DEMONBANE=DESTINY_rqMQ90XgM6_08

Last-modified: 2007-12-30 (日) 06:21:55

それは六の永劫(アイオーン)、邪悪を断つ刃であったもの。
だが、今、眼前に在るそれは、違う。
邪悪だ、忌むべき、世界を喰らう、憎むべき、邪悪だ。

―――気高き刃は汚され、魔道に堕ちた

六の永劫から滲み出る汚怪なる悪意は宿敵であり仇敵であったそれ。
耐え難い怒りは身を突く。
それは哀しみをも哀しみともさせぬほどの怒り、全てを無に帰す劫火である。
『デモンベインを信じろ―――――あれは、人のためのデウスマキナだ』
かつての復讐者、彼の言葉が脳を灼く。
消え逝くその身体、光となって逝くその身体。
微笑を浮かべ彼はデモンベインと紅朔/九朔を見ていた。
邪神の機構(システム)に呑まれた時、彼の言葉が己を救う鍵になった。
彼の言葉がなければ、恐らく今の自分たちはなかった。
それは父の言葉と同じ大切な記憶。
決して消える事のない大事な記憶。
だが、今、眼前にある『あれ』は、それを汚した。
彼の思い出を――否、彼だけではない。

邪悪と闘ってきた者達全てを『あれ』は愚弄したのだ!
母と共に戦ってきた剣持つ者達の魂を侮辱したのだ!

六の永劫は虚空に佇んでいる。
微かに一つの首が持ち上がり、紅の瞳がデモンベインを見た。
それが嘲笑を浮かべたように見えた。
いや、嘲笑した。
デモンベインを、アイオーンを嘲った。
真っ赤に燃え上がったそれが九朔の理性を掻き消す。
「騎士殿!?」
目の前が、思考が、白に塗りつぶされていく。
「「唖亞アア唖アア亜アァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」」
精神を凌駕した領域で式を編み出し、デモンベインは虚空を疾走(はし)る。
鋼鉄の翼は唸りをあげ宇宙空間を裂く。
「仕方ない……わね! シャンタク、フルバーニアン!!」
物理領域の限界に達したデモンベインは光に成る。
神速は六の邪悪へと突き進む。
右にクトゥグアを、左にイタクァを。
神威を撃ち出す魔銃を再召喚、ユニウスセブンを昇滅させた術式を顕現させる。

撃ち出せ、砕け、穿て、貫け、滅しろ、燃やし尽くせ、凍らせ尽くせ!

脳内に煮えたぎった怒りが敵を狙う。
昂ぶった魂が凍り尽きる程の冷静さを持って引鉄を引く。
「「イタクァ、クトゥグア―――神獣形態ッッッッ!!」」
術式は神銃であり、神獣。

神性召喚→敵対象認識・捕捉。
飛翔。
疾駆。
神速。
瞬撃。
星間宇宙を駆ける怪鳥と魔獣は双極の破滅を持って六に迫る。
「「牙アアアアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」」
咆哮は宇宙空間を裂く。
咆哮は星気領域に轟く。
咆哮は世界の式を書き換える。
神獣の軌道が宇宙空間を異質な世界へと変貌させる。
そこは血闘場であり、処刑場。
戦友を語る忌むべき邪悪を刈るために創り上げる必滅の箱庭。
六は抵抗する間もなくそこに捕らえられる。
クトゥグアとイタクァは六へと距離を零にする。
許してはならぬ悪意をここに処刑する。
勝利を確信する、必滅を確信する。
零が滅意を持って暴虐に唸る。

