GUNDAM EXSEED_B_37

Last-modified: 2015-08-28 (金) 20:34:18

総司令のビクトル・シュバイツァー大将が戦死したことによって、ほどなくして月基地は地球連合軍へと降伏を申し出た。
対して、ロウマ・アンドーの指揮する撤退部隊は戦場の間隙を潜り抜け、ほとんど被害を受けずに撤退に成功したのだった。この結果により、地球連合軍は月基地の制圧に成功したもののクライン公国軍の兵力自体を削ることはできなかった。
このことが後にどのような影響を与えるのかはまだ誰も予想がつかないでいた。あるいは撤退作戦を成功させたロウマ・アンドーにだけは、その後の予想がついていたかもしれない。

 

「月が落ちたみたいっすね」
ガルム機兵隊に新たに配属となったジョット・ライアットは乗機のゼクゥド狙撃型で延々と遠くの敵を狙い撃っていた。ザイランは狙撃に向かない機体であるためゼクゥドのカスタム機に乗っているのである。
「まぁ、私たちには関係ない話しだ」
純白に塗られた専用MSのシャウトペイルのコックピットの中、イザラはジョットが仕留めた獲物を確認していた。
「グラディアルだな、10点やろう」
「そりゃ、どうもっす」
イザラとジョットの二人は何をしているかというと、ひたすらにアフリカの大地を蹂躙している真っ最中だった。並ぶ二機に追いつくように、ピンク色の超重武装のザイランが到着する。
「狙撃なんて、面倒なことしていないで、全部ドカンと行きましょうよー!」
ピンク色のザイランのパイロットのアリスが間延びした声で言う。
「スナイピングは芸術っす。馬鹿にしたら殺すっすよ」
ジョットが物騒なセリフを吐きながら、スナイパーライフルをアリスのザイランに向ける。
「喧嘩は良くないぞ、中止!」
言われて、ジョットはスナイパーライフルの銃口を向ける先を戻した。
「ジョットには悪いが私も少し面倒な気がしている。なので、アリス!」
「はーい」
間延びした返事とともに超重武装のザイランから大量の砲弾が発射され、敵の陣地に降り注ぐ。
「芸術のわからない人達っす」
ジョットがぼやくがイザラは気にしないことにした。この程度のボヤキに耐えられないのであれば、直属の上官のロウマ・アンドーの嫌味を聞いたら死んでしまうからだ。
「イザラちゃん、俺らすっごいヒマなんだけど」
赤いザイランに乗るギルベールがイザラに告げる。
「しりとりでもしていろ」
イザラは適当に言った。こちらは遠距離から、敵の陣地に打撃を与えている所を眺めているのだから、邪魔しないで欲しかった。
「いや、しりとりはやったよ?やったけど、ゼロ君、語彙少ないし、ガウンの旦那は『……』で全部済ませるからしりとりになんないの。俺とドロテスだけで、しりとりしても虚しいの!分かる?」
「分かる!」
イザラは言いきった。分かるがやってもらおうとイザラは思った。しかし、すぐに、そうノンビリもしてられないということも分かったのだった。
「敵さん、来ますねー」
「そりゃ、あんだけ派手に砲撃したら、こっちの居場所ばれるっす」
まぁ、それはそれでいいではないかとイザラは思った。こちらから出向く手間が省けたというものだった。
前方には相当数の敵機がいたが、イザラたちは戦いを間近に控え嬉々としている。
「ガルム機兵隊、突撃!」
イザラの掛け声とともにガルム機兵隊の面々は遥かに数が勝る相手へと、喜び勇んで突っ込んでいったのだった。

 
 

「ふむ、それほど強敵でもなかったな」
イザラは機体が持つ長大な対艦刀を収めながら言うのだった。
ガルム機兵隊の機体の周りには大量のMSの残骸があった。そしてその残骸の中に立つガルム機兵隊MSにはほとんど傷がなかった。
「バケモノだ……」
最後に残った一機のMSが立ちつくし、パイロットが呟く。その声はイザラたちにも聞こえた。
「私たちがバケモノか、本当のバケモノは私たちなどとは比べ物にならんというのに、物事を知らん奴だ」
イザラがそう言った直後、最後に残った敵機のコックピットがビームによって貫かれた。
「そう言ってやるな、イザラ。こんな田舎でMSに乗って威張り散らしているような輩に物を知れと言う方が酷だ」
ドロテスはコックピットの中で煙草を吸いながら言う。倒した敵のことは正直、どうでも良かった。
「うーむ、そういう考え方もできるが……」
イザラが少し考え、何かを言おうとした瞬間だった、最悪の相手から通信が入って来たのだ。
「やぁ、元気?イザラちゃん、俺のこと忘れていない?」
通信はロウマ・アンドーからだった。ロウマは一方的に喋る。
「ねぇ、聞いてよ。俺ついに准将になったのよ。これってすごくない。すごいよな?イザラちゃんは階級そのままだっけ?頑張りが足りないと思われてて可哀想ね。俺なんか二十代で将官よ、准将、俺って有能だね」
クソが、用件を話せとガルム機兵隊の全員が思った。ガルム機兵隊の面々としてはロウマが失敗する話なら聞きたいが成功していく話など聞きたくもなかった。
「まぁ、自慢話は後できみらと顔合わせした時にするとして、仕事をよろしくしたいのよね。軍じゃなく、俺個人の関係でさ」
やはり来たなとイザラは思った。ロウマ・アンドーが私利私欲のため以外に特殊部隊を設立することは考えられないのだから、当然のことだとイザラは思った。
「まぁ、詳しい話しは宇宙でするから、地球の衛星軌道上の要塞まで頑張ってきてちょうだい」
それだけ言うと、ロウマは勝手に通信を切った。相も変わらず、勝手な男だが仕方ないとイザラは思った。あれでも上官である以上、従わざるを得ない。
「ガルム機兵隊、総員宇宙へ向かうぞ!」
イザラが勢いよく号令したものの、ガルム機兵隊の機体に生気はなくウンザリとした様子がMSからでも伺えた。その姿に戦場へ嬉々として向かっていった勇姿は全く感じられなかった。

