パルムの樹

Last-modified: 2024-03-15 (金) 08:37:24

登録日:2017/04/30 (日) 21:32:58
更新日:2024-03-15 (金) 08:37:24
所要時間:約 20 分で読めます


▽コメント欄
Tag: アニメ 感動 涙腺崩壊 ファンタジー サイコホラー ストーカー みんなのトラウマ ハートフルボッコ グロ 鬱展開 無邪気さゆえの残酷さ 無償の愛 親子関係 捨て子 孤児 虐待 毒親 呪縛 救済 隠れた名作 賛否両論 ピノキオ 早く人間になりたい オンド・マルトノ 予告詐欺 宣伝詐欺 感動のラスト ネタバレ項目 なかむらたかし 新居昭乃 不遇の名作 怪作 心の闇 コンプレックス 自我の目覚め ネグレクト 傑作or問題作 傑作 問題作 毒親の見本市 真実に向かおうとする意志 児童虐待


白い森の泉の闇に 私は思い出をなくしに行くの
苦しみのグミの実をたくさん 悲しみのクスピアの果肉を
黒い花のあふれた庭で 私は涙を流して食べなくてはいけないの
───劇中歌『シアンの歌』より

『パルムの樹』は、2002年に公開されたなかむらたかし原作・監督のアニメ映画である。
「人間に憧れる人造人間の話」の古典である『ピノキオ』をベースにしたファンタジー作品で、
ポスターや予告を見ると「宮崎アニメ的な、家族向け冒険ファンタジー」に見える。
実際、空飛ぶ植物や魚、優しく柔らかな色使いといった幻想的でノスタルジックな世界観と作風が観る者の心を引き付ける。
さらに電波楽器オンド・マルトノの世界的奏者である原田節*1による音楽は心の旅路をめぐる物語を繊細に彩っており、評価が高い。

しかしその一方で、とにかく視覚的にも精神的にもエグいシーンが非常に多く、人によってはトラウマになりかねないほど
ぶっちゃけ序盤からかなり飛ばしており、見る者を篩にかけてくる。
とりあえず、登場人物ほぼ全員が訳ありの境遇で、何かしら大きな闇や狂気を抱えていると言っても過言ではない。
優しく幻想的な雰囲気と真逆のハートフルボッコ?を地で行く展開に、大きな衝撃を受けた人も多いだろう。

他にも、元々テレビシリーズとして企画された作品だったというのもあってか、心情変化がやや唐突だったり、
大量の固有名詞など情報が圧縮されているため、初見で世界観を全て把握するのは困難。*2
登場人物(特にシアンやコーラム、ガラ)の背景に至っては、パンフの監督インタビューを読まないと理解しきれないだろう。
そうした理由もあり、当時のネットでの評判は酷評が目立っていた。
老舗映画レビューサイト「みんなのシネマレビュー」あたりを見れば、当時の空気がうかがえるだろう。

しかし、鬱展開とグロシーンの数々を乗り越えることができれば、全てが救われる感動のラストが待っている
現在では「精神の複雑さ」「親子間の愛の断絶」「報われなかった者への救済」といったテーマに注目され、再評価が進んでいる模様。

本作公開後、当時の公式に監督のメッセージが寄せられた。*3
作品にかける熱意や愛情に満ちた内容となっているので、一読の価値あり。
公式は20年以上前の作品ということもあり現存していないため、ここに抜粋する。

この「パルムの樹」を観てくれた人達、そしてHPに熱い感想を寄せてくれた人達に、深い感謝とお礼を述べたいと思います。

この作品で、試みた事、伝えようとした想いなどは、今さら蛇足であり何を語っても、その真価は変わらない。

そしてどうやらこの作品は「万人向けではなく、人を選ぶ」と言うレッテルを貼られたようです。

それでも、私は「パルムの樹」は万人向けであり、誰でもが感じ取れるエンターティメントとだと強く信じています。

作り手側の思い上がりと非難されても一向に構わない。演出的未熟さがあったとしても、何ほども揺るがないモノがこの物語に息づいていると確信するからです。

カラマーゾフの、傲慢だが高潔な長兄ドミイトリィの言葉を思い出します。

「高貴な精神から出た言葉は、絶対に信じないわけにはいかない・・・ぜったいに・・・」

何という傲慢な言葉か・・・・。

それほどに、私はこの作品に愛着と慈しみを持っています。そして盲愛を持ってこの作品を見守って行こうと思っています。

また、富士見書房からも小説版が、あすかコミックスDXからは漫画版が出版されている。
前者はヒロイン・ポポの視点からストーリーが描かれており、後者は本編から数年後を舞台にしている。
特に小説版は児童文学のような体裁を取っているため、本作の難解さに脱落した人でもとっつきやすくなっているが……
細部を見るとかなり異なっている所が多く、むしろ原作よりハードになった部分も少なくない*4

