BRAVE-SEED_勇者戦艦ジェイアスカ_第04話

Last-modified: 2010-11-26 (金) 15:29:12
 

 ────二年前。
 遥か宇宙の彼方より、ついに地球圏へ到来したパスダー。だがそれを迎え撃つべく
地球から白亜の超弩級戦艦が浮上する。紅白に塗り分けられた艦体に猛禽を模した面構え。
これこそが、我らが戦士ソルダートJの操るジェイアーク級31番艦ジェイキャリバーだ。
 ここで先遣隊たるパスダーを殲滅すれば、地球の機界昇華は大幅に立ち遅れるだろう。
 いかに優れた兵器があろうとも、GストーンやJジュエルを持たぬ地球の科学技術は
機界昇華に抗うには脆すぎる。未来のためにも、なんとしても地球の外で食い止めなければならない。
 ジェイキャリバーを操るソルダートJは、彼の両親になるはずだったアスカ夫妻と、
彼等に託してきたアルマを想いながら、相棒のトモロへと号令を掛ける。
「ESミサイル発射準備、反中間子砲全砲門開け!
 ────この一戦で奴等を殲滅する!!」
《────捉えたぞ、J!》「撃ぇ!!」
 恒星間航行形態をとっている目標はこちらを上回る巨体だ。しかし万全の艦体と頭脳と、
それを操る戦士という三本の矢が揃ったジェイアーク級が、これを上回る原種を倒すために造られた無敵の艦が、
この程度の相手に負けるはずが無い。
 放たれたESミサイルがバリアーを素通りして動力部を粉砕し、誘爆を引き起こす。
 すかさず矢継ぎ早に射掛けられる反粒子の雨が次々に装甲を穿ち、対消滅に伴って生じる爆発が、
巨大で強固なそれを紙のように引き裂き、容易く打ち砕いてゆく。
 虫の息のパスダーが悪足掻きのように反撃に転じ、ジェイキャリバーへレーザーを放った。
しかし狙いもデタラメなそれは、装甲を掠めることも無く虚無の宇宙空間を通り過ぎてゆく。
 しかし、その先に在る物に気付いたトモロが警告を発し、Jは顔色を変えた。
《後方に宇宙ステーションの存在を確認、先程の攻撃で損壊した模様》
「────!?」
 周りに被害を出してしまったことで一瞬注意が逸らされる。だがそれだけで
逃亡を図るパスダーには充分だった。
 損傷した部分を躊躇うことなく切り捨て、中枢部のみが大気圏へ突入する。
切り捨てられた船体は盛大に爆発し、こちらの目をくらました。
「────クソッ!!」
 討ち漏らしたことに歯噛みするJは拳を叩きつけ、不甲斐無くも心を揺らしてしまった
己の未熟さを深く悔やんだ。パスダーは地上へ降下しており既に追撃は不可能と見て、
ジェイキャリバーは被害にあったステーションの救援へ向かう。
 そのステーションの名は「アメノミハシラ」オーブが保有する宇宙での一大拠点だった。

 
 

勇者戦艦ジェイアスカ No.04『銀と金』

 
 

