怜ちゃん/怪文書2

Last-modified: 2018-03-25 (日) 01:04:34

ザザー…ザザーーーー…
「静かだね…」
波の音を聞きながら夜の海岸を怜とともに歩く。
あたりに人気はなく街灯がわずかに砂浜を照らす。夜の海は暗くただ遠くに船の灯りが見えるばかりだ。
海から吹きつける風は生暖かかった。
寒くないか?と、タンキニの上からパーカーを着ている怜に問いかける。
「うん…平気…」
特に当ては無い。ホテルでは今も宴会が続いているのだろうか。それとも皆酔いつぶれてるだろうか。
途中でパーティー会場を抜け出す怜を見かけたので、後を追いかけた。
そして当て所も無い夜の散歩を続け今に至る。
「少し休もうか…」
通りかかった海岸沿いの東屋に腰を下ろす。
やっぱりまだ賑やかなのは苦手か?
「ううん…そうじゃないよ。パーティーは楽しかったし、今は皆とは仲良くしたいって思ってるし」
じゃぁ何で抜け出そうと?…いや別に責めてるわけじゃない、と念を押す。
「…私って、ずるいね。こうすれば隊長が着いて来てくれるかもって思った。そしたら本当に来てくれて、気づいたらこんなところまで来ちゃった」
怜を一人にはしないって約束したろ。
「それ、まだ覚えていてくれたんだ…ありがとう、隊長」
しばらく二人で波の音を楽しむ。
もう少し休んだらホテルに戻ろうか。突然抜け出して皆も心配してるかもしれない。
「そうだね…ねぇ隊長」
なんだ?怜
「帰ったらさ…今夜、隊長の部屋に行っていいかな…」
あぁ…いいぞ。
波の音を聞きながら、怜の方を見る。
怜は何も言わずただこちらに寄りかかってきた。

成子坂の面々との南国シャード旅行。
やっぱりと言うかいつも通りと言うか怜は皆と距離を置いて一人でいた。
最近ちょっと分かってきたことだが、そんな時は大抵かまって欲しいときだ。
いや別に本人にその気があって誘っているわけでは無いのだろうが、そんな時にちょっかいを掛けてみると迷惑がりながらも嬉しそうな表情を見せてくれる。
やれやれ、と思いながらクーラーボックスからペットボトルを取り出し、怜の元に向かう。
「あぁ…なんだ隊ちょ…ひゃっ」
隊長の首筋にキンキンに冷えたペットボトルを当てる攻撃。効果は抜群のようだ。
「びっくりした…隊長もシタラさんみたいなイタズラするんだ…」
ペットボトルを受け取りながらジト目で非難する怜。
悪い悪いと謝りながら隣に腰掛ける。
怜は泳がないのか?
「私はパス…こうして景色を眺めてるのが好きなんだ」
そうか…。よしわかった。
「って隊長!?急になにするのっ!?」
俺は怜を抱きかかえて海に向かって走り出した。
「わっバカッやめっ!!」
バシャーンと派手な水しぶきを上げてそのままダイブ。二人ともビショビショになったがまぁ水着だしいいだろう。
なんとなくやりきった思いで水に浮きながら空を眺めていたら顔に思いっきり水を掛けられた。
「やられたままじゃ終わらせないよ」
どうも怜の闘争本能に火をつけてしまったらしい。
そのまま水の掛け合いが始まる。と言うか一方的に掛けられてる。怜さん回避メッチャうまい…当たらない。
「どう、満足した?」
参りました。
「あっ怜が隊長と遊んでるっす!私も混ぜるっすよ!」「おーい怜ー!一緒にあそぼー!」
と、そんなことをしていたら同じく波打ち際で遊んでいた夜露やリン達が集まってきた。
浜辺にキャッキャと黄色い声が響き渡る。
その中に怜の姿もあった。
一人の時間を邪魔してしまった申し訳なさはあるが、この思い出をずっと胸にとどめておこうと思う。
あぁ…抱きかかえたときに感じた怜の胸のふくらみは柔らかかったと。

怜ちゃんがヴァイスの責めに負けて堕ちる怪文書早く書くっすやくめっす

「ごめんなさい…もう許してください…」
怜は心の底から怯えきりいつもの冷静さも心の強さもなく心がバラバラに砕けきり赦しを乞うだけのか弱い娘となりきっている。
怜のギアは高機動だがその分脆く、ヴァイスの新たな戦闘パターンにより孤立させられ集中砲火を受けるとギアのロック機能により生命維持をメインとしたスタンバイモードになり戦闘能力を失う。そんなところをヴァイスに連れ去られて身体の自由を失い責め苦を受けていた。
『おとうさん?』
やめて、もう見せないで
『お母さん…』
どうしてこんなに鮮明に当時の記憶が再生されるの…
『叢雲はアクトレス部門を分解することになった』
嫌だよ…私また…
『お前が弱いせいだぞ怜』
『楓はあんなに強いのにな』
『リンはいつも元気をくれる子だよな』
やめて…やめて…
怜は何度目かわからない発狂を迎え心が蝕まれていく。そしてそれはこれからもずっと続くのだと思うと、絶望が心を黒く染めていった。

怜ちゃんがヴァイスの責めに負けて(慰められて隊長に)堕ちる怪文書早く書くっすやくめっす

一瞬だった…一瞬で距離を詰めて来た蠍型の大型ヴァイスが視界を支配した。
圧倒されているうちにその尾部の一撃をもらいギアの安全装置が作動。私は安全圏に強制転送された。
成子坂の整備室に帰還しギアを解除する。
私のギアは目立った傷こそ無いものの、過負荷で熱を上げていた…。
整備員がすぐさま対応に掛かり、私は更衣室へと向かう。
敗北だ…。あのヴァイスはあの後楓さんとリンが撃破してくれた。
チームとしての戦績は大型撃破+1。
しかし自分の力はそこにいっさい介在していない。介在できなかった。
「悔しいな…」
おぼつかない足取りで更衣室に向かうと、入り口で隊長と出くわした。
「なに…心配してくれるの…優しいんだね…でも今は一人にして」
口を付いて出たのは拒絶の言葉。好意は嬉しいのにどうしても思ったことと反対の言葉が出てしまう。
でも隊長はそんな私の言葉は意に介さず、私の頭をクシャクシャと撫でた。
「もぅ…隊長のそういうとこ…まぁ別に良いけど」
しばらく隊長の胸に顔を埋める。相変わらず隊長は少し乱暴に私の頭を撫でてくれる…。
その手がどうしようもなく暖かかった。
「隊長、次はもっとうまくやるよ…ありがとう」

お疲れ様ー、と挨拶を交し解散する。
南国シャードへの日帰り旅行が終わり、新幹線の駅から各々自宅への帰路に着いた。
隊長としてここまで全員無事で旅行を終えられたことにホッと胸をなでおろした。
と、まだ一人その場に残っている者がいた。怜、どうしたんだ?
「あぁ、隊長…別になんでもないよ」
怜がなんでもないなんて言うって事は、つまりなんでもなくない時だ。何でも相談に乗るぞ、と促す。
「隊長には敵わないね…。楽しかったんだ、旅行…」
そうか、それは何よりだ。でもなんでそんな寂しそうな顔するんだ?
「なんかさ…皆が散り散りに帰ってくのをみたらちょっと寂しくなっちゃって…格好わるいね私…」
そんなことはない。そう感じてるのはきっと怜だけじゃないさ。
「そう…かな…。ねぇ隊長…また皆でいけるかな……旅行」
そうだな…南国シャードまでとはいかなくてもイベントごとがあればまた皆でどこかにいこう。
また次がある、そう思えば寂しさも少しは紛れるだろ?
「うん…本当だね。また隊長に面倒な手間掛けさせた…ありがとう隊長、それじゃまた明日ね」

「え、水着…別に、いつものやつだけど…」
怜の水着、似合ってるな。と褒めたのは素直な感想だったのだが、反応は芳しくないものだった。
「大関さんやシタラさんみたいに身体に自信があるわけじゃないし、夜露みたいに気合を入れて水着を選んだわけじゃないしさ…
私の水着なんか見ても楽しくないでしょう」
いやいやそんなことはない!
怜の身体は引き締まっていて無駄が無いし、コーラルブルーの水着も怜に似合っている。
肌も白くて綺麗だし腰つきも…と、変なことを口走りそうになって慌てて口をつぐんだ。
「隊長…あんまり女の子を変な目でジロジロ見ると信頼失うよ」
すまない…申し分けないことをした。
「他の子に同じようなことしないでね…私なら別に良いけどさ」
いやいや良くはないだろう…俺は何もそんな…。
「隊長は私の身体でも興味湧くんだ…」
うぐ…否定したかったが、沸かないと言えばうそになるのでそうもいかない。
怜が一歩こちらに近づく。目線を下に向けるとタンキニのゆるい胸元が理性をくすぐる。
「ねぇ隊長…水着の下も見てみる…?私は別に良いよ」

「あれ…隊長まだ帰ってなかったんだ」
もう外も真っ暗な中、残務処理をようやく終わらせた所に怜が現れた。
そういう怜はなぜまだこんな時間まで…ってその格好は?
「ちょっと多めにトレーニングしててさ…シャワー浴びてその…ほら前に隊長が…」
若干言いよどむ怜。
「この水着ランニングウェアみたいにも見えるって言うから…ちょっと着てみようと」
確かに言った。私生活で着ても違和感無いかもと乙女心を考えない発言をした。
しかし今目の前にいるのは髪を濡らせ、上気した肌が目立つ怜だ。素直に色っぽいと思える。
「仕事終わったなら、さ…途中まで一緒に帰って欲しいかも…実際水着だしさ」
着替えたら?という言葉は喉の奥につかえて出てこない。
怜の顔が近づき囁く。
「どうでもいいけどなんて言わないよ…今は」
気がつけば怜の肩を抱き、机に押し倒して唇を奪っていた。

「雨…止まないね…」
簡素な一軒家である小鳥遊家の屋根をつよい雨が叩く。
特に何するでもなく怜と二人、居間で雨の音を聞いていた。
するとフッと電気が消えた。
「あぁ停電…この辺ではよく有ることだから。この地区の配電設備がボロいんだってさ。じきに直ると思う」
そうか…。でもこう暗いとお祖母さんが心配だ。
「大丈夫だよ、お祖母ちゃんも慣れてるから」
ならいいが…それにしても暗いな。
「だね…隊長、そっちに行ってもいい?」
構わないが、足元に気をつけろよ。
と言うと薄暗闇の中怜の足音が近づいて、こちらに身を寄せて腰を下ろす怜。暗がりの中ですぐ隣に怜の温もりを感じる。
「ここの窓からだとさ…ちょうど首都のビル街が見えるんだ」
促されて窓の外を見ると、遠くに僅かだが煌々と輝く摩天楼が見えた。
「別にずるいとか思ったりはしないよ。ただいつかお祖母ちゃんと一緒にあっち側で暮らせたらな…って思うんだ」
応援してる、とだけ告げ微かに震えてる怜の背中を抱いて優しく撫でる。そのまましばしの間、怜と雨に濡れた窓越しの夜景を眺めていた。

ジリリリリリリリリリ
どこかで目覚ましの音が鳴っている…。そろそろ起きねば…。
と気だるい眠気を振り払おうと努力していると、ひとりでに目覚ましが鳴り止んだ。
アレ?と思い眼を開けると…
「おはよう、隊長」
うぉっ!?
…こちらの顔を覗き込んでいる怜と目があった。
「そんなに驚かなくても良いでしょ、隊長」
いやいやいや、顔が近くてつい…な…と、寝ぼけ眼をこする。
「まだ眼が覚めてない?…仕方ないね」
ちゅ…
さらに怜の顔が近づき唇と唇が触れ合う。
「ほら、これで目が覚めたよね。朝ご飯出来てるよ」
俺は台所へ歩いて行く怜をただ呆然と見送っていた。

