BRAVE-SEED_勇者戦艦ジェイアスカ_第03話

Last-modified: 2010-11-26 (金) 15:27:00
 

 ────光に飲まれた後、何の因果か地球を遠くはなれた三重連太陽系へと転移したデスティニーは、
三つある可住惑星の一つである赤の星へと回収された。
 帰る当てもなく、無為に日々を過ごすうち、この星の土となるのもやむなしと思った
シン・アスカだったが、同星系の紫の星で起こった異変が彼の運命を変えた。
 ストレス浄化システム、ゾンダーメタルとその源である三十一原種の大暴走。
これにより紫の星の住人は軒並み生機融合体ゾンダリアン、または心を持たぬ機械生命体ゾンダーと化し、
紫の星は瞬く間に機界昇華され壊滅。他の惑星にも魔の手が迫った。
 時を同じくして、隣接する緑の星では指導者カインの子、ラティオがゾンダーを
人間へ戻すことの出来る能力を持って産まれた。この能力を基に、対機械昇華反物質サーキット
『Gストーン』が開発され、技術供与を受けた赤の星でも発展型の『Jジュエル』及び
それを動力とした戦闘システムの開発が進められた。
 既に絶頂を極めていた科学技術の粋を凝らした超弩級戦闘艦ジェイアーク級と、
ラティオの能力をコピーし、サイコキネシスなどの戦闘能力を向上させたアルマ。
 そしてジェイアークとフュージョンし、それの変形した戦闘メカノイドの中枢となる
サイボーグ、ソルダートJと、艦の制御を司る生体コンピュータ、トモロが生み出されることとなる。
 迫りくる第二の故郷の危機に、シンの決断は素早かった。ソルダート師団の一員として
改造されることに志願したのだ。
 既にクローン培養による素体の量産が決定し、生産ラインも確立していたのだが、
何度門前払いされようとも足しげく通い詰めるその熱意に指導者アベルが興味を抱き、
身体能力も基準値をクリアしていたこともあって特例としてシンの改造は許可された。
 かくして、サイボーグ戦士ソルダートJ‐042として生まれ変わったシン・アスカは、
原種の強襲を受けてなすすべなく滅び行く赤の星から最後の希望であるアルマを連れ、
唯一試験用にトモロを搭載していた艤装前のジェイアーク級で脱出することに成功する。
 破壊を免れたジェイアーク級戦艦と、生き残った何人かのアルマたちも、
シン同様に故郷を離れ方々に散った。
 量産工場を襲撃されて、アーク艦隊の頭脳となるはずだったトモロはそのほとんどが
ゾンダリアン・ペンチノンと化し、艦隊は壊滅。原種に白兵戦を挑むべく立ち向かった
ソルダート師団のメンバーも、次々に撃破されゾンダリアンに姿を変えていった。
 原種に勝つために生み出されたはずの彼等を待ち受けていたのは、
圧倒的戦力差でもたらされた無様な敗北。
 守るべき都市は灰塵と化し、同胞は憎むべき敵の走狗へと堕した。
 だがしかし、それでも彼は諦めない。その命が燃え尽きる最後の一瞬まで。
 仮面の下の涙を拭い、誰に聞かせるでもなく彼は呟いた。
「……負けるのには、慣れてるからな」

 

勇者戦艦ジェイアスカ No.03『輝ける両手』

 

