GUNDAM EXSEED_B_38

Last-modified: 2015-08-28 (金) 20:36:18

ハルドとロウマが戦いを繰り広げていた最中、セインのブレイズガンダムとガルム機兵隊の戦いも激しさを増していた。
「でやぁぁぁぁぁっ!」
イザラの機体の対艦刀がブレイズガンダムの脚を打撃する。切断が不可能である以上、打撃と言うしかなかった。
その一撃は足払いのような役割を果たし、ブレイズガンダムは体勢を崩す。その瞬間を狙って、ドロテスのアシストとタイミングを合わせたギルベールの機体の攻撃が左肩を直撃する。
そして、ゼロのコンクエスターとガウンの機体の連携攻撃も成功し、脚の関節にガウンの機体の攻撃が直撃する。
「しかし、硬いな」
「だが、見た感じはボコボコでどうしようもなさそうだがな」
イザラとドロテスが言った。
セインはコックピットの中で何が何だか分からなくなっていた。攻撃しているのに当たらない。全身が痛い。気づくと転ばされている。訳が分からなくて、セインは気が狂いそうな気分だった。そして全身の痛みで今にも泣きだしたかった。
「ちくしょうちくしょうちくしょう、僕は強いんだぞ、強い奴をこんな風にするなんておかしいだろ!?僕は最強だぁぁぁぁ!」
セインがコックピットの中で、そう叫んだ瞬間、ギルベールの赤いザイランが左肩のシールドに内蔵された杭打ち機を直撃させた。
「いたぁぁぁぁぁっいっ!痛いよ痛いよ、なんなんだよ、なんでこんなことするんだよ、ふざけやがって、皆殺しにしてやる」
ブレイズガンダムは数百メートルの長さのビームサーベルやたらめったと振り回した。
「子どもが棒を振り回しているような動きだな」
イザラはビームサーベルといって良いのか分からない長さと太さのビームの刃を軽く回避しながら言う。
「そう言うな、必死なんだろうよ」
ドロテスの褐色のザイランがビームライフルを撃つ。
「ほら、セイン行くぞぉ」
ドロテスの機体の放ったビームライフルでバリアが弾けた瞬間、またもギルベールの機体の杭打ち機が直撃した。
「ぐうううう痛いって言ってるだろ!なんなんだよ、やめてくれよ!僕は強いんだぞ、強い奴の言うことを聞けよ!」
セインはコックピットの中でひたすらに叫んでいた。言葉は完全に支離滅裂だった。
「嫌だ、痛い、嫌だ。助けて、父さん、母さん」
そう呟いた瞬間、セインはその二人がいないことを思い出して涙が溢れた。
「誰か守って、守ってください、僕を守ってください。守れって言ってるだろ!僕が最強なんだから、僕を守れよ!」
言ってセインは気づく、もう自分を守ってくれる人も大切にしてくれる人もこの世にいないこと。
「父さん母さん父さん母さん……僕が強かったら良かったんだ」
強ければこんなことにもならなかった、痛い思いもしなかった。戦わなくても良かったし辛い思いもしなくて良かった。
「強さ強さ強さ、強さをくれよ、強さをくれよ、強さをくれって言ってるだろっ!」
もう良い、全部いらない、強さがあれば全部戻ってくる、全部なくても良いから強さを下さい、全てをずっと大切にしたいから全てをなくしても良いので強さを下さい。矛盾の狂気を抱き、セインはコックピットの中で胎児のように丸くなりながらひたすら願った。
その時だった、コックピットに電子音声が響いた。
(パイロットの脳波からEXSEEDと同一のものを観測。プロジェクト:ブレイズは第2段階へ移行、現行機のリミッターを解除し“ギフト”『セラフの火』を解放します)
その声が聞こえた瞬間だった、強烈な頭痛と共にセインは自分が切り替わり変貌していくような感覚に襲われた。

 
 

