人狼SS

Last-modified: 2007-08-07 (火) 13:46:15

人は人を疑うことに慣れてしまったとき、人であることをやめる。

だから本当の人狼は、貴方の心の中に潜んでいるのかも知れない…

VIPのためのVIPによるVIPが作ったVIP村より愛を込めて

http://www7a.biglobe.ne.jp/~kuri/kako/33430.html

序章

誰も知らないような場所に、とても小さな村があった。
冗談でも比喩でもなく本当に小さい。住人も合計で10人という典型的な過疎地だ。

10人しかいないのでは、否が応でも住人たちは力を合わせるしかない。
そうでもしなければとても食料の生産等が追いつかないのだ。
互いに手助けをして生きてきた。
だからこそ、だろうか。村人たちは家族ぐるみで仲違いすることもなく生活している。
彼らはまるで友人に接するかのように、お互いをあだ名で呼び合っていた。

…これはこの村の掲示板だ。名簿が貼ってある。

「赤頭巾♪」「みおんw」「ミスリード.exe」「すーぷ」「初日犠牲者」
「主人公タカシ」「無駄無駄」「長門有希」「ゾロリ」「さやか」

多少奇妙なあだ名の者もいるが、仲間内なので彼らはそれをそんなには気にしていないようだ。

耳を澄ませば、村人たちの声が聞こえてくる…
今は農作業をしているようだ。まさに絵に描いたかのような平和。
…しかし平和というのは意外に脆く崩れ去ってしまうものだ。
この時は、この平穏を乱す者など誰もいないと村人の殆どが思っていた…

いちにちめのよる

『赤頭巾♪』
…どうやらそろそろ動く時が来たようだ。
というよりかは、もう我慢が出来なくなったのだ。体が人の肉を求めているのがわかる。
今まで村人のフリをしていたのはアレだ、こいつらの虚を突くため。

信頼していた大親友が目の前で血まみれになって包丁を構えているとしよう。
標的はどう考えても自分。君は現実を受け入れ、親友を返り討ちにすることが出来るかな?
出来ないだろう。大半が現実を受け入れられずにそのまま死ぬ。
…つまりはそういうことさ。不意打ちも立派な作戦なんだ。

だがしかし、もし俺が人狼だと知れたら確実にリンチでミンチでピンチになるだろう。
多勢に無勢ってやつだ。村人を少なくとも俺らと同数まで減らせなければ安心は出来ない。
けれど、そういう状況に陥ってしまった時のために相棒をこの村に潜伏させている。
頼れる相方がやっと来たようだ。遅いよ、長門。
「…すまない。山の頂上かと思っていた」
「そんなありがちなことしてたらバレるよ」
この少女は長門有希。自称対有機なんたら。
実際にはそう思い込んでいるだけの村人C、という設定でこれまで潜伏して来た。
「普通の食事ではもう満足出来ないことが判明。人肉が必要」
「…しょうがないですね、今日は譲ります」
「有難う」
「さて、さて。正体バレて処刑されたら元も子もないですけど。俺は徹底的に潜伏します」
「…下手に嘘を吐いてもバレる可能性がある。私も今まで通り潜伏する」
「了解把握」
遠吠えが止んで、静寂が訪れた。
盛大な悲鳴は、このもう少し後になる。

『みおんw』
今はまだ夢の中。
狼の遠吠えにも気づかずにぐっすりと寝ている。
…この村が惨劇の舞台になるだなんて誰が想像出来ただろう?

『ミスリード.exe』
「…やっとこの日が来たか」
狼の遠吠えが怖かったガキの頃。
今では怖くもなんともない。寧ろ福音に聞こえてしまう。
…余命僅か、か。
「だったらこの命、狼のために使ってやんよ。全員死ねばいいんだ」
俺の中の何かがぷつんと切れて、笑いが止まらなくなった。
「狼に皆喰われちまえばいいんだ…!」

『すーぷ』
ジョジョを読み始めたら眠れなくなった。今は後悔している。
「こいつァー止まんねーぜッ!」
どんどんページを進めてゆく。
「俺はもう寝ないぞーッ、ジョージョーッ!」

…結局彼は朝方まで起きていた。
そして悲鳴をはっきりと聞いてしまうのだった。

『主人公タカシ』
…俺は皆に馬鹿にされたりしたくないから、今まで普通の村人のように過ごしてきた。
けど俺は生まれたときからある才能を持っていた。
占い師の才だ。俺は占いというものが大嫌いなのに、因果なことだな…
「なんだか嫌な予感がする。よくわからないけど…」
昨日まではなかった狼の遠吠えが行き成り始まった。これだけでも不吉だ。
「…一応誰か占っておくか。久々だなぁ」

