667 名前:お見舞い 1/5[sage] 投稿日:2014/04/19(土) 05:48:05.54 ID:kG8Ukgkz0
「んんっ」
ふと、目が覚めた。 部屋の中は真っ暗。 頭が重い。
4月も折り返し地点を過ぎ、日中はぽかぽかと暖かくなってきたというのに、 日が暮れると春物だけでは少し心細い天気のせいで風邪をひいてしまったのだ。 いや、最低気温をきちんと確認していなかった私が悪いのだけれど。
寝転んだまま、うでをのばして枕元の時計を探しあてる。 ―午前3時半。
学校は休んで一日中寝て過ごしていた。 最後に起きたのは夕方だったので、かれこれ半日近く寝ていたことになる。 よくもまあ、こんなにも寝られるものだ。
とはいえ、このまま起きるつもりはない。 熱は下がりきっていないようだし、若干の空腹は感じるものの、 料理をする元気などあるわけもなく、あるのはインスタント食品のみ。 弱った体で食べるようなものではない。
そしてなにより、布団から出るのが億劫だ。寒いに決まっているもの。
「はあ」
ため息を一つついて、まどろみの世界へ戻ろうと寝返りをうったところで……
心臓が止まるかと思った。
なぜ、まどかが、いるの。
669 名前:お見舞い 2/5[sage] 投稿日:2014/04/19(土) 05:48:57.22 ID:kG8Ukgkz0 眠気が一気に覚めてゆく。
確かに、まどかはこの世界にいる。 一度は魔女を滅ぼす概念としてこの世界から消滅した。 それをアメリカ帰りの帰国子女として取り戻したのだ。
そこは問題ではない。 問題は“なぜ”“まどかが”“私の隣で”幸せそうに寝ているか、だ。
ふと気になって、視線を下へ。 ―パジャマは着ているのね。
安心できる材料を見つけて意味もなく安堵する。 …これでまどかが裸だったりしたら、自分の正気を疑っていたでしょうね。
とりあえず、前言撤回。布団から出ましょう。 すっかり目も覚めてしまったし。
そろそろと布団から出る。 まどかを起こさないように、まどかが寒くないように。 ベッドのすぐ脇に置いてあった靴下をはき、上着を羽織る。
そして物音を立てないよう気をつけて部屋を出た。
670 名前:お見舞い 3/5[sage] 投稿日:2014/04/19(土) 05:49:37.94 ID:kG8Ukgkz0 手がかりはキッチンにあった。
ピンク色のかわいいメモに、かわいらしい文字が並んでいる。
『勝手におじゃましてごめんね。 学校を休んでいたから心配で来ちゃいました。 家の場所は先生に聞きました。
ピンポンを押したらドールズちゃんが開けてくれたので おじゃましました。』
――あの子達……
『冷蔵庫にポカリとプリンと桃缶があります。 おなかが空いたら食べてね。』
――買った覚えのない食材も冷蔵庫にあるのは何でかしらね……
『お皿の片付けとかもやるから、ほむらちゃんは休んでいてください。 いろいろと勝手にしちゃってごめんなさい。 早く良くなりますように まどか』
あの子ったら…… 桃を食べながら(缶を開けて、中身をお皿に出して冷蔵庫に入れてあった)、 まどかの気遣いに涙しそうになる。
ただでさえ一人暮らしなのに、病気をすると寂しさは倍増する。 その寂しさが、まどかの温かい優しさで満たされるようだった。
671 名前:お見舞い 4/5[sage] 投稿日:2014/04/19(土) 05:50:19.57 ID:kG8Ukgkz0 「さて、もう一眠りしようかしら」
桃とプリンを食べ終わって、ひとりごちる。 皿とコップを流しに持っていく。今日は素直に甘えさせてもらおう。
「またお礼をしないといけないわね」
とはいえ、まずは風邪を治すのが第一だ。 だが、次に目覚めたときにはすっかり元気になっているだろうという 予感があった。
「よいしょ、っと…」
食卓の電気を消して、まどかのいる布団へ戻る。 布団はまどかのぬくもりで満ち満ちていた。
まどかの優しさで満たされ、まどかのぬくもりにつつまれる。 風邪の居場所なんて、あるわけがない。
「おやすみなさい、まどか」
そうして私は再びまどろみの世界へと戻っていった。
672 名前:お見舞い 5/5[sage] 投稿日:2014/04/19(土) 05:51:36.23 ID:kG8Ukgkz0 おまけ?
私は同じパジャマを二着持っている。 安くなっていたから、同じものでもいいかと買ったのだ。
だから、昨日着ていたほうのパジャマが、タイマーのセットされた洗濯機で 濡れタオルやらと一緒に眠っていることをその時の私はまだ知らなかった。
『いろいろと勝手にしちゃって』の意味を知るのはもう数時間してからのこと…… おしまい
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