それと同時にブレイズガンダムにも変化が生じていた。急に攻撃を止め、ビームサーベルも捨て、棒立ちとなっているブレイズガンダムに警戒しガルム機兵隊。その目の前でブレイズガンダムのバックパックが内側から噴き出る何かに破壊された。
噴き出るのは炎のような赤い粒子の奔流。それが宇宙に舞い上がって行く。その場にいた者全員が危険だとしか思えなかった中で、吹き上がる炎のような奔流はやがて形を変えていった。
それは見るもの全員が同じ感想を抱く形。翼だった。しかし、燃え上がり揺らめき背中から生える二枚の翼。天使を思わせる形だが、美しさよりも危険さを感じさせる翼だった。
ブレイズガンダムはバックパックを粉砕し、胴体の奥底から、その炎の翼を生やしていた
「なんかヤバくね」
「奇遇だな俺もそんな気がしていた」
ドロテスとギルベールが話しているとイザラも加わる。
「私も危険な気がするな」
そう三人が話した直後だった。ブレイズガンダムが背中の翼を振る。ガルム機兵隊の面々は、その行動に何の意味があるのか、即座には理解できなかったが、直後に理解した。
ブレイズガンダムが翼を振るうと同時に炎の矢のように羽が拡散してガルム機兵隊に襲い掛かった。数はそれほどでもなかったため、回避には困らなかったがイザラはどのような攻撃なのか、シールドを使い敢えて受けてみた。
そうしたところ、イザラは驚愕した、羽がシールドに突き刺さっているのだ。そして、それだけではなく、刺さった部分から周囲をドロドロと熱で溶かしていた。
「受けるな!熱で溶かされるぞ!」
そんな馬鹿な、とガルム機兵隊の面々は思った。ビームを防ぐシールドを溶かす熱量とはどれほどのものなのか。ガルム機兵隊の面々がそんなことを考えているとブレイズガンダムは新たな攻撃を見せた。
それは炎の翼を伸ばして、翼で薙ぎ払うというものだった。シンプルな攻撃、しかし、ビームサーベルでの攻撃より明らかに速かった。ドロテスが回避にしくじり、機体の片足を翼に飲み込まれる。飲み込まれた瞬間にドロテスは自機の脚が消し飛んだことが分かった。
ガルム機兵隊からすれば全ての攻撃が未知のものだ。反撃など危険を冒す行為はしたくなかったため、様子を見ようとした。すると、ブレイズガンダムの攻撃はどうやら、羽を飛ばすことと、翼で薙ぎ払う以外にないことが分かった。
ならば、容易い。そう思って、イザラのシャウトペイルが接近しようとした瞬間だった。ブレイズガンダムは片方の翼を自分を守るようにたたみ、それにくるまった。イザラは対艦刀を止めずに振り下ろした。
しかし、無駄だった。対艦刀は炎の翼に触れた瞬間、ドロドロに溶けて使い物にならなくなった。
「手詰まりだな」
イザラはそう言いながら、溶けた対艦刀を捨てる。
攻撃だけではなく、防御も手に入れたブレイズガンダムに対し、ガルム機兵隊はなすすべもなく。ただ、何かが起きるまで、攻撃を避け続けるしかできなかった。

 
 

「ブレイズガンダムってEXSEED関係の機体だって前に言ったっけ」
ハルドとロウマは一時休戦して、変貌したブレイズガンダムの暴れっぷりを眺めていた。
「聞いたな。俺の読みだとパイロットをEXSEEDに作り変えるシステムでも入ってんだろ?」
ロウマは拍手をした。それは通信でハルドの元にも届く。
「ご明察だね。まぁそんな感じ、電磁波やら何やらを流すことで、脳内電流をEXSEEDのものと近づけて云々て感じだったかな。狂暴になるのは副作用かな、それを和らげるために脳内麻薬がドバドバ出るようにも色々しているらしいよ。
乗っている間は福音って言うらしいけど、天の声が聞こえて気持ち良くなって戦闘狂になるんだよね。戦闘狂になるのは実戦で使えるEXSEEDを作るって目的もあんだけどね」
ロウマが話すということは、話しても対して問題になることではないのだろうとハルドは思った。
「感覚同化できんの?」
ハルドは何となく聞いてみた。感覚同化とはEXSEEDの能力で機械などに自分の感覚を投射し、機械など思考の思いのまま自在に操る物だ。通常の脳波操作とは違うのは、感覚レベルで機械などと同化できるというところだ。
「ばっちり積んでるねぇ、でも普段は感覚の同化はないよ。フィルタリングっていうか、リミッターがかけられているからね」
「どうせ簡単にリミッター解除できるんだろ」
ハルドがウンザリしたように言うと、再びロウマは拍手した。
「またまた、ご明察。コード:ブレイズ、この一言でリミッターは解除、脳味噌を強制的にEXSEEDと同じ状態にするわけ。そうすると当然、機体と感覚同化が起きる」
そう言うと、ロウマは、あ、と何かに気づいたような声を出した。
「俺の部隊の奴が、感覚同化してるブレイズガンダムを思いっきりぶっ叩きまくってたからねぇ、セイン君。キレちゃったから、あんなことになってるのかも。嘘だけど」
速攻で嘘とばらしやがった何がしたいんだか、全く分からんとハルドは思った。
「とにかく、早く何とかしたほうが良いよ。アレだと見境なし、完全に暴走状態だね。ハルド君の大切なクランマイヤー王国も焼き尽くされちゃうよ。頑張ってセイン君を倒したほうが良いと思うけどね、俺は」
この野郎、俺とセインを戦わせるつもりだな、とハルドはロウマの考えが読めた。しかし、実際問題、ロウマはやる気がなし、ロウマの手勢は役立たずだ。クランマイヤー王国に危害が加わるなら、自分が行くしかないかとハルドは思った。
「弱点は頭か心臓の位置だったよな」
MSと感覚が同化している以上、頭が壊されれば自分の頭が吹っ飛んだと思って意識を失う。心臓の位置も同じ理屈だ。
「流石はEXSEED殺しのハルド君。なれたもんだね」
「次にそう言ったら、お前を先に殺すからな」
ハルドはロウマに、その忠告だけ残して機体をブレイズガンダムへ向けて発進させた。
ロウマはハルドの忠告を聞いてもヘラヘラと笑っていた。そして、ガルム機兵隊の面々に通信する。
「はい、ガルム機兵隊の雑魚の皆さん。ご苦労様。今から最強の援軍が行くので雑魚たちは一時撤収、よろしく」
あくまでガルム機兵隊を小馬鹿にした通信を一方的に送ると、ロウマは高みの見物の決め込むのだった。

