六巻

Last-modified: 2007-12-04 (火) 22:10:18

道を兵士たちが並んで歩いて行く
遠くの敵と戦をするため
狂ってしまった時間の中に――
――――― 死ぬためだけに 歩き続ける
誰が知っていようか 奴等の腹の底
何も見えないほど真っ暗なのに
風の吹く野原に立って死体の数を数えている
広場で兵士たちが輪になって踊っている
だけどそんな暇は無い
逃げ延びるために 生命を長引かせるために
世界の果ての時計台から
腐ってしまった影が
赤い野原に散っていくのを
腕を
腕を
腕を組んで
笑っている
道を兵士たちが並んで歩いて行く
遠くの敵と戦をするため
狂ってしまった時間の中に
死ぬためだけに 歩き続ける
歩き続ける
歩き続ける
歩き続ける


……が…………の
……英…国 ………が
………の

(キュイイイッ キュイイッ)

……保…本部のペンウッド…将…であ
この通信が届いているかわからない
しかし 誰かに届いていると信じて送信する

もうすぐここは陥落する もうすぐそこまで
化物たちがドアの向こうに すぐそこまで来ている

本施設より この通信を聞く「人間達」に
最後の命令を送る

抵抗し 義務を果たせ

司令…!! もはやこれまで…!!
私はゾンビになぞなるのは御免です ……お先に!! パン

カチン

ドッ
ドカッ

手こずらせたな能無し共 何がおかしい? 人間

無能な こ この わ 私より
無 無能な 貴 きッ貴様らがだよ

!! !! !!

さ さよ さようなら イ インテグラ
わ 私も楽しかったよ

やッ やめろォォ!!

嫌だ!! そんな頼み事は聞けないね!!

ドッ
(ザッ ザッ ザ───ッ)
(ザ───ッ ザ───ッ ザ─────ッ)


新当主?
君が…? ヘルシングのか!?
ウォルター!! こんな娘がかい!?

「こんな娘」がとは ずいぶんなおっしゃりようですねペンウッド卿

え あ いやその あ

私が当主のインテグラルヘルシングです
このたび叔父上を殺し当家を継承いたしました
「こんな娘」など呼ぶのはやめて頂きたい

あ いやその うんはい
こ これはすまなかった ご ごめん

父上は生前よくいっておられました
何か頼み事をしたい時はペンウッド様にお頼みしろ と

そッそうなんだアーサーの奴ッ!!
何かあるとこの私に無理難題ばっかり
や やれー新型の銃器よこせーとか
ヘ ヘリコプターよこせーとか
まったくあいつ――ッ

私も父上に負けずにいっぱいお頼りすると思います
どうかよろしく!!

え え――――ッ


!!

何事だウォルター
!!

インテグラお嬢様 すぐに車をバックさせ
別ルートを探して脱出なさってください

ウォルター!!

決してふり返らず!! 全速力で!!

いいですか 全速力で 全速力でです
決してふり返らず 何があっても全速力で逃げるのです

ウォルター!!

早く!!
今のこの私ででは あそこのあやつ
どれ程時を保たせられるものかわかりませぬ

執事(ウォルター)!!

はッ

命令だ 必ず生きて戻れ 必ずだ
はッ 仰せのままに


…………やはりッ
やはり貴様か!!

その通りだ少年!!
久しぶりだな執事!!
55年ぶりといった所だ

全く君という奴はいつもどうして
いつもいつも食事のじゃまに現われるんだい


「往生際が悪いお嬢さんだ いくらあがこうが 逃げようが 無駄だ
あきらめろ もはやこの倫敦(ロンドン)に この死都(ミディアン)
おまえたちが 逃げる所も 隠れる所も 存在しない
あきらめろ 人間!!」

あきらめろ? あきらめろだと 成程 おまえ達らしい いいぐさだ
人間でいる事に 耐えられなかった おまえたちのな
人間をなめるな ばけものめ 来い 闘ってやる」

「……ッ!! くッくくッ 上等じゃないか 女!! 上等ぉ!!」

ドカカッ

「…な…… ……あ な… 何… な゛ お゛ な…ん ら な゛んら゛ぼれわ(なんだこれは)!!
体が崩れ… こ… これは…ッ バッ… バッバ…ッ バッバイッ 銃剣(バイヨネット)!!」