俺は赤頭巾♪ を占うことにした。
前々からなんとなく普通じゃない感じがしていたし…
いい機会だ。埃を被っていた水晶に手を置く。
俺は彼を思い浮かべ、強く念じた、すると…

水晶が、黒に染まった。
「えっ、ちょっ、行き成りッスか」
俺はこれから起こる波乱を肌で感じた。
「…早速、狼の一匹が判明した。さて… 皆を信用させることが出来るかな?」

『無駄無駄』
自分で言うのもなんだが、俺は変わってると思う。
こういう平和な生活を退屈だと感じてしまうのだ。
いっそ狂人になりたい。そうしたらこんな毎日でも楽しく感じられるようになるかな…
…そんなことを考えている間にも、時は過ぎていくのだった。

『ゾロリ』
俺はなんの特技もない平凡な村人だ。
…でも、だからこそ出来ることってあると思うんだ。
急に今までになかった才能が芽生えたりだな…
事件が起きて俺の探偵の能力が開花したり…
ああでも実際になんか起こるのはいやだな、うん。

…あれ、今遠くの方から悲鳴が聞こえた気がする。

『さやか』
いつもならもう寝ている時間なのに、私はまだ就寝出来ずにいた。
「狼がうるさくて寝れない… なんで急に遠吠えなんてし始めたんでしょうか…」

…こういう時は羊を数えよう。ああだめだ羊が狼に食べられた。
「歌って気を紛らわそう… お、狼なんて怖くないー、怖くないったら怖くないー」

それぞれの夜は更けてゆき、そして…
事件は起こった。

ふつかめのあさ

『主人公タカシ』
朝起きて村の広場に行くと、いつもとは違う空気が漂っていた。
普段なら長時間の農作業に備え、ラジオ体操なんかをやっている時間なのだが…
どうやら嫌な予感は当たってしまったらしい。
「初日犠牲者、毎朝誰よりも先に起きてジョギングしてたじゃん」
「今日は見当たらないな…?」
「長い夜でした…」
ざわつき始める広場。
「…私、人の悲鳴も聞こえたんですけど」
「実は俺も聞いた。聞き間違いかと思ってたんだが…」

狼の遠吠え、人の悲鳴。
…当然のことながら村人全員で初日犠牲者を探すことになった。

結果を言おう。
彼は、無残な姿で発見された。
体の半分以上が喰われてしまっていて、直視することが出来なかった。
「…人狼、か」
人に狼が混じりし者。この村にもいたとは。

「恐らく人狼は二人だろうな」
俺は再び広場に集まった村民たちに、自分の意見を聞いてもらうことにした。
「一人ではあそこまで痛めつけられないだろうし、三人以上なら足跡がもっと多いはずだ」
他にも何個か具体的な証拠を見せ、村人たちを納得させる。
「そしてだ、俺から重要な発表がある」
「…なんだよ?」
俺は皆を見据えて言った。
「俺は、実は占い師なんだ。昨日の夜、なんとなく嫌な予感がしてな」
村人たちは無言で俺の主張を聞いてくれている。
俺は痛いほどの静寂の中で、一人の男を指差した。
「赤頭巾♪ を占ったんだ。そしたら水晶が黒に染まった。これは人狼の証だ」
俺に指を突きつけられている男の目が、見開かれた。
皆が一斉に赤頭巾♪ の方を向く。
「いまどきそんなカミングアウトっすか。しかも俺ですか…」
今ではいつもの顔に戻った赤頭巾♪ が不満そうに言う。
更に無駄無駄がそれを聞いてこう言った。
「なんで朝一にカミングアウトしなかったんだ?」
これは緊急事態なんだぞ、と言われて、俺は何も言えなくなった。
確かにそうだ。人狼がいるとわかったんだから、それを朝一番に言うべきだったんだ。
俺は目を覚ましてから今までの一秒一秒ずつ、少しずつだけど信頼を失っていたんだ…!
「でも、それ以外の人狼に繋がる情報は今のとこないですよね…? なら、これは… 吊るしか…」
さやかが俺の味方をしてくれた。彼女がいて良かったと心の底から思った。

しかし、小さな呟き声が俺を再び不安にさせた。長門有希の声だった。
「…他人の出方を伺ってから出た人狼? 占い師というのは口から出任せなのではないか」
おいおい、冗談じゃない。処刑されてたまるか。俺は本当に人間だ。
「これ信じがたいんだが… 微妙…」
村人たちが俺を疑いの眼差しで見てくる。
味方してくれていたさやかにも寝返られた。
「タカシを…」
これは俺の人生終わったな。