『────怪ロボット、ゾンダーによって破壊されたハウメア地熱発電所は、
 キングジェイダーとオーブ軍の手によって無事修復されました。ですがオーブの危機を
 たびたび救ってくれた彼は、一体何者なのでしょうか?』
 TV画面の向こうでは、バスを救い出すキングジェイダーや空を舞うジェイダーの姿など、
これまでの戦いで撮影された映像を交えながら女性キャスターが戦闘の顛末を語っている。
「キングジェイダーか……どこの誰が造ったか知らないが、大したもんだな」
「いってきまーす!」
 元気良く家を飛び出してゆくマユ。いつもどおりの微笑ましい光景だったが、
ニュースを見ながら髭を剃っていた彼女の父ケンは、ジェイダーの姿を見て危うく
シェーバーを取り落としそうになった。
「マ、マユコ! ニュース見ろ、ニュース!!」
「どうしたのよ────これって……あのときの」
 TVに映っていたのは、ジェイダーがかつて夫妻の前に姿を現した宇宙船、
ジェイバードへと姿を変える瞬間だった。
 一方、モルゲンレーテの地下秘密工場では国防を担う主力MS、M1アストレイが続々と生産されていた。
軽量な発泡金属を使用したことで得た高い運動性、ビーム兵器の実用化による高火力、
さらにはオプションの換装による拡張性と、ザフトのジン、連合のダガーを上回る性能を持つ高性能機である。
「後の問題は兵の練度だけだな」
 性能は申し分ないのだが。とシミュレータ内のゾンダーを模した仮想データ相手に
悪戦苦闘している兵士たちを見、黒髪の美丈夫ロンド・ギナ・サハクはつぶやいた。
「ですがパイロットたちも無能ではありませんし、学習型コンピュータを始め
 こちらのOSの完成度は他国の追随を許しておりません。
 すぐにでもコツを飲み込んでくれることでしょう」
「それまでに間に合えばいいのだがな……ときにシモンズよ、アレのほうはどうなっている?」
「つい先日、上から届きました。機体は万全、あとは出番を待つのみだと」
 自らの配下でもあるM1アストレイ開発主任、エリカ・シモンズの答えに気を良くしながら、
ロンド・ギナはほくそ笑んだ。

 

「俺の機体のほうがコストパフォーマンス抜群で、装甲もパワーも上なのに……
 どうして上はわかってくれないんだ! オーブに一番必要なのは、外敵を水際で食い止められる
 海軍戦力なんだぞ!!」
 モルゲンレーテに勤務していたMS技師オリベは、次期主力量産機の開発コンペで
エリカ・シモンズのM1アストレイに敗北を喫して以来、自宅にこもり酒浸りの日々を送っていた。
 やれ不恰好、やれ古臭いとでも言いたげな、若い頃企画を提出するたびに上司から向けられた視線。
アイディアを没にされるたびに向けられる同僚たちの有形無形の嘲笑。
大半はネガティブな思考が生み出した思い込みだが、どん底の本人にとっては全て明確な真実であったそれらが、
安酒の酩酊感と一体となって彼の精神に纏わり付き、その不快感を払底するためにますます酒を煽らせる。
「────なら私が願いを叶えてあげましょう」
「ヒック……お? こりゃまたキレーなねーちゃんだ……
 そうだな、なら俺のMSで馬鹿にしてた連中をコテンパンにして、アストレイとかいう案山子をぶっ壊して、
 シモンズに一泡拭かせてやりたいな! アハハハハハ……」
 なればこそ、不意に耳を打った女の声も悪酔いによる幻覚か夢だとばかり決め付けて、
いささかの恐怖も抱かずにその心を開いてしまう。
「さあ! 夢を現実の物とし、存分にその力を示すのです!!」
 真紅のドレスに身を包んだ美女、ポリトイーヌはそう言って彼の額にゾンダーメタルを押し付ける。
「あああああああAAAAAAAAAHHHHHHHHH!!」
 ゾンダーメタルに取り込まれたオリベは憎しみの命ずるがままに、全身から触手を伸ばして
手当たり次第に周囲の物質を取り込み、ゾンダーの肉体へと造り替えてゆく。
 自らは工場の如き姿のゾンダーとなったオリベによって、続々と生み出されてゆく鋼の軍団は、
足並みをそろえ行く手を遮るものを容赦なく薙ぎ払い、一心不乱に目的地を目指した。
自らを認めなかった職場、モルゲンレーテを────

 

□□□□

 

