第13話 憎しみの砂漠<5>
~海上~
「注意をこちらに引き付ける、雷太!」
「おう! バルディミサイル、発射準備完了!」
「バルディミサイル、発射!」
バルディオスの脚部両側面に装備された大型ミサイル2発が洋上を進む地上戦艦に向かっていく。
「ミサイル接近!」
「対空防御、始め!」
CIWSが1発を撃墜するも、もう1発が艦首上部に命中して爆発した。
これに反応したのは、フォースインパルスを駆る指揮官。
後ろを取られて戦艦から攻撃されることは計算外であった。
「セコイ真似をしてくるじゃないか! 《226号》はまだ出撃できんのか!」
『調整にもう20分かかります、もうちょっとだけ持たせてください!』
インパルスが先頭に立って6機編隊で突っ込んでくる。
オリバーの指示がマリンに飛ぶ。
「先にビームを撃たれたら厄介だぞ……マリン!エネルギー増幅!」
「了解だ!亜空間ビーム、発射!」
バルディオスの額から発射された赤色のビームの光条が、編隊を真っ二つに散らせる。
そのまま方向を変えたビームがダガーLの胴体を2機同時に切断し、爆発が空に2つ咲いた。
ビーム攻撃を右下に機体を振って回避に成功したインパルス。
指揮官の表情には、まだ余裕がある。
「ビーム兵器も持っていたか……やるな!
戦艦以上の火力、ここまでは予想通り……距離を詰める!」
再加速をかけた4機の編隊は、ビームライフルを撃ちながらバルディオスに近づく。
バルディオスでは、雷太がエンジンの調子をチェックしてマリンに再度指示を出す。
「マリンやったれ!出力は問題ない!」
「行くぞ!……サンダー・フラーッシュ!」
バルディオス胸部が白く発光し、光球が撃ち出される。
それは飛行編隊に向かって飛んで行き、炸裂するように広がる。
「うぉっ!?全機、回避だ!」
指揮官は咄嗟に回避行動を指示したが、時既に遅し。
反応速度、機動性とも優れたインパルスは回避に成功したが、配下のダガーは間に合わない。
真っ白い光の中、外見がひしゃげ、排気ダクトから煙を吹き、胴体が爆発、間を置かず手足がちぎられ分解してゆく……
「あんな隠し武器があるとはな、面白い!」
部下の死を目の当たりにしても臆することなく向かってくるインパルスは、高エネルギーライフルを3連射。
ビームの着弾を確認することもなく、背中のビームサーベルを抜きながら、バルディオスとの距離を詰めてゆく。
そして、腕を組むようにガードするバルディオスに遠慮なく一太刀浴びせ、急速離脱する。
潜水艦並みの強固な装甲を持つバルディオスではあるが、さすがにビームの高熱は防ぐことは出来ない。
左の前腕部が切り裂かれ、内部のメカニックが露出する。
「しまった!ダメージを……」
マリンは自分の判断ミスを呪う。
「調子に乗りやがって!」
雷太は一気に沸点に到達。
「捕まえろ!敵メカは高高度だ!」
オリバーは、3人の中ではまだ冷静な方だ。
「了解だ、オリバー!」
ランドセルを吹かしてバルディオスが上昇する。
「インパルスの上昇速度に付いてはこれまい……んっ!?」
バルディオスに高い機動力はない、と高を括っていた指揮官だったが、バルディオスはいとも簡単に追いついてくる。
その性能の高さに舌を巻く。
「なんて出力だ!しかし!」
捕まえようとするバルディオスの両手をかいくぐると、近距離でビームライフルを3発。
バルディオスは左胸部を撃ち抜かれ、そこから煙を吹き始める。
分析のつもりか、勝ち誇った態度か、指揮官の声が開かれた回線から流れ込んでくる。
『脆いなぁ!厚い装甲だが何の特殊加工もない!おおかた、輸送船用のバナジウム鋼が精一杯か?』
「逃がすか!ショルダーキャノン!」
バルディオスはインパルスにショルダーキャノンを放つが、宙返りでかわされる。
