Skywinder氏作/Pariah/Chapter14

Last-modified: 2025-03-20 (木) 18:29:53

──ケイオン ディセプティコン本部──
──地下牢獄──

愚かなシーカーが意識を失うのを、メガトロンは見届けることなく背を向けた。その視線が幹部らをめぐる間も誰ひとりとして声を上げなかった。
やがてストームレーザーに目が止まると、見つめられた機体はビクリと跳ね、視線をそらした。

「……メガトロン様?」
ストームレーザーはおずおずと尋ねた。

そこでよぎった考えに、メガトロンは冷たく笑った。

「ストームレーザー。貴様は務めをよく果たした。褒美をくれてやろう。」

予想外の言葉に、ストームレーザーの目が見開いた。
「褒美、ですか?」

「ああ、そうだ。」
メガトロンはくつくつと笑い、背後で壁から垂れ下がったシーカーを見た。
「特別な褒美だ。」


──場所不明──

『ジャズよりパンチへ。』

『こちらパンチ。』

『あと1時間半で到着する。状況は?』

『まだ生きています。ただ……』

『ただ?』

『新しい座標を送ります。』

『新しい座標?』

『はい。』

『何があった。』

『メガトロンが彼をストームレーザーの手に渡しました。』

『なぜだ?』

『わかりません。ただ、止血が済んだらケイオン中心部の闘技場へ連れて行けと命じていました。』

『そうか……目的の検討はつくか?』


──ケイオン 闘技場──

つめたい風を感じて、スタースクリームは目を覚ました。

なんだ……?

あの激痛を味わってなお生きているとは思わなかった。たとえ直接的に死ななかったとしても、失血死は免れないはずだ。

体を起こそうとして、何かに引っ張られると同時に強い痛みが走った。波がおさまるまでの数分間、歯を食いしばって耐えた。右半身全体が焼けるように痛い。

激痛が落ち着くと、原因を探ろうと目を開けた。見ると、膝をつく姿勢で、左腕を地面に拘束されていた。刺激しないように慎重に体を動かして、周囲を見渡した。

場所はわからないが、少なくとも牢屋ではない。象牙色の円柱状の壁に囲われた、大広場の中央に自分はいた。壁の上には座席らしきものが劇場にように並んでいる。一部の座席の下には入場ゲートのような防護壁と格子を張った空間がある。格子は錆にまみれ、一部は欠け、むき出しのゲートもある。頭上は天井のない吹きさらしの空間だった。

地面は特筆するべきものがない。ただ至るところにシミのようなものがあるし、左腕を縛る鎖も自然劣化もあってか状態が悪い。内側に何かカピカピのものがこびりついており、何であるかの判別は難しいが、感じる程度の存在感がある。

よく見てみて、その色味と触感の正体に気づいた瞬間、背筋がゾクリとした。

しばらく首を振り、ようやく意を決して自分の右半身を見た。
見なければよかった。
右翼には大きな穴が開き、右腕の前腕部は胴体の一部もろとも溶け落ちていた。内部配線もそこだけ切り取られたように無い。むき出しのプロトフォームもひどい状態で、修理にはプロトフォーム移植が必要だろう。幸い液漏れはなかったが、その程度の処置は誰にでもできるし、さもなくばキャノンの熱で焼烙されたのだろう。いずれにしても深く考えたくなかった。

またラチェットにどやされそうだ。
そう思って悲しくなった。もうどやされることもないかもしれない。たとえここがどこだかわからなくても、おおよその見当はつく。

ここは、子供のころに親が連れてきてくれたヴォスの決闘場に似ている。そこではシーカーらがトラインを得るべく相手に勝負を挑み戦った。言うまでもなくヴォス市外での闘技場の存在も知っていた。ヴォスの闘技場は青と銀を基調としたからここは違うと確定した。ヘレックスやテサルスもディセプティコンと同盟している噂が立っていたが、どちらも正式な宣言がない。となれば、残るは2択──