あらすじ


パルムは植物学者のフォーが、心を病んだ妻シアンを慰めるために作った人形だった。
が、その愛情もむなしく、シアンはこの世を去ってしまう。
母のように慕っていたシアンの死後、心を閉ざしたパルムはある日、傷ついた女戦士コーラムからトートの卵を託され、長い旅に出る。
旅の途中でパルムはさまざまな人間たちと出会い、心を通わせる。
地底人のシャタとその仲間たち、シアンの面影を持つ心優しい少女ポポ。
そして、パルムは地底世界タマスに行けば自分も人間になれることを知る。
「ボクは人間になるんだ。ポポのために……」
しかし地底では、トートの卵をめぐって様々な思惑が渦巻いていたことなど知る由もなかった……

登場人物


パルム
(CV:平松晶子)
この物語の主人公。
病気のシアンを慰めるために作られた、「愛された記憶しかないロボット」。
彼女を喪ったことにより心を閉ざし、数十年もの間時折やってくるアカモンガラを追い求める以外死んだも同然の状態になっていた。
コーラムからトートの卵を託されたことにより地底を目指す旅に出るが、そのことでモヒ族に狙われたり、売り飛ばされそうになるなど散々な目に遭いまくる。
「様々な人間と心を通わせる旅」と聞いてハートフルな物語を期待した人はこの時点で大ヤケドである。まあ、実際のピノキオも似たようなものだが……
また、日光に晒され続けると蔓や根が生え出してしまうため、常に日よけマントを纏っている(その割には何度も樹に戻りかけているが)。
性格は純粋無垢だが、その内面は非常に繊細で情緒不安定。おまけにストーカー気質なヤンデレ?
中盤まで自らのアイデンティティを失った状態であり、アカモンガラを追うシーン、ポポをシアンと勘違いして詰め寄るシーンはもはやホラーと言っていいレベル。
さらに上映開始からまともに会話できるようになるまで1時間以上かかっている。実に上映時間(136分)の約半分である……
シアンの死から立ち直ったら立ち直ったで、人間でないことへの劣等感や強さへの憧れをこじらせていき、トロイでソーマとラーラの話を聞かされてからは人間になることに固執するようになる。
その願いはコーラムの影響もあっていびつな形となっていき、シャタを疑って離反したり、一番の理解者であるポポに支配的な態度になるなど悪化の一途を辿っていく……
という具合に、彼の成長描写の多くが負の側面から描いたものとなっている。
さらに完成披露試写会でも、声を担当した平松氏から「“嫌な奴ぶり”に注目してほしい」とまで言われる始末である。*5
しかし、唯一愛された経験を持っていたことがシャタとコーラムの悲劇の連鎖を止め、ひいては地底の危機を救う鍵となった。

ポポ
(CV:豊口めぐみ?)
この物語のヒロイン。
交易商ダルマ屋の一人娘で、父を幼い頃に火事で喪っている。
シアンとよく似ており、草花や生き物を分け隔てなく愛する心優しい少女であるが、得意先に若さをちやほやされていることから母に妬まれ虐待を受けていた。
最初はシアンと勘違いしてきたパルムに恐怖していたが、樹に戻りかけていたパルムが精神面でも回復してからは和解。
彼の純真な心に惹かれ、共に旅に出ることを決意する。
しかし、旅を続けて行くうちに人間になることに固執するパルムとすれ違いが生じ始める。
さらに地底でトートの卵の真実を知ることになるが、パルムの悲痛なまでの思いを目の当たりにしたことから彼を尊重し、共にソーマの元を目指した。
小説版では実質の主人公
原作と比べると、母の他にも平気で他者の命を奪うシャタや、自分を物のように扱うようになったパルムに真っ向から反発するなど意外に主張の強い一面も覗かせる。
そしてラストでは一児の母になっただけでなく、シャタと結婚したことを仄めかす描写がある