『はっはっは、当てずっぽうな射撃ではなぁ!』
再び接近戦を試みたバルディオスだが、その直線的な突進をインパルスは軽く避け、頭上から急降下。
背中をすり抜けるように通過しつつ、ビームサーベルで背中を切りつける。
指揮官は既に勝ち誇ったような口調の言葉。
『そういう時は、小回りが利くインパルスの方が!』
ランドセルの左半分が縦に切りつけられ、左噴射口からさらに小さな爆発が起きる。
爆発に押されるようにバルディオスがよろめく。
オリバーは焦りの色を隠せない。
「マリン!何とかならないのか!」
「駄目だ!エンジンまでいかれた!」
『ここまでだな!カタパルト、ソードシルエット射出!』
指揮官の指示とともに、インパルスが急上昇する。
後方の戦艦から発射されたと思われる小型戦闘機、それが投下した大型の剣をインパルスがつかむ。
剣から赤色のビームを展開させると、それを構えて高高度から全てのスラスターを吹かし、重力も加算された全速力で突っ込んでくる。
『貴様は持ち帰る。狙いは胸部コックピット!……いただく!』
遠くで見守るシンには必敗の流れと映る光景。
「やられるっ……!」
それはミネルバのブリッジも同じ。
「これ、駄目でしょ……!」
「マリンさん!逃げて!」
「今だ!パルサーベル!」
バルディオスの胸部から剣らしきものが取り出される。
形状は剣の柄に三角の剣先が付いただけの形なのだが、これを両手で持ち、突きの体制に入る。
驚いたのはインパルスの中の指揮官。
既にフル加速が付いてしまって回避できない。
『何っ!ヤツも対艦刀を!』
「うおぉぉぉぉぉおっ!」
ガラスが割れたか、金属が砕けたか、激突の音。
対艦刀をかざしてガードしたインパルスの腕ごと、パルサーベルがインパルスの胸部にぶち当たる。
切断するための武器というよりは、むしろ殴る武器のようなものだ。
インパルスの全質量とバルディオスの突きが加わった衝撃が、インパルスの全身を駆け巡る。
無論、コックピットにも。
対衝撃装置とPS装甲が衝撃の全てを吸収してくれるほど便利なものであるはずがない。
まして両者には絶望的な質量差がある……
指揮官のバイザーにヒビが入り、一部が砕けてコックピット内に飛び散った。
剣部分が伸びたパルサーベルは30メートル近い長大な刃渡りになる。
それを上段に構え、
「ふっざけやがってぇぇぇ!」
怒りが込められたマリンの一撃。
上段から左斜め下に向かって振り下ろす。
対艦刀で受けようと試みたインパルスの両腕の肘から先を斬り飛ばし、頭の上半分と飛行ユニット――フォースシルエットの翼まで削り取って、叩き落してしまった。
『インパルスがぁぁぁっ!』
インパルスのコックピット内では、機体とともに技量への自負、コーディネイターとしての自負まで一緒に砕かれた指揮官の慟哭が響き渡っていた……
墜落したインパルスは自動落下制御の機能が働き、幸か不幸か戦艦の上甲板に叩き付けられる。
爆発やコックピットの致命的損壊はしていないものの、先程受けた衝撃のためにあちこちのフレームが歪み、戦闘継続はおろか動くことすら出来なくなっていた。
叩き付けられ半ばもうろうとする意識の指揮官。
狭くなっている視界の中には、全周モニターに映る対空機銃らしき弾幕の光がうっすらと映っている。
「なんて……なんてヤツだ……インパルスがこんなもので、こんなもので……っ」
ここで視界がようやく開ける。
「ん!?う、うわぁぁぁぁぁぁっ!」
指揮官の目にしたものは、自分の目の前に突きつけられている巨大な剣先。
空中に浮上しているバルディオスが、戦艦に横たわるインパルスにサーベルを突きつけていた。
バルディオスのコックピットでは、マリンが半壊したインパルスを見つめる。
それまでとは違う、侮蔑し見下すような目つきで……