「まあ… でも●吊りの方がいいと思うね、俺は」
みおんw がぼそりと言った。そう、その通りだ。
しかし、それでもまだ疑っている村人が何人かいた。当たり前か。
…俺は最後の賭けに出ることにした。

俺はその場で土下座した。恥なんて捨てちまえ。
「みんな、俺を信じてくれ!!」

『赤頭巾♪』
まさか占い師がいるとは…
誤算です。

「占い師がいるんだったら霊能もいるかもなぁ」
「なんだそれ?」
「霊能力者の略。特定の条件下で死んだ人間が、どんな存在かがわかるらしいよ」
「じゃあ今日赤頭巾♪ を殺して、その霊能とやらがあいつは人狼だったって知らせてくれれば…」
「そんなに何人も特殊な力を持った奴が集まってるとは思えないけどな」
「赤頭巾♪ 吊りか?」
…これは俺が吊られる流れですかね。痛いのかな。正直、少し怖い。

今まで何人も人間を食い殺して生きてきた。
食われる立場の心境なんて考えたこともなかったんですが…
今なら、少しだけわかる気がする。

俺は口を開くことさえ出来なくなった。

けれど、長門は懸命に俺を救おうとしてくれた。
「…何の手掛かりもないときにそういうことを言えば皆信じ込む。当然」
長門、もういいんだ。これ以上かばったらお前まで疑われる。
「信じ込んでしまった村人は当然占い師が人狼だと言った者を殺すだろう。タカシはそれを利用した?」
結局長門の呼びかけに応じてくれたのは数人で、俺は処刑されることになった。多数決制度反対。

俺は無茶苦茶に縛られて、手も足も出せなくなった。
…何故だろう、涙が出てきそうだ。
目を瞑り、歯を食い縛る。

どれぐらい経ったのだろうか。俺はまだ生きていた。
…瀕死だが。人狼でなければとっくに意識を失っているだろう。
俺の首に縄がかけられた。やっと吊ってもらえるらしい。
もう俺はさっさと死んでしまいたかった。何も見えないし、痛みも既に感じられなくなってきた。
こんなのは俺の体じゃない。早く殺してくれ。その方が楽だ…

自分の体が一気に飛び跳ねたのがなんとなくわかった。
長門が悲しげな瞳で俺を見ているのも、なんとなくわかった。

すまないな、長門。

ふつかめのよる

『みおんw』
…これで良かったのだろうか。主人公タカシは本当に信用してもいい存在だったのか。
しかし変な力を持った奴も何人かいるみたいだし、なんとかなるだろう。
「けどもしその能力を持った奴らが狼に喰われたら…?」
俺は唾を飲んだ。
「…俺が噛まれるといいんだが」
人狼を全滅させるための鍵になる存在が喰われるくらいなら、俺が喰われた方がいい。そうだろ?

しかし結局人狼は俺を喰いには来なかった…

朝が来た時、俺は何故だか妙に安心している自分に気付いた。
なんてことだ。人が死んだかも知れないってのに、俺はそれを喜んでいるのか?
自分が生きているのがそんなに嬉しいのか?
無力な村人のくせに、くそ、俺は…

それでもやっぱり生き延びたい…ッ

『すーぷ』
こんな事件が起こるだなんて…
人狼なんて都市伝説だと思っていた。
占い師だって、まさか本物っぽいのがこんな村にいるとは思いもしなかった。
ひょっとするとこういうことは身近にあるのかも知れない…

…今日も誰か殺されるのだろうか。
俺だったら、俺だったらどうしよう。なんか汗出てきた。
でもなんだか今日は遠吠えが少ないな…
ひょっとすると本当に狼は残り一匹なのかも知れない。
けどタカシが真の占い師という証拠はない…
疑い始めたらキリがない、ああもう、全員嘘を吐いているように思える。

