105スレ/綿飴雲

Last-modified: 2014-07-08 (火) 01:56:05
636 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2014/06/30(月) 23:59:32.95 ID:iwjNaFoS0
すべりこみ6月まどほむ
綿飴雲
http://ux.getuploader.com/homumado/download/666/%E7%B6%BF%E9%A3%B4%E9%9B%B2.txt

http://hello.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1403262480/636

txtファイルはこちら

※途中微エロ まどっち視点でのキス描写有。方向性見失ってだらだらです。6月の初めの恋人まどほむ。
最初はまどっち視点のポエムっぽい話になるはずだったのにだらだらデートの相談やらキスやらの話に
まどほむください。ほむまどください。熱くて嫌になりそうな夏だからこそ、まどほむキスの夜を積極的に開催すべきですね(断言)



ふわふわと浮かぶ雲が流れていくのを見ると昔のことを思い出す。

小さい頃は白くて雄大なその姿に胸を躍らせた。白いワンピースを着ると自分もその仲間になれた気がした。
お祭りの時期になるとパパやママに連れられて、夜空の下で綿飴を買ってもらってすごく喜んでたっけ。
ふかふかのふわふわで甘くて、空にはこんなにもいっぱいの綿飴みたいな雲が浮かんでいるんだと思うと、何だかすごく楽しかった。

お友達を連れてどこまでも走って雲の行く先を見届けようとしたことがある。けど、そんなことやっぱり無理で
みんなで精一杯の知恵を持ち寄って、なんとか住んでいる街に帰ってきた。家に帰る頃にはくたくたになっていたなぁ。
今はもう、流れる雲の行方を知ろうとしない。

だけど、この雲がほむらちゃんの家まで向かうのなら、少しだけ雨を降らせるのは遅らせてほしいと思う。
香料入りの柔軟剤でふわふわになったシーツを抱きしめながら、私は雲にそんな願い事を託す。
この白い雲が流れていって、ほむらちゃんの目に留まるのなら、私の気持ちも運んでいってほしいな……


ここ2週間くらいなんとなくお互い忙しいんじゃないかと気を遣ってお出かけに誘えてない。
洗濯物を取り込みながら小さな溜息をついた。ほむらちゃん、何をしてるのかな。


「まどか、さっきパパの知り合いが来たときに頂いたケーキをほむらちゃんに持っていってあげたらどうかな?」

パパが声を掛けてくれた。さっき雲の行方を見つめてたから気づかれちゃったのかな。だってほむらちゃんの家の方角なんだもん。

「それはいいかも。でも、いいのかな。日曜のお昼時だからゆっくりしたいんじゃ……」

ほむらちゃんに会って一緒にお茶したいけど、迷惑じゃないのかな。でも、少しほむらちゃんの日曜日を見てみたい気もする。

「とりあえず電話してみたらどうだろう。嬉しいと思うよ」

「分かった。電話してみるね」

私はポケットから携帯を取り出してスライドさせる。待ち受け画面を見られると恥ずかしいので、背を向けながら……

繋がった。緊張するよぉ……!

「もしもし、暁美です」

「ほむらちゃん、まどかだよ」

「どうしたの?」

なんだか声を聞いたでも幸せな気持ちになる。ずっと聞いていたい……

「まどか……?」

「あ、ごめんね! 声、聞けて嬉しかったから……つい、ぼーっとしちゃって」

「そう……」

電話越しに少し嬉しそうに恥じらう息遣いが伝わってくる。私までどきどきする。

「あのね、ほむらちゃんに会いたいんだけど、今からお邪魔してもいいかな?」

「……ええ、いらっしゃい。あなたからのお誘い、すごく嬉しいわ」

とても機嫌良く応じてくれた。嬉しい。会いたいって気持ちを伝えられて良かった。
通話を終えると、おめかしをして出かける準備をする。気に入ってもらえるといいな。


午後二時。雲間から覗く青い空に胸を躍らせて歩き出した。白い雲はまるでほむらちゃんの家への道標のよう。

この白い雲に沿っていけばほむらちゃんの住む家に辿り着ける。そんなおとぎ話みたいなことを考えちゃう。
一緒に会えることを考えると街並みが普段よりもロマンチックに感じる。一緒に歩きたいな。手を繋いだり、腕を絡ませたりして。

