第八十五話 ignited
背中のラックにマウントされた、二振りのエクスカリバーを引き抜く。
ビーム刃は出力させない。ただでさえエネルギーを食う機体なのだ、PS装甲を相手にしないならば、実剣のままで節約したほうがい。
「なるほど、これは……!!」
疾い。
ザクなどとは比較にもならない。
刺突が、横一閃が、次々に敵MSを撃墜していく。
火線が追いすがろうとも、敵は反応そのものが追いついていない。
「いける……う!?」
だが、彼の快進撃はそこで一旦中止。
敵機の群れを駆け抜けた先に見慣れぬ機体を見つけ、レイは機体を停止させる。
「黄金の……MSだと?」
二機のMSの装甲は、金色に光っていた。
ほぼ同じ外見、背中に背負ったバックパック以外、差異の見られない機体が、二機。
ザクやグフといった量産機の群れの奥に、ならんでいて。
「!!……ドラグーン!?」
そのうちの一機が、背中の突起状のパーツを射出する。
小型のそれらは五機、目にもとまらぬスピードでデスティニーインパルスをとりかこみ。
放射されるビームの驟雨の中を、レイは駆け巡る。
「ちいいぃっ!!」
更にはもう一機が双刀状のビームサーベルを引き抜き、接近戦を仕掛けてくる。
「同士討ちでもする気か!?このドラグーンの中を!!自滅するぞ!!」
ビームシールドで防ぎ、背後から放たれるドラグーンのビームをかわす。
デスティニーインパルスの機動性と、空間認識力に長けたレイの組み合わせだからかわせているのだ。
そこに飛び込んできても、味方から撃たれるのがおちだ。
斬りかかってきた機体のコックピットと思しき場所へとビームが吸い込まれていくのを、レイは確信する。
だが。
「何!?」
胸部へと直撃を受けた機体は、貫かれることも、爆散することもなく。
あろうことか、そのビームを、
「反射した!?」
その射角のままに跳ね返し、虚空の宇宙へと弾き飛ばしていく。
陽電子リフレクター、いや違う。そのような素振りは見えなかった。
ならば、おそらくは。
「ビームを反射する装甲、というわけか……!!」
弾くだけならまだしも、下手をうてば角度によっては自分に攻撃が跳ね返ってくるなど。
やっかいな敵だ。
こちらのカードは対艦刀とバルカン、通用するかはわからないがビームブーメランだけということになる。
「───だが」
センサーが、新たな機影を告げる。
「どうやら、間に合ったらしいな」
認識のシグナルは、戦友たちのもの。
ミネルバとアークエンジェルの、MS隊。そしてアムドライバーたち。
『こちらミネルバ隊アークエンジェル所属・ムラサメ、アスラン・ザラだ。エターナル、応答を……』
『遅いわ、馬鹿者!!来るならもっとはやく来い!!』
『……イザーク?』
『そんな機体よりも、貴様には乗るべきものがある!!さっさと着艦しろ!!』
通信の向こうで、なにやらアスランたちがもめている。
だが、ジェナスにとって重要なのは、それではない。
聴覚よりも、視覚の捉える情報のほうが、彼にとって、また共に戦場に駆けつけたセラにとって、重要なことであった。
「……ダークさん、タフトさん」
本来なら、懐かしい。喜ぶべきである合流・再会も、素直に喜べない。
『ジェナス……セラ』
自分たちは、彼らのやったことを知っているから。
向こうの声のトーンから、彼らも自身のやった行為を憶えているのだろう。
紫のアムジャケットの二人との間に、緊張が流れる。
『……お前らには……色々と言わなきゃならないことが、あるんだろうな』
「……」
『この戦闘が終わったら……少し、いいか?』
「……ええ」
今は、その暇はない。
シンや、アスランや。合流せねばならないエターナルが、戦っている。
すべては、それからだ。戦いながら解決するには、彼らの間に流れるものは重すぎる。
「終わったら……必ず」
けじめを、つけなくてはならない。
地球を発つ前、ステラの病室に、一度だけ一人で会いにいったことがある。
『ルナ……シン、お願い……』
小康状態なら、ともかく。
薬物の禁断症状に苦しむ彼女は、ベッドに縛られた絶え絶えの声で、ルナマリアに願った。
シンが「死なない」ように、と。守ってほしい、と。
ルナマリアは、引き攣り、血管の浮かんだ彼女の掌を握った。
そして、強く頷いた。シンは死なせない、ステラの元に、なにがあっても帰すから。
彼女の目を見て。たしかに、約束したのだ。
──なのに。自分はなにもできず今こうして、ミネルバに残っている。
パイロット待機室で、ぼんやりとルナマリアは星の海を見つめていた。
あれから、機体の補充はなく。
搭乗機のないルナマリアは、艦隊の護衛に残ったキラとともに、出撃していくシンたちを見送った。
今ミネルバ艦隊に残されたMSは、キラのストライクフリーダムだけ。
インパルスのチェスト、レッグの両フライヤーはあるが、肝心のコアスプレンダーがない。
故に、ルナマリアが出撃することは適わない。
(任せろって言っておいて……情けないもんね、まったく)
自分に出来る事に、地球のステラと何の違いがある?
