megadoomingir氏作/StopMe/01

Last-modified: 2020-06-19 (金) 19:59:35

原文:https://www.fanfiction.net/s/12271253/1/Stop-Me
Ch. 1



ここで終わるのか?苦痛に冒される思考でそう考えずにはいられなかった。

2体の小柄なプレダコンに体を引き裂かれ、スタースクリームは絶叫した。一方でプレダキングは、自分よりも小さなジェットロンが多量のエネルゴンを噴き出す様をただ黙って眺めていた。

「おねがい、します、」
スタースクリームは懇願した──
「なんでもします、」
喉奥からせり上がるエネルゴンを吐き出し、
「メガトロンさまの、下でも、俺は貴重な戦力だったから、」
苦痛に喘ぎながらも、必死に泣きついた。
「きっと、あなた様にも、プレダキング様、おれは、良きしもべとして、」

その言葉にスタースクリームは鼻で笑って返した。
「貴様の忠誠が何になる?貴様の命乞いなど聞き入れる価値があろうものか、害虫めが!」

巨大なプレダコンの足がスタースクリームの機体を強かに踏みつけ、力無い悲鳴が上がった。

「貴様の悪逆、空言、欺瞞の数々、もはや知らぬ者なし。そしてその最期に至るまで貴様は自己保身に尽くす痴れ者にすぎんのだ!」

プレダキングは足元の鳥に力を誇示するがごとく、大翼を広げてはためかせた。
「余が求めるのは単純至極、真なる忠誠を誓えるもの、慈悲を与えられた時にそうであると理解する能を持つものよ、」
巨体を鳥に寄せると、吐き捨てた。
「貴様は十分すぎるほどの慈悲を受けてきた。この俺がその哀れな輪廻に終止符を打ってやろう。」

大きな鉤爪が掲げられ、五体を引き裂かれたジェットロンの胸部に振り下ろされた。爪はスパークチャンバーに沈み、スタースクリームのオプティックは恐怖と激痛に見開かれたが、そこから視線を逸らすことは叶わなかった。

「これが我が慈悲であるぞ、スタースクリーム。」
怪物が低い声で言った。
「これで二度と、誰かを……己すらも、苦しめることはないのだから。」

爪を引き抜かれると共に、スタースクリームは細く排気した。頭上では色とりどりのスパークが飛び交い、エネルギーの激流を生んでいた。それが自分の見る最期の光景であると思ったら、ほんの少しだけ気持ちが楽になった。しかし、迫り上がるのは後悔ばかりだった。不公平だ、あまりにもひどい、でも誰のせいでこんなひどい人生になったのだろう?オプティマスか?メガトロンか?オートボット、ディセプティコン、プレダコン、MECH──あるいは、自分自身か?いっそこんなスパークの存在を輩出したプライマスそのものを恨めばいいかもしれない。

スタースクリームのオプティックが消灯すると、プレダキングは嗤った。最期にひとつ吸気をして、残されたものは屍だった。ダークスチールとスカイリンクスは己が王の指示を待っていた。突然彼らの耳にパチンと何かが弾けるような音がしたのはその瞬間だった。

プレダキングは困惑に下がりながら変形し、亡骸が震える様子に対して嘴を鳴らし唸った。王の嗅覚は確かに死の臭いを拾っていた。蘇るはずがない、死者は死んだままであるべきだ。しかし死んだと思しき機体はまたわずかに動き、胸部からは光が漏れ始めた。

周囲に炎が巻き始めて、王は飛び退いて吼えた。なにが起こっているのかわからなかった。死なんとする者がどうなるかは見たことがあるが、こんなものは初めてだった。スタースクリームの胸から漏れる光は次第に装甲を焼くほどに輝き、ついには噴き出した。解き放たれたスパークは、当て所もなくその場を彷徨いうろついた。

プレダコンらは唸った。これはスタースクリームなのか、まだスタースクリームと呼べるものなのか?考える余地などなく、プレダキングは揺蕩うスパークを丸呑みせんと飛び掛かったがすぐに玉座の後ろに逃げ込まれた。少なくとも、襲われていると認識するだけの知性はあるようだ。ダークスチールとスカイリンクスも王に続くように光の球を追いかけ、叩き落としたり、噛み付いたりしようとした。