そんな晴れやかな気持ちで歩いていたらほむらちゃんの家に着いた。インターホンを押す。少しの間のあと、ほむらちゃんが顔を出した。

「いらっしゃい」

「こんにちは。お邪魔します」

靴を脱いで一緒にリビングへと向かう。掃除が行き届いていて、一緒にソファーに座るだけでも幸せな気持ちになれる。

「今日も素敵ね。その服も似合っていて可愛いわ」

「照れるよ……ほむらちゃん。これ、ケーキなんだけど、一緒に食べようね」

「嬉しいわ。今お茶を淹れるわね。飲み物は何が良いかしら……紅茶とコーヒーのどちらがいい?」

「紅茶をお願いしていい? 種類はお任せするね。手伝わせて」

「今日は私に任せて」

「? 気を遣わなくていいよ」

「違うの。あなたが来てくれてすごく嬉しいから、あなたを労いたいの」

その一言に胸がときめく。ほむらちゃんは物静かで、どこか達観してるけど、本当は優しくて熱い一面もあって
こうして人を思いやれる。そんなほむらちゃんが私は大好きだよ。

「私もほむらちゃんに会えると思うと、なんだかすごく足取りが軽くて、街並みも素敵に見えちゃった……」

「好きな人がいるっていいことね。私も、そういうことがあるから……」

頬を染めながら、ほむらちゃんはそう呟いた。

「うん……」

あなたと好き合うことができて良かった。どんな小さな物事さえも素敵に見えて、些細な一言さえ愛おしい。二人の時間がすごく幸せだよ。


ソファーに座っていると、ほむらちゃんがお皿やティーカップを運んでくれる。

「手伝うよ」

「いいのよ。お姫様になったつもりでいて」

上機嫌でそう告げられた。私のために何かできるということがすごく嬉しいみたい。学校でもいっぱいお世話になってるのにいいのかな。 
それに、お姫様って……確かにおめかししてきたし、ほむらちゃんにそう言ってもらえるのは嬉しい。
それでもなぜか、その、もどかしくて恥ずかしいよ。白いカップに映った自分の顔を見るのも恥ずかしい。

「ほむらちゃん、やっぱり手伝わせて」

「あと少しだから平気よ。茶葉を蒸らして少し待つだけだから」

キッチンから声が聞こえる。一人で座っているのもなんだか申し訳なくて、ほむらちゃんの元へと向かった。
真剣な眼差しで蒸らす様子を見つめるほむらちゃんは私に気づかない。
きっと最良の一杯を提供しようとしてる……すごく真面目で手先は器用なのに、どこか不器用な人だから。
だからこそ愛おしいのかもしれない。そして、スキンシップして反応を試したくなっっちゃうね。

「ほ・む・ら・ちゃん!」

一声掛けて後ろから抱きついた。いざ抱きつくと本当に甘えるように抱きつちゃう。
ぎゅっと抱きしめてふりふりと動く。傍からみたら姉妹に見えるかもしれないね。
背中に頬を添えると暖かくて、ほむらちゃんの胸の鼓動が聞こえる気がした。

「まどか、どうしたの」

「やっぱりほむらちゃんの傍にいたくて」

「そう。お姫様は寂しがり屋で、甘えん坊さんなのね」

苦笑されちゃった。でも、ほむらちゃんが笑ってるのを見るとすごく安心するんだよ。物憂げな顔も真面目な顔も素敵だけど
自然な顔で笑ってくれると、それだけで暖かい気持ちになれるから。あなたの笑顔が本当に眩しい。

「ほむらちゃんは私の王子様だから、いないと寂しいんだよ。お姫様だって、王子様のために何かしたいもん」

「まどか、あなたは優しく高貴な心のお姫様なのね。でも、私もお姫様がいいわ。あなたのためなら王子様になるけど」

茶目っ気を効かせながら、ほむらちゃんはおどけた。ほむらちゃん、私の大好きな王子様でお姫様。
いつまでもあなたのお姫様でいさせて。でもたまには私も王子様みたいに助けてあげたいな。


