手錠ストーリーズ 異世界転生編 7話
昨日から陸が住み始めた貸家・・・
中にはいくつかの部屋と一通りの家具がそろっており、1人暮らしではやや広い程度の間取り。
わずかに家の中に入ってきた日の光で目を覚まし、体を起こすベッドの上の陸・・・
・・・
着替えて外に出て、日の光を浴びているとジョギングしているファングを見かける。
ファングも陸に気づいて足を止める。
ファング「あっ、リクさん」
陸「ファング君。おはようございます」
ファング「おはようございます」
陸「朝からトレーニングかい?」
ファング「はい。少しでも皆さんの強さに追いつかないと」
陸「よし。私も一緒に走るとするか」
・・・
一緒にジョギングをする陸とファング。
街から少し離れた街道・・・
途中、人の気配を感じ取り、一旦足を止める2人。
陸「むっ」
2人の若者が人間族の杖を持った老人の前に立ちふさがっている。
陸「あれは・・・」
ファング「何してんだろう・・・?」
若者A「なぁ。頼むよぉ。今、困ってんだよぉ」
その光景をニヤニヤした様子で見ているもう1人の若者。
老人「・・・」
若者A「遊ぶ金がなくてなぁ!」
老人に向けて飛び掛かる若者A。
ファング「あっ! いけない!」
3人の元へとかける陸とファング。
老人の杖が若者の脳天に振り下ろされる。
その光景を見て驚きのあまり、また足を止めてしまう陸とファング。
若者A「あ゛ら゛ぁ!」
老人「準備運動にもならんのぅ」
そのまま倒れる若者。
しかし、その隙を突いて老人が地面に置いていた袋を持って、そのまま走り去るもう1人の若者。
若者B「もーらいっ!」
老人「あっ!」
気づいて追いかけようとするも、腰に強い衝撃を受け、そのまま地面に伏してしまう老人。
老人「あだ・・・こ、腰…腰が・・・無念・・・」
老人の方を見て勝ち誇りながら走っていると、止まっていた陸とファングにぶつかる。
若者B「あだ! なによ、もう・・・」
足を止め、顔を上げると腕を組んで立ちふさがっている2人が目に入る。
若者B「あっ」
陸「ひと様のものを盗るとは。感心せんな」
若者の両腕を掴む陸。
若者の両手が手錠によって繋がれる。
若者B「うおぅ!」
驚きながら両手を繋ぐ鎖を何度も伸ばしている。
その間、ファングが老人の元へと走っていき、声をかける。
ファング「おばあちゃん。大丈夫ですか?」
老人「あだだ・・・袋の中に痛み止めが・・・」
袋を開け、中身を確認するファング。
ファング「えーっと・・・」
・・・
老人と先ほど捕らえた2人を連れて街に戻ってきた陸たち。
手錠をかけられた方はこぶしを揃えて反省した様子で立っており、もう1人は縄でぐるぐる巻きにされ、まだ目を回しており、ファングが見張っている。
老人はマトというとある村の現役の料理人で、よく買い出しで各地の町までくる事を教えてくれた。
痛み止めのおかげかすっかり良くなっていたが、少し休憩してから出発する事にした。
陸「ところで今日はどこまで?」
マト「この近くに森の民が新しく集落を作ったと聞きましてなぁ。お野菜やら香草やら買わせてもらえないかとここまで来ましたじゃ」
陸「ほうほう」
森の民という聞き覚えのある語にあることを思いつく陸。
陸「もしよろしければ私たちもお供しましょうか?」
マト「おお。それはありがたいですじゃ。実はまだ腰が少し痛みがありましてなぁ」
そこにファングがやってくる。
ファング「何の話をしてたんです?」
陸「ああ。この方のお供をしようかと」
・・・
ファングに事情を説明し、マトとともに目的地である森の民の集落へと辿り着く。
