手錠ストーリーズ 異世界転生編 13話
朝早くの拠点・・・
騎士団の休日も終わったことで久々にメンバーが揃っていた。
事情を説明し、騎士団と一緒に仕事をすることとなったチルルが自己紹介をする。
チルル「と、いうわけでしばらくお世話になりまっす。よろしくお願いします!」
ミント「こちらこそよろしくお願いします」
マグ「今年に入ってから一気に団員が増えましたなぁ」
ブレイド「(うむ)」
・・・
初仕事としてキュアとアクアと一緒に薬草取りに行ったチルルを見送った他の騎士団員たち・・・
その後、ブレイド、ファング組とマグ、陸組に別れてそれぞれの仕事に向かう・・・
マグと陸の仕事は足りない物資の補充と余った各種素材の売却であった。
これから大量の素材が手に入る見込みとして倉庫を開けようとしていた。
売却用の素材を探して倉庫内を整理している2人。
その最中、お互いの休み中にあったことを話し合っている。
マグ「ほうほう。このマグめもリク殿の活躍を目に焼き付けておきたかったですぞ」
陸「ところでマグさん。実はその戦いのときに気になることが・・・」
マグ「何ですかな?」
陸「その時の相手が時期八大真貴族候補と名乗っていたのですが・・・ご存じですか?」
マグ「ふぅむ? このマグめも初めて聞きますな」
・・・
近くの村へとやってきたマグと陸。
かつて出会った料理人のマトや一緒にいた元ゴロツキのキャロと再会する。
キャロは今はすっかり更生してマトの弟子をしている。
マト「よく来なすったですじゃ。どうぞ、色々見ていってくださいですじゃ」
マグ「今日はお世話になりますぞ。では、先にこれを・・・」
森の民が作ったお茶をマトに渡すマグ・・・
・・・
村を回って集めてきた素材をお金や他の素材と交換してもらい、必要なものを順調に手に入れていき、そろそろ帰ろうとする頃・・・。
マト「お土産にこれをどうぞですじゃ。皆様でお食べですじゃ」
マトが作った料理を受け取る陸。
陸「ありがとうございます」
マグ「またお世話になりますぞ」
キャロ「あっ。そういえば」
マグ「どうかしましたかな?」
キャロ「はい。実は最近村の近くで怪しい商人がいて・・・」
・・・
村と拠点を繋ぐ道。
キャロから怪しい商人についての話を聞いた陸とマグ。
その商人と話していると、本人も知らぬ内に役に立たない高額商品を買わされてしまい、村でも問題になっていた。
陸「気になりますね」
マグ「そうですな」
オルドデミーラの一件もあり、警戒する2人・・・
その2人の様子を虎視眈々と眺めている視線が1つ・・・
視線の主「獲物みーっけ。ご主人様いきますよー」
視線が高くなり、2人に駆け寄っていく・・・
視線の主「はーい。そこのお二方ー」
視線の主は髪の中から家猫の耳が飛び出たような外見をした肩を出した服とミニスカートを着た小柄な人間族のような姿をしていた。
大き目なリュックを背負い、腰にいくつかポーチをつけている。
これまた初めて見ると思わしき種族に注目する陸。
陸「おや? どちら様?」
視線の主「はーい。あたしは行商人キャティ。種族は猫の人獣族でーす」
マグ「ほうほう」
きゃてぃの種族名を聞いて思わずつぶやく陸。
陸「ファング君と同種族?」
マグ「獣人族と人獣族は別ですぞー」
陸「あっ。そうですね。すみませんファング君」
2人のやり取りを真顔で見ていたキャティ。
キャティ「お二方って旅芸人かにゃにかですか?」
陸「あっ。いえ、そんなわけでは・・・」
マグ「ところでキャティ殿は我々に何かご用でも?」