二人でソファーにゆったりと腰掛けて紅茶を飲む。外は晴れていて少し暑さを感じるけど、淹れたての紅茶はとても美味しい。
香り立つ湯気がリビングの天井へと消えていく。

「美味しい。ほむらちゃんが淹れてくれたからだね」

「そう言ってもらえると嬉しいわ。私もあなたと頂くこの一杯は格別よ」

ほむらちゃんもくすりと微笑む。なんて幸せな日曜の午後なんだろう。窓の外から小鳥のさえずりや葉擦れの音が
聞こえてきそうなくらいリラックスしてる。何より、大好きな人の横顔が見えるこの空間が好き。

「ケーキ食べよっか」

「そうね」

ほむらちゃんがケーキに手を付けようとすると、携帯でその姿を撮らせてもらった。
ほむらちゃんは困惑してたけど、仕方ないよ。だってすごく絵になるんだもん。

大好きなほむらちゃんと甘いケーキ。なんて素敵な取り合わせなんだろう。ほむらちゃんも撮られることを意識しちゃって
少しぎこちなかったけど、それすらも愛おしくて、思い出の写真がまた一つ増えた。

私も撮ってもらった。綺麗に撮れていて、ほむらちゃんは私がどう写ると良いのか分かってる気がする。
それだけ見てもらってるんだと思うと恥ずかしくなっちゃうけど、お互い初めて撮りあったときより上手く相手を写せるようになったね。

二人でケーキを食べさせあったりしてお茶を終えたあと、ほむらちゃんは撮り終えた私の写真を満足そうに見つめていた。

「まどか。この写真を新しい待ち受けにして良い?」

「いつものことだけど、ポーズ決めてるみたいで恥ずかしいよ……」

「上手に撮れたと思うの。駄目かしら?」

「それは認めるけど…………うん、いいよ。人に見せたら駄目だよ?」

「見せたりしないわ。偶然見えてしまうかもしれないけど、きっとその人は幸せね。こんなに可愛いもの」

ほむらちゃんがさっそく携帯の画面を見せる。おめかしした私が写ってる。本当に上手く撮れてて、ちょっぴりくやしくてむくれちゃう。


「まどか、今度どこかへ行かない? あなたと二人でデートしたいの」

「いいね。ほむらちゃん、帰り道にある新しくできたお店を覚えてる?」

「理容室と雑貨店に挟まれたあの喫茶店ね。気になる?」

「あのお店はボートの貸し出しもやってるんだよ。後ろに大きなお堀の池があるでしょ。あそこをボートで遊覧できるの。」

「それはすごいわね。あそこはよくテナントが変わってたからリピーターが増えるといいわね」

「そうだよね。街並みって変わっていくものかもしれないけど、変わらないでいて欲しい気持ちもあるよね」

「そうね……本格的に梅雨に突入して日差しの強い夏を迎える前に、お天気の良い日に乗りに行きましょう」

「やった! ほむらちゃんと乗れるなんて嬉しいな」

「私もよ。ボートで遊覧……再放送でやってる昔のトレンディドラマみたいね」

「私はロマンチックで好きだよ。憧れちゃうな―」

「二人だけのランデブーね」

「なんだかどきどきしてきちゃった」

「自然体でいましょう。今座っているソファーを使って予行練習してもいいわ」

ほむらちゃんが私に身体を重ねてきた。いつもこの状況がもどかしくてどきどきする。キスまでの時間、胸がずっと脈を打ってる……

「押し倒したら、転覆しちゃうよ……?」

本当は押し倒されてもよかったけど、今はふたりで座りながらキスしたい。

「転覆しないように頑張りましょう」

ソファーの上に立ち膝で座って見つめあう。どきどきして膝が小さく震えてる。
ほむらちゃんに抱きしめられると、我慢できなくなった私はその唇をそっと寄りかかるように塞いだ。
ふわっとした唇。すべすべの頬っぺた。私を見つめてくれる瞳。優しい両手。その全てが好きだった。

優しい口づけを終えると、耳まで溶けてしまいそうなキスの音。舌と舌は熱く絡まり、微かに糸を引き始めた。
もっと強く抱きしめて欲しい。覆いつくして欲しい。私はソファーに横たわってほむらちゃんを求めた。

ほむらちゃんに触れられるだけで甘い痺れが駆け巡る。重なり合った熱を逃がしたくなくてその背中を抱きしめた。
布の擦れる音が聞こえてくる。服越しに触られるだけでも胸が疼く。欲しいよ。ほむらちゃんが欲しい。
一つになりたい。溶け合いたくて、胸が苦しい。

