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Last-modified: 2013-12-22 (日) 20:53:31

宇宙、過ぎ行く時は人に異界領域へと足を踏み入れる術を与えた。
何も零れぬ虚無の空間、何も掬う事のできぬ絶無の空間。
踏み入れた人はそこにあるものを知らない。
無知は幸福である、その無知ゆえに恐れを知らぬために。
無知は不幸である、その無知ゆえにその恐怖を垣間見る。
それは宇宙的悪意、沸騰する混沌、揺り籠の玉座にて眠りにつくモノ。
それは遥か太古より宇宙(ソラ)より君臨したるもの。
現象であり存在である。
闇黒に潜むソレは人の知覚では許容できぬ発狂存在。
ソレへの認識はつまり破滅的精神崩壊との直結を意味する。
それこそが『外なる神(アウター・ゴッド)』であり、旧支配者である。
しかしそれは『あの世界(モノガタリ)』の物語(セカイ)が繋がる場所においての存在。
そう、かつて双子の窮極を螺旋の中で育んだ無貌でさえも、物語の力なしではそのセカイを描くことができなかった。
記述すらない物語は存在することは出来ない。
世界(モノガタリ)は物語(セカイ)である。
それ故に、この世界にはその物語は存在することはないのだ。
図書館の蔵書に存在しないものは閲覧する事が出来ないのと同じように、彼らもまたその物語を知る事はないのだ。
しかし、そうなのか。
それは本当に正しいのか。
思わないだろうか、考えないだろうか、想像しないだろうか。
無限の蔵書を誇る捻れた直線を持つ曲線と四角と錘と円柱を内包した平面で囲まれた世界という図書館。
その世界に、無限の蔵書にすらない蔵書が混じらないか、と。

 

******

 

「いったいこれはどういう事なのだ、ユウナ」
リムジンに取り付けられたモニタ、ウナトが息子の独断専行を問い詰めていた。
オーブ軍基地から無断で発進したデモンベイン、それの許可を与えたのが息子であるユウナだというのだからその怒りは当然である。
「ユウナ、お前には勝手にここまでして良い権限は与えていないのだぞ!」
「分かっていますよ父上。僕は貴方の側で政務の手伝いをするだけの人間ですからね」
「では、どうしてアレを動かした?」
怒りを抑えるようにウナトの目が細まる。
アレとは言うまでも無くデモンベインのことである。
「あれがここから飛び立った事はすぐにでも連合……いやロゴスの 奴らに知れる」
「でしょうね。表立っては接触はしてきませんでしたがデモンベインはここに来た時から既に彼らに知られていますしね」
あっけらかんと言ってのけるユウナ。
それはさっきまでの紅朔と同じような気の持ちようだ。

