夏の日々

Last-modified: 2021-09-08 (水) 16:03:51
833 名前:耳もぎ名無しさん 投稿日:2006/09/19(火) 22:11:53 [ NBFzItWQ ]
タイトル 『夏の日々』
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町外れの一軒家で、その家族は住んでいた。
父親のギコは、たまに金の無心に来る以外は寄り付かない。
母親の稼ぎだけで貧乏ながらも幸福に暮らしていた。
長男のチビは少しずつ知恵を付け始めた可愛い盛りの年頃で
双子のベビも乳離れして自力で這いまわれるほどには成育していた。

今日も母は、チビにベビ達の世話を任せて仕事に出かける。
そして悲劇は始まった。母親は、不幸にも「しぃ族」だった。
仕事に向かう途中で虐殺者に目を付けられて刃物で切り裂かれ
嬲り殺しに遭って絶命しても、誰1人として気に止めはしない。

■母親が帰らなくなった初日■
蝉の鳴く声が、ひときわ騒がしくなる正午。
窓から硝子越しに差す陽光が、部屋を明るく照らしている。

「アツイデチ。ママハ、マダデチカ」
だらしなく大の字に寝そべって、パタパタと自分の手で胸元を扇ぎながらチビが愚痴を言う。

いつもなら昼休憩を利用して母親が戻ってくるはずで
食事を作ってくれて、クーラーのスイッチも入れてくれるはずだった。

「アチュイヨ、ママ、ママァ。ナッコ」
言葉を覚えたばかりのベビしぃが、クーラーの下へと這っていって
泣き声をあげた。もちろん、泣いたって涼しい風は出てこない。

チラリ、とチビがテーブルを見上げる。そこにリモコンがあって、
ボタンを押せばクーラーから涼しい風が出てくるのだと知っていた。

「ダメデチ。ママガ、イッテタデチ」
勝手に触ると母親に叱られる。チビは唇を噛んで目を閉じる。
母親がクーラーを付けてくれるのは、朝と昼にそれぞれ1時間だけ。
そう決められていた。電気代が家計に響くから節電のためだ。
それでも、ひとときの涼しさでチビ達は日干しにならずに済む。
それが今日は、まだ訪れない。

「……アツイデチ」
ごろん、と寝返りを打って薄目を開けると
泣きつかれたベビしぃが丸くなって眠っているのが見えた。
いつの間にか、もう1人のベビも寄り添って一緒に眠っている。

あんな窓際で寝てたら暑いのに、と思ったがすぐに、
どこにいても暑さは変わらないと思い直して唇を尖らせる。
動くと暑いし空腹も増す。チビは再び目を閉じ、そのまま眠った。

■2日目■
小鳥のさえずり。真昼よりは柔らかな光の中で、3人は目覚めた。
ベビ達は理解していなかったがチビは朝になったのだと思った。

「ドウシテ、ママハコナイデチカ?」
それに…… チビは、腹をさすりながら情けない表情をする。

「オトイレ、イキタイデチ」
昨夜テレビで見た怪奇ドラマ『トイレの花子さん』が
脳裏にこびりついているチビとしては、1人では行きたくない。

「ママ、オトイレイキタイデチ」
しばらく、その場で意味もなく足踏みをして耐えていたけれど
いつまでも我慢できるものではなく。
「ウーウゥーモウ、ヤケデチ」
怖いものは怖いんだと開き直ったチビが部屋の片隅で用を足した。

ベビ達のオムツの汚物も、同じ場所に捨てる。
母親がいれば新しいオムツに交換してくれるのだが
チビはオムツの替え方を知らない。脱がせたまま放置した。

「チビタンハ、ワルクナイデチ。ママガワルインデチ」
チビは一箇所だけをトイレ代わりに決めたけれど
ベビ達はところ構わず垂れ流しだった。
部屋のあちこちに汚物の染みがついている。
母が見たら怒るだろうと思いながら、チビは見ないふりをした。

