遠距離恋愛/ep10

Last-modified: 2013-11-16 (土) 10:19:11
ep10
「はじもめ」
 

風邪をひいて学校を休んだ。2日後、風邪は治った。
しかし習慣は途切れたら終わりだ。そして部活も習慣。
俺はこのまま部活に行かなくてもいいと思った。

 

## 男1が教室のドアを開ける。
## 男1の席には男Cが座り、女Cと話している。

 

女C「…って、作者の願望を具現化したものだから。」
女C'「妄想をダイヤのクソとして捻り出したものだ!」
男C「とすると、リアルな恋愛小説ってのは」
女C「ありえない。」
女C'「種馬とオカマだけだ!」
男C「じゃあもし、リアルな恋愛を小説にしたら…」
女C「女が男と出会わない。」
女C'「出会ったとしても、男にひとつでも欠点があると、恋愛対象にならない!」
男C「ひでぇ。」
女C「女が、妻子ある魅力的な男を好きになって…」
女C'「しかし男は家族が大切なので、浮気などしなかった!」
男C「成立しねぇ。」
女C「そう、成立しない。その結果…」
女C'「総人口の半数がジジイババアの国ができた!」

 

男Cがなかなか俺に気付かないので、俺は男Cの背中に蹴りを入れた。
男C「ごフっ!?…男1か、治ったのか。椅子を温めておいたぜ。」
俺「いらん。」
男Cは椅子を俺に譲り、俺の机に座った。
男C「なるほどねぇ…リアルはありえないのか。」
女C「例えばこの小説…主人公は先生に恋をしたけど、それとは別の…同年代の男の子と付き合って…」
女C'「何となくヤって!」
男C「もういいです…」
女C「友達の女の子がなんか悩みを抱えて…」
女C'「そいつはレイプされて自殺するのさ!」
男C「う…それも作者の願望なの?」
女C「たぶん作者は、今つきあってる相手に不満なんじゃない? 不満。」
女C'「夫のモノに飽きたんだろ! HAHAHA!」

 

部活に出ないで、一人で電車に乗り、家に帰った。

 

## 男1の部屋、夜。

 

夢を見た。
部室の、いつも女2さんが座る位置に、女1がいた。
俺はそれを不思議とも思わなかった。俺と女1は何か話し合った。救助コンテストのために、ヘリとロボカーを連携させる話だ。ひとつ試したい技法を思いついた。俺は女2さんに「明日、試してみる」と言った (いつの間にか話し相手が女1ではなく女2さんに入れ替わっていた)。

 

目が覚めた。気まずい。
しかしそれ以上に、夢の中で思いついたことが気になった。ヘリとロボカーの連携。たぶん…ヘリからの画像とロボカーからの画像を組み合わせて、要救助者を囲んでいる瓦礫の立体構造を把握する、とか、そんな内容だった。
女1や女2さんと顔を合わせたくなかった。しかしそれ以上に、思いついた技術を試したかった。

 

悔しいけど、僕はオタクなんだな。

 

## 翌週。
## 2070年 11月 17日 (月)。
## 教室。

 

休み時間、メッセージが来た。
女D【mtg】
ミーティング、か。
俺【ok】

 

放課後、10日ぶりに部室のドアを開けた。
相変わらず雑然とした部屋の中に、女2さん、男Eさん、女Dさんがいた。さらに、机の上に立てられた女2さんの電話の中には、女1が居た。
俺「…っす。」
男E「よう。」
男同士で短く挨拶する。女Dさんは1秒だけ視線で挨拶した。
女2さんは落ち着かない様子だ。
女2「大丈夫? 風邪だって?」
大丈夫、気にしてない。振られるのには慣れてる。
俺「治りました。」
そう。治った。あれは性器の炎症で意識が混濁して、うわごとを言ったんだ。
俺の後ろから男Fさんが部室に入ってきた。
男F「おー久々だな男1くん! 先週は大変だったよ、女2が痛ってぇー!?」
男Eさんが投げた空き缶が命中して、男Fさんの台詞は途切れた。

 

女Dさんの教科書の中に、男Dの顔が表示された。
女2さんは画面内の男Dと女1を見て、
女2「バーチャル部員が2人、と。」
男D「えっ?」
女1「えっ?」

 

