世界観

Last-modified: 2010-03-09 (火) 19:54:38

世界観

「人間は、所詮生きているゾンビに過ぎない」   ~狂的科学者ゾンビK、かく語りき~

 人間が夢を見るのと同じように、世界もまた夢を見る。人間が心に闇を持つのと同じように、世界にもまた闇の部分がある。それは犯罪ネットワークや戦争のような裏社会を譬えているのではなく、世界そのものの“深層(イド)”とも取れるものである。人間が溜め込んだ悪意・悲哀・絶望は、知らず知らずのうちに底へと沈んでいく。そうして溜め込まれたものは世界の“悪夢”としてその力の強い場所に現れるだけだった。
 1900年代前までは人間が知る世界はあまりに狭く、そして人間自体も少なかった。“悪夢”は属に悪魔やドラゴン、妖怪とも呼ばれる災害として語り継がれるだけだった。
 それが変わったのは世界大戦。あまりに大量の死と、情報を伝達する手段の確立。人々の抱く恐怖はあまりにも強大で重く、浮かび上がる暇すらなくひたすらに“イド”へと降り注いだ。兵器が進歩し、憎しみは絶えず。結果世界は絶望を溜め込み、ついにあるとき“悪夢”は“イド”から溢れ出た。
 ゾンビナイゼーションと呼ばれるその現象、“悪夢”は溢れ出た地点を飲み込み、そこにいたもの全てを悪意に溺死させる。生命は全て死に絶え、世界の深淵へと沈んでいく。そこには何も残らず、“悪夢”の一部に成り果てる運命が待ち受けている。飲み込まれたものは記憶も思い出も失い、生きとし生けるもの全てへの殺意を抱く操り人形、“ゾンビ”へと成り果てる。
 しかし“ゾンビ”の中には稀に“悪夢”に強い反発を抱きながら引きずり込まれたものが存在する。彼らはいわば“悪夢”への悪意をもつアンチテーゼとして君臨し、人類のために戦う存在となる。

 そうして戦うために蘇った彼らゾンビには三つの道がある。一つは自身も悪夢となって迷い込んだ人間を狩ること、一つはゾンビとなって永遠の戦いに身を投じること、そして最後に人としての自身を取り戻し、一時の生を享受して死んでいくこと。
 人間としての思い、執着が強ければゾンビは蘇ることができる。しかし悪夢に肉体を滅ぼされているゾンビに与えられる時間は僅かなもの。人々の夢の終わりを告げる夜明けと共に黄泉帰りは終わり、人々の心に思い出だけを残して只の土くれへと成り果てる。

【ゾンビK】

解りやすい説明

・はじめに
「この世界は、腐っていく! 」 ~国際ゾンビ学会での、ゾンビKの第一声~
 ゾンビSRSの世界は危機に瀕している。それは「異世界の浸食」という非現実的でおとぎ話のような危機だ。無論、このような事を大声で叫べば気が狂ったと思われるのはどこの世界でも一緒だ。だが、ゾンビSRSの世界ではソレは「疑いようの無い事実」で、国家が必死に隠蔽しているだけなのだ。その危機は、常に君たちのそばにある。
 忘れないでほしい。このゾンビSRSの世界は、きわめて微妙なバランスの上で成り立っているのだ。

・世界の裏側、裏世界・“イド”
 我々のいる世界を“表”または“表面”とするとしよう。人は表面に自分の抱える感情のすべてを出すだろうか? 答えは明確な『No』だ。
 イドは世界の“裏”、そして“深淵”だ。世界の抱える闇または世界の見る悪夢と言ってもいい。そこには身を切るような悲しみと、身を焦がすような業怒と、ただ死という静寂とが渾然と渦巻いている。
 人間社会が小さかった頃、ここに満ちる悪意は自然と浄化されていった。しかし人が増え、争いが増え、戦争に発展するにつれて処理しきれなかった「モノ」が人間社会にすこしずつ溢れていった。それは時にドラゴンとして、時に河童として、時にカマイタチとして、人間社会で暴虐を尽くした後に浄化されていった。それは本当にごくわずかな例外でしか無く、表と裏の境界が混ざる事は無かった。
 それが崩れたのは第一次世界大戦の事である。あまりにも多くの悪意と死が短期間で”イド“へと流れ込み、ついに水を注ぎすぎたコップから漏れ出るようにイドから来た悪夢は世界を浸食し始めた。

