機動武闘伝ガンダムSEED D_SEED D氏_第十話(後)

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:19:51

『フレイ! 聞いてくれ!』
 激しい電撃をぬって、サイの声が聞こえてくる。
 喘ぎながらもフレイはかすかに目を開けて、地上の御付き達を見やった。
「さ、サイ……何よ……」
『ジョージ=グレンが君を狙う理由が分かったんだ!』
 今度はカズィの声がする。元のようにフレイは目を強く閉じ、悲鳴の代わりに叫ぶ。
「言われなくたって分かってるわよ! 私がナチュラルだからでしょ……私にまた殺されたからぁっ!」
『誤解だよ!』
『ジョージは多分、君を恨んでるわけじゃない!!』
 フレイは目を見開いた。体を苛む痛みが一瞬消えた心地がした。

『四十年前のことだ。確かにジョージ=グレンは第四回ガンダムファイトで暗殺された』
『でも、そのとき彼が目前にしていた決勝戦、相手が誰だったと思う!?』
『『我等が少林寺、先々代の大僧正なんだ!』』
 二人の少年僧は渾身のユニゾンを上げる。かすかに少女の息遣いを聞いた。
 ドラゴンガンダムは変わらず 包帯の電撃に苦しめられているが、サイとカズィには
 フレイの顔つきが変わったのが見えた気がした。
「確かに、今まではナチュラルを目の仇にしていたのかもしれないわ。だけど!」
 目まぐるしく変わるモニターの表示を紫の瞳に映しながら、ルナマリアは声を上げた。
 胸の内には、昨晩のミイラの言葉が蘇っていた。

 チガウ、と。確かにそう聞いた。あれは『この少女はナチュラルではない』という意味だと思っていた。
 だがもっと別の意味があったのではないか。
 彼はフレイの中に、かつての好敵手を見出していたのではないか。
「きっとあなたに会って、ジョージのファイターとしての意識が目覚めたのよ!
 彼はファイターのプライドにかけて、生前に出来なかった決勝戦を望んでいるんだわ!」

 フレイは呆然と、ルナマリア達の言葉を聞いていた。体を走る電撃の痛みなど遠い世界のことに思えた。
「決勝戦、ですって……」
 拳を握り締める。朦朧としていた意識が目覚めるのを感じた。沸々と体の内から何かが湧き起こってくる。
 ジョージ=グレンのファイター魂に感銘を受けた、怨嗟を超える闘志に感動した。そんな熱い感情ではない。
 
 むしろ逆だった。

 本当に少林寺の戦士と闘いたいだけなら、何故ピラミッド内においてあんな方法で襲ってきたのか。
 そもそもファイトをしたいと言っても、昨日既にそれは果たされ、勝負もついたではないか。
 フレイは思う。ジョージは、ナチュラルへの恨みを忘れているわけではない。
 ナチュラルで、その上ネオチャイナ少林寺の戦士である自分に、現世への執念の全てを向けているだけだ!
『フレイ、きっと彼は君と闘いたがってるんだ!』
『未練を果たさせてあげればきっと……』
「うるさいわよ外野ッ!!」
 尚も言い募る二人に叫んで、フレイは渾身の力を込めて両腕を思い切り開いた。
 包帯はそれでもフレイを締め付けようとするが、フレイの方が強い。耐え切れずに包帯が破れ散る。

 ファラオは一瞬たじろいだようだった。ちぎれた包帯が思い出したように竜巻内部へ戻っていく。
 自由を取り戻したフレイは、背のフラッグを一本引き抜き、慣らしを兼ねて振り回した。
 まだ腕にまとわりついていた包帯の残骸が振り解かれ、砂地に舞い落ちる。
「サイ、カズィ、それにお姉さん! もうたくさんよ! それ以上余計な口出ししてみなさい、
 ビームフラッグで黒焦げにしてやるんだから!」
 フレイは吐き捨てる。感じていたはずの恐怖は、胸の内に湧き起こる何かに押し潰されていた。
 美談に仕立て上げようというクルー達の魂胆が気に食わなかった。反吐が出そうになる。
 プラスの感情はマイナスの感情に勝る? そんなもの、ただの戯言だ!
 ざん、と砂地にフラッグを立て、フレイは仁王立ちになった。竜巻の中のファラオを見据える。
 その様、先程までとはまるで違う、竜の化身の名に恥じぬ堂々たるもの。
「ジョージ=グレン! 来なさい! あなたの未練、私が断ち切ってあげるわ!!」
 鋭い双眸は、もはや怯える少女のものではない。凛とした声は乾燥した砂漠を駆け抜け、大気を震わせる。
 ファラオは咆哮を上げた。怖気の走る低い呻き、しかし中には歓喜の色がある。
 フレイはフラッグを砂地から引き抜き、ひゅっと風を切って横に構えた。真っ向からファラオを見据え、低く体勢を取る。