マトは料理のために森の民が作っている野菜や香草の品定めに来たのだった。
品定めの前に一休みとしてジャスミンの淹れたお茶と用意された茶菓子を嗜む陸たち・・・
緊張しながら見ているジャスミン、ミント他、森の民たち・・・
ファング・マト「うまい!」
陸「結構なお手前で」
3人のリアクションを見て安心する・・・
マト「ほれ。お前さん方も遠慮せずお食べぇ」
若者B「あ、はい。ありがとうございます」
手錠のかけられた両手で手渡されたお茶菓子を手に取る若者・・・
マト「さて。では畑を見せてもらえますかな」
ミント「はい!」
・・・
一通りの品定めと買い物を済ませ、配達係の森の民達の荷車に乗せてもらえることとなったマト。
マト「すまんなぁ。お若い方」
森の民「いえいえ。これからお得意様になった方へのサービスですので」
もののついでに陸とファングが荷車の護衛に付き、捕らわれた2人はマトが身柄を引き受けることとなった。
護衛の途中、小高い丘のふもとの前まで来た時、その様子を見てあることに気づいたファング。
ファング「あれ? マトさん、もしかして・・・」
にやりと笑い、白金の装飾のバッジを見せるマト。
バッジを見て反応見せる陸とファング。
ファング「ああ。やっぱり」
陸「おや。これは?」
ファング「これは騎士の証です。つまりマトさんは僕たちと同じ騎士で」
マト「今じゃ騎士の後ろでご飯を作ってるただのバァですじゃ。ふぉっふぉ」
マトの高笑いに思わず笑みをこぼす陸とファング。
騎士の証を見て陸にある考えが浮かぶも、ふと、何者かの気配に気づく。
陸「む!」
ファング「陸さん?」
陸「少し止まってください」
森の民「え?」
ふいに足を止めた森の民の前に立つ陸。
ファングも少し遅れて気配を察し、陸の隣に立つ。
2人の動きを感心するように見る同じように何者かの気配を感じ取っていたマト。
マト「ふむ・・・」
丘の上から気配の主が姿を現す。
オケラを模した仮面で顔を隠した茶色い忍び装束の怪しい人間族が数人のガラの悪いゴロツキを引き連れている。
その姿を見て身構える陸たち。
座っていたマトも再び、地に足をつける。
若者B「あ、あいつは・・・」
若者A「これはチャンスだぜ・・・」
ファング「何者だ!」
オケラ仮面「これから死ぬ貴様らに名乗る名前はない。殺れ」
オケラ仮面の指示で荷車に襲い掛かるゴロツキ達。
ゴロツキ「いやっほう!」
若者A「いやっほう!」
縄でぐるぐる巻きにされた若者も飛び出す。
次々と襲い掛かるも、次々と倒されていくゴロツキたち。
ファング「やる気があるのは掛け声だけか!?」
全くかなわないゴロツキ達にと強すぎる陸たちに苛立ちを覚えるオケラ仮面。
オケラ仮面「なんと役に立たない連中だ!」
そこになんとか丘を登ったぐるぐる巻きの若者がやってくる。
若者A「だんなぁ! 助太刀に来ましたぁ! 一緒に殺ってやりましょー」
全く空気を読めていなかった若者についに怒りが限界に達し、隠し持っていた小刀で袈裟切りにする。
オケラ仮面「ならばお前から死ねぇ!」
若者A「ぎょえー!」
縄ごと切り裂かれ、丘を転がり落ち行く若者。
それを見ていたもう1人の若者も怯えた表情を見せる。
若者の断末魔を聞いて丘の方を見上げた陸たちもオケラ仮面の凶行に思わず手を止める。
ゴロツキ「ひぃー!!!」
手で印を組むオケラ仮面。
オケラ仮面「土遁殺法! 崩れ砂!」
そのまま地面を勢いよく踏み付けると、大量の砂煙が吹き上がり、それに紛れて姿が消える。
陸「消えた!?」
ファング「あの技・・・!」
周囲を見回すファング。
ゴロツキの内の1人の足元が盛り上がっていることに気づく。