 マユはベッドの上で仰向けになり、Jからもらった腕時計“ジェイダーブレス”を眺めていた。
 一見普通の白い腕時計だが、スイッチ一つで文字盤が変化し、
NJの電波障害をも物ともせずに届く万能通信機となるのだ。
 ゾンダーが現れたとき迅速に助けを呼ぶため、と言われて渡されたものだったが、
いささか女の子向きではない。どちらかというと男の子が喜びそうなデザインをしている。
 しかしマユは、これを着けているとJと自分だけの秘密が増えたようでなんだか嬉しかった。
 そんな気分に水を差すように、きゅるきゅるとおなかが可愛らしく鳴る。
今日も両親は遅くなるので、夕飯は作り置きしていたおかずを温めて食べるのだ。
 メニューは豆腐ハンバーグとミネストローネ。今日は目玉焼きを乗せて、ちょっと豪華にしてみよう。
卵を焼いたりご飯を炊くくらいなら、マユにだって出来るのだ。
揚げ物はまだ危ないからさせてもらえないけれど。
 思い描いた夕飯の光景にわくわくし、とてとてと可愛らしい足音を立てながら、
リビングへ続く階段を駆け下りた。

 

 その頃、地下の拠点ではパスダーが恭しく頭を垂れる四天王を睥睨し、次なる策を練っていた。
『機界四天王よ、次の手は考えてあるのか?』
「パスダー様、私に考えがございます。どうかこのプライアめにお任せを」
「申してみよ」
「強敵キングジェイダー相手にゾンダーをただぶつけるだけでは、
 貴重なゾンダーメタルの浪費にしかなりませぬ」
「ですが二面作戦を行い、アルマを攻めることで奴等を引き付け、
 その隙にゾンダーメタルプラントを完成させれば……仮にどちらかが失敗したとしても、
 ゾンダーメタルとアルマの命、片方は確実に手に入ることでしょう────
 パスダー様、どうか私にゾンダーメタルを二つ使用する許可をお与えください」
『────良いだろう、プライアよ。その作戦、必ずや成功させるのだ』
「ははっ!」

 

□□□□

 

「なーアスカー、いいだろー教えてくれよー」
「アレに乗せてもらったってホントかよー?」
「ちょっと、アスカさんが困ってるでしょ!」
「うっせー、コモリはだまってろよ!」「なんですって!?」
 オロファト第一小学校では朝のホームルームを前に子供たちが、近頃TVや新聞でも
ひっきりなしに報道されている謎の巨大ロボットの話題で盛り上がっていた。
 なかでもパイロットとおぼしき人間に救われ、さらにかのロボットを二度も間近で目撃したマユは、
今やレポーターに群がられる芸能人もかくやといった有様で、クラスメートたちから
質問攻めにあっている。
「そんなこと言われたって、ロボットの名前しか教えてもらえなかったよ」
 閉口したマユは、ソルダートJの迷惑にならない範囲でジェイダーと
合体後のキングジェイダーという名を明かす。
「あとはお礼言っておしまい。他にみんながよろこぶようなことなんて何も知らないからね!」
「ちくしょーそんだけかよ」「ほらー、みんな早く席に付きなさい」
 そこへちょうど担任の先生がやってきたのを見て、心底残念そうに席へ戻る子供たち。
 だがマユのちょうど右後ろ側、真ん中の列に座る男子児童マサヒロは
教師が出欠を取り始めても気にならない様子で、いつまでも恨みがましい視線を彼女へ向けていた。
「……アスカばっかりちやほやされやがって!」
 初めて人々の前にゾンダーが現れたあの日、みんなと一緒に襲われた彼は恐怖心から
盛大にお漏らしをしてしまう。
 日ごろからコーディネーターであることを鼻にかけ、腕っ節に物を言わせて
ガキ大将気取りだったマサヒロはたちまちみんなからの笑いものとなり、
人生最大の挫折を味わったのだ。
 そんな彼にとって、ゾンダーに二度も襲われていながら女子の癖に怖がる様子も見せず、
キングジェイダーに助けられたり乗せてもらったりのヒロイン扱いでちやほやされている
マユの姿は許しがたいものがあった。
「なんだトイレか? ちゃんと便器の前に立ってするんだぜおもらしマーくん」
「うるせぇ!!」「わー、おもらしコーディネーターが怒ったぞーぎゃはは!!」
 一時限目前の休み時間。囃し立てる連中を怒鳴りつけながらトイレへ赴き、
苛立ちのままに奥歯をぎりぎりと噛み締めながら用を足すマサヒロ。
 そんな彼の背後から、不意に女の声がした。
「悔しいのか? 自分は恥をかいたのに、同じ目にあった女は英雄扱い。
 目に物見せてやりたいなら、私が力を貸してやろう」
「う、うわあっ! なんで女の人が男子トイレにいるんだよ!?」
 いつの間にかそこに居たのは、男子トイレに居ること自体が不自然な、
髪も服も紫色の若い女だった。美人でスタイルもいいけれど、自分を見る目がどこか恐ろしい。
教師に見えなくも無いスーツ姿だったが、絶対にこんな先生は居なかったはずだ。
 あからさまな不審者の姿に、ポケットへ忍ばせていた防犯ブザーに手を伸ばす。
しかしそれよりも女の動きのほうが早かった。心を蝕むゾンダーメタルを押し付けられ、
男子トイレに少年の絶叫が響く。
「後はゾンダーの働き次第だな」
 そう言って融けるように床へと消えてゆくゾンダリアン・プライア。
マサヒロの姿もそこには無く、跡に残されていたのはほかほかと湯気の立つ温かな水溜りだけだった。