 
 

「おい、ハルド、外はどうなっている!?出撃しても良いのか!?」
籠が解除されたから、クランマイヤー王国の機体も参戦可能となっているが、ハルドは多分邪魔にしかならないだろうと思った。アッシュクラスがいても恐らく一人の方が楽に戦えるだろうと思った。なのでハルドはこれだけ伝えた。
「俺の使う武器運搬係が欲しい。それ以外は来んな。あとレビーとマクバレルは俺が欲しいと言った武器をすぐに用意できるように待機しててくれ」
了解した。という声が聞こえたこれで安心して戦えるというものだ。
「さて、セイン・リベルター君。殺し合いでもしてみようか?」
ブレイズガンダムに対してネックスが接近する。それを振り払うかのように翼の薙ぎ払いが来るが、なんてことはない攻撃でハルドはブレイズガンダムに接近する。すると今度は翼にくるまる。
「さて、斬った感じはどんなもんかね」
ネックスはビームサーベルを抜き放ち、炎の翼に斬りかかる。当然というか、結果は全く刃が通らなかったわけだが、ハルドは違和感を覚えた。
「少し干渉があったな。構造的にはビームシールドに近いか?」
そう思ったハルドはレビーに連絡を取る。
「耐ビームコーティングを、相当ぶ厚くした実体剣を用意してくれ」
レビーから了解の返事が聞こえると共に、くるまった状態の翼から羽が発射される。そういうのもありだろうな、と思っていたのでハルドは苦も無く避けるが、そのついでにシールドの先の方に、羽をわざと当ててみた。そして、シールドに刺さった羽を観察してみる。
熱量は凄いが速度は大したことなし、そして気になったのでビームサーベルを羽に当ててみると、ビームサーベルと鍔迫り合いになった時と同じような干渉に仕方をした。
なるほど、羽というよりは超高出力のビームサーベルを飛ばしているということかとハルドは考えた。羽がそうなら、大元の翼も恐らく超高出力のビームではないかとハルドは予測した。
炎の翼のように見えるが、見えるだけで、ただのビーム。神秘性もなにもあったものではないとハルドは思い、とりあえず色々と試してみようと思った。
「耐ビームコーティングをクソ厚くした散弾とショットガンをくれ」
ハルドはレビーに連絡した。さて、どれくらいで削れるのか試してみようか。ハルドは、実験をするような気持ちでブレイズガンダムの相手をする気になっていた。
ハルドは、しばらくは回避に専念した。武装が来なければどうにもならないからだ。
「おい、武器だ」
通信で声が聞こえてきたのはアッシュだった。アッシュが運搬役とは豪勢なことだと思ったが、ブレイズガンダムに接近する可能性もあるのだからアッシュくらいの腕が無いとダメかと思った。
アッシュから渡されたのは、古臭い形のポンプアクション式のショットガンだった。
「こんなんしかねぇの?」
「そもそも、MS用のショットガンが廃れているんだ。文句を言うな。弾は用意できたので三発だ。大事に使え。あとショットガンも、それ一丁だからな」
そう言うと、アッシュは戻って行った。ブレイズガンダムの現状に関して色々と質問したいこともあるだろうが、それは後回しということだろうとハルドは思った。今は現状をどうにかするということをアッシュは優先しているのだとハルドは考えた。

 
 