 

セインは一人、MSのコックピットに籠りながら、時間を過ごしていた。周りの全てが煩わしい中でコックピットの中だけが、静かで落ち着けた。
一人に、天涯孤独になってしまった自分にはここが一番いいとセインは思っていた。ミシィとミシィの家族は無事にクランマイヤー王国に辿り着いて、クランマイヤー王国に住むというらしい。
ミシィとその家族は、セインも一緒に住もうと提案をしたが、セインはそれを拒否した。セインとしては同情でそんなことをされるのは真っ平御免だった。
心配して声をかけてくれる人もいたが、セインはそれすらも鬱陶しく感じた。両親を殺されたことのない奴らに何か言われても、腹が立つだけだった。
もう自分は一人、そう思うと家族の思い出が蘇ってきて、セインはコックピットの中で泣いた。それしか出来なかった。
ブレイズガンダムのコックピットの外では、何人かが、待機していた。コックピットに閉じこもったきりで降りてこないセインを心配してだ。その中にハルドの姿はなかった。
「セインくーん、出てきなさーい!もう何日もお風呂に入ってないし、コックピットの中の非常食だって、もう無くなるでしょ!出てこないと飢え死にしちゃうよー!」
拡声器を使って呼びかけているのはレビーだった。セインはブレイズガンダムの通信システムを完全にシャットダウンしているので、原始的な呼びかけしか方法はなかった。
「セイン、ねぇ、出てきてよ。もう一回ちゃんと話をしよ?ねぇ?」
次に拡声器を使って呼びかけるのはミシィであった。ミシィの言葉には心からの心配が感じられた。しかしセインは無視をし、ただ自分の言葉だけをブレイズガンダムのマイクを使って叫んだ。

 
 