「オニイタン、ナッコ。ナッコシテ」
無邪気にチビの元へと寄っていったベビしぃが言う。
ベビはお尻が汚れていて臭いし、くっつくと余計に暑そうだったが
チビにも兄としての自覚はあるのか、渋々ながらも抱き上げる。

「チィ、チィチィチィ」
それを見て、もう1人のベビも甘えた声で鳴きながら近づいてきた。
双子でありながら、こっちのベビはまだ喋ることができない。
いつも、ぼんやりとしてるか眠っているかの大人しいベビだ。
それでもチビの足に身をすり寄せる小さな身体からは
自分も抱っこして欲しいと訴えているのが伝わってきた。
チビはプゥッと頬を膨らませながらも、そのベビも抱いてやった。

小さなベビ達はソフトボール程度の大きさしかないし
体重も綿埃のように軽かったから、チビでも2人を同時に抱ける。
ベビ達は兄に抱かれて幸福そうな寝息を立て始めた。

834 名前:耳もぎ名無しさん 投稿日:2006/09/19(火) 22:14:38 [ NBFzItWQ ]
■3日目■
お昼。まだ母親は帰ってこない。
暑さに耐えられなくなったチビがクーラーのリモコンに手を伸ばす。
けれどテーブルは高くて背伸びしないと指が届かない。
失敗して床に落としたら、裏蓋が外れて電池が飛び出た。
気にすることなくリモコンを拾い上げ、ボタンを押してみても

「アレ、アレアレアレ。ナンデ、スズシクナラナインデチカ」
電池がなければ動作しない、ということまでは知らなかった。
隣ではベビ達が空腹を訴えて泣いている。蝉の喧騒よりも疎ましい。
耳障りな泣き声。空腹なのはチビも一緒だし、暑さで眩暈がする。
汗をたくさんかいたせいで全身が塩っぽくて気持ち悪い。
お水が欲しい。咽喉が渇ききって唇がカサカサになっている。
それなのにキッチンの流し台にはチビの身長は届かなくて。
母親がいないと水は飲めないのに、その母親は帰ってこないのだ。

チビの中で激情が爆発した。奇声を発して、怒りのままに
リモコンを床に叩きつける。リモコンの液晶部分に亀裂が入った。

「タスケテデチ、ダレカ、ダレカ!! チビタンタチヲ、タスケルデチ」
扉に駆け寄ってノブをつかもうとしたが手が届かなかった。
仕方なく、厚い木製の扉を拳で連打する。
皮膚が擦れて血が滲んでもチビは扉を叩き続けた。叫び続けた。
だけど、無駄だった。どんなに泣いても叫んでも、
町外れの一軒家では誰の耳にも届かない。体力を消耗するだけだ。

先程から身を焦がしている窓を睨んでも、その窓の先にあるのは庭。
垣根に覆われているから外から部屋の中を覗くことはできない。
たとえ誰かが通りかかったとしても、チビ達に気づくことはない。

「ドウシテ、コウナルデチ!! ナニモ、ワルイコトシテナイノニ!!」
泣きながら暴れる。感情のままに椅子を投げ倒し

――その椅子を踏み台に使えば、水が飲めたのに。
扉を開けて外に出ることもできたのに。
悲しいくらい幼いチビには、それが判らなかった―――

ベッドの周りを覆うように整然と並んでいた箱を蹴り飛ばした。
「オニィタ……グピァア!!」
更に暴れようとしていたチビの足裏に、柔らかいものが触れた。
続いてゼリーのような感触が、踝の辺りまで広がる。

短い悲鳴と生肉を潰したような感触に慌てて足をどかすと
そこには下半身を踏み潰されたベビしぃがいた。
荒れる兄を心配して、慰めようとして寄ってきたらしかった。

火がついたように泣き喚くベビしぃ。
自分がやったことに対する恐怖にチビは竦みあがった。
じとり、と嫌な汗が背中を伝いおちる。

「ナカナイデ。ナカナイデホシイデチ」
母に見つかったら叱られる、とチビは思った。
焦りながら、ベビしぃに話しかけるが、もちろん泣き止むわけがない。
「ナカナイデ、ゴメンデチ、ゴメンデチ、イイコイイコ。ナキヤムデチ」
頭を撫でようとしたら、恐怖に引き攣った顔で逃げようとする。
「ナンデ、ニゲルンデチカ」
苛立ちを声に出すと、一気に不満が爆発した。

