107 名前: シィキャビク(I377/ICE) 投稿日: 2003/03/31(月) 00:56 [ 6mpHwhF2 ] 「母」 薄汚れた街の片隅に、ボロボロのダンボール。 その中では、一組のしぃ親子が寄り添って、師走と虐殺ブームの風をしのいでい た。 「チ…チィィ…」 これまで母しぃの腕の中にうずくまっていたベビが、擦れた泣き声を紡ぐ。 流石、母の端くれというべきか、母しぃはその声を敏感に聞き取り、うつろな瞼を こじ開けた。 「ドウシタノ…オナカガスイテルノ?」 母しぃはベビを腕に抱いたまま、ダンボールの隅々を一瞥した。 びりびりに破れたビニールが、腐った食物と共にこびりついている。もちろん、 中身は空っぽ。 ベビが食べられそうなものは、ちょうど切れてしまっていたのだ。 「しぃちゃんを守る会」(守る会)からの配給も、しぃ対の圧力のせいで滞っている し、「ゴハン サガシテクルカラ マッテテネ」と綱渡りをする元気はない。 母しぃがあれこれと思考をめぐらせる間にも、ベビの食べ物をねだる泣き声はエ スカレートしてゆく。 「チィ…チィィ…ハナ~~~~ン!!」 「アッ、ゴメンネ ベビチャン…」 母しぃは自分の食料(乾パン)を取り出すと、口に含んだ。食べ物を口にする瞬間 だというのに、彼女の表情は険しいままだ。 しばらく租借を繰り返してから、口移しでベビに与えた。 「チィ…ピチャピチャ…」 「ベビチャン、オイシィ?」 「チィ~♪」 108 名前: シィキャビク(I377/ICE) 投稿日: 2003/03/31(月) 00:57 [ 6mpHwhF2 ] 箱から身を乗り出して、ブンブンと鳴る黒い粒に目を輝かせるベビ。 ある晴れた日、悪臭の漂うこの『オウチ』に集まってきたハエたちだった。 「チィ~チィ~チィ~♪」 手を出すたびに、ぶわっ、と散って、しばらくするとまたやってくる。また手を 出すとまた散っていく。延々とその繰り返し。 どういうわけかベビは、そんなハエたちが気に入って、ずっと一緒に遊んでい る。愚考にも汚濁にも慣れきったしぃ親子だから、母しぃはいい子守りだと思 い、放置しているようだ。 母しぃは、どこまでも無邪気なベビに頬を緩ませながら、内心で眉をしかめる。 「ゴハン、モウ コレダケシカ ノコッテナイヨ…」 薄っぺらな乾パンを、憂鬱そうに手に乗せる。少しのエネルギーも無駄にす まいとばかりにため息を呑みこむと、彼女はある決意を固めた。 その内容とは…。 「ベビチャン、ゴハンノ ジカンヨ」 母しぃの呼びかけに、ベビはその小さな体で出せるフルの力を使って振り向 いた。 ろくに言葉も解せぬベビだが、『ゴハン』だけは覚えたのだろう。 「チィ~チィ~チィ~♪」 早く、早く、とせかすようなベビの声を聞いていれば、何も恐れることはない。 母しぃは躊躇せず、自分の手を頭の上へやった。 「チィ~」 「マッテテネ、スグ タベサセテ アゲルカラ」 ぎぃぃっ…ぶちん しぃの耳が、しぃの手によって、もがれる。 深紅の生命の証が流れ出て、白く滑らかな毛並みを下品な染料のごとく染 め上げてゆく。 それでも、母しぃはうれしそうに口元をゆがめ、右手に持った耳だったもの― 肉片を爪で引き裂き始めた。 ぐちゅ ぐちゅ ぐちゅ… 「アニャー…」 「ハイ、ベビチャン。キョウノ ゴハンダヨ」 109 名前: シィキャビク(I377/ICE) 投稿日: 2003/03/31(月) 00:57 [ 6mpHwhF2 ] 「ベビチャン、アシタハ ドコヲ タベル…?」 