46スレ/溶けて、溺れて

Last-modified: 2014-05-09 (金) 00:18:59
397 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2013/01/27(日) 23:00:55.31 ID:o+NhX9SfP
窓には水滴が敷き詰められていた。 モザイクの向こうで白い模様が宙を舞っている。
お風呂からあがった時の室温は14度だった。 あれから一時間は経っているからこの部屋は更に冷え込んでいるはずだ。
ごそごそ、と重い毛布を顔までかぶり直すまどかは、柔らかい笑みを携えたまま静かに瞳を閉じて私に体を預けている。
……珍しい事ではない。 こうして二人で過ごす夜など私達にとっては日常だ。
火照った体を擦り合わせればいつものように体温が伝わる。
いつもの仕草。いつもの感触。いつもの香り。 この行為に私を揺さぶる理由など無かった。
けどまどかは、何度目になってもありのままの笑みを浮かべ、そして無垢を携えたその笑みを私に向けてくれた。
行為には慣れても、まどかにだけは慣れない、慣れようがない。
今もまどかの吐息一つに私の心は転がされているのだから。
きっとまどかはそんな私の気持ちなど知りもしないのだ。
腕の中で子猫のように擦り寄る姿からは魔性らしさは感じ取れない。 まどかはまっすぐな子だった。
「ほむらちゃん……」 声と共にまどかの体重が増してきた。
震える肩を毛布でくるんで、私の腕で抱き返す。
それが嬉しかったのか、まどかは私の首元におでこをくっつけて甘えてきた。
くすぐったい。 いや、体はくすぐられていない。 おなかの奥がヒクヒクと鼓動して、思わず息を漏らしそうになった。
「まどか……」 腕を回して体ごと抱き寄せる。 既に密着していた体同士が更に引き合って、少し窮屈に感じた。
はぁ……。 まどかの後頭部に顔を埋めて瞳を閉じる。 心の中で重い溜息を落とす。
まどかの体温を感じる。 まどかの香りを感じる。 まどかの鼓動を感じる。
私達が今の関係になってから随分と時間が経った。 不安を感じないと言えば嘘になる。
けど私はまどかを疑わなかった。 まどかが献身的に私を連れ出してくれたから、その力強い姿に愛を感じていたから。
そして二人の夜を積み重ねる度に確信は強まる。 毛布に隠された私達が全ての証拠だろう。
ねえ、まどか。 あなたは本当に私を愛せているかいつも不安に思っていたわね。
愛なんて、私にとってはなんでもよかった。 あなたが居てくれればそれで良かったの。
でもそうね、あなたの為に強いて言うならば。
まどかが私の手を引いて、その手を私が取ったのなら、それも愛の形なのよ。
……そう、いつも告げようと言葉を紡いで、今まで一度も伝えた事はなかった。
本当に愛せているか迷っているのは私だ。

背中を撫でるまどかの手が止まり、規則正しい寝息を立てる。
そっと、おでこにキスをする。
幼い寝顔。 緩んだ頬と口元が可愛らしくて、私は心が揺らぐ前にその顔を胸元に収めた。
まどかのようにまっすぐな愛し方は私には合わない。
私には静かに受け止める役が相応なのだ。 たまに行き過ぎてしまうまどかを引き止める役としても。
まどか……。 私はあなたを愛せているの?
答えはない。
……今夜はまどろみに溶けてしまおう。
夜が明ければまた忙しい日常だ。 せめて今だけは、まどかがくれた安らぎに溺れていたい。
胸をまどかの香りで満たす。 このまま、まどかに溶けていこう。
まどかを抱いて、私は意識を閉じた。

http://ikura.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1359021367/397