00-seed_灰の雪が降る世界_01

Last-modified: 2009-01-24 (土) 16:23:03
 

機動戦士ガンダムSEED 灰の雪が降る世界
第1話

 
 

「灰ってのは雪に似ているよな」

 

 シン・アスカは誰に言うでもなく呟き灰色の空を見つめていた。
 傍らの少年は聞いているのか、無心に彼の機体、そのアクチュエーターを取り外している。

 

「ダメだ。左足のアクチュエーターはやっぱ死んでるよ……コレじゃ右足のサーボもご愁傷様かも」

 

 ……まだ10歳に満たないような子供である。
 それが元モルゲンレーテ製の実験機・ツキカゲ(月影)をいじっている。
 少年の名はアレックス。
 彼は…孤児だ。

 

「なぁ。子供なら子供らしく雪ではしゃいだりしろよ」

 

 頬を機械油で汚した少年にシンは投げやりに話し掛ける。

 

「シンがツキカゲの足を潰してなけりゃ、ちょっとははしゃぐよ…」
「悪かったな、ヘタクソで!」

 

 あからさまな嫌味にカチンとくるあたり子供だなと思いう。
 だが言いたくもなるだろう。
 コイツの維持費は馬鹿にならない。

 

「…ゴメン」
「……なんだよ。俺が悪いみたいだろ」

 

 シュンとするアレックス。

 

「ところでさぁ。バレル…さん?だっけ。美人だった?」
「お前…スレたガキだな。つか女だって教えてないはずだ……」

 

 アレックスの言葉に驚きつつ、シンは苦い顔で旧友を思い出す。

 

「だって、切手の裏に口紅があったし、シンがそわそわしながらスーツを着てたなんて悪夢か、昔の恋人か!?……で美人?」

 

 このガキ……と言う言葉を飲み込み、シンは灰色の空を見つめる。

 

「あぁ!美人だよ!!ほれ」
「え?マジ?」

 

 再会した時に仕掛けておいた隠しカメラで撮った写真を、アレックスにほうる。
 写真には20代半ばのプラチナブロンドの『美女』が写っていた。
 目鼻立ちは整い、切れ長の目、唇が薄めだがそれが彼女の知的さを際だたせる。
 そして何より死んだ旧友レイ・ザ・バレルに瓜二つだった。

 

「ありえねー!なんでこんな美女がシンに?つうか!シン、どこで知り合ったんだよ!?」
「それが知らねーんだよ」

 

 ガリガリと頭をかきむしり、シンはアレックスから写真をひったくる。

 

「……レイはな。俺のダチだったレイは『男』だった。 だがコイツは『女』なんだ。それだけじゃない、レイは死んだはずなんだ」
「……双子の妹とか?」
「違うな。クソッタレ!なんなんだよ……あいつは」

 

 シンは苛立ちを隠さずに吐き捨てた。

 

 

~同時刻 タクラマカン砂漠~

 

「チィ!」
「オラー!!滅・殺!!」
「ウザイ…」
「タラタラしてんじゃねーよ!!」

 

 太陽が照りつける中、ビームが煌めき大地がはぜる。
 灼熱の大地の上、4体のMSが激しい攻防を繰り広げている。
 赤、黒、オレンジの機体が、白い機体をなぶるような構図である。
 白い機体・ガンダムヴァーチェのパイロットは苦々しく3機の『ガンダム』を見つめる。

 

「スローネ…なるほど、こちら側の世界で改修を受けたのか……だが、マイスターたる私が遅れを取るわけにはいかん!!」
「ハァ?なに頑張ってんの?」

 

 深紅の粒子を撒き散らしながら赤い機体・スローネドライが猛撃を行う。
 微妙にタイミングをずらしたビームは、その全てがヴァーチェが発するバリアのようなもので無効化される。

 

「オラー!!瞬殺しろ!!ファング!!」

 

 オレンジの機体・スローネツヴァイの腰から無数に放たれる小型砲台。
 ヴァーチェのパイロットはそれを目で追うのをやめ、機体に握られた武装を胸部に接続する。

 

「殺れよ!!ファング!!」
「GNバズーカ、解放」

 

 一斉に襲いくる砲台に対し、ヴァーチェは接続した武装を発射。
 器用に機体を回転させ撃墜する。

 

「クロト!!てめぇも死ねや!!」
「クッ!」

 

 見ればツヴァイの後方に黒い機体・スローネアインが控えており、背中の大型ビーム砲をこちらに向けている。
 射線上に僚機がいるにもかかわらずだ。

 

「GNメガランチャーか!?」

 

 同士討ちを恐れない、連携と呼ぶにはあまりにもかかわらずデタラメで完璧なタイミング。
 一瞬の動揺が回避のタイミングを逃した。

 

 高出力のビームがヴァーチェを襲う。
 パイロットは薄く笑い、機体に取り付けられた『切り札』を解放する。

 

「南無三!!……トランザム!!」

 

 ビームがヴァーチェを直撃する。
 爆発。
 しかし、緑色の粒子は見当たらない。
 異変にいち早く気付いたのはクロトと呼ばれたツヴァイのパイロットだ。
 爆発の中、凄まじいスピードでアインへと飛びかかる『何か』を見た。
 次に気付いたのは、ドライのパイロット。
 『何か』がアインを蹴り飛ばした瞬間に、その動きを止めたからだ。

 

 女。

 

「は?」
「そんな腕で、この私に勝てるものか!!」

 

 深紅の『女』がドライの右腕を斬り捨てる。
 そして三機のガンダムへ宣言をする。

 

「ナドレ。ガンダムスローネを破壊する」

 

 

~更に同時刻 宇宙~

 

「すまねぇな。本当に何にもおぼえてねぇんだ……」
「気にすんなって!!俺は宇宙一のジャンク屋だ。記憶だって治してやるよ!!」

 

 ジャンク屋ロウ・ギュールは、大破したMSで漂流していた男と話していた。
 かなり長い間漂流していたのだろう、男は酸素欠乏症となってしまっていたがすんでの所で一命を取り留めたのだった。

 

「……でも、どうやって治すのよ?」
「ソイツはこれから考える。所で、アンタの名前なんだが、『デュナメス』ってのはどうだ?」

 

 『デュナメス』とは彼の乗っていた緑色のMSに刻まれた文字だ。
 多分機体名だろうが、名無しの権兵衛よりかはマシだろう。

 

「ついでに自己紹介だ。俺の名前はロウ・ギュール。宇宙一のジャンク屋だ!!」
「私は山吹樹里。よろしくね」
「『デュナメス』か……悪くないな。よろしく頼むぜ。ロウ、ミス・ヤマブキ」

 

 彼の記憶の中のヴィジョンがそうさせるのか、立ち上がり握手をしようとする『デュナメス』。

 

「……って、まだ動いちゃダメよ!」
「そうだぜ。今はゆっくり体を休めてくれ。記憶以外にもアンタはボロボロなんだからな」
「わりぃ」

 
 

 【戻る】 【次】