ガン・ザルディという男がいた。
平和を願い、己が手を汚し。自らの命を狙われて。
いつしか彼は力を欲し、やがて手にしたその力へと溺れていった。
彼に、憧れた者がいた。
ジェナス・ディラ。
ザルディの功績を知り、彼を畏敬し、彼を目指したジェナスは、
幸か不幸か、彼と同じ力を得るに至った。
そして彼は、力へと溺れたザルディの前に立ちはだかることを選択した。
己が理想であった彼の暴走を、止めるために。
多くの仲間を失った末、ジェナスとザルディは遂に一騎討ちにて対峙する。
共に強大な力を持つ者同士、勝負は拮抗し、幾度となく彼らは互いを追い詰め、追い詰められる。
双方は際限なく、その力を肥大化させていった。
結果、彼らの世界は光に包まれた。
何故か。
そんなことが、彼らにわかろうはずもない。
どうなるのか。
それは、神のみぞ知る。
光が晴れたそこに残っていたのは、戦友の形見の剣のみ。
ジェナスも、ザルディも。ジェナスに全てを託し傷つき倒れていった仲間達も。
彼らの持っていたその、力も。
すべて、光の中へと消えていった。
彼らの持つ力は、ゼアム。アム・エネルギー。
彼らの名は、『アムドライバー』。
──C.E73年、スペースコロニー「アーモリー・ワン」宙域──
「ミネルバを、出航させる!?」
ザフト軍所属・MSパイロット、シン・アスカは乱戦の中母艦より送られてきた通信に愕然とした。
戦闘の真っ最中であるというのに思わず声をあげ、おそらくはその通信の送られてきたであろう、
宇宙へと浮かぶ砂時計型のコロニーのほうをみやる。
「そんな、まだ進水式すら終わってないんだぞっ!?」
毒づいた彼の乗るコックピットを、着弾の衝撃が襲う。
現在の彼は、ザフトの軍施設から強奪された三機の新型MSを追って、僚機とともに追撃の途についている。
『余所見している場合か!!やられるぞっ!!』
「わかってるよっ!!っけど、こいつ……!!」
僚機・ザクファントムからの叱責を受け、シンも苛立って言い返す。
ザクのパイロット、レイの言うように、確かにこの相手は余所見していて勝てる相手ではない。
「モビルアーマーのくせにっ!!!」
彼の駆るMS──インパルスはザフトの誇る、最新鋭の機体。セカンドシリーズと呼ばれる様々な新規格の機能が組み込まれている。
そんじょそこいらのMSにはまず性能でひけをとることはないし、パイロットのシンだっていわゆる赤服、ザフト軍におけるトップエースの証たる紅いパイロットスーツを着用することを許された身だ。
実戦経験がないとはいえ、それなりに腕に覚えはある。
──だというのに。
「なんなんだよ、こいつはっ!!」
叫びと同時に、インパルス──フォースと呼ばれる、空間戦闘用のバックパックを装備した高機動使用の装備である──の右腕に保持したビームライフルを撃ち放つ。
だが標的となった敵MAはいともたやすくそれをかわし、円筒状の分離砲塔、ガンバレルを展開して反撃をしかけてくる。
「くっそおっ!!」
『シン!!後退だ!!』
「はあ!?」
『ミネルバが来ている!!』
レイの通信に機体のカメラを振り向かせると、確かにコロニーの方からグレーのアーチ状の翼を持つ巨艦が出てくるのが見える。
MSだけでの追撃より、艦ごと向かったほうがはやい……そんなところだろう。
そうしているうちに一基のガンバレルがレイの放ったビームに撃ち落され、MAが後退をはじめる。
「あ、この!!待てよっ!!」
『シン、戻れ!!』
「……くっ……了解」
屈辱だった。
実力でモノにしたこのMS、インパルスの力。
それを以ってして、たかだかMA一機、落とせなかったとは。
「シン・アスカ。これより帰頭しま……ん?」
オペレーターのメイリン・ホークへと帰還する旨告げようとするシンの目に、メインカメラのとらえた映像の端に漂うものが映る。
コロニーの破片や、MS、機械の残骸。
先ほどコロニーに開いた穴のことを考えれば、無理のないそれらのデブリの群れ。
その中にそれはあった。
いや、いたと言うべきか。
黒と青を基調としたノーマルスーツに、尖った二本のサイドアンテナらしきパーツのついたヘルメット。
どちらも軍で使用されているものではない。
胸部や腕部、脚部へとはなにやら、ごてごてとしたブルーの装飾がつき、宇宙空間をそれは漂流している。
「……人?」
一瞬、その光景に唖然とし、呆けたようになるが、すぐさま首をぶんぶん振って我に返る。
こんなことをしている場合ではない。あれが人ならば、すぐに救助しなくては。
コロニーの大気流出に巻き込まれて長時間放置されていたならば、エアーの残りも心配だ。大怪我している可能性もある。
「おい!!大丈夫か!?そこのノーマルスーツ!!おい!!」
通信を全周波数に切り替えて交信を試みる。返事がなくとも、あちらの呼吸や音声を拾って、生死を確認できれば。
『……う……』
──よかった。生きていた!!
通信機を再度切り替え、母艦のオペレーターへと繋ぐ。
「ミネルバ!!コロニーの損壊に巻き込まれたと思われるノーマルスーツを発見した。医療班の待機を頼む!!」
『え!?ちょっと、シン!?』
突然の通信を受けうろたえるオペレーター、メイリン・ホークの声を無視して短く用件のみを通信し、シンは発見したノーマルスーツの元へとフォースシルエットのバーニアをふかし機体を急がせる。
「待ってろ、今助けてやるからな……!!」
彼が見つけたもの。
それこそがはじまり。
ジェナス・ディラとこの世界との、ファースト・コンタクトであった。