「ナクナッテ、イッテルンデチ」
嫌がるベビしぃを無理やり捕まえて、チビは剣呑な表情で言った。
でも泣き止まない。
「ワルイコデチ。ワルイコハ、オシオキデチ」
チビは玩具箱の角にベビしぃの口を力いっぱい打ちつけた。八つ当たりだ。

「ウルサイノハ、コノクチカ、コノ、クチ、デチカッ」
ガツッガツッと何度も同じ角に口を打ちつけるたびにベビしぃが悶絶する。
「ギジイィィィィィィィィィィ」
「マダ、ダマラナイデチカ! コノ、コノ、コノォッ」

「ヒギィィィ、シィィィィィィィ」
「ダマレッ、ダマレッ、ダマレデチィィィ」
グチッグチャッと、執拗に打ち付け続けるチビ。
最初は絶叫していたベビしぃだったが、次第に体躯から力が抜けていった。
玩具箱の角はベビしぃの血糊でベッタリ不吉な輝きに染まっていた。
ベビしぃの口の周りは、鼻も顎も砕けて潰れていて
あの可愛らしかったベビしぃの面影は残っていなかった。

ベビしぃが悲鳴をあげなくなり、動かなくなった頃に
ようやくチビは正気に返る。手の中のベビしぃからは生気が消えていた。
怒りに任せて、とんでもないことをしてしまった、と青褪めたが遅すぎる。

「シッカリスルデチ、シナナイデホシイデチ」
抱き上げたベビしぃは、いつもより軽く思えた。
どんなに泣いても祈っても、小さい身体は、すぐに冷たく硬くなった。

835 名前:耳もぎ名無しさん 投稿日:2006/09/19(火) 22:15:23 [ NBFzItWQ ]
■4日目■
「………オナカ、スイタデチ」
もう喋ることはないベビしぃを抱いていたチビの虚ろな目に狂気の光が宿る。
自分は今、肉を握っているのだと思った。
鼻を近づけると、その生肉からは微妙な甘い芳香も感じる。
肉が腐る直前の臭いだった。

ひどく、魅惑的な匂い、だった。

我慢できず、チビは自分が踏み潰した腹から垂れている腸を啜った。
血が咽喉の渇きを癒し、肉塊が空腹を埋めてくれる至福に酔う。
何をしているか自覚はあったけれど、もう止まらない。
チビは、自分を慕っていたベビしぃを食べた。愛していた妹を。

「タリナイ、デチ」
幽鬼のようにふらふらと力なく立ち上がり
「オナカ、スイタデチ」
陰鬱な声音で呟きながら首をカクンッと不自然に動かす。
その目が、生き残っていたほうのベビに向けられた。

「アレッポッチジャ、ゼンゼン、タリナイデチヨ」
にいぃぃっと笑う。今までベビが見たことの無い表情だった。
チビの口元と歯は血で濡れて、その赤は目に痛いほど鮮やかだった。

「チィィィィ、ヂイィィィィィィィィ」
ベビは悲鳴を上げて逃げ惑った。
チビのほうが力は強かったけれどベビのほうが身軽で動きが早い。
前日チビが蹴り乱した箱の隙間から、ベビはベッドの下へ潜り込むことに成功した。

「デテコイデチ、コノヒキョウモノ!」
ベッドの足は短くて床との隙間は狭くて、チビは入れない。
怒りの声を上げてベッドを動かそうとしても
大人の力ならともかく、まだ小さなチビには無理だった。
チビが暴れている気配を感じながら、ベビは身を丸めて震えていた。

■5日目■
眠りから目を覚ましたベビが耳を澄ませる。
微かに上からイビキが聞こえるからチビはベッドで寝ているのだろう。
溜息をついて、ぼんやりしていると目が闇に慣れてきて
ベッドの片隅に袋が置かれていることに気づいた。