シャタ
(CV:阪口大助)
フラミンゴの街を根城とする少年窃盗団*6のリーダー格の少年。
地底で最も勇敢とされるソル族の血を引き、個性的な孤児たちをまとめ上げるカリスマ性と、巨大な猛獣を倒すほどの剣の腕前を併せ持つ。
自分を幼い頃置き去りにした母を恨む一方誰よりも恋しく思っており、パルムがソル族の紋章の付いた剣を持っていたことと、
母の幻影を目撃したことから地底を目指す旅に同行することに。
本作でも人気の高いキャラだが、庇護者がおらず、自分たちの力だけで生き抜かなければならない厳しい環境で育ってきたせいか、非情な部分も持ち合わせる。
そのため、感受性が強く、生き物を分け隔てなく愛するポポとは反りの合わない面が散見された。
小説版では負の面が強調され、トートの卵を盗もうとした宿屋の女主人マハ*7を斬殺、ポポに惹かれて近寄って来た水鳥を食用にするため目の前で射殺と、かなりエグいことをやってのけている。
さらに母がトートの卵を自分でなく、パルムに託したことに嫉妬心を抱く描写もある。
一方でその境遇も掘り下げられており、肌の色の違いから差別を受け続けたり、母の形見のブローチを固いパンと交換せざるを得ないほど窮乏していた事実も明らかにされている。

プーとムー
(CV:かないみか小桜エツ子?)
獣人カポテ族出身の幼い兄妹。
少年窃盗団のメンバーで、パルムたちの旅に同行する。
二人ともぼんやりしているばかりのパルムのことを気にかけており、根は優しい性格。
しかしその正体が人形だと知るやプーは仲間たちにチクり、高値で売り飛ばすよう仕向けるという腹黒い一面を見せる。
つまりポポが登場するまで実質ムーだけがパルムの理解者だったということになる。
もっとも、ムーもムーでパルムを売ることに反発するあまり、油をアジトにばらまいて放火すると脅すというエキセントリックな一面も持っているのだが……
ちなみに当時の公式では、「この二人の輝く生命力は、うつろな人形パルムの前で光輝き、あたかも行き先を照らすランプの火のような存在である」と紹介されている。*8

バロン
(CV:愛河里花子)
パルムのペットで、ヘビガラスと呼ばれる生き物。
蛇というよりトカゲに翼が生えた姿であり、むしろ小型のドラゴンという風貌である。
かつてシアンのために取って来た卵から孵化した個体の子孫らしい。
シリアスな本作で貴重な癒し要員だが、小説版では存在そのものが抹消された悲劇のキャラ。
まあ、あくまでマスコットポジションなので扱いが難しかったといえばそれまでなのだが……

シアン
(CV:香花)
植物学者の女性で、パルムのアイデンティティそのもの。
幻の樹液クロスカーラを追い求めるあまり精神を病み、パルムの愛情もむなしく若くしてこの世を去った。
さらに当時の公式によると、厳しい環境に適応できなかったというのもあるようだ。*9
パルムが身につけているペンダントは彼女の形身であり、クロスカーラを模して作られている。
また、彼女の歌っていた曲は『シアンの歌』というタイトルがつけられているが、作中では地表世界に古くから伝わる歌ということになっている。
シアンと関係の無いポポが演奏していたのもこのため。
そして報われない愛を歌ったこの曲は、終盤で重要な役目を果たすことになる。

フォー
(CV:清川元夢)
シアンの夫で、同じく植物学者。パルムの生みの親でもある。
パルムを作ったのは妻を慰めるためであるが、同時にある種の激しさを持ち合わせ理解しきれない部分のあるシアンとの緩衝材としての意味もあるという。
シアンの死後もその遺志を継ぎクロスカーラの研究を続ける一方、パルムを持てあまし、惰性で生きている所があった。
そしてコーラムを追ってきたモヒ族に襲われて致命傷を負うが、最後の力を振り絞ってパルムにトートの卵とクロスカーラを組み込み、地底世界へ行くよう促した。
これだけ重要な役目を持ちながら、シアンと対照的に死後一切顧みられないという不遇な扱い。
そのためか、小説版ではシアンとほぼ同格の扱いがなされた。

