研究室の選び方

Last-modified: 2022-01-19 (水) 17:04:55

どの研究室を選ぶかは、どの大学に行くかよりも、はるかに重大で大きな選択である。

研究室とは

概要と常識

研究室とは文字通り大学の研究室のことであり、主に学部4年以上が多くの時間と労力をつぎ込む場所である。
日本の理系大学における卒業研究はこの研究室で行われ、大学院での研究活動もこの研究室で行われる。
そして、学部4年以上は授業がほとんどなく、研究して単位と卒業・修了要件を得る。
つまり、研究室次第で、どんな研究をするか、だけでなく、どんな生活となるか、も決まってしまうのだ。

一般的な場合は

  • 大学においては、学部3年で配属研究室が決まり、学部4年で研究室に通って卒業研究を行う
  • 大学院においては、入学時点で配属研究室が決まり、在学期間はずっと研究室に通って卒業研究を行う

ということが多い。大学によっては2年や3年で配属されることもあるらしい。

研究室の構成人員

一般的には、研究室の大ボスに教授が1人いる。コイツが研究室の全権力を握っているので楯突けない。
その下に准教授がいる。一般的には1人だが、場合によっては2人以上、もしくはいないこともある。
そしてさらにその下に助教*1がいる。これも一般的には1人だが、場合によっては2人以上、もしくはいないこともある。
これら教授・准教授・助教は研究室の運営の他に、大学の運営にも関わっている。なので大学や大学院の授業をやらなくてはならない。
一方、研究員やポスドクや技術職員と呼ばれる人も研究室によってはいたりする。
これは基本的には研究室に雇われているので、研究室での研究しか行わず、授業をやったりはしない。
地位がどのくらいなのかというと、これは場合による。キャリアを積んだ技術職員なら、准教授でもかなわない。
一方でポスドクや研究員は、助教や准教授になるための中継ぎ、みたいな位置付けである。距離と年齢の近さをもって学生たちから慕われる研究員もいれば、教授からの仕事を学生に全部丸投げして当たり散らす研究員もいるので、よく見ておこう!

なお、場合によっては教授なしで、准教授が大ボスとなっている研究室、通称「准教授研」というのもあったりする。准教授研だから特別にどうということはないが、定員は教授研に比べて少ない。

理想的な研究室生活

滞在時間は平均的に見て9~10時前後出社、17~18時前後に退社、が理想的。
時間がかかる実験だったり、学会前だとこれよりも長くなる。たまにはそんなこともあるで。
輪講会や進捗報告会は月1くらいが普通!?私はそんなもの何もなかったのでよくわからん。
助教・准教授・教授と一緒に昼飯を食いに行く、というのが普通にあれば、学生から慕われている証拠。
国際学会発表が年に1~2回あれば理想的。タダで海外旅行できるし、外部の研究者と交流できるのは貴重な経験。うまくいけば就職のアテをゲットできるかも。ただし、お金のない研究室は自腹or自分で資金調達を求められる。
学会発表が年に4回以上あれば多すぎる。実験に支障が出てくるかもしれないが、これは人による。私は旅行好きなので問題なかった。

研究室の選び方

さて本題だ。どの研究室を選ぶかによって、人生が大きく変わる。学部のうちに素晴らしい研究室に配属され、研究の楽しさに気づいたキミなら、その研究室で博士課程まで、もしかしたらその後のポスドク・助教・准教授・教授まで、有意義な時を過ごせるだろう。一方でブラック研究室に配属されたキミなら、修士で研究室を替えるか、学部就職するだろう。
正直言って、どの大学に行くか、よりも、はるかに大きな選択なのだ。