ケイオンとターン。

なんてこった。
武器は機能しない。スラスターが動いても鎖に繋がれ、無理に飛んだとしてもこの翼ではバランスが取れないし、そもそもトランスフォームすらできない。結局牢屋に閉じ込められているのと大差がない。
飛べない、SOSも出せない、ましてや助けが来るはずもない。今頃は生死不明扱いだろうし、たとえ生存が伝わったとしても(おそらく多くの者にとってはどうでも良いことだろう)、居場所までは突き止められないだろう。

自分の運命を知ったら、オートボットのみんなはどう思ってくれるだろうか。どうせほとんどは気にもかけないだろうが、親しかったひと握りの者にだけは自分の死が伝わってほしい。自分自身、それが叶わなかったのだから。

「目が覚めたか。」

突然声をかけられて飛び上がり、激痛に襲われた。しかし相手が誰であれ苦痛を知られたくなくて必死に耐えた。

俺のバカ!
敵地のど真ん中で油断するという軽率さに自分を責めた。ヴォスの軍学校にいた頃、奇襲の危険があるから決して気を抜くなとさんざん叩き込まれたはずなのに。クリスタルシティの探索任務の結果がいい例だ。しかもあれは無所属地帯でこの様だ。

声の方向にゆっくりと向き、その正体に驚いた。誰もいないと思ったゲートのところに、あの牢屋で見た青いシーカーがいた。翼は平常位で、表情は読めない。彼はゆっくりと近寄り、スタースクリームを見下ろした。

何しに来たんだ、こいつ。
相手が近づく間、スタースクリームは考えた。メガトロンとの応酬のときのように、品定めするような目をこちらに向けてくる。別に何かを期待したわけではない。シーカーたちはみんな敵だし、その主人たるメガトロンへあれだけの暴言を吐いたなら死んでほしいと願っていることだろう。

自分もなるべく無表情を保った。何を企んでいるかは知らないが、弱みだけは決して見せない。少なくとも今のザマ以上の弱みは見せられない。これ以上、恥を晒したくないから。

青いシーカーはスタースクリームの前に立ち、何も言わずにただ見つめてきた。興味深そうな視線はやがて無感動に変わった。

「ジロジロ見つめるだけならさっさと帰んな。こっちは忙しいんだ。」
吐き捨ててみた。どうせ死ぬなら、少しくらい敵に囲まれず平穏に過ごしたい。

すると相手は片眉をあげ、作り笑いをして首を振った。

「本当に変なやつだな、お前。」

少し感心したような声色についカチンときた。

「どういう意味だ、テメエ。」


『ストームレーザーは彼を公開処刑にする気のようです。闘技場に複数のカメラを設置し、ヴォスで生中継する準備をしています。ケイオンにいるシーカー全員が招集されました。』

『他の幹部がくる予定は?』

『ありません。ただ、翼の欠片は持ってこいとメガトロンが命じていました。』

『他には?』


「まあ、なんというか。」
青い機体は淡々と応えた。
「大抵のやつは、今のような立場に置かれたら、命だけは~だの、チャンスをくれ~だのと、そんなふうに乞うもんだ。ところがお前はじっと座り込み、毒を吐き、処刑を目前にした捕虜としてはおかしな行動を取っている。」

「はっ!命乞いをしてどうなる?俺が逃げられないのはお互いよくわかっているだろうよ。」

言いつつ、手首を縛る鎖を見下ろした。暗い記憶がぽつぽつと湧き上がり、苦々しくつぶやいた。
「それに命乞いをしたところで、聞き入れる気のない相手には何を言っても無駄だって、ずっと昔に思い知った。だからやらない。」