ズゥルッ

「おまえは……ッ 法王庁(ヴァチカン) イスカリオテ 第13課…!!」

「殺し屋」「首斬判事」「再生者」「天使の塵」「銃剣」

「神父」

「アレクサンド アンデルセン!!」

「ははははッ 如何なされた アンデルセン殿
我らが マクスウェル殿より仰せ付かったご命令は未だ監視のはず」

「!!」

「ましてや彼のヘルシングを助けるとは 重大な越命行為ではありませんか」

「はははははははは 聞いたかハインケル 聞いたか由美江
鼻血を出しながら 雲霞のような化け物共の軍兵を前にして
かかってこい? 戦ってやる? ゲァハハハハハハッ
間違いない こいつらは この女は こいつらこそが 
我々の御敵よ 我々の宿敵
打ち倒すのは我々だ 打ち倒してよいのは我々だけだ
誰にも邪魔はさせん 誰にも渡さん 誰にも! 誰にもだ!!」

「貴様は第13課(イスカリオテ)!! 邪魔立てするか貴様!!」

五月蝿(やかまし)い!! 死人がしゃべるな!!
この私の眼前で 死人(デッド)が歩き 不死者(アンデッド)が軍団を成し 戦列を組み前進する
唯一の理法を外れ 外道の法理もって通過を企てるものを
法王庁(われわれ)が 第13課(われわれ)が この私が許しておけるものか
貴様らは震えながらではなく 藁のように死ぬのだ」


我らは己らに問う 汝ら何ぞや!!

我らは熱心党(イスカリオテ) 熱心党(イスカリオテ)のユダなり!!

ならばイスカリオテよ汝らに問う 汝らの右手に持つ物は何ぞや!!

短刀と 毒薬なり!!

ならばイスカリオテよ汝らに問う 汝らの左手に持つ物は何ぞや!!

銀貨三十と 荒縄なり!!

ならば!!
ならばイスカリオテよ 汝ら何ぞや!!
我ら使徒にして使徒にあらず
信徒にして信徒にあらず
教徒にして教徒にあらず
逆徒にして逆徒にあらず!!

我ら死徒なり 死徒の群れなり
ただ伏して御主に許しを請い
ただ伏して御主の敵を打ち倒す者なり
闇夜で短刀を振るい 夕餉に毒を盛る者なり
我ら刺客なり
刺客(イスカリオテ)のユダなり!!

時到らば我ら銀貨三十神所に投げ込み
荒縄をもって己の素っ首吊り下げるなり
さらば我ら徒党を組んで地獄へと下り
隊伍を組みて方陣を布き
七百四十万五千九百二十六の地獄の悪鬼と合戦所望するなり

黙示の(アポカリプス)日まで(ナウ)!!


しかし今の所 連中の活動はそれだけです
その気になればいくらもできましょうに 何故でしょうか

興味がない じゃまさえされなければ
それで充分い──んだ

英国とヘルシング アーカード以外
興味が無いんだ あのデブの少佐は
我々(ヴァチカン)すら 興味の対象外だ

そうはいくか 『横合いから思い切り殴りつける
そうだとも 我々は英国を
異端共から化物共から欧州へと奪還するのだ


クールランテ剣の友修道騎士会 総勢340名参陣
カラトラバ・ラ・ヌエバ騎士団 総勢118名参陣
聖ステパノ騎士団トスカナ軍団 総勢257名参陣
マルタ騎士団 総勢2457名参陣

ドーバー対岸 フランス アミアン

教皇聖下の御命により 我ら参陣いたしました
我らの参陣と同時に マクスウェル司教は昇進
マクスウェル大司教(アルキエピスコプス) になられます

我ら軍団は 第9次十字軍を編成
総指揮権力をマクスウェル大司教猊下に委ねます

ガッ
AMEN(たしかに) 全身全霊でお受けする
目標は 大英帝国 死都ロンドン!! 熱狂的再征服(レコンキスタ)を発動する

AMEN(エイメン) AMEN(エイメン)

くッ
くくくッ
くくくッ
くくッ

くくくくくッ
くくくくくッ
くくくくくくくくくくくッ

この私が…ッ 第13課のこの私が…ッ
鬼子と呼ばれ忌み嫌われた 食いつめものの成れの果てが
大司教だと!! 軍団指揮者だと!!

