家事壊滅的な女子が執事に自炊を教わる話

Last-modified: 2012-01-21 (土) 00:06:12

 クリスマス。
「浮かれすぎだっつーの」
 ひとつきも前からスーパーじゃサンタさんがケーキの材料を売ってるし、
「みんなさー」
 手芸屋さんでは赤と緑の毛糸をマフラーだのセーターだの作るレシピと一緒に並べてたし、
「あたしもねー」
 それにひょいひょい乗って手を出すんじゃなかった。
「今タイムマシンがあれば絶対あのときのあたしに忠告しに行く」
 あんたが丹精込めて作ったマフラー渡す相手は、年上美女と手と手を取って
「今頃どっかの夜景でも見に行ってるのかしらねえ」
 今日の帰りじゃご近所の一軒家も庭や屋根にしっかりイルミネーションを飾っていた。
「日本人て、ほんとに」
 クリスマスが終わったらすぐ片付けちゃうくせに。
「……あたしもね!」
 
 こたつテーブルの上には、帰りがけに買ったケーキのパックが2つ。
 イチゴショートが並んでるのと、茶色くてクリームいっぱいの
「やったね、人生初ブッシュ・ド・ノエル。なーんちて」
 名前だけは知ってるし作り方もどっかで見たけど、
「包丁使うのはりんご切るときぐらいのあたしには買わなきゃ一生縁ないもんねー」
 ちなみにりんごは、剥かずにかじる。
「あぁ、だからあたし振られたのかなぁ……乾いてるよ女子力……」
 ケーキの隣に顔を伏せた。
 ちっぽけなコンビニでまで煽られて、
 せっかく大枚はたいた(自分的に)ケーキだけど、今は開封する気にもならない。

 と。
 ドアの郵便受けから蛍光色の封筒がひっそりと存在を主張しているのに気がついた。
 帰ってきたときは乱暴にドアを開け閉めしたから、気づかなかったんだ。
 ケーキはうっちゃって、暇つぶしのネタにでもしてやろうと玄関まで行って引っこ抜く。
「出張執事?」
 サンタさん、これがあたしへのプレゼントですか。
 気がついたらあたしは通話が終了したっきりのケータイを握ってて、
 ケーキの2つや3つどころではないお金が飛んでいくことになっていて、
 来るって言うまでの15分が短かったような長かったような。
 ああ、あいつとの最初の頃のデートってこんな気持ちだったかも。
 そしてインターフォンが鳴った。
「あっ」
 寒さをこらえてずっと玄関にいたので秒で開けたら金の輝きがこぼれた、
 ようにあたしには見えた。
「出張執事です」
 そう言ってそのキラキラは腰を折った。あたしよりチビで、でも金髪がさらさらとなびいて綺麗な感じ。
「あっお世話になります……あっ」
 えーと。
「……クリスマスケーキ、食べます?」
 こたつの上のシロモノを思い出して言うと、慇懃に返された。
「いえ、執事ですので」