「いつのことだ?」
相手は首を傾げた。

スタースクリームは拳を握り締め、オプティックを怒りにギラギラと輝かせて青いシーカーをまっすぐ見上げた。
「最後の控訴要求の返事を受け取ったときだ。」
苦々しく吐き捨てた。
冤罪を着せられたことや、上告に却下の文字をたたきつけられるだけでも辛かった。しかしあの文書に付随したメッセージを読んだとき──「お前を釈放することは被害者への侮辱になる」「いい加減無実のふりはやめろ」「議会を侮辱するのはやめろ」「死刑にならなかっただけありがたかったと思え」──目を通した直後のことは思い出せない。ただ、その後25日間を独房に幽閉されたことは確かだ。あの日から、すべてがどうでも良くなった。

お互いしばらく黙り込んだ。

「そうか。」
相手はそれだけ言った。低く、重々しい声で、笑顔も消え失せた。
「そいつは……たしかに、こたえるな。」

「で、お前は?俺がどうしようと、テメエには知ったこっちゃないだろ。オートボット兵の捕虜のことなんざ、ディセプティコンにとっちゃどうでもいいことだろうに。」

青いシーカーは目を逸らした。翼が少し緊張したように見えた。
「ただの好奇心かな。」
どこかをじっと見つめながら答えた。

「はっ、そうだろうよ。」
それだけ返した。もう話すこともないのだが、なぜか離れてくれない。

「信じないか?」
相手がまたこちらを無表情に見下ろした。

スタースクリームは首を振りながら見つめ返し、強い語調で言った。
「信じる義理もない。俺を罠にかけたのは他でもなく、テメエとそのトラインだ。それとテメエらのリーダーとの応酬も見ていただろうが。」
あの出来事が、自分のヴォスとのつながりにトドメを刺した。ずっと前からわかっていたが、やはりああして目の当たりにするとくるものがあった。

しかし、その返事が何かを響かせたらしい。相手は明らかに動揺した。

スタースクリームは無視して顔を下げた。
「さあ、満足したならさっさと行け。シーカーだろうがなんだろうが、ディセプティコン相手に話すことなんざ無ぇんだよ。」

「まだある。」

今度はスタースクリームが驚いて顔をあげた。また痛みが走ったが、必死に無視した。
青いシーカーの様子が変わった。表情は相変わらず読めないが、手は握り込まれ、翼は微かに震えていた。目を見ると、なんとも言い難い感情が読み取れた。何か言う前に、彼は語り始めた。

「お前は議会によって罪人にされ、何千年も幽閉された。その罪の真偽がどうあれ、さっきの話からしても、今も奴らのことは憎いはずだ。ならば何故だ?何故、奴らのために戦う?」
声は張り詰めていた。今度は、明らかに怒りが感じられた。
「あいつらはヴォスを潰そうとした。知っているだろう?」

突然の発露に困惑した。ついさっきまで、感情が読み取れないほど冷静で、感情があったとしても自身を律していたはず。自分もよくやるからわかる。だが何をきっかけに弾けたのかがわからない。それに対してどう返すべきかも。

だが彼の求めるものがスタースクリームの答えならば、それに応じるまでだ。
「俺がヴォスの襲撃事件を知ったのは、10年前に入隊した後のことだった。」
相手の様子を見ながら、少しずつこたえる。相手の赤いオプティックがギラギラと光り始めた。一歩間違えれば危険であると悟りつつ、続けた。
「議会の思惑を知って、俺も腹が立った。ヴォスは俺の生まれ故郷だ。楽しかった思い出もたくさんある。たとえ今となっては縁遠い地でも、話を聞いたときは怒りを抑えきれなかった。」

青いシーカーは唸り声をあげたが、何も言わなかった。


『腕の立つ医者を連れてきたことを願いますよ、隊長。スカイワープの言葉が正しければ、スタースクリームは自力で逃げられません。牢屋を出てすぐに出来事を事細かにダージに話していましたから。』

