第三十九話 インド洋の基地に
戦闘配置を促す警報が、艦内に鳴り響く。
カーペンタリアから出航して数時間、もう敵と遭遇するとは。
アークエンジェルとミネルバ、そしてエスコート役のボスゴロフ級潜水艦『ニーラゴンゴ』。
三隻からなる艦隊が敵影を察知し、急速に戦闘態勢を整えていく。
「空母1、戦艦1.例の艦隊です」
索敵のバートに告げられ、タリアは即座に指令を発する。
「あの部隊」が相手ならばセカンドステージの三機が。
そしてフリーダムとジャスティスが出てくる。
この辺りは小島も多く、奇襲や伏兵にも気を配らなければならない。
やっかいな相手だ───、内心、そんな風に思いつつ。
「ニーラゴンゴに打電、『アビスを警戒せよ』!!以後、通信はアークエンジェルとのみに限定」
『グラディス艦長』
発したと同時に、件のアークエンジェルからの通信が入る。
通話機をとって受けたタリアにもおおよそ、その内容は理解できていた。
『MS隊の指揮の件ですが……』
「ええ。ちょうどこちらもそのことで話したかったところよ。総合的な指揮はバルドフェルド隊長にお任せしますわ」
『では、こちらの隊の指揮はアスラン君に』
「わかりました、ではうちはハイネが」
『了解です』
個々の戦力は、言うまでもなく高い。
しかし艦隊としては急造の我々だ。気合いを入れなければ。
通信を切ったタリアは決意も新たに、モニターの向こうの二隻の戦艦を見つめた。
『キラとハイネでフリーダム!!アスランとシンでジャスティスを抑えろ』
発進を待つ機体のパイロットたちに、バルドフェルドからの指示が飛ぶ。
『ジェナスとセラはあまり離れず、近づいてくる連中を迎撃。ルナマリアとレイは艦上から支援だ』
『バルドフェルドさんはどうするんです?』
『あん?僕は遊撃に回るよ。カオスや、例の趣味悪い色のウインダムも出てくるだろうしねェ』
『大丈夫ですか?ウインダムはともかく、ムラサメでカオスの相手は』
『ちょーっと、つらいんじゃないですかね?』
『なあに、無理はせんよ。少々、きついだろうが───』
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!!」
『お?』
アスランやハイネ、キラも混じっての歴戦のパイロットたちの会話に、シンは納得がいかず思わず割り込んだ。どうして、そうなるのだ?
「なんで俺がジャスティスなんです!?フリーダムと───……」
『駄目だ』
やつと、戦わせてくれ。言いたかった言葉は、にべにもなく却下される。
納得がいかず、シンは声を荒げる。
「なんでです!!」
『機体の相性だ。フリーダムの火力はやっかいだからな。接近して乱射させんようにしたほうがいい』
つまり、機体の性能が接近戦向きのキラとハイネ。
『ジャスティスは逆だ。近・中距離のトリッキーさがあるから接近は禁物だ』
スピードを生かして距離をとり、砲撃・射撃を浴びせるべき。
それだけの加速力が見込めるのは、MS隊の中ではアスランのセイバーとシンのフォースインパルスだけだ。
反論の余地のない理由に、シンが言葉に詰まる。
『さぁ、来るぞ!!準備のできた機体から各自、発進してくれ』
一方的に打ち切られた会話に、シンは歯噛みしコンソールを殴りつけたくなる衝動に駆られる。
必死にそれを抑えつけ、メイリンの声が導くまま機体を発進シークエンスへと移す。
インパルスの機体は既に、合体していた。
大気圏内では宇宙と違い、チェスト、レッグの各フライヤーの航続距離が限られてくるため、ミネルバ、アークエンジェルの両艦の技師長たちの間で話し合われた結果こういう措置がとられたのだ。
『フォースシルエット、射出。インパルス、発進どうぞ』
「……シン・アスカ、インパルス行きます」
甲高い彼女の声が、今日ばかりは勘に触った。