「隊長……隊長もいい大人なんだからさ…ちゃんとペットの面倒は見た方がいいよ……どうでもいいけど」
そう言ってプイと顔を逸らすのは可愛い可愛い怜わんこ
うーん、でもね犬耳首輪に犬尻尾(付きプラグ)を着けてる怜にリードを付けてお外に散歩なんて
俺以外の誰かに怜の恥ずかしい姿を万が一でも見られちゃう恐れがあるのは許せないの
「……!そ、そうじゃなくて…ほら……もっとこう…撫でたりとか……ゴニョゴニョ」
(なるほど……)
怜わんこはどうやら屋内で出来るレクリエーションを所望しているご様子
まったく…可愛いわんこぜよ!
ギュッと怜わんこを抱きしめてそのサラサラの髪を撫でもう片方の手で尻尾の付け根を刺激する
「ふぁっ!……くぅ……ん……」
オラッ!こういうコミュニケーションがお望みだったんだろう!
容赦ないボディタッチに腰砕けとなった怜わんこは息を荒くしながら遠慮しがちにぺろ…ぺろ…と頬に舌を這わせてくる
うぉぉォン!今の俺は北の王国に居を構える某ゴロウさんだ!!
火照ったような怜わんこの顔を逆に舐め回し更には口腔を舌で蹂躙する
怜わんこはガクガクと腰を震わせながら色々な液体(ラブ)を漏らしていた

はぁー、今日も仕事終わり。と、自分にお疲れ様を言う。
もうこの時間はアクトレスも残ってないし、戸締りをして帰ろう。
その前にシャワーを浴びよう。そう思ってシャワー室に向かったのだが。
疲れからだろうか?使用中の札にも脱衣所の他のかごに衣類が入ってることにも気づかなかった。
「…あれ?……あぁ隊長か」
3つあるシャワーボックス。その1つに怜が入っていた。
胸元から腿の辺りまでスリガラスで隠されていただが、うっすらとガラス越しにしなやかなシルエットが見えてしまった。
すまないっ!すぐに出る!
「いいよ別に…入ってけば」
呼び止められた。おずおずとシャワーボックスに入る…。
怜が3つある真ん中を使っていたので必然的に隣になってしまう。
シャワーボックスの薄い壁の先には裸身の怜が。
そう思うと熱いものがこみ上げてきそうになり必死に頭から振り払った。
「こんな時間までお疲れ様、隊長」
それはお互い様だ。今日もトレーニングか?
「うん…。ちょっとでも足を止めたらあの二人には置いてかれるから…それじゃ私は先に上がるね」
ひたひたと足音が出口に向かって通り過ぎていく。
「また一緒にシャワー浴びる?」
気づかなかったのは謝るが、あんまり大人をからかわないでくれ、と言うと「またね」とだけ言い残し去っていった。
まったくどこまで本気なのだか…。

「へぇ隊長、私と干支同じなんだ」
帰り道、何気ない怜の一言が胸を抉る。いや、そのこと自体は前々から気づいていたのだが。
「お揃いだね、隊長」
本人は嬉しげにしてるので相槌を打つ。
「何、隊長。もう自分の歳を気にしてるの?」
そりゃぁ…普段から高校生を見ているとその若さがまぶしい。
それに二十歳も越えたら自分の誕生日を祝おうなんて気もさらさらなくなる。
「大人になるってちょっと寂しいね」
あと怜みたいな若い子と歩いてても変な目で見られるかもしれないしな。
「どうでもいいよ…他人の目なんて」
そうは言ってもな…
「ホントどうでもいい…そんなことを気にして隊長と一緒にいられない方がよっぽど嫌かな…」
まるで縋り付く様にこちらの腕に手を絡める怜。その手が僅かに震えていた。
「今は倍くらい離れてるけどさ…あと10年20年したらさも縮まるよね…そしたら一緒にいていいかな…」

シュミレータープログラムC-102574401...
とにかく自分の立ち位地を細やかに動かすこと。
狙いは的確に。効率よく素早く殲滅することを心がける。
ルイカの群れの先頭にランチャーを叩き込む。爆散。
エネルギー弾頭の爆発に後続のルイカが次々と突撃し誘爆していく。
打ち漏らした数体も処理。
続けて後方からクリオスの群れ。網のように展開し隊列を組んでいる。
これも外周部から少し内側の標的を狙い速やかに殲滅。
的確に、適切に、迅速に、現れる小型ヴァイスを塵に変える。
大型ヴァイス警告…
と言ってもワーカータイプの敵だ。手には大型のシールドを携えている。
牽制にランチャーを数発撃ち込む。シールドに阻まれ効果は薄い…。
「ちぃっ…」
VWの左右を塞ぐようにランチャーを乱射しながら突撃。さらにトップスのラピッドショットも発射。
その隙にソードに持ち替え切りかかる。
一撃目…シールドを弾いてガードを崩す。
ニ撃目…反対の腕を切り落とし攻撃力を無力化。
暴発する敵の武器を回避してから三撃目四撃目で敵の頭と胴を切りつける。
ようやくの撃破。
シュミレーションが終了しスコアが表示される。
「二人にはまだまだ及ばない…か」
もしリンが扱えるような威力のランチャーがあれば…楓さんのような剣術が自分にもあれば…。
憧れとも嫉妬とも付かない感情が湧き上がる。でも無い物ねだりをしても始まらない。
いつだってそうだ。自分が持ってないもののことばかり考えても前には進めない。
最後のワーカータイプとの戦いを思い出す。
ランチャーをメインに戦う自分には苦手な敵で、何度も煮え湯を飲まされた経験がある。
ソードの扱いの訓練をして今回はなんとか速やかに討伐できた。でも、あれをもっと速やかにできれば…。速く強力な連撃を…。
何度も何度も脳内で自分の姿を形作る。
両手に剣を携え敵が対応出来ない速度で接近し目まぐるしい斬撃を加える姿を…イメージできた。
「ねぇ隊長…私のSPスキルについて相談があるんだけどさ」

お昼休みなんとなくスマホを弄っていると怜が覗き込んできた。
「隊長、待ちうけに写真とか設定してないんだ」
まあな。普段写真撮ったりしないし。
怜の言う通り、待ちうけは購入時のデフォルトのものだった。
「味気無いね。私もだけど」
なんだお互い様じゃないか。
「じゃぁ、ちょっとスマホ貸して」
言うがはやいか、俺の手からスマホを奪うとこちらの首に抱きついて来た。そのままスマホを構えて撮影。
流れるように怜と俺とのツーショットの出来上がり…お見事。
「ふふっ…隊長変な顔」
急に抱きつかれたらそうもなろう。
「この写真、私のスマホに送っていい?」
あぁ構わないぞ。
「ありがと…これでよし。それじゃ」
弄り終わったスマホを置いて早足に立ち去る怜。残されたスマホを見るとツーショットが待ち受けに設定されていた。

次はポッキーゲームしてくる怜ちゃん見たいっす

おやつ時、事務所に入ると怜がポッキーを食べていた。
「隊長も一本食べる?」
あぁ、ありがとう頂くよ。と答えると、怜は箱から一本取り出し口に咥えこちらに向けた。
「ほうしたの、はやくしなよ」
こらこら物を咥えながら喋るんじゃありません…と言うかいいの?これポッキーゲームとか言うやつだよね?
「ほら、はやく」
早鐘のように鳴る心臓を押さえながらポッキーの反対側を咥える。
カリ・・・カリ・・・カリ・・・
一口食べるごとにどんどん唇の距離が縮む。
怜の顔が近づいてくる…。
もう一口で触れそうになったその時
「はいっごちそう様」
怜がこちらの口からポッキーを引っこ抜きモグモグと食べていた。口元を大事そうに押さえる怜の顔は、よく見ると朱に染まっていた。

怜ちゃんが熱で幼児退行するシチュでお願いするっす

怜が風邪で倒れた。その連絡を受け取ってすぐ怜の家に向かった。
ミネラルウォーターや風邪薬、風邪に効く食材の諸々も買って行く。
怜のおばあさんに挨拶をし、怜の部屋に向かう。
「誰…?」
いつもよりか細い声の怜。俺だ、と返す。
「パパ…?」
一瞬耳を疑ったが…目も満足に開いて無いし、どうやら夢うつつのようだ。
氷枕と熱冷まシートを取替え、怜のおでこを優しく撫でる。
「ありがとう……パパ…」
心配いらないぞ…傍にいてやるからな…としばらく撫でていると、段々と表情が和らいできた。
「どこにもいかないでね…パパ……」
きっと夢の中では父親と一緒にいるのだろうか。
その日はつきっきりで看病をし、翌日回復した怜が何やら風邪とは別に顔を真っ赤にしていたのだが、それはまた別のお話。

「隊長、肩揉んであげようか?」
事務仕事中に肩を鳴らしていたら、後ろから怜が声を掛けてきた。
お願いしてもいいか?と答えると怜の手がゆっくりと肩を揉み始める。
「結構こってるね…もう少しつよいほうがいい?」
あぁ頼む…くぅ~~~っ
細指に見えるがさすが鍛えてるだけあって握力は結構ある。
「ごめん、痛かった?」
大丈夫、むしろ凄く気持ちいい…そのまま怜のマッサージを堪能する。
「だいぶほぐれたね」
ありがとう、かなり楽になった。
肩をぐるぐる回すと、重さが消えているのを実感する。
いい腕だな。これならマッサージ師としてもやっていけるんじゃないか?
「それでは全身コースもどうでしょうか、お客様」
後ろから首に抱きつき耳元で囁く怜。こらっ一体どこでそんなこと覚えてきたんだっ。
「ふふっ何を想像したの?普通のマッサージよ。…まぁ隊長相手ならそういうサービスも別にしても良いけど」

先日、イージス手動のイベント「アクトレスフェスタ」が開催された。
成子坂の面々も優勝を目指して張り切っている。
が、我関せずと言った面持ちで淡々と出撃している者もいた。
まぁその筆頭が怜なのだけど。
「テレビとか出るつもりも無いから」
あぁ知ってる。怜の事情は分かってるつもりだった。
それでも、それでもだ煌びやかな衣装を着てステージに立つ怜は見たかったなぁ、などと思う。
「私は歌も踊りも出来ないし…」
怜くらいの運動神経があればすぐに習得できそうなものだが。
「それに、私が歌ったり踊ったりしても喜ぶのは隊長くらいでしょ」
そんなことはない!…はずだ。
「まぁ、隊長が喜んでくれるなら…私は別に良いけどね」
え、今なんて…
「衣装くらいは今度着てあげるよ。隊長の為にね」

なんだか寝苦しい…
隊長は深夜に目が覚めてそう思った
暖房などつけていない筈なのに妙に暑苦しくて起きてしまったのだ
水でも飲もうかと思ったが起きるのが面倒だ
明日も仕事で早い…このまま寝てしまおう…我慢して寝ようと寝返りを打つ
そこで寝返りを打った先に何かが居る事に気がついた
薄暗かったが紫の瞳と青い髪を持つ少女の顔が見えた怜だ
怜は隊長と一緒のベッドに入り目開けてこっちをジッと見ていたのだ

ふーふーと怜はスプーンですくったおかゆに息を吹きかけ冷ます
風邪を引いた隊長が別に冷まさなくてもいいぞっと言った
怜は火傷するとダメだからと言ってやめない
隊長は別に熱かったら自分でやるよと思ったが言ったところでやめそうにないので黙っておく
怜がスプーンを隊長の口先まで持ってきてあーんと言う
隊長はそれくらい自分でできるよと言う
怜は風邪を引いているのだから無理をしたらダメだと言う
隊長はそこまで重症じゃないよ…と思ったが言ったところでやめそうにないので黙って口を開ける
怜は美味しいかと聞いてきた
隊長はおかゆに美味いも不味いもないんじゃないかなっと思いながら美味しいと答える
怜は良かったと言い嬉しそうだ
隊長は恥ずかしさで熱が出そうだった