『具体的には?』

『要約すると、右翼大破、右腕破損、右半身全体が重傷です。』

『飛行もトランスフォームも不可能か。』

『はい。』


ゆっくりと息をついた。ここから先は特に慎重でなければならない。可能な限りで1番冷静な声で尋ねた。
「アンタ、事件当時にヴォスにいたのか?」

彼はぎこちなく頷き、震える声で言った。
「そうだ。多くの友を失くした。」

そう聞いて、ゆっくりと頷いた。
「そうか。聞いて悪かった。」
本心だ。あの遠征任務で、帰れるのが自分ひとりだと察したときの苦しみは今でもハッキリと覚えている。

今度は相手が鼻で笑った。
「本気かよ。」

どう返せばいいだろうか。地面を見つめて考えた。
奴はディセプティコン、敵兵だ。だから本当ならこんな会話自体を交わすべきでない。このことが知れれば裏切り行為ととられる恐れもある。ただ……始めたのはあちらの方だ。大きなリスクを負ってまで会話を続けているのは、彼の方なのだ。

仲間に見つかったらどうなるかわかっているだろうに。なぜこうも居座る?

再び相手を見上げた。まだ怒ってみえたが、じっと答えを待っている。改めて考えると、彼は一度もこちらを敵扱いしていない。1人で来て、誰も呼ばず、武器も向けず、圧倒的に有利な状況も利用してこない。むろん他の意図もありうるが、なぜかそうとは思えない。オートボットの計画のことも聞かなければ無闇な罵倒もなく、説得する様子もない。ただこちらの話を聞こうとしているのだ。彼が怒りを表したのは、スタースクリームが無礼な態度を取ってからだ。

罠かもしれないし、そうじゃないかもしれない。だがどちらでも良かった。どうせすぐに死ぬのだ、その後のことはどうにもできない。

目を閉じ、決意した。
青いシーカーの目をじっと見上げる。

「本心だ。」
迷いなく言った。相手も想定していなかったのか、動揺が見て取れた。
「アンタの気持ちはよくわかる。俺も大昔に友達を亡くしたから。アイツは行き詰まった俺にチャンスを与えて、誰よりも支えてくれた。お互い分け隔てなく口をきける間柄だった俺がバカな真似をしようとすれば、必ず止めてくれた。」
言いながら苦笑した。
「アイツを喪うことが、何よりも辛かった。」

──それからどれだけ酷い目に遭ってきても。

相手も多少なり圧倒されてか、何も返さなかった。そのまま声がしまるままに、言葉を終えた。
「敵だからと言って、同じ思いをしてほしいとは思わない。」


『他にはどうだ?動けそうか?』

『おそらく歩けはします……が、逃げきれないでしょう。』


2人はまた静かになった。やがて、青い機体がまた口を開いた。
「最初の質問に答えていない。」
まるで最初から怒りがなかったかのように声色から感情が消えた。
「何故だ。」

「先に俺の質問に答えろ。どうしてそうも知りたがる?」
スタースクリームは返した。自分も知りたかった。好奇心もあるが、知らねばならないと思ったからだ。

すると相手は半笑いした。
「大半は、さっき言ったように好奇心だ。お前は変わりもんだ。ヴォスを離れて戻らないシーカーなんてさ。議会の暴挙からして外で多くの差別にさらされただろうことは想像に難くない。そんな思いをしてなお、お前は故郷に戻らなかった。その結果、獄中に放りこまれた。なのに今はそいつらの側につき、そいつらのために戦っている。あまつさえ、見捨てるより守ることを選んだ。復讐に走らないでいらえることを疑問に思わない奴なんていないよ。」

「なるほどな。だが、俺の意図を知ったところで何も変わりはしないだろ。」

「そうだな、だが俺は知りたい。」
そこで、青いシーカーは眉を寄せた。
「もしかして、俺が仲間に共有することを気にしているのか?」

皮肉っぽい顔で返した。
「ま、疑いはしたな。」

大破していない方の翼に刻んだオートボットの印を見たあと、相手の翼のディセプティコンの印を見た。すると、彼は翼を固くして、腕を組み、しばらく考え込んだ。やがてスタースクリームに視線を戻すと、真剣な表情と声を向けた。
「スカイシャードの碑に誓おう。これから聞く話は、トラインにも、他の誰にも決して漏らさない。」