 腕組みをしたまま、シンは満足げに一つ頷いた。ジョージのファイターとしての闘志にフレイが応えたのだ、と思った。
 隣りではサイとカズィがそろって口に両手を当てて、必死に声を出さないようにこらえている。
 携帯端末を片付けて、ルナマリアが近付いてきた。シンはファラオを見据えたままに口を開く。
「ルナ、セッティングは」
「万全よ。いつでも出せるわ」
「そうか」
「ひょっとしてアンタ、ジョージ=グレンの事情知ってたの?」
「そんなわけあるかよ」
「でも、やけにフレイを……」
「ファイターの亡霊なら、一回ファイトで終わらせなけりゃ浮かばれないだろうなって思ってただけだ」
 彼の赤い瞳は、ファラオの奥に何かの影を見ていた。
 ルナマリアは少しだけ驚いた。だがすぐに納得した。ああ、と思い至った。
 それ以上何も言わず、彼女も二機のガンダムを見やる。

「ガンダムファイトォォ!!」
「レでィぃィ!」
『ゴォォォ――――ッ!!』
 開始と同時にドラゴンは地を蹴った。
 砂煙がドラゴンの軌跡に舞い上がる。フレイはフラッグを下段に構え突進する。
 竜巻の中のファラオからレーザーが発射される。ドラゴンは瞬時にビームフラッグを展開、弾き飛ばす。
 衝突で光の粒子が散り、中のフレイの顔を束の間照らす。だがドラゴンは止まらない。
 突進し跳躍、燦と輝く太陽を背に、全身のばねを使い袈裟懸けに振り下ろした。
 風の壁を突き破り、伝わってくるのは破砕の感触。
 反作用を利用し、後ろへ跳ね飛ぶ。ファラオのレーザーがドラゴンの残像を貫く。
 着地したフレイはフラッグを構えたままファラオの破損部を見た。
 やはり今の僅かな間で修復され、元通りになってしまっていた。
 執念のなせる業か。だが。

「傷つけても再生するなら、全部消し去ってやるまでよ!」
 フレイはいつになく本気だった。敵国のファイターであるシン=アスカに見られていようと、奥の手を隠すつもりはなかった。
 背のフラッグの束を両の手に引き抜き、眼前に交差させる。
「宝華経典・十絶陣!」
 ざん、と両のフラッグを地に立てる。フラッグが地を走り、砂地を削り、煙を立てて竜巻を取り囲む。
 ビームフラッグを展開しても止まらない。二重三重にフラッグは不規則な軌道を描きファラオを翻弄する。
 フレイは後ろへ宙返り、竜は陽光の中を跳ぶ。着地と同時に右腕を突き出した。
 拳が引っ込み、溶けかけた竜の飾りの中に砲口が出現する。
「走れ! 宝貝ッ!!」
 竜が火炎を吐き出した。燃え盛る炎は猛烈な勢いで砂竜巻へ走り、回るビームフラッグに引火、
 更に勢いを増して襲いかかる。砂竜巻は一瞬にして紅蓮の柱と化し、中のファラオを焼き尽くさんとする。
 胡乱な洞で咆哮したように、死者の呻きが風を震わせる。
 数瞬の後、炎の渦が爆発。ジョージ=グレンの最期の声を消し去った。

『おお! フレイ殿、よくぞ!』
 サイとカズィは戒めを忘れ、歓喜の声を上げた。が、はっとして再び口を手で塞ぎ、互いを横目で見る。
 それでサイは気付いた。シンがいない。カズィの向こうにいたはずなのだが。
「やや、シン殿はいずこに?」
「何と?」
 カズィも振り向くが、やはり黒髪の少年の姿は見つけられない。ルナマリアの姿まで消えている。