さて、研究室の選び方のポイントを以下にリストアップする。

絶対条件
  • まず第一に、自分の興味とある程度は関連していること。材料の研究やりたいのにソフトウェア系行っても意味ないやろ。
  • 研究室の人数が充足しているか。
    ここでいう充足とは、定員に対して人数が足りているか、ということ。定員に対して人数が少ないなら、絶対に何か理由がある。
    なので、逆に学年に2人しかいなくても、2人定員ならそんなもん。
  • 学生の目が死んでいないか
    簡単な見分け方。学生の目が死んでいたら間違いなくブラック研究室。楽しくもない研究を長時間続けたら目が死んでくる。逆に言えば、研究が楽しい研究室なら、多少長時間いたとしても目は死んでいない。
    学生の目を見る以前にそもそも学生がいない?そんな研究室絶対に何か問題がある。
  • バイトしてる学生がいるか
    学生が気兼ねなくバイトしているということは、時間制約が厳しくないとか、装置の融通が効きやすいことを意味する。
    バイトで平日まる1日いなくても怒られない研究室は、おそらく他の面でも色々過ごしやすいだろう。
    多くの学生が勘違いしているが、そもそも教授が学生のバイトを制限する権限なんてない。バイト禁止、などと言われたら、じゃあ先生が学費払ってくれるんですか!!(怒)と強く出よう。
    なお、バイトしない代わりに、配属された学生はもれなく全員RAとして給料を出す、という研究室もまれにある。お金の心配をせずに研究に専念してほしい、という神のような研究室である。ただし、お金をもらっている以上、それなりのアウトプットは求められる。
よく見ておきたい点
  • 教授と准教授の仲が良いか。教授と准教授のテーマが離れすぎていないか。
    テーマが離れすぎていると学生の取り合い、結果解釈の対立に巻き込まれる。迷惑極まりない。
  • 論文発表や国際学会発表を学生にやらせているか
    まず発表成果がないということは研究者としておわっている。また、研究室の成果*2を教授が独り占めしていたら、そんな教授は絶対に何か問題がある。
    研究室の成果を学生が主体的に発表している研究室は良い研究室である傾向が大きい。発表の面倒を見る、なんてめんどくさいことをわざわざやってくれるのだし、旅費も工面してくれるのだから(もっとも、研究室での教育、というのはこういうことをやって当たり前なのだが)。
  • 博士の学生がいるか
    博士までいくということはそれなりの理由があって行く。それなりに研究が楽しいと思ったのだろう。さらに付け加えると、博士の学生の目が死んでいなければなおよし!*3
  • 就活の時間をとらせてくれるか
    特に地方大学だと、就活のために数日かけて東京に行く、ということがある。この数日は研究室に行かないことになるが、これを認めない研究室はブラック。じゃあお前が就職先用意してくれんのかよ!!(怒)と強く出よう。
    就活は休日にやれ、というヤツもいるが、そもそも企業相手なので平日しか動けない。もっと言うと、常識ある企業ほど平日にしか動かない。
プラスアルファで見ておく点
  • 研究室の規模とテーマの広さが合致しているか
    研究室の規模、すなわち研究室の学生の人数に対して、研究室が扱っているテーマの数が合っているかどうか、よく見ておきたい。
    例えば学生が数十人いて、その人数に見合うテーマの数が設定されていれば、学生同士での成果の取り合いにならない。
    逆に学生が数人しかいないのに扱うテーマがやたら多ければ、学生一人の負担は自然と増える。場合によっては、卒業研究とはまったく関連しない実験もやらされる、かもしれない。しかし、あるテーマに対して自分一人でやりたい放題できるので、これは人と場合による。
  • 科研費などの外部資金をとっているかどうか。
    これは研究室に何を求めるかによってくるが、実験研究したいのであれば、研究室の資金力は重要である。配属時に素直に「先生の研究室は科研費とかとってますか?」と聞いても失礼でもなんでもない。
    もし実験研究することを求めず、楽に卒業することを重視*4するのであれば、ここはさほど重要ではないだろう。
    また場合によっては、教授が研究に時間を割かず学生の教育に時間を割く、という研究室もまれにある。このような研究室であれば、実験などはあまりできないが、教授の面倒見はよいだろう。
  • ポスドクや研究員がいるか
    ポスドクや研究員がいるということは、雇う金がある、つまりは研究室に資金力があることを意味する。また、研究においての細かいコツなども教えてくれるので頼りになる。ただし、ポスドクや研究員が多すぎる研究室は逆に何か理由がある。たとえば、学生に不人気すぎてポスドクを雇わないと研究が回らない、とかありがち。
  • 留学生がいるか
    留学生が数人いれば、その研究室はある分野において世界的に有名であることの指標になる。
    ただし、留学生ばかりの研究室は疑ったほうが良い。日本人学生に不人気すぎて留学生しか来ない、というような場合は絶対に何か良くない理由がある。

まあ、どうしても嫌な研究室に配属されても変更できる。
学部→修士での変更は普通にある。大学から違う大学院へ行くことも普通にある。
修士1年→修士2年での変更も聞いたことはある(ただし何か相当な理由は必要)。
修士→博士の変更はあまり聞いたことがない。そもそもそこまでして博士に行くか、ということがあるし、修士までの下積みを少し手放すことになるので、ある程度の理由と覚悟が必要。