「いったぞー! マサヒロ!!」
「────シモンズ、パス!!」
「よっしゃー!!」
 昼休みに校庭でサッカーに興じる子供たち。マークされたマサヒロは、
咄嗟に敵軍の隙間を縫ってリュウタへとボールを渡し、見事チームを勝利へ導いた。
「なんだか意外。いつものマサヒロだったら強引に抜け出して、一人でゴール決めてるとこよね?」
「うん、それになんだか最近やさしくなったよね」
 あのときの一件以来、マサヒロからガキ大将的な様子はすっかり鳴りを潜め、
今ではナチュラルの子供相手でも見下したりせず、平等に接するようになっていた。
 そうなってみると現金なもので、彼にあまりいい感情を抱いていなかった女子たちも、
運動神経抜群なことも相まって、次第にマサヒロへ黄色い歓声を送るようになっていった。
 そんななか、マユの背筋に走るあの嫌な感覚。
「────ゾンダー!」
 敵の存在を察知した彼女は、即座にジェイダーブレスのスイッチを入れた。
 通信を受け、海原を割って空中へ躍り上がるジェイキャリバーはメインエンジンである
メガインパルスドライブを最大出力で噴かし、残像も残さぬほどの急加速で目標を目指す。
「ゾンダーの狙いはモルゲンレーテか、だがこの数はただ事じゃないぞ!」
 スクリーンには敵機を示す光点が無数に表示され、じわじわと目的地を囲む輪を狭めている。
その数に、Jに迎え入れられたマユは不安げな瞳を彼へ向けた。
 Jは無言で微笑み、そんな心配は無用だとでも言うように彼女の頭をワシワシと撫でる。
たったそれだけで、マユの心に暖かいものが満ち、不思議と不安がやわらいでゆくのを感じた。
『プラントを潰されたばかりでこれだけのゾンダーメタルを用意できるとは思えん。
 おそらく我々の戦力を分散させるための分体だろう。それもゾンダープラント
 作成のための陽動ではなく、ゾンダーそのものを完全体にするための時間稼ぎだ』
 そう分析した博士からの通信に、Jはためらいなくジェイキャリバーを分離させた。
「下手な鉄砲ってわけか────トモロ、二手に分かれるぞ。
 避難が終わるまで工場に指一本触れさせるな!」
《了解した。Vフライヤー射出!》
 号令一過プラグアウトしたジェイバードは、即座にジェイダーへの変形を完了すると
Vフライヤーとの合体シークェンスへ移行する。
「フライヤー・コネクトォ! 武装合体! ジェイッ、ダー!!」
 黒い翼を背負い、頭部を白いマスクで覆ったジェイダーは、山間部を目指すジェイキャリアと別れ
沿岸の都市部へと迎撃に向かった。

 

 人型というよりは球体に近い、機動力より装甲を重視したずんぐりむっくりな
ネービーブルーの体躯。その蛇腹状の両腕は、短い脚部と相まってアンバランスなほど長く見え、
先端には鋭利な爪が備わっている。
 ザフトの水中用MSにも通じるその姿を見て、エリカ・シモンズはまさかと目を疑った。
モニターに映し出されていたのは、かつて自らのM1アストレイとコンペで争い敗北したMS。
 しかし自分のアストレイが採用されたのはサハク派ゆえに、ミハシラの計画に
早くから関わっていたおかげでMS開発技術に一日の長が有ったためだ。
その恩恵が無ければ正式採用されていたのはあちらの方だったかもしれない。
(コーディネーターは生まれる前からズルをしているんだよ!)
(上手くできるのはコーディネーターだからさ!)
 オーブに移り住んでから自分の生まれを隠すようになる原因となった、
故郷で友人知人から浴びせられた罵声が脳裏によみがえり、絡みつくように彼女の心を苛んだ。
 半ば出来レースだったコンペティションで悔し涙を流す同僚の姿に、かつてのエリカの胸中には、
図らずもまたズルをしてしまったという深い罪悪感が渦巻いていた。
 そんな重苦しい心情を吐露するかのように、彼女の唇から言葉が漏れる。
「ウミボウズ……貴方なの? オリベさん……」

 

