megadoomingir氏作/StopMe/02

Last-modified: 2020-07-19 (日) 18:14:44

原文
Ch. 2



過去に戻ってきた。しかし、どうやって?考えれば考えるほどスパークと頭が痛くなった。いっそ気づかないままだったらどれだけ楽だったか。しかしここが過去ならば、未来に影響を与えられるのではないか?いい考えだと思ったのはほんの一瞬だった。自分を過去に戻したものの意図次第では、未来を、果てにはスタースクリーム自身を消し去ってしまうかもしれないのだ。

オプティマスが慎重に近寄ってくると、スタースクリームは頭を抱えたまま膝について叫んだ。

「いやだ!こんなん繰り返してたまるか!」

プライムの腕が震えるジェットロンに伸びたその時、スカイクエイクの腕が地面を突き破った。スタースクリームはオプティックを見開き、叫びかけた口を手で押さえた。声を上げればあの巨大なテラーコンに気づかれるかもしれない。オートボットの背後ではグラウンドブリッジが展開し、小さな人間の子供たちを照らして中へと誘った。ああ、確かにこのグラウンドブリッジは前回も開いたが、もう少し早かったし、スタースクリームも同時に呼び出していたのだ。だとしたらすでに未来はめちゃくちゃだった。

スカイクエイクはオートボットの背後で輝くグラウンドブリッジの光を見つめ、咆哮してそちらへ向かった。オプティマスは再び腕をブラスターに切り替えて撃ち、スカイクエイクの朽ち掛けの腕を見事に吹き飛ばした。一方でテラーコン本体は特に気にするでもなく、そのまま近くのプライムに掴みかかった。

スタースクリームはその光景を眺め、本来の展開を思い返そうとした。今頃はネメシスに帰還して2度まで(オプティマスに撃ち落とされたことと、グラウンドブリッジを渡る時で2回だ)腕を失くしたことに気づいてる頃だ。だからいまだにこの峡谷にいるのはすでに異常事態なのだ。

金属の激しい衝突音がスタースクリームを現実に呼び戻した。オートボットが全員で遠距離からスカイクエイクに攻撃を加えていた。接近するにはダークエネルゴンの効果が危険すぎるのだが、やはり命中しても大してダメージを与えられた様子がなかった。バルクヘッドとオプティマスはブラスターを近接武器に切り替え、バンブルビーが引き続き射撃で牽制する中で飛び込んだ。

ラチェットも同様に、ブレードを展開して乱戦に飛び込もうとしたとき、何かがその背中に飛びかかった。スカイクエイクの脱落した腕がしがみつき、彼の機体を切り裂き始めたのだ。即座にバンブルビーが気付いて声を上げたが、仲間に駆け寄ろうとしたその時にスカイクエイクの巨体が叩きつけられ、気を失ったのかそのまま地面に転がった。

ラチェットはしがみつく腕を引き離そうと抵抗したが、鋭い爪先が彼の胸に沈み込み、喉元を握り締めた。

スタースクリームはその光景をただただ眺めていた──こんな光景は知らない。こうなるはずではなかった。本来の出来事ははっきりと覚えている。元軍事基地を改装したオートボット拠点を破壊して(この時間軸では遠い未来の話だが)サウンドウェーブがオートボットのデータベースを確認した時だった。それによれば人間の子供達が「シャドウゾーン」と称される並行次元に閉じ込められ、今頃スカイクエイクもそこに閉じ込められて彼らを追い回しているはずだった。しかしスタースクリームが腕を負傷しなかったため、2つ目のグラウンドブリッジを要請することはなく、それによってもたらされるはずだったシャドウゾーンへの道も生まれなかったのだ。

首を絞められるごとにラチェットが苦しげに喘いだ。腕だけであるにも関わらずその力は凄まじく、鋭い爪が装甲に沈み込んで離れなかった。ともすればそのまま首が断ち切れてしまう可能性だってあった。青いオプティックの光が暗くなりつつあったその時、音がして、首を締める力が突然消えた。

スタースクリームはラチェットを襲う腕を引き剥がし、できるだけ空高く投げ飛ばした。そして即座にブラスターを展開し、空中の腕を粉々に撃ち抜いた。轟音と光に反応してスカイクエイクは低く呻き、荒々しく排気しながら睨み返す小柄なジェットロンを見とめた。

スタースクリームも、自分の行動に驚いていた。だがラチェットが死ねば、本来起こるべき多くの出来事が無かった事になると知っていた──特に合成エネルゴンの生成と、その影響でやったメガトロンへの襲撃は、単に可笑しい話なだけでなく今後の展開で何よりも重要なイベントだった。最悪の状況下、彼の存在は必要不可欠なのだ。結果、スタースクリームは既にやらかしてしまった展開の中で少なくとも彼の死という事故は回避した。そう思考しながらも、ブラスターを腕に戻して残るミサイルをスカイクエイクにまっすぐ向けることは忘れなかった。

