暗闇横町

Last-modified: 2022-08-21 (日) 14:24:09

暗闇横町(小説作品・シリーズ)

AA達が暮らしている町があった。
町の名は暗闇横町。

作者

  • ナヒャ(yWVxXezQ)

両腕の無いモナー

159 名前: ナヒャ (yWVxXezQ) 投稿日: 2003/12/06(土) 19:39 [ lE0EBEJ6 ]
1/3
AA達が暮らしている町があった。
町の名は暗闇横町。
その町には一人のモナーがいた。

そして彼の腕は無かった。

幼児時代、町にやって来た猟奇的変質者に腕を刈り取られてしまったのだ。
それ以来、モナーの両腕は無い。
肩の辺りから、盛り上がった肉が少し残っているだけだ。
モナーは陰気な性格になってしまったが、友人がいないわけではなかった。
今日、モナーは友人のギコと縁側に座り、たわいのない雑談をしていた。
「そう言えば、聞いたか? しぃの噂」
モナーは首を横に振った。
「優しいんだぜ」
ギコの口元が緩んだ。モナーは首を傾げる。ギコはもどかしそうに、小声で言った。
「だから、さ。しぃは……すぐに犯らせてくれるんだと。
 それも、ヒッキーやらオシリスやら、モテない連中とも犯ったらしいぞ」
何て不埒で破廉恥な女だ、とモナーは顔をしかめた。
ギコがふざけて言った。
「まぁまぁ、お前にもチャンスがあるかも知れないしよ」
「止めろよ、ギコ。……俺の腕、見てくれよ。女が相手してくれるわけないだろ」
ギコはにやけた表情を元に戻した。
「あぁ、悪かったな」
済まなさそうに項垂れると、ギコは帰ってしまった。

「両腕の無い男を愛してくれる女がどこにいる? 
 例え不埒な淫売婦のしぃだろうと、この俺を見たら悲鳴を上げて逃げて行くさ」
夕日がモナーを照らしていた。
両腕の無いシルエットが伸びる。まるで不出来なこけしのように滑稽な影だった。

160 名前: ナヒャ (yWVxXezQ) 投稿日: 2003/12/06(土) 19:39 [ lE0EBEJ6 ]
2/3
ある日、モナーの家にしぃがやって来た。
見た目は普通の少女なのに、醸し出す雰囲気は売女のそれであった。
「ネェ、私ト シナイ?」
整った顔の少女の笑みは、嫌らしく下卑ていて、醜かった。
「断るよ。不潔な香具師は嫌いだからね」
しぃに冷たく言い放つモナー。そして玄関の方を見ながら、帰りなさいと諭した。
「我慢強イノネ。中年男サン」
甘い息を吐きながら体をすり寄せてくる。モナーはしぃを見ない。
「欲シインデショ? 私ノ 若イ……」
「自分が魅力的だとでも思っているのかい? 今の君は汚いよ。
 まだ、君は若い。取り返しもつく。家に帰りなさい」
静かな声だが、大人の怒気が含まれていた。
しぃはビクッと身をすくめた。
今まで町中の男を誘ってきた。
断る相手もいるにはいたが、ここまで手厳しくはね除けられたのは初めてだった。
途端に、しぃは暴力的な行動に出た。
「何ダヨッ。コノ 達磨野郎!」
モナーを突き飛ばす。両腕のないモナーを。
よろめいたモナーは、タンスの角で頭を打った。
鈍い音がした。モナーが倒れた。タンスの上の小物が崩れ落ちる。
「ア……」
殺してしまった……? しぃは目を見開き、後ずさりした。
「かなり痛むが、生きてるよ」
頭を押さえながら、モナーが唸った。
しぃは罪悪感を少しでも消すために、倒れたモナーを抱き起こした。
「ゴメンナサイ」
「……もうこんなコトは止めなさい。自分の体を大事にするんだ」
モナーを抱き起こしているしぃの手に力が入った。
しぃの顔に、怒りの形相が浮かんだ。