 風に火の粉が散る。炎の渦は徐々に勢いを弱めている。
 赤い炎は風に煽られ、離れたドラゴンの巨躯を朱に照らし揺らめいている。
 コクピットの中で、フレイ自身も照らされる。呼吸が荒い。
 白いはずの頬は上気し、更に風に舞う炎を受けてうっすらと赤く染まっている。
 表情は徐々に険しさを失っていき、やるせなさを露わにする。
 ――所詮、私達は恨みを乗り越えることなんか出来ないのよ。
 息遣いが収まっていく。構えを解き、フレイは未だ燃え続ける炎を見つめた。
 揺れる炎に記憶の中の少年の顔が重なる。少女の如き中性的な風貌、絶望に彩られた表情、
 心の亀裂を顕すように大きく見開かれた紫の瞳。
 
 余りにも生々しい幻視だった。
 フレイは逃げるように強く目を閉じた。
「今更よ。もう終わってしまったんだから……」
 小さく自分に言い聞かせる。だが少年の幻影は残照のように瞼に焼けつき、消えてくれない。

『フレイ殿! まだ終わってはおりませぬ!』

 空を裂く音がした。
 はっと目を見開くフレイ。少年の幻影が今度こそ掻き消える。同時にドラゴンの右腕が何かに絡みつかれる。
 反射的に右腕を上げれば、絡まってきたのは包帯――ではなかった。細い蛇、いや蛇を模した鞭だった。
 もしやと思い、見てみれば、蛇は炎の中から伸びている。
 揺れる炎の中に黒い影が盛り上がる。何度も聞いた、あの呻き声が風を震わせる。
「う、嘘でしょ……?」
 戦慄が走る。確かに十絶陣はまともにファラオを捉えたはずだ。
 炎が消え、中の影が露わになった。包帯は完全に焼け落ちていた。
 ファラオは体中を焼け焦がせ、全身からしゅうしゅうと黒煙を上げていた。
 内部組織と配線は曝け出され、放電を繰り返している。頭部すら爆発をもろに受け、アイカメラの奥、
 人で言う眼球に等しい部分が剥き出しになっている。光は灯っていない。
 なのに機体表面に銀の鱗のようなものが浮き出たと思えば、見る間に増殖して盛り上がり、滑らかな装甲へと変わっていく。
 欠損部からはまるで触手か何かのように緑色の配線が湧き出し、互いに絡み合って組織を復元していく。
 断絶した通常の配線もまた、ずるりと音を立てて機体内から伸びる。無残に焦げた部分を自ら切り捨て、
 元のように、あるいは別の配線と繋がって新たな体を創り出していく。
 全く沈黙していたはずのファラオの双眸が、再び妖しく光った。血のように赤く濁っていた。
 ドラゴンに絡みついた蛇は、僅かに残った腕の装甲の隙間から伸びていた。
 それにすら緑色の触手が次々に絡みつき、また突き刺さり潜り込んでいく。
 鞭は軋んだ音を立てて内部から泡立つように膨れ上がり、いびつに変形しながら一層ドラゴンの腕を締め付けてくる。
 飾りのはずの蛇がまるで生きているように鎌首をもたげ、ぬらりと血の眼を開いた。
 嘲笑うかのように牙を剥き出し、威嚇音を発する。
 フレイは悲鳴を上げた。掛け値のない怖気と恐怖が少女を捕らえていた。
 ファラオは銀の鱗に覆われた足を動かす。立ち尽くすドラゴン目掛けて砂地を踏む。
 蛇はその身を大きくうねらせ、ドラゴンの胸部、即ちコクピットのフレイ目掛けて突撃する。

 ――しかし!

『パルマッ! フィオッ!! キィィィナァァァァァッ!!!』

 天から降ってきた光の掌がファラオの頭部を捉え、粉砕した!
 光を受けたファラオの体は連鎖的に爆発! 蛇もまたコクピットを突き破る寸前で身を仰け反らせ、断末魔と共に砕け散る!
 一瞬混乱したフレイだが、インパルスの背中が自分の前に着地するに至って、状況を理解した。
「お兄さん!?」
『どいていろ、フレイ!!』
 有無を言わさぬ怒号。通信もなく、インパルスも振り返りもしない。
「だ、だけどジョージ=グレンは……」
『あれはもうジョージじゃない。君の役目は終わったんだ!』
 直後、またもあの呻き声が上がる。インパルスの背中に遮られて見えないが、ファラオに何が起こっているかは想像がつく。
「どういうことよ!?」
『君は知らなくていい。知らない方がいい! ここから先はっ!』
 インパルスが太陽の如く黄金に光り輝いた。フレイは目を焼くような眩しさに思わず顔を背け、手を翳した。
『俺の、仕事だぁぁぁぁぁぁッ!!』
 一人の少年の咆哮が、輝きと共にインパルスの姿を変えていく。

