543 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/03/21(日) 06:04 [ w5Volbgg ] 他愛も無い話。 この季節にしては珍しい、暖かな日差しが降り注ぐ昼下がり。 ふたりのAAが、ファミレスでブランチを取っていた。 モナーとモララー。 どこにでもいそうな組み合わせだ。 二人は街中でばったり出会い、ちょうど昼だし、飯でも食いに行くかという話になったのだ。 大学を卒業し、しばらく疎遠になっていた事も手伝って、いつもよりも会話は弾んだ。 近況報告から始まり、新たな生活の中であった失敗談や、互いの懐かしい思い出など・・・。 そして今は、お互いに食事を済ませ、心地よい満腹感を味わいつつ一服している。 ふと会話が途切れ、とりとめて交わすような話も無くなり、どちらからとも無く窓の外に目を向けた。 二人が座ったのは、道路に面した窓側の席。 うららかな陽気の中、犬を散歩に連れる人、中睦まじく歩く老夫婦など、静かなその風景を、二人とも黙って眺めていた。 「そう言えばさぁ・・・」 そんな中、視線を窓の外に向けたまま、モララーが思い出したように口を開く。 「このまえ吉野家いったんだよ、吉野家」 モナーは少し笑いながら、顔をモララーの方に戻して言った。 「そーいえばモララーは吉野家好きだったモナね。 三日連続で昼飯吉野家いった時は、ホントに参ったモナ」 モララーもつられて笑ってしまう。 「よく言うぜ。その三日目にお前が大盛ねぎだくギョクなんか頼むから、 店員にマークされて二度と行けなくなったんじゃねぇか」 「そういうモララーなんか、既にマークされてた癖に」 二人して、かつての行いを思い出して笑っていた。 「まぁ、その話は良いんだよ。いいから続き聞いてくれ。この前の話」 「ああ、吉野家行って、それからどうしたモナ・・・?」 544 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/03/21(日) 06:05 [ w5Volbgg ] 「何だこの人だかり・・・」 会社も休みの日曜日。 モララーは一週間の疲れを取るべく、その日は朝から 部屋でゴロゴロして過ごしていた。 ここ最近は、目が回るような忙しさだったのだが、 仕事も一段落し、やっと落ち着ける時間を取り戻したのだ。 だからこそ今日は、炊事も洗濯も全てサボると決めていたモララーは、 昼ごろに近所の吉野家へ出かけていった。 何もしなくたって腹は減るものなんだなと、妙な関心をしながら。 しかし、普段は割と空いている吉野家が、何故かその日に限って座る余裕も無いほど混んでいたのだ。 それも、被虐者たるチビの一家4人までもがその列に並んでいる。 よくそんな金と勇気があったものだ、とは思ったが今は彼らに構う元気は持ち合わせていない。 モララーは席が空くのを、店内でボーっと立って待つ事にした。 だが、ただ立っているだけなのは暇でしょうがない。 何か無いものかと視線をあちこちに飛ばしていると、キャンペーンの垂れ幕が目に飛び込んできた。 『 1 5 0 円 引 き 』 一瞬でモララーは全てを理解した。 この混み具合は、全てそれが原因なのだ。 どうりで被虐者一家までもが来ている訳だ。 彼らにしてみれば、安い金で動物性の食料が食べられる千載一遇のチャンスなのだろう。 思わず、心の中で客達を散々馬鹿にしてしまう。 (もうね、アホかと。バカかと。お前らな、150円引き如きで云々かんぬん・・・) 等と、夢中で己の吉野家に対するこだわりを心の中でぶちまけていたその時、 チビギコ一家の大黒柱、チビギコの姿が目に入った。 「よーし、パパ特盛頼んじゃうデチー」 この光景には、流石のモララーも一瞬目を伏せたほどだ。 そしてその直後、ふつふつと怒りがわいてくる。 (何故俺よりも、奴等の方が先に席についているんだ? 何故俺が我慢しなくてはいけないんだ?普通逆じゃないのか? ん?いや、待て待て待て。待てよ?っていうか、あいつらどけたら俺座れるんじゃねぇの? ちょうど今順番待ちしてるのは、俺を入れて四人だし。 ってことは・・・。 『あいつらどかす→俺座れる→おまけにその他三人にも感謝される→ウマー』 OK、ナイスプラン。