コーラム
(CV:日野由利加)
ソル族の女戦士で、前人未到の地である天界からトートの卵を手に入れる。
そのことでモヒ族から追われており、パルムにそれを託した。
当時の公式によると、パルムの未成熟な心がコーラムを呼んだらしい。*10
自在に姿を消したり、パルムの精神世界に干渉したりと謎めいた力を持つ。
また、シャタの母親でもあり、トートの卵を追い求めるあまり置き去りにした過去を持っている。
しかしそれは、どんなに努力しても父親に認められなかったという悲しい過去の裏返しでもあった……

ロアルト
(CV:山口勝平?)
少年窃盗団のメンバーの一人で、シャタに匹敵する古参と思われる。
金にがめつく、パルムを売り飛ばすことに一番乗り気だった。
精神的に不安定な所もあり、孤児たちがドン引きするレベルの暴行をパルムに加えたり、
シャタが旅立つことを知って乱心し、ポポに剣を突き付けるという凶行にまで出てしまう。
小説版では金に汚く毒舌な所は変わっていないものの、母親の件で心乱れるシャタを気遣うなど、かなりのフォローがなされている。

ガラ
(CV:横尾まり)
交易商ダルマ屋の女主人で、ポポの母。
若い頃は有名なダンサーであり華やかな日々を送っていたが、採掘工の男と結婚し、ポポを設けた。
が、元々の激しい気性もあって平凡な生活に耐えられず、夫につらく当たり続けていたようだ。
夫の死後弟と共に交易商を始めるが、やはり自らの人生を受け入れることができないまま、今度は娘を不満のはけ口にしてしまう。
しかしポポが人質に取られたり、自傷行為に走ったパルムを必死に救おうとしているのを見て、娘への愛を再確認させられることになる。

ガンテル
(CV:中田譲治?)
コーラムの父親。シャタから見れば祖父に当たる人物。故人。
作中の描写を見るに、ソル族の中でも中心的な役割を担っており、極めて使命感や責任感の強い人物であったようだ。
その一方で病に倒れた娘を見殺しにしようとしたり、地層の割れ目に落ちたのを救われたことにプライドを傷つけられ突き放したり、とにかく娘への扱いが酷い。
このことが、コーラムが父親に認められることに異常なまでに執着する原因となった。
結婚してシャタを生んだのも父親の言いなりになっていたからで、この状況では息子を愛せるはずもなかった。
つまり、親子二代にわたる不幸の元凶となった人物と言える。
もっとも、監督インタビューによると決して娘を愛していないわけではなく、扱いに困っていたのだという。
さらに年月の流れで部族がバラバラになる中、天界をつなぐ柱目指して旅立った子供たちの帰りをただ一人待ち続けながら死んだとされる。
とはいえ、結局はコーラムを認めないまま逃げ切った形になるわけで、それが地底にさらなる危機を招くことになった……

用語


アルカナ
地上世界。
様々な変化に富んだ大地で、空には魚や植物が浮かんでいる。
主な都市はシャタたちの窃盗団の根城であるフラミンゴや、学者たちの街トロイ。
名前の由来はラテン語のarcana(秘密・神秘)と思われる。

タマス
地底世界。
かつてはソーマによって授けられた知恵により地上世界より発達した文明を誇っていた。
しかし現在はソーマの寿命が近づきつつあるため荒廃し、地表との交流も途絶えている。
住民の肌の色は青く、地表に出て日が浅い者はトランスと呼ばれるチューブのようなものを耳から口のあたりにつけ、空気の圧力を調整している。
名前の由来はサンスクリット語のtamas(暗黒・翳質)と思われる。

トート
天上世界。
人跡未踏の世界であり、万物を司り生み出す神人が住むと信じられている。
また、3つの世界は6本の巨大な石柱によって支えられている。*11
名前の由来はドイツ語のtod(死)、あるいはスペイン語のtodo(全て)と思われる。

クルップの樹
この世界に自生する金属植物。パルムはこの樹から作り出された。
地底に埋まった太古の文明の記憶を養分とし、レンズ状の部分で光合成をする。
この樹から採取されるカーラ油は世界を支える重要なエネルギー源である。こちらの世界で言う石油のようなものだろうか?
名前の由来はドイツの製鉄業の名門クルップ社と思われる。