 ずっとこれを待っていた。捜し求めてきた。

 死んだはずのジョージ=グレンと共にガンダムを何度も蘇らせる自己再生機能。

 ――間違いなく、デビルフリーダムの能力を受け継いだ奴だ!

 シンは目を瞑り、天へと咆哮した。自分の中で何かが軋み、爆ぜたのを感じた。
 インパルスの色彩は深い青から鮮烈な赤へ。コクピット内には真紅の稲妻がほどばしる。
 再び目を見開いたとき、世界の全てが変わってしまっているのをシンは知る。
 精彩を失った世界の中で、そいつの動きだけが鮮やかに感じ取れた。
 目の前で蠢く機械の塊。醜悪な化け物とも呼べるそれを、シンは怒りに満ちた鬼の如き形相で睨みつけた。
 憐憫はない。嫌悪もない。ただ許せざる敵であることだけが分かっていた。
 それで十分だった。

「俺のこの手が光って唸る! お前を倒せと輝き叫ぶぅ!!」
 
 両の手から自分の感情が溢れ出すのが分かる。実体となったそれを合わせ、シンはさらに吼える。
 怒りの具現である膨大なエネルギーは光の奔流となり、インパルスの全長を遥かに越える大剣となる!
 これぞインパルスガンダム・スーパーモード、最強にして最後の武器!

「喰らえ! 愛と、怒りと、悲しみのォ!!

 エ・ク・ス・カリバァァァァ!! ソォォォォォドッ!!!

 突き! 突き!! ツキィィィィィッ!!!」

 インパルスの光の剣は、またも再生しようとしていたファラオガンダムの頭部を貫いた。
 ほどばしるエネルギーがファラオの全身を駆け巡る。一瞬の後、蠢く機械の塊は内部から爆発、四散した。
 
 もうあの呻き声は上がらない。
「お、お兄さん……?」
 恐る恐るフレイは声をかけた。過去の亡霊よりも、今のシンの方が恐ろしく思えた。
 インパルスは振り向いてすらくれなかった。荒い息遣いが対外スピーカーから洩れていた。
 ファラオガンダムの残骸は過剰なエネルギーを受けてか、沈黙している。
 しかし、それにすらシンは容赦なく剣を振るった。
 剣は残骸に突き刺さる。骸は眩い光に呑み込まれ、空を舞う金色の雪へと姿を変えていく。
 シンの息遣いは徐々に鋭さを潜めていった。纏っていた怒気が鎮まっていく。機体色は赤から青へ。
 巨大な光の剣は消え、震えていた大気が穏やかさを取り戻す。
 ふと、インパルスがしゃがみこんだ。両手を砂に潜らせ、そっと何かを掬い上げる。
 それはジョージ=グレンのミイラの上半身だった。あの赤く濁った瞳は閉じられていた。
 胴体から下はなく、断面からは鋼の配線がだらしなく伸びていた。

 ――純粋な戦士の魂すら悪に変えてしまう。デビルフリーダムと接触すれば、死人ですらこうなる。
 シンは内心で呟くと、そっと光り輝く両手でミイラを握り締めた。
 ミイラは音もなく光の粒へと分解され、手を開けば静かに風に散っていった。
 砂漠に舞う黄金の雪は、傾きつつある陽光を浴びて柔らかに煌き、空に溶けていった。

 ルナマリアは少し離れた砂丘で、一部始終を見ていた。
 光の粒が自分を撫ぜていくのにも構わず、何を言うこともなく、シンの行動を見ていた。

『……あれもまた、キング・オブ・ハートか』
 サイとカズィは、感慨を込めて嘆息する。ふとドラゴンガンダムを見やれば、竜の機体は全く動かない。
 インパルスに顔を向けたまま、その場に立ち尽くしている。
 フレイはただ呆然とするしかなかったのだ。自分の思考回路の限界を超えていたし、
 何より、シン=アスカという少年が恐ろしくてたまらなかったから。
 