エピソードでちゃんとデレてくれるキャラって誰っすか

デレ…そういうんじゃなくてさ私は隊長を上司として尊敬してて
一人の人間として目標にしたいとか思ってるだけで…いつも私の
話を黙って聞いてくれて不安になったとき元気づけてくれるのは
すごく助かってて…まぁこういうのはデレって言うのとは違うんじゃないかな男女の仲とはまた違う話だよ…強いていうならそう
年上の家族…父親…みたいなのに似てるのかもしれないけど私の
父親になんて隊長はなれないんだから今のは忘れてよ…どうでも
いいけどね…まぁ一人大事な人間を挙げろって言われたらおばあ
ちゃんを挙げるし隊長のことをそんな重く見てないからさ…いや
ごめんちょっと言い過ぎたね大事な人はおばあちゃんだけどそ
の隊長は大…いや別にいいかなとにかく私は今後も頑張ってい
くよ隊長と…

昼休み、食事を終え事務所の窓から裏庭を眺めていると、ベンチで弁当を食べている怜を見かけた。
見た感じ手作りだろうか。一人で黙々と食べている。
「…………」
そこへ一匹の猫がやってきて挨拶するようにニャーと鳴いた。
「……にゃーぉ」
…怜も鳴いた。
ミャーゥ
「にゃ~…」
猫と怜の会話が続く。
「…お腹すいてるの?」
と、お弁当の中から煮干を一個取り出し地面に置く。
ニャっと返事をした猫がムシャムシャと噛り付く。
「よしよし……あっ」
猫を撫でようとした瞬間猫は煮干を咥えて逃げ出してしまった。
それを満足げに見送る怜。あぁ、今日も平和だ。

今日も平常通りの防衛任務が終わった。
『任務完了…帰還するよ、パパ………っ!!!!』
おっと、怜が何か口走ったぞ。
『あっいや今のは違って…!』
慌てふためく怜。ここまで取り乱す怜を見るのは珍しい。
『あー私も先生のことお母さんって呼んじゃったりするよー!』
ナイスフォローだリン。
「気をつけて帰ってくるんだぞ、愛する娘よ!」と、リンに乗っかり冗談を飛ばす。
『どうでもいいけど、そういう冗談はやめてっ!ホントどうでもいいけどっ!!』
『まぁ隊長ったら』
通信越しでも怜が真っ赤になっているのが手に取るように分かった。
その後チームメイトに慰められからかわれながら怜は無事帰還した。
普段怜と二人きりの時だけ俺のことを「パパ」と呼んでいることをチームの2人は知る由もなかった。

イージス本部から任される宙域操作任務。今ではそれが成子坂の主業務になっていたのだが。
「次の宙域広いね…しかもこれ…」
あぁ…その宙域に展開されているヴァイスの特性が怜の扱うギアに耐性を持っている。
なのでこの一帯を調査する間は、怜を調査任務の編成から外すことにする。
「わかった…仕方ないね」
それと怜は最近出ずっぱりだったから、ついでにしばらく通常シフトからも外れてもらう。
「えっそれは…」
休暇だと思ってゆっくり休んでくれ。
「それいつまで…?」
ざっと一週間ほどかな。不満か?
「隊長がそう言うなら従うよ…」
怜は不満そうだったが、最近休みなく出撃を希望していた。
そろそろまとまった休みを与えないと文嘉がうるさいし、それに『アレ』のための準備もしなければならない。
=============
隊長に長期の休みを言い渡された。確かにここ最近頑張りすぎていた気もする。
しかしようやくアクトレスとしての自信も付いたし、今が乗っていた時なのだ。
帰宅間際に格納庫に顔を出す。
私のギアが格納されている6番ハンガー。そこには空のように青い塗装が施された私専用のペレグリーネが安置されていた。
「………またね」
と挨拶して帰宅する。
しかし翌日。
待機任務もないので、特に用事もないのだが成子坂に行ってみるとその6番ハンガーがもぬけの空になっていた。
まるで私自身の居場所がなくなったように感じて私はその場から逃げ出した。
=============
怜に休暇を言い渡してから一週間が経った。
あれから怜は一度も成子坂に顔を出していないが、しっかり休めただろうか。
『アレ』の準備も万端に整っている。
などと考えていると学校帰りの怜が出勤した。
「こんばんは…隊長」
こんばんは…どうした怜?浮かない顔をして。
「ねぇ…隊長私のペレグリーネは…?」
あぁ…あれはなイージスに引き渡した。
「っ!?…やっぱり私はお払い箱なんだね。最近は結構頑張れてたと思ったんだけど…」
目の端に涙を浮かべている。
違う違う!勘違いだ!ちょっと付いてきてくれ見せたいものがある!と、慌てて怜を格納庫に案内した。
「隊長、これは何…?」
6番ハンガーにはシートを被せられたギアがあった。
開けてみろ、と促す。
「…………っ!」
バサッっとシートを振り払うと中から現れたのは蒼いギア。アズールホーク、怜のために専用に設計されたギアだ。
残念だけどペレグリーネはコイツの調整用に引き渡してしまったが、今後はこれを使って頑張ってほしい。
「……隊長…うっ…ぐすっ」
怜の涙腺が決壊した。何だ泣くほど嬉しかったのか?
「一言教えてくれてもよかったのにっ……もぅ捨てられたかと思った…ギアも私もっ…!」
いやいやそんなわけはない!怜はなくてはならない存在だ!と言い訳をするが怜の涙は止まらない。
サプライズを用意したかったのだが…それが裏目に出てしまった。事前に連絡していなかったことを謝罪する。
「隊長の…馬鹿……」
しばらくの間怜は胸の中で泣いていた。
「…見苦しいところ見せちゃってゴメン…勝手に勘違いして泣きわめいて…」
落ち着いたか?と、腕の中にいる怜の背中を撫でる。
「それと…新型ギアのことありがとう…喜ばせてくれようと思ったんだよね。」
怜の視線の先には鮮やかな蒼色のアズールホークがあった。
「隊長は私に期待してくれてるんだよね…なら、私は絶対それに応えて見せるから」
その怜の顔に、もう迷いはなかった。

休日にベッドで目を覚ます。傍らを見ると寝床を共にしている少女の寝顔が目に入った。
おはよう、怜、と声をかけるも反応はない。安らかに眠っている。
せっかくなので頬をつついてみる…柔らかい。
きっとこんな事を起きてる怜にしてもすぐに逃げられるだろう。
頬の柔らかさもおろした髪を撫でつけることも、今しかできない特別な行為だ。
「何してるの、隊長…」
起きてしまったか。一晩中腕枕をした分の料金徴収だ。
と言って怜の頬をつつき続ける。
「そう言うことなら…まぁいいけど」
目を伏せてされるがままの怜。
「隊長は…髪おろしていた方が好き?」
これはこれで好きだが、普段の髪型のが怜らしくて好きだ。と答える。
何より普段纏めてある方がおろした時の特別感がある。
「そっか…じゃぁサービス期間終了」
と言ってベッド起き上がるとヘアゴムで髪を纏める怜。
「朝ごはんの支度をするね」と言ってキッチンに歩いていく怜の後ろでは、いつものようにポニーテールが揺れていた。

参考書を閉じて時計を見る。
集中していて気づかなかったが大分夜遅くになってしまっていた。
「はぁ…難しいな」
アクトレスと高校生という二重生活。
成子坂の他の学生の皆もこなしていることだったがやはり難しいと感じることもある。
中間テストの5科目の中で1科目、いつもより点数が落ちていた。
まだ特待枠が危うくなるような成績ではなかったが、ここで油断してはいけない、そう思って自分の自由に使える時間をいつも以上に勉強することに割いていた。
隊長にはシフトを少し減らしてもらうようお願いした。
部活動にも当然入っていない。
成子坂の皆とも、学校の友人たちとの付き合いも希薄になっているようで圧迫感に苛まれる…。
「うん…少し散歩に行こう」
夜遅くだが気晴らしに外を歩くことにした。
行先は特に決めていなかったが足が自然といつもの河川敷へと向かう。
そして…まったく期待していなかった訳ではない。
でも、河原では彼がぶらぶらと歩いていた。
「なんでいるの…?こんな夜遅くに…」
ちょっと煙草が切れたから買いに行こうと思って、なんて言い訳をする彼。煙草なんて吸わないくせに…。
でも丁度いいので胸をかりて少し泣かせてもらおう。
いつも有難う隊長…。

今日のヴァイス討伐の編成は一条綾香、相川愛花、小鳥遊怜の3人編成。
まだ経験の浅い二人を引率する形で怜を付けていた。
「私が前衛よ!付いてきなさい!」
「了解、綾香は前に出て。愛花は綾香が撃ち漏らした敵のフォローを」
「はっはいっ!」
一条綾香を先頭に小型ヴァイスの群れに突入する3人。
「だだだっ!」
綾香が両手に持つハンドガンが火を噴く度にクリオスが一機また一機と火球に包まれ、ヴァイスの群れはみるみる数を減らしていった。
「綾香ちゃん凄い…」
「愛花も見てないで右から回りこんでライフルで援護っ」
「はいっ…!」
程なくしてヴァイスの第一波は一掃された。
「お疲れ様、次のエリアに行くよ」
「ざっとこんなもんね、今に見てなさい!楓さんやリンさんとチームを組むのは私よ!」
「うん、綾香なら出来るよ」
「少しは危機感を持ちなさいよ!ムキーッ!」
「あっこらっ綾香!」
「待ってよ綾香ちゃん!」
ヴァイスの第二群に向けて、僚機を引き離して加速する綾香。
「これくらい一人で片付けてやるんだからっ!ばーんっ!」
「あぅ…あぅ」
「仕方ない…愛花は後ろから付いて来てっ!」
ボトムスギアに火をいれ追随する怜が、長射程のバズーカで援護を試みる。
「綾香止まれ!愛花をおいてくつもり!?」
ギアのトップスピードで劣る愛花が引き離されている。
怜は2人の中間点を維持しつつ援護を続けるが、やがてバズーカの射程圏外まで離された。
「こいつでラストよ…!」
群れの最後の一体…綾香が綾香が追っていたプルテスが急旋回しヘッドオンの態勢になる。
「だだだっ♪」
プルテスの光弾をバレルロールで回避した綾香はすれ違い様にデュアルの銃弾を叩き込んだ。
光の尾を引いて数瞬後爆散して消えた。
「はぁ…はぁ…見たかしら今の!」
「気を抜くなっ!綾香!」
「お、大型ヴァイス警報!?」
綾香の目の前にワープアウトする巨大な物体。一対の大きなハサミと巨大な尾部を持つ蠍のような姿の大型ヴァイス、セルケト特異型だ。
「何よ、盛り上がってきたじゃない…!」
デュアルを構え直し突撃する綾香。巧みに光弾を交しつつ攻撃を加える。
「いけーっ!」
激しい銃撃戦の最中、しかしセルケトは尾部を振りかぶり近接戦の姿勢をとった。
「まずいっ!」
後退回避を試みるもブーストゲージ切れのアラートがヘッドセットから鳴り響く。
「きゃっ!」
「間に合えっ!」
青い二条の光線がセルケトの頭部に直撃し怯む。
一次的な機能不全を起こすことに成功し、錐揉み回転しながら宙を漂っている。
「大丈夫?綾香ちゃん!」
「綾香、まだ動ける?」
「…あんたたち、当然よ!ここで引き下がるなんて真っ平ごめんだわ!」
3人が無事合流を果たすとセルケトが機能不全から回復し、姿勢制御を行いつつ再度戦闘体勢をとった。
「こっちももう一度立て直すよ。愛花は回復サポート。私が囮になって隙を作るから、綾香はその隙に肉薄して最後は綾香が決めて」
「はいっ!」
「ふんっ!指示に従うのは癪だけどいい作戦ね!」
三人は散開しそれぞれの役割を果たす。
愛花は広域回復フィールドを展開、怜はバズーカとラピッドショットを乱発しながらセルケトの気を引き、綾香は一定距離を保ちながら期をうかがう。
「イメージできた…ホークスタロン…!」
セルケトが動きを止めた一瞬、怜のSPスキルが発動し連撃が尾部を破壊する。
「今だ綾香!トドメを!」
「決めるわっ!…あたしの全力見せてあげる!!」
結合粒子が綾香の手に巨大なスピアを形作る。
そのスピアを携えた綾香はまさしく一条の光のようにセルケトに突進、スピアは腹部を貫通し続けざまに発生した火柱に飲まれセルケトは宇宙の塵と化した。
「わー大っな花火~♪」
「どうってことなかったわね!」
「任務完了…なるようになるもんだね」
============
帰還後のデブリーフィングを終え綾香が怜を呼び止めた。
「その…さっきは助けてもらって有難うございました!それと勝手に飛び出してすみませんでしたっ!」
礼儀正しいお辞儀して謝る綾香…綾香も根はとても素直な子なのだ。
「いいよ…でも、もうちょっと後衛のことを考えて、話を聞いてあげた方がいいかも」
「はい…」
「綾香は伸びるよ。愛花との相性もいいし、息を合わせれば倒せない敵なんていない」
未だ俯いた顔の綾香。
「私はさ…後衛ばかりしてたからあんまり前衛のことはぜんぜんだけど…」
「あれだけ出来てぜんぜん…」
「あの二人は特別だよ…楓さんよりはリンの方が相性いいかな…今度隊長にリンと一緒に出撃できるようお願いしてみるよ」
「ありがとう…ございます。でも…もうそっちのチームに入ろうなんてしないわ!」
「そう…?」
顔を上げた綾香の目にはいつもの強気な元気が戻っていた。
「私の目標は楓さんやリンさんに並ぶことじゃないわ!もっと上よ!」
「…………」
「楽しみにしてなさい!いつか私と愛花のチームであんたたちのチームを追い越してやるんだから!」
「うん、楽しみにしてるよ」
その後リンと綾香がエレメントを組むも、何もかもが規格外なリンに綾香が振り回されるのはまた別のお話。