―――轟

破滅の閃光は昇滅した墓地に再度咲いた。
閃光はユニウスセブンを呑み込んだよりも更に大きな光球に成る。
この威力では鬼械神すらも塵すら残らない。
一瞬のことではあったが、敵は反抗する間もなく滅んだ。
光球は消え、虚空に闇黒が戻る。
これで全てが終わった、そう思った。
だが、
「馬鹿な……………!」
「嘘でしょ?!」
消えた閃光、だが六の永劫はいまだ『そこに』在った。
傷一つなく、あの神威を受けて尚、平然とそこに存在していた。
そして、
「「――――――ッッッッッ!!!!!!!!」」
おぞましいまでの鬼気が九朔を襲う。
魔術師の、零の零零零零零以下の無限にも等しい刹那を知覚する意識。
その次の瞬間が過ぎると同時、永劫がデモンベインを囲んでいた。
六芒星(ヘキサ)に展開し、その中心にデモンベインが在る。
通信回線が自動に開く。
こちらからは触っていないのに強制的に、無理矢理こじ開けられる。
デモンベインのコクピットに響く声に九朔/紅朔は再び戦慄する。

『お久しぶりだな、デモンベイン』
『ありがとう。いやはや、本当にありがとうと言っておこうではないか』

――それは、

『よもや、お主等と出会うことになろうとはな』
『本当ねぇん。ほんっと運命ってやつかしら、これって☆』

――忘れようにも忘れえぬ

『ヒャハハハハハハ!! でもよォ、これで、いきなりさよならなんだぜ?』
『調子ニノるナ。コイツらハ大十字九郎トアル・アジフノ血ヲ継イデイルノダゾ』

――父母の、彼等の、敵!!

「アンチ…………クロス!!」
九朔の声に五の声が笑いをあげた。
『いかにも! 我等はアンチクロスだ騎士殿、そして我等が姫!』
アウグストゥスが哂う。
理解不可の、存在不可である存在が眼前にある。
そしてそれが永劫を操っている、その真実が認められない。
邪悪が魔を断つ剣を持つ事は出来ないはずなのだ。
なのに、なぜ?
「何故だ、何故貴様等が生きている、アイオーンに乗っている! 答えろ!」
殺意の闘志が九朔を急き立てる。
『なに、ちょっとした偶然だよ、偶然なのだ』
ウェスパシアヌスが穏やかな好々爺の声で哂う。
「偶然………? それってどういう――!?」
『ハハッ! そんなの今から死ぬお前等が知る必要ねえっての!』
『ソウダ……殺ス……殺ス……今度コソ絶対ニィィィィィァァァァァアアア!!!』
クラウディウスが侮蔑に哂う。
カリグラが狂ったように哂う。
その中で一人哂わぬティトゥスが静かにアイオーンの剣を抜いた。
それをモニタにて九朔/紅朔は視認し更なる驚愕に震える。
「そんな………馬鹿な!! こんな……こんなことがッッ!!」
「どうして………どうしてなのよ!? こんなの………嘘よ!!!」
それはバルザイの偃月刀、アンチクロスが持つはずのない死霊秘法の力。
それに続くように残り五のアイオーンが武器を抜いた。
それはクトゥグア、それはイタクァ、それはロイガーとツァール。
それは対霊狙撃砲(アンチ・スピリチュアル・ライフル)。
全て、アイオーンが持つ武装であり、デモンベインの武装であった。
『これが我等の答えだ、書にして人なる者よ………!」』
ティトゥスの声がコクピットに静かに染んだ。
それが、合図。
六の暴虐がデモンベインを襲った。
「ぐああああぁぁぁぁ!!!」
「きゃああぁぁぁ!!!」
イタクァが四肢を貫いた。

クトゥグアが脚部シールドを抉った。
対霊狙撃砲は肩を打ち抜いた。
回避しようと動いた瞬間アトラック=ナチャが捕縛した。
ニトクリスの鏡の破片が降り注ぎ装甲を切り裂いた。
ロイガーとツァールはデモンベインを十字に裂いた。
爆焔と氷霧と斬撃がデモンベインを蹂躙する。
噛み砕かれ、穿ち貫かれ、内部機構まで大きな損害を受ける。