161 名前: ナヒャ (yWVxXezQ) 投稿日: 2003/12/06(土) 19:40 [ lE0EBEJ6 ]
3/3
「何モ 知ラナイ大人ガ、偽善的ナ コトバッカリ 言イヤガッテ!」
混沌とした歪んだ精神から吐き出された言葉。
「体ヲ 大事ニ? 馬鹿言ウナッ! 私ノ 体ナンテ」
そこで語気が弱まった。
「私ノ 体、赤チャン 産メナイノ」
モナーは真剣な顔つきでしぃの話に耳を傾けた。
「前ニ 狂ッタ モララーニ 誘拐サレタノ。
 私ヲ 手術台ニ 縛リツケテ 卵巣モ 子宮モ 取リ出シチャッタノ」
しぃは目を見開いて涙を流しながら、口を大きく開けて笑った。
「ソレヲ 口ニ 押シ込メラレタ。私ハ 女ノ 部分ヲ 切リ取ラレ、食ベサセラレタ」
笑いながら、泣きながら、床に座り込み、頭を掻きむしる。
「デモ、私ニ 赤チャンヲ 産マセテクレル 人ガ イルカモ知レナイ、ト思ッテ。
 闇雲ニ 男ト シテ来タノ」
モナーの部屋に、狂人の笑い声が響いた。
両腕のないモナーも、若い頃は腕が無いという事実を認められなかった。
いずれ、腕が生えてくるのではないか、と待ち続けた。
傷つけると、わずかに肉が盛り上げるので、何度も何度も自分を傷つけた。
失われた自分の一部を求めて、事実を認められずにいる。
しぃは昔のモナーにそっくりだった。
「ネェ、一緒ニ 死ナナイ?」

翌日、暗闇横町を流れるヘドロ川から、モナーの遺体が上がった。
運良く助かったしぃは完璧に狂ってしまい、病院に入れられてしまった。

モナーの腕を取った変質者と、しぃを誘拐したモララーは、
まだ普通の暮らしをし、一般の人々にとけ込んでいる。
罪の呵責に嘖むこともなく。

 暗闇横町・両腕の無いモナー 完

殺人鬼オシリス

199 名前: ナヒャ (yWVxXezQ) 投稿日: 2003/12/19(金) 16:00 [ wXrwQlUg ]
1/3
AA達が暮らしている町があった。
町の名は暗闇横町。
その町には一人のオシリスがいた。

そして彼は連続殺人犯だった。

オシリスは障害者のAAばかりを狙って殺していた。
精神病院や障害者のいる家に忍び込み、罪の無い彼らを殺すのだ。
それでも、今まで、一度たりともオシリスは罪の意識にとらわれなかった。
そう、一度たりとも。
今日のオシリスの獲物は、自宅で介護を受けている老人モナーだった。
痴呆が進み、介護している家族も疲れ果てていた。
家の者が留守の隙をつき、オシリスは老人モナーの家に忍び込んだ。
老人の部屋。老いた者独特の臭い。窓から差し込む明るい光が、宙に舞う埃を照らし出す。
そして白いシーツの上に寝かされた老人モナーは、子供のように無垢な笑みを浮かべていた。
オシリスに気付くと、ニコニコ笑いながら手招きをした。
「良い子だねぇ。お菓子をあげようね」
布団をまくり、綿くずが付着した茶色いリンゴを取り出した。
リンゴは柔らかい品種の物で、小さく切られた物だった。おそらく、老人のオヤツだろう。
「お食べ……」
オシリスを自分の孫だと思っているようだ。自分を殺しに来た者を最愛の孫と間違えている。
老人の笑顔がオシリスの目に飛び込み、血管を通り、心臓に突き刺さった。
連続殺人鬼、オシリスがほんの一瞬だけ、罪悪感に襲われた。
が、一瞬は一瞬だ。
オシリスは老人のシワクチャの手に握られたゴミの付いたリンゴを口に当てた。
心から嬉しそうな、老人の笑い顔。
オシリスはリンゴを飲み込んだ。
そして、それと同時に老人の息の根を止めた。
ハルペーと言うエジプト式の三日月型ナイフが老人の首を掻き斬ったのだ。
ゴロンと音を立てて首が床に落ちた。手持ち花火のように傷口から血が吹き出ている。
老人の部屋。老いた者独特の臭い。窓から差し込む明るい光が、宙に舞う埃を照らし出す。
そして、畳に染み込んだ血も太陽に照らされていた。

200 名前: ナヒャ (yWVxXezQ) 投稿日: 2003/12/19(金) 16:00 [ wXrwQlUg ]
2/3
心の奥底にチクリとした痛みを感じつつも、数日後オシリスは次の標的を見つけた。
暗闇横町から少し離れた精神病院の、目の見えないしぃ。
オシリスは以前、この病院に忍び込んで殺人を働いたことがある。
ずさんな管理体制。忍び込むのは簡単だった。