「さて、怪物退治はショットガンが定番だが、どうしたもんかね」
とりあえず、効果があるのか試してみようと、ハルドはネックスを操りショットガンを構えさせると、ブレイズガンダムが翼での薙ぎ払いをする距離を取ってみた。するとハルドの考え通りに翼での薙ぎ払いをする。
「ワンパターン過ぎねぇかな」
きょうびゲームのキャラでも、もっと多彩な攻撃をしてくるが。そんなことを思いながらハルドはネックスを操り、翼を軽く躱し、そして狙いをつける。狙いは翼が伸びて薄くなった部分、翼の先端部だ。
「とりあえず、通るかね」
物は試しという感じで言いながら、ハルドはショットガンを撃つ。その効果は思った以上だった、翼の先端部の薄い部分はショットガンの散弾で軽く穴が空き、散弾によってズタズタにされた翼の先端部は形を維持できなくなり、散っていく。
翼の先端が散っていくと同時に、ブレイズガンダムがもだえ苦しむような動きを見せた。
「お前はお前で、機体は機体だぜ、セイン。って今更言っても遅いか」
ネックスはもだえ苦しみながらもブレイズガンダムが無事な片翼を薙ぎ払いに用いてきたので、それを軽く回避しながら、一枚目の翼と同じように先端部をショットガンで吹き飛ばした。
「さて、先端は効くが、根本の方はどうかなっと」
ポンプアクションのショットガンを操作しネックスは翼の根元に近い部分を撃ってみた。しかし散弾は厚い耐ビームコーティングがされているのにも関わらずビームの翼を貫ききれずに溶け落ちていった。
「翼に停滞してた感じを見るに、貫通力が足りないって感じだな。レビー、実体弾を高速で撃ちだすライフルをくれ。弾は特別にコーティングした奴な」
「注文が多すぎます。間に合いませんよ」
じゃあ、待つよ。という感じに言って、ハルドは通信を切った。その直後、ブレイズガンダムの羽が飛んできた。狙いを多少絞ってはいるようだが、それでも回避は簡単であり、ネックスは軽く避けて見せた。
すると、回避直後のネックスを翼が襲った。それも今までのような薙ぎ払いではなく、翼の先端による突きだった。
「おっと」
不意を突いたつもりだったろうが、回避できる範囲内だった。こういう動きもしそうな気がしていたため、ハルドには予想の範囲内だった。
「どうした?悪い頭で考えた結果がこれか?」
ハルドはブレイズガンダムを侮って言う。通信はブレイズガンダムと繋いでいた。すると驚いたことに反応が返って来た。
「なんだよ、なんなんだよぉぉぉぉぉ!あああああああ!」
翼が荒れ狂い、ネックスに襲い掛かる。
「訳わかんないんだよ、ぶっ殺してやる。僕が最強なのに、僕より強いなんておかしいだろぉぉぉぉぉ!」
ブレイズガンダムの背中の二枚の翼が長さを増し、ネックスに襲い掛かる。翼は突き、薙ぎ払い、叩き付け、その全てを織り交ぜて、ネックスに襲い掛かるがネックスはその全てを軽く回避して見せる。
「ちくしょうちくしょうちくしょう、弱くない弱くない弱くないんだぁぁぁぁぁ!」
セインの叫びはすべてハルドの元に届いていた。その必死さもハルドには伝わった。そしてハルドが返した言葉は。

 
 

「くだらねぇ」
たったそれだけの感想しかハルドには浮かばなかった。ガキが自分の思い通り上手く行かないのを世界に対して叫んでいるだけなのかと思うと、ハルドは気持ちが急に冷めて来るのを感じた。
「ハルド、弾と剣だ」
ちょうどいいタイミングでアッシュの乗るキャリヴァーが補給を届けに来た。ハルドのネックスと、アッシュのキャリヴァーは荒れ狂う翼をかいくぐりながら、補給の受け渡しを手渡しで行った。
「弾は六発、ショットガンの装弾数限界と同じだ。撃ち切ったら連絡を寄越せ。剣はビームサーベルより少し短い実体剣だ。コーティングを厚くし過ぎたせいで切れ味は保証できないらしい。……それはいいとして、どうしたんだ明らかに荒れてるぞ?」
アッシュがブレイズガンダムについて尋ねてくる。ハルドはくだらないことだと思いながらも応えた。
「思春期のガキ特有のヒステリーみたいなもんだ。一応、師匠らしいし俺が始末をつけてやるとするよ」
そうハルドは言うとアッシュのキャリヴァーから距離を取り、再びブレイズガンダムに向かう体勢になる。
「しかし、強いって根拠はどこから出てくるのかね」
翼の突きが真っ直ぐネックスを襲うが、ハルド別段恐れることなく、翼に対して真っ直ぐショットガンを発射した。散弾は翼に直撃しズタズタだった先端部がさらにバラけて散る。
ハルドは思った通りだと結果から理解した。どうやらブレイズガンダムの炎の翼は胴体の奥底から放射状に伸びているビームの束であるということに。そのため、翼に対して縦の攻撃は通じにくいが横に裂くような攻撃は通じやすいという結論に至った。
「俺は自分がそれなりに強いとは思うが最強なんて傲慢な考えに至ったことはないけどな」
ハルドは喋りながらネックスを動かしつつ、ブレイズガンダムの攻撃を見極める。次に来たのは翼の薙ぎ払いだ。
ハルドはネックスを操縦し、炎の翼の先端ギリギリの位置を取るように動かした。そして、炎の翼の薙ぎ払いが来ると、翼の先端を横方向に裂くように実体剣を振るった。
その瞬間、炎の翼の片方の先端が真ん中から二つに裂けた。
「やっぱり横方向に弱いな」
ハルドは攻略法を得たと確信した。取るに足らない相手だと、今になると思う。見た目の威容はある。なにせ炎の翼を生やした機械の天使様だ。だが乗ってるのは駄々をこねているガキ。相手にならないとハルドは思った。
「なんでなんでなんで、僕の前に立つんだよアンタはぁぁぁぁぁ!」
「知るか。つか、うるせえ。落ち着け」
先端が裂けたことで、新しい攻撃方法を思いついたのか、ブレイズガンダム背中の二枚の翼を自ら複数に分かち、計六枚の翼が新たに生まれた。
だからと言って、ハルドは別段恐ろしくもなんともなかった。
攻撃が一度に六つ来るだけで、攻撃自体はワンパターンであくびが出そうだったし、翼を分割したことで一枚ずつの強度は落ちていたのでショットガンで先端を雑に撃って、翼は散った。そして、セインは悶え苦しむのだ。