 

 マサヒロが姿を消したのと時を同じくして、オーブ本島のハウメア発電所との連絡が途絶し、
その担当区域がたびたび停電に見舞われるという怪事が報告された。
(マサヒロくん、ドコ行っちゃったんだろう……あっ!)
 授業を受けるマユの背筋を貫く違和感。今ではもうお馴染みとなった、ゾンダーの出現を示す感覚だ。
(場所は────Jさんに知らせなくちゃ!)
 こっそりジェイダーブレスのスイッチを入れ、文字入力モードで送信する。
円い文字盤が赤い火の鳥に切り替わり、可聴域外の音域で雄叫びを上げた。
「……アスカさん、退屈だからって授業中に関係ないことするのはどうかと思うわ」
「コ、コモリさん!?」
 ぎくりとして顔を向けると、そこでは通路を挟んで隣に座るイチコがイジワルそうに
眼鏡を光らせていた。彼女はかつて助けてもらった恩など
「それはそれ、これはこれ」とばかりに無視してすっくと手を挙げる。
「先生、アスカさんが────」
 だがイチコの告げ口は幸いにも果たされることは無かった。
 天井の電灯が不自然な紫の光を放ったかと思うと、教室がたちまち生物めいた姿に変形
────ゾンダー化したからだ。
「きゃあ! 何よこれ!!」「またあの化け物だぁ!」
 床からはケーブル状の触手が伸びて児童たちを椅子に縛り付け、天井から現れた蛇口が
強引に口へ潜り込み、その中へガブガブと大量の水を注ぎ込んでゆく。
 感知能力のおかげで間一髪拘束されずに済んだマユは、悲鳴を上げる級友たちの姿に
心苦しさを覚えつつも、とっさに腕を掴んだイチコと共に教室の外へ躍り出た。
「────コモリさん、逃げて!!」
 他の教室も同じような状況で、廊下に出ている人間は誰も居ない。
息を切らして昇降口まで駆け下りたマユとイチコは、床の上にへたり込んで一息ついた。
「いったい……なんなのよ……」
「あの……怪物に、学校がのっとられちゃったのよ……」
 早く外に出て助けを呼ぼうと扉に手を掛ける。しかしいくら力を込めても、
鍵が掛かっているわけでもない扉はびくともしない。
「ちょっと、アスカさん何やってるのよ?」
 それが意味することに気付き、マユの顔から血の気が引いてゆく。
「────こんなところまで」
 直後、ガラスが生物のように蠢き、そこから機械をこね回して造ったような人面が、
まるで生えてくるように顔を出した。
『ゾォンダァ~~~~』「きゃあ!」
 ここからは絶対逃がさぬとばかりに、ゾンダー人間の指令のもと下駄箱の中から
おびただしい数の触手が湧き出し、マユ目掛けて襲い掛かる。
「────アスカさん!!」