「では何故勝手なことをしたのだユウナ!?ユニウスセブンの事で、間違いなく奴らは戦争を始める口実を得た!!
 そのための手段としてあれを我らの兵器として取られてみろ、あれは格好の同盟締結の材料になるぞ!!」
「ええ、それは分かっていますよ。ですから、彼らを使うんです」
父の言葉を押し留めようとユウナの脳内で情報が疾走する。
表面は平然としてはいるが内側はかなり切羽詰っていた。
「オーブが保有する戦力では彼らに対抗する力はありません。
 もし、彼らとの同盟を白紙にする事があれば再びオーブは戦乱に巻き込まれることになる」
「それがどうした?何を当たり前のことを――」
「彼等はユニウスセブンを破壊できると言っているんです」
「何を言ってるのだユウナ!それは絶対的にあり得ん!!そのような戯言……まさか、信じたのではないんだろうな!?」
気でも狂ったか、そう言いたげにウナトの顔が歪む。
「まさか、そうではないですよ。ですが、彼等は大気圏をですよ?
 ブースターのみで、しかもマスドライバーなしで突破したんです」
ユウナとしては信じた自分を恥じる気はないが、ここでそれを言うのは愚である。
故に、その言葉は胸だけに留め表面を真逆の感情で取り繕い利用できる事実を述べる。
モニタに表示されるデモンベインの発進時の映像、それは羽根状のブースターから輝きを迸らせ基地から真直ぐに空へと消え去っていくときのもの。
「それは……確かだが。それと同盟白紙と同関係が?」
「それを説明しようとしたところですよ父上。
 とにかく信じるにしろ信じないにしろ、彼らの機体の能力、それは充分に彼らのやることに価値を見出せるといってるんです。
 これはつまり賭けですよ父上。
 仮に成功すれば我々は単機でユニウスセブンを破壊するほどの兵器を持つことになり核に匹敵するカードとなりえる。
 失敗しても、単機で大気圏突破レベルのことが出来る機体の保有が彼らの侵攻の手を抑止する材料となる」
途中ウナトが口を挟もうとしたが、それを遮るように淀みなく一気に言い切った。
これは戦略、相手に反論の余地を与えず自分の意見を述べる。
多少おかしなところがあったとしても強い調子で言う事で相手の意見を封じるのだ。
「しかし……」
「父上」
声色にひるみが現われる、それを見過ごさぬようにユウナは調子を更に強め圧迫(プレッシャー)を加える。
「父上、僕達は政治家なんです。奴ら連合を裏から支えるロゴスのような商人の援助は確かに重要です、いや、不可欠です。
 しかし、これからの戦争を見据えるとしたならば彼らの言う事を聞くだけの策だけでは無理だ」
「………どういうことだ」
「彼らの都合だけを聞いて同盟を結ぶだけならば、この国の理念に共感する人間達の反感を買うのは必至なんですよ。
 たとえそれが、国家の、ひいては国民の利益に繋がるとしても彼等は理想を信じることに盲目になっている。
 それが後々にテロへと繋がる事もありえますし、あの『孤児院』の連中がほうっておくわけがない」
「………フリーダム」
モニタ越しに会話する二人、それの脳裏に浮かぶのはあの幾重の羽根を背負った化物。
「そう。だからこそ、我々はデモンベインを利用する。
 破砕の如何によっては我々は同盟を白紙に戻す事ができ、国民の信頼を大きく得る事が出来る。
 戦争はプラントと連合だけでやってくれるはずですよ?
 失敗、もしくはそこまでの結果を生み出せずとも、行動の結果を脚色する事で同盟を仕方なしとする論調を生み出せる。
 もちろん、僕らで解明できないデモンベインのブラックボックスを彼らが解明できるわけがない。
 故に、接収されてもこちらには何の痛手もないしすぐにこちらへ返却されるというわけですよ」
そこまで言ってユウナはウナトと視線を合わせる。
「いかがですか、父上?」
思案するウナト、沈黙は約数分に及ぶ。
そして、
「とんでもない大博打だ」
ウナトに不敵な笑みが浮かぶ。
「ええ、国の命運を左右する大博打です」
ユウナにも。
「だが、彼らの出所はどうする?」
「それは、まあ、おいおい彼らと相談しますよ。強すぎる力というものをカガリがどう言うかも、ね」
「はは、詰めが甘いな」
ウナトから笑みが零れる。
それは久々に見る父としての優しい笑顔であり、ユウナはそれに驚きの念を隠せない。
ウナトとしては息子の成長が喜ばしかった事が理由にあるのだが息子である彼は知るまい。
「言わないでくださいよ、緊急だったんですから」
「ふん、緊急事態に出す案にはもっと精密さがいるのだ。
 そこまで見切れていないお前のミスだ」
「胸に留めておきます」
「良し分かればよい、ではこっちに戻ってきたらまた話そう」
「はい、父上」
そしてモニタは切れる。
「さて、こっちで打てる手は打ったよ二人とも。後は君達しだいだ、よろしく頼んだよ……」
工廠の一画に止められたリムジン、彼は夜空を見上げる。

 
 