思い立ったら即実行) 545 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/03/21(日) 06:05 [ w5Volbgg ] こうなったモララーはもう止まらない。 つかつかとチビ一家のもとへ歩いて行き、片手に二匹ずつ掴み、席からぐいっと上に持ち上げた。 「ヒギャッ!なんデチかお前?いきなり何するデチ!」 「ギャクサツチュウ?! ハナシナサイヨゥ!」 一家は何事か騒いでいたが、モララーは一切耳を貸さずにそのまま表へと連れ出していく。 そして、先ずは手始めといわんばかりにベビを一匹地面に落とし、 右足のかかとで胴体を粉砕した。 ボキグシャベキッ!! 「チブァゲボオォ!!」 まるで、ポッキーを10本位束にして踏み潰したような感触がした。 ベビは口から血と内臓を大量に吐き出し、残ったのは頭と右手だけになっている。 「ヂ・・・ガ、ア・・・オア゙ア・・・ダ・・・」 しかし、それでもまだ息はあるようだ。流石にしぶとい。 「イヤァァァアァァァァ!! ベビチャンガアアァァァ!!」 「そんな!チビタン達が何したって言うんデチかぁ!!」 親である二匹は、突然の理不尽な暴力と子を失った悲しみで、モララーに掴まれながらも暴れている。 涙を流し、少しでも今だ命のある子の元へ近づかんとして。 手を離して三匹を地面に落とすと、すぐに彼らは瀕死のベビに駆け寄り、鬼のような形相でモララーを睨んできた。 睨むだけで人を殺せるなら、おそらくモララーは苦しまずにあの世行きだろう。それ程の表情だった。 しかし、向かって来る様子は無い。当然だ。勝ち目が無いのだから。 非力で町の暗がりに潜んでいるような彼らが、虐殺者の代名詞であるモララーに勝てるわけが無い。 それを十分に理解しているから、彼らはモララーに向かって行かない。いや、行けない。 だからこそ、せめて睨んでやろうというのだ。 そんな彼らが虐殺者を睨むという行為をすること自体、ある意味自殺行為に等しいのだが、 それほど憎悪の感情が溢れているんだろう。 546 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/03/21(日) 06:06 [ w5Volbgg ] 所が、そんな二匹を見つめるモララーの目は、実に冷静で冷ややかだった。 そんな彼らの視線を意にも解さず、モララーはポケットから150円を取り出し、 彼らのほうに放り投げてこう言った。 「何をしただと?教えてもらわなけりゃわからねぇのか? いいか。こんな事俺がするのはな、お前ら被虐者どもが、身分をわきまえずに飯食いに来たからだよ。 てめぇらには牛丼なんて1000年早いぜ。 わかったら、さっさとそこのゴミ連れて失せろ。まァ俺も鬼じゃあないからな。 その150円は席を空けてもらった分の金だよ。 それに、せっかく肉食いに来たんだ。手ぶらで帰るのもなんだろう。 そう思って、食べやすいように小さくしてやったんだからな? なんならもう一人前作ってやろうか?」 チビしぃは咄嗟にベビを庇う様に抱き、後ずさりながらモララーと距離をとっていく。 チビギコはそんなチビしぃの様子を横目でチラッと見た後、「覚えてろ」と小さく言ってから、 もはや息絶えているベビと150円を掴んで、モララーに背を向けて走り出した。 それを見て、チビしぃも後に続いて走って行く。 彼らの走り去った後には、ベビの血痕が点々と続いていた。 「ふん・・・」 モララーは遠ざかっていく彼らを見送り、一度鼻を鳴らした後、再び吉野屋に入っていった。 いまモララーは、虐殺よりも牛丼が気になってしょうがないのだ。 店内はモララーが入った途端、なんと言うか、殺伐とした空気に変わっていた。 何人かの虐殺者が、客達に混じって食事を取っているのだろう。 先ほどのモララーの行動を見て、血がたぎっているようだ。 その空気のせいか、さっきまでいた女性客や子供は、全員勘定を済まして出ていてしまったようだ。 席が随分あいている。 それでいい。女や子供は、すっこんでろ。 モララーはこの空気が好きだった。 普段吉野家は、忙しい虐殺の合間を縫って、素早く食事を取る為に来るような虐殺者しか来店しない。 