そして重要なことは、この世に完璧な人間が存在しないのと同じく、この世に完璧な研究室など存在しないことだ。ここにリストアップした全てを網羅する研究室なんて存在しない。資金力も成果もあっても、いつも准教授と教授の対立に巻き込まれる、とか、成果はたくさんあって発表もそこそこ行けても、学生が多いから発表者はいつも争奪戦、とか。研究と同じく、研究室選びもそこそこの妥協が必要である。

体験談

研究室に6年もいたので、良いこともあれば悪いこともあるさ。

  • 学部4年配属で博士までずっと同じ研究室。テーマは途中で少し変えた*5
  • 研究者になりたかった。なので、そもそも博士まで行くこと前提で研究室を選んだ。
  • 希望テーマの合致度を最優先として、学会発表に行かせてもらえるか、博士学生がいるか、を見た。
  • 博士に行くこと、学振を取ることを前提としていたので、その旨を指導教官に伝えておいた。そして、小粒でもコンスタントに結果が出るテーマを与えてくれた。修士1年で論文投稿してアクセプトされた。
  • おかげで成果はコンスタントに出せたし、科研費もけっこうとってたので、国際会議発表は年に数回を毎年、旅費全額出してくれた。マイルがけっこうたまった。
  • 研究室規模に対して対象テーマが広かった。なので、1人に1つのテーマが与えられ、その上でやりたい放題だった。私はそれでやりたい放題できたし結果もそこそこあったので良かった。しかし、人によっては1人に1つのテーマをとても嫌がってる人もいた。誰かと一緒がいいらしい。また、成果が出ないテーマにあたると悲惨。
  • 初期は准教授についていたが、教授との意見対立に巻き込まれて迷惑極まりなかった。
  • 准教授を慕うと教授の機嫌が悪い。ガキかよ
  • 教授から「修士でやっている准教授のテーマだと学振取れないよ」と脅された。そして教授から無理やりつまらんテーマを示された*6
    でも、そのテーマをやることは私のポリシーに合わなかった。なので修士の研究に関連付けて、少しテーマを変えた。それで学振に応募して、面接免除で受かった。ざまあみろ
  • その他にも色々あって、アカポスを目指すことは諦めた。人生はアカポスだけちゃうで!
  • こんな感じで博士課程に進学したので、研究のモチベが地の底だった。当たり前だが結果も全く出なかった。
    D2の終わりに、このままではマジでやばいと思ったので、少しはやってるフリをした。そこでたまたま小粒の成果が出たので、それでなんとか博士論文にできた*7
  • 大学によっていろいろだが、私は外部のアクセプト済投稿論文なし、投稿中1件で博士クリアした。
    ただし、会社の博士卒の先輩は投稿中ゼロでもクリアしたらしい。上には上がいる。
  • できるだけさっさと行ってさっさと帰ることを目指したので、研究室滞在時間は平均的に見て9-10時に出社*8、17-18時退社。実験とか学会・修論・博論前は夜9時くらいまでいることもあったけど、研究室に泊まることはなかった。
  • 就活で1週間くらいいなくても、小言を言われて終わりだった。
  • 研究分野に近い会社を受けたので就活は余裕だった。自由応募で8社受けて6社内定。
    • アクセスカウンタ合計 ?

横から失礼します。

研究室の選び方について wiki を編集したかったのですが、体験談以下しか編集できなかったのでこちらで。

  • 企業と共同研究しているかどうか?
    共同研究している研究室であれば、選択できる研究テーマに制限がかかることがある。また、その企業に入社しやすくなる場合もある。
  • 研究室の財布の使われ方
    学会で出張するときに交通費や宿泊費は出るか?研究室で使われる PC や周辺機器が欲しいと言ったときにどのくらい要望が通るか?

*1 現在の日本の大学においては「助教授」というクラスは存在しない
*2 研究室の成果ってのは大体が学生が手を動かして得られた結果である
*3 ブーメラン
*4 せっかく学費を払うのだからこの選択はもったいない。高額な装置使いたいやん
*5 正確に言うと、変えさせられた
*6 当時は「何言ってんのコイツ」程度にしか思わなかったが、後から聞くとこれはアカハラに近い行為らしい
*7 予想外の良い方向の不可抗力もあった
*8 起床チャレンジ失敗時や国際学会後の時差ボケ調整時は午後から出社