271-276フェルビスのODE観察日誌5

Last-modified: 2009-03-06 (金) 13:23:54

271 :それも名無しだ:2008/08/04(月) 18:53:11 ID:Wt0egk2P
何も言い出せないまま、ある日ついに。

 

アイビス「ツグミ」
ツグミ「どーしたの?」
アイビス「あ、あのさ……明日、訓練中止してもらっていい?」
ツグミ「え?何故?」
アイビス「え、えっとね、その、ちょっと病院に行こうかなって」
ツグミ「どこか悪いの?」
アイビス「ううん、別に悪いってわけじゃなくてその、検診にね、行ってくるよ。ほら、体が基本のアストロノーツだし」
ツグミ「それもそうね。でも、明日のメニューは一応施設押さえてるから、明後日とかにしない?」
アイビス「あ、そっか。そうだったね。うん、解った。明後日にしとく」
ツグミ「じゃあメニューの変更しておくから」
アイビス「ありがとうツグミ」

 

そしてツグミは防音の自室に急いで引き込もる。

 

ツグミ「ついに恐れていたことが現実になったわ!!」
ショウコ『はい、流石に産婦人科での検診はまずいです』
ツグミ「どうする?これ以上黙ってはいられないわ」
ショウコ『でもあの様子では何も言えないでしょう?』
ツグミ「うぬぬっ……こうなったら奥の手よ」
ショウコ『奥の手?』
ツグミ「心苦しいけれど、仕方がないわ。つまりこういうことよ」ゴニョゴニョ

 

アイビス「あれ?ツグミー。……いない。どこいったのかなぁ」

 

家の中を探し回っても彼女の姿が無い。
ただリビングのテレビが付いている。

 

アイビス「付けっぱなしでいなくなるなんて、もう、電気代の節約!っていつも言ってたのに一体どうし」

 

言いかけて気が付いた。
テレビの中で、女と男がベットの上で寝ていた。
それに見覚えがあったのである。

 

アイビス「……この恥ずかしいスケスケの下着を着て大股開いて寝てるのって、あ、あたし!?」

 

ならばその隣で毛布を丸めて抱き枕にして高鼾で寝ているのは―――。

 

アイビス「フェルナンド?」

 

テレビの右端に表示されていた日付は、この間一線を越えたホテルに泊まった日になっている。
そして時間は、その夜中。まさに一線を越えたであろう時間帯を指していた。

 

アイビス「ま、まさか」

 

彼女は、傍に置いてあったリモコンを手に取った。

 

頃合を見計らい、何食わぬ顔で部屋に戻ってきたツグミは見た。
テレビの前で体育座りをしながらリモコンを構えてじっと見つめているアイビスを。

 

ツグミ「あ、アイビス……?」
アイビス「ツグミ」
ツグミ「は、はい」
アイビス「これは、真実なの?」
ツグミ「え?」
アイビス「これに収まっている映像は全部本当のことなの?」
ツグミ「え、ええ、そうよ」
アイビス「そう……」

 

すたっと立ち上がった彼女は、ふらふらとした足取りでリビングを出て行こうとしていた。

 

ツグミ「ア、アイビス」
アイビス「……しばらく、ひとりにしておいて……」

 

ぱたん、とドアは静かに閉じられた。

 

ショウコ「どうですか?アイビスさん」

 

ひょっこり現れたのはショウコ、そしてフォルカとイルイ。
ツグミは彼女たちのところにいたのである。
戻る際に、『心配です、私も行きます』とショウコがついてきて、『俺も行く』とフォルカもついてきて、途中でイルイと合流した。
ツグミは彼女たちに向かって重く首を振った。

 

ツグミ「相当ショックを受けたみたい、私が盗撮や盗聴したこと、全然怒らなかったから」
ショウコ「それは重症ですね」

 

今回の場合、勘違いしたのはアイビスとフェルナンドであって、ツグミたちに直接の原因はない。
ただ間接的にしこたま酒を飲ませ、今回の原因の一旦を担ったわけであるから、彼女たちは負い目を感じていた。
まさかこんな大事になるとは思わなかったのだ。

 

ショウコ「どうしましょう?」
ツグミ「どうにもならないわ。私たちにはね。それにあの子が何を考えてるのか解るわ。フェルナンドにどう言い出せばいいのか、ってことよ」
イルイ「フェルナンドなら赦してくれるよ?」
ツグミ「そうね。でも、あれだけ盛り上がっちゃったから、結構落ち込むと思うわ」
ショウコ「そうですね、フェルナンドも傍目から丸わかりなくらい喜んでましたし」
フォルカ「だが、俺たちが考えても仕方がないのではないか?」