女2さんが教科書でシミュレータを起動し、ロボカーの探索AIをデモする。
女2「まず展開フェーズ。次に、ヘリが観測した地形データを受信したら、探索フェーズ。」
ロボカーのアイコンが画面の中を移動していく。それを見ながら、女2さんがAIの動作を説明した。

 

電話の中の女1と話す。
女1「…を変えたら、自動テストが通らないんだけど。」
俺「どれ?」
エラーログを見る。わからない。
10分経過。
女1「あー!! これだ!」
俺「どうした?」
女1「行末にスペースがついてる! これのせいでdiffってんだ!」
俺「なんだと? こんなテストを書いたのは誰だ? …あ、俺だ。」

 

女1も 女2さんも、前と変わらず接してくれる。
いや、本当にそうなのか?
気分が重い。女2さんに振られたからに決まってる。女1は関係ない。

 

女1が妙にきれいに見える。
通信状態が良好で、画質が良いせいなのか。
それとも…女1が「抱かれた」せいなのか。誰かに。

 

熱いハンダごてが胃の中に刺さるような感覚がした。

 

なんだか、この部室にいるのが苦しくなって、立ち上がった。
俺「ちょっと…まだ調子が良くないんで…今日は帰ります。」
女2「そう? お大事にね。」
女1「ばーい。」

 

ひとり、電車で帰った。

 

## 夜、男1の部屋。
電話にメッセージ。
女1【47人の「アイドル == 彼氏いないリスト」から外されたみたい、私…なんか間違ってる…】
俺は、手首から電話を引きちぎるように外し、机に叩きつけた。
女1に彼氏ができて、しかも「間違い」をした、と。

 

## 次の日、教室。
女C「この主人公、いわゆる大2病。大2。大学のサークルで彼氏つくるんだけど…」
女C'「あっさり別れて、ヤり逃げされた! って自慢げに言いふらすんだ!」
男C「わかんねぇな、なんでそれが自慢なんだ?」
女C「うん…私は恋多き女、大人の女…と言いたいんじゃない、かな。」
女C'「ふん! お前らだって、脱童貞したら友達に自慢すんだろ?」
男C「逃げられたことじゃなくて、うまくいってることを自慢したいもんだな。」
女C「ノロケも…ふつうのノロケもあるんだけどね。でもすぐ別れる。」
女C'「あの男とはただ体の関係を持っただけ、何の感情もない。そんなふうに割り切れる私って、独立した格好いい大人の女でしょ? ってな!」
男C「ノロケは聞きたくないが、別れた話も聞きたくないな…」
そんなことを男Cと女Cが話していた。

 

## 部室。
女1や女2さんと顔を合わせるのは気が進まない。
でも、作りたいものがある。
俺「上空からの画像を解析して、要救助者のまわりのガレキがどんな構造をしてるか、把握できないか?」
女1「そういうライブラリはあるけど…いろんな方向からの画像が必要だし、演算処理もけっこう重いよ? ただでさえヘリの制御が重いのに。」
俺「むむ…」
女2「ヘリが空中で止まってたら?」
女1「ホバリング中もけっこう負荷あるんですよ。」
俺「じゃあ、要救助者のまわりで画像を撮影だけして、画像を保存。拠点に着陸させてから解析する。これでどうだ?」
女1「おー、それなら…」

 

協力して、ひとつのシステムを作り上げる。
純粋だ。
様々な感情が油汚れのようにこびりついているが、しだいに洗い流されていく。

 

## 電車。
## 男1、女2、男E の3人で帰る。
男E「…で、男Gって、まだ大学決めてないんだぜ。」
女2「えーっ!? この時期に?」
男E「なんだか、ネットに公開されてる授業で個別に単位を取って、そのあと研究だけは大学行くとか。」
男1「ああ、情報系だと、そういう手もありますか。」
男E「あいつが言うには、こっちのほうが安上がりで、しかも質の高い授業があるんだと。」
女2「そうかもねぇ、ネットなら競争原理が働くからね。」

 

男Eさんが降りる。
俺と女2さんの2人になる。
気まずかった。

 

## 夜、男1の部屋。
教室で女Cが言っていたことを思い出した。
俺【なあ…男に捨てられたことってある?】
女1【ん? ないよ。こっちが断ったことはあるけど。】
俺のことだ。聞くんじゃなかった。
ということは、あの抱…デートした…男は、捨てられても、振ってもいない…まだ続いてるってことか。

 

