遠距離恋愛/女1視点

Last-modified: 2013-07-04 (木) 01:14:15

(どうも女1の性格・行動付けに困ったので、女1視点で書きなぐってみるぜ。女1の言動に影響を与えそうな部分は太字だ)

 

生まれた家庭

私は一人っ子。両親と私の3人家族。マンションに住んでいる。
我が家の中心は、母だった。行動力、口数の多さ、たぶん収入も。母はソフトウエア技術者だ。私を産む前・産んだ後は仕事を休んでいたけど、私におっぱいを吸われながら、キーボードを叩いていたという。
父はプログラマの仕事をしたりしなかったりしてたけど、私にとっての父は、私を保育園に送り迎えしてくれたり、私が病気のときに看病してくれたり、母が疲れているときに (一年の半分くらいの日数) 料理や家事をやっている人、というイメージだ。
両親ともコンピュータ関連の仕事だったので、私は、大人になったら全員コンピュータの仕事をするものだと思っていた。他の職業はすべて、特別な家に生まれた人がなるものだと。

 

小学校時代

どうやら父は、がんばって私の世話をしていたものの、心の奥では不満を抱えていたらしい。父と母のけんかは、私が保育園のときは週一回、小1・小2になると、もっと頻繁になっていった。
それは、けんかというより、静かに言い合う、愚痴と自虐の競争だった。まず母が、仕事で疲れたことや苦労したことを、台風のようにしゃべる。父はしばらく聞き役に徹しているが、やがて我慢できず、「仕事で苦労なんて結構じゃないか、俺なんて仕事で実現したいことを全て諦めて、家事と育児を手伝ってるんだ」といったことを言う。すると母は、その256倍の言葉で反撃する。
私は、父と母、どちらが悪いとも思えなかった。

 

好きだから結婚したんでしょ? と聞いたことがある。それぞれ別の日に。
父「そうだよ。ママは輝いてた。でも、結婚して子供を育てるっていうのは、別の問題だったんだ。」
母「そりゃ好きだったよ。この人なら私を幸せにしてくれると思った。でも…私を幸せにするために、あそこまで自分を追い詰めるとは思わなかった。」

 

そうか。それで私は、「好き好き大好き」っていう燃えるような恋愛の話を聞いても、冷めているんだ。互いに好きだったけど崩壊しつつある夫婦の子だから。

 

私が小3の冬、父が変になってきた。家事を完全無欠ってくらいに完璧に片付ける日もあれば、一日中布団から出てこない日もあった。さらに、母と言い争うことがなくなった。母が何を言っても、絶望したような目で、黙って聞くようになった。
私が小4のとき、母のすすめ (とたぶん金銭的な援助) で、父はしばらく一人旅に出た。母は働き、家には私一人だったが、何の問題もなかった。父のやり方を見て、私は家事ができるようになっていた。
母の表情が明るくなってきた。
1ヶ月後、父が帰ってきた。ふっきれたような、穏やかな表情だった。
私は直感した。そして、その直感は当たった。
母と父は、きわめて平和的に、離婚した。

 

女性の社会進出って言葉は、100年以上も前から言われてた。その言葉がようやく現実的になったのは、つい最近のことだ。
現代の女性はその気になれば、育児を外部委託し、家事を自動化し、安心してフルタイムで働ける。だから十分な収入を得られる。
その結果、楽に離婚できるようになった。

 

べつに不自由もなかったし、寂しくもなかった。
学校や地区センターで友達と遊んで、夕食の買い物をして、家に帰る。
夕食を解凍してつまみ食いしながら、電話でゲームしたりマンガを見たり問題集をやったりする。そのうち母が帰ってきて、2人で夕食をとる。
母はよく仕事の話をする。NDA(機密保持契約)の範囲内で。私は、母が話すことが世界の常識だと思っていて、たまにそれが常識ではなかったことを知って混乱する。たとえば「ちょうど1024円」とか「片手で数えられるって31までだよね」とか友達に言って、怪訝な顔をされたり。

 

中学時代1-母が再婚へ

私が中学生になると、母の帰りは遅くなることが多かった。しかし母の顔は生き生きとしていた。私はその原因は、やりがいのある仕事を任されたからだと思っていた。違った。
母「あのね、いまママには好きな男の人がいて、仕事を早退したり休んだりして会いに行ってるの。」
意外だし驚いたけど、母の笑顔を見ると、嫌な感じはしなかった。
女1「へー、いいんじゃない。どんな人なの? うまくいきそう?」
母「いい人だよ。そうだね、例えるなら…木みたいな人。とくにブナの木って感じ。」
母がそんな喩えをするとは思わなかった。
女1「ブナの木ってどんなの?」
母「総合公園の広場に生えてるやつだよ。なめらかで、肩肘はらないけどまっすぐ。」
女1「うん、よくわからないけど、お母さんを見てたら、うまくいきそうってことだけはわかった。もう少し具体的に説明すると?」
母「農業をやってる人なの。植物工場で。ここから新幹線で2~3時間かな。だから会うときは互いの中間地点にしてる。あと、ママよりひとつ年下で、子供がひとり。小学2年生の男の子。」