「陽もだいぶ伸びてきたね…5時なのにまだ空が明るい」
隣を歩く怜が呟く。
空を見上げるとシャードの映す夕焼けが朱から紫、そして群青へとグラデーションを描いていた。
「私…夕焼けって嫌いだったんだ」
何故だ?こんなに綺麗なのに。と問う。
「夕焼けはいつも私にお別れを運んできたから…家からお父さんがいなくなったときも…帰ったらお母さんがいなくなってた時も…いつも綺麗な夕焼けだった」
それは…つらいことを思い出させてしまってすまない。
「いいよ、夕焼けがまた綺麗だって思えるようになったの、隊長のおかげだから」
俺の?
「そう…隊長のおかげ…この河川敷でさ、つらいことがあるといつも慰めてくれた」
たまたま…偶然だ。
「そう言う事にしておいてあげるよ。…とにかくさ、夕焼けを見たら隊長のこと思い出すようにするから」
つらい想い出じゃなくてね、と言う怜の横顔は夕日に照らされて美しかった。
「あ、一番星」
彼女が指差す方を見るとシャード内壁に「一番星」が明滅していた。
もうそろそろ夜の帳が下りる。
帰路につく二人の影は長くしかしぴったりと寄り添っていた。

怜が読書をしていることは特に珍しい事ではなかったが、その日は珍しく漫画を読んでいたので声をかけてみた。
「別に、私も漫画だって読むよ。これは二子玉さんに借りたものだけど」
舞のか…。
一瞬不安になってタイトルを聞いてみる。
「えっと…恋は雨上がりのように…だっけ。普通の少女漫画だよ」
面白いのか。
「うん……内容は、女子高生の女の子が職場の冴えないおじさんに恋心とも父親ともつかない感情を向けるお話、かな…」
それを聞いて思わず噴き出してしまった。
「そんなにびっくりしないでよ。少女漫画じゃ割とよくある話だって」
そうなのか…少女漫画怖いなー。
学生時代、女子の方が大人びた感じはあったが成程こういう漫画を読んでいたのか…。
と、肝を冷やしていると本を閉じた怜が隣に腰を掛けていた。
「安心、してよ…私の場合はちゃんと恋心だから」
顔を寄せた怜が、そう耳打ちする。
まったく、女の子が女性になるのは早いものだ。
そう感じながら怜のことを目いっぱい抱きしめた。

成子坂に所属するアクトレスには学生も多い。なのでこうして時折、学校に直接赴いて資料の提出と先生方への挨拶をする事もあるの。
今日訪れたのは怜や綾香が通学する聖アマルテア女学院。足を踏み入れるとそこかしこで「ごきげんよう」と挨拶が交されているのもこの学校の特徴のひとつだ。
ふと女生徒達のなかで見知ったポニーテールが揺れているのを見つけた。
ごきげんよう小鳥遊さん。と背後から声をかける。
「ごきげんよう♪せんせ…いっ!?」
朗らかな笑顔でふわっとこちらを振り向いたあと引きつった表情を見せる怜。なかなかレアだ。
「ちょっとこっち来てっ…!」
手を掴まれ物陰に連れ込まれる。
「どういうつもりっ…」
いやいや先生方に挨拶に来たらたまたま見かけてな。
怜の顔は今にも煙が出そうなほど赤くなっていた。
「似合わないでしょ…私がお行儀よくするのもお嬢様方に混ざってるのも…」
いやいや、なかなかに様になっていた。たまに見せてほしいくらいだ。
「隊長がそういうなら…たまにならいいけど…」赤い顔で答える怜。
後日「小鳥遊さんが学校で彼氏と逢瀬を重ねていた」と噂されるのをこのときの二人はまだ知らなかった。

私がどこかに行かないか心配?
私ってそんなに頼りなく見えるんだ…どうでもいいけど…心外かな
隊長はちょっと私に手間かけ過ぎっていうか…過保護なところあるよね…悪いって言いたいわけじゃないんだけど…
ちょっと…嬉しいって思うし…その…まんざらでもないかなって…
まだ心配なの?私はどこにも行かないよ…
また大事なものを見つけたから…今度こそこの居場所を守りたい
でも…そんなに心配だっていうなら私から目を離さないで…ずっと捕まえててほしいかな…なんて…ちょっと恥ずかしいね…

「呼び出されたらきちゃうんだ。私達の隊長なのに……」
楓さんの後を追ってきた喫茶店、そこで隊長とあのジャーナリストの密会を見てしまい、つい口をついて出た言葉だ。
リンにも指摘されて気づいた。
本当にリンは…こういう事に鋭い。
いつの間にか隊長は私達の…私の側にいた。
いつの間にか、じゃないかな。最初からいてくれたんだ。
あのジャーナリストと話がつき事態も一段落した。
もちろん密会しにいった隊長を疑ってたわけじゃない。
ただ、私達のことを頼ってくれなかったのが寂しかったんだ。
「巻き込みたくなかった」って?まぁそうだよね…隊長ならそういうと思った。
でもさ、もうちょっとだけ抱え込まないで私達を…私を頼ってもいいんだよ。
私の隊長なんだからさ。

リン さっきから言ってるけど私たちの隊長って言うのは
私たちアクトレスの指示や出撃編成やSPスキル使用の決定権を持った
上司としての存在であるという意味なんだよそれくらいはわかってるでしょ
確かに私たち叢雲組を受け入れてくれたということには感謝してるし
それにアクトレスとしての活躍だけじゃなくてもっと色々な形で返したい
とは思っているけどだからって変な意味はそこに一切無いわけで
リンはまぁ何もわからずに言ってると信じてるからそこまで言わなくても
いいかなとは思ったけど一応釘を刺しておくからねわかった?
…ちょっと待ってなにそれ「隊長のこと好きなの?」ってなに
あのねリンそういうのではなく人間として尊敬しているというのは
異性の関係とはまた違うことなの分かるまで何度でも言うからねリン

じゃあきらいなのー?

リン リンは隊長の事が嫌い?そんなわけないでしょ もちろん私も隊長が私達の隊長でよかったと思ってるし今とナっては他の隊長なんてまず考えられないし 隊長がどこかに行くってなったら付いていくつもりではあるけど それと異性として好きかどうかまた全然まったく別の話でね リン

「周囲にヴァイス反応なし…ま、なるようになるもんだね」
今日もいつも通りの討伐任務が終わった。
ピピピッ……帰還しようとしたところで計器が何かに反応する。
「隊長…何か見つけたみたいだけど」
こちらの戦闘宙域のすぐそばに漂流物があったようだ。
『よし、怜…いって回収して来い』
「了解」
スラスターを噴かして反応があった場所に向かう。…するとそこにはハート型のカプセルが漂っていた。
「ねぇ…隊長これ…」
『…………』
カプセルの端っこには小さく『親愛なる怜へ』と書かれていた。よく知ってる文字で。今日の日付を確認して納得する。
「まったく…私も素直じゃなかったけどさ…隊長も大概素直じゃないね」
『…さっさと帰って来い』
「ねぇねぇ、怜?何拾ったのー?美味しいものー?」
「おにぎりじゃないよ、リン…それじゃ帰還するね、隊長」

その日の業務が終わった後、いつもの河川敷に怜を呼び出した。
正直もっと景色がいい場所もムードがある場所もいくらでもあるだろう。
でも、これから話す要件はここでなければならないと思った。
初めて怜が本音で話してくれた…初めて彼女の心に触れたこの場所で…。
「何…隊長…。こんなところに呼び出して。別にいいけど」
程なくして怜が現れた。
これを受け取ってほしい!
ほとんど押し付けるように用意していた包みを渡す。
耳まで赤くなっているのが自分でも分かる。
一月前、彼女も同じように緊張したのだろうか。
いや、怜はもっと堂々としていたな。
そう思うと自分が恥ずかしくなり、それじゃ…と言ってその場を去ろうとする。
「待ってっ…」
踵を返した瞬間後ろから抱きしめられた。
「置いて行くのはズルいよ…隊長…私も人のこと言えないけどさ」
振り向くと目の端に涙を浮かべた怜がいた。
「私も口下手だからさ…上手く気持ちを伝えられないから……こうするね」
一歩近づいた怜が背伸びをし、視線の高さが同じになったと思った瞬間、唇と唇が触れ合った。
一瞬の小鳥のようなキス。
「これが応えでいいよね…足りないなら、もっとしてもいいけど…」

「おかえしなんて良いって言ったのに…」
そういうわけにはいかない。
と、怜を招待したのは夜景の見えるホテルの高級レストラン。
「それに場違いだって…私がこんなところなんてさ」
そう言う割りにテーブルマナーを完璧にこなす怜。
「まぁ…学校でそういうことも習うから…」
しかし食事が終わるまで怜は始終居心地が悪そうだった。
すまなかった怜…。
「隊長が謝ることじゃないよ。…景色も綺麗だったし料理も美味しかった」
ホテルからの帰り道、先を歩く怜。揺れるポニーテールを目で追うも、その表情は見えない。
「私まだ高校生だしさ…ちょっとあぁ言うのは気後れするかな…。隊長が大人なのは分かってるし、気持ちもうれしいけどさ」
ホテルへ招待したのは完全に失策だった。
「でも何年かして私にドレスとか似合うようになったらさ…また、誘ってもらってもいいかな?」
もちろんだ!
「楽しみにしてるよ。私の隊長」

夜半に風呂場で体を洗っていると、ガラッと音を立てて背後の扉が開いた。
そこにはバスタオルを身体に巻いただけの怜がいた。
「大事…背中流してあげるよ」
あまりの出来事に驚いたがお願いすると了承すると、怜は石鹸とスポンジを手に取りこちらの背中を洗い始めた。
「お父さんの記憶があんまり残ってないからさ…ちょっとだけ憧れてたんだよね…こう言うの」
そう言う怜の手つきはとても優しく、背中の隅々まで余すとこなく洗われていく。
「お湯かけるね」
浴槽からお湯を汲み、背中に掛ける怜。
すぐ後ろにあられもない姿の怜がいる、と言う雑念との戦いも終わった…かに思えた。
「今度は隊長が洗ってよ…私の背中」
えっ…と戸惑っているうちに、怜はこちらの前に出てバスタオルを取り去り背中をむけて屈んだ。
前こそしっかり隠しているものの首筋から真っ白なお尻までが露わになっていた。
それを見た俺は