その言葉に、スタースクリームは目を丸くした。
原初のシーカー、スカイシャードの碑に誓うというのは、ヴォスに伝わる最も神聖な近いで、軽率に口にしてはならないとされる。スカイシャードは誇り高き存在として崇められ、その名に誓った言葉を破る者には厳しい処罰が待っているという。

こいつ……本気だ。
衝撃を隠せなかった。ともなって、あらゆる疑念は取り払われ、受諾の証としてこくりと頷いた。

明かす内容に、なるべく声の感情を抑えて訥々と語り始めた。
「……あの逮捕劇以降、監獄に閉じ込められた俺は孤独だった。あるのは飢え、暴力、侮辱、その他諸々の苦痛ばかりだった。2000年以上、あらゆる憎悪や怒りを募らせて、機会があるたびに俺を苦しめる連中に振りかざした。次第に俺はあそこに閉じ込められた経緯なんてどうでもよくなって、ただ攻撃をしてくる奴に報復するだけになった。」

「それでも、奴らのために戦うと。」

「違う。俺はオートボットのために戦うと決めたんだ。」

不思議そうな目を向けられたが、構わず続けた。

「ある日。俺は他の囚人らとともに厳重警戒棟の広間に連れて行かれた。そこでオプティマスプライムが、議会の命令でオートボットの入隊の提案をした。そうすれば、あらゆる罪は『恩赦』され、『自由』になると。」
続く記憶に、皮肉の笑みを浮かべた。
「積もりに積もった怒りが爆発したよ。その言葉を侮辱と捉えた俺は、公衆の面前で全力で怒鳴り散らした。すぐに独房にぶちこまれたが、直後にプライムが俺と個人的に話がしたいと言って呼び戻してきた。俺の怒りの理由を知りたいと。最初は処罰を受けると思った。受けたのは、まったく想定外の扱いだった。」

もう一度、彼に目を向けた。
「どうしてそうなったのかは今でもわからない。だが少し話をして、オプてtぃマスは俺以外の奴に部屋から出るように言った。そうして俺に向き直って、怒りの理由を教えてくれと言ってきたんだ。」
あのとき、オプティマスがスタースクリームの妨害を罰せず、真正面から話を聞くことを選んだことは、今でも不思議でならない。
「あの人は話を聞いてくれた。議会の判断でなく独断で、俺にチャンスを与えてくれたんだ。最初は断ろうと思ったが、それを曲げるに足る言葉をくれた。」
思い出に苦々しく首を振った。誰にも言ったことはないが、あそこまで付き合ってくれた相手は、スカイファイア以外ではオプティマスだけだ。

「そのときから俺のためにあらゆる危険を冒してくれた。だがその結果、俺は有り余る恩を受けた。あの牢獄で、職も、名誉も、自由も……名前までも失った。残されたのは友のくれた心のあり方だけだった。あの人のおかげで、多少の制限はあっても、ずっと焦がれていた少なからずの自由がある。俺のことを気にかけてくれるひと握りの友達がいる。たとえ多くの障害に囲まれても、まごうことのなく『居場所』があるんだ。
……もちろん、嫌いな奴は山ほどいる。それでも俺がオートボットとして戦い続けるのは、オプティマスプライムやひと握りの友らのためだ。都合がいいからってだけで誓いを破ったりしない。そんなことをしたら、アイツらに二度と顔向けできなくなる。」
そう、スカイファイアにも──。


『了解。他には?』

『情報は以上です。座標を送ります。』


青いシーカーは決してスタースクリームから目を逸らさなかった。
「ならお前は思想のためではなく、個のために戦うというのか。軍用機やシーカーの受けた差別のことなどはどうでもいいと?」

「どうでもよくはない。だが、自分たちを虐げてきたものを破壊して何になる?それに中立的な立場を保ってきたものまでも巻き込んでか?そんなのは、しょせん俺たちの価値が破壊行為にしかないと証明するだけだ。」

