72スレ/愛故に

Last-modified: 2014-05-29 (木) 20:23:14
373 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2013/10/28(月) 14:14:17.06 ID:5U5tlelg0
映画版の続きを妄想してみたSSを投下してみる。感想頂けるとありがたい。

ああするしか無かったとはいえ、我ながら不審人物よね。
今のまどかはただの人間でしかない。円環の理だったことはおろか、以前のループの記憶や魔法少女の存在さえ知らないはずだ。
なら必然、私とまどかの時間は、かつてのループの時と同じくずれてしまう。
ああ、私はこんなにもまどかのことを愛しているのに。あなたとの思い出をこんなにも抱えているのに。まどかからすれば私は出会ったばかりのクラスメイトでしかないのだ。
そんな初対面の相手からいきなり抱きしめられ、意味不明な問いかけや言葉をかけられればどう思うか?
あまり人付き合いが得意な性質では無かったが、好感を得られないであろうことはわかる。
無論後悔はしていない。あのまま放っておけば、まどかは円環の理に回帰してしまっただろう。そうすれば彼女は再び一人ぼっちになってしまう。家族とも引き裂かれ、その存在そのものさえも忘れられてしまうのだ。
それに比べれば、困惑や嫌悪を買うことなど天秤に載せるものですらない。まあ痛みはあるが、今の私にとってその痛みさえも愛おしいものだ。それに彼女と同じ時間を過ごせるだけでも、私は十分幸福だし救われている。
だから、この世界において彼女との仲が冷えきることも覚悟していたのだが…

意外なことに、あのある意味最悪と言ってよい出会いにも関わらず、まどかとの関係はいつしか良好なものとなっていた。
時にマミやさやかや杏子も交えながら、食事をしたり他愛の無い話をしたり。ああ、一緒のお勉強会なんてのもあったっけ。
そして今日もまた…


374 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2013/10/28(月) 14:16:30.48 ID:5U5tlelg0
「ほむらはさ、今のストレートも綺麗だけど、三つ編みも似合うんじゃないかな?」
意外なことにさやかとの関係も良好だ。こんな話題を楽しめる程度には。
「そうかしら?私は正直好きではないのだけど」
これは本音だ。まどかと出会う前のかつての無力な私。まどかを守れなかった私。三つ編みは私にとってそんな過去の自分の象徴だ。
「今のクールでかっこいいほむらちゃんも素敵だけどさ、昔の三つ編みでおどおどしているほむらちゃんも、こう守ってあげたくなっちゃう感じでかわいいと思うんだあ」
などと良いながら愛玩動物のように私を抱きしめてくる。背後に手をまわして勝手に三つ編みにしてくれている。
デジャブを覚える。これではまるでかつて魔女化した時に作り出した箱庭ではないか。
まったく、誰よりも優しいのに妙に強引なところは昔と変わってないのねまどかは。
…待て、さっきまどかは何と言った?「『昔の』三つ編みでおどおどしているほむらちゃん」?
この二重改変後の世界において、かつての三つ編みの私は存在しないはずだ。あるいはそういうことになっていたとしても、留学していたまどかが知るはずも無い。
つまり今の彼女は私と過ごしたかつての時間の記憶が戻っているということ。それ自体は喜ぶべきことかもしれないが…
「気づいちゃったかな、ほむらちゃん?」
誰よりも優しい声。されどなぜか恐怖を覚える。
「まだはっきりと思い出せたわけじゃないんだけどね。ここじゃないどこか、今じゃないいつか、あんたと一緒に過ごした記憶が蘇ってくるんだよ」
「そして何となくわかるんだ。全部思い出したそのときに、在るべき場所に還れるんだって。そう、私には果たすべき役目がある。みんなを救ってあげないと…」
まどかの目が金色に輝き、円環の理が周囲に流れ出す。
慌ててまどかを抱きしめて叫ぶ。
「やめて!あなたは今のあなたのままで良いの。お願いだから今のまま幸せになって。大事な人たちと一緒の時間を過ごして!」
理は去り、再びまどかは人へと戻る。