そうだ、こういうときは素数を数えるんだ…
2、3、5、7、11、13、17、19、にじゅう、にじゅう…
…あ、あれ、なんか眠くなってきた。まぁいいか、寝ちゃえ…

みっかめのあさ

『ゾロリ』
どうやら昨晩は主人公タカシが殺されたらしい。
見せしめのつもりなのかなんなのか、広場のド真ん中に死体が放置されていたみたいだ。
「…おはよう」
「おはよー」
「おはよう」
無理に明るく振舞おうとする者、俯いたままの者、それぞれが挨拶を交わす。
そんな中、ミスリード.exeだけは黙り込んでいる。どうも考え事をしているようだ。
「…おい、どうしたんだ?」
お節介かも知れないが一応声をかけてやる。
「ん、ああ、いや… 実は俺も皆に隠してたことがあって、な…」
「…まさか」
「そのまさかだ。俺もカミングアウトさせてもらう。俺は霊能力者だ」
霊能力者。長いから霊能と略させてもらおうか。
「早速だが、昨日俺らが処刑した赤頭巾♪ は一体なんなんだ? 村人か?」
「俺の能力が告げてる。奴は人狼だ」
歓声で広場が満ちた。
「まさかのタカシさん真…?」
「そして昨日の遠吠えの少なさ、狼1匹ってかんじだろうか」
「希望が見えてきたな!」
「でもまだ一匹残ってるんでしょ? やっぱり怖いな」
そうだ。人狼はもう一匹いる。これはどうしようもない現実だ。

広場が静寂に包まれた。

無駄無駄がこの重苦しい空気をどこかへ追いやろうとするかのように口を開いた。
「でも、諦めたりしてるだけじゃ何も変わらない。能力者に頼ってるだけじゃ駄目だ」
そう言うと何処かへ走って行った。
「なんだアイツ…?」

数分後、無駄無駄は戻ってきた。全速力で走ったからだろうか、息を切らしている。
「これ、昨日主人公タカシに投票した人をメモに書いてきたんだ」
成る程、昨日の投票結果を調べるために掲示板を見て来たのか。
皆がそのメモを覗き込むようにして見る。
そこにはそう書かれていた。

「さやかさん 0 票 投票先 → 主人公タカシさん」
「長門有希さん 0 票 投票先 → 主人公タカシさん」
「ゾロリさん 0 票 投票先 → 主人公タカシさん」

ああ、そういや俺も投票してたな。でも俺は残念ながらただの村人だ。
ということは俺を除いた二人の中に狼がいるのかも知れないのか。一体どっちなんだろう…?
俺が今までの二人の行動等を思い出していると、ふいにミスリード.exeが大声で何かを言い始めた。
何を言ってるんだ?
「昨日の投票を見る限り、狼は主人公タカシ投票者に見えるが…」
うんうん。
「どちらかというと赤頭巾投票者の方が怪しい気がする。あの場面で主人公に投票するのが狼とは思えない」
…確かにそうとも言えるのだが…
しかしこの流れ、ひょっとして無駄無駄は…?

『無駄無駄』
俺はただ、能力者に頼ってるだけじゃ駄目だと…

ただの村人だからこそ出来ることがあるんじゃないかと…

それで、少しでも推理の材料になればと…

そう思っただけなのに、なんで!

「…ので、俺はそれを含め無駄無駄の怪しさを提唱する。わざわざタカシ投票者抜き出してるし」
ミスリード.exeがよく通る声で何か言っているが…
正直、もう何がなんだかよくわからなかった。
「どっちにしても判断材料になりづらそうだね…」
…俺は皆の役に立ちたいと思っただけ。なのになんで俺が疑われてるんだ?
「待て、霊脳偽の可能性もあるぞ。いや無いですすいませんでした」
みおんw が小声で言った。
…そうか。強引に俺を処刑する流れにしようとしているミスリード.exe。
ひょっとしてお前は人外なんじゃないか?
胸の鼓動が早くなる。
言うんだ。自分の推理を聞いてもらうんだ!
「まあ俺は霊能力者で確定なんだし、できたら無駄無駄吊って欲しい」
このままじゃ、俺は!!

顔を上げる。口を開く。後は言葉を発するだけだ。
発するだけ、なのに…

なのに…

「無駄無駄は何か言わないのだろうか」
「霊能は本物っぽいねー」

…俺は何も言えなかった。
否。言わなかった。

そこからは地獄だった。

今まで大切な仲間だと思っていた村人たちに容赦なく攻撃される。
…みんな切羽詰っているのだろうか?
生死の境目にいるというのに、俺はそんなことを考えていた…

でも俺は…
人狼が絶滅して、みんなが生き残れれば…
それで、いい…

…いつの間にか、俺は深い暗闇の中に堕ちていた。

みっかめのよる

『さやか』
今まで友達だと、仲間だと思ってた人たちと目が合わせられなくなった。
みんな必死過ぎて、息が詰まる感じがする…

五月蠅く吠えていた狼が今夜は吠えていない。
「ついに吠えなくなった狼…」
ひょっとして狼は全滅してくれたのかな?
「…いや、これは作戦かも!!」
吠えないことによって今生きている狼の数を誤魔化す。
本当は狼はまだ二匹いて…
「それはないね…」

私は事件が早く解決しますようにと、一晩中祈っていた。
まさか、その願いが届くだなんて…

『ミスリード.exe』
まったく笑えるよ。
俺が本当に霊能力者だと皆信じて疑ってないようだ。
そんな戯けた能力俺にはないんだぜ?