既に小さな寝息を立てるベビに、そっと語りかけてみる。 食料を失っても、体の一部を失っても、それでもしぃは幸せだった。ベビがひ もじい思いをせずにすむだけで。ベビの安らいだ寝顔を見ていられるだけで―――。 耳のあった場所の痛みが鈍くなるに連れて、母しぃもまた眠りの淵へ傾いて いった。 ところがその安らぎは、すぐに破られた。 「へっへっへ、やっぱ虐殺てのはこうじゃないとな!」 「虐殺の真の魅力は悲壮感だモナ」 いきなり空から、二人の声が降ってきたかと思うと、首をむんずと掴まれ、箱 から引きずり出された。 「ハ、ハニャ!?」 その拍子に、膝の上のベビが転げ落ち、目を覚ましてしまう。 「チッ…チィィ~~~ッ!?」 声の主は、モナー、モララーの二人組みだった。 「ギャ、ギャクサツチュウ…!!」 母しぃのその言葉に、満足げに笑う二人。 「そのとおりモナ」 「漏れたちは冷酷な虐殺厨だYO」 「オ、オナガイ…シィニハ ナニヲ シテモ イイカラ、コノコ ダケハ タスケテ…」 懇願する母しぃ。 「よーし! それじゃ、今夜はコイシを殴って殴って殴りまくるモナー!」 その言葉を聞いて、母しぃは安堵した。少なくとも、ベビに危害は加えられな い。当然、それは早計であったのだが。 二人はおおっぴらに、殴り、蹴り、投げた。刃物の類を持っているが、それは 使わずに、ただダメージを与え続ける。 「久しぶりのでぃ化だけど…上手く逝くかな?」 「さぁ…とりあえず殺さずに殴り続けてりゃいいモナ」 「…ディ…!? ウソデショッ、ヤメデッ、ヤベデェェェェェェェ――――」 ドカッ ドスッ …… 110 名前: シィキャビク(I377/ICE) 投稿日: 2003/03/31(月) 00:58 [ 6mpHwhF2 ] 「チィィ…」 いきなり叩き起こされたベビは、不機嫌な涙を流しながら起き上がり、あたり をきょろきょろを見回す。 母しぃがいないことに気づいて、泣き叫び始めた。 「アニャーン! アニャーン! ウニ゙ャーーーー!!」 その甲高い声は、当然、外の3者にも届いていた。 モナーとモララーは、しぃを痛めつける手を止め、でぃ化しつつある母しぃを 見下ろした。 「あれ? ベビちゃんがママを呼んで泣いてるYO?」 「可哀想モナ。あんなボロダンボールの中で一人きり…。早く会わせてageな きゃ」 このままでは、ベビはでぃ化した自分自身が殺してしまう。 薄れゆく自我に必死でしがみついて、母しぃは叫んだ。 「ヤッ、ヤメテ!! シィニ ベビチャンヲ チカヅケナイデ!!」 「ひどいなぁ、ベビちゃんを近付けないで、なんて」 「そんな母親はシカークモナ。親子の大切さを分かってないモナよ。感動のご対 面で、再認識させてageなきゃ(・∀・)イクナイ!」 「………」 ぼやけてゆく視界。 それは涙のせいなのか、それともしぃとでぃの境界へ向けて急進しているせ いなのか。 ごとん、と芯のない音を立てて、箱が地面に倒れる。 「チィ、チィ」 箱の中から、いつもと変わらぬベビの泣き声が近付いてくる。 「チィ♪ チィ♪」 その声は、母の姿を見つけた喜びに満ち溢れていた。 「ベ…ビ…タン…」 「チィチィチ(ざくっ)―――「アゥゥゥ…」 しかしその声は、もはや彼女にとって天使の声ではなくなっていた。 「ベチャベチャクチャ…」 「キターーー…」 「喰っちゃったモナ…」 もう ベビちゃんのこと よく見えないよ ごめんね ベビちゃん ごめんね… 終