## 翌日、部室。
電話の中の女1は、電子メガネをかけていた。
俺「それは?」
女1「うん、お母さんのお古だよ。最近お母さん、網膜投影タイプの新しいメガネ買ったんだ。」
俺「ほう…」
女1「で、どう? 私のメガネ、似合う?」
俺「んー? 初めて見たからな、違和感ある。」
女1「そこはウソでも「似合う」って言うもんだよ!」
俺「知らんがな。」

 

女1「ちょっとさ、男1のメガネの画像、こっちで見ていい? アクセス許可くれる?」
俺「そんなこと できたっけ?」
女1「設定メニューの下のほうにね…」
女1に言われたとおりに操作すると、できた。
俺の視界の片隅に女1のアイコンが表示されて、女1が俺のメガネのカメラ画像を見ていることを示す。
女1「おー、男1視点だと、こういうふうに見えるのかー。ってちょっと! 頭うごかさないで! 酔う!」
俺「無茶ゆーな。」

 

女1「いやーメガネって便利だねー。あちこちにソースコードやヘルプを表示させて作業できるって。」
俺「あんまり散らかすと、立ち上がったときリアルな物体につまづくぞ。」

 

電話で話せるのに、なぜか女1はメッセージを送ってきた。
女1【男1のカメラで気づいたんだけどさ…男1って、女2さんばっかり見てるよね。】
俺【 ! 】
女1【やっぱり…そうなの?】
俺【格好悪いな、俺って。振られたのに未練がましい。】
女1【えっ!? 振られた?】

 

## 帰りの電車。男1、女2、男E の3人が話している。
女2「…って文系の友達が言ってたんだよ。文系の論文ってのはそう書くんだって。」
男E「あとアレだ。文系ってコリレーション(相関関係)とコーゼーション(因果関係)の違いも習わないんだろ?」
俺「やべ、忘れてる…XがYの原因である、YがXの原因である…あとひとつ、3つ目の仮説って何だっけ?」
男E「落ち着いて思い出してみ?」
女2さんが助け船を出す。
女2「変数XとYの間にコリレーションが観測されたとするよね。例えば、X=ある食品の摂取頻度が高いほど、Y=学校の成績が良い、のような…この情報から立てられる仮説は 3パターンあるんだよね。」
俺「っと…(1) この食品のおかげで成績が良くなった、 (2) 成績が良くなったおかげで この食品が体に良いことを知って 食べるようになった、…あとは…そうだ! (3) 別の原因 Z、たとえば食事と知能の両方に影響するような因子…家庭環境とか…があるかもしれない、この隠れた変数 Z が XとYの両方の原因であるパターンだ。」
女2「そう! 正解ー! XからY、YからX、ZからXとY、の3パターンね。」
男E「○○は体に良い、の定番だな。世の中、詐欺師だらけだ。」

 

こうして話せることが嬉しい。

 

## 夜、男1の部屋。
晩秋の夜は冷える。風呂で温まってきた。
また女1からメッセージだ。
女1【一緒にお風呂入るのって、セーフだよね。】
俺【何が!?】
女1【弟が。まだ10歳だから。】
俺【アウトかセーフかと言えば、デッドボールだ。】
女1【あはは!】

 

もやもやする。はっきりさせたい。
しかし聞くのが怖い。

 

10分間ためらってから、
俺【こんなことしてていいのかよ。彼氏、いるんだろ?】
俺は思い切って送信した。
数秒で返事が来た。
女1【え? いないよ?】
俺【この前ログで…】
女1【うん、男の人とデ…二人で出かけたことはあるけど、でも、彼氏じゃない。】
女って信用ならねぇ。と男Cが言っていた。
それに女Cの話では、彼氏じゃなくても…って。
俺【どこまで…ヤ…仲良くなったんだ?】
女1【市街地に出て買い物したり、お茶したり、普通だよ。】
デートじゃないか。
俺【それで、夜、帰りは…】
ホテルにでも行ったのか。
聞きたくない。
女1【晩ご飯には家に帰ったよ。でも、帰りのバス停で、ぎゅっと抱かれたときはびっくりした。】
俺【抱かれた?】
女1【そう、他の人も見てるのに、ぎゅーって。】
俺はおもむろに立ち上がり、メガネを外し、手で顔を覆って、

 

床を転げまわった。

 

数分後、さらに確認する。
俺【それ…彼氏じゃないのか?】
女1【ちょっと急接近されすぎて、なんか違うって思った。】
俺【で…振った?】
女1【「次はいつ会おうか」って聞かれたから、「わかんない、そのうちに」って答えておいた。】
俺【微妙だな、それは。】