「うるさい、放っておいてくれ!」
そう叫んだ瞬間に、セインは自分が一人になったのがハッキリしたような感じがし、寂しく、そして惨めな気持ちになったのだった。
セインがそうやってコックピットに閉じこもっていた頃、ハルドはクランマイヤー王国の田園風景を眺めながら、ぼんやりとしていた。夏の暑さはまだ消えない。いくらなんでも夏が長すぎはしないかと、コロニー環境設定に文句を言いたいハルドだった。
「弟子が引きこもっているのに、師匠は日向ぼっこか?」
そうハルドに声をかけたのはアッシュだった。
「摂政閣下こそ仕事をほっぽり出して優雅に散歩かい?」
ハルドの言葉を無視してアッシュはハルドの隣の草地に座る。
「仕事よりもセイン君のことの方が重大だと思ってな」
アッシュは真剣そのものといった表情だった。ハルドはその表情を見ると、からかう気も失せたとしらけた気分になった。
「なんとかしてやらないのか?」
アッシュが問う。
「なんもしねぇ、時間が解決するだろ。それか無理矢理だな。結局みんな赤の他人なわけだから、親兄弟のように優しく引きこもりを見守ってやれねぇよ」
「わりと冷静だな」
「俺も経験あるしな」
ハルドに言われてアッシュも少し驚いた。この男にもそんな時期があったのかと。
「俺の時は、ビームサーベルでコックピットのギリギリをかすめられて、コックピットの中が露出したところで、
俺の師匠に当たる奴に引きずり出され、肋骨を折られ、脚の骨を砕かれ、両手の指の骨を全部を折られてから、『これでも、悲しいか?それとも痛いか?どっちだ?答えてみろ?』ってやられた」
それは、まぁ悲惨だなとアッシュは思う。
「ここで俺の師匠がクソだったのは、嬉しいですと言わなけりゃ、もっとひどい折檻を加えてくることだったな」
そいつは何ともとんでもない人物だなとアッシュは思うが、過去にアッシュはその人物と出会い殺されかけていたことを知る由もなかった。
「ところで、きみが引きこもった理由はなんだ?」
アッシュは何となく興味を惹かれたので聞いてみた。
「仲の良い奴。っていうか友達が死んだ、いや殺されたか。まぁそれで俺は色々嫌になって引きこもったわけだ」
「きみに友達がいたとはな」
アッシュとしてはそちらの方が驚きだった、このイカレた男と友達になれるとはよっぽどの人物だと思った。
「俺としては、お前も友達だと思ってんだけど」
アッシュの驚いた表情から色々と察し、ハルドは言った。アッシュは、失礼、と咳払いをした。
「俺だってな、ガキの頃は友達がいっぱいいたぞ。……俺のガキの頃の話し聞きたい?」
話したいならどうぞ、とアッシュは手で示した。
「じゃあ、話すけどよ。すごく良い生活だったぞ。顔が良くて才能は平凡って理由で変な実験施設に色んな奴らと一緒に放り込まれ、最高の勉強をして、最高の食事、最高の健康管理最高のメンタル管理で何の不満もなかった。
それが俺の師匠がやって来たせいで全部パーだ。俺の師匠が全部台無しにして、施設で生き残ったのは俺だけ、行くあてもないから師匠についてったら、今のこの有様だ。最後までムカつく女だったけど、この手でぶっ殺したから溜飲は下がったけどな」
それは大変な人生だったなと言ってやりたいが、ハルドの中では色々と完結している問題なので何か言うということはしなかった。
「まぁ時間だよ、放っておけば、いずれ閉じこもってられなくて、出てくんだろ」
そう単純な問題だともアッシュは思えなかった、しかし当座はハルドの言う通りにしようと思ったのだった。一応はハルドも考えてはいるようだし、任せてみてもいいかと思ったのだった。
そんな風にアッシュが考えている中、ハルドは別のことを考えていた。それはあの変貌を遂げたブレイズガンダムをどう仕留めるかである。
単純に動きだけなら、獣と同じなのでいくらでも捌けるが、武装が完全に把握できないのは厄介だとハルドは考えていたのだった。弱くはないがあの程度では、とハルドは思うところがあった。
セインとブレイズガンダムでは、自分の望みは叶えられそうにないと思い、ぼんやりとクランマイヤー王国の、のどかな風景を眺めるのだった。

 
 

「よう、元気?」
ロウマ・アンドーは地球の衛星軌道上の要塞の中の自分のオフィスにガルム機兵隊の面々を集めると第一声にそう言った。
「貴様に呼ばれるまで元気だった」
そうイザラがが言うと、他のガルム機兵隊の面々も頷く。ロウマとしては、その態度に関しては興味を示さず、それよりも、准将になった自分の制服を見せびらかすのに努力を割いていた。
「どうかな?」
ロウマが言うと、ドロテスが答える。
「主語が無いと分かりかねます」
そう言うと、ロウマは、興を削がれたようだった。
「面倒だから、単刀直入に仕事」
そう言うと資料をイザラに投げて渡した。イザラは他愛もなく受け取る。紙の資料であってもだ。
「写真に写ってるガンダムとパイロットを捉まえて来ること。手足は引きちぎっても良いけど、機体は胴体だけは無傷で、パイロットは……胴体と頭部があって命があればいいや。そんな感じで捕獲しようか」
イザラたちは命令の内容よりも、語尾に不穏な感じを抱いた。
「俺も出るから、きちんと働いてくれよ、俺の忠犬さんたち」
イザラたちは命令よりも最悪の存在が来ることが何よりも嫌だった。

 

セインが引きこもり始めてから数日、セインが引きこもっている以外は変わりのない日だと誰もが思っていた時だった。急な衝撃がクランマイヤー王国のコロニーを揺らした。
それは外部からの砲撃だった。砲撃をしたのはピンク色のザイラン。ガルム機兵隊のアリス・カナーの搭乗機だった。
「むー、実体弾だけじゃ、コロニーの外壁は撃ちぬけませんねー」
アリスは不満げだったが、ガルム機兵隊の隊長代理のイザラは続けて砲撃の命令を出す。
「外壁に穴を開ける必要はない。とにかく、砲撃されていることを理解させるように揺らすように、狙いを定めずに撃て」
「了解ですー」
そう言うとアリスのザイランは砲弾をコロニーへと万遍なく発射するのだった。
「自分は宇宙港から出てくる目標以外のMSがあれば足止めっすね」
ジョットが確認を取るとイザラは、うむ、と返事をした。指揮官のはずのロウマ・アンドーはいつの間にか消えていたので、隊長代理のイザラがガルム機兵隊の指揮をとっていた。

 

