比べ物にならない。文字通り鞭が体を内まで切り裂くのだ。装甲が剥がれ、エネルゴンが背中全体から滴り落ちるのを感じる。これより痛かったのはあのフュージョンキャノンの衝撃くらいだ。
観客が湧き上がる。嘲笑が降り注ぐ。鳴け、叫べと要求する群衆の声がする。
だがスタースクリームは叫ばなかった。あの牢の中でさんざん無様に叫んだのだから、二度と繰り返さない。奴らの喜びのために壊れてやるものか。
たとえ死んでも聞かせてやるものか。
それでも鞭が体を切り裂くたびに、目が激しく明滅するのは止められなかった。
──ケイオン上空──
──偵察艦 ウィスプ──
ミラージュは前面のディスプレイに映し出された生中継を見た。後ろからジャズが固い表情で近づいてきた。
映像を数秒間見つめて、隊長は静かに首を振った。
「自分らの腕の良さが嫌になるな。」
「僕もです。」
ミラージュは映像中のスタースクリームをじっと観察した。よくここまで耐えられるものだと思う。すでに重傷だったところにこの仕打ちを受け、狂いそうな痛みを味わっているだろうに、スタースクリームは一切悲鳴をあげないでいた。歯を必死に食いしばり、決してくずおれないようにしていた。激しく明滅する目の赤色がその苦痛の激しさを物語っていたが、それでも彼は耐えているのだ。
ミラージュはジャズに視線を戻した。
「ジャズ隊長。」
ジャズも視線を合わせ、鋭い声で命じた。
「船を下せ、ミラージュ。仕事の時間だ。」
『パンチ。』
『はい、隊長。』
『やれ。』
リーダーが裏切り者を鞭打つたび、スカイワープは歓喜の笑顔を浮かべた。「ストーミィ」は見せしめというものをなんたるかよくわかっている。あとは、あの牢で撃たれた時のように無様な悲鳴が聞ければ最高だったが、気丈にも口を結んで耐えている。だが全部が全部思い通りにならないことは承知の上だ。奴の死に様だけでも楽しめるから良しとした。
ふと、さっきからひと言も発さない隣の相棒を見た。じっと余興を見つめる目つきに、スカイワープはなんだか気持ち悪いものを感じた。
「どうしたんだよ、TC?」
以前ストームレーザーが、サンダークラッカーのことはプライマスも理解できないだろうと漏らした。長年付き添ったスカイワープにも何を考えているのかわからないと思ったことはあるが、今回の様子は明らかにおかしい。
サンダークラッカーは横目で視線を返したが、やはり何も言わなかった。スカイワープは遠慮なく笑顔を見せた。
「おいおい、元気出せよ!ストーミィがあの裏切り者を始末してくれるんだぜ?ぶすくれてないで楽しもうぜ!」
しかし返事はなく、視線はすぐに反逆者の方へ戻って行った。
スタースクリームの背中や翼は大きくえぐれていた。そしてとうとう前のめりになり、鎖に繋がれた手を拳にしてつけていた。背中全体からエネルゴンが溢れていた。
サンダークラッカーの口元が、固く結ばれた。
「……TC?」
ようやく来た返事は無感動で、平坦だった。
「俺は敵の死を娯楽としない、スカイワープ。そんなことに誉れなど無い。」
そして、再びスカイワープに視線を返す。
「わかってるだろ。」
だがスカイワープはふんと鼻を鳴らした。
「アイツは裏切り者だぜ、TC。俺たちの側につくはずだったのに、議会の狗になりさがった恥知らずだ。おまけにメガトロン様をみんなの前で侮辱しやがったからな。」
ズタズタに引き裂かれていくシーカーを見て、顔を顰めた。
「あれでも足りねえくらいだ。レーザーも、俺にもやられてくれたってよかったのに。」
「あるわけないだろ。」
サンダークラッカーは静かに返事した。
「はいはい。ま、楽しいからいいけどね。」
スカイワープはまたケラケラと笑った。
しかしやはりサンダークラッカーがだんまりしたので不満に思ったが、特に気にせずまた闘技場に視線を戻した。今は雑談よりも鑑賞だ。
そうしてストームレーザーに激励をかけようとしたとき。
激しい爆発音が響いた。
『ミラージュ、ホイスト。行け!』
『了解。』
『わかった!』
ストームレーザーは喧騒を無視してふたたび鞭を振り上げた。対処など他のディセプティコン連中に任せれば良い。メガトロンの命令が先決だ。
『ストームレーザー。』
無線から聞こえた声に唸った。よりにもよってサウンドウェーブに連絡させるなど!