「隊長…いつものやついいかな…」
執務室で書類を整理していると怜が入って言った。
了承すると、怜を部屋の奥まで招き入れてから執務室に鍵を掛けた。
「それじゃ、よろしくたのむね…」
目を瞑って待ち構える怜…。
そんな怜を抱きしめた。出来るだけ愛情をこめて。背中を優しくなでてやる。
すると怜の方もこちらの背中に腕を巻き付け、二人の体は密着した。
「…………」
しかし最初は一週間に一度有るか無いかだったこの行為が、最近はほぼ毎日になりかけていた。
癖になっていると感じる…怜だけではなくきっと、俺も…。
何もやましい事は無いのだ。これは親愛の印だ。父親が娘にするようなものだ。
そう自分に言い聞かせているが、ならば何故自分は部屋に鍵を掛けるのだろうか…。
腕の中に抱いた温もりを感じながら自問自答する。
「隊長…ありがとう充電できた…またお願いするね」
腕を振りほどき、部屋の鍵を開け退室する怜。
雑念を振り払う。行為が終わった後の彼女の笑顔が見られるなら、俺はそれでいいのだ。

上着とパンツを脱ぎ下着姿になった怜が恥ずかしさを隠すように淡々と俺に告げた。
「既成事実作ってくれないなら、大声で助けを呼ぶ。隊長は社会的に亡くなるのと子供を作るのだったらどっちがいい?」
やられた。これはおばあちゃんの入れ知恵か。
ひ孫を作るしか手段はないと覚悟を決めた。

「ねぇ隊長。これ、ここに置いて行ってもいい?」
そう言って怜が差し出したのは、いつもうちに来る時に持ってきている洗面用具セットの入ったポーチだった。
最近任務後に帰りが夜遅くになるときはうちに泊めることが多くなった。
これは怜のご実家が駅から離れているからと言うもので、もちろんお祖母さんの許可は取った上でのことだったが。
「いつも用意するの大変だしさ」
まぁ構わない、と応えるとテキパキと私物を洗面所に整理していった。
「あ、お夕飯作るね」
最早勝手知ったるなんとやら、だ。
戸棚からフライパンと鍋を取り出し、食材を調理にかかる。
簡単なものでいいぞ。と言うも「気合入らないわけないでしょ、隊長に食べてもらえるんだし」と言いながら、いつも祖母仕込みの美味しい料理を提供してくれた。
ご馳走様でした。今日の煮物は一段と旨かった。
「お粗末様でした…口にあったなら良かった。あ、ちゃんと歯は磨いてきてね」
はいはい、と応えて洗面所に行くと、2人分の歯ブラシが仲睦まじくカップに収まっていた。

「おはよう隊長」
と、その日の朝は目覚まし時計ではなく怜に起こされることとなった。
そうだ、昨晩はホワイトデーと言う事でうちでささやかなパーティーを催したのだ。
そしてその後の共に夜の事も同時に思い出す。
「何思い出してるのさ、隊長」
バレていた。
そして怜もどことなく顔が赤い。まぁ昨日はいつになく甘えてきて…。
「ほら、さっさと準備しなよ。もう朝ごはん出来てるから」
そう言う怜は既に制服に身を包んで、髪をかき上げポニーテールに結わえているところだった。
ヘアゴムを口に咥える怜を見て、なるほど…こういうのもアリだな、と思う。
「今度は何を考えてるの?」
いやなに、一緒に暮らせるようになったら毎日こんな朝が迎えられるのかと思ってな。
「朝から何ハズカシいこと言ってるの…まぁいいけど」
向かい合わせで食卓につきつつ、そんなやりとりもどこか楽しそうな怜がどうしようもなく愛しかった。
「それじゃ頂きます」

ゆっくり思い出す…昨日はホワイトデーだった
勇気を振り絞って渡したチョコのお返しにと隊長がプレゼントをくれた
若い女の子の好みとかわかんなくってさぁ気に入るか分からないけど…といいながら
可愛らしいネックレスだ ちょっと私には可愛すぎるくらいで苦笑いしてしまった
反応が芳しくないと思ったのか焦った表情の隊長をこちらも慌てて訂正する
「すごく嬉しいよ…ありがとう せっかくだし…付けてよ隊長」
まとめた髪を持ち上げうなじを晒して見せると隊長は少し鼻息が荒くなった
やっぱりつけるのは後にしようかな?重なったまま私たちはピンと伸びたシーツに倒れこんだ

3月15日 夢の時間が終わるととてつもない恥ずかしさと興奮と困惑と…混沌とした感情が駆け巡る
隊長もちょっと気まずそうな顔をしている…いや謝らないでよ初めてだけど何か悪い?どうでもいいけど
いつまでも頭を抱える隊長にいい加減喝を入れる
「ほら隊長は朝から仕事あるでしょ しっかりしないとダメ
私たちの隊長なんだからちゃんと仕事してよ」
やっと背筋の伸びた隊長に見送られ学校行のバスに乗る
まったくあの人は しょうがないんだから…
学校に到着し教室に入ったとき心配そうな顔で同級生達が訪ねる
「ごきげんよう…表情が強張っておいでですが…体調がよろしくないのですかお姉さま…?」
放課後までに戻しておかないとリンあたりがうるさいな…
夢から抜け出すまでもう少し時間がかかりそうだ

『最終確認…システムリストチェック、オールグリーン。重力フィールド展開。小鳥遊怜、ギア評価試験開始します』
「思いっきり飛んで来い、怜」
『いってくるね、隊長』
射出口のステージに上がった怜が勢い良く飛び立つ。
怜は先日納入された新型ギア、アズールホークを身に纏っていた。
「機動評価試験B-2開始」
『了解、試験領域に突入』
シャード外壁表面に設置されたポイントを次々と通過してする。
コンソールの計器類はその仔細を記録し表示して行く。
「怜、旋回半径が大きくなってる。前のギアより推力が増していることを忘れるな」
『了解っ…!』
「ほぅ、やるなぁ譲ちゃん」
隣で見ていた磐田さんが呟く。
怜は減速による旋回ではなく、バリアブルスラスターを最大限に活かしたベクタード・スラストにより最高速でコーナーを通過した。
その後も、まるで解き放たれた猛禽のごとく縦横無尽に駆け巡る。
「機動評価試験終了。続いて戦闘評価試験に移る」
『いつでも準備出来てるよ』
合図と共に試験フィールドにヴァイスワーカーを模した4機のドローンが投入される。
それも怜の機動方向の真後ろから追う形で出現した。
『くそっ…!』
スラスターを反転逆噴射、急制動からのジャックナイフ機動によりドローンをオーバーシュートさせる怜。
『一機!』
編隊の中央に位置するドローンにランチャーが命中。ドローンの反応が1つ消失する。残り3つ。
三機のドローンが三方向にブレイク。3対1のドッグファイト。
隙間無く逃げ場を作らせない機動を描き囲い込みに掛かる。しかし彼女は冷静だった。
『二機目っ!』
右にブレイクしたドローンの機動を追いながら、上方向から迫るドローンに後方射撃。
『三機…!』
そのままバックを取ったドローンにも続けて射撃。立て続けに二機のドローンが光に包まれる。
『これでラスト…!』
ランチャーからソードに持ち替えた怜が、最後の1機に剣を付き立て試験終了となった。
「全試験項目終了…ハイスコアだな怜」
『新型でいきなり格好わるいところは見せられないからね』
青いバーニアの尾を引き優雅に舞う怜とアズールホーク。
ドローン側からもペイント弾の反撃はあったのだが機体表面に一切汚れは見られなかった。
『ねぇ隊長…新型ギアいい調子だよ。…ありがとう』
「これも隊長の仕事だからな」
『素直じゃないね、まぁ別にいいけど。…帰還します』

怜ちゃんが格好いいところを見せれば見せるほど隊長とのコミュニケーションが捗る

ねぇ

頑張ったよ…

って言ってくるのとか考えると心が躍るなっす

「ねぇ…隊長、約束したハイスコアのご褒美もらいに来たよ」
帰還した怜を迎え入れる。
先ほどまで勇ましい戦乙女だった彼女も今はただ一人の女の子だ。
どちらともなく抱きしめ合い、口付けを交す。
唇と唇だけではない、もっとお互いを深く知るためのキスを…。
「これだけ…?」
しかし唇が離れると残念そうな表情の怜。
続きはまた帰ってからだ。
「わかった…じゃぁまた後でね」
と言うと怜は更衣室に向かい帰り支度を始めた。

「そう言えば怜って最近寝不足は大丈夫ー?」
「寝不足?何の話」
「昔はよくお気に入りの枕じゃなきゃ寝れないーって泣いてたじゃん!」
あぁ、なんだその話か。
もう小学生の頃の話なのにリンはよく覚えている。
「大丈夫だよ…もう子供じゃないし。それに最近いい枕が手に入ったから」
「え、そうなのー?」
ワーイ!と喜ぶリンと共に成子坂に出勤する。
事務所では既に隊長がいて「よう、リンに怜」と挨拶してくる。
「こんばんは…私の抱き枕さん」
私は隊長にだけ聞こえるように返事をした。

「隊長…もし週末暇だったら少しいいかな」
祖母に贈り物をしたいから一緒に選んでくれ、と言う事で週末に2人でショッピングモールまで来ていた。
しかし買い物は難航するどころかとんとん拍子で目当てのものは見つかった。
なぁ、最初から買うもの決めてたんじゃないのか?
「…実はある程度目星はつけてたんだ」
やっぱりな。
「でも、隊長にアドバイスをもらいたかったのは本当。それと…」
それと?続きを促すもしばしの沈黙。
「隊長とさ…デートって言うの、してみたかったんだ」
顔を伏せながら言う怜。
「ごめん、やっぱりズルかったね…私」
まだ俯いてる怜の頭をくしゃくしゃと撫で回す。
別に買い物位いくらでも付き合ってやる。だからそんなに気負うな。
「有難う…また面倒な手間かけたね」
面倒なんて思ってない。だから大丈夫だ。そう言って俺はスプーンで掬ったパフェを怜の口に放り込んだ。

「あけましておめでとうございます」
そうドアホンに向かって声をかけるとパタパタと音がしてドアが開き怜が迎え入れてくれた。
「寒かったでしょ?早く入りなよ」
晴れ着とかではない普通の普段着を着た怜に招き入れられた。
「じゃあ隊長、早速ご飯食べてよ。おばあちゃんったら隊長が来るって言ったら料理張り切っちゃって…どう見ても食べ切れそうにないから」
でも、私も同じなんだけどね。どっちが作ったか当ててみてよと笑えない冗談を言う。怜の料理はおばあさんの料理と寸分違わぬ腕前で、いつも通り怜の表情を見て答えようと心に決めた。
「それにしてもそうか、じゃあつきたてのお持ち持ってきたけど余計なお世話だったかな?」
軽く手に持った紙袋を掲げると怜が食いついてきた。
「隊長がついたの!?食べる!食べたい!!」
そんなに期待するなよ機械でついただけなんだからとあえて甘めについた粗挽きみたいなお餅を渡すと茶の間に入りおばあちゃん見て見て!と早速袋を開ける。はしゃいでんな怜。
怜のおばあさんは取り出した餅を見るなり年寄りだと思ってバカにすんじゃないよ!と言うが目は優しく笑っていた。
今年もいい一年になりそうだ。

「ねぇ隊長…どうでもいいことだけど…いや、今回はどうでもよくない、ね。隊長が私を一人に絶対に一人にしないって言ってくれたとき…私凄く嬉しかったんだ。だから…もし隊長に何があっても、誰かが隊長のことを悪く言っても…私は絶対に隊長の味方でいるって…約束するね。この先、絶対に…私だけは隊長のそばにいるって…。むしろ傍にいさせて欲しい…かな。隊長が迷惑じゃなければ…ね。私が助けてもらった分だけ…今度は私が隊長のことを守るよ。何があっても絶対にね…。だから…こんなことを言うのはおかしいかもしれないけど…私を捨てないで…隊長…。多分隊長に捨てられたら私…今度こそ…ううんなんでもない。そんな顔しないで隊長…隊長がそんなことしないって言うのは分かってるから…。でも…もう一回隊長の口からききたかったんだ…「いつまでも一緒だ」…って。有難う隊長…。隊長…大好きだよ…愛してる」