 

 マユからゾンダー出現の報を受け、ジェイキャリバーはハウメア火山の麓に位置する
地熱発電所へ向かっていた。原子力が使えない今、地熱発電はオーブ国民の生活を支える命綱だ。
それをやらせるわけには行かない。
「オーダールーム、周囲の避難状況は?」
『既に完了しています。問題ありません』
 通信機越しに告げるオペレーターの声に、Jはあの時もこんな風だったら……と、
かつて避難勧告の遅れから家族を喪った過去を思いだしかけたが、
今はそんなことを気にしているときではないとそれを振り払い、
意識を画面に映し出されたデータへ向けた。
 エネルギーのほとんどが発電所の一部、すなわちゾンダーへ集中しているのが良く判る。
通信の向こう側でも、同じデータを共有している博士が敵の目的を割り出していた。
『この手口、十中八九奴等の狙いはゾンダーメタルプラントだろうな』
 機械昇華の中核とも言える物質ゾンダーメタルは、その生成に膨大なエネルギーを必要とする。
だが持ち込まれたゾンダーメタルの大部分は、パスダーが地球へ飛来した際に失われてしまったため、
ゾンダリアンのもとには今や僅かな数が残されているに過ぎない。
そこで彼等が目をつけたのが落着先のオーブだった。火山列島に存在する豊富なマグマの
エネルギーは、プラントの建造、運転を行うのに充分なものがある。
 発電所を目視できる距離に近づいた頃、不意に警報が耳を打つ。
《────高熱源体接近!》「アーマー展開、全速回避!」
 間一髪、艦体の真下を掠めるように、直系10メートルはあろうかという
太いビームが通り過ぎていった。ジェイキャリバーの巨体からすれば大したことはなさそうに思えるが、その内に秘められた熱量は相当なものだ。
フィールドジェネレーティングアーマーが無ければ、掠めただけでもただでは済まなかったかもしれない。
「マグマのエネルギーを利用した熱線砲か……」
 発電所の存在していた場所には、建物を取り込んで成長を遂げたのだろう、
巨大なタービンを背負ったカタツムリのような姿のゾンダーロボが鎮座していた。
その顔面に空いた砲口は、先程の熱が冷めやらぬ鮮やかな桜色の光を放っている。
「反中間子砲では威力が大きすぎる……なら! ESミサイル発射!!」
 ジェイアーク級の主砲である反中間子砲は威力が高すぎ、直撃すればゾンダーロボを
核もろとも粉砕してしまう危険性を孕んでいたため、適切な攻撃兵装としてESミサイルが選択された。
 ジェイキャリバー後部両舷にある発射管から放たれたESミサイルが、
ゾンダーを目前にしてその姿を消す。亜空間に転移するこのミサイルは、
バリアや装甲などの障害を無視して敵中枢を破壊することが可能だ。
 内部に転移したミサイルが炸裂し、ゾンダーの身体が爆圧で風船のように膨れ上がる。