いったん鞭をおろし、通信を起動した。
『こちらストームレーザー。どうしたサウンドウェーブ。』
『新たな任務だ。爆発の原因を確認せよ。捕虜の対処は後回しだ。』
なんたることか。メガトロンは裏切り者の処刑を命じ、それも早急にせよとまで言い含めた。なのにそれを保留にして別件を優先せよとは何事か。サウンドウェーブの言葉を無視して続けようとも思ったが、すぐに手を止めた。
裏切り者を見下ろす。すでに背を伸ばすこともできず、地面にもたれていた。背中も翼もズタズタで、とめどなくエネルゴンが溢れ出ている。退役に濡れていない箇所は部分的に色を失い、全身の色も当初より褪せていた。
ストームレーザーは冷笑した。トドメを刺すまでもないだろう。この様子なら、まもなく失血で死に至る。残骸の処置はその後で良い。
それに、私情のためにメガトロンをわざわざ怒らせる必要もないだろう。
しかし、念には念を入れるべきだ。
『わかった。早急に対処する。』
通信を切り、観客らを見上げてつんざくような声を上げた。群衆の注目を集めたと確認すると、高らかに発した。
「シーカーたちよ!我らが主君の新たなご命令だ!我々に斯様な攻撃をしかける愚者ども狩り出すのだ!」
号令とともに、シーカーたちがトランスフォームして空へ舞い上がった。ストームレーザーは鞭の電源を切りながら振り返り、トラインのもとへ歩いた。
スカイワープとサンダークラッカーの2人がしゃんと背筋を伸ばした。兄弟機の前で泊まり、再び囚人を見る。
放っておけばまもなくし力尽きるだろう。しかし、もしこの爆発がオートボットの罠ならば……あらゆるリスクに備えるべきだろう。
結論づけて、2人の部下を見て命じた。
「スカイワープは俺とともに来い。サンダークラッカー、貴様は残り、裏切り者を見張っておけ。」
サンダークラッカーはこくりとうなずいたが、スカイワープは怒りをあらわにして文句を言った。
「なんでだよストーム!俺だって見張りくらいできるぜ!?ちゃんとトドメは刺すからさぁ!」
だがスト夢レーザーは冷ややかに笑って答えた。
「ああそうだな。だが『お客様』がいた場合、サンダークラッカーのシグマの方が有効だ。」
するとスカイワープの表情が固まった。
「……それってつまり?」
ストームレーザーが何も言わずにうなずいたので、スカイワープは少し考え込んだ。
「……あとで俺にも手つけさせてよ?」
「もちろんだとも。」
2人は凶悪な笑みを交わし、じっとたたずむだけのサンダークラッカーの背中をスカイワープが叩いた。
「んじゃなTC!お前のぶんもクソボットをぶち殺してくるからさ!」
サンダークラッカーが顰め顔で返すと、2人はトランスフォームして空へ舞い上がった。シーカーたちは2人の後を追い、闘技場はすっかり静かになった。
サンダークラッカーは仲間たちを見届けると、地面に繋がれたままのシーカーを見た。そしてぐっと口を結ぶと、ゆっくりと歩み寄って行った。
ミラージュとホイストは、真っ暗な地下トンネルをゆっくりと進んでいった。ホイストは不安そうに周囲を見回した。壁や床には無数のシミがこびりつき、ときおり衝動ぼうつか何かがトンネル内をカサカサと蠢く音がする。少なくとも、まだディセプティコンには遭遇していない。
ミラージュの背を追う間、ホイストは昔に聞いた闘技場の話を思い出した。
彼の育て親の話によると、ケイオンには生死をかけた闘技の長い歴史があるという。実際、育て親の兄弟もかつて闘技場でつとめていたという。彼の勤めは闘技場に散らばる死体を拾い集め、地下にある溶鉱炉に投げ落とすことだった。当時は深く考えなかった。彼の一族はそのように遺体を集めて溶かすのが役割の一環だったが、生きていくためにそれを繰り返すというのはいい気分がしない。ましてや、こうしてその舞台に来たとなると、殊更だ。
そのような勤めに従事してきた叔父の気持ちは想像もできない。
物思いに耽りながら進んだが、やがてミラージュが立ち止まって現実に戻った。最初見えたのは無人の入り口だったが、少し覗き込んで、立ち止まった理由がわかった。
