00-seed_灰の雪が降る世界_02

Last-modified: 2009-01-24 (土) 18:42:22
 

機動戦士ガンダムSEED 灰の雪が降る世界
第2話

 
 

「……そうか、アラスカで…。わかってる」

 

 ガチャンと音を立てて、豪奢な電話機に受話器を叩きつける白髪の男、アスラン・ザラ。
 頭髪の後退はほとんどしてないが、ストレスの為白髪になってしまった為に、老人のようにも見える。
 この時勢に電話機を使うあたり、ストレスを少しでも無くしたいのだろう。

 

「またか……私はラクスになんと報告すれば良いのだ……」

 

 『また』……
 旧モルゲンレーテ製コアシステム実験機・通称月影(ツキカゲ)。
 それを奪取し、地球圏統一連合国に対し一個人で戦いを続ける男がいた。
 アスランのZAFT時代の部下、シン・アスカである。
 彼は、戦争犯罪者であり歪んだ思想の持ち主『カガリ・ユラ・アスハ』の洗脳を受け、今なお各地のゲリラと共に連合へ楯突くいわば『不穏分子』である。

 

「ばかやろう……」
「ザラ閣下。会議のお時間です」
「……今行く。先に始めていてくれ」

 

 会議、と言っても中身は経済状況や国内状勢の報告だ。
 その上最初にはラクス・クラインや自分に媚びへつらう内容の世辞が飛ぶのだ。
 鬱屈とした気持ちの中、アスランは部屋を出る。

 

「シンもなかなかやるものね。これで45箇所目…コアシステムの中枢…ツキカゲだけで良くもまぁ」

 

 ハンディディスプレイに映し出されるのは、アラスカのマイクロ波受信装置。
 それを黒い機体が完全に破壊している姿だ。
 赤髪の秘書、ルナマリア・ホークは扉を見つめつつ、今し方出て行った人物へ憐れみの言葉を投げかける。

 

「ねぇ?アスラン・ザラ」

 

 

~アラスカ~

 

 シン・アスカがツキカゲを修理していたその頃、彼とは違う場所で男が女へ問いかけていた。

 

「レイ・ザ・バレル。お前は何者だ? なぜ『エクシア』について知っている?」
「正確には、この世界の『歪み』についてだな」
「エクシアの件は感謝する。が、これとそれとは話が別だ。答えろ。貴様は何者だ?」

 

 男はレイに向け銃を構える。
 口調も命令口調になる。
 が、レイは動じない。

 

「私を撃つか?」

 

 レイに向けられた銃に力が入る。
 男がトリガーに指をかけた時、

 

「そこまでだよ、刹那。彼女は敵じゃない」
「アレルヤ・ハプティズム……無事だったのか……?」
「助かったぞ、アレルヤ。いくら私でも撃たれれば痛い。それに私も一応は女だ。出来れば傷痕を残したくはない」

 

 まるで気にした風を見せずにレイは男――刹那・F・セイエイから目を離す。
 その目は刹那の後ろのドアから入って来た長髪の青年を見つめている。

 

「……の割に、女性らしさは感じられないけどね」

 

 アレルヤは彼女と親しいのだろう。
 呆れたようなジェスチャーを見せ窓から外を眺める。
 レイは刹那に目を戻す。
 刹那は銃を片手に目をそらす。
 まるで叱られた子供のように。

 

「……」
「刹那・F・セイエイ。君とエクシアの力が必要なのだ。私に協力してほしい」
「……俺はガンダムではない」
「今すぐにとは言わない。だがいつか君のガンダムの力が必要になる。だから……」

 

 刹那はレイを見つめ、一瞬だが困った子供のような顔をした。

 

「……保証は出来ない。俺はソレスタル・ビーイングのガンダムマイスター、刹那・F・セイエイだ。お前が紛争を広げるつもりなら……」

 

 そこまで聞いたレイは、見た者全てを魅了するような笑顔を見せる。

 

「……な」
「どうした?」
「お前は……卑怯だ」
「……どういう」

 

 これ以上話すことは無いといいたげに刹那は部屋を出て行く。
 このアラスカの施設において、いや、彼女と一緒に行動している刹那の居場所は限られている。
 すなわち、誰も居ない場所だ。

 
 

 刹那はレイと出会った時のことを思い出す。
 彼は四年前、ソレスタル・ビーイングとして、ガンダムエクシアのマイスターとして……紛争根絶を目指し武力介入を行っていた。
 そしてその最中、敗れ、死をも覚悟したはずなのに。

 

 何故?