そのため、自然店内の空気は殺伐とした空気に包まれる。 モララーも虐殺者の端くれだ。彼らと同じ理由で吉野家を利用する機会が多い。 そしていつの間にか、この雰囲気を好むようになっていた。 Uの字テーブルの向かいに座った奴と、いつ喧嘩が始まってもおかしくない、 刺すか刺されるか、そんな雰囲気を。 心地よい気分で、モララーは空いている席に腰掛けた。 そしてその時、ちょうどはかったように、隣の席にも客が座る。 みると、なんとオニーニだった。 先ほどの凶行を見ていなかったのか、そ知らぬ顔でモララーの隣に座っている。 モララーがあっけに取られている間に、オニーニは店員に向かって得意げな顔で注文した。 「大盛りつゆだくで」 プチン。 モララーの何かがぶち切れた瞬間だった。 547 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/03/21(日) 06:07 [ w5Volbgg ] 「で、それからどうしたモナ?」 二人のコーヒーは、もうすっかり冷めている。 お互い話に夢中になりすぎて、コーヒーの事なんか忘れてしまっていたのだ。 「もちろん、オシオキさ。もう牛丼なんてどうでも良くなってね、 そのオニーニをまた外に連れ出して、子一時間問い詰めたよ」 「何を?」 「本当につゆだくが食いたいのかってね。 お前、つゆだくって言いたいだけじゃないのかって」 「おらああぁぁぁぁぁ!!」 ドゴォッ!! 「ワジョォォォオオ!!!」 モララーの鋭い鉄拳が、またもオニーニの顔面にヒットした。 もはやオニーニは撲死一歩手前の状態だ。意識だって、あるのかどうかも分からない。 にもかわらず、モララーは相変わらず吉野家の駐車場で殴りながら説教を続けている。 「米が米食ってんじゃねーよ!共食いじゃねーか! つゆだくなん今日びはやんねーんだよボケが!って聞いてんのかコラァ!! てめぇみてーな素人は、牛鮭定食でも食ってろ!」 ドガッ!! 「ワジェェ!! モ、モウ ワカッタカラ、カンベンシテ ワショーイ・・・」 「いいやだめだね!そんな知ったかした罪は重いぜ!たっぷり償ってもらうからな!」 「ソンナワショ────イィィ!!」 夕暮れの繁華街に、オニーニの悲鳴がこだまする。 彼の願いがようやく聞き入れられた頃には、もはや手遅れだった。 548 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/03/21(日) 06:07 [ w5Volbgg ] 「なかなか面白かったモナー。 けど、モララーも変なこだわり捨てた方がいいモナよ」 モナーはタバコを灰皿になすりつけながら、軽くモララー忠告した。 実際、彼のものすごい(しょうもない)こだわりのせいで、 迷惑をこうむった事も一度や二度ではないからだ。 「何言ってんだ。もしあの場にモナーがいたら、きっと一緒にぶちぎれてたと思うぜ」 モララーは残りのコーヒーを一気に飲み干し、モナーの忠告を笑いながら軽く流す。 さすがに長い付き合いだけあって、説教のかわし方は上手い。 モナーはなおも説教を続けようとしたが、ふと考え込む顔をした後、こういった。 「・・・そうかもしれないモナー」 楽しげに笑う二人の後ろの席に、一人の男が座っていた。 彼は名もない2ちゃんねらー。 こっそりモララーの話に聞き耳を立てていたのだ。 彼はいそいそと勘定を済まし、そそくさと帰っていった。 そしてモララーとモナーが別れた約二時間後、一つのレスが2ちゃんねるに投稿された。 まさにこの時こそが、かの有名な「吉野家コピペ」産声を上げた瞬間だった。 何も知らない2ちゃんねらー達は、彼が苦労してひねり出したネタだと思った事だろう。 しかし、それは間違いなのだ。 このコピペをみる度に、我々はモララーに尊敬と感謝の念を持つべきなのだ。 我々は忘れてはならない。 多くの2ちゃんねらーを笑わせたこのコピペの裏に、 一人の男の戦いがあったことを。 549 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/03/21(日) 06:08 [ w5Volbgg ] さぁ、今こそ声を大にして叫ぼうではないか。 大盛ねぎだくギョク、と。 完