「敵なんだろ!出る!」
セインはコロニーを襲った衝撃に敏感に反応し、ブレイズガンダムを操縦し、機体を機動させ、工業コロニー側の宇宙港から、出撃したのだった。
「戦えば、戦っていれば、全部、全部忘れられる!」
セインの心は荒み、戦いを求めるようになっていた。何のための力だったのか、何のための強さだったのかを全て忘れ、セインは戦いに没頭しようとしていた。
宇宙港からブレイズガンダムが出撃したのを、ジョットのゼクゥド狙撃型が確認した。
「獲物が罠にかかったっす。籠を作るっす」
そう、ジョットが言うとゼクゥド狙撃型はスナイパーライフルを宇宙港入り口に向けて構えると、出撃しようとした敵機の少し前を狙って撃つ。そうすると敵機は警戒して引っ込む。これで籠の完成だ。後は延々と出撃させないように狙撃を繰り返していればいい。
結果として、先行したブレイズガンダムは孤立してしまったのだった。
「さて、数の暴力は性に合わんが斬り捨てるとするか」
イザラはそう言うと乗機の純白のシャウトペイルに対艦刀を抜かせ、ブレイズガンダムに斬りかかるために突撃する。
「この、ふざけるな!」
数で自分を何とかするつもりか、冗談じゃない馬鹿にするな、お前らなんて僕が本気を出せば相手にならない。セインはそう考えた瞬間にあの言葉を発した。
「コード:ブレイズ!」
ロウマは、赤い炎のような粒子を発するブレイズガンダムをMSのコックピットの中で眺めながら、愉快そうに言う。
「これで、四回目、問題なく完成してるね」

 
 

「殺す、殺してやる、お前ら全員、殺してやる!」
突撃してきたイザラのシャウトペイルの斬撃を防いだ瞬間にシールドがひしゃげるが、無視して、ブレイズガンダムはライフルでイザラのシャウトペイルを思い切り殴った。
しかし、それもイザラの防御のできる範囲の攻撃だった。ライフルを対艦刀で防ぎ、逆に相手の武装をを破壊するが、ライフルで殴られた衝撃までは防げず、弾き飛ばされる。
「パワーとスピードは凄まじいぞ、気をつけろ!」
イザラが全体に指示を出すとともに、再度の攻撃の瞬間を狙った時だった。ガウンのシャウトペイルのヒートランスの先端がブレイズガンダムの肩を捉えたが、バリアによって弾かれる。
「……」
ドロテスとギルベールはブレイズガンダムと何度も戦っているので、バリアの存在は知っており、ガルム機兵隊の面々にはその存在を伝えていたが、バリアに物体が当たった瞬間にあのような反応を示すことはなかった。
今まではバリアによって弾かれるのは、バリアが崩壊した時だけだった。
「試すか?」
「いいねー、チャレンジ大好き」
ドロテスとギルベール、褐色と赤のザイランが同時に動き出したと思った、瞬間ドロテスの褐色のザイランが二挺持っているビームライフルの片方をギルベールの赤いザイランへとパスをする。その瞬間、赤いザイランがビームライフルを撃つ。
しかし、異常な速度でブレイズガンダムはビームライフルを回避する。しかし、回避した先をドロテスのザイランがビームライフルで撃つ。そして、それと同時にギルベールのザイランがビームライフルを撃つ。ほぼ同時の攻撃である。
これでどうなるか、それが、どういう効果を見せるのかを確認したかったのだ。そしてその結果は二人の予想通りとなった。片方のビームは機体表面で弾けずにブレイズガンダムに直撃したのだった。
「なるほどな。防御を捨てているいうわけか」
「こちらも確認した、ほぼ同時の攻撃なら、ダメージを与えられそうだな」
イザラがドロテスたちの動きを見て言うが、そう楽観もできない相手だと思った。なにせビームライフルが直撃したというのに焦げ跡程度しか残さないのだから。
「何かで装甲をかたくしてるっすね。耐ビームコーティングじゃ焦げ跡はつかないはずっすから」
ジョットは変わらず籠を作りながら、イザラたちに私見を述べる。
「硬い相手なら、ひたすらに撃って殴って、打ち砕けば良いだけだ」
そうイザラが言うと、純白のシャウトペイルが動き出し、それに合わせるように、ガウンのシャウトペイルが動く。
「私に合わせられるか?」
「……」
ガウンからの返答はないがイザラは問題ないと思った。眼前のブレイズガンダムは両手にビームサーベルを握っているが、その長さは尋常ではなく、数百メートルはありそうだった。
そして、それを見境なく振り回してくるのだから、イザラたちにかかるプレッシャーは相当だったが、イザラたちガルム機兵隊の機体は巨大なビームサーベルを軽々と回避しながら、ブレイズガンダムに肉薄する。
「まず一太刀!そして、同時にぃ!」
巨大なビームサーベルを躱して突撃し、ブレイズガンダムに肉薄したイザラのシャウトペイルがブレイズガンダムの右肩に対艦刀を振り下ろす。それと同時にガウンのシャウトペイルが左肩にヒートランスを突き立てる。
タイミング的にイザラの機体の一太刀の方が早くブレイズガンダムの肩に直撃しバリアを弾き飛ばした。そして、バリアが弾き飛ばされた瞬間にガウンの機体のヒートランスがブレイズガンダムの左肩にバリア無しで直撃する。
だが、見た感じでは損傷はほとんど無いようであり、僅かに装甲がへこんだようにしか見えない。

