合成屋リーネ

Last-modified: 2013-04-03 (水) 13:17:49

ここはヴェリナード城下町の薄暗い路地にある一軒の小さな宝飾店
立地も大して良いわけでもないのに その小さな店に不釣合いなほど大勢の客で賑わっている
その客たちの目当ての殆どは とある一人の女性店員 リーネである
別段容姿が優れているというわけでもなく どこにでもいそうな今時のウェディの女だ

彼女はある時を境にこの宝飾店の店先に立つようになった
それ以来この店は異常と言えるほど繁盛している
ここの店長がグレン住宅街 草原の二桁台の土地をその丁目丸ごと買い占めたなんて噂も耳にする
真偽の程に興味は無いが とにかくそんな噂がまことしやかに流れているくらいには儲かっているわけだ

大して価値のないアクセサリーしか取り扱ってないこの店がここまで成功を収めた理由は
他でもないリーネその人にある
彼女は世界で唯一アクセサリーを合成する術を知っている女なのだ
どこで身につけたのかは知らないが その術を使えば例えばソーサリーリングやバトルチョーカーといった
強力なアクセサリー同士を合成し さらにさらに強力なものにすることができるというわけだ
ただし必ずしもお目当ての効果がつくとは限らない どうしようもないゴミのような効果しかつかない場合もある
まあ ほとんど運まかせのギャンブルだと 客達の間ではそういうことになっている

私は埃を被ったアクセサリーを眺めるふりをしながら リーネが今相手している男のほうを横目で見た
やつれて憔悴しきった いかにももう後が無いといった風貌からするとこの店の常連のようである
男はまじないを唱えるように独り言をつぶやいている
「こんどこそは・・・こんどこそは・・・MP回復+1・・・+1が・・・」
リーネはそんな男の様子などおかまいなしにいつも通りの能天気な態度で接している
「ヤッホー。ここはアクセサリー合成屋だよ。
 1回 1000ゴールドだけど
 さっそく 合成チャレンジしちゃうかな?」
男はその言葉に意を決したように リーネの前に二つの指輪を差し出した ソーサリーリングである
私はその指輪をみて なるほどな・・・と声には出さず納得した
実に貴重でそのレアリティに見合っただけの優秀な効果をもったこの指輪 手に入れるだけでもかなりの額を使ったのだろう
男の風貌から察するに 本来食費や身なりにつかうためのゴールドも指輪の取得のために費やされたらしい
まあ この店では珍しくも無い光景だ この店の中に居る客の中には似たようなのが何人もいる
「ソーサリーリング+2と
 ソーサリーリングで 合成だね?
 1000ゴールドいただくけど オッケー?」
こういった光景を見るたびに こう感じずにはいられない
「(私がこの男でなくて良かった・・・)」
なんといってもこの女 見た目通りのただの能天気な女などではない
決して表に出さないだけで その腹の中には底なしの欲望と悪意が入り乱れた 稀代の魔女なのである

私の番が来て リーネのいるカウンターに向かう
先程の男は何か喚きながら屈強なオーガの店員二人に両腕を掴まれて退場していく
どうやら最後の資金で手に入れたソーサリーリングに守備+1がついたらしい まあ当然の反応だろう
その断末魔を後ろに聞きながら私は既に+2までついたバトルチョーカーと新品のバトルチョーカー
そして合成代金の入った皮袋をカウンターに差し出す
「この二つを合成してくれ」
リーネは皮袋を受け取り 中身を何気ない顔でチェックする
そして彼女はいつも通りに合成をこなし あっさりと攻撃+5・・・つまりトータルで攻撃+15のついたチョーカーが出来上がる
彼女に一言礼を言い 私はどよめく店内を後にした

もちろん先程の皮袋の中に入っていたのは単なるゴールドなどではない
バズズのコイン はぐメタのコイン それぞれが数枚ずつに 「攻撃+5希望」と書かれた一枚の紙切れ それだけである
たったそれだけのことでこのチョーカーが手に入るのなら安いものだ
ただし先程の男のように「気付けない者」にこのような究極の一品を手にする機会は永遠に訪れない
何故1回たったの1000ゴールドぽっちの利益であの店がここまで繁盛しているのか・・・
ちょっと頭を使えば簡単に気がついたはずだ

駅へと向かう帰り道の途中人だかりが出来ていた
どうやらヴェリナード中央貯水槽の中に誰かが飛び降りたらしい
だが私には関係のないことだ 人だかりを通り過ぎ私は駅でグレン行きの切符を一枚買い
気持ちの良い午後のヴェリナードを後にした

臨海都市に潜む魔女―終―

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