一瞬にしてデモンベインは満身創痍と成る

コクピット内、モニタを荒れ狂うようにエラーが流れる。
紫電は迸り、紅朔と九朔の身体を容赦なく焼く。
破片は弾け、九朔と紅朔の身体を容赦なく裂く。
肉のこげる匂いが立ちこめ、黒煙が舞い上がる。
血は零れ、コクピットを紅に染め上げる。
「ガァ………ガハッ! う………ぐぅ!」
「あ………カハッ…………くぅ………!」
九朔と紅朔は歯を食いしばり、痛みに耐え、立ち上がり、デモンベインを蘇らせ、疾走させる。
六芒星から外れ、虚空空間を六の永劫と壱の刃金が螺旋に飛ぶ。
逆十字の銃撃と斬撃は刃金を削り穿つ。
返礼とデモンベインはイタクァとクトゥグアを放つ。
しかし、
『温いな……』
それも六の防御結界に阻まれる。
大十字九郎と戦い敗れ、自分たちと戦い破れたアンチクロス。
彼等の力量は最早比べようもなく三下であったはず。
だが、今の彼等は違う。
三位一体のデモンベインにも劣らぬ力を彼らは持っている!!
「どういうことだ!? 此奴等にいったい……なにが!?」
「分からない……!! でも、このままじゃジリ貧よ、騎士殿……!!」
四方八方から迫り来る呪法兵装は一撃必滅の威力。
避けるだけでも既に脳波灼き切れる一歩手前、肉体が悲鳴を上げている。
『ヒャハハハハ! 見ろよ、まるでざまあねえッッ!!』
『弱イ弱イ弱イ弱イ、弱イゾデモンベイン!!』
二体のアイオーンが眼前に立ちはだかった。
拳が鎚のように振り下ろされデモンベインの肩口に抉りこまれる。
同時、対霊狙撃砲の銃弾がデモンベインの装甲を削った。
「グアァァ!!」
まったく手が出せない。
デモンベインと匹敵するほどの威力は確実に九朔達の体力を奪っていた。
再度カリグラとクラウディウスはデモンベインへとその牙を向ける。
だが、
『チィッ!?』
『ヌッ!』
ビームライフルの閃光が永劫と刃金の間を抜けた。

「大丈夫か、アンタ達!!」
その先、一機のMSが永劫へとその銃口を向けていた。
ただの人でありながら異界へと踏み込んだ哀れなる子羊がそこにいた。
「こちらミネルバ所属のシン=アスカ、援護する!!」
シンは許せなかった。
目の前で今まさに奪われようとする命を見捨てては置けなかった。
彼等は自分たちの出来なかったユニウスセブンの破壊を行なった。
だとすれば仲間だ。
軍人にあるまじき思考だとは思う、しかし難しい事を考えるだけの頭がないことも自分には分かっている。
見捨てる事なんてできない、誰かが命を失う姿は見たくない。
誰かが命を奪うことは許せない、二度と失ってたまるものか。
それは愚かで、真っ直ぐな、怒り。
シンは震える脚を抑えこみ、目の前で敵対する2倍以上ある巨体へと向かう。
「うおおおおおおぉぉぉぉ!!!」
ビームライフルを乱射しかく乱、その隙にインパルスを相手へと接近させる。
『止めろ!! 汝では勝てぬ、退け!!』
あの機体からか、悲鳴のような怒号が届く。
しかし、構っている暇なんてない。
爆風に巻き込まれる巨大MS、いやMAというべきなのか。
呑まれ、それが一瞬揺らいだ。
これ幸いと一気に加速、シンはビームサーベルを抜き距離を詰める。
しかし、
「なんだって!?」
肉薄する壱刹那、相手は目の前から消えた。
恐るべき機動力、いやそんなものでは断じてない。
脳内で何かが警報を鳴らす。
弐の刹那、背から襲い来る鬼気(プレッシャー)、粟立つ悪寒に戦慄する。
インパルスを一気に加速させて離脱する暇もない。
振り返れば其処には今まで目の前にあった黒の機体。
馬鹿げてしまうほどに巨大な狙撃銃がインパルスを狙い定めている。
『うぜえ、虫ケラ以下のカスが。邪魔者はお呼びじゃねぇんだよ、死ねや』
自分より年下と思える少年の声がコクピットに響く。
怖気が走るほどに凄惨な声色だった。
まるで人を人とも思わない、おぞましい声色だった。
『ヒャハッ!』
インパルスと二倍以上ある体躯の指が引き金を引く。
コンマ1秒にも満たない参刹那に死を予感する。
あっけなさすぎる結末にシンは瞳をつぶる。
『防御結界!!』
だが死は訪れない、再び眼を開けば守ろうとしたMSがそこにある。
そして、自分とその機体を守るように展開した謎の五芒星の紋様。
『愚か者が! 貴様、己の命を何だと思っているのだ!!』
自分とあまり変わりない年頃の少年の怒声。
『これじゃただの足手まといね、まったく!!』
今度は少女の声。
あれは複座式の機体なのか? 場違いな思考がシンの頭を過ぎる。
それにあの五芒星模様は何だろうか、見た目はビームを展開させた何かに見えなくもないが。
『惚けるなド阿呆! 貴様如きでは此奴等は相手にならぬわ、疾く去ね!!』
余りにも余りすぎるその怒声、一瞬気を取られていたシンもその意味を認識すると顔をこわばらせた。
「何だとぉ!? せっかく助けに来たのにそれはないだろ!!」
通信回線越しにシンは悪態をつく。
『白痴(たわけ)が! 事実を言ったまでのことだ!!』
返す様に少年の声もまた怒鳴る。
罵りあいになるかと思われたが、しかし相手がそれを待つはずがない。
再び目の前の黒い機体は、今度は二機同時にビームライフル状の武器をこちらに向ける。
否、それだけでなかった。
何時の間にいたというのか、そろった六の機体は今までにないほどの巨大な杖を構えていた。
集まる光はまるでDNAの二重螺旋をを描くようにその砲身へと収束していく。
とても綺麗でとても恐ろしい何かだと直感した。
『まさか………!! 散れ、今すぐに!! この場から離れ―――っ!!』
戦慄の怒号、しかし、もう遅い。

