アム種_134_001話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:31:11

 ガン・ザルディという男がいた。

 平和を願い、己が手を汚し。自らの命を狙われて。

 いつしか彼は力を欲し、やがて手にしたその力へと溺れていった。



 彼に、憧れた者がいた。



 ジェナス・ディラ。

 ザルディの功績を知り、彼を畏敬し、彼を目指したジェナスは、

 幸か不幸か、彼と同じ力を得るに至った。



 そして彼は、力へと溺れたザルディの前に立ちはだかることを選択した。

 己が理想であった彼の暴走を、止めるために。



 多くの仲間を失った末、ジェナスとザルディは遂に一騎討ちにて対峙する。

 共に強大な力を持つ者同士、勝負は拮抗し、幾度となく彼らは互いを追い詰め、追い詰められる。



 双方は際限なく、その力を肥大化させていった。

 結果、彼らの世界は光に包まれた。



 何故か。

 そんなことが、彼らにわかろうはずもない。

 どうなるのか。

 それは、神のみぞ知る。



 光が晴れたそこに残っていたのは、戦友の形見の剣のみ。

 ジェナスも、ザルディも。ジェナスに全てを託し傷つき倒れていった仲間達も。

 彼らの持っていたその、力も。

 すべて、光の中へと消えていった。



 彼らの持つ力は、ゼアム。アム・エネルギー。

 彼らの名は、『アムドライバー』。





──C.E73年、スペースコロニー「アーモリー・ワン」宙域──





「ミネルバを、出航させる!?」



 ザフト軍所属・MSパイロット、シン・アスカは乱戦の中母艦より送られてきた通信に愕然とした。

 戦闘の真っ最中であるというのに思わず声をあげ、おそらくはその通信の送られてきたであろう、

 宇宙へと浮かぶ砂時計型のコロニーのほうをみやる。



「そんな、まだ進水式すら終わってないんだぞっ!?」



 毒づいた彼の乗るコックピットを、着弾の衝撃が襲う。

 現在の彼は、ザフトの軍施設から強奪された三機の新型MSを追って、僚機とともに追撃の途についている。



『余所見している場合か!!やられるぞっ!!』

「わかってるよっ!!っけど、こいつ……!!」



 僚機・ザクファントムからの叱責を受け、シンも苛立って言い返す。

 ザクのパイロット、レイの言うように、確かにこの相手は余所見していて勝てる相手ではない。



「モビルアーマーのくせにっ!!!」



 彼の駆るMS──インパルスはザフトの誇る、最新鋭の機体。セカンドシリーズと呼ばれる様々な新規格の機能が組み込まれている。

 そんじょそこいらのMSにはまず性能でひけをとることはないし、パイロットのシンだっていわゆる赤服、ザフト軍におけるトップエースの証たる紅いパイロットスーツを着用することを許された身だ。

 実戦経験がないとはいえ、それなりに腕に覚えはある。



──だというのに。



「なんなんだよ、こいつはっ!!」



 叫びと同時に、インパルス──フォースと呼ばれる、空間戦闘用のバックパックを装備した高機動使用の装備である──の右腕に保持したビームライフルを撃ち放つ。

 だが標的となった敵MAはいともたやすくそれをかわし、円筒状の分離砲塔、ガンバレルを展開して反撃をしかけてくる。



「くっそおっ!!」

『シン!!後退だ!!』

「はあ!?」

『ミネルバが来ている!!』





 レイの通信に機体のカメラを振り向かせると、確かにコロニーの方からグレーのアーチ状の翼を持つ巨艦が出てくるのが見える。

 MSだけでの追撃より、艦ごと向かったほうがはやい……そんなところだろう。

 そうしているうちに一基のガンバレルがレイの放ったビームに撃ち落され、MAが後退をはじめる。



「あ、この!!待てよっ!!」

『シン、戻れ!!』

「……くっ……了解」



 屈辱だった。

 実力でモノにしたこのMS、インパルスの力。

 それを以ってして、たかだかMA一機、落とせなかったとは。



「シン・アスカ。これより帰頭しま……ん?」



 オペレーターのメイリン・ホークへと帰還する旨告げようとするシンの目に、メインカメラのとらえた映像の端に漂うものが映る。



 コロニーの破片や、MS、機械の残骸。

 先ほどコロニーに開いた穴のことを考えれば、無理のないそれらのデブリの群れ。



 その中にそれはあった。

 いや、いたと言うべきか。



 黒と青を基調としたノーマルスーツに、尖った二本のサイドアンテナらしきパーツのついたヘルメット。

 どちらも軍で使用されているものではない。

 胸部や腕部、脚部へとはなにやら、ごてごてとしたブルーの装飾がつき、宇宙空間をそれは漂流している。



「……人?」



 一瞬、その光景に唖然とし、呆けたようになるが、すぐさま首をぶんぶん振って我に返る。

 こんなことをしている場合ではない。あれが人ならば、すぐに救助しなくては。

 コロニーの大気流出に巻き込まれて長時間放置されていたならば、エアーの残りも心配だ。大怪我している可能性もある。



「おい!!大丈夫か!?そこのノーマルスーツ!!おい!!」



 通信を全周波数に切り替えて交信を試みる。返事がなくとも、あちらの呼吸や音声を拾って、生死を確認できれば。



『……う……』







──よかった。生きていた!!



 通信機を再度切り替え、母艦のオペレーターへと繋ぐ。



「ミネルバ!!コロニーの損壊に巻き込まれたと思われるノーマルスーツを発見した。医療班の待機を頼む!!」

『え!?ちょっと、シン!?』



 突然の通信を受けうろたえるオペレーター、メイリン・ホークの声を無視して短く用件のみを通信し、シンは発見したノーマルスーツの元へとフォースシルエットのバーニアをふかし機体を急がせる。



「待ってろ、今助けてやるからな……!!」



 彼が見つけたもの。

 それこそがはじまり。



 ジェナス・ディラとこの世界との、ファースト・コンタクトであった。


 
 

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