「急げ! 今のうちにシェルターに避難するんだ!!」
 ゾンダーの標的にされたモルゲンレーテでは、泡を食った技術者たちが我先に避難を始めていた。
迎撃に出たオーブ軍戦闘ヘリ部隊は強力なバリアを前になすすべなく撃墜され、
海から山から群れをなして襲い来る敵影も、肉眼で確認できる距離にまで続々と姿を現している。
 海辺から上陸したゾンダーMS“ウミボウズ”は、モルゲンレーテへ視線を向けると、
砲口の設けられたその両腕を一斉に掲げた。
 搭載されたビームキャノンによる一斉砲撃。これだけの斉射を受ければ工場施設など
ひとたまりも無く吹き飛んでしまうだろう。
 だが、それはついぞ果たされることは無かった。天空から降り注いだ光条が
ウミボウズの群れをまとめて薙ぎ払ったのだ。
「ああっ! ジェイダー!!」
 そこに浮かんでいたのは反中間子砲を展開した武装ジェイダー。その姿に職員たちから歓声が上がる。
 次いで工場を見下ろす北側の山間部でも爆発が起こる。そこには森林の中に身を潜め、
奇襲を掛けようと待ち構えていた数々のゾンダーを、ミサイルの雨を降り注がせて打ち砕く
ジェイキャリアの姿があった。
「ゾンダーは俺たちが食い止めます、今のうちに避難を!!」
 ────こんな奴等なんかに、絶対に父さんたちをやらせたりするものか!!
「プラズマシューター!」
 両腕のプラズマソードを収束せずに撃ち放つ射撃武装が、次々にゾンダーMSの中枢を撃ち抜き
戦闘力を奪ってゆく。反中間子砲ほどの威力こそ無いが、速射性に優れた使い勝手のいい武器だ。
本来のプラズマソードには想定されていないイレギュラーな使い方だが、
このように裏技的な使用法はソルダートJ‐042の得意とするところであった。
 廃墟と化した建造物を隠れ蓑に、こちらの隙を突こうとする一群があれば加速装置を惜しまずに使用し、
プラズマソードを抜き放った武装ジェイダーが閃光となってこれを斬り伏せ、返す刀で
撃ち出された反中間子砲が他方の敵を吹き飛ばす。
《ES爆雷投下!》
 飛行能力を持たないウミボウズたちが、突如足元に開いたESウィンドウにごっそりと飲み込まれてゆく。
それで破壊されることこそ無いが、一度ウィンドウが閉じられたら最後、
亜空間航行能力無しには永遠に並列空間を彷徨うこととなるのだ。
 このように、それでも手の届かない敵は、トモロの操るジェイキャリアが巧みにカバーしてくれる。
 武装ジェイダーはチラとモルゲンレーテを見やると、またすぐに紺碧の軍勢へ向き直った。
 かつてソルダートJ──シン・アスカがオーブにいた頃、戦争に巻き込まれ、味方の流れ弾で喪われた家族。
 いままさにゾンダーによって再びそれが奪われようというこの光景は、
まるで過去の再現のように焦燥する彼の心を駆り立ててゆく。
 たとえかつて死に別れた本当の両親でなかろうと、家族の命をもう二度と奪わせはしないと、
闘志を燃やしてゾンダーに立ち向かう武装ジェイダーであったが、倒しても次から次に現れ、
彼等には目もくれずに目標のみを目指す敵軍の物量を前に、次第に疲労の色が見えてきた。
 虎の子の加速装置のエネルギーも、連続使用の果てについに底を尽き、
Vフライヤーは気化した冷却材を激しく噴出して沈黙した。後に残されたのはプラズマウイングだけだ。
 かつて数十機ものMSを相手に孤軍奮闘し、母艦を守り抜いた経験こそあるものの、
これほど無尽蔵な敵軍を相手にしては、頼れる相棒たるジェイキャリアが味方についていようと
厳しいと言わざるを得ない。
「ふむ、そろそろ頃合いか」
 オノゴロの軍令部でジェイダーたちの戦いを観戦していたロンド・ギナは、