離れたところで、エネルゴンにまみれた灰色・赤・白の機体が転がり、青いシーカーが電磁ダガーを右手にしてそちらに近づいていった。
サンダークラッカーは足元のシーカーのそばでひざまずき、電磁ダガーを握った。
スイッチを入れて刃を展開し、顔を歪めた。
相手は死にかけ。トドメを刺すのは簡単。ストームレーザーもそれを望んでいる。そして相手は意識を失っている。スパークに刃を突き立てても、痛みを感じることはないだろう。
なのに、サンダークラッカーは躊躇った。
「ならお前は思想のためではなく、個のために戦うというのか。軍用機やシーカーの受けた差別のことなどはどうでもいいと?」
「どうでもよくはない。だが、自分たちを虐げてきたものを破壊して何になる?それに中立的な立場を保ってきたものまでも巻き込んでか?そんなのは、しょせん俺たちの価値が破壊行為にしかないと証明するだけだ。」
答えを求めて彼に問うた。答えは得た。他に別のナニカを伴って。
ずっと待ち焦がれ、思い悩んできたモノを。
「大抵のやつは、今のような立場に置かれたら、命だけは~だの、チャンスをくれ~だのと、そんなふうに乞うもんだ。ところがお前はじっと座り込み、毒を吐き、処刑を目前にした捕虜としてはおかしな行動を取っている。」
「はっ!命乞いをしてどうなる?俺が逃げられないのはお互いよくわかっているだろうよ。」
思わず苦笑した。ストームレーザーが自分に彼の対処を命じた理由はわかっている。オートボットが来るといち早く察知し、万が一でも奴らが死体を見つけたとしても対処しろという判断だ。
スタースクリームは助けなど来ないと言っていた。その理由はサンダークラッカーにはわからない。わかるのは、その予想に反して助けが来たということだ。
今、大きな選択をせまれている。
スタースクリームはオートボットだ。敵兵だ。サンダークラッカーをオートボットを憎む。そのやり方も、背後に立つ存在も全て。奴を殺すことに躊躇ったことは一度もない。
しかしこのオートボットは違う。
「お前はスカイシャードの誇りだ。」
スタースクリームにはオートボットや議会を憎むあらゆる理由がある。彼自身、身内の何人かを心底嫌っていることを吐露した。それでもなお、味方となってくれるものがおり、他がどうあろうと彼らに決して背を向けないと言った。いったい誰がそんな強固な理念をこいつに叩き込んだのか、不思議でならない。
それが誰であろうと、きっと今の彼を誇りに思うだろう。
「会えて光栄だ、サンダークラッカー。アンタに風の導きがあらんことを。」
小さく、悲しく微笑んだ。
「お前もな。」
ひそかに呟き、刃を振り上げて──
──鎖を断ち切った。
ミラージュもホイストも困惑した。サンダークラッカーはスタースクリームを拘束する鎖を断ち、ゆっくりと立ち上がった。
ミラージュはホイストに進むよう合図を出した。近づく途中、ミラージュは光子ディスラプターを解除したが、サンダークラッカーは動かないどころか驚いた様子もなかった。
意外だ。だが、警戒は解かない。
「ホイスト、スタースクリームのもとへ。」
視線を外しつつ言った。
ホイストは黙って横たわる期待へ駆けつけ、スキャンを走らせた。結果を見て、思わず悪態をついた。
『ミラージュ、状態が悪い。ここで修理するのは無理だ。ここじゃあとても……』
『やれることをやれ。今すぐジャズ隊長に連絡する。』
ホイストが溶接機を取り出して応急処置をする間、ミラージュはホイストの報告と座標情報をジャズに送信した。肯定の返事を確認し、ミラージュは口を開いた。しかし先に声を出したのはサンダークラッカーの方だった。
「そろそろ、爆発が囮だったと勘付くだろう。ストームレーザーは最初から疑っていたからな。」
ミラージュは肯定としてうんと唸り、同じく冷静な声で言った。
「それでも、ある程度の時間はあるはずだ。」
サンダークラッカーは小さく笑ったが何も言わなかった。それに対し、ミラージュは片眉をあげた。
「答えろ。なぜだ?」
「なぜとは?」
「なぜ彼を殺さなかった?時間なんて、僕たちが到着する前からあっただろうに。」