しかし困ったな。未だにサポートすべき狼が誰なのかがわからない。
…ま、運が良ければなんとかなるだろう。
全ては明日だ。

よっかめのあさ

『長門有希』
…まだ、生きている。
たった一人になってしまったけれど。
もうここまで来たら死ねない。赤頭巾♪ のためにも生き残る。

昨晩はゾロリを殺めた。
…毎日食べているといくら大好物でも飽きる、というのは本当だった。

広場に残り少なくなった村人が全員集まっている。
…どうやらゾロリの死体が発見されたようだ。

「…おはよう」
いつも通りに、私は私を演じればいい…
「霊能カミングアウト。無駄無駄は人間だったようだ。昨日の俺の判断は間違ってた… すまん」
…そう言えばこの男、本当に霊能力者なのだろうか?
ならば昨日口を塞ぐべきだったのはこっちになる。
…過ぎたことを気にしてもしかたない。平常心を保つ。

「なんで噛まれないんだろうな? 多分本物なんだろうけど…」
すーぷが頭を掻きながら言う。
「噛まれないのは狼の作戦と見た。つーか狼消極的すぎって有り得るのか?」
皆がそれぞれの推理を発表する中、さやかが急に焦って何か言い始めた。
「わ、私は狼じゃないよ! 投票して噛むなんてそんなバレバレなこと…」
…何を言いたいのかがよくわからない。私は少し呆れた。
こんなのがいるなら、生き残るのは簡単なこと…

しかしミスリード.exeの一言が私を辛い現実へと引き戻した。
「確かに昨日の推理は間違っていた…」
今流れを握っているのはこの男…
話は一応頭に入れておく。
「だが、俺はこれで主人公タカシに投票した奴の中に人外がいると確信した!」
…そんな、馬鹿な。汗が頬を伝う。
どうしよう。こうなってしまったら私は何も出来ない…

駄目押しのようにミスリード.exeは叫んだ。
「自信がある!」

終章

『長門有希』
…何故だか、赤頭巾♪ の死に際を思い出していた。

駄目。まだ、諦めてはいけない。今出来ることを全力でやる。
タカシに投票したのは私とさやか、ゾロリ。
ゾロリはいない。
ならばさやかを人外に仕立て上げればいい。

私が口を開いた瞬間、ミスリード.exeも口を開いた。
…先に言葉を発したのは向こうだった。
「考えるに、残りのタカシ投票者はさやかと長門だけなのだが…」
私は口を噤んだ。
「さやかの昨日の投票を見ると浮きすぎている」
…何か言わなければ。反撃しなければ。
「狼は流れに乗せて投票するほうが得なので… ここは長門を怪しんでみる」
ミスリード.exeと目が合った。
言い返さなければ。このままでは殺されてしまう。
「…なんとも言えない。タカシに投票した者を怪しむだけで本当にいいの?」
やっと出た言葉がそれだった。
「ミスリードに流れを握られている気がしないでもない…」
…こんなことしか言えない自分に絶望感を覚えた。
「確かに俺が流れを握っているが、俺は本当に霊能力者だから間違っててもただの読み違いだと思ってくれ」
次に言うべきことを早く考え出さないと。このままじゃ私は…
「霊脳偽も考えるべきでは?」
さやかが助け舟を出してくれた。本人は自覚していないのだろうけど。
さて、どうする。この発言には乗るべき…?
「ミスリードしか信じられるのがいないから仕方ない…」
…考え込んでいたら、すーぷにチャンスを潰されてしまった。
「狼残り1匹なら、対抗で霊能力者出てくるって事態が一番怖いしな…」

皆、ミスリード.exeを信じているようだ。
私もこれでおしまい…

私の眼に何かが溢れた。

「すまない、赤頭巾♪…」
十字架に磔にされてしまった。一切動けない。
「私には無理だった…」

さよなら。

赤よりも赤い花弁が、可憐に散った。

もう一つくらいは書きたい。けれど今は未定。

アドレスをここに挿入する。どの村にしようか迷っている…