夜。闇の世界。精神病院の、見つめるだけで正気の者も発狂しそうな原色の緑の壁。
鬱。躁。ボダ。依存。強迫観念。様々な狂気を内包する建物。
その建物の一室に、目の見えないしぃがいた。
目の病気ではない。彼女は自ら自分の目をえぐり出したのだ。
しぃは悪夢にうなされ、眠ることを恐れているのだ。
もっとも、目があるから眠るわけでもないのだが。
その日の晩も、悪夢を恐れてしぃは起きていた。
そして、夜の来訪者に気付いた。
「アナタハ 誰?」
目の見えないしぃは侵入者の気配に向かって尋ねた。
所詮あいては盲目の少女。と、オシリスは高をくくった。
冥土の土産に、質問に答えるくらいは構わないだろう。
「連続殺人鬼。お前を殺しに来た」
意外にも、しぃは驚かなかった。単調な声でまた問いかけてきた。
「何故?」
「赤い手帳……」
押し殺した声でオシリスは言った。赤い手帳、彼が連続殺人鬼になった原因。
「赤? ……アァ、私ハ 直接見タコトナイケド、アレネ。赤い手帳ッテ」
障害者手帳。オシリスは障害者ばかりを殺している。
しぃはちょっと怒っている。自分が殺されるかもしれないのに、強気だ。
「チョット、チョット! 何ヨ ソレ。差別ニ シテハ 行キ過ギジャナイ?
 何デ 私ガ ソンナ差別デ 命ヲ 取ラレナキャ イケナイノヨ?」
「単なる差別じゃないさ」
オシリスはハルペーを持つ手を下げた。
「聞かせてやるよ、私の過去を」
オシリスは静かに回想に入った。
しぃも、殺されるかもしれないと言う自分の立場を忘れ、いささか憤慨しながら話を聞くことにした。

201 名前: ナヒャ (yWVxXezQ) 投稿日: 2003/12/19(金) 16:01 [ wXrwQlUg ]
3/3
数年前、暗闇横町を歩く幼いオシリスと、その妹の大耳。
本屋で幼児向け雑誌の付録を吟味している大耳がいた。
オシリスはちょっと離れたところで、『エジプトの歴史』を立ち読みしていた。
その時だった。
大耳とアヒャが狭い店内でぶつかってしまったのは。
店内で客同士がぶつかるのはよくあることだった。ただ、相手が悪かった。
アヒャ。精神障害を抱える者。
大耳はアヒャに突き飛ばされ、崩れた雑誌が大耳の上に降り注いだ。
アヒャは大耳に近付き、しゃがみ込むと、その拳を幼気な大耳の顔面に叩き付けた。
店主や大人の客達が何とかアヒャを大耳から引き離した頃には、大耳の顔は赤紫に腫れ上がっていた。
オシリスは恐怖のあまり動けなかった。
そして、アヒャは店主達を振り切ると、あの手帳を突き出した。
あの赤い色をオシリスは一生忘れないだろう。
障害者手帳の赤い色。
皆、どうすることも出来なかった。

妹はその後顔の腫れが引かず、中学時代に化け物と罵られ、イジメを苦に自殺未遂をした。
今でも精神的に安定せず、過食に陥ってしまった。

しぃは、溜め息を吐いた。
「ソレハ……。大変ダッタノネ」
オシリスはハルペーを握り直した。
「私の妹をあんなにしてしまったアヒャが憎い。
 あの手帳を持つ者には手出しできない。私は、許せない」
「ダカラ 精神ニ 障害ヲ 持ツAAバカリヲ 殺スノ?
 馬鹿ミタイネ」
オシリスはしぃに詰め寄った。怒りで刃物を持つ手が震えている。
「お前らが、私の妹にどれだけ深い傷を与えたことかっ……!」
しぃのマブタが開いた。空っぽの眼窩がオシリスを飲みこむように、見据えている。
「オ前ラ……カ。ソウヤッテ 一ククリニ シナイデ。
 妹サンニ 暴力ヲ 振ルッタノハ、確カニ 精神ニ 異常ヲ キタシタAAヨ。
 ダカラト言ッテ、全テノ 精神障害者ニ アナタガ 暴力ヲ 振ッテ 良イコトニハ ナラナイデショ」
小さな子供に言い聞かせるような口調だった。
オシリスは、黙って精神病院を抜け出した。
殺すはずだったしぃを殺さずに。