 

 気がつけば、刹那は宇宙の『プラント』と呼ばれる場所で、『コーディネイター』と呼ばれる人たちに混ざりながらエクシアを直しつつ生活をしていたのだ。
 彼にはプラントもコーディネーターも聞いたことの無いものだ。
 しかし自分はその存在を認め、知りもしない世界の歴史を知っている…
 そんなとき、彼女が現れたのだ。

 

「刹那・F・セイエイ。君の『神』は何処にいる?」

 

 レイ・ザ・バレル。
 彼女はただ一人エクシアについて知っており又、刹那の過去の記憶の世界も知っていた。
 そして気がついた時には彼女と共に地球へ降り、今はアラスカに来ている……

 

「アレルヤは何も感じないのか?他のマイスター達は……」

 

 一人外をにらみつける刹那。
 異常だ。
 だが誰一人気づいていない。
 そこが異常なのだ。

 
 

「この世界は……歪んでいる……」

 

 

~オーブ~

 

「あぁ、そうだ。『アロウズ』とでもしよう。『世界の法』たる者たち・アロウズだ」
『素晴らしいですわ、アスラン。して、その概要は?』
「全ての国家からラクス、君に対して忠誠心の有る者や、高い戦闘力を持つ者、その他、色々な背景や思想の審査を行い集める。詳細はルナマリアに送らせる」

 

 オーブ中枢会議室。
 何度となく壊滅的な被害を受けたオーブに対しアスランが作り上げた。
 非常に強固な地下司令室兼会議室となっているこの場所で、アスランはプラント最高評議会議長ラクス・クラインと共に、地球に残るゲリラ達を完全に掃討する為の組織について会議を行っていた。

 

『わかりました。例の装置は私の方で手配しておきましょう』
「すまない、ラクス。では又連絡しよう」

 

 アスランはディスプレイを切る。
 心なしか緊張が解けたようにも見えるのは歌姫の圧力か……

 

「私が提供したGN-X(ジンクス)だけではいささか心許ない、と?」
「アレハンドロ・コーナー……確かに疑似太陽炉の性能は素晴らしいが、全世界にいるゲリラを根絶やしにするにはまだまだ数が足りないのです」
「だから宇宙の大規模製造工場で量産する、と」
「平たく言えば」

 

 アスランは『GNドライブ-T(タウ)』なる新型ジェネレーターの提供者を見やる。

 

「それはまぁ構いませんがね。それよりも…そのアロウズとやらに何名か推薦したい者がおりまして……」
「いいでしょう」

 

 アスランは、またコイツの相手をしなければならないのか、と心の中で呟いた。

 

 

~タクラマカン砂漠~

 

「……すまない。ヴァーチェの外装はどうだろうか?」
「……って、そりゃあ敵さんのビームを直撃させた奴の言う言葉じゃありやせんぜ」
「うっ……すまない。許してもらえないだろうか……」

 

 申し訳ない、と自分の親ほどもありそうな整備長に頭を下げるヴァーチェのパイロット。
 先のスローネ3機に辛くも勝利を収めたが、代償にヴァーチェの外装を取られ、更にスローネの破壊までは至らなかった。
 ガンダム三機を相手に勝ちを取ったのは非常に幸運であったのだが、問題があった。
 機材と資材の少なさだ。
 ついでに言うならば、彼はこの整備長が少し苦手なのだ。
 悪い人物ではないのだが、つかみ所がないというか、要はいつも彼をからかうのだった。