「ほむらちゃん……場所、変えたい。ベッドがいい……」

濡れた唇から甘えた声が漏れてきた。もっと愛してほしい。生まれたままの姿で白いベッドに横たわりたいよ。

「連れて行ってあげる」

立とうとしていた私をほむらちゃんが抱きかかえた。私、お姫様抱っこしてもらってるんだ……
ほむらちゃんが歩を進めるたびにゆらゆらと揺れて、その感覚すら蕩けきった私には甘い痺れになって伝わる。

ほむらちゃんの部屋に入ると白いベッドに優しく横たわらせてもらった。夢見心地でふわふわとして、甘い疼きから小さく身体が波打つ。
ベッドに身を預ける心地よさに酔いながら、白い天井を見上げる。ほむらちゃんと重なり合いたい。

「ほむらちゃん……来て。いっぱい抱きしめて。ほむらちゃんの口づけ、いっぱい欲しいよ」

「抱きしめさせて。あなたのことをずっと感じていたい。まどかと一つになりたい」

ほむらちゃんの指先が私に触れる。甘い吐息が天井に消えてゆく。二人の唇が重なって、吐息は溶け合った。


深く愛し合った後、ベッドに横たわった私の髪と頬をほむらちゃんが撫でてくれる。
私を包んでくれるような優しい瞳。指を絡めあうたびにその輝きが私を虜にする。
猫のようにしなやかで大人びているのに、どこか円らな瞳で抱きしめたくなる愛おしい人。

「まどか」

ずっと見つめていたら頬っぺたにキスされた。恥ずかしくてもじもじしちゃう。
ほむらちゃんと見つめあう。白く繊細な肌、椿のように赤く丸みを帯びた艶やかな唇。
生まれたままの姿になったほむらちゃんはすごく綺麗で、甘く清潔感のある匂いがした。
髪からはすぅっとシャンプーの香りがする。長い髪の感触を指で確かめたあと、後ろ髪を撫でてあげた。

「身体、痛くない?」
ほむらちゃんが優しく私の身体をほぐしてくれる。あんなに激しく愛し合って余韻が残ってるのに、今は触られると素直に優しい気持ちになれた。

「大丈夫だよ。ほむらちゃんは平気?」

「平気よ。ちょっと激しかったからゆっくり休まないとね」

おどけたような口調で微笑む。ほむらちゃんの手で優しくほぐされて、私の身体が癒されていく。
人の手が持つ温もりや癒しの力を実感する。私も与えてあげたくてほむらちゃんの肌に触れていた。
愛し合った私の身体を優しく癒してくれるその姿に、私はまた恋をしていた。

「ほむらちゃん」

「なにかしら」

「ほぐして欲しいの」

「どこを?」

「ここだよ」

私は指で唇を指す。自分でも恥ずかしいことを言っちゃったと思って顔が真っ赤になった……

「ほむらちゃんにキスされたら、もっとほぐれて力が抜けると思うから」

「……帰れなくなるかもしれないわね」

時刻はもう午後4時半を回ろうとしている。今日はこれが最後のキスになるかもしれない。

「帰れなくなっても、いいかな……」

分かってる。分かってるけど、思わずそう呟いていた。ずっとほむらちゃんに抱きしめられていたい。
何度もキスしたい。ほむらちゃんのことを見つめていたい。明日の朝まででもいい。吐息も声もずっと、ずっと感じていたい。


「嬉しいわ。けど、家族が待っているでしょう。まどか、今日はあなたを見送らせて」

慈しむような笑みでほむらちゃんが告げる。未練そうに私の肌に触れてくれるのが嬉しくて、ちょっぴり寂しい。

「いいの? 迷惑じゃない?」

「ちょっとお散歩がしたくなったの。日曜の夕方にあなたと歩くのも素敵な気がして」

「じゃあ、このキスが終わったら、着替えして一緒に出かけてくれる?」

「ええ」

「嬉しい。ほむらちゃんありがとう」

「こちらこそ。まどか、キスさせてね」

ほむらちゃんの唇が私の頬と首筋をなぞった。ずるいよ。そんなことされたら、帰りたくなくなっちゃう……

「きて、ほむらちゃん。長いキスが欲しい」

「まどか。大好き……愛してるわ」

「ほむらちゃん。大好きだよ。ぎゅってして……」

唇が重なる。窓から一筋の光が差し込むなかで、二人は生まれたままの姿で唇を重ねる。静かな部屋に唇を重ねる音だけが響く。

愛し合いながら思った。この白く静謐な部屋にいるほむらちゃんのこと。私が帰った後も、この部屋で愛し合ったことを
思い出してくれるのかなって。そう思うと胸が疼いて、なんだか切なくなった。