ファング「危ない! 離れて!」
ゴロツキ「えぁ」
時すでに遅く、地面から飛び出したオケラ仮面の刃に切り刻まれたゴロツキ。
ゴロツキ「ぎゃー!」
そのまま、再び地面へと潜っていくオケラ仮面。
同じように次々と逃げ惑うゴロツキ達を切り刻んでいき、その途中で陸やファング達も何とか防ぐも、少しずつ切り裂かれていく。
阿鼻叫喚の光景の中である記憶が呼び覚まされ、動きが完全に止まると同時にある感情に心を支配されている陸。
怯える若者の前で構えていたマトも、強烈な一撃に杖をはじかれ、地面に叩きつけられる。
マト「うぎゃ!」
若者B「おばあちゃん!」
マトに駆け寄る若者。
ファング「マトさん!」
地面に潜る前にオケラ仮面が次に狙ったのはマトの前に立ちふさがった若者であった。
ファングが急いでかばおうと向かうも、1つの人影があっという間に若者とオケラ仮面の間に立っていた。
ファング「え!?」
何者かの拳がオケラ仮面に直撃し、仮面の半分が砕け散る。
オケラ仮面「げぇ!?」
そのまま仮面に隠されていた顔に拳が炸裂し、吹っ飛んでいく。
拳の主は陸であった。
ファング「陸さん!?」
陸「!?」
吹っ飛ばされたオケラ仮面含め、ただ、周囲はただ驚くしかなかった。
オケラ仮面「な、なんだなんだ!? 何が起こった!?」
殴り飛ばした直後、感情の支配から解放された陸本人も何が起こっているのか理解できなかった、が、自分がすべきことは理解していた。
体勢を整えようとしているオケラ仮面に近づき、顔面に掌底を食らわせる。
やられた、そう思った瞬間、大してダメージがなかったことに気づき、構えを取る。
オケラ仮面「や、野郎! 2回もびっくりさせやがって! 殺ってやるぞぉ!」
陸「もう手遅れだが・・・あまり怒らない方がいいぞ」
オケラ仮面「な、何ぃ! ぼん」
陸の七星心拳に耐えきれず、吹っ飛ばされて回転しながら宙を舞った後、頭から地面に埋まるオケラ仮面・・・
ファング「す、す、す」
決着がついたことに安心し、一息つく陸。
ファング「すっげー! 今のすごいっす陸さん!」
陸「おわっ」
ファングの反応に驚く陸・・・
・・・
法務騎士団を呼び、オケラ仮面一味と逃げようとした若者を引き渡した陸たち。
なんとかマトが暮らしている村まで、辿り着く。
手錠をかけられた若者の手錠を外してやる陸。
素直にお辞儀をする。
若者B「ありがとうございました。心を入れ替えて働きます・・・」
マト「こちらもありがたやですじゃ。これは護衛の費用と・・・おっ、そうですじゃ。少しだけお待ちくだされ」
陸・ファング「?」
・・・
少し待っているとマトが一枚の巻物を持ってやってくる。
マト「これを受け取ってくだされ」
陸「これは・・・」
巻物を受け取り、書かれた内容を見る陸・・・
・・・
その頃・・・
ゴロツキ達が法務騎士団に捕らわれる中、ただ1人、逃げ切ったオケラ仮面が闇に包まれている何者かの前で息も絶え絶えに膝まづいている・・・
オケラ仮面「ご、ご報告します! じゅうおう様!」
陸たちとの戦いの一部始終を伝えるオケラ仮面・・・
しかし、全力を出したにもかかわらず、武器も持っていない相手に倒された事実の部分だけはうその報告をしていた・・・
じゅうおう「つまり、本気の半分も出さずに戦ってたら油断してやられた、か。ご苦労だったな、少し寝てろ・・・」
オケラ仮面「はっ、はは・・・」
オケラ仮面が地面に潜った後、高笑いが響く。
じゅうおう「七星心拳・・・少しは暇つぶしにはなるといいがな・・・」
じゅうおうの高笑いの中に他の笑い声も聞こえていた・・・