精神障害があるからと言って、何をしても許されるのだろうか。
妹の復讐のためなら、精神障害者を殺しても良いのだろうか。
オシリスとしぃは、今でもこのことについて、深く、静かに考えることがある。

 暗闇横町・殺人鬼オシリス 完

八百屋のちびギコ

203 名前: ナヒャ (yWVxXezQ) 投稿日: 2003/12/23(火) 22:21 [ Ujiha0b. ]
1/2
AA達が暮らしている町があった。
町の名は暗闇横町。
その町には一人のちびギコがいた。

そして彼は『家畜』を飼っていた。

暗闇横町には、一軒の八百屋がある。
その八百屋の息子、ちびギコは『家畜』の世話をしている。
今日も、八百屋の裏側にある『家畜』の薄汚い小屋の前で座り込んでいる。
ちびギコは意地の悪い笑みを浮かべた。
「明日はお前の仲間が沢山殺されマチね」
ちびギコの手が、『家畜』の秘められた場所にそっと触れた。
『家畜』は、ビクンと体を震わせた。
「おや? ちびタンに逆らうなんて。お前も仲間達みたいに皮を剥いで逆さ吊りにされたいんデチか?」
『家畜』の仲間達は、今頃、足も首を切り取られ、
かつて生き物であったことを感じさせない程、残酷な死骸を晒していることであろう。
どんなに抵抗しても、敵わない。敵うはずがない。
殺す者と殺される者、力の差が大きすぎる。
……ちびギコは空き缶を二つ取り出した。
中には、蠢くミミズが無数に入っていた。
もう一つには、ころころと太った青虫が入っている。
ミミズは庭で、青虫は八百屋の商品のキャベツから取ってきた物だ。
「汚い雌め。お前の餌は、このキモイ虫共で充分デチ」
『家畜』の糞にまみれた小屋に、虫をぶちまける。
「さぁ、食べろ」
ブリブリした体を動かしながら、虫達は小屋の床を這いずり回る。
「全部食べなきゃお仕置きデチよ」
『家畜』は口を直接虫に付けて、食事を始めた。
虫の体液が飛び散る。
ミミズの泥臭い匂い、青虫の青臭い匂いが小屋の中に漂う。

204 名前: ナヒャ (yWVxXezQ) 投稿日: 2003/12/23(火) 22:22 [ Ujiha0b. ]
2/2
『家畜』が虫を全て食べ尽くすと、ちびギコは手を伸ばした。
手が、『家畜』の女の部分に触れる。
「ちびタンに……よこせっ!」
ちびギコは舌舐めずりをした。涎が厭らしく糸を引いた。
『家畜』は女の部分をゆっくりと押し広げた。
殺されないために。自分の命を守るために。

 ポトリ。

ちびギコの手に、白い卵が落ちた。
「はぁ、無事にキャッチ出来マチたね。
 この小屋の床、硬いから卵が時々割れちゃうんデチよね。
 近いうちに、おが屑でも撒かなきゃ」
ちびギコは生まれたての卵を手に、八百屋の店先の父の元へと駆けて行った。
「卵取ったデチよ」
「ありがとうな。あ、ちょっと横町の外れの肉屋に買い物に行ってくれないかゴルァ」
明日はクリスマスイブ、ローストチキンを食べるのだ。本当はターキーを食べたいところだが。
ちびギコは父親ギコの言いつけで、肉屋にチキンを買いに行くことにした。
卵を父親に手渡しながら、冗談を言う。
「ちびタンの家にもニワトリがいるデチよ」
「ギコハハハ。アイツは食べちゃダメだぞ。卵を産んでくれる」

暗闇横町の八百屋で飼われている『家畜』兼ペットの雌鶏は、
今日も元気に卵を産んでいることだろう。

 暗闇横町・八百屋のちびギコ 完

牝モララー

241 名前: ナヒャ (yWVxXezQ) 投稿日: 2004/01/06(火) 20:05 [ UwNPxpHM ]
1/3
AA達が暮らしている町があった。
町の名は暗闇横町。
その町には一人のモララーがいた。

