23スレ/恋人の日

Last-modified: 2014-04-17 (木) 15:54:40

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「待っててねほむらちゃん、今お茶を持ってくるから」
「悪いわねまどか、そんなに気を遣わなくていいのに」
「えへへっ私がしたいからするんだよ。すぐ戻ってくるから」
パタパタと遠ざかっていく足音を聞きながら大きく息を吸う。
まどかの部屋はいつも優しい匂いがする。ここに来るといつも深呼吸してしまうのはまどかにも秘密にしている事だ。
心が落ち着いて、自分の部屋に居るときよりもリラックスできる気がした。
(いっそここに住んでしまいたいくらいね…)
そうすればいつだってまどかと一緒に居られる…なんて、ちょっと過ぎた考えだったかしら。
くだらない妄想ね、と自分の考えを一蹴する。
幸せに浸かって、どうも考え方が甘くなってしまったようだ。
下手なことを考えすぎてしまえば、それが露見したときにまどかにどう思われるかわかったものではない。
頭の中から余計な思考を飛ばそうと、意味もなく部屋の中を眺めていた。
「…?」
ふと視界の端に妙なものを捉えた。
ベッドの横にある大きな窓、そこのスペースに何かか伏せられた状態で置いてある。
(…何かしら?)
ベッドに片膝を乗せるようにして手を伸ばす。
どうやらフォトフレームのようだ。それも、写真一枚を収めるだけでいっぱいになる小さなもの。
木で出来たそれを手にとって表を見てみる。明るい笑顔と、不器用な笑顔を浮かべた二人が映っていた。
「これは…」
その写真に思いを巡らせているうちに、パタパという音とカチャカチャという音が重なりながら近付いてきていた。
ベッドに乗せていた片膝をどけて立ち上がる。
扉の方に向き直ったときには、もうそこにまどかの姿があった。
「ほむらちゃんお待たせ、お茶持って来たよ…ん?」
「まどか、この写真は…」
「…あああっ!!」
驚きに大きな声を上げて後ずさるまどか。ガチャッと音を立てて傾くティーセット。
「あっ危ない!」
「きゃあっ!」
フォトフレームをベッドの上に投げ置いてまどかの元へ駆け寄る。ぐらついたティーカップを押さえて何とか体勢を立て直した。
「ほっ…よかった…」
「あ、ありがとうほむらちゃん…」
そのままゆっくりとテーブルへ近付いて順番に置いていく。
すべてのものを並べきってから、改めて二人で大きな溜め息をついた。
「ご、ごめんね?ちょっとびっくりしちゃって…」
まどかはうつむきながら申し訳なさそうに言った。
「いいのよ、私だって勝手に見てしまったんだから…」
「…やっぱり、見ちゃったの?」
「ええ、あの写真って…」
「…うん、そうだよ」
ベッドの上からフォトフレームを拾って再度写真に目をやる。
その中にあったのは、まどかと私が並んで座っている写真だった。
この写真を撮ったのは今年の春だった。まどかに誘われて、鹿目家の夕食に招待されたときのこと。
酔っ払ったまどかのお母さんの旗振りで、記念にと写真を撮ったのだった。
しかしその時は私たち二人の他にも、まどかのお父さんやお母さん、それにタツヤ君も居て一緒に写ったはずだ。
なのにこの写真には上半分、その三人が写っていたであろう部分がない。
もっと正確に言えば、私たちの写った部分だけが綺麗に切り取られてトリミングされ、フレームに収まるよう加工されていた。
「まどか、貴女…」
「…だって、ほむらちゃんと二人で撮った写真なんて持ってなかったし…」
なおもうつむきながら、ボソボソと小さな声で答えが返ってきた。
「パパやママには悪いなって思ったけど、その、二人っきりの写真がほしくて、それで…」
最後はもう蚊の鳴くような声になってしまい、聞き取りきれなかった。
ツインテールの横に覗いた耳が真っ赤になっていて、腕には力が入っているのか僅かに震えていた。
「へ、変だよね…毎日会ってるのに家でもこんな写真見てるなんて…」
「でも、私…ほむらちゃんと一緒に居ないときでも、その…ほむらちゃんのこと、ずっと考えてて、えっと…」
たどたどしく言葉が繋がれていくのを、黙って聞いていた。
下手な言葉を挟んでしまったら、その瞬間何かが壊れてしまうような気がして。
「な…何言ってるのかな、私……ご、ごめんね…」
「…ずるいわ、まどか」
「…え?」
「貴女だけがこんなにいいものを持ってるなんてずるい、って言ったのよ」
驚いた表情で顔を上げるまどか。
その隣に移動して、写真を一緒に見られるように持ちながら続けた。
「私だって、貴女と一緒に居られないときもずっとまどかのことを考えていたわ」
「そ、そうなの…?」
「ええ。ずっと一緒に居られたらいい、なんて考えたこともあったわ」
まどかの肩に手を掛けてゆっくりと身を寄せる。えへへ、と小さく笑う声がした。
「たとえ一緒に居ることができないときでも、こんな写真があれば一緒に居られた時間を見て思い出せるものね…」
「ほむらちゃん…」
「だから、貴女はずるいわまどか。 私にナイショでこんなものを持っていたなんて」
「…えへへ、ごめんね」
さっきと同じ言葉だけど、まったく違う言葉だった。
「ねぇまどか、お願いがあるの」
「うん、いいよ。 写真ならまたプリントできるし…」
「いえ、それだけじゃないの」
「え?なに?」
「このフォトフレーム、どこで売っていたか教えてくれない?」
「こっこれ?別にいいけど…?」
「同じ写真を同じものに入れて、それが互いの部屋にあるなんて、いいと思わない?」
「…えへへっそうだね!」
顔は赤いままだったけれど、幸せそうな笑顔を向けてくれた。
なんだか私の耳まで熱くなったような気がしたけれど、それもいいかな、と思った。
物も、考え方も、気持ちも、まどかとなら一緒がいいから。
「ところで、私の顔の上に葉っぱのような形の跡があるんだけどこれは…?」
「なっなんでもない!なんでもないんだよほむらちゃん!!」
おわり