アカモンガラ
空飛ぶ魚のような巨大な生き物で、シアンを亡くし、生きる目的を失ったパルムが執着していた。
監督のインタビューによるとこの生き物は大きな自然の力を感じさせる存在で、同じ自然から生み出されたパルムと近い存在。
パルムは心を閉ざしながらも内心では生きる意味を探し求めており、自らが傷つくのも厭わずに助けを求めていたのだという。

ボーラ
サボテン?とニョロニョロを足して割ったような生き物で、人間や自然の「気」を食べる。
人が亡くなった時や墓場によく出没するため、不吉な存在として忌み嫌われている。
モヒ族はその性質を利用してトートの卵の行方を追っていた。しかし、実際に反応していたのは卵のエネルギーではなく……
また、他者の心の奥に強く残っている記憶を引き出す力も持っている。

セレネの花
トロイ付近に咲く水中花。昼間はつぼみの姿だが、夜になると花を咲かせる。
花の中には虫たちが集めた花粉が石化したものがあり、とてもいい匂いがする。
この花の元でパルムとポポが交流するシーンはシリアスな本作で貴重な癒しだが、人形であるパルムには花粉の香りが認識できなかった……

アグリ
鹿に似た姿の動物。猛獣*12に襲われていた所をシャタに助けられたが、剣に興味を持ったパルムに近づいたことが災いし……
本作屈指のトラウマ要員
監督によるとこの一件は、「パルムが罪の意識を抱きながらも、立ち止まることも後戻りすることも許されない残酷さ」を示す、本作で最も重要な場面である。
映画では切り払われるだけだったのが、小説版ではメッタ刺しにされて死ぬというえげつなさである

クロスカーラ
シアンが探し求めていた、幻と呼ばれるほど希少な樹液。
青く光り輝き、刺激を受けると澄んだ音色を出す。
その力は「太陽と同じ力を持っている」、小説版では「動植物の命さえ長らえさせる」と、半ば神格化の域に達している。
トートの卵と共にコーラムから託され、パルムの動力源とすることで閉じた機能を目覚めさせた。

トートの卵
天界に存在するとされる、万物の源となるエネルギーを秘めた物体。
ソーマが後継者であるラーラに魂を宿らせるため、地底人に取ってくるように命じた。
コーラムからこれを託されたことにより、パルムの旅は始まることになる。

ソル族
地底の部族の一つで、シャタやコーラムもこの部族の出身。
最も勇敢な部族とされ、コーラムが赤子の頃、地底を救うためトートの卵を手に入れるまで帰ることのできない過酷な旅に出ることになった。
しかし長い年月を経て、散り散りになってしまった模様。

モヒ族
地底の部族の一つで、かつてソーマに反乱を起こしたため流刑にされ、滅亡寸前に陥っている。
ホタ、ガス、バクの三人組*13はトートの卵を奪ってソーマに許しを請い、部族を復興させようとしていた。
小説版ではソーマへの信仰よりも、外れない予知夢を見ることのできる長老への信頼の方が厚いという、地底では非常に希有な文化を持っていたという設定がある。
ソーマに反乱を起こしたのも長老の夢がきっかけであり、コーラムがトートの卵を手にしたことを知ったのも長老の夢。
トートの卵を奪うにしても、部族の面汚しではないかなどの葛藤があったことが明らかにされている。
映画ではほぼ悪役に近い描き方だが、正直これを知っているか否かで印象が根底から変わるレベルである
なぜこんな重要な設定を映画ではスルーしたのか……

ソーマ
地底を支配する巨大なクルップの老木で、地底人に崇められている。
長い年月をかけて古代の文明を記憶を吸い上げコンピュータ化しており、地底人に発達した文明を授けた。
ソーマの森と呼ばれる中枢にはクロスカーラが莫大に埋蔵されており、その力で実に数十万年という長い年月を生きている。
日本の屋久島の縄文杉が樹齢2700年以上、世界最長寿の樹の一本であるスウェーデンの「Old Tjikko」でも9550年であることを考えると異常な長寿である。
しかし現在は寿命が近づきつつあり、新たに生み出したラーラのためにトートの卵を要求するが、これにはある思惑があった。
ラーラを生み出した話から、パルムはソーマに卵を届ければ人間にしてもらえると信じ込んでいるが……