 
 

「攻略法は分かったが、時間がかかりそうだな」
「……」
イザラたちは連続攻撃を行うことは避け、一旦距離を取る。しかし、イザラたちが距離を取ると同時にドロテスとギルベール、そしてゼロの機体が攻撃に移る。
セインはハッキリしない意識でドロテスとギルベールの存在を認識していたが、以前とは動きが別物であると感じていた。圧倒的に速く、鋭い動きに変わっていたのだ。
「言ってなかったか?本気出すってよ!」
「デカい武器を振り回し過ぎで、かえって隙が出来ているな。セイン!」
ドロテスとギルベールの機体が高速で接近していく中で、ゼロの機体、コンクエスターはドラグーンを射出し、タイミングを狙っていた。
「うっしゃ、接近完了」
ギルベールの赤いザイラン、その左肩のシールドがブレイズガンダムの右肩に接触する。しかし、それだけではバリアは弾けない。
「このタイミングだ。ゼロ、撃て!」
ドロテスの褐色のザイランがビームアックスを片手にブレイズガンダムに突進していた。時だった、ドロテスの声に合わせ、ゼロがドラグーンからビームを発射する。
発射されたビームはブレイズガンダムに直撃し、バリアが弾け飛ぶ。その瞬間だった。
「しゃあっ、デッドエンド!」
ギルベールのザイラン、その左肩のシールドに内蔵された杭打ち機が超高速で撃ちだされブレイズガンダムの右肩に直撃。そして、それと同じタイミングでドロテスのザイランのビームアックスがすれ違いざまに左肩にビームアックスを叩き付ける。
ギルベールの機体の杭打ち機はイザラたちガルム機兵隊が持つ武装の中で単純な打撃力なら最強の武装であり、装甲が強化されているとはいえ、ブレイズガンダムは右肩を襲った衝撃にゆらつく。
「どーよ?」
ギルベールが勝利を確信したような声を出すが、すぐにドロテスがたしなめる。
「よく見ろ、ガウンのヒートランスよりはへこんだが、破壊はしてない」
「うっそだろ!?硬すぎじゃね!?」
ブレイズガンダムはよろめきから立ち直ると、ドロテスとギルベールの機体に向けて数百メートルの長さのビームサーベルを振るうが、二機には軽く回避されてしまう。
「俺の方も駄目だな」
ビームサーベルを機体に回避させながら、ドロテスが言う。ドロテスのザイランがビームアックスを叩きつけた場所には、薄く焼けたような跡があるだけだった。
「イザラ、俺の武装のほとんどは役に立たん。おそらくゼロの機体のドラグーンも直撃したところで効果は無いだろう。俺とゼロはサポートに回るぞ」
ドロテスは自分の機体の武装を鑑みて、そう判断した。この判断はイザラも妥当だと思い了承した。
「よし、ドロテス機と、ゼロ機はサポート。打撃力のある機体を援護してくれ。アリス、そちらはどうだ?」
イザラはジョットと協力して、籠を作っている、アリスの様子を尋ねる。
「こっちは上々ですー。宇宙港から出てきそうなのを、砲弾ぶっ放して引っ込ませてるだけですからねー」
ならいいとイザラは思ったが、アリスは続ける。
「今日はビーム主体で来てるので、弾切れの心配はいりませんよー、時間いっぱいボコボコにして平気ですー」
そうか、では何も心配をせず、この化け物のようなMSを狩れるというわけかと思うとイザラは胸が高鳴った。なかなかいない狂暴な獲物だ。狩りのしがいがある、ニヤリと笑いながら、イザラは自機をブレイズガンダムに突っ込ませたのだった

 
 