眼前超弩級構造体に迫る。
デモンベインが微生物に見えるほどの巨大がそこに在る。
仁王立つ。
この破壊鎚を瓦解せしめ、消滅せしめる手段を講じる。
疾走する脳内情報、あらゆる外道の知識が、全ての段階を凌駕して必滅手段を構築する。
「ナアカル・キーは」
「無理ね。クイーンの認証式はこの前使い切ったわ」
「レムリア・インパクトは不可、か」
「そうね。でも、手段がないわけじゃないわよね」
不敵に笑む。
宇宙の論理を書き換え、世界の裏へと思考を伸張させる。
何も必滅の手段は1つだけではない。
紅朔の指が音楽を奏でるようにパネルを走る。
九朔の拳が存在の実在を認識し虚空を掴む。
双者の思考がたどり着く解は同時にして同意。
脳内に奔るそのイメージ―――それは銃。
口訣、脳内に術式を構築する。
「ふんぐるい・むぐるうなふ・いあ・くとぅぐあ――――!」
紅朔が謳う。
「ふぉまるはうと・んぐあぐあ・なふるたぐん――!」
九朔が謳う。
「「いあ・いあ――――!!」」
壱の呪文、しかしそれは弐の意を同時に持つ。
それは北落師門(フォマルハウト)より来たる神性への呼びかけ。
それは星々の間に吹き荒ぶ風に乗りて気たる神性への呼びかけ。
それは彼等の記述の中の最強火力にして最強冷力。
旧支配者であるが旧支配者に在らず。
それはデモンベインが神の模造品で在るが故に神の模倣である。
しかし、それは威力である。
デモンベインの両の腕、双極の威力が顕現した。

左腕、極寒の威力。
精錬された銀、耽美なる銀、研ぎ澄まされた刃の如く美麗。
六ある弾倉の最下部より死を吐き出す殺意の象徴。
回転式魔銃―――

「イタクァ!」

右腕、劫火の威力。
装飾を施されながらも無骨、何より兇暴。
前面下方に設置された弾倉に闘志を装填する破壊の象徴。
自動式魔銃――

「クトゥグア!」

それは二挺拳銃である。
既存MSには到底理解できないそのスタイル、そのデザイン。
旧時代の武具を纏いデモンベインは相対する。
デモンベインに刻まれた魔術紋様が激しく鳴動した。
唸る刃金が虚無の空間、宇宙空間を揺るがす。
宇宙の理を凌駕する魔術師の意識が星気領域へと到達、世界の式を書き換え、論理(ロゴス)を打ち砕く情熱(パトス)を打ち出す。
揺らぎ、デモンベインの周囲が顕現する存在の神気に歪む。
だがそれは決して根源悪意の外なる神がもたらす邪悪ではない。
明日へと続く希望を護る祈り、正しき怒りを撃ち出す昇滅の輝き。
「征くぞ、紅朔!!」
「もちろんよ、九朔!!」
構築された術式が唸った。
二挺が今まさに堕ちる墓標にその銃口を構えた。
双極の輝きが銃身に宿る、それは神威にて昇滅の儀式。
引鉄が絞られる。
そこから吐き出されるのは神性が織り成す破壊の一撃。
圧倒的暴虐が織り成すその名は――

「「イタクァ・クトゥグア―――神・獣・形・態!!!!」」

宣誓、打ちされた弾丸が七色の極寒と滅却の劫火を纏った。
弾丸は魔弾、極寒は翼持つ氷龍に顕現し星間宇宙を飛翔する。
極低温が宇宙空間に煌めくを生む。
弾丸は魔弾、劫火は焔纏う魔獣に顕現し星間宇宙を疾駆する。
超熱量が宇宙空間を嘗める陽炎になる。
氷龍と魔獣は星間宇宙を舞い、螺旋を描き、魔力の咆哮を轟かせる。
虚空に浮かぶ墓標への絶対無比の破滅の宣言、無音空間に響いた魔力の咆哮をその場にいた者全てが聞く。
轟く咆哮は滅火と極低温、双極の破壊がユニウスセブンに絡みつく。
劫火は大地を嘗めた。
燃え盛る躯、超熱量に触れ全てが物質の楔から解き放たれ蒸発する。
極低温は大地を疾走った。
凍える双翼、虚無に咲いた煌めきは全ての物質を氷結させ塵にする。
吹雪と劫火は瞬く間にユニウスセブンを呑んだ。

 

――そして静寂と咆哮の内にユニウスセブンは昇華した

 