「もう十分メチャクチャだ、」
迫りくる巨体に唸るようにして発した。
「それでも、てめえはとっくに死んでるべきなんだよ!!」

まるで銀色の傷に反射する光に誘引されるように、巨大なテラーコンがまた低く呻いてまっすぐ迫ってきた。近づいてくる怪物の姿に恐怖すら感じたが、それでも腕1本欠けていることで行動の予測はしやすかった。スカイクエイクは勢いよく迫ると、残る腕を目前のジェットロンに振り下ろしたが、容易く避けられた。その隙を突いて、スタースクリームは爪で相手の指を引き裂いた。続いてバルクヘッドがレッキングボールでスカイクエイクを峡谷の壁へと叩き込み、その隙にオプティマスはブレードを構えてスタースクリームの横に駆け寄った。

「スタースクリーム。奴は何がなんでも破壊しなくてはならない。」
大いなるプライムが隣のジェットロンを真っ直ぐ見つめて告げた。

スタースクリームの顔に困惑が浮かんだ。正直もう勘弁してほしかった。いっそ全部ここをオートボットに投げてしまっても良いはずだ。しかし他にやらかしたことがあったとしたら?そうしたらどうなる?

それは知らなければならない。そして今、余計なことを口走らないと信用できる唯一の存在がさっき救助した軍医なのだ。このめちゃくちゃな状況に対して相談するとしたら、彼しかいなかった。

「正直、自分でもこんなことを頼むだなんて信じられねえけどよ……あのデカブツへの攻撃を続けろ、さっさと終わらせるぞ。」
「わかった、援護する。」

(……俺、今、オートボットと共同戦線組んだ?組んだ。まじでか。でも、もう後戻りはできないよな。)

スタースクリームは思考を振り切り、スカイクエイクの手首を関節から引き裂いた。すぐ後ろからプライムが来て、同じく目前のテラーコンの腕を肘から断ち切り、続けて肩を貫いた。怪物はよろめきながらもスタースクリームへ突進し、地面へと叩きつけた。衝撃で身体中の傷が開いてエネルゴンが噴き出るのがわかった──こんなことならいっそ全部オートボットに投げてしまうべきだったかもしれない。

しかしすぐそばにはオプティマスがいた。そしてスカイクエイクを引き剥がすと、スタースクリームを庇うように立ち塞がった。

「スタースクリーム、」
精悍なオプティックをテラーコンから離すことなく言った。
「奴の頭部を切り離し、スパークチャンバーを破壊すれば、仕留めることができるかもしれない。」

後ろのジェットロンは立ち上がりながらも頷いた。今から紡ぐ言葉についても深く考えたくなかった。
「わ、かった。やってみよう。俺が先攻するから、奴を確実に仕留めるよう援護してくれ。」

オプティマスはスタースクリームを見つめて頷いた。
「任せてくれ。」

突撃する時、翼が少し疼くように感じた。既にボロボロで蠢くテラーコンをしっかりと睨め付け、その腕が届く直前に機体を捻って紫色に光る首へと腕を回した。勢いのままにスカイクエイクの背中にしがみつくと巨体は前のめりになったが、それでも咆哮しながら体を激しく揺らした。振り回されながらスタースクリームは己の愚行への後悔に歯を食いしばった。こんな面倒ごとに巻き込まれるなんて御免だというのに。

暴れる巨体の首を締める腕に力を込めた。すると赤い装甲が力強い咆哮と共に迫ってきた。オプティマスのブレードがスカイクエイクの胸部を深々と抉り、スパークチャンバーを貫くと、その衝撃にスタースクリームも思わず声を上げた。

腕の中の機体が激しく痙攣を始めた瞬間、スタースクリームはスカイクエイクの頸部を我武者羅に引きちぎった。もはやズタズタに切り裂かれたスカイクエイクの機体はついに断末魔をあげると、憎悪に満ちた紫色のオプティックが点滅してやがて消えた。巨体が大地に崩れ落ちる直前にスタースクリームは飛び退き、完全に無力化したと確認すると腕についた体液を振り落とした。

「スタースクリーム。」

名を呼ばれ、思わず体が跳ね上がった。しかし黙って首を振った──手助けはこれで終わりだ。もう奴と話すことなんてない。しかしラチェットのことを助けた以上は、彼に今の状況に関する推理と相談くらいはしてもいいかもしれない。

オプティマスは腕を伸ばし、肩の装甲にそっと触れた。
「スタースクリーム、話があるのだが……」

「やめろ!」
慌てて離れる時に、思わず声が上擦った。ひとつ咳払いして、どうにか自分を落ち着かせた。
「そ、その。話をするならラチェットだけだ。」

プライムは引き続き声をかけてきた。
「スタースクリーム──」

「ラチェットだ、」
強い口調で言い放った。
「他は認めねえ。俺が飛び立つ前によく考えとくんだな。」

これはブラフだ。全身の傷が開いて、まともにトランスフォームできるかすら怪しかった。それでもオプティマスに持ちかける条件としては最適で、ひとまず無闇に追いかけられたりする心配はなかった。

少し間を置いて、プライムはうなずいた。
「ラチェットと相談してみよう。」

スタースクリームは、目前の赤い機体が仲間達のもとへ戻るのをじっと見つめていた。その間、なるべく翼を高く立てながら腕を組んで待つことにした。自身の持つ科学知識と、過去に見た人間達の映画で学んだことは大きかった──過去への干渉は危険で、多くの場合は破滅的な結果をもたらす。今はただ、それがどのくらい影響するかを知らねばならなかった。