そして彼女は虐殺が大好きだった。

暗闇横町の通行人の中に、彼女は混じっていた。
若い、女のモララーだ。
女好みの洒落た喫茶店も素通りし、センスのある雑貨店も通り過ぎた。
目指すのは、暗闇横町から離れた人通りの少ない空き地。
周りに民家もない、有刺鉄線で囲われた空き地。
そこを目指して歩いて行く。

空き地には、ダンボールハウスで暮らすホームレスのAA達がいた。
しぃの一家だ。
冬になり厳しい寒さと戦うしぃ達に、さらに暴力が襲いかかる。
モララーの理不尽な暴行に晒されるのだ。
今日も、空き地にモララーが姿を現した。
汚いダンボールの家。青いビニールシートでダンボールの一部が覆われている。
「おぉい。しぃちゃ~ん」
いつもの男達の前での媚びるような声とは、打って変わった低い声でしぃを呼んだ。
「おい、早くしろよブースッ! ちんたらしてんじゃねぇよ」
ダンボールを右足で蹴る。中から子供の泣き声が聞こえた。
やがて、のそのそと毛艶のない中年のしぃが出て来た。
モララーは下卑た笑いを浮かべた。
男達が見たら、一目で幻滅するような笑いだった。
もちろん、同性が見ても友達付き合いを止めたくなるような笑いだ。

242 名前: ナヒャ (yWVxXezQ) 投稿日: 2004/01/06(火) 20:06 [ UwNPxpHM ]
2/3
「臭ぇなぁ、このブスがよぉ」
モララーは中年しぃの頭に痰を吐いた。
しぃは唇を噛みしめて押し殺した声で静かに泣いている。
モララーはそんなしぃの鳴き声に煽られ、しぃの頭に足を乗せた。
「鼻水垂らしてんじゃねぇよ、バーカ」
足に力を込め、体重を乗せる。しぃはそれに耐える。
その僅かな抵抗が、モララーの気に触ったらしい。
いったん足をしぃの頭の上に上げ、勢いをつけて振り下ろした。
踵落としではなく、足裏全体で頭を押したので、痛みはそれ程ではない。
が、しぃの顔は地面に擦りつけられ、鼻血が出て、口には泥が入った。
足をどけられ、頭を上げたしぃの顔の醜いことと言ったらなかった。
小さな目には涙がいっぱい溜まっていて、鼻からは鼻水混じりの血が流れている。
口からは涎が垂れ、唇の端には土の塊が付いていた。
嬉しそうなモララーの声。
「おぇ~、超ブスじゃ~ん! キャハハ、不細工だねぇ、おばさ~ん」
しぃの頬をきつくつねる。
ついに、しぃは鳴き声を上げた。ダンボールの中からも子供の泣き声が聞こえた。
モララーは舌打ちをすると、空き地に転がる石を拾い上げた。
石は、モララーの広げた手の平くらいの大きさだった。
「うるっせぇんだよ」
石がダンボール目掛けて投げられる。青いシートが乱れた。
「オ願イシマス。子供達ニハ 手ヲ 出サナイデクダサイ……」
次の石を拾い上げたモララーに、しぃは哀願した。
モララーは子供への暴力は止めた。代わりに、しぃにエスカレートする攻撃性の餌食となってもらう。
暴行が終わった時、薄いピンク色だったしぃの体は、赤茶色になっていた。

243 名前: ナヒャ (yWVxXezQ) 投稿日: 2004/01/06(火) 20:06 [ UwNPxpHM ]
3/3
やがて、モララーは結婚し幸せな家庭を築いた。
誰も彼女が昔しぃにしたことを知らない。

優しい夫、可愛い息子、親切な隣人達……。
誰も彼女が昔しぃにしたことを知らない。

人生の最期まで、モララーは幸せに暮らした。皆に慕われ、見送られての安らかな死。
誰も彼女が昔しぃにしたことを知らない。

暗闇横町でもモララーの評判は良く、彼女の死は悔やまれた。
誰も彼女が昔しぃにしたことを知らない。

が、暗闇横町に変なしぃ達が現れた。成長したしぃの子だ。モララーの悪行を寄声混じりに叫んでいる。
誰も彼女が昔しぃにしたことを知らない。

誰一人、しぃ達の言葉を信じなかった。八百屋の店主はトマトをしぃ達に投げつけた。
誰も彼女が昔しぃにしたことを知らない。

正義という物は、すばらしく尊い物だ。
何故ならとても希少価値があるからだ。
そう、きっとダイヤモンドや黄金よりも珍しい物なのだろう。
だが、正義面したイミテーションならそこいら中に氾濫していることだろう。
そして正義の意味は、年々薄っぺらくなって行く。