避難の完了を確認すると後のことを直属の将校に任せて席を外し、執務室の机へ飾られた
人形へと巧妙に擬装されていたスイッチを操作すると、その机ごと地下へ降りていった。
 その先に待っていたのはアメノミハシラ地上軍作戦指揮所、その名もメインオーダールーム。
 参謀を務めるユウナ・ロマ・セイランを初めとして、スーパーバイザー獅子王麗雄博士。
整備班チーフ、ナガオ・シモンズとエリカ夫妻。パピヨン・ノワールらオペレーターたちが、
スクリーンに映し出される戦況を前に今か今かとギナの命令を待っている。
「準備は出来ているな?」
「勿論です!」
「よろしい────空中空母タケミナカタ、発進せよ!!」
 指令を受けて、オノゴロ島海中に建造されたシークレットポートに接岸していたタケミナカタが分離、
上下に折りたたまれていた艦首を展開しつつ、海面から飛び上がった巨鯨の如く空中へと躍り出た。
 黒鉄色の船体は大型化し横に幅広くなった以外、オーブ軍のイズモ級宇宙艦と似通った形状だが、
その両舷には攻撃用の砲門かと見紛うような、リボルバー状のカタパルトが二門備え付けられている。
 飛び上がったタケミナカタは400mに迫ろうという巨体でありながら、
まるで重さなど無いかのような軽快さで宙を舞い、信じられないほど静かに戦場を目指す。
 その秘密は赤い光を放つエンジン部にあった。ニュートロンジャマーによって核分裂が阻害される中、
ソルダートJからの技術提供でいち早く実用化にこぎつけた核融合。さらにその電力を元に
Jジュエルから動力を得るジュエルジェネレーターの力で、質量を生み出す
ヒッグス粒子を制御することにより重力場を自在に操る反重力推進機関の完成。
 ウルテクエンジンと呼称されるこれにより、大質量の艦船を自在に飛行させることが可能となったのだ。
『ソルダートJ、存外苦戦しているようじゃないか』
「ユウナ・ロマ! こんなときに一体何の用だ!!」
 通信を入れてきたユウナを、Jは群がるゾンダーを蹴散らしながら怒鳴りつける。
『ご挨拶だなぁ、ボクが折角取って置きのプレゼントを持ってきてあげたのに』
「……まさか、完成したのか?」
 ユウナがその問いに答えるより先に、海上を滑るように飛行して戦場へ姿を現したのは、
巨大な二門の砲身を備える黒鉄の空中艦だった。そのエンジンからはJジュエルの反応が
確認されている。
『さあ! 出番だミハシラウイングス!!』
 その号令と共に、タケミナカタの砲門から白銀の弾丸が撃ち放たれる。
だがそれは海上からの支援砲撃などではない。それは大空を自在に飛び回る鋼の鳥、
MSが登場するまでは戦場の王者の名を欲しいままにしていた戦闘機だ。
 リボルバーが回転し、搭載されていた機体を次々に装填。休む間も無くリニアカタパルトが
彼等を送り出してゆく。
 そして最初に撃ち出された機体から、射出時に発生する強力な電磁波から電子機器を保護するための
ミラーコーティングが剥がれ落ち、その姿を露にした。
 一機は黒いボディに銀のラインがあしらわれた高速戦闘機。尾部に外付けの
ブースターユニットが追加されている。
 もう一機は同様の黒いボディだが、大型のバルカン砲やミサイルで武装した金のラインの攻撃機である。
 メタリックなラインの入る黒い機体に、三日月のように湾曲した特徴的な垂直尾翼など、
瓜二つな本体の基本形状以外実に対照的な装備の二機は、続々と発進した黒地に青と
黒地に赤の戦闘機隊を率いて武装ジェイダーたちの援護に向かう。
 モルゲンレーテ周辺の空域に、展開を終えた隊長機を含め22機の部隊が
一糸乱れぬ編隊を組んで飛び回る様はなかなかに壮観な眺めだ。
 しかし隊長機に付き従う航空隊の姿に、かつて自分のいた艦を苦しめたオーブの可変MS、