熱い舌が幾重にも絡まる。肌を重ねて見つめあうキスは頭が痺れそう。頭の中がほむらちゃんのことでいっぱいになる。
ほむらちゃんの舌、キス、気持ちいい……やめたくない。ずっと、ずっとずっと、私とキスして。
頭の中が真っ白になっちゃう。舌、離しちゃやだ……このままがいいよ。ほむらちゃん、大好きだよ。

頬が染まり息遣いが荒くなった私から、ほむらちゃんがそっと唇を離す。
私はベッドに横たわりながら小さな呼吸を繰り返した。切ない。胸が熱くて苦しい。もっとしたいよ。

二人で小さな吐息を重ねながら指先を強く絡めた。落ち着いて寂しげに見つめあう。時計の針は止まらない。

「着替えましょうか」

「そうだね……」

服を着ているときもずっと胸が熱くて、唇が小さく開いていた。

ほむらちゃんがお外に出る準備をしてる。てきぱきしてるけどどこか楽しげで微笑ましい。乱れた髪をブラッシングしてあげた。
私のほうは……服を着たのはいいけど、さっきまでベッドの上にいたから外に出るのは少し緊張するよ。
素肌が晒される感触さえも敏感に感じちゃう。

「まどか、私も準備できたわ。行きましょう」

「うん。お願いね」

ほむらちゃんの手に触れる。なんだかすごく安心した。

「まどか、どうしたの?」

「なんでもないよ」


ほむらちゃんが玄関の鍵を掛ける。私服のほむらちゃんを日曜の夕方に連れて歩けるなんて、すごく贅沢をしてるんじゃないかな。

ほむらちゃんの家の近所を歩きながら周辺のお店や建物を案内してもらった。
些細な会話も楽しくて、一緒に登下校するときとは違う特別な感じがした。

最初は二人で普通に歩くだけだったけど、今日は私のほうから手を繋いだ。
ほむらちゃんは何も言わなかったけど、しっかり私の手を握ってくれて、夕焼けの色に重なるように二人の頬が染まっていた。

ほむらちゃんのお家で話していた貸しボートのある喫茶店の前を通りかかる。

「ここね」

「うん。ほむらちゃん、見て!」

夕暮れ時だからボートは浮いてなかったけど、水面に夕焼けが浮かんでいた。

「綺麗だね」

「本当に綺麗。あなたと見ることができてよかった。今度乗りに来ましょう」

燦爛と輝く夕焼けにまるでお祭りの行進みたいに雲が揺れている。なんだか感傷的になるね。

「ほむらちゃん、雲ってどこへ向かうのかな」

長い髪を垂らして空を仰ぐほむらちゃんの姿はどこか詩的で、問いかけてみたくなった。

「思い浮かんだのは地平線や水平線かしら」

風に煽られて、横髪をかきあげながら彼女は答えた。

「そうかもしれないね。ほむらちゃん。私、小さい頃雲がどこへ行くのか知りたかったの」

「純真な子だったのね」

ほむらちゃんが微笑む。あなただってそうなんだよ。

「でもね、追いかけてもその行き先は分からなくて、いつの間にか考えるのをやめちゃった」

「大人になるってそういうことかもしれないわ」

自嘲気味にほむらちゃんが呟く。あなたの真面目で透明な心も私は知ってるよ……

「今日、空を見あげて雲がどこへ行くのか考えたとき、ほむらちゃんのお家まで向かうなら、雨を降らせるのは遅らせてねって
 そうお願いしたの。それから、ほむらちゃんの家まで私の気持ちを届けて欲しいなって」