 だから、とうとう訊くことが出来なかったのだ。

 これはキラを捜していたことと何か関係があるのか、と。

次回予告!
「みんな、待たせたなっ!
 雨に煙るネオトルコの町で、ルナマリアはかつての師匠と再会する。
 だが恐ろしい事に、彼はデビルフリーダムの手先となっていた!
 果たしてルナマリアは、彼を悪魔の手から救い出す事が出来るのか!
 次回! 機動武闘伝ガンダムSEED DESTINY!
 『雨の再会… フォーリング・レイン』にぃ!
 レディィ…… ゴォォォ――――ッ!」

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撮影後

アビー「はいカット! OKでーす!」
タリア「なんとかなったわね…。それでは三人とも、以後よろしく」
バート「艦長、まさかとは思いますが、代役以外の自分たちの出番は…」
タリア「あるわけないでしょ」
三羽烏「orz」
シン「ヨウラン、み、水をくれ…」
ヨウラン「ミミズをくれ? 何言ってんだ」
シン「ベタなボケかましてんじゃねぇよっ!! お前らばっかり涼しいところで撮りやがってぇ!」
レイ「甘えるなシン! この程度で音を上げるとは何事か!」
シン「っ!?」
レイ「……と、師父がこの場にいたら言うだろうな」
シン「く…すみません遠い空の師匠…俺は…」
ハイネ「まーまー、とりあえず入れよ。クーラーのありがたみが身に染みるぜ」
フレイ「そういやドモンいないわね。どうしたの?」
ルナ「ヘタレにハッパかけに出張中よ」
フレイ「何それ」
ルナ「それより日焼け止め効いた? コーディ用だからナチュラルにどれだけ効果あるか自信ないんだけど」
フレイ「先に言ってよ! シミとか出来ちゃったら最悪じゃない!」
シュバルツ「心配はいらん。DG細胞が紫外線を吸収し、地肌を守るはずだ」
フレイ「そうなの?」
シュバルツ「うむ。でなければ私もマスク焼けを気にせねばならんからな」
フレイ「へえ…知らなかった。結構メリットあるのね、この体」
ルナ「……いいなぁDG細胞」
シュバルツ「使ってみるか、ルナマリア?」

その頃の東方不敗一行

メイリン「なんちゅうモン勧めてんだ覆面野郎ぉぉ――――っ!!
     ああぁぁぁお姉ちゃんお願い正気に戻って、それは悪魔の誘いよぉっ!!」
ドモン「ふ、さすがはメイリン、ヒマラヤのアイアンギアからエジプトのミネルバを察知するとは」
メイリン「こらアビー! アンタまで寄るな! 大体アンタ元から美白…って艦長まで喜んでないでぇぇ!!」
スティング「周りの俺らには何が起こってるかさっぱりなんだけどなー」
アウル「いつもいつも大変だよな…時間関係なくどこかに突っ込んで…それに加えて奴の世話までっ…!」
ドモン「(ポン)そうだった。アスランはどこにいる?」
スティング「あっちでまだ爺さんとやりあってるぜ。ほら」

  ドカーン… パラパラパラ… ズーン…

ドモン「あの音は! 超級覇王電影弾!? アスランめ、ヘタレていると聞いたが、ここまで習得したか!」
スティング「あいつがそうそう成長するタマかよ。大方また爺さんに殴られて…」

東方不敗「この馬鹿弟子がぁぁぁ!!」
アスラン「ぶわあおぉぉぉぉ~っ!? な、何故だ、やっと俺は電影弾を習得したんじゃなかったのか!?」
東方不敗「だぁからお前はアホなのだっ! 貴様の電影弾は見た目を似せただけの紛い物!
     見よ、貴様が破壊せんとした岩を!」
アスラン「はっ!? こ、これは…抉れていない! ちょっとヒビが入っているだけだ」
東方不敗「貴様はここに来た当初と何も変わっておらん。目先の悩みに囚われ、本来の目的を見失う…」
アスラン「目先の悩み…本来の目的…」
東方不敗「明日もう一度、わしの前で電影弾を撃ってみせい!
     そのときまたこのような電影弾もどきを撃ったならば、貴様は破門だ!」
アスラン「!!!」
東方不敗「今日はここまでだ。一晩よぉく考えることだな!」