 
 

## 2070年 12月下旬。

 

終業式。ついでにクリスマス会をやる部活・同好会も多い。
廊下では多数の生徒グループが、飲食物の物々交換を行っている。菓子を段ボールでまとめ買いして、それを小分けにして他のグループと取引している。
放送「生徒会からのお願いです。当校の生徒が多数、コンビニの配達を注文すると、ロボットが足りなくなり、近隣のお年寄りの生活に支障が出ます。食べ物・飲み物は宅配を使うのではなく、自分の足で買い物に行くよう、ご協力をお願いします。」
部室でそれを聞いてボヤく3年生。
男E「ったく…コンビニにとっちゃ、金さえ払えば年寄りもオレたちも、同じお客様だろうが。」
男F「仕方ない、多数派の意見だ。老人は多数派、僕たち若者はマイノリティ。」
生徒会からの放送には続きがあって、
放送「宅配ロボを使うのは、挿入直前、コンドームがない! ってときだけにしろ!」

 

ふだんはハンダのにおいがする部室だが、今は菓子類のにおいに満ちていた。

 

男Fさんは、光っていた。
全身にELを巻きつけて、それが点滅しているのだった。
俺「なんすか…それ。」
男F「どうよ、全身スペアナ。マイクから入れた音楽をマイコンでFFTして、ちょっとエフェクトかけて、ELに表示してるんだ。」
女D「…全身…穴…入れる…」
男E「生徒会長の悪影響がーっ!」

 

画面の向こうの福島では、マイコン部もパーティを始めようとしていた。
女1「じゃじゃーん! 私はこれを作ってきましたー!」
マイコン部員「おお、うまそう! 唐揚げ!」
女1「惜しい。イサキの竜田揚げ、だよ。」
ナカ高ロボット部と通話がつながっている。
女2「おー、すごいね、料理得意なの?」
女1「ですよー、ほらほら、見て!」
女1が弁当箱の中を電話に見せた。
ちゃんと形のある竜田揚げが入っていた。
俺「…上手になったな!」
女1「やった! そう言ってくれるのは男1だけだよ!」

 

みんなで飲み食いしながらいろいろ話した。その中で、
女1「年末年始は、横浜のばーちゃん家に泊まりに行くよ。」
俺「 ! 」
女2「ほんと? じゃあ会おうよ。ロボット部のみんなで。」
男E「いいね。みんなで一緒に初詣すっか?」
女1「そうしましょう。あと私のヘリ、実物を見たい。」
俺「おまえのじゃねーよ。」

 

すっかり夜になった。外は真っ暗だ。
放送で、下校時刻を過ぎているので すみやかに退出するように言われる。
ロボット部も片付けをした。

 

## 帰りの電車。忘年会帰りの客もいる。
## 男1、女2、男E の3人で寄り集まって、初詣の計画を立てる。
男E「じゃ、また来年!」
まず男Eさんが降りる。次の駅で、
女2「じゃーね、よいお年をー!」
女2さんが降りる。

 

## 2071年 1月 1日 (木)。
## 男1は自宅で家族とともに宅配お節料理を食べ、だらだらと過ごしている。

 

女1【うち、伊達巻きだけは手作りなんだ。ばーちゃんの直伝で、お母さんが。】
俺【すごいな、そういう、家に伝わる味って。女1は作った?】
女1【味付けは習ったんだけどねー。どうも形が崩れる。まだまだ。】
俺【うちは全部宅配だから、形がどうあれ、手作りお節料理って未知の世界だ。】
女1【そうそう、大掃除してたら、フロア・コントローラが出てきた。畳みたいな板で、1mmくらいのトラックボールがずらっと並んでるやつ。】

 

## 2071年 1月 2日 (金)。曇り。午前。

 

女1と駅で待ち合わせした。
俺が着いて一分もしないうちに、女1が来た。
女1「あけー!」
好きだ…った。相変わらず可愛い。
そんな自分の心を隠すように、
俺「おめー! いやしかし寒いな! 夜は雪かもだってよ!」
俺は電子メガネをずらして、肉眼で女1の姿を確認した。
女1「ん? 実物だよ?」
俺「いや、一応…それになんか…その格好、寒くないか?」
女1のスカートはやけに短い。ふとももが眩しい。
女1「え、平気だよ。横浜は暖かいね。…この服、変?」
俺「いや、それ…かわ…似合ってる。」