しかしそれだけだ、特に堪えた様子は無い。さらには先程まで確認していたはずの、
ゾンダー核の反応も標的から忽然と消えうせていた。
《────反応、消失!》
「チィッ! これは囮か!!」
 まんまと企みに引っかかったジェイキャリバーを嘲笑うように、
周囲の地面から生えてきたビーム砲の数々が一斉に火を噴いた。
 雨あられと、矢継ぎ早に射掛けられるマグマ砲の猛攻にさしものジェイキャリバーも防戦一方だ。
 そこへ追い討ちを掛けるようにマユからのSOS。学校へもゾンダーが出現したことを知り、
してやられたとJは机に拳を叩きつける。
「体勢を立て直す────ES爆雷投下!」
 砲火を避けるため、足元へ拡がった亜空間への扉、ESウィンドウの中へと
その巨体を沈めるジェイキャリバー。
 マユを失うわけにはいかない、かといってゾンダーメタルプラントを野放しにするわけにもいかない。
そんな葛藤を見透かしたように、相棒はその背中を押した。
《ここは二手に分かれるしかないだろう、行け》
「しかしそれじゃあゾンダーが……!」
《J‐042、このトモロ0666がこの程度の相手に遅れをとると思うなよ?》
「……そうだったな、マユが心配すぎて頭に血が上りすぎていたらしい。スマン」
《火力の差など、腕でいくらでもカバーして見せるさ》
 冷や水を掛けられたJは謝罪すると、気を取り直してフュージョンの体勢に入る。
分離したジェイバードからジェイダーへ、そして残されたジェイキャリアの艦首が口を開き、
アルファベットのVの字を模したような形状の黒い航空機が射出された。
 ジェイダー用武装ツール、“Vフライヤー”だ。
《ジェイダー単騎では前回のように人質をとられた場合、
 救出が困難になる恐れがある。アルマのいる学校ならば尚更だ》
 相棒の心遣いに笑みを浮かべたJは速やかにドッキングを行うと、
自らのESミサイルによって開けられた出口目掛けて疾駆する。
「────了解! フライヤー・コネクトォ!!」
 一時的にプラズマウイングを停止し、機首を折り畳んだVフライヤーをジェイダーの背中へ合体させた。
 それと同時に黒い主翼から赤いプラズマ制御ウイングが展開し、
バイザーを上げたジェイダーの頭部へと、中程で折れ曲がったVアンテナを持つ白いヘッドギアが覆いかぶさる。
 手首には機首の裏側から飛び出した三角形の手甲が追加され、
口元を完全に覆い隠したマスクには、目元から伸びる血涙の如き紅いラインが引かれていた。
「武装合体ッ! ジェイッ、ダー!!」
 額のJジュエルと翠色の双眸を輝かせる武装ジェイダーは、華麗な孔雀から
荒々しい猛禽へとその姿を変えたプラズマウイングを力強く羽ばたかせて翔ぶ。
 その疾きこと、まさに流星の如しだった。
《さて、私も出るとするか》
 見送ったジェイキャリアも、敵を前にしてES空間から浮上しようとしていた。