―――呪文螺旋【スペル=ヘリクス】

脳に一つの言葉が走る。
それは音声ではなく一つの意として刻まれる。
そして同時、シンは極口径の閃光が宇宙空間に咲くのを目視した。
「―――――!!」
途方もない衝撃、インパルスが吹き飛ばされる。
再度現れた五芒星と衝突した閃光は衝撃の波となってシンを襲う。
凄まじいGがシンの肉体を苛む。
眩く七色の光は虚空を染め上げ、周囲に極小の超新星爆発を起こした。
その場にある全てが呑まれていく。
それはインパルスだけでなくミネルバを、ボギーワンを、ボルテーノを全ての者達を呑み込む破壊の光だった。
その輝きの中、シンは理解する。
これは人の行なう次元の戦いでは決してない、と。
噛み合わなくなった歯車は全ての動きを止める。
機構はその意をなすことはなく、停止する。
何かが崩れる音がした。
それは世界という機巧、今まで信じてきた世界が崩れ落ちる音。
おぞましくも凄まじい何かの存在を矮小たる人の身で知る。
それは、踏み込んではいけない領域だった。
それは、人が人としてあるべき領域ではなかった。
物理法則の支配する世界では到底理解することのできぬ因果地平の存在をシンは魂の内に感じ取ってしまった。
衝撃に意識を断絶するその間際、シンはどこかで誰かの鳴らすフルートの音色を聞いていた。

 

*****

 

