ゆめロラ

Last-modified: 2024-04-25 (木) 00:06:13

やばい。ゆめの柔らかい頬が私の顔に押し付けられる。
なんでこんなにも近いの,ゆめったら。自分の持っているかわいさにまるで気づいていない。そのマシュマロのような頬にこちらからも押しつけてしまいそうになるのを必死に我慢して,スパイスベアの手で押し返す。
「ゆめ、いつまでくっついてるの、ゆめ」
「え,だめなの」
そのきょとんとした可愛すぎる顔を見て、全然だめじゃないと叫んでしまいそうになるのを必死で抑える。
「もう,だめにきまってるでしょ!!」
「え~~,ローラ!」
もうだめーと,くまのぬいぐるみを盾にして防御をする。もうローラったら,という声を背に受けながら,私は足早にその場を去った。
留学先のヴィーナスアークの寝室に戻ると,すぐにベッドに飛び込み,叫ぶ。
「ゆめったら、近いのよー、我慢する私の身になってよーー!!」
もしも,外に誰かいたとしてもこの方法なら,だれにも聞こえない。しばらく,叫ぶとすっきりとしたのか,さきほどまでの悶々とした気持ちが消え,冷静に物事が考えられるようになってくる。
「今日のゆめかわいかったな~」
あの頬におしつけれた感覚にずっと身をゆだねられたら,どれだけいいだろう。むしろすいつきたい。キスしたいし、キスされたい。
そう考えていると興奮のためか、また心臓の鼓動が大きくなっているのを感じ、深呼吸で気持ちを整える。でもこんな気持ち、ゆめに知られたらひかれるかな。
たぶん、ひかれるだろう。だから,必死で隠しているのだ。
自分の中にわきあがる気持ちに手がつけられない。最近は振り回されている。
私は目を閉じ,再び気持ちを落ち着ける。
「はあ~,好きだな~」
「誰のこと?」
いきなり降ってきたような声の方向に体を向けるとふわふわとした黄色のツインテールが開けたドアの光できらきらと輝いているのが目に入った。まるで幻想を見ているかのように私は何度も瞬きをするが、私の目に映る光景はいっこうに変わらない。
「ゆめ?」
言葉にするといっそうゆめの存在感がはっきりとしてくる。
「どうしてここにいるの?」
「さっきのローラ,なんか様子がおかしかったから。ちょっと気になったの」
その顔に浮かぶ私を心配してくれている表情に申し訳なさと同時に嬉しさがこみあげてくる。
「どこか調子悪いのローラ?」
「大丈夫」
「本当?」
「だから大丈夫だって!」
言えるわけもない感情を抑えるのに精いっぱいで大きな声が出てしまう。
人の間に沈黙が流れる。この場を逃げ出してしまいたくなる。
「ごめん、ローラ」
「大丈夫,大きな声出して私の方こそごめん」
ゆめのほうはなにも悪くない。
「で、ローラ、話しは変わるんだけど」
ゆめに嫌な顔をさせるくらいならどんな話題でもいいと思い、私は応える。
「なに」
「さっき、好きって誰のこと?」
「え、え、えーと」
どんな質問でもいいとは思ったがこれは不意打ちだった。私はうまく応えられずにしどろもどろになる。
「もしかして誰か好きな人がいるの?」
「いない!! いないよ,もうー。あれ? ツバサ先輩の歌のことを考えていて、好きだなーって思っただけ」
「そうなんだ」
 ゆめの納得してくれた顔を見て、ほっと胸をなでおろす。
「よかったよ~」
「どうして? ゆめが安心してるのよ」
何の気なし質問した内容にゆめの顔がゆでたこみたく赤くなる。
「どうしたのゆめ」
「ローラ!」
「はい」
今度はゆめのいきなりの大声に驚く。
「えっと,私がなんで安心したのかと申しますと……」
ゆめの口調がいきなり変になる。顔はもうこれ以上赤くならないのではないかと思っていたがまだ赤く染まる。
その様子に私の鼓動は大きく高まる。もしかして。
「私がローラのことが好きだからです!!」
そういうとゆめは一目散にドアから外に飛び出していく。あとに残されたのはいきなりのことで放心状態に陥っている私。
そして,その状況が飲み込めてくるとだんだんと頬が熱を持ち始めるのがわかる。
「ええええええ~~~~!!」

  • 私にできることは叫ぶことだけだった。