  暗闇横町・牝モララー 完

夢見る8頭身

345 名前: ナヒャ (yWVxXezQ) 投稿日: 2004/02/11(水) 12:16 [ GDg79c8A ]
1/4
AA達が暮らしている町があった。
町の名は暗闇横町。
その町には一人の8頭身がいた。

そして彼は1さんが大好きだった。

今日も今日とて、愛する1さんのストーカーに勤しむ8頭身。
それで、8頭身は自分が1さんと相思相愛だと思っているから始末が悪い。
今日は1さんにプレゼントを渡そうと、暗闇横町のカバン専門店に向かった。
薄暗くて、なめし皮のムッとする臭いのする狭い店だが、品物の質は確かだ。
8頭身は店の奥の店主に声をかける。
すぐに、小さな体の店主が現れた。カニバルだ。
「あのぉ、好きな人へのプレゼントに上等のカバンが欲しいんですけど」
頬を赤く染めながら、くねくねとキモく体をしならせた。
「1サンッテ 人ハ 何カ 好キナ 動物ハ イルカナ?」
カバンの陳列された棚を見上げながら、カニバルがしわがれた声で言った。
8頭身は人差し指を頬に当てて考えた。少し首も傾げながら。
「そうだなぁ、可愛いウサギとか好きなんじゃないかな」
カニバルは棚にかけられた梯子を器用に登り、一つのカバンを持って来た。
白いウサギの毛皮に覆われたハンドバッグ。
「黒イ物モ ゴザイマスガ」
「いや、これにするよ。何円?」
8頭身はカニバルに代金を渡した。
ウサギの毛皮のカバンはフワフワで、触っているだけで心地よかった。
かつてはこの毛皮をまとって、白いウサギが野山を疾走していたのだろう。
そのウサギはもうおらず、その毛皮は引き剥がされてしまった。
そして、その毛皮は今8頭身の手にある。

346 名前: ナヒャ (yWVxXezQ) 投稿日: 2004/02/11(水) 12:16 [ GDg79c8A ]
2/4
翌朝、1さんが目を覚ますと枕元に包みが置いてあった。
夜の内に8頭身が忍び込んで置いていった物だ。
1さんは包みを引き裂いた。
中から純白の毛皮のバッグが現れた。
1さんはその柔らかな毛皮をバッグから引き抜いた。むしり取られた毛が宙をゆっくり漂った。

 アイツがやって来たんだ。部屋の中に入ってきた。枕元まで近付いた。
 キモイ、キモイ、キモイ、キモイ、キモイ、キモイ、キモイ、キモイ、キモイ。

狂ったように手が動く。白い毛が天使の羽みたいに1さんの周りに落ちる。
バッグから全ての毛がなくなるまで、1さんは目を見開いたままだった。
毛をむしり終えたバッグに、今度は台所から持ってきた包丁で何度も突き刺す。
高級なバッグ、素敵なプレゼント、8頭身の一方的な思い。全てが切り刻まれる。1さんの心も。

 キモイ、キモイ、キモイ、キモイ、キモイ、キモイ、キモイ、キモイ、キモイ。

1さんのバッグに対する責め苦は、誤って自分の指を斬り付けるまで続いた。
「痛っ!」
血がボロボロのバッグと黄ばんだ畳に飛び散った。
1さんは俯き、包丁をちゃぶ台の上に置いた。

 キモイ、キモイ、キモイ、キモイ、キモイ、キモイ、キモイ、キモイ、キモイ。

バッグはなくなっても、ストーカーは消えない。

347 名前: ナヒャ (yWVxXezQ) 投稿日: 2004/02/11(水) 12:17 [ GDg79c8A ]
3/4
「1さん、喜んでくれたかなぁ♪」
ウフフと笑いながら、8頭身は暗闇横町のスーパーで買い物をしていた。
バレンタインに向けてのチョコを女達に混じって買っていたのだ。
買い物が終わった後で、8頭身はスーパー内でカニバルに会った。
「こんにちわ」
「アァ プレゼントハ ドウダッタカネ?」
8頭身は微笑した。
「素敵なカバンでしたから、きっと気に入ってくれたと思います」
カニバルも牙の生えた口元を少しだけ緩めた。
「トコロデ アナタハ 何カ 好キナ モノッテ……」
全て言い終わらない内に、8頭身は元気良く答えた。
「1さんだYO☆」
「1サン? ソウカ、彼ガ……」
カニバルは少し黙って考えているようだった。
「アリガトウ。デハ 帰ルカラ」
去っていったカニバルが残した不気味な空気を、明るく元気な8頭身は感じ取ることが出来なかった。