地球より来たる者がある。
それは、白き光を纏いて宇宙(ソラ)を駆ける巨人。
白き翼に覆われ、それは一直線に其処へと向かう。
彼の瞳は其れを見る。

――魔を断つ刃、六の永劫

暴虐の螺旋は今まさに魔を断つ刃を呑まんとする。
『呪文螺旋【スペル=ヘリクス】』、アイオーンの持つ最強の攻性術式。
対霊狙撃砲を魔杖展開することにより放つ暴虐の一撃必滅。
その威、神銃形態とも負けるとも劣らずの神滅を秘める。
零距離までの時間は刹那。
だが、その刹那を食い破り白き翼は疾走する。
世界の論理を書き換え、宇宙の式を編み出す魔術が行なう必然奇跡。
速く、速く、速く、速く、更に疾く!
もっと、もっと、もっと、もっと、もっと疾く!
願えば、想えば、祈れば、思考すれば、それは更に確実に完全に。
熱さえも及ばぬ速度が大気圏を突き破る。
その速度はもはや人外領域。
誰もそれが接近するのに気づいてはいない。
否、それを捕らえることなど人には不可。
決してそれが来るのを見ることなどできない。
気づく間もない人外速度で白き翼は目的地点へと到達。
そして展開する魔術。
それは花開くようにデモンベインを包み込み、その場にいた人間達を包んだ。
書き込まれた術式はその意を解き放つ。
強制転送、異界存在の出現により失われたこの世の論理を書き換え、ありえざる確率を在り得る確率へと変換する。
転移(シフト)、転送(イクスポート)。
暴虐螺旋がそれら全てに到達する前に全ては消えた。
消える閃光、六はその顕現を認識→捕捉。
在り得ざる事象が起きたことに六の永劫はその身を震わせた。
驚愕、機械の眸がその白の翼を捉える。
だが驚愕はすぐに消失、眼前に突如現れた巨人を更にしかと見据える。
そして、それが何者かを識る。
『ふはっ……!』
六のそれぞれが笑みを浮かべた。
ああ、何と懐かしい。
ああ、何と愚かしい。
ああ、何と弱々しい。
彼等はそれをよく識っていた。
彼等はそれを己の魂に刻んでいた。
血に濡れし、全ての悪たりた、邪神の息子たる彼を。
それはかつての主、裏切り殺した主、七頭壱拾角の獣の王、聖書の獣。
金色の髪をたなびかせる、人外めいた、正真正銘の人外。
それはあの無限螺旋において、正しく窮極の悪であった少年。

――■■■■■■■■

もはや失われた名である。
そして、彼らはその名を口にする事はない。
その名を呼ぶ事は忌むべき事であり、いまや存在せぬ者の意を蘇らせる事である。
言葉は魔術である、それを言霊に紡ぐ事は恐るべき事である。
永劫の周囲に再び魔方陣が疾走った。
そして、その中へと身を沈める。
宇宙に波紋が浮かび、中心に在る鬼械神たちはその中へと呑まれていく。
一体、また一体と黯黒の中へと消えて征く。
もはや用は果たしたとでも言いたげにそれらは消えて征く。

壱、弐、参、死、期――

そして最後に、永劫の一体が、ウェスパシアヌスが彼を見た。
かつての無限螺旋で己を謀ったその愛しく憎き獣へ視線を送った。
『いつか、ああいつか………また、また会おうぞ、獣よ』
ペルデュラボーは彼等を見送る。
六の永劫(アイオーン)、死霊秘法の力が持つ最強の術式。
その力はデモンベインにも、彼の乗るリベル・レギスにも劣らない。
かつての彼等より数段上の力を秘めている。
だが、あれは完全ではない。
そう、まだ、今は。
「マスター………これで、本当に良かったのでしょうか」
「言っただろう?」
彼は隣にいる少女の頭を撫でた。
それに少女は微かに悶え、俯く。
「これで良いんだ」
ペルデュラボーは振り返り、地球を見た。
外した伊達眼鏡をかけ直してその硝子の向こうにそれを見る。
それは青く輝く美しき星だ。
いのちに溢れる美しき星だ。
そして、その傍らにある存在を見る。
デモンベイン、そして新たな物語を紡ぐ者たち。
「物語の幕はここに開き、狂想曲は再び奏でられる」
ペルデュラボーは世界の裏を見る。
現れた逆十字、存在しえぬ魔術の行使。
ありえざるべき存在により掛け違えられた世界の歯車は致命的な歪みを生みつつある。
その先に待ち受ける物語の存在を彼は識る。
しかしそれは未だ語られるざる物語。
故に語る事は許されない。
結末もまた誰も知る事は出来ない。
在らざるモノを語る術は誰も持ちはしないのだから。

 
 

―――どこかで、劇の幕を開ける鐘の音が鳴り響いた

 
 

第一幕『Show Time』―――end

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