ムラサメを思い出したJはなんとも複雑な心境でその助けを受け入れることとなった。
『皆の者、我らが国土を汚す奴等に目に物見せてやれ!』
『了解!!』
 隊長機の号令一過、金の部隊から放たれたミサイルが炸裂し、ゾンダーの群れを不可視の力場で包み込む。
そこへ飛び込んだ銀の部隊がすれ違いざまに機銃弾を叩き込み、
現用兵器では歯が立たなかったはずのゾンダーを瞬く間に粉砕した。
これぞ三重連太陽系の技術を利用したバリアー分解弾頭だ。
 彼等はワンパターンな攻撃を続ける愚を犯さずに即座にフォーメーションを変え、
今度は銀の部隊が先頭に立ち、通り過ぎた後方のゾンダーへビームを投射する。
だがそれはただの攻撃兵器ではない。撃ち出されたビームは幾本にも分岐し、
ウミボウズの身体へと絡みついた。
 ゾンダーたちはそのまま飛び去る青いムラサメたちに引きずられ、見る見る持ち上げられてゆく。
さらに一本一本のビームは照射するムラサメが飛び交うたびに互いに絡まりあい、巨大な網を形作る。
 ビームを撃ち込まれなかったゾンダーも、ビームネットを曳いて襲い来るムラサメ隊によって
底引き網の様に絡めとられ、一網打尽にされた挙句空中へ放り上げられ、
金の部隊のミサイル攻撃を受けてまとめて吹き飛ばされた。
「ムラサメのAIシステム、シルバー隊ゴールド隊ともに全機体正常稼働中!」
「その調子で部隊を二つに分け、南西と北東に展開! ジェイダーたちの死角をカバーしろ!!」
 機動部隊のコンディションを告げるエリカの声に、てきぱきとユウナの指示が飛ぶ。
「……大したもんだな」
 死角を突こうとする増援も、現れるそばから撃破されてゆく。まるで全体が一つの生物のような
抜群のコンビネーションに、Jは驚きを隠せない。
『どうだい、ボクらも捨てたもんじゃないだろう?
 君はなるべく自分だけでどうにかしようと思ってるみたいだけど、一人で出来ることには限界がある。
 ゾンダーの侵略はオーブにとっても他人事じゃないんだし、たまには僕らを頼ってくれよ』
 内心援軍を嬉しく思っていたJであったが、そう言ってウインクなどして寄越すユウナの姿に、
彼は照れ隠しなのかつい冷ややかに接してしまう。
「男がそんな仕草したって気色悪いだけだぞ」
『ちょ、ヒドイなあ。せっかくいい事言ったつもりだったのに……』
「……来るな」
 敵の増援が滞り始め、息抜きのように交わされるそんな微笑ましいやり取りのなか、
真打登場とばかりに大地が揺れる。
 自らが生み出した軍団の不甲斐無さに痺れを切らしたのか、戦闘でズタズタになっていた舗装へ
トドメを刺すように路面を割り、地下から工場で使用される加工機械やベルトコンベアを
寄せ集めたようなゾンダーロボが咆吼と共に姿を現した。
 ミハシラウイングスがバリアを引き剥がして攻撃を掛けるも、工場として生まれたその巨体は
度重なるミサイル攻撃を受けようと小揺るぎもしない。
 反撃として工場ゾンダーは、腹部に空いた口から内部で製造したのだろう砲身を伸ばし、
攻撃を掛けたばかりのウイングスへ散弾を喰らわせる。
「ムラサメ隊損耗率30%、五機が脱落しました!」
 後背を突かれ、大破こそ免れたものの相当なダメージを負って墜落してしまう数機のムラサメ。
お返ししようにもゾンダーの対空防御は厚く、逃げ回るので精一杯だった。
『おのれっ! 我らがこの程度の相手に梃子摺ろうとは!!』
「チィッ!!」
 矢継ぎ早にばら撒かれる散弾の間隙を、稲妻となった武装ジェイダーが奔り抜けた。
友軍の危機を救うために振るわれた、プラズマソードが砲身を斬り落としチャンスを作る。
 その隙を逃さず、金銀の二機が高らかに叫んだ。
