113スレ/食いしん坊な狼さん

Last-modified: 2014-12-25 (木) 07:22:46
687 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2014/10/31(金) 22:13:25.74 ID:Hl2lrwmN0
ピンポーン

呼び鈴が鳴る。
誰が、何のために来たのかは、おしゃべりで騒がしい子供達によって既に分かっている。
「どなたかしら?」
それをおくびにも出さず、ほむらは玄関のドアを開けた。

「トリック・オア・トリート!お菓子をくれなきゃイタズラするぞっ☆」
およそ帰国子女とは思えない発音で、狼の付け耳をして赤いケープをまとったまどかは、両手を差し出してみせた。
「これはこれは、とても可愛らしい狼さんね。Happy Halloween、まどか」
「こっ…こんばんは、ほむらちゃん」
ほむらの完璧な発音に、まどかは軽く身じろぎしながら挨拶した。
「あいにく、お菓子はないのだけれど、ケーキならあるわ。中でお茶にしましょう」
「うんっ、お邪魔します!」

何度か訪れているほむらの部屋は、秋の夕日に照らされて真っ赤だ。
隅々まで整えられていて、ものすごく静かで。
まどかはいつも、少しだけ寂しさを感じてしまう。
「座って頂きましょう、まどか」
「う、うん」
腰を下ろしたまどかの前に、ケーキのお皿が配される。
ジャック・オー・ランタンを模したチョコレートが乗った、パンプキンケーキ。
「ちっちゃくてかわいいカボチャさん!」
「どうぞ召し上がれ」
「いただきまーすっ」

「甘すぎないからかな?カボチャの味がして、とってもおいしいよ」
ケーキをパクつくまどか。
「そう。お口に合って良かったわ」
答えながら、紅茶の入ったティーカップを差し出すほむら。

残すはチョコレートのみとなったところで、まどかは、ふと、ほむらの手元に目をやる。
ほむらは、ケーキにも紅茶にも全く手を付けていない。
「あれ?ほむらちゃんは食べないの?」
「今はいいわ。それよりも、もっと大切なことがあるから」
嬉しそうに、だけど、どこか寂しそうに、ほむらは静かに笑みを浮かべる。
「大切な…こと?」
まどかのフォークが止まる。

「食いしん坊な狼さん、もう一つケーキはいかが?」
すかさず、まどかの前に新しいケーキのお皿が配される。
沢山のラズベリーが乗った、ラズベリーケーキ。
「さあ、召し上がれ」
「う、うん、いただきます」
先ほどの疑問は中断され、促されるまま、まどかはケーキを口に運んだ。
「すっぱーいっ!」
「フフフ、ラズベリーだものね。紅茶をどうぞ、まどか」

次第に闇を深めていく部屋。
皿の上に取り残されたジャック・オー・ランタンが、まどかを見つめていた。


おしまい

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