夕食時
アスラン「…………」
メイリン「アスランさん、どうしたんですか? ゴハン冷めちゃいますよ」
アスラン「メイリン…俺には何が足りないんだ…」
メイリン「えっ」
アウル「そりゃあれだ。人望とか主体性とか責任感とか実力とか」
アスラン「…………」
アウル「少なくともさぁ、メイリンに甘えてる時点でダメだろ」
アスラン「…………orz」
アウル「アンタのせいでメイリンがどれだけ苦労してるか、考えたことあるのかよ?」
メイリン「そ、そんなことないですよ! アスランさん凄く強くなってますし、私は苦労なんて…! 」
アスラン「いや、いいんだメイリン。ごちそうさま…」

メイリン「アスランさん…」
アウル「なんだよ、アイツ」
スティング「おいアウル、嫉妬はみっともないぜ」
アウル「な! だ、だってホントのことだろ!」

アスラン「確かにここに来てから、俺は強くなった…。
     修行も最初はジェネシスで焼かれた方が何千倍もマシだろうって思ってたが、
     慣れてくればジャスティスの自爆くらいのレベルだと思えるようになってきた。
     ラクスやキラのお願いを叶えているときの方がキツいんじゃないかってほどに…。
     思えばゴハンも三食ちゃんと食べられて、睡眠時間も取れて、申し訳ないくらい規則正しい
     生活してるんだ、体がしっかりしてきたのも自分で分かる。
     そうだ、鍛えられてるはずなんだ…第十二話の最低条件である電影弾も、撃てるようになった…
     そのはずなのに! 充分に気合は込めているはずなのに…何故…!」

ドモン「悩んでいるようだな、アスラン」
アスラン「! ドモンさん…監督から俺を審査するよう言われてきたんですか」
ドモン「うむ。だが無用な心配だったようだ」
アスラン「やめてください。俺は…明日で破門になってしまうんです」
ドモン「ほう?」
アスラン「俺の電影弾は紛い物なんです。岩一つ粉砕することが出来ない…
     俺が目先の悩みに囚われ、本来の目的を見失っているかららしいんですが、
     まだそれが何なのか分からないんです。明日までに掴むことが出来なければ、俺は…!」
ドモン「ふむ。アスラン、今ここで撃ってみせろ。実物を見ないことには何とも言えん」
アスラン「はい! 超級! 覇王! 電影弾ーっ!!」

  ドカーン… パラパラパラ…

アスラン「やはり、ヒビが入るだけか…」
ドモン「……なるほどな」
アスラン「分かったんですか!? 俺の何がいけないのか!」
ドモン「ああ。お前は確かに悩みに囚われている」
アスラン「それは一体!?」
ドモン「超級覇王電影弾という技の特性を考えてみろ。俺が言えるのはそれだけだ。これ以上は
    お前自身で見つけなければならん」
アスラン「そんな…」
ドモン「俺はそろそろ帰らせてもらう。と、その前にこれを渡しておこう」
アスラン「……ビデオレター?」
ドモン「アイアンギアーの設備ならば見れるだろう。ではさらばだ。新宿で待っているぞ」
アスラン「…………」

アイアンギアー・一室
アスラン「励ましの言葉とかかな…。はは、それじゃ小学校の寄せ書きみたいじゃないか。
     応援されてるならやるしかない…やるしかないけど、俺は明日には…」

           【再生】

ドモン『そらそらそらそらぁ! どうしたどうしたぁぁ!!』
シン『ぐっはぁぁぁぁ!?』

アスラン「シン!? ということは、これはまさかあいつの修行風景!?」

ドモン『どうした! もう終わりか! お前の根性など所詮こんなものか!』
シン『ま…まだ、まだだぁっ! 行くぞ師匠…いや、ドモン=カッシュ!!』
ドモン『来い、シン!!』
シン『俺のこの手が真っ赤に燃える!』
ドモン『勝利を掴めと轟き叫ぶぅ!!』
シン『ばぁくねつ!』
ドモン『ゴッド!』
シン『パルマ! フィオ!!』
ドモン『フィンガァァァァァァ――――ッ!!』
シン『キィィィナァァァァァァッ!!』