 
 

「いたいぃぃぃぃぃ。痛い痛い痛いんだよ!なんでだよ、僕は強いんだぞ!」
聞こえてくる声にハルドは呆れたように返す。
「お前は弱いよ。俺より強いところなんて何一つ無いだろうが」
その言葉がセインに届いた瞬間だった、それまで翼で攻撃していたはずのブレイズガンダムがネックスに向かって突進をした。
「ハルドぉぉぉぉぉっ!」
くだらねぇ、ハルドはそれしか思わずに、ネックスを動かす、動きは最小限。向かってくるブレイズガンダムにショットガンを向けるだけだった。
ブレイズガンダムは突進して何をしたかったかというとネックスの顔面へと右手でパンチをしたかったのだ。ハルドは機体の首を傾け、そのパンチを簡単に躱すと、ショットガンをブレイズガンダムの左肩に押し当てた。
「悪いが目を覚ます時間だ。最強って夢からな」
ハルドが言った瞬間にネックスはショットガンを発射しバリアを弾き飛ばし、それと同時に実体剣をブレイズガンダムの胴と肩を繋ぐ関節の隙間に突き刺す。
機体の強度からいって刺さることはなかった。だがハルドは関節の隙間に刺した実体剣に、“てこの原理”で力をかけ、ブレイズガンダムの胴と肩を繋ぐ関節フレームをへし折ろうとした。
バリアは継続的な力がかかっているため、機能を失っていた。そして機体を操るセインは痛みに襲われていた。関節技で関節を外されるような痛みであった。
「痛い痛い痛い、止めて、ハルドさん、痛いんだよ!」
ハルドはセインの声を無視してネックスのスラスターの出力を最大にし、全パワーをもって力をかけた。その直後、セインの耳にだけ、ベキッ、という何かが折れる音が聞こえ、セインの肩に激痛が走った。
「ハルドぉぉぉぉぉ!?」
ハルドはうるさいと思いながら胴と肩の関節フレームをへし折った勢いで、同時に曲がった実体剣を放り捨てビームサーベルを抜いた。
「レビーとマクバレルから聞いたんだけどよ。ブレイズガンダムはフレーム経由でパワーを供給しているらしいけど。そのフレームが折れるとどうなるんだろうな」
ハルドは独り言を言いながら、ブレイズガンダムの左肩にショットガンを撃ってみた。バリアは発生せずに散弾が、左肩の装甲にめり込む。セインの身体も同じ痛みを受け、悲鳴をあげていた。
「確かに、MS戦じゃ廃れる武器だな。装甲を貫通出来ないんじゃ。でもビームサーベルはどうなんだろうなっと」
そう言ってハルドはネックスを操り、無造作にブレイズガンダムの左肩を切り落とした。その瞬間だった。
「ぎゃああああああっ!」
セインの絶叫がハルドの耳に届いた。感覚が同化しているなら、セインは左肩を斬りおとされた痛みをあじわっているというわけだとハルドは思った。
「弱いな」
弱点やら何やらがハッキリしすぎているためハルドとしてはロウマのマリスルージュよりもはるかに戦いやすかった。
「さて、セイン君。俺はこれからキミをダルマにして、その物騒な背中の翼を引き千切り、頭を吹っ飛ばす予定なんだが、どうする?」
ハルドは何となく尋ねてみた、すると返ってきた声は、歯をガチガチをと鳴らし、震えているのがハッキリと分かるのに強がるセインの声。
「殺す、殺してやる、殺してやるぞ、ハルドぉ」
いいね、とハルドは思った。流石に仲間だ。一方的にイジメ殺すのは、ハルドも多少は心が痛む。少しは抵抗してもらったほうが気兼ねせずに済むというものだ。

 
 