くくくくくくくくくくくく


なつかしい においがする

突き刺される男のにおい
切り倒される女のにおい
焼き殺される赤児のにおい
撃ち殺される老人のにおい

死のにおい
戦のにおい


アーカードが 来る

構わぬ マスター インテグラは我らの手にある
従僕一人何の事がある

ヘルシングも
ミレニアムも
アーカードも
消えて無くなる!!

全軍進撃!! 神罰の地上代行の時来たれり
AMEN AMEN


誰も彼も喜々として
地獄に向かって突撃していく

一体誰があの中で
皆殺しの野(キリングフィールド)
あの中で生き残るというのだ

きっと誰も彼も喜々として
死んでしまうに違いない
誰彼の中で


全基撃墜だ嬢ちゃん
新装備の調子は上々だな嬢ちゃん

『ハルコンネンⅡ』
30mmセミオート『(カノン)
最大射程4000m!!
総重量345kg
こりゃ馬鹿と冗談が総動員だ 嬢ちゃん

ベルナドットさんッ
嬢ちゃんっていうのやめてくれませんかッ
私にはセラスって名前が…

「ハッハッハッ そいつぁ悪かった!! 『嬢ちゃん』!!」

ロンドンの仇討ちをしようぜ
やっちまえ セラス!!


ロンドンが見えるか嬢ちゃん

見えます!!

ピカデリーもソーホーもコヴェントガーデンも灰になっちまった
あのロンドンがよ 今じゃ地獄と同意語だ
俺はロンドンなんて嫌いだ 古くせえ街だと思ったよ 俺にゃ全然合わねぇ町だと思ったよ
でもな 俺達が週末にくり出して行ってたキャバレーはビールが冷えててうまかったし
バーテンの兄ちゃんもくっだらねぇ下ネタが大好きなバカな奴でさ
売春宿の女郎たちは金に汚くてブスも多かったけど
でもな みんな優しかったし みんなかわいそうな目の奴ばっかりでよ

ヴァービー通りの定食屋のバアさんは 頼んでもねーのに
俺が行くとフィッシュ&チップスをいつも勝手につけやがる
俺が外人だからっつって 名物だからっつって 毎度毎度
俺 アレ油っこすぎて食えないっつってんのに
バアさんに悪いから毎度無理に食うのがつらくってさ

俺はロンドンなんか嫌いだ
でもな あいつらは バーテンや女郎達やバアさんはこの闘争とやらと何の関係もねえ
戦争もナチも吸血鬼も 何も関係がねえ
少佐って奴も第13課ってのも最後の大隊ってのも俺達HELLSINGも 知ったこっちゃなかった

でもあいつらは今 死体になって死体を食ってる
それが俺には勘弁ならねえ

セラス 仇討ちをしようぜ
やっちまおう あいつら やっちまおうぜ

…うん わかってる
わかってるよ 隊長 わかってる!!

目標!! 敵空中戦艦(フライングドレッドノート)!! 砲打撃戦用意!!
てぇ!!


(ボ ッ)

制御不能!! 制御不能!!
お… おちます!!

(ゴ バ …) (ボッ)
(オオオオオオオオ)

「おおッ」「やった」「やったぞ!!」
「タリホーッ」「タリホーッ」

まだです!!

そうだまだだ淑女共(レディス)
目をあけろ 来るぞ!!

(ザザザザザザザザ)

おちる寸前に脱出したんだ」
「そんなバカな!! 何もつけずにか!!」
「そうだ 奴らは人間じゃない」

化物だぜ!!
来るぞ がちょう共(ギース)!!
仕事の時間だ!! ロックンロール!!


「う…うえッ えぐッ えぐッ」
「ヒック ヒック ヒック」

「どしたい なんで泣いてんだおめぇ」

「がッ 学校でみんながッ おまえは人殺しの子供だって…ッ
おまえんちは金で戦争に行く殺し屋だってッ」

「そうだよ 本当の事のこった」
「うちは8代前からず~っと傭兵稼業だ
じいちゃんのじいちゃんのじいちゃんのじいちゃんからだ
おまえの親父だってコロンビアでおっ死んじまったんじゃねえか」
「おまえの出産の費用出すためにキバりすぎたんだよ
何だオメエ まだ知らなかったのか」