次第にプレダキングは苛立ち、深く吸気すると、その小さな光球に灼熱の炎を吐きかけた。辛うじて炎を躱した光球のあとを残火が追うと、途端にそれは震え、発作のように明滅し、表面に電流が弾けた。その光景に怪物らは困惑しながらも、ゆっくり近づいた。

光球は、頭上に飛び交う自分とよく似た光たちの存在に気づいたようだった。その後を追うように、共に続こうと舞い上がろうとした──しかし、それは叶わなかった。また明滅の発作を起こしてダークマウントの玉座へと引きずり戻されたのだ。

プレダキングはこの機会を見逃さなかった。大きく口を開いて勢い良く飛び上がり、光球を喰わらんとした。光球はまた潮流に混じろうと宙を滑ったが、そのまま円台の端へと飛び出してしまった。

プレダコンらは低く唸り声をあげつつも、その後を追おうとはしなかった。どうせ還る器がなければやがて勝手に消滅するだろう。代わりに床に放り出された死体へと近づいた。結局そちらの方が、遊び甲斐があった。



小さな光球はずっと落ちていった。パリパリと輝く金色の電流がときおり走った。どうにか落下を止めて飛び上がろうと悶えていたが、やがて別の外力に引き寄せられていった。明らかに嫌な予感のする力に対して光は震えた。自分の意思ではないのは確かだった。何よりもそれは自分を、下へ下へと引き摺り込んでいった。

青い光がスパークを包み、突然世界はまるごとサイバトロン星ではなくなった。

どこか見覚えのある光景だと思った。

『まるでグラウンドブリッジだ。』
落ちながらしてそう考えた。

否、そもそも本当に落ちているのだろうか?逆に浮き上がっているのかもしれないが、もはや確かめようはなかった。この奇妙な青いグラウンドブリッジは、各所に色鮮やかな輝きを生んでははじけた。それらの輝きから感情のようなものが漏れ出ては、スパークに色彩を与えた。大きさは大小様々で、白く眩い光が彩を変えながら纏わりつくのが好きだった。中にはあまり好ましくない輝きもあり、それを浴びると恐怖や、怒りや、不安が迫り上がった。

それらを過ぎていくと、やがてどこかから声が聞こえてきた。

「……教えてください。」
涙まじりの声が、静かに言った。
「あなたの話なんてどうでもいい。ただ、せめて、せめて彼が生き延びるかどうかだけでも……」

「なんとも言い難いですな。」
低い声が答えた。
「こんなのは初めてで──」

叩きつけるような音が声を遮り、また第三者の声が叫んだ。
「黙れ、ふざけたことを抜かすな!お前が答えられないなら、答えられるやつをよこせ!ああプライマス、誰も教えてくれやしないんだ、どうせこのままじゃこいつも…!」

声は遠のいたが、その時、またひとつ小さな声がした。
「どうしたものかな……」

それは、遠い遠い昔の出来事だった。それだけは理解できた。そして、彼らが何について話していたのかは、とても大事なことだと感じられた。しかし誰に向けて話していたのだろう?スパークは名前、姿、とにかく何でもいいから、思い出そうとした。残念ながら思い出せるものはもう……

『なんもないや。』
それだけだった。

思い出すには、時間が必要なのだ。

スパークは次第に速度をあげ、突然またあの鼓動を感じるとピタリと止まった。全身がパリパリと放電し、そして色彩に満ちたところで大きく弾けるような感覚がした。このグラウンドブリッジのような場所に、染みのような深い暗紫色があった。やがて色が滲むと、痛みにも似た感覚に震えた。ひどく不快で、不自然な感覚が満ちた。やがて鎮まってくれると思ったが染みはさらに広がり、青色に光る構造を包み込んだかと思うと、すべては崩壊した。

あの暗紫色はあってはらなかった、小さなスパークはそれだけ理解できた。入ってくるべきでなかった。しかし、彼にはそれだけの強さがなかった。どうすれば自由になれるのかがわからなかったのだ。

『決めた』

その言葉がスパークに波のように広がり、同時にあらゆるものを思い出させた。ついに全てを思い出した。生まれた日のこと。学校に行ったこと。初めての飛行。口論、戦い、恐怖、虐殺、激痛、苦悩──こんなの、望んでいなかった!