「じゃあ、セイン。少し痛い目にあってもらおうか」
そう言うとハルドはネックスを操り、ハルドに操られたネックスはショットガンを片手にブレイズガンダムに突撃するのだった。
ハルドはいけるか?と若干様子見をしながら動いていた、接近しているのにも関わらず、炎の翼で身を守ることもせずに、ブレイズガンダムは右腕と両足を振り回していた。
「頭が弱いなぁ」
そう言いながらハルドは右足で蹴りを放ったブレイズガンダムの脚を掴む。
「頭が使えればこんなことにならずに済むのにな」
ハルドはそう言いながらショットガンを右脚に絡ませながら、ネックス自体もブレイズガンダムの右脚に絡ませながらスラスターを全開にする。
その瞬間、セインは悲鳴をあげた。何故ならブレイズガンダムの右ひざの関節フレームに本来曲がらない方向へと力をかけられていたからだ。
「対MS用サブミッション・ホールド。地球連合軍で開発されたが馬鹿らしくて習得してるやつは、ほとんどいない技だ。貴重な技を味わえてうれしいだろう」
MSの関節が一定のものではないと極まらない、MSの形状などによっては極まらないなどの成功率が低すぎるという理由で、地球連合軍でも馬鹿話の1つとして扱われる類のものだが、ハルドは、それを完全に習得していた。
「なるほどな、関節技ならバリアが発生してもすぐに消えてほとんど意味がないから、ブレイズガンダム相手だったら最高の技だな」
ハルドは思った以上に効果があったので、満足だった。通信から聞こえてくるセインの悲鳴も、なるほどMSが食らったらこんな風に痛がるのかという勉強になった。そしてほどなくしてブレイズガンダムの膝関節のフレームがへし折れる。
すると、ネックスはブレイズガンダムの脚を離し、なんてことはないという動きでブレイズガンダムの右ひざを斬り、右ひざから下を斬りおとした。
再びセインの悲鳴がハルドに届くが、ハルドは完全に無視した。
「ちくしょう、僕の腕、僕の脚、どうすんだよどうすんだよ!どうしてくれるんだよ!これじゃ歩けないよぉ……ちくしょうちくしょう、殺してやる、ハルドぉぉぉぉぉ!」
うるせぇなぁ、と思いながら、ハルドはネックスを操り、襲ってくる六枚の炎の翼を回避する。
一枚目は薙ぎ払い、上方向へと移動し回避。二枚目は、回避したところ狙った逆方向からの薙ぎ払い。ハルドは機体を水平にし、一枚目の翼との隙間に入るようにして回避する。
三枚目はまっすぐ伸びてくる翼の突き。これは水平状態のままスラスターを全開にして上方向へと回避した。四枚目はスラスターで上昇した先に待ち構えていたように、叩き付ける動きの翼。これは横方向に機体をローリングさせながら回避した。
五枚目は横方向にローリングしている際に進行方向から襲ってくる、薙ぎ払いの翼。ローリングの最中、スラスターが上方向を向いた瞬間に全開にし、下方向へ急加速し回避。
六枚目は下へ急加速したネックスを狙った薙ぎ払いの翼。ネックスは脚部のスラスターだけを全開にし、急制動をかけ、薙ぎ払いを回避することもなく、空振りさせる。
「ほんと、雑だな。戦い方が。相手が逃げたところを狙って攻撃する。だけどな、俺が回避手段を用意していない場所に逃げるかよ」
ハルドはもう詰みだと思った。
ブレイズガンダムがなんだというのだ。たいしたことなどない、性能がいくら高かろうが、馬鹿話で済まされるような技で容易く壊される機体ではないか。
EXSEEDがなんだというのだ。機体と感覚が一体になる?それによって機体を自在に扱える?だが、所詮は痛い痛いと叫ぶだけしかできないではないか。ただの人間を舐めすぎだ。そんなものなど無くともMSなど自在に扱える。
“ギフト”がなんだというのだ。馬鹿らしい。超技術だろうが、実際にはそんな技術があっても全く相手にならないではないか。これなら普通の人間の作った物の方がよっぽど役に立つし、恐ろしいだろう。

 
 

「虚栄と虚飾にまみれすぎだよ。お前もお前の機体も、何も真実がねぇ。空想の世界で吼えるだけで、現実を必死に生きてないんだ」
ただの人間を舐めるな、とハルドは思っていた。そしてただの人間がひたすらに鍛え上げ磨き上げ続けた力を舐めるなとも。安易な物に頼らず、本物の自分の力だけで勝ち取って来たものを持つ人間の恐ろしさを。ハルドはセインに叩き込んでやろうかと思っていた。
ハルドはセインに言ったが、今のセインには意味は分からないだろうし、これから先ずっと分からないかもしれないとも思った。少なくとも今のままではセインは気づかないだろうとハルドは思うのだった。
ネックスは先ほどのサブミッション・ホールドに使ったために銃身が曲がったショットガンを放り捨てる。
するとちょうどいいタイミングで、アッシュのキャリヴァーが補給を渡しに来る。補給は実体弾のライフルとナイフだった。実体剣は用意に時間がかかるのでそれで我慢するようにとのことだった。まぁいいとハルドは思った。
まぁ、軽くやろうとハルドは思った。軽くやって仕留められる相手だ。そう思った直後にブレイズガンダムが素手で突っ込んでくる。ハルドのネックスは突っ込んで来たブレイズガンダムのコックピット辺りにライフルを撃ちこんだ。
バリアがあっても、コックピットの中はさぞ揺れたのだろうとハルドは思った。何故ならブレイズガンダムの動きが止まったからだ。その瞬間にネックスはブレイズガンダムに飛びかかりしがみつく。
そしてしがみつきながら、ネックスはナイフを胴と肩の関節部に差し込み、力を込め続ける。すると、バリアが弾けては消えるという状態が連続した。その間にライフルを関節部に差し込み、ネックスはひたすらに関節部にライフルを連射した。
セインの痛い痛いという声が聞こえたが、それがある種のシグナルだと思い、ひたすらにナイフを関節部に突き立て続けたまま、ライフルを連射した。すると、突然セインが悲鳴をあげたので、ハルドは右肩もやったという確信を得た。
そして試しにナイフを思い切り突き刺した。ナイフの刃は思ったよりも簡単に関節部のフレームに突き刺さった。セインはこれでいいかと思い、ナイフで関節部のフレームを滅多刺しにして右肩と胴の繋がりを斬り裂いた。
今回はセインの悲鳴が無かった。ハルドは仕方ないかと思った。人間で言えば、肩をナイフで滅多刺しにされて胴体から引きちぎられたのだ。人間なら普通ならショック死だ。しかし可哀想なことに機体と感覚同化したEXSEEDにショック死というものはない。
「殺してやる……殺してやるぞ……ハルドォ……」
聞こえてくる声は虫の息だった。しかし手足を潰して、頭を潰さなければEXSEED機というのは何が起きるか分からないのだ。ハルドは念には念を入れて最後に左足も潰すことにした。
「悪いな、戻ったらメシくらいは奢ってやるよ」
そう言うと、ハルドは残った左脚に狙いを定める。ブレイズガンダムの方はまともな攻撃手段として残っているのは、左脚で相手を蹴るくらいだった。
ハルドは案の定といった感じで、襲ってくるブレイズガンダムの左脚をネックスで受け止めると、わずかに前へと出て、左脚と股関部を繋ぐ、脚の根本の関節にナイフを突き刺した。
「一応、味方機だからな、どこに何を刺せば動かなくなるかは分かる」
ハルドはそう言いながら、ブレイズガンダムの股関節部分を見ると、ナイフがつっかえになり、動かすだけで異常な負担がかかっているように見えた。