キャティ「あっ、そうそう」
ポーチの1つから変な人形らしき物を取り出し、自然に陸の腕を組みながらそれを見せる。
手と足が猫じゃらしになっており、雑に作られたのか、全身が歪んでいる。
マグ「おおう?」
陸「・・・これは?」
あまりの出来の悪さに反応に困るマグと陸。
キャティ「おすすめ商品ですよー。お子様に大人気! 一緒にお昼寝券の大サービス付き1000でどうです?」
上目遣いでじっと陸を見るキャティ。
陸「はぁ・・・」
陸の反応を見て表情が変わるキャティ。
キャティ「あり?」
マグの方にもぬいぐるみを見せる。
キャティ「どうです?」
マグ「?」
キャティ「じゃ、じゃあ」
慌てて腕を組むのをやめて膝をついてリュックを下ろし、中から何かを取り出す。
取り出したのは絵画らしき何か。
クレヨンで書いたふてぶてしい猫が寝転んでいる絵だった。
それをまた上目づかいでじっと見ながら見せてみる。
キャティ「これから有名になる著名な画家様の絵画! 25000! 当然、一緒にお食事券の大サービス付き!」
なんとも微妙と言わんばかりの反応を示す陸とマグ。
陸「はぁ・・・」
キャティ「にゃ、にゃんですか! その反応は! 失礼ですよ!」
マグ「? 最近の画家の絵は難解なのですな?」
陸「マグさん、マグさん。落ち着いて」
キャティ「じゃ、じゃあ・・・」
悔しそうに絵画を雑に置いた後、もう1つのポーチから何かを取り出すキャティ。
取り出したのはどす黒い色をした小さな猫の置物。
何故か真ん中の爪を上に向けて、獲物を目の前にしたかのごとき血走った目に凶悪な歯がのぞくにやけ面をしている。
キャティ「一番の人気商品! 無病息災! 家内安全! 商売繁盛! えーっとそれからそれから! とにかく何でもありの幸運の招き猫! お値段50000! やっぱり一日膝枕券の大サービス付き! これでどーだー!」
招き猫の目とは対照的と言わんばかりにじっと陸とマグを見ているキャティ。
陸「はぁぁぁぁぁぁ・・・」
露骨にため息をつく陸。
それを見て恐怖を感じるキャティ。
キャティ「にゃ、にゃ、にゃ・・・」
マグ「地の底まで引っ張られそうな顔ですな・・・恐ろしい・・・」
キャティ「にゃんと!」
陸「マグさん。もう行きましょう」
マグ「そうですな・・・」
その場から立ち去ろうとする2人に泣き出しそうになりながら追いすがるキャティ。
陸のズボンを掴む。
キャティ「お、お待ちを! にゃんでもしますので! あっ! そうだ! 永住お世話券を・・・ん?」
陸がキャティの手に触れると何かが閉まる音がする
ふと、自分の手首を見るキャティ。
両手には手錠の輪がかかり、鎖で繋がれていた。
キャティ「にゃにゃにゃんなのー!? これー!?」
村で聞いた怪しい商人の正体がキャティだと確信してのことであった。
鎖を掴む陸。
陸「さて。村に行きましょうか。いろいろと話してもらいたいことが」
身に覚えばかりで全力で目をそらすキャティ。
キャティ「にゃにゃにゃにゃんのことですかー?」
招き猫「ぐずめ・・・」
マグ「ん?」
マグが視線を向けると先ほどの招き猫がどんどん巨大化し、陸の2倍ほどにまで大きくなった招き猫が立っていた。
招き猫の殺気に気づいて足を止め、振り向く陸とキャティ。
キャティ「え? え? えー! にゃにあれー!?」
目線を下に向ける招き猫。
招き猫「役立たずめが・・・もうよいわ・・・」
陸「マグさん、あれは・・・?」
マグ「あ、あれは伝説の封印されし悪獣ですぞ!」
陸「悪獣?」