 

それまで黙っていたフォルカが言った。

 

フォルカ「これはアイビスとフェルナンドの問題だ。解決するならば、あの二人だけだろう」
イルイ「うん、そうだね」
ツグミ「でも……」
イルイ「大丈夫だよ、ね」
フォルカ「ああ」

 

何か確信があるらしいイルイがにっこり笑ってフォルカを見ると、フォルカも大いに頷いて見せた。
その二人を見て、ツグミとショウコは顔を見合わせた。
本当に大丈夫なのかしら?と不安が拭えない顔で。

 

アイビスが部屋に篭城して数時間後。
こんこん、とドアがノックされた。
アイビスはベットの上で膝を抱え、その膝に顔を埋めていたのだが、その音に反応して顔を上げた。
ツグミかな?
でも会いたくない。
だってあんな恥ずかしいことがあったのに!どういう顔で会えばいいっていうの!
勝手に一人で舞い上がって、勘違いして、煽り立てて。
結局何もなかったのに。
それなのに、子供の話まで持ち出して自分はなんてバカなことしたんだろう。
恥ずかしすぎて、今すぐ消えてしまいたいほどだった。適当な穴があったらすっぽり収まってほとぼりが冷めるまで埋まっていたい。
こんこん、とまたドアがノックされる。
でもアイビスは返事をしなかった。
お願い、今は誰とも会いたくないんだ。頼むからひとりにしておいてよ。
そんな風に願いながら、また膝に顔を埋めた。
と、その時、

 

『アイビス』

 

ドアの向こうで呼びかけられた。
それはツグミの声ではなかった。
びくりと体を震わせて、アイビスはドアの方を見る。

 

アイビス「フェル、ナンド……?」

 

その声は、今一番聞きたくない人の声だった。

 

フェルナンド『アイビス、いるんだろう?入れてくれないか?』

 

アイビスはうろたえる。
どうして!何でここに!
大方ツグミに呼ばれでもしたのだろう。もう!どうしてこんな時に!
ベットの上から慌てて降りて、アイビスはどうしたものかと悩んだ。

 

フェルナンド『アイビス。入れてくれないなら、こっちから行くぞ』

 

え?

 

フェルナンド『ツグミが、部屋のドアをぶち破ってもいいと言ってる。ドアから離れていろ、今蹴り破っ』
アイビス「だ、だめっ!!開けるからっ、今開けるから!」

 

なんて無茶なことを!と思い、アイビスはドアの鍵を解いて開けた。
そして目の前に、にっこり笑ったフェルナンドが現れた。

 

フェルナンド「最初からそうしていればいいんだ」

 

なんて顔で笑うんだろう。
たくさんたくさん悩んでいるのに。
二人の間の事、何一つ進展なんてしてないのに、何もなかったのに、舞い上がって。
なのに、フェルナンドがとても優しい顔で笑うから。
アイビスはもう何も言えなくなって、そのままフェルナンドの胸に飛び込んだ。

 

フェルナンド「ア、アイビス!?」
アイビス「このままで、いて」
フェルナンド「え?」
アイビス「お願い」
フェルナンド「あ、ああ、解った。……このままに、しといてやる」
アイビス「ありがとぉ」

 

ぽんぽん、と背中に回った手が優しく叩く。
もう片方の手で髪を撫でてくれた。
なんだろう、もう、どうしようもなく、泣きそうだ。
しがみ付くようにフェルナンドの胸に顔を押し付けて、アイビスは目を閉じた。

 

イルイ「ね?なんとかなるでしょ?」
フォルカ「そうだな。あとはあの二人が自力で解決するだろう」
ツグミ「はぁ、もう、人騒がせなんだから」ジィーーーーー
ショウコ「と言いつつも撮影には余念がないですね」
ツグミ「当たり前よショウコちゃん!だってもう夏の祭典がもうそこまで来てるの!ネタが必要なのよ!」
ショウコ「あ!そうでしたそうでした!印刷所、まだ間に合いますかね?」

 

フォルカ「夏の祭典とは何だ?」
イルイ「後で解るよ。たぶん、フォルカは連れて行かれるだろうから」
フォルカ「?」