ラーラ
ソーマが後継者として新たに生み出した「実」。進化しようとする欲求から人間の子供のような姿をしており、常にオルゴールを抱えている。
小説版で「神人のように神々しい」「生まれたばかりの天使のよう」と例えられるほどの神聖さを持つ。
が、機械化したソーマには魂のあるものを生み出すことができなかった。
そのため、座った状態でソーマの森の中心から微動だにしない。
このままだとソーマの寿命と共にラーラも死んでしまうため、トートの卵を届けることは地底人たちにとっての悲願、のはずだったが……

終盤の展開


長い旅の果てに、ついに地底世界に辿りついたパルムとポポ。
が、突然パルムがゲリラに捕えられ、トートの卵摘出のために隔離されてしまう。
少し後になってシャタたちも合流し、ゲリラたちから地底世界の真相を聞かされる事になる。
実はソーマはラーラに魂を与えた暁には、地底世界を滅ぼそうとしていたのだ
全てをラーラに与えるために、自らが今まで築き上げた世界をリセットしようとしていたのである。
さらにソーマは少しでも命を長らえさせようとしているのか、地底のあらゆる生命力を奪い、住民の実に半数以上が命を落とす事態にまでなっていた。
……つまり、ソル族の苦難とコーラムの行いは全て無駄だったということになる。
トートの卵のために大きな犠牲を強いられたシャタにとってはあまりにも残酷な真実だった。

しばらくしてパルムが研究室から出てきたが、全身どす黒い血に濡れそぼっていた
……トートの卵の摘出に失敗した研究室の中は文字通り死屍累々の地獄絵図になっていた。
シャタはパルムの腹部にある卵から伸びた光がコーラムの姿を取ったのを見て、全てを悟る。
───トートの卵は本物ではなかった。その中身は万物の根源ではなく、死んだ母の魂だった。
天界に辿りつけなかったコーラムは死してなお諦めきれず、自らをカプセルに閉じ込めてパルムに運ばせ、ラーラの魂になろうとしたのである。*14
……全ては、父親に認められるために
そのことをシャタに告げられたパルムは悲痛な叫びを上げる。

「もう……もう、わけのわからない人形でいるのなんかたくさんだ!!」
「シャタみたいに強い人間になるんだ!!」
「……ポポのために人間になるんだ。そしてそばにずっとついててやりたい」
「お願い!!ボクを人間にしてよォーッ!!」

そんなパルムにそっと寄り添い、共にソーマの元を目指すと言うポポ。必死に止めようとするシャタにきっぱりと言い放つ。
「パルムは、人形じゃない!」
ゲリラたちに追われながらも、ソーマへの道を急ぐ二人。しかし、パルムの体が樹に戻る現象がひどくなり始める。
ポポが必死に助けようとするのもむなしく、全身が蔓や根に覆われていく
パルムは「もういいんだ。罰が当たったんだ」と、自らが犯してきた罪を認める。
そしてそこに、銃から放たれた光弾がパルムの頭部を打ち抜いた!

ここから事態はさらに悪化する。
パルムの体から無数の巨大な蔓が伸びて、瞬く間に巨大でおぞましい姿の怪物となった
パルムは父親と再会できず暴走したコーラムの魂と融合してしまったのだ。
ゲリラたちがさらなる絶望的な戦いを強いられる中、ボーラの大群が地底に押し寄せてくる。
怨霊と化したコーラムの強烈な負の感情に引き寄せられてきたのだ。
ポポはボーラの一匹に飛び付き、巨大コーラムの体の上に登っていくと、その中にいるパルムに必死に呼びかける。
「戻ってきて、パルム……」
「……好きなの」

───パルムの脳裏に、ある光景が浮かび上がる。
それは、シアンの故郷コートプルワーラに根を下ろし、自らの材料となったクルップと違う美しい樹になった自身の姿
「何もできなくてもいいの。そばにいるだけで。ここにいるだけで」
自身の全てを肯定するポポの言葉から、パルムはついに真理を見つける。
「ああ……なぜ今まで気付かなかったんだろう……」
「体なんか関係ない。シアンにもらったこの心があればいいんだ。心さえあれば、いつでもポポと一緒なんだ」
やがてポポの目の前にピンクの花を咲かせた蔓が伸び、シアンの形身のペンダントを差し出した。
シャタに救助されたポポはコーラムのあまりにも深い孤独を垣間見て、パルムに彼女を助けるよう呼びかける。
自身も母親を心から愛しながら報われなかった経験を持つだけに、とても他人事とは思えなかったのだ。