私が悪い子だからお父さんとお母さんは最近仲が悪くなっちゃったのかな…ごめんなさい…もっといい子になるから喧嘩しないで……

子供の頃は訳も分からずそんなことを考えていた…。
実際は何てことはない父親が作った借金が原因だったんだけど、そんなこと子供の頭では理解できなかった。
小学校に上がる頃、こうして私から父親がいなくなった。
それから、私は「もっといい子になればお父さんが帰ってくる」って思って学校の勉強とか発表会とか…頑張ってたねいろいろ。
でも、それも無駄だったかな。…いや勉強を頑張たこと事態は無駄にならなかったんだけど。
母親は私を置いていなくなった。…男と一緒になるために邪魔だったんだろうね。きっと。
そのあとは…お祖母ちゃんに引き取られて…リンと出会ったのもこの頃だったかな…。
あの頃のことは本当はあんまり思い出したくないけど…。でも、これだけは言える。リンとお祖母ちゃんには本当に感謝してるって。
中学に上がってからはアクトレスになって、1年先にアクトレスをやってたリンの誘いで叢雲に入ったんだ。
それからのことは隊長もよく知ってるでしょ。一緒に歩んできたもんね…。
今思えば、勉強を頑張ったこともアクトレスとしてトップチームに入れるように頑張ったのも、全部が無駄じゃなく隊長に会うためにつながってたんだなって思うよ。
以上が私の今までの人生…。正直さ両親なんてよく覚えてないから自分がちゃんと親になれるか不安だけど…。
これから隊長と一緒に歩む人生…何か間違ってることがあったら教えてね。
それじゃ行こうか…あなた。

純白のドレスを着た怜が古びたアルバムを片手に微笑む。
俺は彼女の手を取って赤絨毯に一歩踏み出した。

隊長は……うん、ごめん、目を覚ました時にこんなことを言うのは悪いってわかってるし、自分でも厳しいこと言ってるつもりだから…嫌われるかもしれないけど、言うよ。隊長は自分がどれほど大切な人か分かってる?私の隊長がいなくなったらって考えると夜も眠れないくらいなんだよ?成子坂にとっても、私たちアクトレスにとっても、隊長は必要不可欠なんだよ…?だからもっと身体を大事にしてよ…お願いだから…

血糊被って事務所で倒れながらアクトレスたちの反応を観察し隊!

「やだ…だって…ずっとそばにいてやるって言ったのに…!」
怜に抱きかかえられながらぐったりと項垂れる。
「ねぇ!何があっても離れないって…目を開けてよ隊長…!隊長っ隊長…!」
激しく揺さぶられながら何度も名前を呼ばれる。あぁ、もし死ぬことがあるのだとしたらこんな風に怜の胸の内がいいな…と思う。
「やだ…やだよ…もう私を置いてかないで…隊長…」
頬に熱いものがかかる…怜の涙か?マズイ…ネタ晴らしするタイミングを完全に逸した…。
「ねぇ隊長…私さ…隊長のこと好きだったよ…ううん今でも好き…だからさ隊長…」
そう言って怜の唇が迫る…とここで後ろに控えてた面子がネタ晴らし。
「じゃーん!どっきりでしたー!」
「え………………」
目を開けると固まったままの怜。
真っ青になっていた顔がまた赤くなり…最後に黒く染まった。
「ねぇ隊長…こういう冗談はちょっと笑えないかな…」
スマン…怜…こんな大事になると思わなくて…。その後、怜が期限を直すまで数日を擁した。

成子坂の面々で催されたホームパーティーの途中、私は抜け出して一人屋上にいた。
相変わらず隊長は皆に囲まれていて…私はそれを見ていると胸が痛くなってその場を逃げ出した。
ガチャっと屋上のドアが開く。
「なんでわかっちゃうかな…」
そこにはコップに飲み物を2つ持った隊長。
「別に…大丈夫だよ…。少し風に当たりたかっただけだから」
隊長と二人、屋上に腰掛けてチビチビと飲み物を飲む。
「それ飲んだら戻りなよ。…どうせトイレに行くとかいって誤魔化してきたんでしょ」
バツが悪そうな顔をする隊長。もう、そんな顔しないでよ…。
「私もすぐ戻るからさ…」
ジュースの残りを一気に飲み干す。
「これ…ありがとう…」
コップを渡すと隊長は皆の所に帰って行った。
パーティーの途中、隊長とちょっとだけ二人きりになれた…ただその事が胸を満たしていった。

「隊長…隊長……ぐすっ…たいちょ…」
こちらの胸に怜が顔を埋めて泣いていた。自分用に用意した梅酒を間違って怜が飲んでしまったのだ。
背中をさすってあげながらただ落ち着くのを待つ。
「……たいちょ…わたしこわいよ……」
呂律の回らない言葉で怜が漏らす。何が怖いんだ?
「おとおさんも…おかあさんもいなくなって…むらくももなくなって…もしたいちょうもわたしのまえからいなくなったら…」
大丈夫だ…絶対に居なくならないから…。
「ほんと…よかったぁ…」
安心そうににんまりとした笑顔を見せる怜。普段から我慢してるのだろうか。日頃の思いのたけを吐き出すいい機会にはなったのかと思う。
「じゃぁさ…わたしをおよめさんにして…?」
言うが早いか。答えを聞くより先にレイの唇がこちらの口を塞いだ。

怜が今日学校で何があったとかみんなと何を話したとかそういう話を楽しそうにしてるのを聞いてるカウンセラー隊長の怪文書下さいっす

え、学校のこと…まぁいつも通りだよ
まぁ、そうだね。勉強は…何とかついていけてる。今日は数学で微分をやったけど…え、高一で微分をやるのかって?
うちは…ちょっとペース早いかもね。三年になったらほとんど受験対策になるらしいから。
分からなければ聞いてくれ…って、隊長で大丈夫?
ごめんごめん疑ってる訳じゃないよ。ただ実生活で数学なんて使わないでしょ。
友達とは上手くいってるか…まぁほどほどに、かな。正直学校とアクトレスの掛け持ちで部活動もやってないし…。
学校の友達よりは成子坂の皆の方が付き合いは深いしね。
成子坂の皆とはうまくやれてる…よね?隊長の目から見てどう?
そっか…よかった。
他に困ってること…?
うーん…また仁紀藤さんが生徒会の勧誘に来たことかな。
あぁ心配しないで。ちゃんと断ってるから。あっちの生徒会に入ったりしたら多分成子坂にも来れなくなるだろうし。
…なんかカウンセラーみたいだね隊長。
ううん、話を聞いて楽になったよ。ありがとう、隊長。

「人…いっぱいだね」
そうだな…と桜並木の下を埋め尽くす花見客を見ながらつぶやく。
今日は怜と二人花見に来ていたのだが、満開の時期を選べば必然的にそうなった。
「ねぇ私いい場所知ってるんだけど…そこでもいい?」
なら、そこまで案内してもらえるか。
と怜に連れられて辿り着いたのは少し小高い丘の、住宅地の間にある小さな公園だった。
ここがおすすめの場所か…?
確かに公園の真ん中に桜の木が一本咲き誇っていたが、それで花見と言うにはずいぶん味気ない気もする。
「違うよ…ほら、あっち見て」
と怜が指さす方を見る…なるほど……。
丘の上から先ほどの桜並木の河川敷が一望できた。
「賑やかな方が良かった…かな。でもこうしてちょっと離れたところから静かに眺めるのが好きなんだ」
怜らしいな。と言うと怜が荷物の中から二人分のお弁当を取り出した。
「ねぇ…お弁当、隊長の分も作ってきたから。一緒に食べようか」

「ねぇ隊長…私こわいんだ…」
何が怖いんだ?なんでも言ってみろ。
「私さ…ちゃんとお母さん出来るかな…」
怜なら大丈夫だ。
「そう…かな…。私お母さんにしてもらって嬉しかったことってほとんど覚えてないんだ…私もあぁなっちゃうんじゃないかって思うとすごく怖い…」
なら、自分がして欲しかったことをしてあげたら良い。
それに親代わりに育ててくれたお祖母ちゃんって素晴らしいお手本がいるじゃないか。
「そう…だね…」
それに…怜は愛しくないか?この子が。
「ううん…早く産まれてきて欲しい…抱きしめてあげたいって思ってる」
怜は大きく膨らんだお腹を慈しみ撫でていた。その表情は優しく母親の顔をしている。
怜の手の上から手を重ねて一緒に撫でる。
その気持ちがあれば大丈夫だよ、怜。
「うん、そうだね…早く出ておいで。私と隊長の赤ちゃん」

怜に更衣室に誘われまくる隊長ってどうっすかね

「ねぇ隊長…ちょっといいかな」
怜に誘われた。
もちろん、向かう先は更衣室だ。
他の面々の視線が痛いが…こればかりは他のものには任せられない。
「今準備するから待っててね…あ、隊長は見ないでいてくれると嬉しいかな…流石にちょっと見られながらは恥ずかしいし…」
言いながら衣服を脱ぎ始める怜。
分かった…と後ろを向いて待つとするすると絹擦れの音がする。
後ろを向いてみたものの…視線の端に鏡が入る…。下着姿の健康的な怜の肢体が…。
おっといけない。見ないと約束したのだ…と目を閉じて待つ。
「ねぇ隊長…用意できたよ」
振り向くと可愛らしいワンピースに身を包んだ怜。
「また作ってみたんだけど…どうかな…今度のは愛花のを参考にしたけど…私に似合う…?」
もちろんだ!最高だ!と心からの絶賛を送る。
こんなかわいい姿の怜を最初に見る権利なんてとてもじゃないが人に譲ることはできない。

怜ちゃんに食事奢るとか言って立ち食い蕎麦で済ませたい

「立ち食い蕎麦…みたことあるけど入ったことないかな」
行ったこと無いなら入ってみるか?と言うわけで今日の昼休みは怜と蕎麦屋に行くことに。
「へぇ…座席もないわけじゃないんだ」
物珍しいのに店内を見回す怜。何にする?
「えっと私かき揚げ蕎麦で」
じゃぁ俺はコロッケ蕎麦を。と食券を2枚購入する。
「お金なら自分で出すよ?」
いいんだいいんだ。こういうのは大人に払わせておいてくれ。
そうこうしてるとトレーに乗せられた蕎麦が二つ用意されていた。この迅速さも立ち食い蕎麦の魅力だ。トレーをテーブルに運んで並んで食べ始める。
「コロッケ…蕎麦にいれるの?」
これが旨いんだよ。等と話しながら食べているとさすがにお昼時。店内が混んで来た。
ぎゅうぎゅう詰めになり肩と肩が触れ合う。
流石にちょっと食べ辛いな…。他の店のが良かったか?
「ううん…悪くないね立ち食い蕎麦」

「ねえ隊長……」
「俺はもう怜の隊長じゃない…」
冷たくあしらっただけで目に見えて落ち込む怜
その瞳には涙が滲んでいた
「そんな事ないよ…隊長はいつまでも私の隊長だよ……」
背広の裾を掴みながら俯く怜…
その姿はまるで迷子になった子供のようだった……
「怜……何度も言っているだろう?俺は先月にはもう怜の隊長じゃなくなったんだ……隊長と呼ぶな」
その手を振りほどき告げると怜は絶望したような表情を浮かべた……
「隊長じゃない……俺の事は何て呼ぶんだった?」
「う……ぐすっ………あ…あなた……」
「もしくは?」
「だ……旦那様……」
「よし…それでいいんだ怜……やれば出来るじゃないか」
そう言って怜の頭を優しく撫でる俺の左手には銀のリングが輝いていた

