春の思い出

Last-modified: 2015-06-12 (金) 21:35:18
209 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/04/23(水) 20:03 [ VYRFLTSM ]
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野原に、心地よい風が吹いた。
黄色いタンポポがゆらゆらと揺れる。
この穏やかな春の野原に、二人の子供が遊びに来ていた。
子供のモララーとちびしぃだ。小学校低学年あたりか。
彼らは、この日、野原にそれぞれ木を一本ずつ植えた。まだ小さな苗木。
「この木が大きくなったときには、虐殺なんてない、幸せな世の中になっているといいね」
「ウン。平和ナ 世ノ中ダト イイノニナ」

遠い、春の思い出。
あれから二十数年。二人とも、もう大人になった。二人は離れてしまったけれど、あの日のことは覚えていた。
あの時植えた木は二つ共大きくなった。
でも、あいかわらず世の中は虐殺と差別がはびこっていた。
モララーはひさしぶりに、しぃに会ってみることにした。
彼は、しぃが虐殺されていないか心配だったのだ。しぃは、生きていた。ただ、子供の頃とはだいぶ変わっていた。
彼女は、とてもワガママで、とてもうるさくて、とても目障りな生き物へと変化していた。
いわゆる、アフォしぃという生き物になっていたのだ。
再会したモララーは、しぃの変化を目の当たりにして驚いた。
が、しぃもあの日の木のことを覚えていた。
「子供の頃、野原に木を植えたね。平和な社会を祈って」
「ソウダネ。マターリノ ショウチョウノ キダネッ」
しぃは、甲高い耳障りな声で叫んだ。
「ネェ ネェ。マターリノ タメニ シィチャンヲ ダッコシテヨ」
しぃは短い両手を伸ばしてきた。モララーは身をかわした。
しぃは、変わってしまった。
「ナンデ ダッコシナイノ? マターリノ キヲ ウエタノニ? 
 ドウシテ マターリ シナイノヨォッ!?」
モララーは、頭に熱湯を注がれたように感じた。怒りが、脳を占領する。
モララーはしぃの腕を掴み、無理矢理車に乗せると、あの野原に連れていった。
「ナニスルノヨォ? ヘンタイ、ユウカイハン、ギャクサツチュウッ」
しぃは、変わってしまった。

210 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/04/23(水) 20:03 [ VYRFLTSM ]
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モララーとしぃは、野原に着いた。タンポポの中で、二本の細長い木が生えている。
しぃの手首は、モララーに掴まれ、青く冷たくなっている。
モララーは、暴れるしぃの腹に突きを放った。重たい突き。
しぃの目は大きく見開かれ、口から唾液がほとばしった。
二本の木をしならせ、ロープでしならせたまま固定する。
そして、ぐったりとしたしぃの体を逆さまにして、足をそれぞれ別の木に結びつける。
モララーは、しぃが意識を取り戻すまで待ち続けた。子供の時のことをぼんやりと思い出しながら。
やがて、しぃは目を覚ました。
「僕は、君を殺すよ。この平和の木を使って」
静かな、でも殺気と狂気をはらんだ声。
「ナンデッ? ナンデ シィチャンガ コロサレナクチャ イケナイノォォォッ!?」
耳をつんざく、しぃの絶叫。
「だって、今の君はアフォしぃだ。君は交尾して子供を産むだろ。その時、君はどんな教育をする?
 アフォしぃに育てられたベビも、やがてはアフォしぃになるだろう。そして、アフォしぃが増え、虐殺が増える。
 アフォしぃがいなければ、虐殺は起こらない。世の中をマトモなしぃだけにすれば、平和になるんだよ」
モララーは、木をしならせていたロープをナイフで切断した。しなっていた木が、元に戻に、離れる。
しぃの足は、木が離れたため、股からヘソまで一気に裂けた。
血と細かな皮や肉片が、打ち上げ花火のように勢い良く飛び散った。
腹の亀裂から、熟れたザクロのような臓器達がひょっこりと顔を覗かせた。
いくつかの動脈が切れたらしく、心臓の鼓動に合わせて、一定のリズムを刻んで血が吹き出ている。
モララーは、しぃが絶命したのを見届けると、ナイフで自分のノドを切り裂いた。
しぃは、アフォしぃに変わってしまった。
モララーは、虐殺者に変わってしまった。
どちらも、平和な世界には相応しくない者達。

今でも、平和の木は野原に立っている。
青々とした葉を茂らせて、木漏れ日と戯れている。
平和の木は、二つ共大きく立派になった。
何故なら、しぃとモララーの死体の養分を吸い上げて、育ったのだから。

今だ、虐殺はなくならない。

完