『感謝する! ────システムチェーンジ!!』
 方や尾部のブースター、方や機体下面の武装ユニットが切り離され、
一部の色以外瓜二つとなった二機が変形を開始する。
 エンジンの前半部が外側へ展開して両腕となり、膝の部分で手首と接合していた後半部は
伸張して両脚となる。機首が内側に折りたたまれ、その根元からはアストレイと似通ったデザインの
黒い頭部が迫り出した。
 ツインアイの下には無機質なマスクではなく人を模した顔を持ち、
Vアンテナがあるべき位置にはそれぞれ『乾』『坤』の文字が刻まれた逆三角形のエンブレムが輝いている。
 乾の文字が刻まれた銀の機体はどこか女性的な、坤の文字が刻まれた金の機体は男性的な顔立ちだ。
『シルバーウイング!』『ゴールドウイング!』
 主翼をたたみ、人型への変形を完了して名乗りを上げた二機は、それぞれ垂直尾翼の変じた曲刀と
武装ユニットを変形させたシールドを構え、ゾンダーロボへ立ち向かう。
『アームズバルカン! 踊れ踊れぇ!!』
 ゴールドウイングが左右のレバーを引くのと同時に、シールドが二連装のバルカン砲へと変形し、
Jパワーの凝縮された無数のエネルギー弾を雨霰とゾンダーへ叩きつけてゆく。
『生太刀(イクタチ)!』
 そちらに気を取られた隙に、素早く懐へ飛び込んだシルバーウイングの剣が
その重装甲を袈裟懸けに斬り裂いた。その名も『生太刀』刀身に研ぎ澄まされた
エネルギーフィールドを纏わせ、あらゆる物を切断する業物だ。
 シルバーウイングは背部にマウントされたブースターを噴かし、脇を通り抜けつつ
腰から抜いたビームガンでゾンダーを牽制する。
『禍太刀(マガタチ)!!』
 追い討ちを掛けるように、こちらも曲刀を抜き放ったゴールドウイングが
シルバーの太刀とは逆向きに斬りつけ、ゾンダーの胸に十字傷を刻む。しかしその傷は
シルバーの付けたものより遥かに深く、荒々しい。
 それがフィールドを高速で循環させることにより、チェーンソーの如き破壊力を持たせた剣。
『禍太刀』の威力だった。
 休む間も無く手ひどいダメージを受け、これでは堪らぬと防御姿勢をとり再生を図ろうとする
ゾンダーだったが、時既に遅し。目の前にはプラズマウイングを広げて半身となり、
弓のように右腕を引き絞った武装ジェイダーの姿があった。
『ジェイダー、やってしまえ!!』
 ゾンダーが逃げる間も無く、武装ジェイダーが動いた。激戦の疲れなどなんのその、
全身にJパワーを漲らせた真紅の流星がゾンダーロボへ迫る。
「プラズマフィオキーナァァァァァァァァァァァァ!!」
 鋭い貫手で中心核を抉り出され、巨体を誇った工場ゾンダーは木っ端微塵に爆散した。

 

『テンペルム・ムンドゥース・インフィニ・トゥーム・レディーレ!』
「ああ……ありがとう……ありがとう……」
 摘出された核が直ちに浄解され、涙を流して感謝するオリベがその姿を現した。
もはや彼の心には先程まで溜まっていたような、ドロドロした澱も一片の曇りもない。
 モニター越しにその様子を見て、エリカは気付かれぬようこっそりと目元を拭う。
 後日、晴れやかな顔で出勤して仕事に情熱を燃やす彼の姿に、彼女は幾分救われる思いだった。

 

 ────次回予告
 君たちに最新情報を公開しよう。
 オーブに来訪したエリカの客人。再会した友と旧交を温めあう彼等は
思わぬ災いを引き連れていた。深き海底から襲い来る敵を討て! 
キングジェイダーに危機が迫るとき、ミハシラウイングスに新たな力が降臨する!
 勇者戦艦ジェイアスカNEXT『その名は天(アマツ)』次回もこのスレッドにメガ・フュージョン承認!!

 

 これが勝利の鍵だ!『ディストーションバスター』