アスラン「超級神威掌同士が激突した! こ、これはまるで第二十一話の…!」

ドモン『どうしたシン! お前の力はそこまでか! 大口を叩いた割にこの程度で終わるのか!』
シン『ぐっ…くうぅ…!』
ドモン『お前は主人公になるのではなかったのか! 役柄だけの主人公ではない、真の主人公に!!
    この程度で膝をつくようでは、主人公はおろか端役にもなれんぞこの馬鹿弟子がぁッ!!』
シン『う…うるさいっ! 今日こそ俺は、アンタを越えてみせるぅ…っ!!
   そして名実共に主人公の座を手にしてやるんだぁぁぁ!!』
ドモン『その気迫や良し! ならば行くぞっ!』
シン『応っ!!』
両者『ヒィィィィィト! エンドォッ!!』

  ドオォォォォン…… ドサッ

ドモン『よくやった…と言いたいところだが、まだまだだな、シン』
シン『くっ…さすがはキング・オブ・ハート…! だがぁっ!!』
ドモン『む!?』
シン『この程度でくたばっててたまるか…
   今頃は師匠の師匠役の馬鹿ピンクもシュバルツ役のカナードさんも相当しごかれてるはずなんだ…!
   俺が休んでる分、あの二人はもっと先に行ってるんだ!!』
ドモン『馬鹿ピンクだと? そうか、まだお前は知らないんだな』
シン『え?』
ドモン『当初の役柄は大幅に変更されている。師匠を演じるのはラクス=クラインではない』
シン『な!? じ、じゃあ誰が…』
ドモン『アスランだ』
シン『!! あの凸が…東方不敗マスター・アジア…!?』
ドモン『どうしたシン、アスランが最大のライバルポジションと聞いて気が抜けたか?』
シン『……いえ。つまりそれは、少なくとも撮影中は覚醒アスランが出てくるということですよね』
ドモン『うむ』
シン『だったら尚更です! 俺はいつかヘタレてないアスランを倒してみせると胸に誓ったんです!
   覚醒したあの人が来るなら、今回こそ勝ってみせる!』
ドモン『ふっ…ならば良し! もう一セット行くぞ!』
シン『はい、師匠!』
ドモン『超級ゥ!』
シン『覇王ォ!』
両者『電・影・だぁぁぁぁぁぁん!!!』

アスラン「…………」
メイリン「あ、こんなところにいた! アスランさん、そろそろリアップの時間ですよ」
アスラン「…………」
メイリン「アスランさん?」
アスラン「リアップ…俺の髪…」
メイリン「そうですよ。それじゃ頭失礼しますねー」
アスラン「メイリン、すまない。気遣いはありがたいが、そんなことしてる暇はないんだ」
メイリン「え!?」

メイリン「行っちゃった…アスランさんがリアップタイムを『そんなこと』呼ばわりするなんて…」
ドモン「メイリン、しばらく育毛剤は封印しておけ」
メイリン「ドモンさん!? もうミネルバに帰ったんじゃ」
ドモン「少々興味があってな。奴がどれほど化けるのか」

アスラン「自分の悩みに囚われて、目的を見失う…
     だが、もうそんなこと言ってる場合じゃない!」

メイリン「あ、アスランさんが鶴みたいな構えを! あれはまさしく!」
ドモン「うむ、流派東方不敗が奥義の一つ!」

アスラン「超級! 覇王ッ! 電・影・だぁぁぁぁぁん!!」

  ドカァァァァァン……

アウル「うおあっ!?」
スティング「なんだぁ!? 地震かよ!?」
東方不敗「ふ…あの馬鹿弟子め、掴んだな」

アスラン「はあ、はあ、……やはりそうだ!
     超級覇王電影弾は気の弾丸であると同時に頭から突撃する技でもある…
     なのに俺は髪を気にする余り、無意識に頭皮を庇ってしまっていた!
     それじゃあ勢いは死ぬしエネルギーも集中させられるわけがない!
     『悩みに囚われている』とは、このことだったんだ…! だが、そうと分かれば!」

  ドカァァァァァン… ドォォォォン… ドゴォォォォォン…

メイリン「アスランさんが血涙流して電影弾を撃ってる…ってドモンさん、そのビデオカメラは一体」
ドモン「何、馬鹿弟子に土産をと思ってな」

アスラン「許せ…許せ俺の髪ッ!!
     待ってろよ、シン! 俺は必ず新宿に行ってみせるからな!」