・ゾンビ
 イドを認識して自らの力とした人間は古来から存在していた。「火」「雷」などの自然現象への恐怖をイドから呼び覚ませばそれは現実社会に顕現し、人の体から「死」を掬い取れば傷が癒える。
 しかし、世界の境界は確固たるもので、一部の天才にしかイドの力は扱う事が出来なかった。そしてその技術も限られた人が知る秘技となって埋もれていった。
 しかしもう一つ、どんな人間でも幸運ならば、いや不幸ならば異能者となってしまうことがある。それが「ゾンビ」である。
 彼らは死の中でイドと強く結びつく事で蘇った死者だ。イドによって動く体は鼓動をやめ、血液の代わりに渾然としたイドそのものが体を流れている。よってその体や心は醜く歪み、いつしか「生」をもとめて人間を襲うようになる。彼らは得てして強力で無慈悲で残酷で暴虐で残忍だ。

・人の心を持つゾンビ
 しかしまれに、人の心を有したままゾンビになる者もいる。この数少ない例外は、世界を浸食する面積が増えるにつれて妥当な割合で増えている。そして現在、彼らは問答無用で「退治」されることはない。
 ゾンビは貴重な戦力なのだ。
 

ゾンビの社会的立場

 ゾンビの社会的地位は微妙なものがある。
 公式にはゾンビの存在は公表・公認されていない。一部の科学者や映画監督、宗教指導者などがその存在を広めようとしており、また、都市伝説のような形で、じわじわと一般市民にもその存在は知られてきている……しかし、多くのマスコミにはその存在は黙殺・隠蔽され続けている。
 それでも実際にゾンビは存在する。
 そして、その脅威に政府は立ち向かわなくてはならない……現在のアメリカに於いては軍隊が出動し、ゾンビ擁護者も加わって、内戦状態に近い状況にある。また、ヨーロッパではエクソシストが対ゾンビの最前線に立っている。日本では、最初、警察が対処していたが、襲い掛かる超常のものに対処しきれず、かといって自衛隊を出動させる事も出来ない……そこで、日本政府は秘密裏にまだ人間性を保っているゾンビに準人権を与える事で、対悪夢事件のエージェントとして活用する事を選択した。
 この公認ゾンビ登録制度により、日本は対悪夢事件の最先端となりえたのだ。

【梶 一茶】

敵対組織

屍十字軍(ゾンビ・クルセイダーズ) 代表:クロイツ准将 

組織アンカー:ゾンビ優性論
 かつてナチスドイツが造ろうとした「超人兵団」。現代となっては笑い話だが、実はその計画は半ば成功していて、くだんの「超人」がゾンビであったことを知るものは少なく、その生き残りである「屍十字軍」について知るものはほとんどいない。
 戦争に投入されること無く彼らの戦争は終わった。戦後のドサクサにまぎれて闇に消えた彼等は自らの敗北の理由について考えた。彼らが見いだした解は、「人種による優劣など些細なことであり、選ばれた超人であるゾンビが世界を支配すべきであった」というものである。
 彼らはもはやアーリア人にこだわらない。ユダヤ人も些細なことだ。必要なものは、人間を越えた不死身の超人のみ。
 彼らがゾンビナイゼーションを起こす理由は一つ。選ばれた人類の選定と、少々増え過ぎて邪魔な人類の排除。家畜である人類を絶滅させる気はないが、それよりも超人を増やすべきだと言う考えの基、彼らは幾つもの街をイドに沈めてきた。
 彼らの中にも派閥はあるが、ハーケンクロイツは当然のように最も古く、強い派閥だ。ナチスドイツを母体に持つ彼らは、優勢人種たるゾンビを集め、ゾンビナイゼーションの最中から帰ってくることの出来る実行部隊を多数有している。
 どちらかと言えば、ゾンビ達は武装化に偏る傾向がある。現実世界の支配を目指すだけはあり、世界観が変化するバブルヘッドや臆病に見られがちなタイラントの数は少ない。また、独自にマッドサイエンティストたちの研究機関を有し、彼らが開発した超常武装を使ってくること点でも注意が必要である。

屍解教団 代表:教祖

組織アンカー:新しい世界への希望
 時代が不幸に傾くと、現世に希望を持てないものが増えてくる。戦争、飢餓などに絶望する人々、家族や誰かの死に悲しむ人々の他にも、リストラや派遣切りなど経済の流れもまた新たなる絶望の糧となる。その心に忍び寄るのが、「解脱教団」である。
 彼らは金品を求めない。彼らは仲間が増えることも望まない。彼らは信徒に祈りを求めない。彼らはただ教えるのだ、「死」を越えることの素晴らしさと、その先にあるはずの素晴らしい世界を。
 悪夢化した世界とは、その人の望む形の世界。死を恐怖し、それを望まないからこそゾンビが生まれるように、世界の絶望と共鳴したからこそ叶えることが出来る自分だけの世界こそがゾンビナイゼーションであると彼らは教える。そして、そこに巻き込まれる人たちは贄なのだとも教える。
 彼らは同胞から見捨てられた悲しみと、隣人に虐げられた痛みに満ちている。彼等は今の世界に絶望している。だからこそ彼らは夢と希望に満ちた新しい世界へ行こうとするのだ。
 理想郷アトランティスは彼らの中で最も古い思想である。彼らが説くところによれば、アトランティスはゾンビナイゼーションの結果この世界から消え、そこの住人たちは今も不老不死を謳歌していると言う。そして、実際にゾンビは不老不死に近い。
彼らはアルケーを自在に移す事が出来る。モノから人へ、人からモノへと悪夢を封印したまま"運ぶ"事が出来るのだ。この方法により彼らは悪夢化しそうにない場所ですらゾンビナイゼーションを起こすことができる。