数週間後、1さんが消えた。
8頭身はその能力を駆使して1さんを探し回ったが見つからなかった。
そんなある日、カニバルが8頭身に声をかけた。
今晩、自分の店に来いと言う。8頭身はカニバルに従った。

その日の晩、カニバルは茶色い大きな箱を店の奥から引っぱり出してきた。
丁度、3頭身AAがすっぽり収まるくらいの大きな箱だった。
8頭身の嗅覚が彼が求めている人物の所在を告げた。
しかし、8頭身は自分の嗅覚を信じようとはしなかった。
箱の蓋が開けられた。
今度は視覚がハッキリと1さんの居所を教えた。
それでも、8頭身は信じようとはしなかった。
自分の最愛の1さんが箱の中に入れられている。しかも、死んでいる。
そんなこと、信じられなかった。
「バッグヲ 作ッタンダ」
カニバルが重たい牙を動かして言った。
「アナタニ プレゼント」
箱を8頭身の方へ押しやる。
口や目を縫合された1さんの顔。
土気色に変色した皮膚。
四肢は切断され、切り口は黒く平たい皿のような物で塞がれている。
その皿からそれぞれ紐が伸びている。バッグの紐だ。
腹には切れ込みが入れられ、内臓は抜き出され、
中の肉は乾燥した後に特殊な防腐剤を塗られたようだ。
おぞましいことに、腹の切れ込みにはファスナーが付いていた。
1さんの肉とファスナーの布の部分とが丁寧に縫いつけられている。

348 名前: ナヒャ (yWVxXezQ) 投稿日: 2004/02/11(水) 12:17 [ GDg79c8A ]
4/4
8頭身は1さんのバッグを手に取り抱きしめた。
髪はボサボサで皮膚も荒れている。
「1サンガ 好キダッテ 言ッタカラ」
カニバルの声が聞こえる。
「気ニ入ッテ クレマシタカナ?」
「狂ってる」
「オ互イ様デショウ」
8頭身はバッグをカウンターの上にうやうやしく置くと、カニバルに向かっていった。
拳を小さなカニバルに叩き付けるように振り下ろす。
怒りの拳はカニバルに直撃した。ただし、口膣の中に。
鋭い牙が拳をガチリと挟み込んで放さない。
血飛沫が両者に降りかかる。
「1さんを、1さんをっ」
8頭身は右手に食らいついたカニバルを店の壁に叩き付けた。
その度に右手に激痛が走る。
カニバルが口を放したときには、右手は今にも手首から落ちそうな肉の塊となっていた。
血だらけの口でカニバルが言う。
「私ハ アナタガ 好キナノデス」
「バカなことを言うな」
「何故? アナタモ ソノバッグモ 男デショウ?」
「お前がしたことは異常だ」
「プレゼントガ? 異常?」
8頭身はカウンターのそばの椅子をいきなり持ち上げるとカニバルに振りかざした。
「狂っていやがる」
椅子を持った左手に、何かが潰れる感覚が伝わり、叩き付けられた椅子の脚の下に血溜まりが出来ていた。
潰れた肉とひしゃげた牙が椅子の下からチラと覗いた。
「1さん、1さぁん」
8頭身はバッグを左手に抱くと、バッグの名を呼びながら店の外に出た。
外には数人の野次馬がいたが、誰も8頭身を止めることが出来なかった。
8頭身は何も入っていない空のバッグだけを持って、どこかに消えてしまった。

果たして、誰が一番狂っているのだろうか。
行き過ぎたストーカーの8頭身か。
ストーカーのせいで心を病んでしまった1さんか。
1さんをカバンに加工したカニバルか。

それとも、そんな彼らを作り出し、放置した誰かだろうか。

 暗闇横町・夢見る8頭身 完

元スレ