 

「────アスカさん! このぉおおおお!!」
 イチコは咄嗟に壁際に設置されていた消火器を取り、マユに迫るゾンダーへ消化剤を吹き付ける。
センサーを潰され獲物を見失ったゾンダーはたちまち右往左往しはじめ、
マユたちはその隙になんとか逃げ出すことが出来た。
「ありがとうコモリさん」「……どういたしまして」
 二人はゾンダーの目を避けながら職員室へ潜り込み、外部へ連絡を取ろうとしたが
電話はどこにも繋がらず、出口を塞がれて助けも呼べないという絶望的な状況に
イチコは打ちひしがれ、膝を抱えてしまう。
「もうだめよ……私たちだけであんな化け物から逃げ切れるわけ無いわ」
「あきらめちゃダメ! 絶対助けは来るよ!!」
 そう励ましては見たものの、マユ自身ゾンダーが二箇所で暴れるとは流石に予想外で、
通信こそ入れられたもののJたちが間に合ってくれるのか不安を隠せないでいた。
 そこへ電話から嗅ぎつけたのか、彼女たちの前にゾンダーが姿を現し、
何本もの触手をしならせて襲い掛かる。
「きゃあああああああああ!」「コモリさん!!」
 マユはかろうじて避けることができたが、かわりにイチコが囚われの身になってしまう。
「このっ! コモリさんをはなせぇ!!」
 絡み付いた触手を引き剥がそうとするが、子供の細腕ではどうすることも出来ず、
マユ自身もなすすべなく囚われ、他のみんなと同じく水責めに遭わされたのだった。
 その頃、ゾンダーに占拠された教室でも子供たちに重大な危機が迫っていた。
「……やばい、ションベンもれそう」
「たのむよぉ、便所にいかせてくれ~~~~!」
「漏れちゃう~~~~!」
 大量に飲まされた水により、尿意を催した子供たち。しかし身体の自由を奪われたこの状況では
トイレに行くことすら出来はしない。
 その時、窓の外で異変が起こった。空の景色が波紋のように歪み、空中に穴が空いたのだ。
「ああっ! あれは!!」
 空中の穴────ESウィンドウから飛び出してきたそれは、紛れも無くジェイダーだった。
翼はいつもと異なる形で、頭部にもマスクやアンテナが追加されてはいたが、
首から下の形状にはいささかも違いは無い。
「ゾンダーは……そこかっ!」
 プラズマソードが職員室の窓を切り裂き、ゾンダーの本体を白日の下に晒す。
その勇姿にたちまち不安を吹き飛ばされるマユの声。
「Jさん!」「そこを動くなよ! ────ジェイダーバルカン!!」
 こめかみに設けられた機銃が火を噴き、放たれたJパワーの弾丸が敵を打ち据える。
威力は抑えてあるので核となった人間に致命傷を与えることは無い。
 ゾンダーはたまらず床下へ溶け込むように逃走し、マユをはじめとした子供たちは
無事支配から解放されたかに見えた。
「ほら、もう大丈夫だぞ」「ジェイダー、見て! 教室が!!」
 安心したのも束の間、逃走したゾンダーはマユたちの教室と融合、
校舎から飛び出すと体育館をも取り込んで巨大なゾンダーロボと化した。
「わああああああ! たすけてくれ~~~~!!」
「シモンズくん!? 他の子も!!」
 解放された際、クラスの大半はトイレへ駆け込もうとしたおかげで脱出できたものの、
逃げ遅れたリュウタ・シモンズ他数名が巻き込まれ、人質にとられてしまう。
 子供たちはゾンダーの肩から生えた、ボール入れを流用したと思しき籠の中に捕らわれており、
下手に攻撃すれば爆風や破片で無事にはすまないだろうことは明白だった。
 ゾンダーはガラス張りの口元に笑みを浮かべると、腹部から巨大なバスケットボールを取り出して
ドリブルを始め、武装ジェイダーを翻弄するように巧みなフットワークで跳ね回り、
ゾンダーロボ特有のパワーに物を言わせて武装ジェイダーへボールを叩きつけてゆく。
反撃も出来ずに防戦一方となったその脳天へ、強烈なダンクシュートを決めんとする学校ゾンダー。

 

 ────次の瞬間ゾンダーロボは空中で爆散し、子供たちも地上へ降ろされていた。
戦いを見守っていた全員が、たった今何が起こったのか理解できずに唖然とした。
 それではもう一度、武装ジェイダーの戦いを見てみよう。

 

 武装ジェイダーへ飛び掛るゾンダーロボ、その時ジェイダーの瞳に火が点り、
プラズマウイングと連動した加速装置が働いた。
 メカノイド・ジェイダーは、通常の状態でさえ50分の1秒という極短時間に移動することが可能な、
宇宙でも随一の機動力を持っている。
 Vフライヤーから発生する加速フィールドは、機体の伝達速度の加速のみならず
ソルダートJの体感時間をも引き延ばし、機動力の向上はおろかその超加速空間内での
戦闘をも可能とするのだ。
 手甲が赤い光を放つとともに防護フィールドに包まれた掌が、捕らわれた子供たちを
細心の注意を持って、されど手早く救い出してゆく。
 無事人質を左手に収めると、武装ジェイダーは空中からゆっくりと落ちてくるゾンダーへ向けて、
攻性のプラズマフィールドを纏った貫手を繰り出した。
「────プラズマフィオキーナァアアアアアアアアア!!」
 核を抉り出され、粉々に砕け散るゾンダーロボ。この間、僅か0.05秒であった。

 