 
 

「ぎぃぃぃぃぃっ!」
セインは声にならない悲鳴をあげていた。ハルドは効いているなと思い。とりあえず様子を見た。その間も炎の翼が襲ってくるが、攻撃のパターンは単調で、避けるのも楽過ぎて欠伸が出そうになっていた。
バリアは弾けては消えている。つまりは継続的なダメージが入っているという証拠だ。ブレイズガンダムは機体を動かす度に股関節の左脚を繋ぐ部分に負担がかかっているのだ。
「もういいか」
ハルドはそう言うとネックスでブレイズガンダムの懐に飛び込み、左脚を右腕で抱え込むように持ち上げる。それだけで、ナイフが突き刺さっている関節部への負担が極端に増し、ブレイズガンダムの左脚の根本の関節フレームは呆気なく折れた。
ハルドはネックスにナイフを回収させると、次にビームサーベル抜き放ち、左脚を根元から斬りおとした。
「があぁぁぁぁぁ!」
セインの絶叫が聞こえる中、まぁこんなものかとハルドは思い、四肢を失ったブレイズガンダムを見る。あとは鬱陶しい翼かと思い、ハルドはネックスを操り、ブレイズガンダムに向かう。
ブレイズガンダムは、ネックスを近寄らせないように翼を振り回すが、ハルドのネックスは苦も無く回避し、ブレイズガンダムに近づく。するとブレイズガンダムは翼にくるまり、防御姿勢を取ったのだった。
「なんだ?俺が怖いか?」
ハルドはそう言うと、ネックスでブレイズガンダムを飛び越え背後に回り込む。狙いは炎の翼なので、別に本体が防御を固めていてもどうでも良かった。
「へー」
特別関心があるわけでもないが、ハルドは翼の発生源を見て呟いた。翼の発生源は機体の中に浮かぶ炎のような球体だ。真空中で炎が燃えるわけはないので、炎とは違う物質、これが“ギフト”という物なのだろうとハルドは思った。
“ギフト”自体を刺してみてもいいと思ったが、何が起こるか分からないので止めておき、翼を引き千切ることを優先しようと思い、ハルドは翼にナイフを突き刺した。
ナイフを水平にして刺す。ブレイズガンダムの炎の翼は横方向に攻撃した方が裂きやすいと分かっているので、翼に対して縦にならないように水平の向きにして刺したのだった。
ブレイズガンダムは攻撃のために翼を六枚にしていた、そのせいで翼一枚の密度は薄くなっていたのか、思った以上にナイフは簡単に通った。ハルドは試しにその状態から、ナイフを90度ほど回してみた。するとナイフによって空けられた穴は簡単に広がった。
「わりと楽な作業だな」
ハルドはそう言うと、ネックスが手に持ったナイフを抜き、同じ翼の別の場所。と言っても、先ほど刺した場所のすぐ上に突き刺し、90度回す。すると傷口が繋がり、翼にそれなりの大きさの穴が空いた。
ハルドはそれをくり返し、翼に空けた穴を全てつなげると、翼の一枚はアッサリと千切れ落ちた。
セインの悲鳴が聞こえるがハルドは単純作業のように淡々と、一枚目の翼にやったのと同じことをくり返し、二枚目の翼も千切り落とした。
「父さん、母さん、助けてよ……」
聞こえてくるセインの声は強気な物ではなくなっていた。完全に泣き言である。翼にくるまっている様子も、泣いている子どもが毛布にくるまっているのと同じようにも見えるが、ハルドは、躊躇いもなく淡々と作業をくり返し、翼を三枚目、四枚目と落としていく。
「別にさぁ、お前のことをイジメたいわけじゃないんだぜ」
ハルドはそう言いながら、五枚目の翼を落とす作業に移った。
「ぶっちゃけ、お前のことは好きじゃないけどよ。それとイジメたいって感情は別なわけで、お前が迷惑を起こしそうだから、こうやって俺が痛めつけてるわけだ」
そう言うと、五枚目の翼を落とし終わり、六枚目に移る。