ミネルバ艦橋、その場にいた全ての人間はその圧倒的光景を目の当たりにした。
それは人智を超え、あらゆる常識を超越した、壮絶なまでに苛烈な輝き。
宇宙空間を吹雪が舞い劫火が嘗める、物理的・科学的・常識的に決して在り得ぬ光景は彼等の眼前で繰り広げられ、そして終息した。
「ユニウスセブン………消失(ロスト)を……確認」
淡々と、圧倒されたその驚愕に感情を失い、メイリンはその事実だけを口にする。
「そう……」
タリアもまた同じく。
「…………」
「…………」
デュランダル、カガリもまた同じく。
沈黙、誰も声をあげることができない、理解が未だ及ばない。
目の前の現実を脳が処理し切れていない。
だが、それもすぐ。
壮絶なそれに流された感情は引いた波の如く、揺り返し、津波となる。
果たして、それまで沈黙だった空間に誰かの小さな呻き。
それが切欠、決壊した感情に彼等は歓声を上げた。
「お、おおおおお!! おおおおおおおおお!!!!!」
それは喜び、だった。
絶望の闇黒を打ち祓われた彼等は手に手を取り合い抱き合った。
男も女も関係ない。
ブリッジにいた者もそれは変わらなかった。
オペレータ達は隣にいた者と手を取り合い、メイリンはアーサーと抱き合った。
カガリは顔を押さえて嗚咽していた。
しかし、違う者もいる。
「いったい……あれは………」
タリアはユニウスセブンの存在していた場所を見ていた。
余りにも圧倒的過ぎたその力、その力を持つあの機体に感謝と同時に畏怖を抱いた。
あの巨大なMS、あれはいったい何なのだ?
拳銃のようなあれから射出されたあのエネルギーは何だったのだ?
単機でユニウスセブンを消滅させる非常識、ご都合主義にも程がある。
「タリア」
そんな彼女の肩にデュランダルは手を置いた。
「議長……」
「私たちはもしかすると、今、歴史の一幕を見ているのかもしれないね」
そんな彼の瞳は少年の輝きを秘めていた。
そういえば、昔の彼はこんな顔をいつもしていた。
それを変えてしまった自分自身、タリアにその瞳は酷く懐かしかった。
「久しく、こんな気持ちになったことはなかったが……うむ、良いな」
口元に微笑を浮かべ、デュランダルは黒の機体を見た。
雄々しく聳えるそれは要塞のように堅牢、しかしそれが放つものは優しく暖かい。
だが、今はそれだけに固執するわけにもいくまい。
その瞳を為政者のそれにし、彼はかつての恋人へ向かいなおす。
「艦長、あの機体への通信は可能かね?」
「お、恐らくは」
「では、出来うる限り早く頼む」
是、とタリアは首を縦に頷く。
「メイリン、あの機体との通信を繋いで」
「あ、はい! 分かりました!」
喜びもようやく波を退いたのかメイリンはすぐにディスプレイの前に座り作業を開始した。
歓喜が満ちるその場、しかし、それは突然に終わりを告げる。
「か、艦長!!」
通信を試みていたメイリンが悲鳴のような叫び声によって。
それこそが真の物語の始まり、全ての終わり。
さあ、宇宙狂想曲の始まりが始まる。
「熱源反応多数………何かが、現れました!!」

 
 

その瞬間、九朔/紅朔は感じるはずのない『ソレ』を感じ取った。
それは決してあるはずのない、存在してはいけないものであった。
昇滅したユニウスセブン、虚空の空間にそれは顕現する。
そこに現れるのは魔方陣、忌むべき邪神たちの紋章。
そこに在らざる可能性が在る物として構築される。
それは六の方陣を描き、六の存在を顕現させる儀式。
それは次元の壁を突き破り、宇宙を突き破りそこに在るのだ。
その存在を認識した時、紅朔/九朔から表情が消えた。
そして、戦慄した。
それは正しく、違いて、そこに生まれ堕ちた。
「何故だ……何故、お前がそこにいる!?」
「どうして……どうして、なんで!? なんでお前がそこにいるの!?」
それは黒い怪鳥であった。
それは鋼鉄の神であった。
それは神の模造品であった。
それは共に戦った者であった。
それは己の一部であった。
それは復讐者の剣であった。
それは在り得ざる者の刃だった。
それは母の一部であった。

「「なぜ、お前がここにいる――――永劫(アイオーン)!!」」

 

―――それは六の永劫(アイオーン)だった

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