 一方、発電所のゾンダーメタルプラント攻略に挑んでいたジェイキャリアの戦いもまた
佳境を迎えていた。
《メーザーミサイル、全弾発射!》
 ESウィンドウから飛び出したジェイキャリアは、飛び交う火線の中を
そのスピードをいささかも緩めることなく錐揉み回転で回避しながら旋回、
マグマ砲の真上に対空ミサイルや対地レーザーの雨を降らせた。
 もっぱら対空防御に用いられるメーザーミサイルは、ESミサイルと比べて威力に乏しいものの、
光子変換翼による生産設備で随時生産されているため連射が利くのが長所だ。
 だが威力に乏しいとはいえ外宇宙文明のミサイル。地球の基準で言えば充分強力だ。
しかも湯水のように垂れ流せるそれを、地上へ向けたらどうなるか────
 雨あられと降り注ぐミサイルによって、たちまち発電所近郊の大地は
立ち並んでいたゾンダーの砲門もろとも抉れに抉れ、月面クレーターの如き惨状を呈してしまう。
《ジェイクォース、発射!!》
 艦首から放たれた火の鳥が荒れ果てた大地を掘り進み、獲物に喰らいつく。
そのままメインエンジンを噴かして上昇したジェイキャリアは、その大馬力で見事ゾンダー本体を
釣り上げることに成功した。
《トドメだ! ────スタンド・アップ!!》
 ジェイキャリアがジェイダー無き状態でメガ・フュージョン体勢を敢行、
その艦体に脚を生じさせる。
 変形による重心の移動とスラスター噴射によって、横薙ぎに振りぬかれたジェイクォースの一閃は、
ゾンダーの核を抉り出しその胴体を真っ二つにした。
 核を回収してもまだ戦いは終わらない。今回の最終目標はゾンダーメタルプラントの破壊なのだから。
 ジェイキャリアの牽引ビームがぼっこんぼっこん地面を掘り返し、
地下で育まれていたプラントを露出させるや、その巨体が三万二千トン以上もの重量を活かして飛び掛り、
親の仇とばかりに踏みにじる。
 さらにダメ押しとばかりに、艦首に内蔵されたジェイクォースのエネルギーチャージャーから
Jパワーの奔流を叩きつけ、ゾンダーメタルの残骸を焼き払ってゆく。
 直立した怪鳥が口から火を吐き、目から怪光線を放ちながら暴れまわっているようなその戦いぶりは、
まるで特撮映画の怪獣そのものであった。
 その後、密かに連れてこられたマユによって無事にゾンダー核は浄解され、
素体となったマサヒロと、仕事をサボる部下に悩まされていた発電所の作業員は解放されることとなる。

 

 その戦いの一部始終を、遥かな天上から見届ける者がいた。
 モニターには今まで行われてきたジェイダーたちの戦闘記録が映し出されている。
「────流石のソルダートJといえど、数でかかられればこうもなるか」
 長く艶やかな黒髪を切り揃えた長身の麗人は、今回の戦闘でもたらされた周辺の被害に
眉をひそめると画面を切り替え、黒地に赤、黒地に青という二種類の戦闘機が数多く並ぶ格納庫を映し出して、
その美貌に自信ありげな笑みを浮かべた。
「やはりオーブを守るのは我らサハクの役目。我が庭を荒らす害虫共よ、
 この力とくとその目に焼き付けるがいい!!」
 宇宙ステーション『アメノミハシラ』に、ロンド・ミナ・サハクの哄笑がいつまでも響いていた……

 

 ────次回予告
 君たちに最新情報を公開しよう。
 オーブに上陸した過去の亡霊。立ちはだかる無数のゾンダーMSの前に、
流石のジェイダーも苦戦を強いられる。
 負けるなジェイダー、ジェイキャリア。モルゲンレーテを守りぬけ!
 勇者戦艦ジェイアスカNEXT『銀と金』次回もこのスレッドにメガ・フュージョン承認!!

 

 これが勝利の鍵だ! 『空中空母タケミナカタ』