概要
もともと【ビホルダー】は『D&D』に出てくるオリジナルモンスターであったのだが、
その特徴的な外観から人気が高く、他作品でもそのまんまの姿で登場することが多かった。
しかし、これは立派な著作権侵害行為であるため、このままでは歯止めが効かなくなる、
と判断したTSR社(当時のD&Dの版権元)がD&Dのモンスターの無断使用を取り締まり始めた。
2012年現在でも、D&Dの版権を管理している「Wizards of the Coast(超有名TCG『マジック・ザ・ギャザリング』を生んだメーカー)」社が取り締まりを継続している。
有名な出来事として、「鈴木土下座ェ門事件」が挙げられる。
これは、「BASTARD! 暗黒の破壊神」にて、雑誌連載時は「ビホルダー」表記だったモンスターが、単行本化した時には「鈴木土下座ェ門」に改名され、絵も書き直された。
オリジナルのモンスターを勝手に使用されたことで企業側が抗議し、謝罪の際に当時担当編集者であった鈴木氏が土下座したためこのような名前に変更された…らしい。
- その頃の少年ジャンプが「怪物雑誌」と言われるほど売れていた事、そしてその影響力が良くも悪くも強かった事の証左と言える。
- 後の「燃える!お兄さん」における「用務員差別発言(ネット普及の頃に再び話題となり、「用務員」が「校務員」と改められるきっかけを作った)」のように、ジャンプ回収騒動にならなかっただけまだマシと言えるが…。
(不買運動にまで至った経緯はある)
- 後の「燃える!お兄さん」における「用務員差別発言(ネット普及の頃に再び話題となり、「用務員」が「校務員」と改められるきっかけを作った)」のように、ジャンプ回収騒動にならなかっただけまだマシと言えるが…。
少年ジャンプのグルメバトル漫画『トリコ』でも「グランドシャーク」というモンスターが出るが、これがDQシリーズで出るモンスターと同名・デザインも酷似っていう事で苦情が殺到。
単行本では外見も名前(グレイトレッグとなる)も別物に変更している。
- グランドシャークについてはちょっと異なる。
これは元々DQMキャラバンハートに登場した後に、『トリコ』に読者応募デザインとして登場したという経緯。- つまり盗作を行ったのはこれを応募した読者であり、『トリコ』の作者及びジャンプ編集部はパクろうとしてパクったわけではない。
……とはいえDQシリーズの情報を数多く掲載しているジャンプの編集スタッフたちが盗作に気付かずに、あまつさえ採用してしまったのはそれはそれで大問題だが。
- つまり盗作を行ったのはこれを応募した読者であり、『トリコ』の作者及びジャンプ編集部はパクろうとしてパクったわけではない。
- 元作品(DQMキャラバンハート)のどうしようもない知名度の低さ的にどうしようもない部分でもあるがね…。
DQ側のコミュニティでも「気付けなくても仕方ないね」「気付けとは酷な事を言うものだ」という意見がかなり多いし。 - 当のグランドシャークはそれで名前が売れたのか、キャラバンハート産モンスターでは珍しく最近のモンスターズシリーズに連続出演を果たしている。
人生(モンスター生?)万事塞翁が馬。
なお「BASTARD!」では「魔術を極めるため自らをアンデッド化した、ローブをまとった骸骨のような姿をした魔導師」という設定のキャラを出す際、
当初その種族自体の呼称を『リッチー』とする予定であったが、
同様の事情から自主規制により「種族名は『エデ・イー』で、登場した個体の個人名が『リッチー』」に変更したことがある。
だがFFシリーズでは現在に至るまで「リッチ」についてはFF1で登場して以降一切名称変更等の処置は採っておらず、複数のシリーズに登場し続けている。
ところが近年になって「鈴木」という担当はいなかったという話が出てきて、土下座ェ門も適当につけられた名前だという情報が…。
実際のところ版権元が本当に土下座を求めるほど怒っていたかは謎なのだが、
もし違うとすれば版権元も「鈴木土下座ェ門」という名前のせいで余計なイメージを植え付けられた可能性がある。
FF1
FC版FF1ではそれぞれ【ビホルダー】 【デスビホルダー】という名前のモンスターが登場していたが、
その後のFC版FF1・2にて外見が細長い新規のグラフィックに差し替えられ
(ただしNTT出版の攻略本では名称がイビルアイ・デスアイに変わっている)、
WSC版以降のリメイクでは名称も【イビルアイ】 【デスアイ】に変更されている。