 
 

「お前がもっとしっかりしてりゃ、こんな面倒をせずとも済んだわけで、結局の所、お前の力不足が原因なわけだ」
ハルドは六枚目の翼を落とし終わると、ウンザリした調子で言う。
「まぁ要するに、お前が弱いってことだよ」
弱い、その言葉はセインの折れた心に再び火を付けた。
「弱くない!僕は弱くない!僕は最強なんだ!」
ハルドは、文字通り手も足も出なくなったブレイズガンダムの前にネックスを移動させると。躊躇なく、ブレイズガンダムの頭部と胴を繋ぐ首の部分にナイフを突き立てた。
「あ、そう」
ハルドは、それだけ言うと、ナイフを首の部分に突き立て続けたまま、頭部に実体弾のライフルを連射し続ける。
ブレイズガンダムの角が折れ、メインカメラが破損し、頭部がいびつな形に変形していく。もう少しかとハルドは思う。何らかの方法で機体の強度を以上に高めているが、打撃の衝撃までは消しきれないために、頭部はダメージを受け続けている。
「まぁ、一回死ぬ体験をするんだな。考え方も変わるだろ」
そう言いながら、ハルドはライフルを連射し続ける。頭部は衝撃で変形し更にいびつな形となっていた。それでも、まだセインの悲鳴が聞こえるので、機体を殺し切れていないのだ。
ハルドはセインの悲鳴が聞こえなくなるまで、ひたすらにライフルを連射した。すると、悲鳴からうめき声に変わってきたのがわかった。もう少しかと思い、ハルドはライフルを連射する。
そして、ついに何も聞こえなくなり。機体がぐったりとしたように動かなくなる。
「死んだかな?」
ハルドはそう言いながら、首に突き立て続け、バリアを無効化していたナイフを首から離し、ナイフをブレイズガンダムの頭部に突き立てようとした。するとバリアも何も無く。ブレイズガンダムの頭部にナイフが突き刺さる。
「死んだか」
そう言って、最後にハルドはライフルを撃ち、ブレイズガンダムの頭を吹き飛ばしたのだった。
「面倒だったな」
ハルドはそう言うと、一息をついた。そして、それは紛れもなく油断だった。
「はい、ありがとさん」
突然、ロウマの声が聞こえた。それと同時に、水銀の色をした金属質の紐のような物体がブレイズガンダムをくるみ、引っ張っていく。
待て。ハルドがそう言うヒマもないほどの早業だった。ブレイズガンダムは紐に包まれ連れ去られていく、その先を見ると、ロウマ・アンドーの乗るマリスルージュが背中から、金属質の紐を出していたのだった。
「漁夫の利って奴。セイン君とブレイズガンダムはもらっていくよ」
あの野郎、最初からこれが狙いだったかと、ハルドは憤り、ネックスをマリスルージュへと突進させる。しかし、マリスルージュは背中から、水銀の質感を持った液状の紐を伸ばすと、その先端が槍のような鋭さに代わり、向かってくるブレイズガンダムに向けて飛ばす。
想像以上に自由自在、そして素早い動きを見せる水銀の槍にネックスは回避に専念するほか無かった。
「ヘルメスの水銀球。俺のマリスルージュに搭載されてる“ギフト”だね。水銀みたいだけど、人間の意思に反応して自由に形状を変化させる液体金属で、固体と液体どちらにも一瞬で変化する」
そうロウマが言うと水銀の槍は、先端を無数に分割させ、先端に鋭利な針を持った無数の触手へと変化させる。
「まぁ、ハルド君はそれと遊んでてよ。俺はセイン君を連れていくから。ちなみに触手の針は単分子くらいの細さで硬いから、問答無用でMSの装甲なんか貫くから用心してね」
「待ちやがれ!」
ハルドがそう叫んでも、ロウマのマリスルージュは、背中から水銀を伸ばしながら、立ち去って行く。胴体だけのブレイズガンダムは既にロウマの手元だ。
ハルドは邪魔だ、とビームサーベルを抜き放ち、水銀の触手を斬りおとすが、いかんせん職種の数が多すぎた。触手は檻のようになりハルドの行く手を遮る。
その間にマリスルージュの姿は見えなくなっていた。ロウマの方も追って来られないと判断したのだろう。水銀の触手が一斉にただの金属質の液状物質に戻って、去って行った。ハルドからすれば、完全にしてやられた形だ。
「ちくしょうがっ!」

 
 

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