その頃、クランマイヤー王国の宇宙港では、出るに出られない状況が続いていた。少しでも宇宙港から、出ようとするMSがあると狙撃がされ、場合によっては大量のビームの砲弾が飛んでくる。
クランマイヤー王国の兵は手詰まりといった感じだったが、その中でハルドは何をグダグダと、と思いストームを連れてきた。ストームは半ば酔っ払っている様子だが、ハルドは関係ないといった感じだった。
「レビー、狙撃銃はあるか?」
「MS用のがありますよ。規格的にサイズが合うのがザバッグしかないですが」
だったら、ストームをザバッグに乗せればいいと、ハルドはストームのケツを蹴り飛ばして、無理やりザバッグのコックピットに乗せた。
「ちくしょう。なんだよ、人が気持ちよく酔っ払ってるってのによぉ」
「うるせぇ、働け、ごくつぶし」
そう言うとハルドは外側から、MSのコックピットハッチを閉めた。
「俺はネックスで出る」
思えば久しぶりだが、宇宙戦闘ならネックスが一番性能がいいので、ハルドはネックスを選んだのだった。テロリストに乗っ取られ破壊されたという過去があるが現在は完ぺきに修理されている。
「好きだと思ったんでライフルの銃身にビームエッジをつけておきました」
レビーが声を張り上げて遠くからハルドに説明する。
「銃身からビームの刃が出るんで、ライフルの銃身で殴れば大抵の物は斬れます」
そりゃあいいとハルドはレビーに感謝を言いながら、ネックスに乗り込む。そして、酔っ払いのストームに命令を出す。
「宇宙港の入り口を狙ってるスナイパーがいる。仕留めるか、少し手を止めさせろ」
「くそ、上から言いやがってよぉ、酒代おごってくれるから働くだけだかんな」
そうストームはぼやくと、ザバッグを動かし、スナイパーライフルを手に取り、宇宙港の入り口付近に張り付く。そしてその後ろにはハルドのネックスがいた。
「なつかしいぜぇ、アラスカ……お前のために100メートルを走り切る間に、五人のスナイパーを狙撃してやったんだよな」
「お前が撃ったのは三人だ、二人は俺が殺った。忘れんな」
ハルドが訂正すると、通信からはストームの品のない笑い声が聞こえてくる。
「うひひ、どっちでもいいじゃねぇかよぉ、そんなことは。ただオメー、俺に借りあんだろって話しだよっと」
急にストームの乗るザバッグが宇宙港から身を乗り出した、とその瞬間ストームのザバッグはスナイパーライフルをジョットのゼクゥドに向けて発射した。
「ありゃ?」
「やばっすっ!?」
ジョットのゼクゥドは狙撃の手を止め、慌てて自分を狙ってきた長距離ビームを回避した。その間に籠に一瞬の隙が出来た。
「ハルド・グレン、ネックス出るぞ!」
その隙をついて、ハルドの乗ったネックスが宇宙港から宇宙へと発進する。それに続こうとした機体もあったが、
「ジョットくんのカバー」
アリスのザイランの砲撃が宇宙港の出入り口を再び塞いでしまったのだった。
「あ、ちょっと気持ち悪い……」
狙撃手を相手に狙撃を決めるという大技を披露したストームだったが、その後が最悪だった。コックピットのハッチを開けると、無理……、と言って、胃の中の物をぶちまけた。
宇宙港は基本的に無重力であるから、宇宙港の空間内にストームの吐瀉物が縦横無尽に漂うことになった、これは宇宙港から出られない現状と合わさってクランマイヤー王国にとって、大変な事態だった。
「くそが、酔ってっから始末し損ねるんだ」
ハルドは後続のクランマイヤー王国のMS隊が続いてこないことにイラついてぼやくのだった。しかし、ハルドの方にもぼやいているようなヒマは無くなった。目の前にMSが立ちふさがっているからだ。
見たこともないことからハルドは新型であると断定した。しかし、どこの国の新型かはわからない。人の頭のような丸い頭部に、光る十字のラインが頭部を縦横に走っている。
機体も全体的に曲線のシルエットを描いており、人間の姿形に極めて近い。色は黒を基調に赤が組み合わさったカラーリングが施されていた。
機体の見た目に国の特徴という物が出るものだが、この機体にはそれらしいものが全くなかった。
しかし、ハルドはどうでも良いと思った、どこの新型でも良い。今は邪魔なだけだ。

 
 