ヒュッ、と細く吸気し、スパークは跳ね上がった縮こまった。痛い──体のあちこちが痛かった。声がした。空に輝く恒星があった。これは太陽だ。足元に砂利や土の硬い感覚があった。空気は暑く乾燥していた。全てが眩しかった。嗅覚センサーはボロボロの金属の匂いを探知した。

何が壊れているのだろう?自分が?俺は生きているのかな?でも本当に生きている?生きていたかった?

ああ、もし生きているならプレダコンどもはきっとそう遠くないだろう。でもどうやって逃げ出したのだろう?……そもそも、逃げられたのか?

『疑問だらけじゃねえか、』
我ながら思った。
『臨死体験にしちゃあんまりだ。』

じっとした。聞こえてくる声が次第に明瞭になった。低く響く命令口調だったが、理解するにはあまりにも思考がぼやけていた。

『まいっか、』
彼はそう考えた。
『じっとしてればどうせ止むだろうよ──』

「スタースクリーム!」
突然、妙に聞き覚えのある声がした。
「今すぐ立ち去れ!」

スタースクリーム?立ち去れ?

その瞬間、自分が二足で立っていることに気がついた。ついでに自分がスタースクリームであることも思い出した。

『えーっと、確かにスタースクリームは俺様だよな。』
そう思った。
「けど、立ち去れって、どーゆーこと?』

スタースクリームは、ゆっくりとオプティックを灯した。腕は前に突き出され、ミサイルの発射準備は万端だった。しかしその腕は傷だらけだった。視界にはまだ霞がかっていたが、どうにか周囲を見回すことはできた。
その瞬間、戦慄のあまり吐き気すら覚えた。

オプティマスプライム。それだけじゃない──バルクヘッド、バンブルビー、ラチェットが、その背後に構えていた。

知っている。怖いぐらいに、見覚えがある。

スタースクリームは恐怖のあまりに腕をおろし、今の自分の機体を確かめた。治りかけの擦傷、痣、裂傷、切傷、とにかく考えうる負傷が全身を覆っていた。地球にいた頃、メガトロンの手でつけられた傷の数々だ。

機体を震わせる中、胸のスパークチャンバーに突き刺した異物の存在を思い出して細く浅い呼吸を繰り返した。ダークエネルゴンの欠片──図々しくもそこに居座るそれを震える腕で引っこ抜き、地面に投げ捨てた。

オートボットは各々の表情に困惑を浮かべ、目前の光景をじっと見つめた。スタースクリームはゆっくりと背後のスカイクエイクの埋葬された地点へ振り返った。

光が漏れていた。
アレが『有る』のだ。
ヤツが『居る』のだ。

地盤が揺れ始め、足元でスカイクエイクが動き出しているのだとわかり、震える脚を踏み締めるのが辛くなってきた。
「こ、こんなこと、ありえねぇよ……」
喘ぐように呟いた。
「こんなこと現実なわけがない!」

オートボットらに視線を戻した。唯一、オプティマスだけがブラスターを腕に戻していた。
「ちがう、これは……」
そんな彼に、まるで責めるように指を突き出した。
「こんなはずじゃなかっただろ──!」

オプティマスはスタースクリームの表情の恐怖や困惑を悟ったようだった。
「スタースクリーム、私は君に……」

「黙れ!」
もはや絶叫に変わらぬ声で言い放ち、よろよろと下がった。
「こんなのありえねえ!こんなこと起こっちゃいけねえ、こんな風にはならなかったのに!」

オプティックを冷却水でいっぱいにして、スカイクエイクの墓場の奥の谷間へと引き下がった。胸が恐怖でいっぱいだった。彼の記憶ではこんなことは起こらなかった。今頃ならオプティマスに腕を撃ち落とされているのに、かのプライムはスタースクリームがミサイルを下げたと見てブラスターをしまってしまったのだ。残りのオートボットらもただ見つめ、待っているだけだった。記憶にあったように追いかけてはこなかった。

頭をきつく抱え、胸の中でスパークが恐怖に揺らいで痺れるのを感じた。オートボットらも引き下がり、オプティマスだけが前に出ていた。

「バルクヘッド、何してんの!」
遠くから小さな子供の声がした。
「思いっきりブチのめしちゃえー!」

確かミコという人間の少女の声だった。そしてここからどうなるかを思い出した。全て思い出した。日時も、場所も、オートボットも、ディセプティコンも、全部。

「おいおい、嘘だろ……」
思わず声に出してしまった。
「過去に戻っちまったんだ!」