「お お おじいちゃんも おじいちゃんも人を殺したの………!?」

「あーあ 殺したよ すげえたくさん」
「なッ なんでだよッ なんで人を殺したりするんだよッ」

「傭兵が何のために? 金だよ」
「俺達が戦った連中の目的は 主義や主張 体制の打倒や体制の維持のため
侵略のため 防衛のため 故郷のため
家族のため 女のため 麻薬のため 食いもんのため いろいろだ」
「俺達はそういうのわかんねえ
大事な事だっていうのはわかる でもそういうの
別に銃を取らんでも何とかなるんじゃねえのと思う」
「つうか銃を取る事に そういう意味なんか必要なのか?
二束三文のはした金で充分じゃねえのかと思う」
「逆にいえば だ
二束三文のクソ駄賃が 俺達にとっては命を賭けるのに足りてしまうんだ」
「二束三文の金で世界中の鉄火場あっちゃこっちゃ出向いてって
二束三文でブッ殺したりブッ殺されたり
しかも誰にいわれたワケでもなく好きこのんで だ」
「戦場での二束三文の方が自分の命や他人の命より重い
 ウチの家系は割とそーいうホントに人間のクズの家系なんだ
悪いが学校でいじめられても仕方ないかもなあー」
「いや なに おまえもそのうちわかる時が来るんじゃないかな
なにせホラ おまえは俺達の孫だ」


隊長!!

嬢ちゃんは下がって補給だ
装備変更!! 急げ!!

来るぞ 前戯は終わりだ
今度は俺達の番だ
見てろよ嬢ちゃん 傭兵(ギース)の戦を見せてやる


残存兵員42名!!
あの弾頭 ただの代物ではありませぬ
半数以上と重火器の全てを失逸いたしました!!

されど我ら意気軒昂!!
ご命令を!! ゾーリンブリッツ中尉!!

充分だ 
奴らを鏖殺しにするには充分だ!!

殺す
全員殺す


ザ ザ ザ ザ ザ ザ ザ
「嬢ちゃん 吸血鬼ってのはアレだろ 人間離れした反射能力や運動能力
獣のように殺気を感じ 怖ろしいバカ力を持つ」

ザ ザ ザ ザ ザ ザ ザ

「人間の殺気を感じ 動きを読み心を盗んで鋭く動く
銃撃や剣撃をたやすく避け 相手を襲い血を貪るんだろ?」
じゃあ こういうのはどうだい」

チッ  ボ ン ッ

「な …ッ!!」

ド カ ッ
ザ ッ

「地雷原!! 地雷原だ!!」
「止まったぞ やれ」

ガチッ ガチッ ガチッ ガチッ
ド ッ
ボ ッ
ド ド ド ド ド ド ド
ド ド ボ ゥ ッ ド ゥ ブ ッ ズ ブ ォ ッ ゴ ッ

「AHAAAA」 「AAA」 「GAAAA」
「…… ………ッツ」

「BINGO!! 人間サマをなめるとこーなる」
「こ… こんなッ こんな仕掛けを……ッ!!」
しかけ? バカがつっこんでくるから悪いんだ 真正面から
殺気も心も動きも無い発動装置 そして点ではなく避けられない面攻撃
法儀礼済みボールベアリングのクレイモア地雷列60個の同時発火
避けられるモンなら避けてみろっつうの 俺たちゃケンカ弱いからよ
おっかねえから正々堂々とケンカなんかしねえぜ 軍人さんたちよう!!」


いい娘ですよね

ああ ホント バカみたいにいい娘だ
あんな娘死なせたら
男の名折れだ 地獄逝きだぜ なあ? おい

ですな
ウン
いや ほんと
まじで まじで

じゃあ悪いが おまえらの 命をくれ
ここが おまえらの 命の捨て場所だ
持ち場を墓穴と思えよ

隊長ー あのねー
ここは フツーは アレですよ
逃げたい奴は逃げろ!!とか
部下は脱出させて 自分だけ残るとかそーいうのですよ

何をいってやがる
おまえら小銭目当てに 好き好んで戦争屋になった 親不孝共じゃねぇか

さてと 死のうぜ 犬ども

畜生(ファック) 畜生(ファック)って いいながら 死のうぜ
腹に銃弾くらってよ のたうち回って

へへへ
そりゃそうだ
ちげえねぇ
まったくもって ちげぇねえや