 

いろいろ話したあと、ためらってから聞いてみた。
女1「あのさ…パパのことも「好き」だったんでしょ? だけど別れたんだよね。」
母「ああ、そういう心配してるんだ。絶対とは言えないけど、なんとなく、前のようなことにはならないんじゃないかな。今回の「好き」は、前のパパのとは違う感じだから。」
女1「違う「好き」って?」
母「そうね…100m走とマラソンの違いとか…テルミット反応とカイロの違いとか…あ、電気のカイロじゃなくて、使い捨てカイロのほうね。」

 

中学2~3年生のとき、たまに、母は私を連れて、相手の男性とその子供を会いに行った。男性は、美形ではないけれど、人のよさそうなおじさんで、諦めたような笑顔をしていた。子供は、たしかに小学生男子で、はじめは父親の後ろに隠れていた。
4人でレストランの席についた。男の子が席を立って歩き回ろうとしたので、父親が取り押さえた。男の子が電話を取り出して遊び始めたので、父親がぺしっと頭を叩いた。
男性「こら、約束しただろ、逃げ出さない、ゲームしないって。今日は子供どうしが仲良くなれるかどうかを見にきてるんだから。」
大人に促されて、男の子は、名前・学校名・学年を名乗った。
男性「いいか、父ちゃんがこの人と結婚したら、このお嬢さんがおまえのお姉ちゃんになる。いきなり仲良くなれとは言わない。少しずつでいい。そうだな、とりあえず…」
男性は男の子に何か耳打ちした。
男の子は、ふてくされたような困ったような顔を斜め下に向けて、ちらちらと私のほうに目を向けながら言った。
男の子「ぉ…姉ちゃん…」
あ。いま、なんか私の背骨を、変な生き物が駆け抜けた。そんな気分。

 

母「そうすると、こっちが引っ越すのが妥当なのよ。ママは遠隔ログインでも仕事できるけど、父ちゃんは畑から離れられないでしょ。でも、あなたに強制はしない。引っ越したくないなら、他の方法を考える。」
女1「うーん…べつにいいよ、引っ越しても。ただ、他県の高校に入るから、学力の変換とか書類がちょっと増えるみたいだから、そのへんは協力してよね。」

 

中学3年生の後半になると、友達との会話で「どの高校に行く?」という話題が出る。私が他県に引っ越すという情報は、数人の友達が知るところとなった。…とはいえ、私はべつに有名人じゃないから、その情報が広まることもなかった。

 

年が明けて、バレンタインデーが過ぎ、一番寒い時期がやっと終わる頃。
私は、ある男子に告白された。

 

中学時代2-男1からの告白

男1くん。中学2年から現在まで2年間、同じクラスの男子。そういえば小3~4も同じクラスだった。9年間のうち4年間一緒、といっても、学年に2クラスだから珍しい話ではない。
小学生のとき、男1がどんな子だったのか、詳しいことは覚えていない。なにしろパパがあれだったから。ただ、小学生なのに、忙しく働く大人がつけるような、電子メガネをかけていたのは覚えている。なにか目の病気とか聞いた気がする。

 

中学2~3年では、何度か話すことがあった。
席が近かったので班分けで一緒になったり、席がとなりどうしだったこともある。道具を貸し借りしたり、ちょっとおしゃべりしたり。私の頭の中に、誰でもいいからとにかく聞いて! という話題があるときは、男1が真っ先につかまる相手だった。例えば、面白い動画を見つけたとか、登校中の道にすごい大きなカエルがいたとか。
あと、男Xくんの話題。男Xというのは、女子のあいだで人気のある、学校一番の美少年。男Yという親友がいて、いつも2人で一緒にいる。だから一部の女子は、2人をカップルということにして、脳内で「ホモォ」などと思ったりしていた。
そんなわけで、男Xについて、どんなささいなことでも、他の女子が知らない情報を持っていけば、女子のあいだで人気者になれる。なかには、話題の中心になるために、男Xと男Yが深夜の神社で、名状し難い冒涜的な存在と戦っていた、というおとぎ話を作り上げる女子もいた。
で、私も流行に乗って、男Xの情報を集めていた。男Xは、小学5~6年のとき、男1と同じクラスだったという。こんな身近に情報源がいるとはラッキー。私は男1に、男Xのことをあれこれ聞いた。本当にどんな情報でもよかったのだ。
例えば、図工の時間に、男Xが指を怪我した、という情報があったとする。ほんの2~3ホップのルーティングのあいだに、その情報は、「図工の時間に男Xが指を怪我したら、すぐ男Yが傷口を舐めた」という話に装飾される。