- FC版FF1・2の時点ですでに「ビホルダー」の姿と名前を避けようという動きがあったのは間違いないが、ゲームでの改訂が不十分で攻略本と差異が生じてしまったらしい。
尚、アルティマニア大全集バトル編には修正前のVerが掲載されている。 - VC版ではグラフィックだけでなく、名前もイビルアイ、デスアイに正された。
FF1での名称変更は公式に理由が説明されてはいないが、
鈴木土下座ェ門の事件を知ったスタッフが自主的に(もしくはクレームを受けて)変更したのではないか?というのが一般的な見解。
魔界塔士サガのビホールダーもWSC版からはデスアイになっている。
- 以降のサガでのリメイクでも同様。
参考サイト
FF1ビホルダー問題
余談
この問題におけるもっとも重要な点は、「D&Dのビホルダーを無断で模倣&使用すること」にある。
名称を使うことは大した問題ではなく(「beholder」自体は一般的な英単語なため)、その特徴(D&Dのビホルダー)を模倣することこそが問題となる。
- ビホルダー(beholder)自体は英語で見つめる(behold)+者(er)という一般名詞のため、
これだけならサブタイトルなどに使っても無問題(実際『ゴルゴ13』にBEHOLDERという回がある)、D&Dビホルダーのデザインなどを含めて版権が成立する。- 例えるならスライム(slime)は英語の「どろどろ(ぬるぬる)したもの」という一般名詞で、かなりのファンタジー作品に普通にこの名前で出てくるが、
「水滴状の顔のある“あの”スライム」を勝手に出したらエニックス(スクエニ)や鳥山明からお呼びがかかるというような理屈である。
- 例えるならスライム(slime)は英語の「どろどろ(ぬるぬる)したもの」という一般名詞で、かなりのファンタジー作品に普通にこの名前で出てくるが、
- スクエニマウスって名前の、どっからどう見ても浦安のネズミを無許可で登場させたらどうなるか…。
でも昔は勇者の墓シリーズみたいな、「スタッフのちょっとしたお遊び」があったりもしたのです。
ろくな付き合いもない海外企業相手にできる遊びじゃないのは確かだけど。- 著作権の問題はさておいても、こういう「インスパイアの数珠繋がり」には文化的な意義があると思う。
FFではオチューやマリリスなど、D&Dが由来と思われるモンスターが多数登場する。
中でもマリリスは姿も名前もそのままなのだが改名はされていない。
オリジナリティの高いデザインと命名だから、ビホルダーよりよっぽどマズいんじゃないかと思うのだが…。
- 当時社会現象でもあった超有名マンガ雑誌のジャンプだから問題になった→問題になったからFFも倣った、と言う流れであり、FFが直接問題になった訳ではない。
今でこそ超大作RPGであるFFも、かつては有象無象のDQフォロワーの一つに過ぎなかった訳で、
あっちだっていちいち相手にしてられなかっただろうし、もしジャンプで問題にならなければFFも特に配慮はしなかったのだろう。 - ビホルダー問題を受け、悪魔城ドラキュラシリーズの「ドゲザー」のような「ビホルダーを模したが名称は違う」というモンスターが登場したりもした。
アーリマンももしかしたらこの事件を受けてデザインされたのかもしれない(十分オリジナリティのあるデザインだとは思うが)。
2011年現在までにいくつかのゲームで「ビホルダー」の名称が使用されているが、鈴木土下座ェ門事件レベルの騒ぎになったというケースは無い。
- スクエニ関係なら「ミスティックアーク」でも「ビホルダー」「ブルービホルダー」という敵が登場しているが、
元々の作品がマイナーである事やリメイクもされていないことから話題にすらなっていない。 - FF11でも2010年にビホルダーが登場した。
ただし、外観はヘクトアイズ族であるし、クレームも受けていないため、著作権に関する問題点は無いと思われる。- その後FF14でも2015年にビホルダーは登場した為やはり問題はなかったのだろう。外観はディープアイに変わってはいるが。
- 『ウィザードリィエンパイア』シリーズではデザインが酷似した『ビボルド』『アンデッドビボルド』という敵が登場する。
モンスターグラフィックの大半は後の『エルミナージュ』シリーズに流用されているが、この二体のグラフィックも名前も流用されていない。- 2013年2月20日に『ウィザードリィエンパイア3』のPSP版がダウンロード販売される事になったが、それによりどう変更されたのかは報告待ちの状況である。