この返答に彼はピクリと反応した。この言葉をどう思ったのか、スタースクリームには知る由もない。目の光が明滅するのを見て、彼が誰かから信号を受信したのがわかったからだ。
彼はそっと顔を逸らし、無線越しに誰かと会話した。話が終わったのか、彼はスタースクリームに視線を戻した。

「同胞たちを集めたと、仲間からの連絡だ。20分後にはみんな来る。」
そういう彼の声は、まるで詫びるようだった。
「俺も行く。いろいろ話してくれてありがとう。」
青いシーカーは悲しそうに微笑み、そっとつぶやいた。
「お前はスカイシャードの誇りだ。」

スタースクリームは目を見開いた。
相手はゆっくりとゲートへ歩いていき、スタースクリームはその背中をじっと見送った。そして彼が入り口で立ち止まると、またこちらに顔を向けた。

「俺はサンダークラッカー。……マトリクスで再会できたときのためにな。」

サンダークラッカーは言った。スタースクリームも応じた。
「会えて光栄だ、サンダークラッカー。アンタに風の導きがあらんことを。」

微笑みを返すと、サンダークラッカーは去った。スタースクリームは再び地面に視線を落とし、来たる運命を待った。

不思議な気持ちだ。敵のシーカーと、ああも平和的に言葉を交わせたなんて。時と場合によっては良き友になれたかもしれない。だが、『時』も『場合』も、自分たちの運命にはなかった。

まもなく訪れる運命を、静かに、夢想しながら待った。

20分後、空から無数のエンジン音が響き、スタースクリームは顔を上げた。

時はきた。


『受信した。引き続き情報共有を頼む。』

『了解。』


突き刺さるような視線、席に陳列するシーカーたちの囁きや罵倒。スタースクリームはただ空を見上げ、極力何も考えないようにした。

背後のメインゲートから緑灰のシーカーが入場した。その右にはサンダークラッカー、左にはスカイワープを伴っている。ストームレーザーは冷笑を浮かべ、スカイワープはニヤニヤと笑い、サンダークラッカーはただ無表情だった。ストームレーザーの腰には円柱状の装置がぶら下がっている。

進む途中、緑の手が上がると、背後の2機は立ち止まった。ストームレーザーはスタースクリームの座る位置へ近づき、腰に下げた機器を手にとって作動すると、電撃鞭を展開した。あと数歩進めば触れられる位置まで近づくと、示し合わせたように全てのシーカーが静まり返った。

ストームレーザーが高らかに語り出す。

「ヴォスのシーカーよ!今宵、ついに我が種族の裏切り者を手中におさめることができた!」

観客らが一斉に喝采する。

「このシーカーは同胞に武器を向けた!新たなる時代を築かんとする我らが主君を侮辱した!」
再び喝采があがり、今度は怒号も伴った。スタースクリームは反応しないようにした。

「ヴォスを裏切り、主君を侮辱したこの愚か者に与えるものは何か!」

「死を!!!」

ストームレーザーの問いに、観客らが一斉に唱えた。

「最期に言いたいことは?」
ストームレーザーはスタースクリームの真後ろに立ち、ささやいた。さぞかしこの瞬間を待ち侘びたおとだろう。

思わずほくそ笑んだ。
なら、お望み通りにしてやるか。

スタースクリームはすっと顔を向けると、めいっぱいの甘ったるい声で答えた。
「くたばれ、ざぁこ。」

背後のスカイワープが怒りをあらわにした。サンダークラッカーはいつもの仏頂面だが、目は感心したように光った。観客らは怒りにさらに湧き上がった。

当のストームレーザーは怒りに鞭を握りしめたが、数秒使って落ち着きを取り戻すと、鞭を振り上げた。
「この瞬間をずっと待っていたんだ。」

「知るか。」

次の瞬間、鞭が振り下ろされた。


『早急に向かう。準備をしろ。通信終了。』

『通信終了。』


←13話 目次 15話→