 

こうして思い出してみると、私は、けっこう男1と話していたのかもしれない。
でも、好きとか嫌いとか、考えたこともなかった。

 

みんな高校も決まって、卒業式が一週間後にせまった、ある日。
電話を見ると、男1からメッセージが来ていた。
男1「用事がある。昼、中庭の西門側に来てくれ。」
なんだろう。男1って何かの係だっけ。用事って私一人で行けば手が足りるのかな。
…え、告白? そうかな。困ったな。だって、男1は私が引っ越すことを知ってるし、もうすぐ卒業だから、今さら告られてもね。嫌いじゃないけど。好きかどうかなんて、わからない。どうしよう。

 

混乱した頭のまま、昼になった。
男1が席を立ち、私をちらっと見て、教室を出て行った。
私はしばらく友達と話していたが、
女1「あ、呼ばれてたんだ。職員室のほうに行ってくる。」
と言って席を立った。嘘ではない。職員室の前を通って中庭に出る。

 

中庭の片隅、菜園や駐輪場のほう、あまり人が通らない場所に、男1がいた。ポケットに手を入れて、背を丸めて寒そうに歩き回っている。
私に気づくと、男1は立ち止まったが、そわそわと体を動かしている。
男1の表情は、緊張、作り笑顔、不安、諦め、のように忙しく変わっていた。
男1「…よ。」
女1「…なにかな…用事って。」
男1は数秒間、私をちらちら見たり目を逸らしたりして、黙っていた。
数秒間、心臓の音しか聞こえなかった。
大きく呼吸してから、男1が言った。
男1「俺は、女1のことが、好きだ。」
意外。やっぱりね。どうしよう。悪くない。でも困った。好きなのかな。わからない。何百もの言葉が私の頭を走り回った。
数秒後、私の口から出た言葉は、
女1「でも…私、引っ越すんだよ?」
違う、そうじゃなくて。私が思ってることは、そんな短い言葉じゃ現せなくて。と思ったが、遅かった。
男1は、寂しそうな目をして、肩をすくめて言った。
男1「…じゃ、向こうでも元気で、な。」
男1は私に背を向け、早足で立ち去った。

 

それから卒業式までは、私は友達と連絡先の交換で忙しく、男1もなんか私のことを避けてるみたいで、私と男1は朝の挨拶くらいしかしなかった。
卒業式当日も、友達との寄せ書き集め、それから男X・男Yを見納めに行き (やはり女子の行列ができていた)、それから友達と一緒にスーパーでお菓子を買って公園に行き、暗くなるまでしゃべっていた。

 

数日後。
母は、わずかに残っていた父の所有物を段ボールに詰め、父方の祖母に送りつけた。
母と私の荷物は、下着くらいは自分で箱詰めして、他のものは業者にお任せした。電子メガネをかけた業者の人が、電話を操作して数体のロボットに指示を出し、荷物をトラックに積み込んでいく。
ずっと散らかったままだった部屋があっという間に片付いて、すっかり物がなくなる。がらんとした、床と壁と窓だけの空間。床の傷、本棚のところだけ色が白い壁、それだけが私の生活の痕跡。それすら、一ヶ月後にリフォームされて消えるはずだ。
私と母は、わずかな手荷物を持ち、電車に乗り、新幹線に乗り換える。お弁当を食べたり、引越先周辺の地図を電話で見たり、買い物やお出かけスポットを母と話したりしてるうちに、現地に着いた。

 

お父さん (新しいほう) が駅まで車で迎えにきた。地方都市から郊外へ。工場・田畑・住宅地・山林。広がる空。地平線。
新しい家。今朝まで住んでいたマンションよりも圧倒的に広い。庭も広くて、何本もの植木があり、いくつかは美味しそうな黄色い果実をつけている。かすかに動物園のにおいがする。と思ったら子供の走る足音と犬の鳴き声が聞こえてきて、私の弟 (いきなりできた) が現れた。しかも数人の小学生男子を引き連れて。
弟「おねーちゃん! よー来たねー! じゃなくて、おかえりー!」
犬「わん! わん!」
男子1「おー、なんまらどえりゃーべっぴんさんぞなもし。」
男子2「たーけ! こーゆーときは、田舎からよぅお越しやす、ってゆーんだで!」
犬「わん! わん!」
弟「こらピート、まて! ねーちゃん! このボール! ほら、もって! ピートのお気に入りだから! 投げて!」
犬「わん! わん!」
あれ、ここって何県だっけ。と考える暇もなく、犬や小学生男子と遊んだり、引越しの荷物を搬入指示したり、豪華な夕食を食べたりお風呂に入ったり、そして疲れ切って眠る。
これから私は、ここの県民になる。