サンダークラッカーは項垂れて黙り込んだ。その後ミラージュに向けられた目には、筆舌に尽くし難い感情がこもっていた。
「そいつは優秀な戦士だ。大事にしろよ。」
ぽつりと呟くような返事は、危うく聞き逃しそうだった。
それ以上何かを言う前にサンダークラッカーは続けた。
「うまくやれよ。」
そしてスタースクリームに視線だけを向けた。
意図を察しつつ、ミラージュはホイストに通信した。
『ホイスト、どうだ?』
『ひとまずは。大きい傷は塞いだよ。』
『わかった。』
ミラージュはもう一度サンダークラッカーを見上げ、その背中を撃った。
ホイストは特に深刻な傷を塞ぎ終えるとトランスフォームし、クレーンを動かしながらスタースクリームをそっと持ち上げた。
搬送台に患者をそっと乗せながら、地面に残ったもう1人のシーカーにセンサーを向けた。
「今の、どういう意味だろう。」
ミラージュは首を振った。
「わからない。」
いつものサンダークラッカーではなかった。彼は敵を拷問にかけたりいたぶったりする傾向がなく、どちらかというと相手を迅速に仕留めるタイプなのは知っている。しかしオートボットを見逃したのはこれが初めてかもしれない。
確かに不思議だが、疑問を振り払って搬送台に乗り込み、ディスラプターを起動した。
「ジャズ隊長もこちらへ向かっている。まずは追手がいないことを確認しておこう。」
言いつつ、運び込んだ機体を見た。
「容態は?」
ホイストの顔はマスクとバイザーで構成され、表情がない。もしあったとしたら顰めたところだろう。
「端的に言うなら、今後はプロトフォーム修理装甲移植を含めた大手術が必要だ。それに右翼はまるごと交換だ。ラチェットは怒るだろうね。」
ラチェットの部分については、ミラージュも同じように考えた。
「とうぶん出撃も無理だな。」
「うん、手術は少なく見積もっても20日はかかる。しかも複数回に分けないといけない。」
説明しつつ、ため息をついた。
「不幸中の幸いで、部品はそろっている。戦場の部品漁りのおかげでね。」
すると、頭上からエンジン音がした。ミラージュは空を見上げた。しばらくすると、砂塵が舞う中で何もない空間からゲートが開いた。
奥からジャズの声がした。
「急げ!オートボットの襲撃に見せかけたホログラムを設置したが、長くはもたない!」
それ以上の会話はなく、全員シャトルに乗り込み、アイアコンへと航路を向けた。
ストームレーザーは激怒した。
爆発を引き起こした犯人を捕らえられなかったのみならず(十中八九ジャズの仕業だ)、兄弟まで傷つけられてまんまと逃げられた。裏切り者がほぼ死んだだろうことでメガトロンからは必要以上のお咎めもなかったが、それでもやはりトドメを刺しておくべきだった。
爆発の原因を探ることを優先しろなどと命じるからだ。そうすればせめて、何か得るものはあっただろうに。
メガトロンの命令のせいで裏切り者が生き残った可能性すら出てきた。そしてあの捕縛劇の際、コンストラクティコンのことを知られた可能性が高い。奴らの仲間内でシーカーの言葉に耳を傾けないことを願いたいが、ジャズはは聞き流さないだろう。だとすればクリスタルシティに関する計画を前倒しにするか、さっさとかたづけてしまうしかない。
一方で、奴が死んだならば、計画は予定通りに進められる。だが裏切り者の生死が確認できない以上、あらゆる計画は保留となる。
物音がして、ストームレーザーは顔を上げた。サンダークラッカーは治療代に横たわり、スカイワープは壁にもたれかかっていた。その表情は険しく、腕も固く組まれていた。
あのサンダークラッカーが奴にトドメを刺せる前にオートボットに出し抜かれたことには驚いた。もしかしたら予想以上に敵が近くまできていたのかもしれない。このような奇襲攻撃は以前にもあったが、そのときはだいたい3人が一緒だった。今回ばかりは、1人のときを狙われた。
幸い、攻撃はスパークチャンバーの横を通り抜け、命に別状はないそうだ。だがしばらくは安静の必要があるだろう。
「あいつら、絶対に許さねえ。」
スカイワープが唸るように言った。