怜の卒業を待って怜にプロポーズをし、怜は涙ながらにそれを受け入れてくれた。
怜の祖母への挨拶も、お祖母ちゃんとは既によく知っている間柄なので「怜のこと、よろしくお願いいたします」
と怜のことを任せていただいた。
残りの問題は母親だ。
…正直、怜のことを捨てた母親なんて、と思っていた。
「でも、それでも私の母さんなんだ。だからちゃんと会って報告したい」
まっすぐ前を見つめて言う怜。やはり怜は強いな。
「違うよ…私が変われたのは隊長のおかげだから」
しかし、やっとの思いで探し当てた怜の母親は…残念ながら無縁仏の中にいた。
怜と二人、墓前に花を添えて手を合わせる。
「母さん…短い間だけど私のこと育ててくれてありがとうございました…。私はこれからこの人と一緒に歩いていきます」
墓を前に、怜に苦しい思いをさせた文句の一つでも言おうと思っていたのだが…もうそれらは怜の中では済んだ出来事だったようだ。
怜のお母さんにこの子を絶対に幸せにします、とだけ祈りを送る。
「もうすんだよ…隊長」
いいのか…?
「うん…言いたいことはまだいろいろあるけど、とりあえずけじめは付けたから」
そうか…。手を取り合って墓前を後にする。
この手をずっと離さずに歩いて行こう…先ほどの誓いを果たすためにも。

お、きたきた。
アクトレスや了リスギ了専門誌の月刊アクトレスファン。その最新号が届いた。
今月は楓、リン、怜の元叢雲チームの3人のインタビューが載っているのだ。
テレビはNGだった怜も専門誌の取材ならとOKを貰ったのだ。
見開き1ページを使用し3人の写真とともに紹介が行われる。
またこの雑誌は各アクトレスに対し個性的な二つ名をつけることで有名なのだが…。
楓は断罪大和撫子か。
いかにも大和撫子と言った風貌と、ヴァイス討伐にかけるその姿勢からぴったりだろう。
リンはワイルド・ワイルド・ムードメーカー。これもリンそのものと言っていい二つ名だ。
どれどれ怜は、孤高の調停役。……ぶはっ。
まぁわかる…。他人を寄せ付けない雰囲気は孤高と言えば孤高だし、リンや楓の協力な前衛を的確に援護できる怜は調停役かもしれない。
「隊長…雑誌読んで何ニヤニヤしてるの?別にいいけど」
あっ孤高の調停役が来た。
「孤高の調停役?何それ…」
雑誌の例のページを見せる。
「…………」
あ、赤くなった。プルプルしてる。かわいい。
「ねぇ隊長…これ今からでも変更効かないかな…?」
残念ながら今日発売だ。今頃数万人の雑誌読者の目に留まっていることだろう。
と言うと見る見る怜の顔が絶望に染まった。
「私明日からどうやって生きていけばいいの…」
こんな雑誌位誰も気に止めないだろう…。と慰めをかける。
しかしそんなささやかな祈りも空しく、怜の二つ名は成子坂中に瞬く間に広まった。
「流石、孤高の調停役っすね!」
「やめてっ!!!」
今日もどこかで孤高の調停役の叫び声が聞こえる。
それはそうと帰りに雑誌をもう一冊買って帰ろう。雑誌に映るぎこちない笑顔を浮かべた怜は、これは永久保存版だ。

怜にお手とかさせたいよねっす

怜、お手。
「…………」ぱしっ
…………。差し出した手に手を乗せる怜。
「……ねぇ隊長何のつもり?私は別に犬じゃないんだけど」
怜、おかわり。
「……ねぇ」ぱしっ
右手を下ろし変わりに左手がやってくる。
実はノリノリだろ?
「別に…そんなわけ…」
怜、ゴロン…。
「……これでいいの?」
床に仰向けで転がりこちらを見つめる怜。
よしよし良くできた。いい子のワンコにはご褒美をやらなけりゃな。
「あっ…ちょっと隊長…急に何っ…あっ……んっ…あんっ」

残業中に小腹が減った…。
と言って厨房に来てみたが、当然すぐに食べられるものも無く、そもそも食材に手を付けると大関さんに怒られてしまう。
しかし目に入ったのはお砂糖と重曹の入った袋。
そうだ。カルメ焼き作ろう。
それから10分後…なかなか上手くいかないな…。
おたまの中には焦げ付いた砂糖が…これはこれで飴として食べようか。
「隊長…厨房で何やってるの別にいいけど」
かくかくしかじか。腹が減ったのでカルメ焼きを作っていたことを説明する。
「あぁそれなら火は強火じゃ駄目だよ。あと温度計を使って125度くらいになったらおろして…こうっ」
砂糖を溶かしたお玉にさっと重曹を加え、すりこぎで手早く混ぜる。ぷくぅーっと膨らむカルメ焼きが出来上がった。
おぉ!やるな怜!
「おばあちゃんに教わって子供の頃良く作ったから…」
照れくさそうに頬をかく怜。そのままの勢いで2~3個作る。
「さぁ召し上がれ隊長」
うまい!怜のカルメ焼きをもくもくと食べながらしばしの休息を楽しんだ。

カランコロン…喫茶店のドアを開けると静かな鐘の音が鳴る。
そこまで広くない店内だが、温かみの有る木造のつくりと棚に飾られたアンティークや観葉植物が居心地の良さそうな空気を醸し出していた。
そして目当ての人物は奥の方の席で参考書を開いていた。
それに近づいて行き向かいの席に座る。
「…隊長?なんでここに」
たまたま怜の家に寄ったら留守だったこと。おそらくこの喫茶店で勉強しているであろうこと。
それから勉強の邪魔はするつもりは無くコーヒーを一杯頂いたらすぐに退散することを告げる。
「なんだ、わざわざ会いに来てくれたんだ」
そう言われてしまうと身も蓋もない。
マスターにコーヒーとオススメのデザートを注文する。
いい店だな。
「そうだね…いつもコーヒー一杯で粘っちゃって申し訳ない気がするけど」
とんでもないです、お客様。と言いながらマスターがコーヒーとケーキを運んできた。
ケーキを怜に勧める。
「有難う、隊長…。もう少しいて貰っていいかな…コーヒー一杯といわずにさ…もちろん隊長がいいならだけど」

怜からの報告を受け、念のため芹奈に今回の件のことを確認した。
あっさりと事実を認めた芹奈は「吃驚したわ…あの子、最初からこっちのこと一切信用してくれないんだもの。用心深いのね」と語った。
それは違うんだ。と否定だけして彼女を解放した。
…………
「なんとなく分かるんだ…嘘付いてる人とか裏切りそうな人って」
芹奈の事を一通り聞き終えた後、怜は呟いた。
「もちろん全部ってわけじゃないけどさ…わかっても、良いことばかりじゃないけどね」
そんなことはない。怜のおかげ波風が立つ前に芹奈の動きも察知できた。
「どういたしまして…。まぁ悪いことばっかりでもないけどさ」
例えば?
「そうだね…隊長が川原でストーカーして来た時も嘘だってすぐわかったよ」
うぐっ…あれはストーカーじゃなくてな…
「わかってるって…私に会いにきてくれたんだよね…。それに…」
それに…なんだ?
「隊長が「決して見捨てたりしない」って言ったこと…嘘じゃないって、あの時わかってたから…。だから…さ、隊長の事は信じてるよ」

「ところでさ、隊長…2回目だよね?」
2回目って何がだ?
「あの記者の人と喫茶店で…」
あぁ…あれはだな…
「別に…冗談だよ。隊長が成子坂のために動いてるってのは分かってる」
理解してくれて助かる。
「けどさ…ちょっと寂しかったよ」
すまない…。なら今度お詫びにデートでも行くか。
「ちっちがっ…別に、デートしたいとかじゃなくて…!いつも勝手にふらっといなくなるし…私たちのこともうちょっと頼ってくれてもって意味で…」
どんどん声のトーンが落ちていき、最後は小さな声で「私達の隊長なんだからさ…」とつぶやく怜。
わかった。それじゃぁ週末にドライブでも行くか?
「隊長…話聞いてた?」
もちろんだ。その上で怜をデートに誘いたいと思った。
「まぁ…隊長がそう言うなら。週末は何があっても予定空けておくね」
髪をくるくると弄りながら怜ははにかんだ。

「すまん怜…今日は芹菜と組んでくれ」
頭を下げて頼みこむ隊長。
「まぁ、別に隊長が言うならなんだって引き受けるよ…仕事だしさ」
と言うわけで今日は芹菜さんと二人でエレメントを組んでの防衛任務だ。
=============
「先輩アクトレスとしてご指導ご鞭撻よろしくね~。怜ちゃん」
「別に…ただ任務をこなすだけ…」
この前、あんな事があったのに飄々とした笑顔を向けてくる。軽い、嘘の笑顔。
「ねぇっその青いギアってペレグリーネですよね?しかも見たことないタイプ…専用ギアって言うの?」
「ずいぶん詳しいね…なに?今度は私のことも調べる気?」
「別にそんなことしません。ただ仲良くなりたいだけです♪…ほらっ来ましたよ」
彼女が指さす方向にレーダー感有。シャード外周部にヴァイスが展開していく。
「それじゃ…付いてきて」
先行してヴァイス群に突入する。手にした長射程のランチャーでの専制攻撃。
一発一発が数体のヴァイスを巻き込んで炸裂していく。
「流石です、怜ちゃん♪」
「お喋りしてない、反撃来るよ」
ヴァイス第一陣からの射撃警報。
二手に分かれて回避運動に移る。
(…成子坂の一○式なのにあんな動き)
彼女は敵弾をいなしつつも隙をみて的確な射撃を行いヴァイスを屠っていく。初心者…の動きとは到底思えない。
「ねぇ…芹菜さん。アクトレスが初心者ってのも嘘だよね」
「さてどうでしょう♪」
またあの笑顔だ。
「まぁ…別にいいけどさ」
淡々と小型種を撃破していくうちにヴァイスの出現予兆となるノイズが消えた。
「今日はこれで終わりですね」
結局最後まで彼女が能面のような笑顔を崩すことはなかった。
…きっと彼女にも彼女なりに嘘をつかなきゃいけない理由があるのだろう。でも…
「どうでもいいよ…本当に…。帰還します」
嘘をつく人は嫌いだ…。

まぁ本当に怪文書に寄ってたら公式の怜は今頃母乳の1つ2つは吹き出してるっすよ

「んっ…ふぅ……ごめんね隊長…手間取らせちゃって」
そう謝る怜に対し「これくらいなら全然いいよ」と気にしていない旨を返し胸から手を離す
「おかしいよね…シタラさんや小結さんみたいに大きくないのに張っちゃってさ…」
困ったように微笑み、怜は母乳パッドを装着し胸をしまう
その手には先程搾乳したばかりのやや黄色がかった怜の母乳入りボトル…
ついついじっと見てしまっていたからか
「もう…もしかして飲みたいの?隊長……私は…どうでもいいけど…」
言いながら怜は先程しまったばかりの乳房をさらけ出す
「いいよ隊長……隊長には皆がお世話になってるし……ね」
頬を染め、言い訳になっていない言い訳を並べる
怜にそんな事をされて俺の取れる選択肢は一つしかなかった

「……とりあえずそう言うことだから。あとうまい事やっといてよ、隊長」
芹菜のことを一通り報告し終えた怜は後の判断をこちらに委ねた。
取りあえず端末のデータ閲覧履歴はあとで洗っておくとして…
怜、お疲れ様。辛かったな。
と言いながら頭を撫でる。
「別に…大丈夫だよ私は…」
人を疑うのって辛いんだろ。
「……私ならどうでもいい…でもこれ以上、成子坂で騒ぎは起こしてほしくないから」
自分のことをどうでもいいだなんて言わないでくれ。
今にも涙が決壊しそうな怜を抱きしめる。
「なんで皆…笑顔で嘘をついて…人を裏切るんだろうね…」
さぁな…。
きっと芹菜には芹菜なりの事情があるんだろう。だがそんな言葉は今目の前にいる少女にとって何の慰めにもならない。
俺だけは何があってもお前を見捨てないからな…。怜。
いつか河川敷で投げかけた言葉をもう一度、丁寧に言い聞かせる。
「有難う隊長…信じてるから…裏切ったりしないでね……みんなを」