満面の笑みで微笑んでいた。普段なら恥ずかしいけど、今は気持ちを伝えられることが嬉しくてたまらない。

「そこまで思ってもらえて嬉しいわ。まどか、私はちゃんと気持ちを返してあげられてる?」

「うん、いっぱいもらってるよ! 私ね、夢見がちだけど、大好きなほむらちゃんと雲の行く末を知りたいなって思ったの。
 二人で地平線や水平線まで行ってみたいな……」

「一緒に見てみたいわ」

「ほむらちゃんとずっと一緒にいたい。それでね、いつか二人で雲の行き先のような場所を見たいな」

二人でどこへ行きたいか話しながら歩き続けた。夕焼けが沈んでいくのに比例して、だんだん家に近づいている実感が湧いてくる。
そんなとき、ジャズ音楽をバックに大人たちが談笑する風景が目に留まった。

シティホテルの近くの総合施設に備えられたビアガーデンだ。ちょっと早い気もするけど、もうそんなシーズンなんだね。
カップルが向かい合って談笑しながらお酒を飲んでいる。白い雲のような泡が男性の口元についた。
サンタさんみたいに振舞っておどけた彼を、女性は笑いながらもナプキンで口を拭いて、頬にキスした。二人で大人のお付き合いにどきどきした。

私も初めてお酒を飲めるようになったら、私の向かい側の席にはほむらちゃんがいて欲しいな。
二人で手を繋ぎながら点灯するビアガーデンの電飾の光を見つめた。大人になってもあなたと愛し合っていられますように。
手を繋ぎながら小さく祈った。

数多のガラス窓を光らせる高層ビルやタワーを抜けて住宅の密集地に向かう。人通りはまばらで、街灯の小さな灯りだけが二人を照らしている。
なんだかロマンチックで声が聞きたくなった。でも何を話そっか……とりあえず、明日のお天気のことについて話そうかな?

「まどか」

急に声を掛けられてどきっとする。

「なに? ほむらちゃん」

「空を見て」

「あっ……一番星だね。綺麗……」

雲間から一番星が覗いていた。雲と一番星は互いを見守るように、透き通るような空に溶け込んでいた。

「そうね。私もまどかといると、あの雲も愛おしく見えてくるわ」

「ほんと? 嬉しいよ。私もあのお星様を見てたらほむらちゃんのことを考えちゃうかな」

「まどか。あなたは雲のような人かもしれないわね。抱きしめたいくらいふわふわしていて、穢れを知らず、慈しみに溢れてるの。
 みんなを強すぎる太陽の光から守って、時折優しい恵みの雨を降らせてくれる。そんな人」

「過大評価だよ……照れちゃう。でも、ありがとう」

「今こうしてそんなあなたと寄り添えるのが本当に幸せ。だから、今日みたいに声を掛けて。特別な用事でもない限りお相手するわ」

ほむらちゃんの晴れやかな笑顔を見ることができた。夕焼けと夜空が混じって少し暗いのが残念。今度は日中に見せてね。

「ほむらちゃんからも誘ってね。ほむらちゃんとの時間はね、雲の上にいるような気持ち。一番星を見つけたような気持ち。
 とってもとっても幸せな時間なんだよ」

「そう言ってくれると嬉しいわ。でも、今日はここまでみたいね」

とうとう家の前に着いちゃった。窓から漏れる暖かい光を見るのがこんなに寂しいなんて思わなかったよ。

「また明日、学校で会いましょう」

「うん。今日も本当にありがとう。ご飯食べ終わったらメールや電話していい?」

「待ってる。楽しみにしてるわ」

ほむらちゃんが抱きしめてくれた。頬っぺたにキスをするとお返しのキスを貰えた。

「気をつけて帰ってね」

「分かったわ。ご家族によろしく伝えて」

「うん」

「大好きよ」

「私もだーいすき!」

ほむらちゃんは私に微笑んでくれた後、踵を返して歩き出した。
その後姿はいつもよりも少し肩の力が抜けて足取りも軽くて、なんだか笑っているみたいで胸が暖かくなった。
家に入ろうとしたとき、夜風で感傷的になってなんとなく空を見上げた。

「わぁ…………!」

紫色の空にピンク色の綿飴雲が浮かんでいた。

子供の頃お祭りのときに見た綿飴雲そっくり。ほむらちゃんも見てるかな……

「お祭り、一緒に行きたいな」

二人の夏は、もうすぐそこまで来ていた。