 

 彼らは現在、新造艦『ファヌエル』を根城に活動している。
 MSハンガーには外装を失ったヴァーチェ……つまりガンダムナドレが単機で格納され、傍らには消し炭となったヴァーチェの外装が鎮座している。

 

「マードックさん?」
「い!?スメラギ艦長さん?」
「ティエリアで遊ばないでいただけますか?」

 

 その消し炭をみてため息をついていた整備長――コジロー・マードックだが、後ろから現れた女性に一瞬だが驚く。

 

「はっ!?まさかまた、私はかつがれたのか!?」

 

 思わずあの台詞を言いそうになったパイロットだった。

 

「ヴァーチェの外装は消し炭だけど、スペアぐらい有るわよ?」
「そんな……私はてっきり無いものだと……」

 

 そういい若干うなだれるパイロット――ティエリア・アーデをみて、ファヌエル艦長・スメラギ・李・ノリエガは変わったな、と思う。
 以前なら謝りに行くことすら考えなかっただろうに、時と仲間はティエリアにとって良い影響を与えたのだろうか。
 その時、携帯端末へ通信が入る。

 

『スメラギさん。アークエンジェルのフラガ艦長より入電です。至急ブリッジへお願いします』
「分かったわ。所で、ノイマン君はビールとワインどっちが好きかしら?」
『僕はアルコールは飲みませんよ……』
「いけずねぇ」

 

 スメラギは通話を切り、マードックへ声をかける。

 

「ちょっと用事が出来たみたいなんで、宴会はまた今度ね」
「ま、仕方ねぇでさぁ。なんならAAのクルーも一緒に誘えばいいですぜ。あそこは艦長や奥方もザルみたいなもんですから」

 

 昔の上官を思い出しマードックはガハハハと笑う。
 それを見てスメラギもまたニヤリと笑い、ブリッジへ戻ってゆく。

 
 

 ティエリア・アーデが今居る場所。
 それはソレスタル・ビーイングだ。
 ただしそれは『元の世界』のではなく、この世界――『コズミック・イラ』のである。
 この故意に歪められた世界を破壊するために、ティエリアはソレスタル・ビーイングを作り上げた。
 幸い、スメラギや他のクルーはすぐに見つかり、又、全てを話せはしないが頼もしい仲間たちも出来た。
 後はマイスター達だけである。

 
 

 ……そして、『あの組織』が結成された……

 

 

《……我々は混沌とした世界に秩序をもたらす者たち・アロウズである!!》

 
 

『……だそうだ。やってくれたぜ。全くよ』
「元々テロリストみたいな私達ですものね」
『あのピンクのお姫さんも本腰って事なんだろうな。戦術予報士さんはどう思うよ?』

 

 モニターに映し出される金髪の男性、ムウ・ラ・フラガ。
 先ほどの通信を聞きに来たスメラギは軽くため息をつく。

 

「今はマイスターも居ないし、戦力不足は否めないわね。かと言って……このままじゃあねぇ……」
『なぁ。例のアラスカの件だが、行ってみないか?コンタクトをとるだけでも良い。このままじゃジリ貧だぜ?』
「フラガ艦長…そうね。私も気にはなっていましたし、一か八かコンタクトをとってみます」

 

 アラスカの件。
 5日前、ファヌエルにある人物から通信が送られて来たのだ。
 送り主は…『レイ・ザ・バレル』。
 内容はガンダムマイスター二人の保護と資金援助、更にはファヌエルへの物資補給を行いたいとの事なのだ。
 スメラギから相談を受けたムウと『レイ・ザ・バレル』が浅からぬ因縁を持っていたこともあり、最初は全く相手にしてなかったが、今となっては非常にありがたい話ではある。
 計算すればもらった日に指定ポイントに向かっていれば、この声明時にこちらもソレスタル・ビーイングの声明を出せたのだから……

 

「こればかりはね。仕方ないわ」

 
 

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