「おはよう。隊長、休日出勤お疲れ様」
おはよう。怜もご苦労様。
今日は祝日だが、ヴァイスに祝日はない。なのでいつも仕方なしに誰かしらシフトに入って貰っている。今日は怜の当番だった。
「私なら平気だよ…それより今日は依頼は?」
今はまだ特に来てないな。案件のリストを長めながら言う。
「そう、じゃぁしばらく机借りるね」
いつも通り、一番近くのデスクで参考書を開いて勉強を始めた。こちらも引き続きギアの強化改修提案書の書類作りに没頭する。
その後は特に会話等なくただ雨が天井を叩く音をBGMに時間が過ぎる。
「………なに?」
いや……。
時折気になって怜の方をちらと見ると目があった。最近目が合うことが多い気がする。
時計を見ると12時半を回っていた。相変わらずヴァイス討伐の依頼も来ない。今日はヴァイスも祝日だったか。
昼飯でも食いに行くか?怜
「お昼作ってきたから…。隊長の分もあるけど…食べる?」
荷物の中から二人分の弁当を取り出す怜。億劫な休日出勤だと思っていたが、こんな日もたまには良いかもな。

雨の中、怜と傘を並べて帰宅する。
「ねぇ…隊長…そっち入って良い…?」
と、言いながら自分の傘を閉じ、こちらの傘の軒下に入ってくる。
まだいいなんて言ってないだろ?
「断るの?」
まさか…
「なら…いいよね…」
肩を寄せ合いながら歩く。
よく見ると怜の肩が雨に濡れていた。少し怜の方に傘を寄せる。
「それだと隊長が濡れちゃうじゃない」
怜に雨が当たるよりは良い。
「なら…こうしようか」
腕を絡め身を寄せる怜。二人はすっぽりと一人分の傘におさまった。
「雨ってさ…いいよね…」
まあ、そうかもな。繋いだ手の熱を感じながら呟いた。

なぁ…やっぱり寒いから暖房付けないか…?
「だめ…寝るときにエアコンつけっぱなしは電気代かかるから」
怜は頑なに寝室の暖房を付けようとはしなかった。
しかし毛布と布団だけではどうにも寒い。
「その代りに、さ…私があっためてあげるから…」
怜がこちらの布団に潜り込む。
「湯たんぽ代わりに使ってよ…」
ならば遠慮なく…。怜のことを抱きしめる。
怜の身体も冷えてるじゃないか。
「…じゃぁ、私のことは隊長があっためてよ」
毛布に包まれながら抱きしめあう二人。接触面がちりちりと熱を帯びていく。
「ね…温まってきたでしょ」
いや、まだ足りない。
「ならもう少し、温まることしようか…」
パジャマのボタンを外しながら言う彼女。俺は視界に広がる白い胸元に吸いつき、そして…。

やってしまった…。
イージスからの危険任務。大型ヴァイスの集団討伐、通称コード7777。
今の成子坂のアクトレスなら見事にこなして見せるだろうと言う過信…いや慢心がもたらした事故だった。
出撃した3人のアクトレスの内1名が大型ヴァイスの攻撃の直撃を受け、シールドが危険域に達し、強制機関の憂き目にあった。
即時作戦契約を破棄し残り2名も帰還。事後処理はAEGiS正規部隊への引き渡しとなった。
幸いなことに負傷者は出なかったものの、そのアクトレスには念のために病院に送って検査を受けてもらっている。
整備室では整備部がダメージを受けたギアにかかりっきりで応急処置を行っている。
これから自分も山のように始末書を書かねばならない。
…なのだが今自分は製作所の裏手にある堤防で独りただただ項垂れていることしか出来なかった。
もしイージスからの依頼をまだうちには早いと蹴っていれば。
もしもっと上手く指揮が執れていれば。
もしあの時一瞬でも早くヴァイスの攻撃予兆に気付いていれば。
もし…回避指示の言葉がもう少し早く出せていれば。
隊長失格。
様々な後悔の念が生まれ、そしてそれは出口が無いまま自分の中で渦巻いている。
「なんだ隊長こんなところにいたの」
背後から声を掛けられた。
怜か…。今日はもう帰るように言ったろ。
「帰り道の途中だよ」
ここは駅とは反対方向だ。分かりやすすぎる嘘…。
「こんな状態の…こんな様の隊長を放っておいて帰れるわけないでしょ」
まぁ…見ての通りの有様だ。
己の力量不足でアクトレスを危険な目に合わせた。それが今の自分の評価だ。
「まぁ、あの子には後でちゃんと謝ったほうがいいかもね…。でもそれは隊長だけのせいじゃない。私だってもうちょっと上手く援護できていればって思ってる」
そんなことはない。怜はこちらの指示を完璧にこなしていた。
完全に俺の采配ミスだ…。それも大型の攻撃予兆を見落とすという超初歩的なミス…。
おそらくもうあんなミスをして、誰も隊長として見てくれないだろう。
「けどさ…。私は見捨てたりしないから」
怜は俺の項垂れている俺の頭を抱きしめた。
「いつか隊長が言ってくれたみたいに。私も隊長のこと絶対に見捨てたりしないから…」
優しくなでる手の中で俺は思いっきり泣いた。
「よしよし…。落ち着いたら、ちゃんと成子坂に帰りなよ。皆隊長のこと探してたからさ」

衝動にあらがえなかった…と言えば完全に言い訳になる。
事実、今俺は更衣室の床に怜を押し倒し組み敷いていたのだから。
「………隊長」
はだけた胸元を隠しもせず、こちらを見つめる怜。その目尻に滲む涙を見て我に返った。
すまない…怜…。
謝って済むことではない。
しかし怜の上から退こうとしたら、逆に頭を抱き寄せられた。
「別に、いいよ…隊長なら」
違う…俺がしたかったのはこんな事じゃないんだ…こんな風に怜を…。
「うん…わかってるから…。気に病まなくていいよ…私の隊長なんだし」
怜に抱きかかえられながら、俺は胸の間で咽び泣くことしか出来なかった。

最近良く図書館に足を運ぶ。
元々は値の高い参考書を買わずに済ますためではあったが、最近は別の趣旨の本もよく借りるようになった。
「今日は…これでいいかな」
手にしたのは一冊の料理本。
お祖母ちゃんから教わった料理は大体作れるが、それらはラインナップが和食に寄っていた。
なので洋食系のメニューはこうして自分で勉強するようになった。
飽きてしまわれないように。
「喜んでくれるかな…」
既に自分用に纏めたレシピノートは2冊目が埋まろうとしている。
まだまだ上手に作れるわけではない。成子坂の食堂の料理に比べたら本当にまだまだ。
でも手抜きは出来ない。
何よりも隊長の為なのだから。

乳首当てゲームする?

隊長…私の期待を裏切らないでね…

と、急に言われても…期待を裏切るなとはどういう意味だろうか…。
普通に考えれば当てちゃ駄目だろう…。ここはワザと外すべきだ。
いやそもそもこのゲームをする時点で怜の乳房に触れることにならないだろうか。いやしかし…
「隊長…目が泳いでるよ?じゃぁジャンケン…ポン」
俺がグーで怜がチョキ。
「ほら、隊長の番だよ」
ぐっと胸を突き出す。
自己主張こそ激しくないものの柔らかそうな膨らみ。
……!!?
「どうしたの…?」
どうしたもこうしたもない。このゲームの根幹を成す標的≪ターゲット≫が水着越しに自己主張しているではないか…。
「あんまり…焦らさないでよ。それじゃ…一発で当てられたらご褒美あげるね」
艶っぽい誘惑に屈し…俺はその【標的】に向けて指を伸ばした。

「え、ふくろうカフェ?…猫カフェとかじゃなくって?」
そうそう猫カフェの鳥版のようなものだ。
先日駅前で見かけたので行って見たのだが、怜のギアのモチーフは鷹と言う事で声をかけてみた。
フクロウだけで無く鷹や隼もいて、皆人馴れしていて中々癒された。
「まぁ鳥は好きだし、興味はあるかな…。ねぇ今度案内してよ」
========
「ねぇ…隊長って止まり木だっけ?」
いや別に?…腕に留まった鷹を撫でる。肩には隼、頭の上にはメンフクロウの雛が乗っていた。
「いやいや…そんなに侍らせて何言ってるの。こっちは近づくだけで威嚇されるのに…」
若干へこんでる怜。
「隊長って鳥に好かれるんだね」
かも知れないな。なるほど…。だから怜にも懐いてもらえたのか。
「ばっ…!どうでもいいけどっ私は鳥じゃないからっ!」
真っ赤になって否定する怜。でも懐いてる事は否定しないんだな。
ほら、と鷹を乗せた腕を怜の肩に近づけると、その鷹はぴょんと跳ねて怜の肩へと移る。
「まぁ…でも隊長の傍が落ち着くって言うのはわかるかな…」
と、羽を撫でながら小さな声で怜は呟いた。

「ねぇ隊長…今夜もいいかな…」
最近、夜になると怜が甘えてくる。
それ自体は全然構わないことなのだが、素直に甘えられないのかいつも変な理由を付けてくる。
昨日など「異性の匂いを嗅ぐとアクトレスのパフォーマンスが上がるって今朝テレビでやってたから…」と言いだした。
まぁ、それでパフォーマンスが上がるなら試してみるか、なんて言って受け入れる俺も悪いのだが。
さて今日の言い訳は何だろうか?
「隊長…ほら…冷え性は身体に悪いから…さ」
そういう割には薄着ではないか?
「隊長の体温であたためてよ…ダメかな?」
そう言うことなら仕方がないな。
怜を伴って寝床に付く。腕枕をしてやりながら頭を撫でると、怜はこちらにしがみつくように抱き着いてきた。
なぁ、甘えたいときは素直に甘えていいんだぞ?
「別に…甘えたいわけじゃ……。ううん、本当はそう…面倒くさいよね…私」
胸に顔を埋めながら言う怜。
怜がどんなに面倒だと思っても、俺はそんな怜が好きだし、絶対に放したりしないからな。
「そっか…有難う、隊長…」
撫で続けながら怜への想いを何度も説くと、やがて静かな寝息が聞こえてきた。

AEGiSの提示したシミュレーションプログラム。
…複数の大型ヴァイスやその直衛のワーカー型からなるヴァイス群との連戦任務。
もしこれがシミュレーションではなく実戦であれば、おそらく成子坂みたいな企業ではなくAEGiSの正規部隊が投入されるであろうヴァイスの大規模侵攻を想定された演習内容だ。
一番隊は右翼前方に展開した綾香、愛花、ゆみさんのチーム。
切り込み兼陽動として前衛の綾香愛花、そしてそれを経験豊富なゆみさんが援護する形で突出する。
二番隊は左翼を担う夜露、文嘉さん、シタラさんのチーム。
成子坂のメインメンバーである主力打撃部隊が一番隊の陽動に続き大型ヴァイスに有効打を加える。
そして中央後方に位置するのは楓さんリン、それから私の三番隊だ。
楓さんとリンの二人は間違いなく現成子坂の最大戦力。
二番隊で撃破困難と見なされた場合に打って出る。
所謂切り札だ。
私の役目はリンや楓さんが十全な体制で敵大型ヴァイスの前に送り届けること。
後詰めの護衛…ポジションとしては最も見栄えがしない役回りかもしれない。
むしろ、私が活躍しなければいけないシーンと言うのは戦局としてかなり好ましくない。
でもこれが隊長に任された役目、と言うなら私はただそれを全うするだけだ。
隊長の機体を裏切るわけにはいかないのだから。
演習が開始され、目前の宙域に仮想ホログラムで投影されたヴァイス群が出現する。
「私は私のやるべきことをやる…」
私は付近に出現したワーカーに対してラプタービークの照準を合わせた。