「あのさぁ、どいてくんない」
「イヤだ。って言ったらハルド君はどうするかね」
通信から聞こえてくる声はロウマ・アンドーの物だった。厄介な奴が、また……、ハルドはウンザリする思いで答える。
「ぶっ殺す」
「殺されるのは嫌だから、反撃しようかな」
その瞬間ハルドは高速で機体を横に動かした。直後にビームがハルドの乗るネックスの横を通過した。撃ったのは目の前の機体である。
速いな、とハルドは思った。目の前の機体は両手にビームガンらしき物を握っている、恐ろしいほどの早撃ちだとハルドは思った。機体が銃を抜く手が全く見えなかった。
「マリスルージュ。機体名は俺が適当に命名、適当な訳で悪意の赤。俺にぴったりだろ?」
そうロウマが言い終わる前にハルドは機体を縦横に動かす。手の動きが速すぎて射撃の狙いが殆ど見えなかった。機体性能はブレイズガンダム並みかとハルドは考えた。
「剣は捨てて、銃を使うのかよ」
異常な速度で連射されるビームを回避しながら、ロウマに問う。
「俺は元々コッチの方が得意だよ」
じゃあ、本気かとハルドは思いながら、マリスルージュにビームライフルを向ける。が撃たない。
マリスルージュはハルドのネックスがビームライフルの狙いを定めた瞬間に、高速で移動した。
ハルドはその先を読んで、ネックスのビームライフルの狙いを即座に変えていた。それはマリスルージュが移動した先であった。だが、ロウマもそれを予測していたように、ビームガンを撃ち、飛来してくるビームに当てて打ち消す。
「少しズルいな、性能差がありすぎる」
ハルドが言うとロウマが答える。
「勝負は機体性能で決まらないんだから、がんばりなよ」
ハルドとロウマは互いに戦闘をしているような調子はなく、ノンビリと喋っていた。しかし、喋りながらも二機のMSは目まぐるしく動いていた。
射撃の早さよりも怖いのは機体の速さだった。ハルドは常に注意していなければ、敵を見失いそうだった。そして、今、それが起きてしまった。
まずい!ハルドはそう思った瞬間、直感的に後ろを振り返りながら、いつの間にか背後に回り込んでいたマリスルージュを相手に脚を後ろに伸ばし、つま先のような部分で軽く触れる。
ネックスには足がないため、つま先のような部分となるわけだが、この行為によって、ネックスは僅かに動き、マリスルージュもかすかに動く、ほとんど動いてはいないし、何も変わって無いようだった。
ハルドはつま先が触れたと同時に必死の操縦でネックスの身体をねじらせる。その行為によって完全に背後を取っていたマリスルージュのビームガンの射撃を紙一重で躱しながら、さらに、反撃のビームライフルを撃ったのだった。
ロウマは驚愕と当然が入り混じった思いを抱きながら、思いもよらない反撃を紙一重で躱した。
「くっそ、やっべぇな」
ハルドは荒く息をつきながら、ネックスの体勢を整える。その瞬間にマリスルージュが正面から射撃をしてくる。ハルドはこれに関しては心配はいらないと思った。当てる気はなく、本命は別だ。しかし、相手の策に乗っている風に見せるのも大事と思い、回避した。
瞬間、マリスルージュが動く、しかしハルドはだいたい移動しそうな場所は見当がついたので、そこをビームライフルで狙い撃つと、マリスルージュは宙返りをするような動きで回避しながら、ビームガンを撃つ。これも、まだ予測の範囲内。
ネックスは同じように回転しながらビームガンを回避し、反撃のビームを撃つ。多分これも当たらないとハルドは思い、実際にもマリスルージュはダンスのステップを踏むように回避しながら、僅かにネックスとの距離を詰めつつビームガンを撃つ。
ハルドは距離が嫌だと思った。現在の敵との間合いでは派手に回避に動くと、逆に狙い撃たれて終わるため、最小限の動きで回避しなければいけないとハルドは思った。
ネックスは飛んでくる、ビームガンから連射されるビームを半身になって躱し、上半身を屈めて躱し、その場で回転するなどしながら、全てを躱しつつも、常にビームライフルでの反撃を止めなかった。
対するマリスルージュも同様に全てのビームライフルの攻撃を躱しながら段々と距離を詰めてくる。

 
 

相手との距離が縮まるということは攻撃が届くのが早くなり、より高速の対処が求められるということである。だが、いくら距離が縮まっても二機の回避と攻撃の正確さは変わらなかった。
しかし、限界はある。いつかは近接戦闘になるとハルドは予測できている。ロウマは焦れないタイプだ。ハルドは逆だった。先にこちらが動き、主導権を握りたかった。
そして、ハルドは射撃を回避するのがギリギリだと思った距離になった瞬間に行動に移る。詰め寄るマリスルージュの先手を取るようにネックスは突進し接近する。
ロウマは来たかという感じだった。接近戦の読みは出来ている、全て対応できるという自信がロウマにはあった。
目の前に迫ったネックスがライフルでビームガンを叩き、マリスルージュの腕の防御を崩す。それは別に良いとロウマは思った。それより、次、高速でビームサーベルが抜き放たれ、そのまま斬りつけにかかる、これも大丈夫だ。
ビームガンでビームサーベルを防ぐ。こういう事態に備えて耐ビームコーティングがしてあるから、ビームガンで防げると思った瞬間、眼前のネックスがビームライフルを返して殴りかかるロウマの眼にはライフルの銃身にチラリとビームの光が見えた。
マズイ、ライフルが殴りかかっている軌道は左腕である。ロウマは隠し玉を使った。それは肘から出るビームブレードである。肘のビームブレードはちょうどビームライフルが殴りに来ている軌道と一致した。
そして、ロウマの予想通り、ビームブレードとビームライフルの銃身が干渉していた。これによって、ビームライフルによって腕が切断されることは防げた。では、反撃である。
やはり、そういう隠し玉があるかとハルドは思った。だが、それで終わるわけが無いだろうと、ハルドはビームライフルの引き金を引いた。
マリスルージュの肘のビームブレードが干渉しているため、頭部しか狙えないが、それでも撃った。しかし躱された。それも大胆な方法、頭を大きく後ろに反らすという方法だ。
躱すだけで終わるわけが無いと思ったハルドは当然、反撃が来ると思い、ある予想をして機体をバックステップの要領で後ろに下げた、そうすると、マリスルージュは右脚の前蹴りを放ってきた。
頭を後ろに反らしている以上出せる蹴りはこれぐらいだが、ハルドはさらに念を押して機体を後退させると、前蹴りをしたマリスルージュ足の裏から、大量のビームブレードがスパイクのように発生した。しかしそれでもネックスは蹴りの間合いの範囲外だった。
しかしながら、ロウマも器用というのかハルドが回避したという一瞬の隙をついて、マリスルージュは無茶な体勢にも関わらず左のハイキックをネックスの頭部に叩きこもうとする。
間合いの範囲外だ、問題ない。そう思うほどハルドは楽観的でなかったし、ロウマも甘くなかった。左足のつま先からはビームサーベルが伸びていたのだ。
冗談じゃないとハルドは思いながらネックスを操る。左のハイキックである以上、当然、右側から来るので、ネックスは頭部を左側に大きく傾け、高速で襲ってきたハイキックを紙一重で躱す。
そして躱したことによって出来た僅かな余裕でビームライフルを構え、マリスルージュを撃つ。
対してロウマのマリスルージュは無茶な姿勢、状態で言うと目の前にあるのがネックスの脚という状態ながらも、相手の位置は見える場所に頭部があったため、ビームガンを撃つ。
二機が放ったビームは激突し、再び掻き消えた。
互いの攻撃が一つも届かなかったことを確認すると、二機は一旦間合いをあけた。
「いやー楽しいね」
ロウマは荒い息をついていた。予測はできても対処は疲れるのだった。