 

女1は自分の服のにおいを嗅いだ。
女1「大丈夫かな…」
俺「何が?」
女1「ばーちゃん家に泊まってるから、線香のにおいがついてるんじゃないかと。」

 

電車が到着するまで、駅の階段で風を避けて待つ。
女1「あの、さ…ごめんね、待たせて…」
俺「え? …いや、俺も来たばっかりだったし。」
女1「ああ、うん…そうだね…」

 

電車に乗った。
次の駅に止まるとき、ホームに女2さんが見えた。
俺「あ、女2さん。」
女1「本当? どこどこ?」
俺「この電車の後ろのほうに乗ったんじゃない?」
女1「じゃあ行こ行こ!」
電車が発車する。俺と女1は慣性に従って、後部車両まで歩いた。
女2さんが座っていた。
女1「女2さーん!」
声をかけると女2さんが立ち上がって、駆け寄って、女1を抱き締めた。
女2「きゃー! リアル女1さんだー! やっと会えた!」
女1「どーも、はじましておめでとうございます?」
女2「そうだねー、はじもめ? わー、可愛いね、その服。」
女1「ありがとー。女2さんのコートも素敵ですよー。」
そして女同士のおしゃべりが始まり、話題があちこちに飛んでいく。
さらに次の駅。男Eさんが乗ってきた。
女1・女2「あけおめっ!」
と短く挨拶しただけで、女二人はおしゃべりに戻った。
男E「なんだかな、部外者って気分?」
俺「なんか、そうですね。」
おしゃべりは目的地の駅に着くまで続いた。

 

神社の近くの駅で男Fさん・女Dさんと合流した。
男E「相変わらず男Gは遅刻か…でも男Dくんもか。」
男F「さっき電話した。2人とも昼メシに合流するってさ。冬の大会から漫研と合同の打ち上げで、さっきまで寝てた。」
男E「じゃ、オレたちは先に初もうでてしまおう。」
6人で歩く。神社は急坂の上に張り付いている。
坂を登る間も、女1と女2さんがしゃべり続けていた。
男F「女3人でやかましい、とは言うけど、2人だけでも十分…いや、3人…そう、3人…」
女D「別に…どっちでもいいです。」

 

神社の入り口には数件の屋台がある。たこ焼き、焼きそば、甘酒。
食品3Dプリンタで作るキャラ飴は子供に人気だ。

 

男E「神社とかけて、健康食品詐欺と解く。」
男F「その心は。」
男E「金を払わないと良くないことが起こるぞ、と脅す。」

 

身が締まるような寒さだが、多くの参拝客が並んでいる。
俺たち6人も列に並び、やがて順番が来た。
それぞれ賽銭箱の読み取り機に電話をタッチし、適当な金額を転送する。賽銭箱から効果音が鳴る。垂れ下がった縄を揺らして鈴を鳴らす。柏手を打ち、頭を下げる。
(…何を願う?…思いつかないから、無病息災・学業成就でいいや。)

 

境内をぶらぶら歩きながら、電話でおみくじを見る。
小吉。学業成り難し。良縁見つけ難し。失せ物見つかる。
男E「これって本当に参拝動作から生成してんのかね? 本当は賽銭の額で決まるんじゃねーの?」
男F「おー、男E、大吉じゃん。」

 

神社を出て坂を降り、駅前のファミレスで昼食にする。
男D・男Gさんも合流して食事した。
男E「次はどうすっかね…カラオケとか?」
女1「ナカ高って今日、入れないですか?」
男E「入れる。建前上は入れないことになってるけど。」
女1「じゃあ…部室に行ってみたいです。」
女2「あ、それいいね!」

 

結局、新年早々、ナカ高ロボット部の部室に、8人で集まることにした。
全員集合 + 女1 だと、さすがに狭い。
女1「おー、これが私のヘリか! あんまり可愛くないね!」
そう言って女1はヘリを手に持ち、いろいろな角度から眺めている。
俺「可愛いとか関係ないだろ。」
女1「だって、ねー?」
女2「ねぇ。」
女D「別に…どっちでもいいです。」

 

こうしてだらだらと話しながら機械を動かしたり作ったりする。
部活の仲間で。
そこに女1がいる。当然のように。

 

いま、何か大切なものを見つけた気がする。