幸福の寵児 代表:車椅子の男

組織アンカー:車椅子の男
 彼等は最も新しく、最も数が少なく、最も穏やかな目標を掲げつつ、最も過激な集団である。彼らの目的は世界平和。人類全てが争う感情を捨てさり、穏やかに生きる世界を夢見る一人の男に導かれる一団である。ゆえに彼らは「幸福の寵児」と自らを名乗る。
 車椅子の男。外部からはそう呼ばれるカリスマがこの組織を統括している。穏やかで、子供を諭すように柔らかな話し方から、彼が世界を騒がせるテロリストと感じるものは少ない。そしてなにより、普通の人が抱いているテロリストのイメージと彼がかけ離れている理由として、彼からは「悪意」が一切感じられない点から、彼は未だに疑われること無く日々を過ごしている。
 だが、彼は確かに狂っているテロリストだ。彼は全人類の幸せを望み、そのために世界をゾンビナイゼーションに捧げんとしている。彼にとって世界は等しく無価値にゾンビと化せる対象であり、だからこそ等しく平等に愛し、平和な世界へ誘う対象なのだ。
 彼は世界を救うために、自らが神となる世界のゾンビナイゼーションを進めようとしている。その計画が成功した暁には彼が殺した全ての人間は生き返り、彼に感謝して平和に暮らすと心の底から信じている。ゆえに彼らの行動に一切の容赦はない。彼らにとって必要なものは、車椅子の男が神となることのみなのだ。
 

イルブラッド(憎しみ)

組織アンカー:塵は塵に、死体は死体に
 人間。誰がどう否定しようと、人間が人間であることだけは変わらない。人はいつか死に、また命は生まれる。その連綿たる命の連鎖から外れた存在に抱く潜在的な恐怖の発露、それがゾンビ根絶主義ネットワークの「イルブラッド」である。
 彼らは世界の真実を知った人間達である。彼らは社会にとっての異物、そうゾンビ達を排除するために全ての力を注ぐ。集団で行動し、ソレと思われる対象に暴行を加える。たいていはホームレスや近所の奇人などを対象にするのだが、彼らは時に恐ろしいほどの嗅覚でゾンビを嗅ぎ当てる。
 彼らの中にもゾンビがいる。彼らは自らの存在すらも否定し、そして消滅の危機すら喜びに変えて襲いかかってくる。彼らにとって“ひとつ”のゾンビが死ぬことはなによりの喜びなのだ。

ドグラ・マグラ 代表者:狂気の伝達者

組織アンカー:永劫の狂気
 彼らに合ったゾンビは皆口々に言う。「あいつらは狂っている」。彼らは組織として定義されているものの、彼らが組織立って行動したと言う例は皆無に等しい。   
 ではなぜ彼らが組織として認識されているのか? それはゾンビ化した人間の手には必ず一冊の本があるからだ。ゾンビナイゼーションを書き綴った世界的に有名な禁書“ドグラ・マグラ”が。そして彼らはたいていドグラ・マグラを読んだことによって共通の狂気に囚われている。彼らの行うことは一つ、「自殺」。狂気に取り憑かれた彼らは、自ら死を望むように動き、自らの存在ごと世界をゾンビナイゼーションへと追い込んでいく。

世界の過去

 近年になって発生したように思われているゾンビナイゼーションだが、実際は遥かな昔から人類と共にあった。人が死を認知し、恐れ敬い、そして利益のための同族殺しが始まったとき、イドは生まれたと言われている。
 各地に残る「死後の国」と「死者の復活」の伝承。圧倒的な力を振るう神々の存在。人間とは思えぬ姿形の異形の存在たち。伝承の存在は全てイドの力を受けたものであるとゾンビ学者たちは推測している。
 神話には興味深い点が二つある。「黄泉」、「輪廻の輪」、「神の国」など一見共通点の無さそうな死後の世界だが、そこにあるのは「死者が赴く場所がある」という共通項によってまとめられる点。これはゾンビナイゼーションの結果できる世界の欠落を表しているのではないかと思われる。
そしてもう一つ。多くの神話において聖人や勇者は死の国へと赴き、何かを勝ち取って戻ってくる。もしかしたら、世界の欠落には世界を救い、ゾンビをよみがえらせる「奇跡」があるのかもしれない。

【ゾンビK】