マグ「いうなれば悪い心の集合体ですぞ! 放っておけば必ずや人々に不幸が押し寄せますぞ!」
キャティ「あっ! もしかしてご主人さ」
片腕を振り上げた後、伸びた爪でキャティを切り裂こうとする。
キャティ「まー!?」
陸「危ない!」
キャティに飛びかかり、爪を回避する。
招き猫「ザコめ・・・ぬっ!」
招き猫の額の間に炎が炸裂する。
マグ「こちらを先に相手してもらいませんかな!」
陸に抱き着くキャティ。
キャティ「あ、ありがとうございますー!」
急ぎ、引き離す陸。
陸「キャティさん。危ないからいったん離れて」
またも陸に抱き着くキャティ。
陸「あの。何か?」
キャティ「す、すみませーん! 足が・・・足がぁ・・・」
陸「ありゃ」
攻撃を続けるマグに距離を詰める招き猫。
招き猫「馬鹿め! この封印が逆に鎧となっておるわ!」
マグ「むぅ!」
陸「仕方ない! キャティさん!」
キャティ「にゃにを・・・」
キャティを連れたまま、招き猫へと駆け寄る陸。
攻撃を受けながらも爪を振り上げる招き猫。
しかし、下半身にわずかな衝撃を感じ、動きを止めて、足元を見る。
陸のこぶしが炸裂していた。
招き猫「ゴミがいくら集まったところで結果は同じだ!」
真上に飛び上がる招き猫。
キャティ「にゃー!」
陸「キャティさん!」
いったんその場から離れる陸とマグ。
そのまま招き猫が着地して周囲を揺らす。
招き猫「我が力に絶望せよ! 矮小なる生命どもよ!」
招き猫の発言から何かを察する陸とマグ。
マグ「こやつは手ごわいですぞぉ」
招き猫「小癪な! どちらのゴミから片付けてやろうものか!」
招き猫の着地攻撃で晒した隙のわずかな時間で策を練っている間にある可能性を思いつきキャティを見る陸。
陸「そういえばキャティさん、集めたお金は!?」
キャティ「え? あ、はいぃ! ご主人様のお体の中にー」
陸「そうか! キャティさん、少し離れていただけますね」
キャティに七星心拳を当てる陸。
キャティ「にゃにをー?」
キャティが離れ、急ぎ体制を整えた直後の招き猫へ一気に距離を詰める陸。
招き猫「何をやろうが無駄だ!」
陸「いや。お前の弱点はもう見破った。さぁ、返していただこうか」
招き猫「か、返す!? な、何をだ!?」
招き猫の反応を見て自身の思いついた可能性の確証を得た笑みを浮かべる。
その直後、招き猫の後頭部から紙幣や硬貨が飛び出していく。
招き猫「ぐ、ぐわぁぁぁぁぁ! わ、わしの、わしの金がぁぁぁぁぁ! にゃぁぁぁぁぁん!」
飛び出た紙幣や硬貨を回収しようと乱暴に爪を振り回す。
その間にも次々とお金が飛び出していく。
その隙に陸の元に駆け寄るマグ。
マグ「リク殿! いったい何が?」
陸「はい。おそらくですが奴の正体はどんな手を使ってでも金を得る心、すなわち、汚い手で得たお金こそが奴の力の源だったんです」
マグ「ほう! では、リク殿は先ほどの一撃で奴がだまし取ったお金を返すよう、仕向けたわけですな」
陸「はい」
招き猫「お、おのれぇぇぇぇぇ!」
暴れまわる招き猫を見る陸とマグ。
マグ「しかし・・・飛び出た分だけ、また回収されてはいつ終わるかわかりませんな・・・」
陸「あっ」
一瞬考えこむ陸とマグ。
マグ「困りましたな・・・人様のお金を燃やすわけにも」
陸「まさか自力で回収できるとは・・・甘かったです・・・」
飛び出すお金を見過ぎてヤケを起こし、マグと陸を血走った目で睨みつける招き猫。
招き猫「貴様らぁぁぁぁぁ! ふざけているのかぁぁぁぁぁ!」
おぞましい形相のまま、まだ散らばった金を集めている。