 
 

「俺はつまらないって言ったら?」
ハルドも一息をつきながら尋ねてみた。
「そしたら、俺、悲しくて泣いちゃうね」
「つまんね、つまんね、つまんねぇーっ!」
「うわーん、つまらないって言われたー!えーん、えーん、うわーん!」
ハルドとロウマの二人は馬鹿みたいなやり取りをしながらも、自分と相手の能力を考え、ある種の結論に達していた。
ロウマは考える。戦闘中、明らかに反射神経じゃ回避できない場面があったことから、先読みをしていることは確かだと、反射神経自体も相当に鍛えてはいるだろうがそれだけではないと予想するのだった。
おそらくは、無限に近い数の戦闘の流れのパターンから、相手の動きや癖を見て、数パターンに絞っており、そのパターンに入った瞬間に、体が動くように作られているとロウマは考えた。
それだけではマシーンのようであり、パターンを外れた行動をこちらが読んで予想外の行動を取ればいいと思うが、ハルドという男は人間であり有機的に考え、不測の事態も考えながら、パターンの中から直感で最善を選んでいるとロウマは予測していた。
ほとんど未来予知のようなものだとロウマは結論付ける。これを可能にしたのは恐らく、頭がおかしくなるような数の戦闘や戦場を生き残る。いや、勝ち残り続け、ひたすらに経験を積み上げ、ありとあらゆる相手と戦い勝ってきたからだろう。
未来予知レベルまで高められた、異常なまで戦闘の勘、これがハルド・グレンの強さの秘密だろうとロウマは考えたのだった。
ハルドは考えていた。詰めるかな、と。ロウマも相当に勘が良いし、読みも良いが、まだ対処できる範囲内だとハルドは思った。生身での殺しはロウマの方が得意だが、MSを使った殺しは自分の方が得意だ。人には向き不向きがあるなとハルドはボンヤリと思った。
ハルドは頭の中に余計な物が多すぎるなと思った。なので捨てることにした。そして目的を一つに定める、アイツを殺そう、と。
「うん、いい感じだ」
三年ぐらい前と同じ感じだとハルドは思った。さっぱりとして何もかもがどうでも良いような感じだった。これが一番いいかもなと、ふと思ったが、それもどうでも良いと思った。
「とりあえず、ロウマさん。殺すけど、いいかな?」
駄目と言われたらどうしようもない。無視して殺そう。その先は、まぁどうでも良いとハルドは思うのだった。
ロウマは危険を感じていた。ハルドの様子がおかしい、というか三年前に戻っているような気がした。正気のラインを超えた状態。これとやって勝てるわけがないとロウマは確信があった。
なにせ今のネックスとマリスルージュの性能差以上の性能差がある相手も倒してしまった状態なのだから、自分では無理だ。
奥の手を出して仕留めることも可能だが、こうなっては確実ではない。別に戦いに命を賭けているわけでもない。ちょっとした遊びのつもりだったのに相手がマジになってきて最悪だとロウマは思った。
「俺は逃げたいかなぁ、と思っているんだけど、いいかな?」
ロウマはとりあえず聞いてみた。
「あ、そう。じゃあ勝手にどうぞ」
不意に殺気が収まったような気がした。ロウマは自分も大概だが、このハルドも大概だと思った。
そんなこんなでロウマの撤退が見逃されようとしていた時だった。ハルドの背後、ロウマの視界の中で、宇宙に炎が吹き上がった。
「おいおい、なんかやっちゃった、ウチの兵隊?」
ハルドは思考が普段に戻ると同時に機体を振り返らせた。その瞬間、ハルドの目に信じられない物が映った。
「炎の翼……?」

 
 

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