憮然と言い返しながら、シンは蒼いインパルスの機体をカタパルトから飛び立たせた。
──というやりとりがあったのが、ほんの数刻もたたぬ前。
『ルナマリア!!』
彼らは皆よく戦っていた。
ハイネがフリーダムへ切り込み、キラがビームガンで牽制し、ルナマリアのオルトロスの射軸上へとフリーダムを追い込む。
もちろん、他の敵に目を向けるのも忘れない。
30機近いウインダム部隊を、レイやセラたちはなかなか艦へと取りつかせず、ジェナスはあのディグラーズとかいうやつと互いの得物を激しく交差させ。
性能の劣るはずのムラサメでバルドフェルドはヒット&アウェイをくり返し、カオスを翻弄している。
シンもアスランとともに、ジャスティスを相手によく戦っていた。
……が、いらついてもいた。
いくらあちらが核動力を搭載しているとはいえ。
二対一でやつを落とせないというこの事態に。
「くそォっ!!」
それも、的確にジャスティスを追い込んでいるのは皆、アスランの放った攻撃だけのように思えてくる。
ジャスティスの弾を避けつつウインダムを墜とすのを見ると、なおさらだ。
当たらない。通用しない。それは単なる彼の錯覚にすぎなかったが、焦燥が彼の心に蓄積されていく。
「当たれ……当たれェェっ!!」
彼が叫ぶと同時に、水中から水柱があがった。
「……え?」
一体、なんだ。戦闘中にもかかわらずつい振り返った彼の耳に
スピーカーから切迫したブリッジの混乱が聞こえてくる。
『ニーラゴンゴ、大破轟沈!!機影あり、アビスです!!』
『俺が行く!!バズーカを!!』
ブレイズウィザードを切り離したレイのザクが、言うが早いか
格納庫から搬出されたバズーカをひったくると海へ飛び込む。
『僕もいきます!!アスラン、ハイネ、シン!!ここを……』
『わかった!!』
『かなりしんどいが……やるっきゃねえか……ってシン!!後ろだ!!』
群島の上空近くを低空で飛行していたのがまずかった。
ハイネの警告に反応するより先に、身体を急激な横Gが襲う。
機体を立て直すこともできず、シンは海面へと叩きつけられた。
機体の腰ほどまである海上にインパルスを起こすと、漆黒の機体がこちらを睨むのが見える。
「……ぐ、う……!!ガイア!?」
空母上でミサイル等の迎撃に専念していたガイアが突如として跳躍し、
岩場をかけ。あっけにとられて動かないでいるインパルスへと体当たりを敢行したのだ。
「またお前か!!」
あの三機の中でも、この機体とは妙に因縁がある。大気圏突入時といい、オーブ沖といい。
相手がビームサーベルを抜いたのを見て、シンもまたフォースシルエットのビームサーベルを抜く。
「なら!!今日こそ終わらせてやる!!」
斬りかかっていくシン。
二機は互いの斬撃を、互いのシールドで受け火花を散らす。
『シン!!深追いするな!!』
「大丈夫です、やれます!!やってやる!!」
全開の出力でガイアに接近し、振り下ろすもそこに奴はいない。
水面の水をサーベルの高熱が蒸発させる。
振り向いたところにタックル、かわすもののシールドつきの裏拳にコックピットをはげしく揺らしながら吹き飛ばされる。
「ぐ……う……?」
地面を転がってビームライフルの弾幕を避け、推進剤を噴射して後退──……
したところでシンは、機体が妙な感触の場所に着地したことに気付く。
「ここは?」
立ち並ぶ燃料タンクに、格納庫と思しき建物の数々。
無骨な装甲車や、こちらを見上げる軍服姿の男達。
「基地!?こんなところに!?っく!!」
ガイアのビームを避けたそこには、一機の戦闘機が駐機されていた。
直撃を受け、それが爆散する。
「!!あれは!!」
そして、彼は見た。
銃を持った何人もの兵士たちと。
それに囲まれ労働に従事する人々の姿を。
そして彼らとの境目を仕切る金網フェンス越しにこちらを見上げる、女子供たちの様子を。
その瞬間、彼の中でなにかがはじけた。