375 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2013/10/28(月) 14:18:19.68 ID:5U5tlelg0
「うん、わかっているよほむらちゃん。今はもう少しだけこの時間を楽しむことにする。ありがとうほむらちゃん。
どうしてそうなのかはまだよくわからないけど、皆と一緒に過ごせる時間をくれたのはほむらちゃんなんだよね?
うん、そのことはとても感謝している。この時間がどんなに尊いものなのかもわかっている。」
「私も恭介や仁美に当たり前に挨拶できるこの日常がどんなにかけがえの無いものなのかはわかっているよ。ああ、その点だけはあんたに感謝してやってもいい」
「でもね、ほむらちゃんと一緒に時間を過ごせば、抱きしめられて愛を囁かれれば、「かつて」の時間が蘇ってくるんだ。」
「そうすれば私たちは在るべき場所へと還ることになる」
ああ、あんな出会いをしていたのに、良好な関係を築けている時点でおかしいと思うべきだったのだ。この世界においてそれは本来あり得ぬ話。ならばそれはかつての世界の影響に他ならないではないか。
…いや、あるいは薄々勘づいてはいたのかもしれない。それでも、毒とわかっていても、今の甘美な時間を手放したくなくて気づかないフリをしていたのかもしれない…
「それとも、私たちと距離を取ってみる?ほむらちゃん?」
「そしたらそうしたで、まどかが戻ろうとするときに引き止められないよね?」
「私たちも、今の日常をずっと続けていたいという気持ちが無い訳じゃないし、だからこそこうして現世に呼び戻されて留まっているわけだけど」
「でも皮肉なもんよね。女神様を堕落させたその欲望こそが、かつての思い出を呼び覚ますんだから」
そう、悪魔となり、神と対峙できるほどの存在に成り果てたとはいえ、本来神をそんなに簡単に引き裂けるはずもない。
それが可能だったのは、まどかの中に日常への回帰を望む心があったからだ。私はその欲望を利用することで、聖者を誘惑し、堕天させた。
だが、その欲望こそがかつての思い出を呼び覚まし、円環への回帰を促すのであれば…
「どうしようもないよね?うん、かつての私たちって結構狡猾だったのかも。あるいは嵌めてくれたあんたへの意趣返しってところかな?まあ、今の私たちからすればある意味迷惑な話ではあるんだけどね。」
「いつまで続けられるかはわからないけど、一緒に楽しもうね!ほむらちゃん」
どうしようもなく優しく、それでいて絶望的な宣告が突きつけられる。全く、どっちが悪魔なんだか。
でもねまどか。私も少しは成長できたみたいよ?かつての私なら絶望に屈していたのかもしれないけれど。今の私は、あなたから与えられるものならば絶望さえもが愛おしい!
ああ、確かに絶望だ。何をしてもしなくても、円環への回帰は止められないらしい。
そもそも、円環の理を完全消滅させたのならとにかく、理自体は残したまままどかを分離したに過ぎない。
ならば分たれた欠片同士が引き合って元に戻ろうとするのは道理だろう。私の作った世界は始まりからして不安定なのだ。
だが、円環への回帰自体は止められないとしても、そこから打つ手が無いわけではないのだ。


376 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2013/10/28(月) 14:20:34.33 ID:5U5tlelg0
「なら、隠す意味も無いわね。私がかつて過ごして来た時間の話でもしましょうか」
「ちょっとアンタ!何の意味があってそんなこと」
「意味ならあるわ。これでも寂しかったのよ。時間改変や世界改変の中で「前」の記憶を持っているのは私だけ。
話してみたところで同じ思い出を共有することはできなかった。
でも貴方たちならかつての記憶を思い出せるでしょう?私の孤独を埋めて頂戴。それとも私の昔話を聞くのは嫌かしら?」
「私はほむらちゃんの話を聞きたいよ。でもいいのほむらちゃん?かつての話をするってことは…」
「貴方達の記憶も加速度的に戻ることになる。ええ、わかっているわ。でも良いのよ。それもわかった上でやっているから。まどかが心配する必要は無いわ」
そうして私はかつての思い出を話しだす。一周目の世界でまどかに救われたこと。まどかが死に、救いたいと願って魔法少女になったこと。
二周目の世界でマミさんと一緒に戦った事。
ああ、潜在的には絶望的な状況ではあったけれども、皆と仲良くやれた二周目は表面的にはそれなりに楽しかったわね。
思えば私の結界は二週目がベースになっていたのかもしれないわ。二週目の終わりにまどかが魔女と化してからくりに気づいた事。
そしてそして…
私の願いからすれば当たり前ではあるが、どの周回でも話の中心にあるのはまどかだった。
まどかから与えられた喜び、痛みが私の心にどれだけ響いたか。それを二人に聞かせてあげた。
それはまるで遠回しに愛の告白をしているようであり、事実そうだったのだろう。
まどかが赤面しながら私を見つめてくる。
「ああ、まだ肝心なことをはっきり伝えていなかったわね。まどか、貴方のことを愛している。どんなものに成り果てようとも構わないと思うほどに」
「うん、私もほむらちゃんのことを愛しているよ。ほむらちゃんがどんなものに成り果てたとしても見捨てたりしない、抱きしめてあげる」
「ねえだからまどか」
「ねえだからほむらちゃん」
「「私と一緒に来てよ!」」
ついにまどかが完全に円環の理へと回帰する。だがそれは私の狙い通りだ。
「私はもはや魔法少女でも魔女ですら無い。だからまどかの人格が抜けて単なるシステムと化した円環の理が私に干渉してくることはない。
でも、まどか、貴方が円環の理に戻れば、話は別よね?貴方は優しすぎるもの。私がどんなものに成り果てたとしても救おうとしてくれるもの」
だから本来魔法少女・魔女しか救わないはずの円環の理は、今この瞬間だけは悪魔たる私を飲み込もうと干渉してくる。
そして干渉してくるということはこちらからも干渉が可能ということであり、私が女神を貶めた時と同じく、まどかを再び円環の理から取り戻すことも可能だ。
「もちろん貴方を再び引き裂くのは胸が痛むけど、ああ、この痛みすらもが愛おしいわ」
「前と同じとは思わないほうが良いよほむらちゃん」
「そうそう、あれはいわばだまし討ちだしね。女神様は優しいけど、敵とわかっていて油断するほど愚かじゃないのは知っているでしょう?」
ああ、それはその通り。愛しの女神様は、だまそうとしてきた相手をだましかえす程度には狡猾だ。そしてもはや油断を誘える状況でもない。
「ええ、それもわかっているわ。だから今度は悪魔らしく正攻法で誘惑してあげる。」