無事を祈るくらいなら、彼女だってやっているに決まっている。
「どうしたの?元気ないけど」
「あっ……キラ」
パイロットスーツに身を包んだキラが、隣にきていた。
赤の軍服姿のままとの対比が、一層強調される。
シンがステラを助け出してからだろうか、キラは穏やかだったその雰囲気を、
さらになだらかなものとしていた。呼び方もアスラン共々、さん付けはいらないと言って。
「あたし……あの子に頼まれたんです。シンをお願い、って。なのに」
機体がない。なにもできない。頼まれたことなのに。
「心配?」
「……はい」
それは無論だ。だけどそれ以上に、
「歯痒いよね」
「え?」
「なにかしたいとき、しなきゃならないときにできないっていうのは」
キラは、微笑んでいた。ルナマリアを元気づけるように。
「でも、今は代わりにそれをやってくれる人がいるでしょ?あの子がきみにシンのことを任せたように」
「アスランや、ジェナスたち……ですか?」
頷く。彼らの力を、信じてみてはどうか。彼は、そう言っていた。
「それでも落ち着かないなら、今自分にできることを精一杯やればいい」
「自分に、できること……」
まだやれることがあるのに、それを見逃してなにかを望むのは不相応だ。
ルナマリアは考える。そして。
「あたし、整備班手伝ってきます!!やれること、やっとかないと!!」
駆け出す。正確には、無重力の床を蹴って、跳躍する。
明るさを取り戻した表情で、弾かれたように。
自動ドアを開いて、格納庫へ急ぐ。
こんなところで物思いに耽っているよりは、整備を手伝ったほうが有益だ。
ドアをくぐり一度身体を反転させ、キラに頭を下げて。ルナマリアは通路に消えていった。
「……頑張って」
自分も、今自分がせねばならぬこと、やれることをするしかない。
(みんな、ラクスを……お願い)
ストライクフリーダムなら、多数の敵を一度に相手に出来る。
彼が艦隊に残るのは、ある意味では当然であった。
たとえ、ラクスのことが心配であっても。
先程ルナマリアに言ったことは、自分自身に対しての戒めでもある。
自分の役目は、この艦隊を守ることだ。
「!!」
敵襲を告げる警報が、鳴った。
くるかもしれないという予想は、多少なりともあった。
こちらが救援のMS隊を向かわせれば、それによりこちらの位置もある程度特定される。
合流場所が暗礁宙域という穏やかでない場所、そして合流すべきエターナルが追われている事からも、こちらにも矛先が向けられることは考えられていた。
「よし」
ヘルメットを手にする。
二年前と同じだ。あの頃もMSはたった一機で、アークエンジェルを守らなければならなかった。
エレベーターに乗り込み、機体へと向かう。
そんな彼が相対するのは二年前、共に同じ艦を守り、戦った相手──……