第五の晩・第六の晩 完全密室『狂言』サツジン

Last-modified: 2011-05-29 (日) 18:38:14

いとこ達の推理は進む、まるで仕組まれた狂騒のように。
心の中では誰が何のためになんて思いたくもなかったであろう。
だけれども、そんな時点はとっくに過ぎている異常事態であったのだ。
犯人探しの議論は過熱していく。
しかし、その真面目な会議の中で戦人はふと何かを思い出したように哂った。
「……おい、急にどうしたんだよ、戦人。なにがおかしいってんだ。」
「そうだよ。真面目な議論の中で棹をさすようなことはなるべくならやめて欲しいけど。」
「あぁ、すまねぇな。ついつい、MAFIAってゲームを思い出してしまってな。」
「なんだそれ。てめぇはこんな時にゲームなんて思い出してやがったのか。」
「……きっひひひひひひ。真里亞は知ってる。それはヨーロッパで行われていた魔女狩りを模したゲーム。」
「流石に真理亜は博識だな。……そうだ、今年、ソビエト連邦で出たゲームだ。」
「例えるならば人を毎夜噛み殺す人狼が、
村人の中にしれっと混じっているのをどうやって炙りだすかを模索するゲームなの。」
「おっ、分かってるじゃねぇか、縁寿。そうだな、端的にいえばテーブルトーク型の推理ゲームだ。」
「……魔女が村人の中に混じっていたら大変。だから、村人を一人一人絞首台に挙げて魔女を炙りだす。」
「その為に、少しでも怪しい素振りを見せたニンゲンから殺していく。あとは寡黙で戦力にならない奴もな。」
「ニンゲンが勝つためには犠牲は必要なんだよ。最終的に魔女を炙りだして見つける事さえできれば勝ちなんだから。」
「……おいおいおいおいおい、なんだ急に。ゲームとか思い出したとか。」
「あぁ、まるでその通りだろうと思ってな? 俺らの中にもしかして魔女ベアトリーチェが居るかもしれないって推理する事は。」
「証言を基にして誰々があぁやったから怪しい。じゃああの人は隔離しよう。……確かにそうかもしれないね。」
「そうだ、まさに使用人の人達は「人狼かもしれないから離れた部屋で待機していてもらおうぜ」って事なんだ。」
「……今のような完全密室で事件が起きたらもうそれは内部に居る人達がやった事に他ならないからね。」
「そうなんだよな。だから完全密室である現在、まだ事件が起こってない。
……この状況こそが逆説的に外部犯の犯行を裏付けているわけだ。」
「よし分かった、そこまで言うなら証言を聞きにいこうぜ。……犯人じゃないんだろう? ならば問題は無い筈だぜ。」
「確かにそうだね。……南條先生や熊沢さんたちの証言を再確認するべく、使用人室を訪ねることにしよう。」
さきほど倒れるほど体調が悪かったせいか発言を控えていた縁寿を含め、いとこ達がぞろぞろと連れ添う。
向かう先は使用人室だ。ゲストハウスは密室だ。だから、犯行は起こらない。そう確信して。
しかし、……そこで再び惨劇が起こっていることを知る。
「郷田さんも熊沢さんも、この傷では即死だったでしょう。惨たらしい死に方です…。」
「この傷で生きてるわけあるもんか…! 死んでるよ、郷田さんも熊沢さんも!」
「戸締り確認とか見回りとか、色々やってたからな。今回もまた、俺たちには全員、アリバイがない。」
「そんなことはないよ。見てごらん。……あんな殺し方をしたら、絶対に犯人は返り血を浴びるはずなんだ。」
「でも、いとこ全員も、そして南條先生も返り血は浴びてないね。」
「私たち全員は、……つまり、いとこ4人と南條先生には、郷田さんと熊沢さんは殺せない。」
「となれば、犯人は俺たち以外の誰かであることは明白だ。」
「何者かの侵入を疑って調べたけれど、ゲストハウスの戸締りは完璧だったよ。」
「犯人はやはり、マスターキーを持っているのかもしれません…。」
「それはありえねぇぜ。マスターキーはもう、ここで死んでる2人の2本以外、存在しない。」
「現存する2本のマスターキーが、こうしてゲストハウス内に残っている以上、……ゲストハウスは完璧な密室なんだ…!」
「完璧でないから、人が死んだんだけどね。魔女がするりと入ってきちゃったんだよ。きっひひひひひひひひ……。」
「……やめろ、真理亜! くっそ、どうなってやがるんだ。私たちは返り血を浴びてねぇんだぜ?!」
「論点は返り血を浴びたか、浴びてないか。それだけ?」
「おい、縁寿。俺達は返り血を浴びていない。だから犯行なんて起こせないはずなんだ。」
「そうだね、それに多少は血なまぐさい匂いが取れないはずだよ。それが南條先生と僕たちには無かった。」
「……すごく主観的で大雑把なアリバイなのね。分かった、でも私たちには事件は起こせないと思うの。」
「そうだ、魔女がやったんだ、魔女がやったんだ! ちくしょおおおおおおおおお!」

これが、第五、第六の晩の事件。
犯行現場は、ゲストハウスという名の密室。
郷田と熊沢のマスターキーも破壊され、これで全てのマスターキーが失われた。
もう誰にも、ゲストハウスの密室を破ることは出来ない。
そのはずだった……。