コーラムの精神世界に潜りこむパルム。
その中では、孤独と父親の呪縛に苦しみすすり泣いているコーラムの姿があった。
パルムはコーラムを抱きしめ、ある歌を口ずさんでいた。
それは、自分が愛したシアンから教わった歌───報われなかった愛を歌ったものだ。
愛に恵まれずに苦しむ者はコーラム一人ではないのだ。みんな何かしら悲しみを抱えながら生きている。
やがてコーラムは泣きやみ、憑き物が落ちたような表情で言う。
「私……がんばったんだ、私……」
巨大コーラムの体はソーマの森目前で崩壊を始め、中から蔓を生やしたパルムが現れた。
パルムがトートの卵を割ると、青い光がラーラ目がけて飛んでいった。

魂が宿ったラーラは起動し、ソーマの森の中心部から黒い結晶に呑み込まれていく。
誰もが地底世界の最期を覚悟したその時、結晶化が突然止まった。
───黒い結晶の中で、ラーラに宿ったコーラムが語りかける。
「シャタ……そこにいるね、シャタ……」
「……許しておくれ。お前を一度も抱いてやれなかった母さんを……」
かつて愛せなかった息子に精一杯の謝罪を述べた後、彼女の魂は天に昇っていった。
穏やかな表情で母を見送るシャタ。
親子二代にわたる呪縛は、ここにピリオドが打たれたのだ

黒い結晶は消え、オルゴールの音が止まると共にソーマはついに寿命を迎えた。
パルムと違い、人間の姿をしていながら借り物の魂しか得られなかったラーラも運命を共にした
───こうして数十万年にもわたるソーマの支配は終わり、地底世界の危機は去っていった。コーラムの人生は無駄ではなかったのだ。
パルムは莫大なクロスカーラの泉を見つめる。シアンもまた報われたのだ。

地底への旅を終えたパルムは結局、人間にはなれなかった。
しかしパルムは人間になるよりずっと大切なことを見つけ出し、晴れやかな気分だった。
樹に戻る運命を受け入れ、ポポを大きな愛で見守るのだ。
彼女がどこへいようと、いつでも心はずっと繋がっている。
一行は緑豊かなコートプルワーラを目指し、新たな旅を始める。

君に、子供が生まれて
その子たちが、花や風や星と遊ぶのを
ボクはずっと見守ってくよ
ポポ……

追記修正は、もらった愛を他者に与えることができるようになってからお願いします。



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*1 本作では「ハラダタカシ」名義
*2 監督もシアンのエピソードはわかりにくいものであることを認めており、さらに地底のエピソードは「コーラムという人物を出すことと、パルムの精神的旅の舞台として、その距離感と空間のために必要と考え、わかりにくさを残しながら描きました」と語っている
*3 https://web.archive.org/web/20020802073856/http://www.palm-net.co.jp/contentsFiles/main.html
*4 中でも10章はポポが孤児たちの価値観の違いや負の面を突き付けられた挙句、頼みの綱のパルムも情緒不安定さからすれ違い、孤立してゆく様が生々しく描かれる、小説版屈指のトラウマポイントである
*5 https://web.archive.org/web/20020326215854/http://www.palmenoki.com/new/kansei_hirou.html
*6 小説版では彼の肌の色から取って「青いフラミンゴ」の名前が付いている
*7 原作ではソル族出身の学者サワダスト。彼女とは違い、モヒ族との戦闘に巻き込まれる形で命を落としてしまった。変更されたのはシアン・フォー夫妻、ザクロと学者キャラが被りまくっていたからだと思われる
*8 https://web.archive.org/web/20020207183951/http://www.palm-net.co.jp/contentsFiles/main.html
*9 https://web.archive.org/web/20020802073856/http://www.palm-net.co.jp/contentsFiles/main.html
*10 https://web.archive.org/web/20020207183951/http://www.palm-net.co.jp/contentsFiles/main.html
*11 作中に登場したトトの石柱の他にも設定上はロロ・キキ・チチ・ココ・ルルの石柱がある
*12 小説版ではデーカンという名前が付いている
*13 最初は四人組だったのだが、一人は冒頭でコーラムに首チョンパにされてしまった
*14 小説版によると死因は「ロロの石柱からの転落死」。本作冒頭でも彼女が既に死人であることが分かるカットがある