377 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2013/10/28(月) 14:25:15.58 ID:5U5tlelg0
そうして少女たちの激突が始まる。
根幹にあるのはお互いへの愛であるはずなのに。しかし故に異なる願い・異なる法則同士の間で鬩ぎあいが始まり、お互いを傷つけ合う。
「ほむらちゃん?私の救済を受け入れてくれないかな?もう一人ぼっちになんかさせない。これからずっとずっと一緒に居られるんだよ?」
「ええ、それも悪くはないと思っていたのだけれど。それでは貴方は救われないわ。私の結界の中で言っていたでしょう?そんなつらいことには耐えられないって。」
「まどかこそ戻って来てくれない?家族や友人と過ごす何気ない日常が、どれほど素晴らしいものかはわかっているでしょう?」
「うん、その尊さもわかっている。それを与えてくれたほむらちゃんにはとてもとても感謝はしている。ありがとう。でも、ひとときの夢はこれでおしまい。私には果たすべき役目が、叶えたい願いがあるから!」
「私はまどかほど甘くは無いよ!正直アンタにはむかついている。せっかく助けに来てやったのに、こうして裏切られたんだからね。痛い目を見る事は覚悟しなさい!」
「美樹さやか。あなた私の方に着く気はない?悪いようにはしないわよ。かつての言葉を返すようだけど、ここでの日々はそんなに悪いものだったかしたら?」
「うん、尊いものだと思うよ。私もその点だけはアンタに感謝している。それでもなお、私は女神を汚したアンタを許せない」
言葉を交わしながらも少女達の戦闘は続く。隙あらば力づくで取り込もうとしているのだ。言葉は説得であると同時に、隙を作るための弾丸でもある。
両者ともに人智を超えた存在と成り果てているとはいえ、同格の相手を争えば傷つき、痛みも感じるだろう。
「ほむらちゃん、もうやめようよ。私はほむらちゃんをこれ以上傷つけたくはないよ」
「そう?私は今の時間も悪くはないと思っているわ。あなたから与えられるものならば、痛みさえも愛おしいもの。ましてこれはあなたの愛なのでしょう?」
喜びに震えながら、妖艶に微笑むほむら。かつて自ら言った通り、彼女の愛は希望よりも熱く、絶望よりも深い。呪いよりもおぞましく、救済よりも美しかった。


378 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2013/10/28(月) 14:26:57.84 ID:5U5tlelg0
そうして決着が着く。
「私の負けね。まあこれはこれで良いかもね。まどかとずっと一緒にいられるし。それに…」
かつてまどかを円環の理から引きはがしたときと同じく、逆に、自らを引き裂いて「悪魔」の中から人間だった頃の私だけを分離する。
「ほむらちゃん!何を!」
「私を救ってくれるのでしょう?まどか。ええ、それは受け入れてあげる。貴方と一緒に過ごせるのなら、どういう形であれ喜びだもの。」
「でも貴方を救うことをあきらめもしないわ。私から切り離されて、「悪魔」は円環の理を貶め、保有する魂を奪い取り、ただの人間に戻す法則として独立したわ。私が円環の理に吸収されても、悪魔はあなたを取り戻すために働き続けるでしょう」
「そして円環の理は本来魔法少女と魔女を救うための法理。今回は私を救うための特例だけど、私から切り離されたただの法則である悪魔には干渉できない」
「まあ円環の理の核である貴方をいきなり取り戻すのは難しいでしょうけど。でも円環の理を構成する魂を奪い取り続ければ、いつかは円環の理も弱体化し、天から墜落するでしょう」
「あるいはその前に、私が悪魔に回帰するかもね。あなたが円環の理に回帰したように、悪魔も元に戻ろうとするでしょうから」
「そうしたらまた戦いましょう?そして願わくばあの日常を一緒に楽しみましょう」
「ほむらちゃん・・・!」
「総ては貴方への愛故に。ああ、愛しているわ。まどか。今はまだできないけれど。いつか完全な形で貴方を解き放ってあげるとここに誓うわ」
「私も愛しているよ、ほむらちゃん。なら私も約束するよ。今はまだできないけれど、いつか完全な形でほむらちゃんを救ってあげる」

おわり

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