WotCとしては、巨額の金銭のやり取りが発生したり、オリジナルモンスター・用語などの起源の主張をしたりなどしない、とどのつまり常識的な範囲なら大事にはしない方針らしい。
ただし、モンスターのビジュアルに関してはイラスト集などの二次展開などが行われていたりするため注意を要する。
D&Dのイラストがほぼそのまま使われているFF1は実のところかなり綱渡りっぽい。
- WotCはオリジナルモンスターの中でも無断使用厳禁なモンスター、アイテム等の情報を企業向けに公開している。
- 一方でWotCのほうもかなり気を配っている。
MTGでは高騰した古い強力なカードについて「再録禁止カード指定」を設け、個人バイヤーやセカンダリーマーケット(シングルカード販売店)に公表したりもしている。
カードの値段を引き下げないようにするためである。- アメリカは訴訟大国ゆえ、訴訟されたり回収騒動になると社会的信用に関わる大騒動になる。
検索すると一枚数十万円の取引、デッキ強盗目的の殺人…という知らない人から見れば常識外れの出来事が多数存在する。
こうしてみると互いに訴訟沙汰や騒動を起こすことがいかに命取りになるかが窺える。
- アメリカは訴訟大国ゆえ、訴訟されたり回収騒動になると社会的信用に関わる大騒動になる。
- リッチ、グールなどはそのリストにないので使ってもとりあえず問題はない、らしい。
- でもビホルダー、マリリス、マインドフレイヤーはリストに…。
著作権がらみの似たような騒動に【妖怪変紀行問題】なんてのもある。こっちはゲームそのものの開発が中止になった。
サガシリーズでもリメイクの際(WSC版「魔界塔士Sa・Ga」、DS版「サガ2秘宝伝説 Goddess of Destiny」)、「ビホールダー」は「デスアイ」に変更されている。
- トールキン・エステートが権利を持つ「ホビット」も、
著作権絡みの問題で現在では「ハーフリング」「ポークル」「クラッズ」「ホートルット」など、特徴を残した別の種族に変更されている。- 同様の理由で「ミスリル」、「バルログ」も使用しちゃダメ。英語版ではSilverにかえられてたりするが、日本語版は発音の違いで切り抜けるつもりなんだろうか。
- 現在バルログで検索すると圧倒的にストリートファイター一色になるな。
- 英語版FFでは「Mithril」の綴りを「Mythril」に置き換えて対応していることも多い。
- 聖闘士星矢に出てきた『天英星バルロ “ン” のルネ』とかも 。
D&Dのホビットが「ハーフリング」に変更された件については上記のように著作権侵害を避けた説もあるが、
他の登場種族である「エルフ」「ドワーフ」が一般名詞であるため単純にそれに揃えただけという説もあり、
実際に他のゲームでは未だ「ホビット」を普通に使用しているケースも見られる。
- そもそも「ハーフリング」も実のところトールキンの造語であり、「指輪物語」作中でホビットの存在が半ば伝説化した地域における呼称として使われている(日本語訳では「小さい人」表記)。
「ホビット」の名前はD&D側が自主的に変更したという開発者の言もあり、トールキン側がどこまで自身のオリジナル名称の使用を嫌ったのかは多分に曖昧である。 - 「ハーフリング(halfling)」自体は英語(正確にはスコットランド方言)の一般名詞だよ。意味はそのまんま「半人前」。
- 実際にDQシリーズでは一貫してホビットという名称が使われている。
- DQでは「ミスリル」も未だに遠慮なく使われてるし、なんかあったのか。裏取引とか。
- まあ最初はホビットで出したわけだから、D&Dを作る時点で「ああいうのやりたい」というオマージュから入ったのは明白なわけだな。
著作権の回避であれオリジナリティの発露であれ、ある程度自立して小ネタの粋を超えたら元ネタ離れしなさいという話ではある。 - なお、近年の日本製ファンタジーコンテンツでは国産TRPGソードワールドに倣い、
ビホルダーに相当するモンスターとしてバグベアード、リッチに相当するモンスターとしてノーライフキング、ホビットやハーフリングに相当する種族としてグラスランナーという名称が登場することも多い。- ただし、バグベアードは精霊のバグベア(目玉要素はまったくない)を元に水木しげるが創作したオリジナル妖怪、
ノーライフキングはいとうせいこう氏の小説に登場したアンデッドとは無関係の存在であるため、海外産のゲームにはほぼ登場しない。
- ただし、バグベアードは精霊のバグベア(目玉要素はまったくない)を元に水木しげるが創作したオリジナル妖怪、