手錠で繋がれた両手をおろした姿勢のキャティが近づいて来る。
陸「キャティさん!?」
キャティ「わ、私が集めます!」
マグ「急に何を・・・」
キャティ「こうなったのも私がご主人、いいえ、あの怪物と手を組んだから・・・だから、責任を取ります!」
キャティの意思を尊重する陸。
両手を手に取り、手錠を外してやる。
キャティ「え?」
陸「マグさん。我々も」
マグ「ふむ、やむをないですな!」
招き猫へと接近する陸とキャティ。
マグも魔法で多数の火の小鳥を飛ばす。
陸とキャティが招き猫の攻撃範囲内から漏れたお金から回収していき、次第に範囲内へと距離を詰めていく。
火の小鳥は飛び散った効果をくちばしに加え、マグの元へと戻り、回収したお金を落としてはまた、招き猫への元へと戻っていく。
回収できるお金の量が減り、次第に縮んでいく招き猫。
招き猫「や、やめろぉぉぉぉぉ! やめてくれぇぇぇぇぇ! わしの金を、返せぇぇぇぇぇ!」
ある程度回収が進むも、無理をしたキャティに招き猫の爪が飛んでくる。
キャティ「あっ」
爪は招き猫の力が弱まったことですっかり丸みを帯びており、陸に片手で止められてしまう。
陸「これは断じてお前のお金ではない!」
そのまま、招き猫を爪から持ち上げ、地面に勢いよくたたきつける陸。
更なる量のお金が飛び散っていく。
招き猫「い、いやだぁぁぁぁぁ! 死にたくにゃーい!」
もはや起き上がる力すらろくに残っておらず、余裕で回収されていく・・・
・・・
入れられていたお金をほぼすべて回収され、すっかり元の大きさに戻っていた招き猫。
ほとんど動けない体で何とか目を陸たちに向ける。
招き猫「ば、馬鹿め・・・わしを倒せば・・・」
言い終わる前に眼から光が失われ、完全に沈黙する。
マグ「最後まで口の減らぬ者ですな」
マグが顔を見合わせようと振り向いた瞬間、突然、隣に立っていたキャティが倒れる。
陸「キャティさん!」
マグ「どうなさいました!?」
キャティの体を抱きかかえる陸。
キャティの体が腕や足がわずかに猫のようになっていく。
キャティ「お、思い出したの・・・私は一回死んでて・・・それからあいつの力で・・・」
静かに目を閉じ、だんだんと猫の姿へと変化していく。
陸「キャティさん! キャティさん!」
マグ「なりませぬ! 眼をお開けください!」
必死に呼びかける2人のは背後からまばゆい光が差す。
思わず後ろに振り向くと、光を放っている招き猫の姿が目に入る。
サイズは同じだが、金色でしっかりと前足を上げ、優しげな表情している。
2人がまぶしさから目を細めていると、キャティがゆっくりと目を開く。
完全に目を開き、リクに向けて可愛らしく鳴く。
マグ「おお!」
陸「こ、これは・・・」
招き猫の光が少しずつ弱まっていく。
招き猫「ありがとう。勇敢なる者たち。これはわずかながら礼です。それでは・・・」
マグ「お待ちくだされ! あなた様は一体・・・」
招き猫「私は名も無き聖獣・・・あなた方が倒した悪獣を封印でもあります。それでは・・・」
完全に光が消えるも、招き猫の姿はそのままであった・・・
陸「ありがとうございます・・・」
真剣な趣で見る2人をよそに小さな声でいびきをかいている聖獣・・・
・・・
完全に復活し、人獣の姿に戻っていたキャティを連れて、村まで戻ってくる陸とマグ。
キャティがだまし取ったお金を返しに来たのだ。
キャティの両手には手錠がかけられていた。
キャティ「本当にごめんにゃさい。もう悪いことはしません」
手錠を外してやり、村の人たちに引き渡す陸・・・