それは母親が緊急時のために蓄えていた防災袋だった。
中には簡易救急セットや懐中電灯、そして水と食料が入っていた。
母子四人が数日、生きられるだけの分が蓄えられている。

「チィ、チィチィ」
喜びの声を無邪気にあげながら、ベビは久しぶりの食事を楽しんだ。
頭上のイビキが止まったことにも気がつかなかった。

殺気にも似た視線を感じてベビがそちらに首をかしげてみると
チビがベッド下を血走った目で覗きこんでいた。
食べ物をよこせと怒鳴る声に、ベビは怯えて竦み、動けなかった。

空腹と苛立ちが高まっているチビの目の前で、弟が食事をしているのだ。
しかも、たっぷりと。贅沢に。

自分は妹の肉まで食べて生き長らえようとしたのに
弟はマトモな食事を食べて、それを兄である自分に分けようとしない。

再びチビは怒りの声をあげて、無意味に荒れる。
手当たり次第に物を投げ飛ばし、壁やベッドを蹴りつける。
体力を消耗し尽くして、疲れ果てて眠るまで、暴れ続けた。

■6日目■
ベビは空腹になったら、お腹がいっぱいになるまで食事をした。
チビは狂ったように叫び、泣き、ベビを罵倒する。
甘い声で優しく誘えばベビも食料を持ってきたかもしれなかったのに
それを考え付くだけの余裕がチビには残っていなかった。
飢えより渇きのほうが辛くて、汗や涙すら舐めてみたけれど
それで渇きが癒えるはずもなく、徐々に衰弱してゆくだけだった。

836 名前:耳もぎ名無しさん 投稿日:2006/09/19(火) 22:16:27 [ NBFzItWQ ]
■8日目■
チビはもう騒がない。床にクレヨンで何かを書いていた。
ぐったりしていて、もう生気が感じられなかった。

書き終えたチビが、ゆっくりと緩慢に目を閉じる。
「オナカ、スイタ、デチ……ママ」
そして、そのまま目覚めることはなかった。

■15日目■
チビの遺体は窓から差し込む直射日光に灼かれて
蛆が涌く間もなく干からびて、ほとんどミイラになっている。
ベビのほうは貴重な糧をすべて食い尽くしてしまっていた。

夕方頃に、ドアを叩く音がした。
「ゴルァ、しぃ。いないのか? ちょっと金を貸してくれ」
それはベビ達の父親だと、チビが生きていたら気づいただろう。

でもベビは、滅多に家に寄らない父のことを覚えていなかった。
知らない人が来た、と怯えて固まっているばかりだった。

ドアを叩く音は、チッという舌打ちとともに止まった。
やがて、足音が遠のいていき、ベビはほっと息をつく。
自分が助かる道を失ってしまったということには気づかなかった。

■16日目■
ベビは夢を見た。幸福だった頃の夢を。
ママが美味しいミルクをくれて、双子の妹と戯れて。
遊び疲れたら兄が抱っこしてくれる。

幸せな、夢。

起きたとき、ベビには夢と現実の区別がつかなくて、
ようやくベッド下から這い出した。

抱っこして欲しくて兄のところに向かったのに、兄は動かない。
ベビは兄が寝ているのだと思った。
退屈だから、あちこちを意味もなく動き回っているうちに
トイレのドアが少し開いていることに気がついた。

「チィチィチィ」
中からは、水の匂いがする。
ベビは喜んでドアの隙間に手を差し込んで、中へと侵入した。
段差の無いタイプで和式の水洗式だったから、ベビも中を覗ける。
便器を見たのは初めてだったからベビに「汚い」という概念はない。

底に溜まっている水を求めて手を伸ばし、そして、落ちた。
パシャッと水飛沫が上がる。水位が低いから溺れることはない。
便器の淵まではベビの手が届かなくて、もう自力では脱出できない。
そんな状況に陥っていても、深く考える知能が発達していないベビは
大はしゃぎで行水気分を楽しみ、水を飲んだ。