「絶対思い知らせてやる。」
ストームレーザーは横目で見て、落ち着いた声で言った。
「命あっての物種だ、スカイワープ。殺されなかっただけ感謝しておけ。」
だがスカイワープは怒りをおさめず睨み返した。
「最初から裏切り者を殺しておけばこんなことにならなかったんだ!」
確かに言う通りだ。しかし私情をはさむのは時と場合による。今は最適とは言えず、無線に切り替えてひそかに注意した。
『聞かれるぞ、スカイワープ。覚えておけ。』
まだうーうーと唸っていたが、理解したのか引き下がった。
間があって、スカイワープがチラリとこちらを見た。
「あいつ、死んだかな。」
ストームレーザーとしては、死んでいない方がいいと思った。もし生きていたなら、この屈辱と怒りを晴らすチャンスが得られる。今はなんとも言えない。
「なんとも言えん。ゼロに近くとも、生きている可能性はある。救護班が早急に処置したらの話だがな。」
言って、改めてサンダークラッカーを見下ろす。
「いずれわかる。」
スカイワープは目を光らせ、短く「そっか」と答えた。
今はあの裏切り者を八つ裂きにしたい。奴さえいなければ、サンダークラッカーも怪我せずに済んだ。次こそは絶対に逃さない。
今回は見逃してやる、クソ野郎。
覚えておけよ。
──ケイオン上空──
──偵察艦 ウィスプ──
「要約すると、」
ジャズは両手の指を重ねて考えた。
「サンダークラッカーは、スタースクリームを殺さず、お前たちのことも見逃したと?」
最前席でシャトルを操縦するミラージュが静かに頷いた。
「そしてその理由も明かさなかったと。」
ジャズは続け、後ろを見やった。奥でホイストが患者の世話に夢中になっている。たとえ医療従事者でなくとも、まさしく間一髪であったことはわかる。ホイストの呟きから聞こえる、エネルゴンの大量流出だけでも深刻だった。きっとこの件で、ラチェットはメガトロンとストームレーザーをいっそう恨む理由を見つけるだろう。
「ひとつだけ。彼は優秀な戦士だから大事にしろ、と。それ以外は何も。」
「そうか……奴らしくないな、ましてやそんな言葉は……。」
「同感です。」
「どういう意味かわかるか?」
「いえ。隊長は?」
「なんとなく。だが、スタースクリームが裏切らなかった以上、心配はないだろう。少なくとも彼のことは、ね。」
その言葉にミラージュも片眉をあげた。
「懸念すべきは、サンダークラッカーの方だと?」
ジャズは黙って。
「……必要かもしれないし、不要かもしれない。以前からエリートトラインの中でアイツだけは異質だった。多くのディセプティコンと違って、敵をいたぶらない。」
パンチから受けた報告を思い返し、顔を顰めた。報告ではスカイワープの存在の言及はあったが、サンダークラッカーについては不明だった。しかしストームレーザーがメガトロンからスタースクリームを明け渡された以上、彼もきっとその場にいたのだろう。ならば、メガトロンの仕打ちも目撃したはずだ。
サンダークラッカーとスタースクリームが言葉を交わしたかどうかを判断するのは早計だ。敵の医療班がスタースクリームの応急処置をして『ショー』が始まるまで、どのくらい時間がかかったのか不明なのだ。猶予があったなら、2人がどのような会話をしたのか気になった。
もしかしたらストームレーザーの命令でスタースクリームに何かを埋め込み、あとは目くらましとしての行動というのも考えられた。幸いホイストのスキャンがそれを否定した。
サンダークラッカーはしばらく注目しておくべきだろう。これは明確にすべき問題だ。怠ったなら今後、奴がどのような脅威になるかもわからない。少なくともディセプティコンとして敬虔な彼が離反する可能性はカムだが、無所属になる可能性ある。それがジャズにとっての大きな懸念だった。
無所属者は反逆者と同じく、捨ておけば厄介な存在となりうる。
「帰ろう、ミラージュ。」
重々しい声でジャズは告げた。ここで今後の予想をしてもしょうがない。スタースクリームを救うのが先決だ。
ミラージュも同意し、以降の旅路で、2人は帰投するまで言葉を交わさなかった。