■19日目■
便所水は、ベビ自身が垂れ流した糞尿で汚れきっていた。
口に入れると苦くて咽喉に絡んで、もはや飲める状態ではない。
ベビは泣いたけれど、泣いてもどうしようもなかった。

なんとかして逃げようともがいているうちに。
ベビは便器の上方へと移動して、そのまま深みへと嵌った。
足が底につかない。水は浅い溜まり場よりは綺麗だったけれど
溺れていては喜ぶこともできはしない。
息をしたくて口をあけても、肺に入ってくるのは水だけだった。

時を同じくして、ようやく妻の死を知ったギコが再び家に訪れた。
妻が遺した家の権利書と家財道具を売り払って金にするために。

妻に信用されていなかったギコは家の鍵を持っていなかった。
だから少し無理をして庭にまわり、窓から中を覗き見る。
部屋の中央でパリパリに乾ききったチビの亡骸が目に飛び込んできた。
周辺が赤黒く染まっているのは血の痕だろうか。

「ちくしょう。やっぱりガキは死んでやがったか」
庭石で窓を割って中に入り、変わり果てたチビに駆け寄ると
チビがクレヨンを握り締めていることに気がついた。
床面にはチビが書いたと思われる歪んだ文字が広がっている。

たべたいたべたいたべたいたべたいたべたい
たべたいたべたいくるしいたべたいたべたい
たべたいべびばかたべたいたべたいたべたい
ままどこたべたいたべたいたべたいたべたい
たべたいたべたいたべたいたすけてたべたい
たべたいたべたいたべたいたべたい べびごめん

「食べたい」の文字が乱雑に繰り返されている。
よほど餓えていたのだろうと悟って父親の表情は曇った。

837 名前:耳もぎ名無しさん 投稿日:2006/09/19(火) 22:17:45 [ NBFzItWQ ]
亡骸はチビだけしか見当たらない。
「べびごめん」の文字とチビの口周りの毛皮にこびりついた血で
父親はチビがベビたちを殺して喰ったのだと理解した。

チビの肉と血は乾ききっているから、嗅ごうと意識しなければ
強い異臭は感じられなかったし、見た目もそれほど無残ではない。
それでも、我が子が苦しんだ形跡はくっきりと残っていて。

「ぐっくぅ」
思わず、口元に手をやる。
吐き気を覚えてトイレに走り、思いっきり吐いた。
便器の中に汚物があることには気づいたけれど
それはチビが用を足したあと水を流すのを忘れたのだと思った。

深い溜まり場の部分に白いものが浮いていることにも気づいたが
父親は、それはトイレットペーパーを丸めたものだと錯覚した。
なににせよ、吐き気で必死の父親は一瞬しか便器内を見ない。

胃液まじりの内容物を総て吐き出す父親。
それは浅場だけではなく深場にも流入してベビの白い身体を覆った。

このときベビは虫の息ながらも、まだ生きていた。
父親が、自分の吐いた汚物をしげしげ見つめていれば
汚物にまみれたベビが弱々しく動いていることに気がついただろう。

それでも、そこにベビがいることなど想像もしない父親は
さっさと水洗レバーを引いてトイレから出て行った。
やらなくてはいけないことは、たくさんあるのだから。

ベビの身体が水流でコマのようにクルクルと廻る。
頭や身体をゴンゴンと硬い便器に打ちつけて
痛みで小さく悲鳴を上げるたびに汚物と水が咽喉奥へと流れ込んだ。
ただでさえ瀕死のベビにとって、それは致命的だった。

水流が止まった頃。
汚物はすべて排水されて、ふんわりとベビの白い死骸が浮いた。
父親がこのベビに気づくまでには、まだ少し時間がかかるだろう。

ー終ー

恐らくAA化→とあるオニーニ一家:種族と背景設定が大きく異なるが、登場人物の数・構成・末路が共通している。
続編(?)→『報復』:母親のしぃの死因に矛盾が生じている*1が、ギコの境遇・家族の末路の証言が本作の状況と一致している。


*1 本作:虐殺厨に殺された あちら:アフォしぃに殺された